用語の解説 ロコモティブシンドローム(locomotive syndrome,ロコモ,運動器症候群) 先天性風疹症候群(congenital rubella syndrome:CRS)

用語の解説

ロコモティブシンドローム(locomotive syndrome,ロコモ,運動器症候群)

 運動器の障害によって移動機能の低下をきたした状態を言う。進行すると日常生活の制限を生じ,生活に人の介助が必要となる危険性が高くなる。
 運動器で頻度の高い疾患は,脊椎椎間板や軟骨の変性疾患,椎間板変性に起因する脊髄や神経根の障害,骨粗鬆症と転倒が関係する骨粗鬆症関連骨折などである。病変は40歳代以降には始まることが多く,50歳以降に症候性となり,患者数として急増する。これらの疾患はいずれも人の移動を困難にするもので,高齢者ではこれらが複数併存し,マルチプルファクターとなって人の移動機能の低下につながっている。
 移動機能の低下には順序性があり,痛み,急ぎ足,階段昇降,スポーツでの不安など痛みと少し負荷のかかる移動動作の不十分さにはじまり,重い家事が困難,転倒不安が続き,起床動作の困難,外出が困難,次いで,軽い家事が困難,屋内移動が困難,やがてトイレ動作の困難へと続く。要介護への移行や転倒の予測因子としては,歩行速度の低下,下肢筋力の低下,椅子立ち上がり時間(秒/5回)延長,膝の痛みなどがある。
 診断方法として3つのロコモ度テストがある。2ステップ値は最大2歩幅を身長で補正したもので最大歩行速度と正の相関がある。立ち上がりテストは,片脚または両脚で,40㎝から10㎝までのどの高さから立ち上がれるかで主として下肢筋力を測る。ロコモ25は,痛み,歩行能力,生活上の起居動作などに関する25の質問より構成される自記式質問票である。これらのテスト結果が同年齢の平均,50%の人ができていることに達していない場合,対処することが勧められている。
 対処法としてすでに運動器に変性があることが多いことから,過剰な負担を避け,家庭でも可能な方法として「スクワット」と「開眼片脚起立ち訓練」を基本とし,ウォーキングが勧められている。運動器の機能低下には対策が取れる点が重要である。
 今後,ロコモが広く認知され,健康寿命の延伸に貢献することが望まれる。

(中村耕三/国立障害者リハビリテーションセンター総長)

先天性風疹症候群(congenital rubella syndrome:CRS)

【背景】風疹の罹患者は2013年6月には累計1万人を超え,大きな社会問題になった。患者の多くは,定期接種がなかった20-40代の男性で,主に成人での流行から,周囲の女性に広がった。妊婦が感染すると,先天性風疹症候群(以下CRS)の赤ちゃんが生まれてくることになり,現在19人が確認されているが,今後流行期に妊娠したと思われるCRSの増加が予想されている。

【CRS】妊娠初期の女性が風疹にかかると,風疹ウイルスが胎児にも感染し,すべての臓器を侵し後遺症をもたらす。そのリスクは,妊娠週,風疹の症状,ウイルス量などで大きく異なり,報告により若干の差があるが,妊娠4- 6週ではほぼ100%で何らかの症状が見られる。7-12週で80%,13-16週で約50%,17-20週では6%と言われている。風疹は15%程度不顕性感染があるので,妊婦が無症状であってもCRS は発生し得る。
 CRSの3大症状は先天性心疾患(動脈管開存症,肺動脈弁狭窄症が多い),聴力障害(感音性難聴),眼異常(白内障,緑内障,網膜症,小眼球症など)であり,他に脳性麻痺,髄膜脳炎,肝脾腫,血小板減少,糖尿病,発育遅滞,精神発達遅滞など将来にわたり問題は多岐にわたる。
 しかも風疹にかかってしまった妊婦に行えるCRSの発症予防法は存在しないことが問題である。合併症に関しての心疾患は軽度であれば自然治癒することもあるが,症状により手術を行う。白内障についても手術療法が中心となっている。難聴については人工内耳や補聴器が中心となる。すべての症状がそろっているCRS児は予後が悪い。

【今後の展望】風疹には感染後の治療法となる抗ウイルス薬がなく,ワクチンでの予防を行うしかない。妊婦はワクチンを打てないため,夫や家族らの感染防止が重要である。風疹はワクチン接種を受けた人,一度かかった人でもまれに感染することもある。予防接種は個人を守るだけでなく,集団の接種率を高めることで流行を防ぐ意味も大きい。CRSは根絶できる疾患であり,将来の子ども達のためにもワクチン接種を周囲に勧めていただきたい。

【参考】国立感染症研究所感染症情報センター/ネルソン小児科学原著第17版 p1057-59(風疹)

(山内裕子/東京慈恵会医科大学小児科)


主題・副題:リハビリテーション研究 第157号

掲載雑誌名:ノーマライゼーション・障害者の福祉増刊「リハビリテーション研究 第157号」

発行者・出版社:公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会

巻数・頁数:第43巻第3号(通巻157号) 48頁

発行月日:2013年12月1日

文献に関する問い合わせ:
公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1
電話:03-5273-0601 FAX:03-5273-1523

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