特集 第37回総合リハビリテーション研究大会 総合リハビリテーションの深化を求めて-当事者の「社会参加」向上と総合リハビリテーション- 基調講演 宮城県における障害者支援 ―地域の障害当事者活動の巻き込み力― 阿部 一彦

基調講演
宮城県における障害者支援
―地域の障害当事者活動の巻き込み力―

阿部 一彦
(社福)日本身体障害者団体連合会副会長 (社福)仙台市障害者福祉協会会長 東北福祉大学教授

要旨

 福祉のまちづくり活動の先駆けとされる生活圏拡張運動や全国障害者スポーツ大会開催に関係する取り組み,大規模災害前の日頃の減災の取り組みや東日本大震災後の活動の中で当事者団体が果たしてきた役割を振り返り,それらの実践が様々な人々や組織,機関を巻き込むことによって大きな成果に結びついたことを確認した。小さな自助グループが二次障害による健康不安に基づいて県リハビリテーション支援センターを巻き込んで検診事業の実現に結びつけたことも大切な取り組みである。
 全国規模の障害者団体等が互いに連携して障害者権利条約締結のための条件整備に主体的に取り組み,同条約が批准された。地方分権の中,国レベルで検討した仕組みを地域で実効性を伴って実施するには,地域の障害者団体や関係団体等が互いに連携し,多くの市民を巻き込んで活動する必要がある。また,障害者差別禁止に関わる地域の条例づくりの取り組みも重要である。

はじめに

 「私たちのことは私たち抜きに決めないで!」を合言葉に全国規模の障害者団体等が互いに連携して障害者権利条約締結のための条件整備に主体的に取り組み,本年1月,同条約が批准された。午前中の講演により,国内外の動向を踏まえ全国的な活動を通して障害者制度改革が行われて今に至っていることが理解できた。
 ところで,地域で充実した生活を送るためには地域において発信する必要がある。本講演ではこれまで宮城県内の障害者団体が主体的に果たしてきた活動について振り返るとともに,「地域の障害当事者活動の巻き込み力」をキーワードに今後の地域における連携した活動の重要性について考える。

1. 宮城県内における障害当事者団体の主体的な活動の事例

(1)生活圏拡張運動

 1970年代,車いす利用者が学生ボランティア等とともに仙台市役所も巻き込んで市内に利用可能なトイレの設置と歩道の段差解消を実現した。生活圏拡張運動とよばれるこの運動は,その後,福祉のまちづくり活動の先駆けと呼ばれるようになった。「街になれろ,街が慣れる」を合言葉に,積極的に地域で活動した成果である。
 デパートに車いすを配備するための署名,募金活動に身体障害者施設の入所者が参加したことが契機になった。署名活動後,ボランティアたちから喫茶店に誘われ,コーヒーや紅茶,ケーキを勧められたとき,車いす利用者たちは何も言えなかった。街の中に使用できるトイレがなかったのである。それをきっかけとして,車いす利用者が街に出るには使用可能なトイレが必要であり,歩道の段差は車いすの移動を妨げているという事実を知ったボランティアたちと車いす利用者たちの活動が始まった。ボランティアたちはアルバイトをして鉄板を購入し,歩道の段差部分に敷いていった。そして,歩道に鉄板が敷設してある理由を知った仙台市役所は,全国に先駆けて歩道の段差カットを始めた。ところで,歩道の段差カットによって困ったのは視覚障害者たちだった。そこで,視覚障害者と車いす利用者たちが話し合って段差を2センチ残すことにしたが,現在もそれが全国の基準になっている。その後,1973年に第1回車いす市民全国集会が仙台市で開催され,全国から車いす利用者が集まった。
 当時,私は大学生であった。同じ大学に在籍する車いすを利用している学生は階段昇降時には他の学生に背負ってもらって移動しなければならなかった。このようなとき,障害のある学生たちが生活圏拡張運動について大学側に伝え,スロープの整備やエレベーターの設置が実現した。講義棟がアクセシブルになったことは,車いす利用学生だけでなく,下肢障害の私たちにとってもありがたいことだった。情報を知り,実際に動くことが成果に結びついた。
 ところで,仙台市内のみやげ物店等に商売繁盛の福の神「仙台四郎グッズ」が並んでいる。知的障害のある四郎さんが足しげく通った店は繁盛したという。障害のある人に対して,思いやりを持ち,関わりを大切にする店だから繁盛した。商売の神様で実在したのは仙台四郎だけだということは,私たちの地域にとって誇るべきことである。このような地域だからこそ,生活圏拡張運動は当事者,そして市民を巻き込んだ大きな運動になったのではないだろうか。

(2)第1回全国障害者スポーツ大会

 2001年に宮城県内で第1回全国障害者スポーツ大会が開催された。当時の障害者スポーツのあり方検討の中で,国体開催地で行われていた全国身体障害者スポーツ大会と国体とは関係ない地域で行われていた全国知的障害者スポーツ大会の二つの大会を統合すべきかどうかという議論があった。2001年の開催を前に私たちは国体と一体となった身体障害者スポーツ大会を目指して競技種目を増やすように働きかけていたが,地元でも検討を重ね,統合大会を進めることに動いた。
 このとき,仙台市内で精神障害者が参加できない大会を全国障害者スポーツ大会というのはおかしいという当事者の声が上がった。そこで,市内の各障害の代表者たちが話し合い,一丸となって市に働きかけた。それを受け,障害福祉課長が実行委員会に伝えたが,これは国のルールなので,大会には組み込まれなかった。しかし,同年,仙台市内において第1回全国精神障害者バレーボール大会が開催された。やがて2008年からは正式種目になった。検討を深め,あるべき姿を発信することは成果に結びつく。当事者たちも,そして行政も互いに連携した成果である。
 大会開催をめぐり多くのスポーツ団体,地域の団体等と連携する機会をもつことができた。イベントは一過性ではなくて,大事な経過点として様々な波及効果を及ぼす。

(3)障害者と防災について

 東日本大震災から3年7カ月が経過した。宮城県では約35年周期で大地震があるので,当事者団体も様々な取り組みを行なっていた。障害者団体や患者団体のリーダーたちの学習会であるVHO-net東北学習会では災害への対応について話し合われていた。大学主催の検討会でも,各障害当事者が障害特性に応じて求められる支援等について話し合い,「災害時要援護者マニュアル」を作成した。そして,各障害当事者が民生委員・児童委員協議会等で講師を務めた。
 仙台市障害者保健福祉計画に災害時障害者ボランティア制度が位置付けられているのも当事者団体の活動の成果である。安否確認時に水や食料品がないという情報があれば,登録ボランティアが水や食料品を届けてくれた。
 仙台市障害者福祉協会は情報支援活動を展開した。震災後,行政は様々な情報を発信したが,直接個人に届くものではなかった。そこで,情報の収集と加工そして発信ということで,関係諸手続きも含めて,印刷版,点字版,音声朗読版そしてメーリングリスト版等4種類の情報発信をそれぞれ19回にわたって実施した。協会に登録しているボランティアたちが担当して行なったのである。様々な人々を巻き込んで,共に活動することが重要である。
 また,仙台市障害者福祉協会は福祉避難所を開設した。夜の宿直等の人手が足りないので,介護人材の派遣について厚労省と連絡をとり,福岡市身体障害者福祉協会等から人員の派遣を受けた。また,災害時相互応援協定を結んでいる山形県身体障害者福祉協会は災害時緊急車両指定を受け,物資移送活動を担った。このようなことが福祉避難所の運営を可能にした。日頃の信頼関係の積み重ねが大きな成果に結びついたのである。
 注目したいのは,日本障害フォーラム(JDF)による支援活動である。JDFの幹事会メンバーから震災直後の3月23日に宮城県内の団体と話し合いをしたいとの連絡を受け,17団体が集まった。そして,地元の団体の緩やかな連携をもとに被災障害者を支援するみやぎの会が結成された。12月には60団体を超すネットワークに拡がった。震災から19日後の3月末にはJDFみやぎ支援センターが開設され,全国各地から1週間単位でおよそ40人の支援員が駆けつけ宮城県内各地で活動した。そして翌週は次の40人が支援に入るという継続した取り組みが行われた。つながり,支えあいのありがたさを知った。
支援員の報告によると,障害理解が不十分だったために避難所生活が困難を極めたという。 障害理解の促進のためには,当事者団体同士を中心としたつながり,支え合いをもとに,地域全体を巻き込んでいかなければいけない。

(4)小規模団体の事例―ポリオ体験者の検診事業―

 小規模団体の事例として,仙台ポリオの会の活動が宮城県リハビリテーション支援センターの障害者検診事業に結びついた経緯について述べたい(詳細はシンポジウムⅡで樫本修氏が報告)。ポリオ発症後40年くらいたってから,障害がないと思っていた側の手足の機能が悪化するポストポリオ症候群の不安は大きい。残された運動神経が負担過重になり,二次障害が発症するのである。震災後,仙台ポリオの会では健康に関する不安がさらに大きくなった。そこで,会の活動が,県リハビリテーション支援センターの樫本所長等を巻き込み,昨年,ポリオの二次障害の検診事業が実現した。今年はポリオだけではなく,肢体不自由者の健康問題として県事業となった。
 保健,医療,福祉のさらなる連携の充実が求められる。当事者主体の総合リハビリテーションが重要なのである。慢性的な疾病や障害のある人々が元気に生活できる地域社会は,誰にとっても暮らしやすいインクルーシブな社会である。

2. 障害者制度改革を踏まえた地域における当事者活動の意義と今後の展望

 障害者基本法改正(2011年)では障害者の範囲が身体障害,知的障害,精神障害に加え,発達障害者や難病患者に拡大されたこととともに,社会的障壁について示された。社会的障壁とは日常生活や社会生活を営む上で障壁となる社会における事物,制度,慣行,観念等である。このことは社会的障壁を除去することの大きな意義を明確に示したものでもある。
 また,障害者の充実した地域生活のためのツールとなる障害者差別解消法が2016年4月に施行される。同法等の実効性を高めるためには,全国的活動とともに,地域の障害者団体や関係者がつながり,支えあい,多くの市民を巻き込んで活動する必要がある。社会的障壁をなくすための様々な取り組みや一人ひとりに応じたいわゆる合理的配慮の提供が求められるのである。
 最も不便を感じている立場から,当事者(団体)が不当な差別的取り扱いの禁止,社会的障壁の除去,合理的配慮の提供の重要性を発信する必要がある。合理的配慮の様々な工夫・改善は,当事者のニーズに応じて職能団体の専門的な取り組みのもと実施できるものが多いと考えられる。このように考えると今後の協働が重要になる。
 現在,発達障害,難病患者の実人数は把握されていないが,身体障害,知的障害,精神障害の3障害だけでも約787万人とされている。指定障害福祉サービスを受けているのは国保連の資料によると60数万人である。サービスを利用している人はもちろんのことであるが,サービスを利用していない障害者がいつまでも元気に暮らしていける社会づくり,まちづくりが求められる。そのようなことから,障害者差別解消法や差別禁止に関わる自治体の条例の役割が大きい。
 地方分権の中,充実した地域生活を送るためには,地域で当事者(団体)が大きな役割を果たさなければならない。法律・制度というルールを使いこなす力,そして法律・制度の策定や地域の計画策定に主体的に参画する必要がある。全国の動向から学ぶことにとどまらず,地域ではぜひ地域の当事者(団体)が関係者らを巻き込みながら主体的に活動しなければならない。

3. 仙台市における条例づくり

 障害のある市民とともに障害のない市民を巻き込んで,障害者差別解消法の上乗せ・横出しを含め「仙台市らしい」条例づくりに期待が寄せられる。
 条例づくりに取り組むことが多くの団体間で共有されている。これまでも当事者(団体)を中心に条例づくりの検討が行われていた。震災による一時的な活動の停滞があったが,当事者たちの呼びかけに仙台市長が応え,本年6月に障害者施策推進協議会に条例づくりの検討が諮問された。全ての障害種別の委員が施策推進協議会に任命されてはいなかったので,8名の当事者臨時委員が加わり検討が重ねられている。
 我々も障害者権利条約,障害者差別解消法等を学び,条例策定に関わり,誰もが暮らしやすく幸せを感じられる社会・仙台を実現する取り組みを行う必要がある。条例づくりに皆で互いに巻き込み,巻き込まれて,相互理解と連携のまちづくりを行いたい。
 障害者の生活の質の向上を図るためには,生活全体を総合的にとらえる必要がある。だからこそ様々な専門職との連携・協働による総合リハビリテーションが重要である。指定障害福祉サービスを受けている人々はもちろん,サービスを受けていない障害者が地域で豊かな生活を営むためには,保健・医療・福祉・教育・就労・余暇活動等の全ての面で様々な専門職,当事者が協働する必要がある。ここに障害当事者団体の大きな役割があり,これまでにも増して当事者団体は自らの体験に基づいた課題を地域に発信し,地域の諸組織,関係団体,市民と連携・協働する必要がある。互助の重要性が指摘されている現代社会だからこそ,障害当事者団体活動を促進する仕組みと障害当事者の主体的な地域社会への貢献が求められる。
 障害者差別解消法の上乗せ・横出しを含め,「仙台市らしい」条例づくりに期待が寄せられる。様々な専門職を巻き込みながら,そして,地域の住民を巻き込みながら取り組まなければならない。

おわりに

 これまで宮城県内で取り組まれた当事者主体の実践活動を振り返り,それらの実践が様々な人々や組織,機関を巻き込んで大きな成果に結びついたことを確認した。実践活動によってこそ大きな成果が得られる。障害者権利条約批准の条件整備等には全国規模の障害者団体が大きな役割を担った。地方分権の中,国レベルで検討した仕組みを地域で実効性を伴って実践するには,地域の障害者団体や関係団体等が互いに連携・協働し,多くの市民を巻き込んで活動する必要がある。ここでいう関係団体等の中には,日常生活・社会生活の充実を支援する総合リハビリテーションに関わる各種専門職(団体)が重要な位置を占める。障害当事者の体験を踏まえた専門職の関与が社会的障壁の除去,合理的配慮の実効性を高めるために求められることを強調したい。震災直後から障害者団体活動の重要性とともに限界を強く認識した。地域で暮らす私たちにとって,地域の人々を巻き込むことが重要なのである。当事者(団体),専門職,関係機関そして地域住民との協働が重要である。
 法律・制度への策定関与と使いこなす力の大切さも実感した。地方分権の中,地域で充実した生活を送るためには私たち自身の声を発信しなければならない。障害者基本法,障害者総合支援法,障害者差別解消法をしっかり学び,自分たちのものとして活用し,そして障害者差別禁止に関する仙台市条例を策定する意義はとても大きい。
 これらの取り組みを全国各地で展開する必要がある。そこに各地域に支部を持つ全国規模の障害者団体の大きな役割がある。


主題・副題:リハビリテーション研究 第162号

掲載雑誌名:ノーマライゼーション・障害者の福祉増刊「リハビリテーション研究 第162号」

発行者・出版社:公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会

巻数・頁数:第44巻第4号(通巻162号) 48頁

発行月日:2015年3月1日

文献に関する問い合わせ:
公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1
電話:03-5273-0601 FAX:03-5273-1523

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