用語の解説 神経発達障害(neurodevelopmental disorders):DSM- ⅣからDSM-5 への変更に関連して

 2013年5月,米国精神医学会の新しい診断基準DSM-5(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders,5th Edition)が発表された。DSM-Ⅳ-TR(2000)以来,13年ぶりの大改訂である。その中に,神経発達障害(Neurodevelopmental Disorders; NDD)の章が新たに設けられた。
 DSM-Ⅲ-R(1987)では,精神遅滞,広汎性発達障害(Pervasive Developmental Disorder ;PDD),特異的発達障害(言語障害,学習障害,協調運動障害)の上位概念が発達障害(Developmental Disorders)であったが,DSM-Ⅳ(1994)以降,このような階層的表現は使われなくなっていた。NDDとは発達障害概念の再登場を意味する。NDDイコール我が国の「発達障害」ではないが,米国の考え方の基本がここにある。「知的障害プラスα」が米国の発達障害であり,NDDなのだ。
 知的障害(Intellectual Disability; ID)あるいは知的発達障害(Intellectual Developmental Disorder; IDD):従来の精神遅滞がIDあるいはIDDとなった。知能のみでの障害程度区分をやめて,概念(知能),社会性,実用性の3領域を軽度~最重度の4段階評定するとした。注目すべきは,乳幼児期の状態像として全般的発達遅滞(Global Developmental Delay; GDD)をID/IDDの下位カテゴリーとした点にある。GDDは運動面と言語面の両者に顕著な遅れを示す乳幼児(5歳以下)の知的障害の原型ともいえる診断名である。
 自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder; ASD):L.Kannerが報告した自閉症は,類似の障害を取り込み,その概念を拡大してPDDとなった。つまり,自閉症とその近縁の障害の集合体がPDDであった。広がりすぎたPDDを排して,再度ASDとして単一の障害名で診断することになった。自閉症の診断が正しければ,三つ組といわれる(1)相互的な社会関係の質的障害,(2)コミュニケーションの質的障害,(3)行動・興味・活動性が狭く反復的かつ常動的な状態が存在する。ASDでは,区別しにくい(1)と(2)を合体させて,対人コミュニケーションの障害としてまとめた。(3)の中に,今まで診断項目でなかった感覚異常が加えられた。ASDと診断するならば,次の5つの特定用語を添えるか否かを判断する。すなわち,(1)知的障害,(2)言語障害,(3)医学的・遺伝的状態または環境要因(例えば,West症候群),(4)他の神経発達障害,精神的あるいは行動障害(例えば,ADHD),(5)カタトニア(運動の停止)である。なお,アスペルガー症候群はASDから排除されたのではなく,知的発達に遅れのないASDと変更になったに過ぎない。
 注意欠陥多動性障害(Attention-Deficit Hyperactivity Disorder; ADHD):かつてのDSMでは行動障害群に属していたADHDがNDDに移行した。ADHDの発達障害としての側面を重視した変更である。なお,反抗挑戦性障害と行為障害はそのまま行動障害群に残った。基本的なADHD概念に変更はない。成人期のADHD診断を意識して,発症の確認年齢の上限を7歳から12歳未満に引き上げた。学童期に突然ADHDになるという意味ではなく,その状態像を成人期から振り返って診断する際の上限を変えても診断自体に大きな矛盾は起こらないためである。なお,従来のDSMではPDD診断を優先する指示があったが,ASDとADHDの重複があれば,特定用語として併存を記載する取り決めとなった。
 特異的学習障害(Specific Learning Disorders:SLD):従来の学習障害と内容には大きな変更はない。特定用語として,(1)読み障害,(2)書字障害,(3)算数障害の3つが示された。重症度(3段階)を併記する。試行版の際には,書字障害の廃止と読み書き障害(ディスレクシア)の採用が示唆されていたが,結局,従来型の3分類となった。
 コミュニケーション障害(Communication Disorders: CCD):話し言葉の障害群を意味する。構音障害,吃音,発達性言語障害が含まれるのは従来通りであるが,社会的(語用論的)コミュニケーション障害が追加された。PDDの一部に対人社会性の問題が軽微,癖・こだわりの類は認められないが,言葉の意味理解の障害が顕著な一群が含まれていた。それらを自閉症をモデルにして説明するには無理があるとの立場からCCDに移行させた。
 運動障害:発達性協調運動障害(いわゆる不器用),“重篤な”チック(トゥレット症候群含む),ICDではPDDの一部とされている,常同性運動障害(中重度の知的障害と自傷や常同行動が顕著な過動性障害)などが含まれる。

(原仁/社会福祉法人青い鳥小児療育相談センター)


主題・副題:リハビリテーション研究 第160号

掲載雑誌名:ノーマライゼーション・障害者の福祉増刊「リハビリテーション研究 第160号」

発行者・出版社:公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会

巻数・頁数:第44巻第2号(通巻160号) 48頁

発行月日:2014年9月1日

文献に関する問い合わせ:
公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1
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