特集 第37回総合リハビリテーション研究大会 総合リハビリテーションの深化を求めて-当事者の「社会参加」向上と総合リハビリテーション- 講演Ⅲ 障害保健福祉施策の動向 川又 竹男

講演Ⅲ
障害保健福祉施策の動向

川又 竹男
厚生労働省障害保健福祉部企画課長

要旨

 障害福祉サービスは,平成18年度の障害者自立支援法の施行以来,給付費,利用者数とも大きく伸びており,平成25年度から施行された障害者総合支援法とともに,質的にも大きく発展している。具体的には,障害者の範囲の見直し,障害支援区分の創設,重度訪問介護の対象拡大,共同生活介護と共同生活援助の一元化,地域移行支援の対象拡大,障害福祉計画の策定などである。
 平成27年度には,障害福祉サービス等報酬改定が予定されており,障害福祉サービス従事者の処遇改善などが課題になっている。また,障害者総合支援法の施行3年後の見直しに向けた議論が本格化する予定である。

1. はじめに

 本稿では,障害福祉サービスの予算や平成27年度報酬改定に向けた動きなどの最近の動向を紹介するとともに,「障害者総合支援法」のポイントについて解説することとしたい。

2. 障害福祉サービスの予算

 厚生労働省の障害保健福祉分野の平成27年度の予算要求額は1兆6,331億円,対前年度1,312億円,プラス8.7%の高い伸率となっている。
 障害福祉サービスは国費だけで1兆円(障害者サービスが9,919億円,障害児サービスが1,040億円),地方負担を入れると約2兆円規模のサービスになっている。この費用については,平成18年度に障害者自立支援法ができてから2倍程度に伸びている。
 「成長戦略」との関係では,障害者の就労支援,障害児・障害者の社会参加の推進,精神障害者の地域生活支援,依存症対策の強化,自殺対策の推進,それから自立支援機器(ロボット)の開発支援,ソフト面でのバリアフリー等を進めることとしている。とりわけ,成長戦略でも明記されている2020年の東京オリンピック・パラリンピックを見据えた対応が求められており,ハード面,ソフト面のバリアフリーとともに,障害者の文化・芸術の支援など,幅広い取り組みを目指している。

3. 障害福祉サービス等報酬改定

 平成27年度は,障害福祉サービス等の3年に1回の報酬改定の年になっている。厚生労働省内では,政務官を主査とする「障害福祉サービス等報酬改定チーム」を開催し,アドバイザーの学識経験者にも参加いただき,議論を進めている。
 平成26年10月には,障害福祉サービスの経営実態調査のデータが公表になっている。 各サービスの収支差率(収入から支出を引いた金額が収入の何パーセントに当たるかを示したもの)は,全体でプラス9.6%となっている。大きな収支差率が出ているところは,例えば生活介護13.4%,行動援護12.1%,就労移行支援16.8%,就労継続支援B型10.1%などであり,一方,共同生活援助(グループホーム)が3.2%,施設入所支援が4.6%,計画相談支援2.4%,地域移行支援2.2%,地域定着支援1.0%,児童発達支援4.7%などとなっている。
 全般的には各障害福祉サービスの事業所の収支はある意味では安定していると言えるが,報酬改定に当たっては,財政当局からすれば報酬を適正化すべきということになり,財政制度審議会では,そのような議論が行われている。介護職員の処遇改善も含めて,平成27年度の予算編成の中で結論を出していく予定である。

4. 障害福祉従事者の処遇改善

 障害福祉従事者の処遇改善については,平成26年6月,「介護・障害福祉従事者の人材確保のための介護・障害福祉従事者の処遇改善に関する法律」が公布されている。同法律では,「平成27年4月1日までに介護・障害福祉従事者の賃金水準,その他の事情を勘案し,介護・障害福祉従事者の賃金を初めとする処遇の改善に資するための施策のあり方についてその財源の確保も含め検討を加え,必要があると認めるときは,その結果に基づいて必要な措置を講ずる」と規定されており,来年4月の報酬改定において,処遇改善の具体的な方策を実現すべきことを求めている。
 平成26年4月から,消費税率が8%に引き上げられたが,消費税の財源は,年金・医療・介護・子育て支援の4分野に充当することとされており,障害福祉サービスについては,消費税の対象とはなっていないため,財源の確保がより厳しい状況になっている。
 介護分野の有効求人倍率と全体の失業率との関係をみると,最近の景気の回復基調を反映して,全体の失業率は低下傾向にあるものの,それと反比例するように介護分野の有効求人倍率は上昇しており,景気が良くなって失業率が低くなると,介護分野は人材が不足していくという状況が見てとれる。これを都道府県ごとにみると,かなりの地域差がみられる。
 介護職員の賃金(常勤労働者)を全産業と比較をしてみると,「きまって支給する現金給与額」について,全産業計が月額32万4,000円であるのに対して,ホームヘルパーが21万8,200円,福祉施設介護員が21万8,900円となっており,10万円程度の差がみられる。ただし,勤続年数をみると,全産業計が11.9年に対して,ホームヘルパーは5.6年,福祉施設介護員は5.5年と,勤続年数が半分程度となっていることに留意が必要である。

5. 障害者施策をめぐる動き

 平成18年度の障害者自立支援法以降,保健福祉の分野を含めて,障害者をめぐる施策はさまざまな分野で大きく進展してきた。障害者権利条約への署名,障害者虐待防止法の制定,障害者基本法の改正,障害者優先調達推進法の制定,精神保健福祉法の改正,障害者差別解消法の制定,障害者雇用促進法の改正など,非常に大きな動きがあった。この間,2回の政権交代があったが,そうした中で,障害者の分野でさまざまな進展が見られたことの意義は大きい。
 なかでも,「障害者差別解消法」は,「差別的取扱いの禁止」や「合理的配慮の不提供の禁止」などを定めたもので,平成28年4月1日の施行に向けて,内閣府の政策委員会において,国の「基本方針」策定のための議論が進んでいる。今後,各省庁ごとに「対応要領」を,事業分野ごとに「対応指針」を策定することとなっている。

6. 障害者総合支援法の施行状況

(1)障害福祉サービスの実施状況

 障害福祉サービスの予算は,障害者自立支援法の施行以来,ここ10年間で2倍に増え,国費ベースで1兆円を超えている。サービスを利用する障害者の方も増加し,83万7,000人(平成26年4月)となっている。
 また,施設から地域への移行を進めており,施設入所者の数は,平成17年度に14万6,000人であったものが,平成25年3月には13万4,247人に減少している。施設入所者については,来年度から3年間の新しい「障害福祉計画」を各自治体で作っていただくことになっており,国の基本指針では,平成27年度から29年度までの3年間で,施設入所者数を4%削減する方針を示している。
 就労移行については,特に一般就労への移行を促進することとしており,特別支援学校から一般企業への就職が27.7%となっている。障害福祉サービスを経て一般就労へ移行するケースも増加しており,この10年間で6倍になっている。

(2)障害者総合支援法

 障害者総合支援法は,平成24年9月に成立し,平成25年4月に施行されている(一部は平成26年4月施行)。
 ポイントとしては,法律の題名や基本理念の改正,障害者の範囲の拡大(難病追加),「障害程度区分」にかえて「障害支援区分」の創設,重度訪問介護の対象拡大,グループホームとケアホームの一元化,障害福祉計画の策定などが盛り込まれている。
 また,今後の検討課題として,法の施行後3年を目途とした検討規定が盛り込まれている。具体的には,①常時介護を要する障害者等に対する支援,障害者等の移動の支援,障害者の就労の支援その他の障害福祉サービスのあり方,②障害支援区分の認定を含めた支給決定のあり方,③障害者の意思決定支援のあり方,障害福祉サービスの利用の観点からの成年後見制度の利用促進のあり方,④手話通訳等を行う者の派遣その他の聴覚・言語機能・音声機能その他の障害のため意思疎通を図ることに支障がある障害者等に対する支援のあり方,⑤精神障害者及び高齢の障害者に対する支援のあり方,となっている。

(3)障害者の範囲の見直し

 障害者の範囲の見直しについては,平成25年4月から,対象に難病等が追加されている。当面,130の疾病を対象として運用しているが,難病(指定難病)については医療費を助成するための法律が平成26年6月に成立しており,医療費助成の対象範囲の拡大に併せて,障害者総合支援法の方も対象疾病の拡大を進めている。
 平成26年10月に障害者総合支援法対象疾病検討会が第一次の疾病対象の拡大についてとりまとめを行い,130疾病を151疾病に拡大する方向性が確認され,平成27年1月から実施する予定である。
 「難病」の定義としては,発病の機構が明らかでなく,治療法が確立していない,希少な疾病であって,長期の療養を必要とするものであり,客観的な診断基準が確立しているものとされている。これは,医療費助成の対象疾病(指定難病)の要件であるが,障害者総合支援法の対象疾病としての要件については,このうち「発病の機構が明らかでない」という要件と「希少な疾病」という二つの要件については,要件としないこととしている。
 この対象疾病の範囲については,指定難病の議論にあわせて,平成27年夏を目途としてさらに拡大する予定である。

(4)障害支援区分の創設

 平成26年4月から,障害者自立支援法の「障害程度区分」が「障害支援区分」に変更されて実施されている。着目点としては,必要とされる標準的な支援の度合いを基本としたことである。旧障害程度区分の問題点として,特に知的障害者,精神障害者の判定について,コンピュータの一次判定で低く判定され,結果として市町村審査会による二次判定で引き上げられる割合が高いという実態が指摘されていた。そこで,特に知的障害者,精神障害者の実態をよく反映するように見直しが行われている。具体的には,知的障害者,精神障害者,発達障害者を中心に障害特性をより反映できる認定調査項目に見直すとともに,「できたりできなかったりする場合」に「できない場合」を評価するなどの改善が行われている。

(5)重度訪問介護の対象拡大

 「重度訪問介護」は,これまで重度の肢体不自由者であって常時介護を要する障害者を対象としていたが,平成26年4月から,「知的障害または精神障害により行動上著しい困難を有する者」へと拡大されている。行動障害を有する者については,行動援護事業者において,アセスメントや環境調整などを行なった上でサービスを利用開始するという形で,うまく重度訪問介護に引き継いでいくという仕組みとなっている。
 このため,強度行動障害を有する者に対する支援者の人材を育成していく必要があり,強度行動障害に関する体系的な研修を充実することが必要である。

(6)共同生活介護の共同生活援助への一元化

 今後,障害者の高齢化・重度化が進むことを踏まえ,共同生活介護(ケアホーム)と共同生活援助(グループホーム)を一元化することとし,共同生活援助に統合を行なった。一元化に合わせて,外部サービスの利用の規制の見直しを行い,グループホームが外部のサービスと契約をして柔軟なサービスができるようにするとともに,一人で住みたいといったニーズに応えるためのサテライト型住居の創設が行われている。例えばアパートの一室をグループホームのサテライトと位置付け,本体のグループホームと連携を図りながらサテライトでの住まいを確保していくという形を想定している。

(7)地域移行支援の対象拡大

 地域生活への移行のために支援を必要とする者を広く地域移行支援の対象とする観点から,地域移行支援の対象について,特に入所期間の長期化,あるいは高齢化が進んでいる保護施設,矯正施設に入所している障害者に拡大を行なった。

(8)地域における居住支援の在り方

 地域における居住支援のあり方については,平成25年に「障害者の地域生活の推進に関する検討会」での検討が行われた。
 地域生活を実現するための機能としては,相談,一人暮らしなどの体験の機会の場,緊急時の受け入れと対応(ショートステイ等),専門性(人材の確保・養成・連携),地域の体制づくり(サービスの拠点,コーディネーターの配置)などが求められている。
 こうした機能をどう地域の中で確保していくかについては,多機能拠点整備型,面的整理型など,地域の実情に応じた対応方法が考えられるが,平成27年度からの障害福祉計画の基本指針においては,「地域生活支援拠点」を障害福祉圏域の中に少なくとも1カ所整備していくという方針が示されている。

(9)サービス基盤の計画的整備

 平成27年度から3カ年の第4期の障害福祉計画については,平成26年5月に国の基本指針が策定されている。計画の作成プロセスにおいてPDCAサイクルを導入したほか,成果目標として,平成27年度から29年度までの数値目標を掲げている。具体的には,福祉施設から地域生活への移行促進,精神科病院から地域生活への移行促進,地域生活支援拠点等の整備,福祉から一般就労への移行促進に関して,数値目標を掲げている。現在,各自治体において,実態調査や計画策定が進められているところである。

(10)計画相談支援

 平成24年度から,支給決定プロセスにおいて,「サービス等利用計画」が導入されており,平成27年度までにすべてのサービス利用者について,「サービス等利用計画」を作成することとされている。
 「サービス等利用計画」は,利用者に適切なサービスを提供するとともに,定期的にモニタリングをしていく仕組みとして重要な役割を果たしているが,各自治体における進捗状況にバラツキがあることから,市町村の適切な関与を通じて,サービス等利用計画の促進に努めているところである。

7. おわりに

 平成18年度に障害者自立支援法が施行されてから9年が経過し,平成25年4月からは障害者総合支援法として施行され,制度としては成熟・安定期に入ったものと考えられる。一方,残された課題も多い。平成27年からは,障害者総合支援法施行後3年目の見直しに向けた本格的な議論がスタートする。障害者の地域生活と社会参加を支えるとともに,安定的で持続可能な制度の構築に向けてさらに議論を深めていきたい。


主題・副題:リハビリテーション研究 第162号

掲載雑誌名:ノーマライゼーション・障害者の福祉増刊「リハビリテーション研究 第162号」

発行者・出版社:公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会

巻数・頁数:第44巻第4号(通巻162号) 48頁

発行月日:2015年3月1日

文献に関する問い合わせ:
公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1
電話:03-5273-0601 FAX:03-5273-1523

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