特集 第37回総合リハビリテーション研究大会 総合リハビリテーションの深化を求めて-当事者の「社会参加」向上と総合リハビリテーション- シンポジウムⅡ 「社会参加」向上に向けた総合リハビリテーションのあり方 第2部

シンポジウムⅡ
「社会参加」向上に向けた
総合リハビリテーションのあり方 第2部

【シンポジスト】
河合 純一((一社)日本パラリンピアンズ協会会長)
分藤 賢之(文部科学省特別支援教育課特別支援教育調査官)
小田 芳幸(横浜市総合リハビリテーションセンター自立支援部部長)
大嶋 伸雄(首都大学東京大学院人間健康科学研究科教授)
坂本 洋一((株)ピュアスピリッツ顧問)

【座長】
木村 伸也(愛知医科大学リハビリテーション科)

要旨

 「総合リハビリテーションの深化を求めて―当事者の主体性と専門家の専門性―」というテーマを継承し,第37回大会は「当事者の『社会参加』向上と総合リハビリテーション」というサブテーマのもと開催された。このテーマのもと,シンポジウムⅡ第2部では,1)なぜ,社会参加の向上なのか,2)社会参加の向上を阻害している要因は何か,3)阻害要因を促進要因へと変える具体的な方略,という論点で議論を進めた。パラリンピックや教職への参加を通じて経験した問題と克服過程・成果を当事者からお話しいただき,特別支援教育,就労支援,保健医療,福祉分野の専門職から提言をいただいた。シンポジウムは,当事者中心の支援(=総合リハビリテーション)のあり方を考える機会となった。各シンポジストの発表を要約して報告する。
 第33回大会で提起された,当事者を高齢者・障害者・患者・被災者等を含む生活機能低下のある人全般というように広く捉える視点に立ち,総合リハビリテーションの考え方とノウハウを,私たちに共通で身近なものとするように第38回大会の準備に役立てていきたい。

1. 視覚障害者の社会参加 スポーツと就労

河合 純一

 2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けて,障害者スポーツが見直されている。パラリンピックを二度開催する東京,世界初である。50年前,第2回パラリンピックで「パラプレジア」と「オリンピック」を組み合わせて「パラリンピック」という言葉を作り出したのは日本である。
 今後6年間,私は6回のパラリンピックで得た貴重な経験を広く伝えていきたい。パラリンピックは規模において,オリンピック,サッカーワールドカップに次いで3番目である。2020年東京パラリンピックは,ハード面だけではなくて,ソフト面で障害のある子どもたちがスポーツをやりたいと思えるようにする大きなチャンスにしたい。
 私は15歳で弱視となった。学校,スイミングスクール等への参加を弱視で断られることはなかった。生まれながら全盲なら,当時は難しかったと思う。自分はいろいろな方々に支えられて水泳を続けることができた。今,障害のある子どもたちのスポーツ参加は学校で十分保障できているのか。障害のある子どもは,事故の危険を理由に見学となることが少なくない。均等に教育の機会を保障する統合だけではなくて,真に質的な教育効果を保障できる環境として,障害のある子どもがスポーツに参加できるようにしたい。
 私は幼い頃から教師になることを夢見ていた。中学3年で視覚障害となって悩んだが,私の夢は変わらなかった。当時のわが国で普通学校の教壇に立っている全盲の教師はいなかった。両親と担任の教師は私の夢を励ました。自分も可能性を信じて勉強し,7年後に静岡県の教員になった。しかし,いまだに点字で教員採用試験が受験できない地域がある。私の大学時代,都道府県教育委員会は,障害のある人の法定雇用率が最も低かった。一方で学校では障害のある人への接し方を子どもたちに伝えようとする。障害のある人と一緒に働いたこともない教師が,である。そこで,私は自分が教員として働くことは意味があると感じた。
 例えば子どもの顔が見えなくてどうやって授業をするのか聞かれた。子どもの顔が見えなくても声で名前が覚えられればいい。目は見えないが耳で判断するという違う方法があってもいい,ということである。声で判断して,その子が誰なのか,どういう特性をもつ子どもなのかを理解できて,その子から信頼されれば,教育は円滑にできる。
 防災訓練をやった時に聞かれたことである。避難する時に河合さんは40人の子どもをどうやって逃がすんですかと。40人の児童や生徒をおんぶや抱っこをして逃げることは筋骨隆々の教師でもできない。その時に適切な対応ができるように,児童・生徒への事前の指導と冷静に対応できる能力を身に付けさせることが大切である。こんな見当違いの質問が飛んできていたのが15年前であった。
 こう話をすると苦労ばかりのようにみえるが,本当によくしてもらってきたから今の私があると思っている。ここに参加する多くの人に,自分と同じような思いをしなくて済むようにしていきたい。それが自分がやっていかなければいけないことである。
 ストーク・マンデビル病院のグッドマン医師,パラリンピックの父は「失われたものを数えるな。残されたものを最大限に生かせ」といった。オリンピック・パラリンピックが今,一体になっていろんな動きが進んできている。パラリンピックは,いわばオリンピックという前座試合が行われた後で行われるので非常に円滑に運営ができる。1万人のオペレーションをやった後に5,000人のオペレーションをするのだから。先にパラリンピックをやろうという声もあるが,その危険性は計り知れない。今の順序と今のような規模で,社会にどうインパクトを与えるか。そして一過性のもので終わらせないということが一番大切である。
 2020年東京大会終了後の日本を思うと,超高齢化と障害の関係は切っても切れない。障害のある人のパフォーマンスから,高齢で不自由を抱えた時にも前向きに頑張ることを学べるはずである。ぜひ皆さんの応援をいただきながら2020年に向けて頑張っていきたい。

2. 「社会参加」向上に向けた特別支援教育のあり方を考える

分藤 賢之

 平成25年度,義務教育段階の全児童生徒数1,030万人中,特別支援学校,小中学校の特別支援学級,通級による指導を受けているのは3.11%,約32万人である。全児童生徒数は毎年10万人ずつ減少しているが,特別支援教育対象児は年1万5,000?2万人ずつ増えている。また通常の学級に発達障害疑いの児童生徒が6.5%程度いるとされている。平成19年度から特別支援教育が開始され,全学校で発達障害を含めた障害のある子どもの在籍を前提とした学級経営が求められ,今後,インクルーシブ教育システム構築のため特別支援教育の充実が課題である。
 インクルーシブ教育システムは平成18年に国連「障害者の権利に関する条約」において提唱された。この条約を締約するために,平成21年12月に障がい者制度改革推進本部が設置され,平成23年7月に障害者基本法が改正された。改正障害者基本法第16条には教育の理念の追求が述べられ教育分野での検討が進められた。
 中央教育審議会初等中等教育分科会報告「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進」では,第1点目に,共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システムの構築,第2点目に,障害のある子どもの就学相談・就学先決定のあり方という就学先決定の仕組みについて提言している。それを踏まえて,昨年の8月に学校教育法の施行令が改正された。施行令で,従来,障害児は特別支援学校で学ぶが,例外的に小中学校への就学が可だったのを改め,各児童生徒について教育委員会が,障害の状態等,総合的観点から就学先を決定するとした。教育委員会は学校,幼稚園・保育所,医療や福祉などと連携し,乳幼児健診の結果等を共有し教育相談支援体制を構築することとされた。
 平成24年4月,改正児童福祉法によって障害児支援事業者は障害児支援事業計画書等を作成することになった。この計画は保護者と共有されるものであり,教育分野においても早期から一貫した相談支援が期待されている。乳幼児健診,就学前相談,子ども家庭支援ネットワーク事業,幼稚園・保育所等と小学校等の連携事業,教育委員会・市庁部局の発達・子育て支援など支援を多層的にするとともに,教育と福祉が顔の見える連携を通じて信頼関係を構築することが重要である。
 報告は第3点目に,障害のある子どもが十分に教育を受けるための合理的配慮,環境整備を提言している。ともに学べるだけではなくて,合理的配慮によって十分な教育を受けられるという視点である。学校設置者,教育委員会,学校が合理的配慮をもって変更調整を行うことと,必要とされる合理的配慮は何なのかについて保護者と共通理解を図ることが求められる。また,特別支援学校のセンター的機能を発揮するために,合理的配慮の決定・提供にあたって外部専門家からの助言がますます必要となろう。
 報告では第4点目として,多様な学びの場の整備と学校経営の推進として,域内の教育資源を組み合わせるスクールプラスターが提案された。幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校,特別支援学級や通級指導教室など,単体では一人ひとりの教育的ニーズに応えることは難しい。そこで域内のこれら教育資源を組み合わせてスクールプラスターにより応えていく。各地域にインクルーシブ教育システムを構築するスクールプラスターができるように,文部科学省で事業を展開している。特別支援教育では,キャリア教育を重視している。このためにはソーシャルワークが必要だが,学校教員だけでは困難なので地域内でソーシャルワーク機能を確保することが重要である。
 報告の最後の点は,教職員の専門性向上である。障害のある子どもたちが通う学校の選択肢が広がりつつある。そこで教育の中身,教員の専門性,力量形成を図っていくことが重要である。
 特別支援教育は共生社会の形成,インクルーシブ教育システムの構築のために必要不可欠である。今後は,以下の三つの考えに基づいて発展させていくことが必要である。
 第1に,障害のある子どもが能力や可能性を最大限に伸ばして自立し,社会参加できるように,医療,保健,福祉,労働等との連携を強化して,十分な教育が受けられるようにすることである。
 第2に,地域社会の中で豊かに生きることができるように,同世代の子どもや人々との交流等を通して,地域での生活基盤を形成することである。
 第3には,特別支援教育に関連して障害者理解を推進し周囲の人々がともに学び合い,公平性の確保と社会の一員としての基礎を作ることである。
 最後に特別支援学校には,自らその存在を発信すること,出向く教育とともに取り込む教育が求められる。就労のとき,子どもがどういうことができるのか,事業主に見てもらうことなど取り込む教育を進めていきたい。

3. 復職支援にみる社会参加に向けた総合リハビリテーションの役割~就労支援施設の取り組みから

小田 芳幸

 働くことにはさまざまな意義がある。報酬,社会参加,自己実現,人によって比重は異なる。ここでは,復職を通した社会参加のあり方について考えたい。横浜市総合リハビリテーションセンターは,障害者更生相談所と一体的に運営しているのが特徴である。我々の就労支援施設の総合相談では障害者更生相談所とともにニーズを確認しつつ,インテークを行う。診療部門での障害の診断・評価,ときに訓練を行いつつ,障害者支援施設または就労支援施設でのサービス提供を行う。最近は,並行して訓練を行うことが多い。
 私が所属する自立支援部に,障害者支援施設と就労支援施設がある。障害者支援施設では,社会リハビリテーションを中心に取り組んでいるが,職業リハビリテーションへの支援も一体的に行なっている。就労支援施設では,復職を希望する人,将来就労可能な仕事を知りたい人たち,または,復職・新規のみならず,社会参加の方法を相談したいという人にサービスを行なっている。
 平成19年4月から平成25年3月まで,当施設を修了した262名のうち123名に復職希望があり,84名が復職した。新規就労も含めると,76.4%が職業的に自立した。この多くが脳血管疾患,脳外傷等による高次脳機能障害を有していた。支援は,本人・関係者の障害理解を得ないと進まない。特に事業主の障害理解がないと復職後にさまざまな問題が起こる。まず最初に本人の話を聞いて就労ニーズを明らかにする。能力を活用し,体験評価を通じた訓練,移行支援として企業と連携し,復職・新規就労に結びつける。
 アメリカのマクファーレンは,職業リハビリテーションには二つのカスタマー,障害当事者と事業主がいるという。この二つを同時に満足させることが求められる。私たちはまず第1に障害当事者が力をつけていく支援,第2に彼らが就労へ移行していく支援をし,第3に事業主に受け入れの仕組みを作ってもらうことを行なっている。平成25年4月の障害者雇用促進法改正後,障害者の雇用は伸びている。障害者権利条約や障害者差別解消法等で社会的障壁の除去として,雇用側に相当な負担がない限り障害者を受け入れる条件と環境を整えることが求められる。精神障害についても目標に入れることになっている。
 実態として雇用状況は改善しているが,障害への理解はまだ不十分である。障害者雇用に対してあまり理解がない事業者もいる。会社側が受け入れても,本人たちが力をつけることも必須である。
 急性期,回復期から生活期に向けてリハビリテーションのウエイトは変わってくる。職業リハというのは,地域に帰る段階の受け皿の機能を果たしている。職業準備性のピラミッドをみると,下から積み上げていかないと,就労を達成できない。最初に障害の理解と病状の管理,次に日常生活や基本的生活管理,さらに社会生活能力・対人能力,その上に基本的労働習慣を身に付けてから職業適性がある。具体的には,健康管理,基礎的な体力・手足の訓練が必要になる。次に生活レベルで,一人暮らしや通所能力が必要となる。その上に働くことが実現できる。
 障害の適切な評価をし,医学的・社会的,職業的リハビリテーションが協働して連続的に支援することが復職に向かう近道になる。
 もう一つ,働くための環境を整える支援が大切である。障害評価に基づき事業所の障害理解の促進を図り,配慮点を提案する。また,職場環境の改善や道具の工夫,対応の仕方等についての具体的な提案をする。
 最後に,復職は社会参加の一面であり,地域で社会参加をイメージしてアプローチしていくことが大切である。

4. 「社会参加」向上に向けた総合リハビリテーションのあり方~多職種連携協働による新たな視点からの取り組み

大嶋 伸雄

 日本の保健医療福祉系の大学では国家試験を重視して知識の詰め込みをしすぎ,卒業後,問題解決能力が奪われる。縦割りの専門教育の弊害をなくして,専門職連携教育,横断型教育,つまり共通の概念をもって,リーダーシップをとれる人材育成が必要である。
 期待されることは,第1に,インタープロフェッショナル・エデュケーションで,学生同士が互いの専門性を教え合い逆に専門性が高まる。相互比較によって自分の立ち位置,役割がよくわかる。
 第2に,コミュニケーション能力が上がる。チーム医療の基本はコミュニケーションである。
 第3は,視野の拡大である。マネージメント力,問題解決力,多重問題ケースの対応が可能になる。ただし,チーム教育をしても職場が縦割りではどうしようもない。職場でのチーム医療推進体制が有効活用の条件となる。チーム医療の力はインタープロフェッショナル・ワーク,多職種連携協働という。イメージは,従来の丸い円の中心に患者,周りが専門職,みんなで仲良くやりましょうというのではない。職種同士,価値観の違いをコミュニケーションで克服することを求める。そのためには専門性を離れて,高い視点から俯瞰する能力が必要である。
 もう一つ,専門性と一般性という二つの見方がある。医療職はタコツボ職種と言われ,専門性を深めるほど周りが見えなくなる。タコツボを出て他職種は何をしているか,自分は何をやるべきかを考えることが一般性である。そういった能力を学部のうちにつけさせておきたいと考えている。専門性だけでは利害とか職業的な背景が違うので意見の衝突が起きやすい。患者を人として見て主体性を尊重し,援助方針が決まってから専門性を発揮できればすばらしいチームワークができる。
 介護保険制度が始まり,私自身がケアの質を追求して行き着いた先が専門職連携であった。
 イギリス・ブリストルではいろいろな職種の学生が1週間から2週間,専門性を踏まえた上で困難ケースについて話し合う実習を繰り返している。これを推進しているのが英国専門職連携教育推進センターである。彼らによると,専門職連携教育の定義は「2種類以上の異なる専門職がチームによる協働・連携によって対象者のケアサービスの質を改善するために,お互いの職種とともに,お互いの職種から学ぶこと」である。1997年,サッチャー政権で医療崩壊の過程から立ち直る時にできたのが専門分野別の教育を見直すことであった。専門職同士の対立が多くて,医療水準・サービスが低下してしまったという反省がある。そこで2000年から6年間かけて専門職連携教育のために53億円の予算を投じた。人権と主体性を守るための専門職ということを柱にして教育している。イギリスNHSでは家庭医は,住民の健康を改善するとポイントがつく。その結果,過去5年間で英国全体で,血清コレステロールや血圧が下がり,脳卒中とか心臓病の発症率が劇的に低下した。そして認知症の発症率も低下してきた。イギリス・ロンドンのウエストクロイドンというモデル地区の地域保健センターと家庭医が連携している訪問事業を見学した時のことである。PTが訪問して訓練をやると思っていたら,一切手を出さないで会話が主であった。「一日何歩くらい杖ついて近所を歩行できますか?」など,患者教育と精神的サポートをやっている。患者の主体性と自立心を尊重している。
 一方,日本で患者が入院してまず考えることは,家族に迷惑をかけたくないので早く治してくださいということになる。そして残り少ない人生を訓練で費やしてしまう。日本のチームは最初に就職した職場に忠誠心を誓うために,穏便にということでなかなかディスカッションするチームが形成できない。そして運動機能の改善にはすばらしいシステムを持っているけれども,メンタル面のフォローが乏しい。障害があっても自立できることが大切である。患者役割を解消するためにも,医療をやってから社会参加のシステムではなくて,入院中から主体的に社会参加できるような,メンタル面,社会適応訓練を取り入れることが重要である。
 最後に,対象者の社会参加を実現させる多職種連携を支えるための制度上の仕組みが必要であるということを提言したい。

5. 社会参加の向上に向けた制度活用と専門職の役割

坂本 洋一

 障害福祉サービスを利用する入り口の第1は,相談支援専門員が計画相談支援でサービス利用をサポートし社会資源とかライフプランを作っていくアドバイスである。この場合,ケアマネジメント手法を用いる。第2は障害者自身がプランを作りサービスを利用していく入り方である。私は障害者自身がプランを作ることを重視している。
 計画相談支援では,障害者が依頼して相談支援専門員がサービス等利用計画案を作成する。それを受けた市区町村はサービス等利用計画案を参考に支給決定をする。相談支援専門員は障害福祉サービス以外にも,インフォーマルサービスもできるだけ入れてプランを作る。相談支援専門員は市区町村から支給決定を受けた後のサービス等利用計画の最終案を作り,サービス担当者会議を開始する。サービス開始後,相談支援員はモニタリングし一定期間後,見直しする。
 我々はサービス等利用計画を「大きなプラン」,個別支援計画を「身近なプラン」と呼んでいる。個別支援計画を1人で複数持つこともある。たとえば土,日曜日は余暇活動の同行援護サービス,月曜日から金曜日までは就労移行支援を受けるための他の事業者のプラン等である。事業所が定期的にモニターし,データが相談支援事業者の方に集まり,大きなプランの変更を担当者会議で決める。
 ケアマネジメント手法が導入されて,障害者が自己決定できる相談支援が求められている。相談支援のポイントは障害者の自己決定を促すことである。サービス提供側は,当事者の権利を侵害せず擁護する支援になっているかを考える必要がある。
 究極的目標は,相談支援をなくすことであると私は思う。サービス自体の継続は障害者の生活に不可欠だが,相談支援というサポートが必要なくなることは,当事者が力をつけたことでもある。精神障害とか知的障害で常に相談支援サポートが必要な場合もあるが,当事者が力をつけるという視点が相談支援では必要である。
 次にサービス提供の変化である。新制度下で個別支援計画を作ってサービスの質を担保することを目指したが,現実にはサービス提供者が支援プランを持てなかった。そこで厚労省はサービス管理責任者の配置を義務づけ,PDCAサイクルを実行し,サービスの質の担保と説明責任を問うことになった。
 これら相談支援とかサービス提供の変化に伴う専門職の役割の変化として,エンパワメントとストレングスモデルについて述べる。従来,当事者の弱点をアセスメントして問題をなくそうとしてきたが,当事者を強さを持った人間としてみる方向へ価値観転換を迫られている。社会福祉援助をする上でのパワレスな状態を発見した場合,「障害者自身が発信している」ということを専門職はキャッチするセンサーを持っているべきである。そういう意味でエンパワメントの考え方が重要になってくる。エンパワメントは,その人の持っている力を引き出すことである。サービス投入をするときに,生活の質,QOLを上げることが目標に,自身の力で生きていくことを目標にエンパワメントを想定する。
 ソロモンがあげる実践目標の4点を述べる。1点目は自分自身が主役であることを自認できるように支援すること。2点目は,信頼関係。担当者が知識・技術を発揮できていることをクライアントが理解できること。3点目,利用者とワーカーとはパートナーシップであることを,クライアントがわかること。4点目としてワーカーは決して個別支援だけでなく環境を含めたマクロな視点から働きかけること。法律が悪かったら法律を変えなければいけないというところまでクライアントが認めるようにするという視点である。
 エンパワメントというのは,障害者自身によるサービス利用を含め,地域で自分の力で生きていけるようにすることである。
 次に,ストレングスモデルの考え方がケアマネジメントの発展の中で出てきた。提案したのはチャールズ・ラップ教授で,利用者の強さに着目してアセスメントし,支援計画に反映させる手法である。これで利用者の満足度が高まり,ストレスが低下する。精神障害者の再入院率が非常に低下したという。その結果,財政抑制になり日本にも導入された。
 相談支援の研修等ではストレングスとして,環境のストレングス,本人のストレングスなど,いろいろなテクニックを紹介する。リフレーミングしてストレングスに変換する技術,例えば,近くにコンビニがあるので弁当を買いに行ってその日の食事はこなせるなど,いろいろなストレングスに着目してプランを作る。
 専門職は,障害者のストレングス,強さに着目することが重要であり,決して弱さを見つけてプランを作るのではないことを常に意識すべきである。

(文責:木村 伸也)


主題・副題:リハビリテーション研究 第162号

掲載雑誌名:ノーマライゼーション・障害者の福祉増刊「リハビリテーション研究 第162号」

発行者・出版社:公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会

巻数・頁数:第44巻第4号(通巻162号) 48頁

発行月日:2015年3月1日

文献に関する問い合わせ:
公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1
電話:03-5273-0601 FAX:03-5273-1523

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