特集 第37回総合リハビリテーション研究大会 総合リハビリテーションの深化を求めて-当事者の「社会参加」向上と総合リハビリテーション- シンポジウムⅡ 「社会参加」向上に向けた総合リハビリテーションのあり方 第1部

シンポジウムⅡ
「社会参加」向上に向けた
総合リハビリテーションのあり方 第1部

【シンポジスト】
樫本  修(宮城県リハビリテーション支援センター所長)
上遠野 純子((一社)宮城県作業療法士会会長)
渡部 芳彦(東北福祉大学健康科学部医療経営管理学科准教授)
後藤 美枝(仙台市障害者総合支援センター主査)
小関  理(NPO法人宮城県患者・家族団体連絡協議会理事長)
阿部 直子(NPO法人アイサポート仙台 仙台市中途視覚障害者支援センター社会福祉士)
島田 福男(仙台市連合町内会長会副会長)
若生 栄子(公益社団法人「認知症の人と家族の会」宮城県支部 若年期認知症の方の集い「翼の会」)

【座長】
渡邊 好孝((一社)宮城県理学療法士会会長)
矢本  聡(仙台市泉区保健福祉センター障害高齢課障害者支援係長)

要旨

 8名のシンポジストからの実践報告を通して,①障害や疾患の特性だけでなく,障害や疾患等を抱えた生活についての理解(知識)の不足,②支援者や社会資源の不足,支援手法の未確立,③当事者からの医療や福祉制度・情報等へのアクセスのしにくさなどが阻害因子となり,障害者,難病患者,若年認知症,被災者には,「食事や会話を楽しめない」,「運動ができない」,「仕事を続けられない。離職による経済的な不安が大きい」,「地域から孤立している」といった「社会参加の制約」が生じていること,これらの課題を解決するためには,①障害や疾患の特性,当事者の生活課題についての理解を促進する研修会等の開催,②当事者を中心とした専門職と住民,ボランティア等とのネットワークの構築,③人材の育成と社会資源の開発が急務であることが示された。

 シンポジウムⅡは,「『社会参加』向上に向けた総合リハビリテーションのあり方」をテーマに,第1部(実行委員会企画)と第2部(企画検討委員会企画)から構成され,第1部では,具体的な取り組みを通して当事者の社会参加を妨げている要因を明らかにすることを目的として,宮城県・仙台市で活動している8名のシンポジストが実践報告し,その後フロアを交えて討論が行われた。

1. 障害者検診における社会参加向上への取り組み

樫本 修

 宮城県リハビリテーション支援センターは,更生相談所機能を核とし,障害のある方を専門に対象とする附属診療所を有する医療機関である。更生相談所の補装具判定やクリニックでの医療相談を通して,地域には障害固定を理由に医療機関からの管理を離れ,主治医がいない障害のある方々が多いことを感じていた。四肢機能低下の発見が遅れ,二次障害を生じ,機能低下や疼痛が生じるまで医療とのつながりが持てない方も多かった。そこで,平成25年度から四肢機能の低下の早期発見,二次障害発生の予防を目的として「障害者検診事業」を開始した。
 25年度は,仙台ポリオの会を中心に34名の受検があった。外来診療につながった方が12名,装具作成5名,身障手帳の等級変更・診断書作成3名,レントゲン写真による変形性膝関節症,変形性脊椎症等との診断をつけた方が11名だった。また,ポストポリオ症候群に該当した方が9名で,これは検診を受けたポリオ受検者の33%,約3割の方に該当する。検診後のアンケートでは,多くの方が「自分の障害の確認ができてよかった。次回も検診を受けたい。相談できる場所ができたことは心強い」と回答していた。次年度からは隣接する自治体へも対象を広げながら,検診結果を地域にフィードバックし障害者ケアマネジメントにつなげ,健康管理や社会資源の促進に役立てていきたいと考えている。
 障害のある方がその人らしく生きることを支援すること,健康な生活に役立てることが総合リハビリテーションの役割である。検診を受けて本人がホッとすること。それが社会参加のモチベーションにつながると考える。障害のある方が自らの身体状況を知り,様々な工夫をして,その人らしく社会参加することが大切と考える。この検診事業が障害のある方の社会参加につながっていくことを望んでいる。

2. 障害者の健康づくりの取り組み

後藤 美枝

 平成25年1月に前身の障害者更生相談所の機能を拡充し,身体障害者更生相談所機能と地域リハビリテーションを推進する中枢機関として,仙台市障害者総合支援センターは移転・開所した。
 仙台市内の障害者施設支援を行う中で,「動ける(麻痺等がない)にもかかわらず活動量が少ない(運動不足)。30歳前後でも高血圧やコレステロール値が高く肥満の人が多い」ことが明らかになった。その要因として,「障害のある人たちが運動できる場所が少ない。障害のある人の運動の仕方が分からない」という声が聞かれた。そこで,「障害のある方の健康を維持・増進する環境づくりの推進を通して障害者の自立と社会参加を促進する」ことを目的として,16年度から,市民の健康づくりの中枢機関である健康増進センターと協働で,地域リハビリテーション支援事業「障害者の健康増進事業」を開始した。障害のある方たちの健康づくりは,身体障害・知的障害・精神障害に共通の課題であることから,障害特性に応じた運動プログラムの作成をモデル事業として行い,実施に当たっては,身体障害・発達障害・精神障害各々の専門相談機関からのバックアップを受けた。具体的には,健康増進センターやモデル施設において健康教室を開催し,19年度には,このモデル事業の集大成として,「はじめよう健康づくり」という冊子を作成し普及・啓発に努めた。23年度からは,健康増進センターが主体となり,障害のある方の健康運動教室の開催,施設に対する健康づくりの支援,地域での教室の実施等を行なっている。
 25年度には,福祉施設等における利用者の健康づくりに関する意識及び活動状況の調査を行なった。70%以上の施設が利用者の健康に課題を感じ何らかの働きかけを行なっていた一方で,運動する場所が少ない,マンパワーが不足している,施設では運動の時間を確保することが難しい,運動に対する知識や技術が不足しているという課題も明らかとなった。今後は,市内の様々な健康運動教室や健康に関する研修会,イベント,スポーツ教室等の情報を「健康」というキーワードでつないだネットワークづくりに取り組んでいきたい。

3. 地域に根ざした視覚障害者総合支援の取り組み

阿部 直子

 仙台市中途視覚障害者支援センターは,仙台市から,「仙台市中途視覚障害者生活支援事業」の委託を受けて様々な業務を行なっている。主な取り組みは,①生活相談(生計の維持に関すること,安全で衛生的な生活さらには充実した生活の再建・維持のために必要なサポートに関すること,感覚代行・保有する機能の活用に関すること,病気や症状の理解に関すること等),②視覚障害児・者支援に従事している専門職を対象とした研究会(仙台ロービジョン勉強会),③市民を対象とした研修会等である。
 視覚障害当事者として,ソーシャルワーカーとして,現在痛切に感じている視覚障害者へのリハビリテーションの課題は,視覚障害がもたらす生活への影響と軽減に向けた方策に関する情報を支援者が十分に得ていないということである。視覚障害者,特に中途視覚障害者の多くは高齢者であるが,ケアマネージャーや高齢者施設の職員等に対して,視覚障害のある利用者にどのような工夫をすれば本人の自発性をより一層引き出せるのか。すなわち,視機能が低下した状態でも,どのような環境調整や工夫により活動の制限がより少なくなるかについての啓発・理解促進が不十分であるということである。また,全国的に考えると視覚障害者のリハビリテーションに関する社会資源の地域間格差があまりにも大きく,仙台といえども不足するものがあるという課題もある。宮城県内を見ても,仙台市とそれ以外の市町村との差があるのが現実である。
 視覚障害のある方たちの社会参加への意欲や希望を阻害しているものがある時,その解決に向けて最も重要なことは,当事者も支援者も,知ること,要望や情報をつかむことである。様々な立場の人たちが互いに得意なことを提供し合えるような関係を作っていくことが,生活のしづらさを持つ視覚障害のある方一人ひとりの社会参加の促進につながるのではないかと考えている。

4. 難病患者と総合リハビリテーション

小関 理

 宮城県患者・家族団体連絡協議会は,宮城県難病連として発足したが,難病だけでなく疾病一般の方たちも受け入れて広いネットワークを作っていくために,平成16年度から現在の名称となった(県内23団体による連合体)。17年度からは宮城県難病相談支援センター,25年度からは仙台市難病サポートセンターの運営を受託し,各団体の構成員が難病患者のピアサポーターとして参加している。また,難病に関する医療講演会や相談会も受託している。さらにJPA(日本難病・疾病団体協議会)に参加し署名活動等を行うとともに,独自事業として,県内の患者と医師・看護師等の医療従事者との意見交換の場である宮城メディカルリンクや世界希少・難治性疾患の日にRDD(難病の日)としてイベント等を開催している。
 難病患者は,身体の痛みや症状が日々変化し,そのような中で多数の病院に通院(入院)して治療を受けている。罹患後も職を失うわけにはいかず,職場の上司や同僚に難病ということを伝えると,とても大変な病気に罹ったと思われてしまう。さらに,外見からは病気を持っていることが分からないため,日内・週内・年内変動があり病状が固定しないということがなかなか理解されていない。そのため退職に追い込まれる人たちが少なくない。休職の場合でも,これまでは病気を治してからの復職を求められていた。これでは慢性の難病患者の今後の生活の見通しや社会とのつながりがなくなってしまい,非常に生きづらい状況になってしまう。難病患者は治療に関しての情報は一生懸命に求めるが,いわゆる社会資源,福祉,社会保障に目を向ける余裕がなく,これらの情報に疎いという現状がある。そのため,退院後にどのような福祉サービスや支援を受けられ,どのような生活ができるのかを思い描けないということが少なくない。
 25年4月に障害者総合支援法が施行され難病患者も障害者となった。27年からは難病法が施行されるが,難病患者への公的支援は始まったばかりであり,リハビリテーションに関わる専門職には,このような難病患者が置かれている立場を理解してもらった上で社会参加の向上に向けた取り組みを一緒にできればいいと思っている。

5. 東日本大震災を経験してなお,作業療法士が目指すものは何か

上遠野 純子

 宮城県作業療法士会は,任意団体として1984年に発足し,2007年に社団法人格を取得し,現在788名を擁する職能団体として活動している。半数以上が仙台医療圏に属し,3割が,今回東日本大震災で甚大な被害を受けた沿岸地域で活動していた。
 当会は今回の大震災の一週間後に緊急臨時対策委員会を開催し,宮城県,宮城県理学療法士会その他関連職種と連携し,支援活動を開始することとなった。3月下旬には,県南部・東部の一般避難所に杖や補装具,靴などを持参しながら人的派遣を行なった。次第に,一般避難所では生活が困難な高齢者や要介護者を収容した福祉避難所への支援が中心となり,福祉用具の適合や活動維持のための体操,アクティビティーの提供を行なった。福祉避難所では,認知症の方への支援のあり方も課題として挙がっていたことから,「認知症の人と家族の会」宮城県支部の協力を得て,避難所の支援者に支援方法等のアドバイスも行なった。6月からは応急仮設住宅に入所した方々の住環境整備へ関わりはじめ,現在も仮設住宅で,多職種と協働して生活不活発病のチェック,運動指導,うつ・認知症予防事業等を行なっている。これらの支援活動を通して,平時から近隣施設やリハビリテーションに関わる専門職とのネットワーク,作業療法士全体のコミュニケーションを密にしておくことの必要性を痛感した。
 現在でも狭い仮設住宅での生活を余儀なくされている方々がおり,活動量の低下と精神的意欲低下により要介護状態の悪化が見られている地域が少なくない。これからも,リハビリテーションに関わる専門職だけでなく,地域の相談支援事業所,他職種,支援ボランティアとの協働による活動を活発化させ,地域住民とともに,被災者の健康支援や生活再建に取り組んでいきたいと考えている。

6. 認知症の人と家族の会宮城県支部若年認知症のつどい「翼」の活動

若生 栄子

 平成18年に2人の若年認知症の方との出会いを契機として「翼」の活動を始めた。当時,高齢者福祉サービスは若年認知症の方のニーズに合わず,特に発症初期には本人のプライドが傷つき,うつ状態になり家の中に閉じこもっていることが多かった。発症間もない本人と家族は,今後の人生設計の大きな変更を強いられ,社会や地域の中で孤立し,絶望感にさいなまれ,認知症=人生の終わりと感じていた。
 「翼」は,毎月2回,本人と家族合わせて30人ほどで行なっている。主な活動内容は,①本人と家族が自分の思いを素直に正直に語れる場づくり,②プロのピアニストの指導による「翼合唱団」,③認知症のことを学んでもらう場づくりである。翼合唱団は,これまで様々なフェスティバルやシンポジウム等で歌を披露してきた。認知症になっても,支援を受けるだけではなく,大きな社会貢献になっていると感じている。
 発症初期,7割の方は「自分が今までと少し違う。どこか違和感がある」と感じ始める。「自分はこれからどうなっていくのか」という不安が大きくなり受診し,認知症と言われ,「もう自分は終わりなのか。何もできなくなってしまうのか」というさらに強い不安感に苛まれる。一方で3割の方は,自分はどこも悪くないと受診を拒否している。彼らは,症状が進んでも,自分の尊厳を守りたいと必死に自分を取り繕っている。
 「翼」に参加した人たちは,40歳代から60歳代が多く,「働き続けたい。人のために役立ちたい。家族に迷惑をかけたくない。自分と同じような認知症の人と話がしたい。周囲の人に分かってもらえない。どこが病気なのと言われるのが辛い」という思いを共通に持っている。家族も,「どこに相談していいか分からない。どこの病院にかかったらいいか分からない。家族が認知症と言われても,この後どうしたらいいのか。制度についても全く分からない」という思いを持っている。
 いつでも相談できる場所,自分の思いを打ち明けられる場所,何でも言える場所が欲しいという思いや社会参加をしたい,仕事をしたい,社会の人たちと関わっていきたいという思いを実現できるよう,これからも翼の活動を続けていきたい。

7. 口腔ケアの視点で考える総合リハビリテーション

渡部 芳彦

 口にはさまざまな機能がある。①消化器系の入口としての役割,②呼吸器系の入口としての役割,③感覚器としても非常に鋭敏であり,さらに言えばコミュニケーションに果たす役割も非常に大きい。話すことはもちろん,表情を作るということで意思疎通に果たす口の役割というのはとても大きい。口腔ケアには,口腔衛生だけでなく,口腔機能を最後まで維持していこうという視点,考え方が重要である。
 口腔ケアの重要性は近年特に注目され,学会でも取り上げられている。11施設を対象とした2年間の介入研究の結果からは,口腔ケアをきちんと行なっている方は,そうでない方に比べて,肺炎の発症率,発熱の発生率が有意に低いことが示されている。また他の研究では,歯を失い義歯を使用していないと転倒のリスクが高まることも指摘されている。歯が多いほど健康であり,医療費負担は少なくなることも医療費調査から明らかとなっている。歯の本数が多いほど生存年数が長いという疫学調査の結果もある。
 口腔ケアに従事する歯科衛生士は,90%が歯科診療所に勤めている。介護老人保健施設に勤めている人は0.3%に過ぎない。保健所や市町村等も割合的には非常に少ない。リソースとしての歯科医院や口腔ケアのサービスを提供する人材は,例えば訪問診療などは,ニーズがあれば,要請があれば行える体制というものは十分に整っている。しかし実際には,必要な人にケアが行き届かないという課題がある。口腔の問題を発見して,本人や家族に歯科治療の必要性を説明したり,受容を支援したり,適切な日常的な口腔ケアを支援できる人材が極めて少ないという現状がある。職種に関係なく口腔ケアの意義と重要性を理解して,今ある歯科医療機関やサービスを生かして適切に対処できる人材が増えることが望まれている。
 「社会参加の向上」というテーマから支援のあり方を考えれば,口腔の問題というのは敏感なところではあるが,あまり気づかない。このようなところに気づいて,つなげていくということが求められている。

8. 東日本大震災時の災害時要援護者の支援状況から考える

島田 福男

 私たち町内会は,地域のご近所の方々の助け合いと支え合いによって,誰もが安全に安心して暮らせる地域をつくる活動をしている。平成16年7月の新潟県や福井県で起こった豪雨による甚大被害を機に,国の災害時要援護者避難支援ガイドラインに基づいて,各町内会の取り組みが始まったが,要援護者の対象範囲や情報の把握と共有の仕組みづくりや支援体制づくりが課題となった。町内会だけでなく,社会福祉協議会や民生委員児童委員協議会などと一緒に協議をしたが,一番ネックとなったことは民生委員の守秘義務だった。どのような要援護者がいるかについては,町内会になかなか情報がもたらされない。そのため支援体制づくりもなかなかままならなかったところが多かった。
 東日本大震災を契機に,具体的な支援プランが完成し登録制度も始まった。仙台市では,災害時要援護者の避難支援を地域による共助の中で行うことになった。これを全市的に進めるために,22年度から町内会代表,福祉関係団体代表などで構成する検討会を設置し,24年3月に仙台市災害時要援護者避難支援プランを策定した。これにより災害時要援護者登録制度がスタートし,町内会でもこれを受け入れた。
 東日本大震災を踏まえた仙台市における災害時要援護者支援策と町内会との協働に関する今後の課題は,災害時要援護者登録制度のスタートと活用である。これまでは民生委員は要援護者の情報を持っていたが,町内会では持っていなかった。24年12月からは,要援護者のリストが町内会に提供されるようになったが,26年4月現在,町内会へのリストの配布率は約9割であり,決して十全ではない。まだ手を挙げない方も地域には多い。そのような方々を町内会でどのようにカバーしていくかということも課題である。さらに,リストの配布を受けた町内会の取り組み状況として,登録者への地域の支援者の訪問状況が約6割という調査結果があり,支援体制のさらなる強化が求められている。
 町内会はご近所同士の助け合い,支え合いによって,支援者も要支援者もみんなが安全に安心して暮らせる地域にしようということを目的に活動している。これからもその取り組みを続けて,安全・安心な地域にしていけたらと思っている。

【質疑応答】

<視覚障害者や聴覚障害者を対象とした障害者検診>

 視覚障害者や聴覚障害者も医療から離れてしまうと最新の医学情報を得る機会がなく,機能低下を障害のせいだと諦めている現状がある。感覚障害の方の感覚機能に関する検診は各医療機関で行うことにはなるが,どのような障害があっても,加齢とともに視機能等は必ず低下し社会参加の障壁となる。障害者検診事業に眼科や耳鼻科の医師を巻き込み,感覚障害の方々へも検診の機会を広げていきたい。

<口腔ケアにおける作業療法士の役割>

 リハビリテーションから口腔ケアということを考えると,入れ歯を作って噛み合わせをよくすることや摂食・嚥下,飲み込みの困難な人の嚥下訓練などを直接・間接にサポートするという役割がある。もう一つは,どのような訓練によってよりクリアに話ができるかという発音に関するリハビリテーション,食べるということを考えたときには,特に栄養士と連携して食事について考えていくことも必要になってくる。歯科衛生士と作業療法士が,テーブルの高さや角度,食べる姿勢などについて,一人ひとり最も適切なものを見つけていこうという取り組みを行なっている施設もある。歯科衛生士や歯科医師だけでは支援が難しいことが多く,他職種の持っているものを活かしていく,取り入れていくという視点・姿勢が重要である。

【全体を通して】

 8名のシンポジストからの実践報告は,身体障害,知的障害,精神障害,難病,若年認知症,被災者とその対象は異なっていたが,①障害や疾患の特性だけでなく,障害や疾患等を抱えて生活することについての理解(知識)が不足していること,②支援者や社会資源が不足し,支援手法も未確立な分野があること,③当事者が医療や福祉制度・情報等へアクセスしにくいことなどの故に,障害や疾患の違いを超えて,「食事や会話を楽しめない」,「運動(スポーツ)ができない(楽しめない)」,「仕事を続けられない。離職による経済的な不安が大きい」,「地域から孤立している」といった「社会参加の制約」が生じている現状を明らかにした。それだけでなく,もともとの障害や疾患に加えて,さらなる身体機能や意欲の低下という機能障害,「(口腔状態の悪化による)肺炎や転倒(怪我)」,「成人病や肥満」といった新たな疾患等が生じることも示された。
 そして,これらの課題を解決するためには,①障害や疾患の特性,当事者の生活課題に関する理解を促進するための研修会等の開催,②当事者を中心とした専門職(多領域)と地域住民,ボランティア等とのネットワークの構築,③人材の育成と社会資源の開発が急務であることが示唆された。
 実行委員会では,本大会のテーマである「社会参加」について,「社会参加とは,外出や買い物等に出かけるということだけではなく,家庭や学校,職場あるいは地域の一員として役割を果たすこと,自らの生活・人生を楽しむこと,生きがいを持って生きること」と定義した。
 それぞれのシンポジストが指摘したように,「社会参加」が制約されている生活・人生は,「人として生きる権利」を奪われた生活・人生ともいえる。今回のシンポジウム(第1部)では,具体的な支援のあり方について十分な討論(提案)は行えなかったが,「社会参加の向上」をその人にとって意味のある人生を送ることと捉えれば,課題解決の方向性は,その人が生きてきた歴史の中にこそ見出せるのかもしれない。「障害や疾患等があっても,自分の人生を精一杯生きたい」という当事者の願いを実現するために,これからも,「総合リハビリテーションはどのような役割を果すべきか。何ができるか」についての検討を継続していかなければならない。

(文責:矢本 聡)


主題・副題:リハビリテーション研究 第162号

掲載雑誌名:ノーマライゼーション・障害者の福祉増刊「リハビリテーション研究 第162号」

発行者・出版社:公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会

巻数・頁数:第44巻第4号(通巻162号) 48頁

発行月日:2015年3月1日

文献に関する問い合わせ:
公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1
電話:03-5273-0601 FAX:03-5273-1523

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