特集 第37回総合リハビリテーション研究大会 総合リハビリテーションの深化を求めて-当事者の「社会参加」向上と総合リハビリテーション- 第37回総合リハビリテーション研究大会開催趣旨 阿部 一彦

第37回総合リハビリテーション研究大会開催趣旨

阿部 一彦
第37回総合リハビリテーション研究大会仙台大会実行委員長
(社福)日本身体障害者団体連合会副会長
(社福)仙台市障害者福祉協会会長 東北福祉大学教授

開催趣旨

 総合リハビリテーション研究大会は,福祉を含めた様々な分野の専門家と当事者が参加してリハビリテーション(「全人間的復権」)という一つの目的に向かって議論を重ねていくことを特色としている。
 リハビリテーションに関連する専門分野の拡大・増加,従事者の職種や種類等の増加,各種制度の新設・改変,自己決定権を中核とする当事者の権利尊重の要請などの大きな変化の中で,総合リハビリテーションは,その理念の再構築・再活性化が求められている。
 第36回から38回にかけての3年間の研究大会は,「総合リハビリテーションの深化を求めて」を共通のテーマとして開催されている。昨年,金沢市で開催された第36回大会では,「当事者の主体性と専門家の専門性」というサブテーマのもとに,当事者主体の総合リハビリテーションのあり方について議論を展開した。そして今回の第37回大会では,「当事者の『社会参加』向上と総合リハビリテーション」というサブテーマのもと,昨年の大会をうけ,専門家の視点からだけでなく当事者の視点を重視したリハビリテーションについて再考する。

はじめに

 2014年10月11日~12日,第37回総合リハビリテーション研究大会が,東日本大震災から3年7カ月になる被災地仙台市において開催された。「総合リハビリテーションの深化を求めて―当事者の『社会参加』向上と総合リハビリテーション―」と題した本大会では,「総合リハビリテーションに求めるもの―被災地からの発信―」と「『社会参加』向上に向けた総合リハビリテーションのあり方」という二つのシンポジウムを中心に据えて学びを深めることができた。
 以下に大会の概要を報告する。

第37回総合リハビリテーション研究大会

 1日目には講演3題,シンポジウム,基調講演,ICF研修会が実施された。  講演Ⅰでは,国連ミレニアム開発目標(MDGs)の2015年までに達成すべき目標や現在検討されているポスト2015開発目標(SDGs)案が紹介された。MDGsでは障害者について記されていないが,SDGsでは障害者の視点を盛り込むべきであると強く指摘された。そのためにも私たち自身が強い関心を持ち,必要なことについてはしっかり発信する必要がある。
 講演Ⅱでは,障害者権利条約批准のための集中的な制度改革の経緯と批准後に当面する政策課題等について報告された。あわせて権利条約のリハビリテーション現場への周知ならびに浸透の必要性が強調されるとともに条約の理念をもとにした新たな障害観,支援観により総合リハビリテーションの深化を促進することの重要性が指摘された。
 講演Ⅲでは,障害者保健福祉分野における平成27年度予算要求の状況や障害福祉サービス制度等の概要が紹介された。さらに障害者差別解消法,障害者雇用促進法,障害者権利条約等の概要とともに,障害者総合支援法における障害者の範囲の見直し,障害支援区分の創設等の変更点や今後の課題等について報告された。
 1日目午後のシンポジウムⅠ「総合リハビリテーションに求めるもの―被災地からの発信―」では,震災と原発事故により繰り返し避難所を移動する生活を余儀なくされた車いす利用当事者,支援NPO事務局長,被災地復興局次長,元神戸市生活再建本部次長が,それぞれの立場から今後の復興,まちづくり,支援のあり方などについて論じた。当事者の体験を踏まえた支援の在り方や被災者への支援も「全人間的復権」という視点に立てば支援構造の基本は同じであることや,被災者の思いや意向を大切にした様々な分野の総合的な支援の重要性が指摘された。
 基調講演では,宮城県内における当事者活動が市民や各関係機関,行政などを巻き込むことによって大きな成果をもたらしたいくつかの事例が紹介された。あわせて,障害者権利条約批准のための集中的な改革を国レベルの活動だけにするのではなく,地方分権の中,地域で活動・発信することこそが地域に暮らす当事者たちの生活に関わることなどが論じられた。
 ICF研修会では,当事者を中心に,様々な専門家や行政,サービス,サポート,地域社会が関わる総合リハビリテーションの「共通言語」(共通のものの考え方・捉え方)としてのICFの活用に関して学んだ。
 2日目には「『社会参加』向上に向けた総合リハビリテーションのあり方」と題してシンポジウムが行われた。午前中に行われた現地実行委員会企画の第1部では,当事者や家族等から難病,中途障害者,若年性認知症,肢体不自由者等の社会参加・生活・健康面の課題とそれらに対する当事者団体活動の実際が紹介された。そして,各演者から幅広い領域の専門家や団体,行政が総合的に関わる重要性が指摘された。また,連合町内会長から震災を踏まえた災害時要援護者支援策における町内会の協働と今後の課題が報告された。複数の演者から地域の課題を行政が丹念に取り上げ,支援の仕組みをつくることの重要性が論じられた。
 午後に行われた第2部では,教職経験を持つパラリンピックメダリストである河合純一氏より,社会参加に関する課題とその解決,そして成果について報告された。あわせて,第1部をうけて,福祉,保健医療,就労支援,特別支援教育分野の専門家から当事者中心の総合リハビリテーションのあり方について現状と課題,そして専門的な提言等が展開された。

おわりに

 多くの当事者が演者として体験に根ざした解決すべき課題を提起し,様々な専門領域の演者が具体的な課題解決のための総合リハビリテーションのあり方について論じた。会場には多くの当事者が参加して熱心に耳を傾けただけではなく積極的に発言し,議論に参加した。
 1日目に行われたシンポジウムⅠでは,被災地支援の視点も「全人間的復権」であり,種々の専門家,機関,行政,地域が緊密な連携をもとに総合的・計画的に取り組むことなど,総合リハビリテーションとの共通性が指摘され,地域における連携・協働の重要性が確認された。
 障害者権利条約が批准されてから,直近になる本大会では,あらためて国際的動向,国内的動向を踏まえ,障害者福祉の現状と課題について考えるとともに,地方分権の中,身近な地域で充実した生活を営むためには地域において法律や制度の学びを深めて,当事者・専門家が地域で発信・協働することの重要性が理解できた。
 現地実行委員会は大会開催を契機に,地域において当事者,専門家,関係機関,地域,行政の連携と協働のいっそうの充実が図られることに大きく期待している。総合リハビリテーション研究大会が私たちの地域で開催されたことに感謝するとともに,地域の中で総合リハビリテーションの深化がはかられることを願う。あわせて,被災地の復興も含め,誰もが生き生きと暮らしやすいまちづくりに実を結ぶことを期待する。


主題・副題:リハビリテーション研究 第162号

掲載雑誌名:ノーマライゼーション・障害者の福祉増刊「リハビリテーション研究 第162号」

発行者・出版社:公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会

巻数・頁数:第44巻第4号(通巻162号) 48頁

発行月日:2015年3月1日

文献に関する問い合わせ:
公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1
電話:03-5273-0601 FAX:03-5273-1523

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