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用語の解説

子ども虐待予防

 子ども虐待(child abuse)はいつでも,どこでも,誰にでも起こりうるものであり,発生してからの治療ではなく,発生前の予防が重要である。わが国の人口1万人あたりの子ども虐待発生率は0~5歳で19.4%であり,乳幼児期に最も多く,子育てとの関係が深い。児童虐待防止等に関する法律は2000年に施行され,通告義務が課された。2004年に児童虐待予防法,児童福祉法が改正された。改正には児童福祉法の実施体制の改正が含まれ,従来の児童福祉体系を大幅に改正し,国と県,市町村が役割を分担し,市町村が第1次的な予防活動に従事することになった。
 しかし,法の制定にも関わらず,子ども虐待件数の増加に歯止めはかかっていない。問題として,(1)1990年代頃から子ども虐待の概念が拡大して,1962年の身体的虐待(被虐待児症候群)から「子ども不適切養育」(child maltreatment)となり,4つの虐待行為類型(身体的虐待,放任,心理的虐待,性的虐待)が含まれるように変化したこと,(2)子ども虐待予防関連職・機関の間での連携の困難,(3)従来の疾病予防の方法・技術が子ども虐待リスク者の発見と支援に必ずしも当てはまらないことなどがある。特に,子ども虐待の4類型の理解が重要である。
 子ども虐待予防には,生活能力が未発達でも学習能力の高い子どもを中心に考え,子どもと関わる親,家族,環境の枠組みをシステムとみなし,虐待を発生するリスク要因を早期に見つけて対応することが必要である。リスク・アプローチ(問題ケースに着目)と同時に,ポピュレーション・アプローチ(集団全体を対象)の併用が必要である。また,個人のリスク面のみならず,適応力(レジリエンス)もアセスメントして,支援に結びつけることが求められる。子ども虐待予防用プレアセスメント(Pre-Assessment of Child Abuse Prevention(略称:PACAP))は新しく開発された簡便・有効な質問紙法であり,第1次予防のツールとして活用できる。

上田 礼子(沖縄県立看護大学名誉教授)

レジリエンス

 レジリエンス(resilience)の概念は歴史的にN. Gamezy(1971),M. Rutter(1987)の臨床研究,及びE. Werner(1984)の野外研究などから生まれたものである。子ども時代からの成長・発達過程を大人になるまで前方視的に観察・調査すると,ある子どもは虐待などの強いストレス環境に育ったり,また,別の子どもは低体重児や障害児として生まれても,その後はめげることなく,学校や社会にうまく適応し,肯定的に生活し,他者との関係もうまく維持できるようになっていた。すなわち,深刻なリスクにも関わらずに普通,あるいは非常に自信のある良好な発達を遂げる事例を観察した。一方,同じような環境的あるいは身体的ストレスに直面して病的な発達をする者もあるので,ストレスへの対処の仕方に著しい個人差のあることが注目されるようになった。
 なぜある子ども達は過酷な状況で適応能力を維持し,リスクに直面してもレジリエンスを発揮できるのかは興味深い問題である。良好な発達を助けるような環境条件と子ども側の資源を引き出す条件が注目されている。レジリエンスを生み出すリスクと保護・促進因子との相互作用に関する生態学的システムからの理解は以下のようである。
 (1)リスク要因:性別,遺伝的傾向・生物医学的問題,不適切な子どもへの関わり,両親間の葛藤,精神障害,養育態度,教育・就労の機会,貧困など,(2)保護・促進因子:乳幼児の気質,自尊心,自己効力感,知能の高さ,良好な親子関係,養育・教育・就労・達成の機会が多いこと,思いやりのある大人の存在,(3)システムレベル:個人の心理社会・生物学的特性,家族の諸条件,近隣社会・広い環境の諸条件などである。具体的には,リスク要因と保護的・促進因子のバランスがシステムレベルでどのように働くかである。たとえリスクがあっても,保護的・促進因子として地域に支援の雰囲気があり,両親の葛藤が少なく,子どもの気質が良ければ,レジリエンスは醸成される。

上田 礼子(沖縄県立看護大学名誉教授)


主題・副題:リハビリテーション研究 第165号

掲載雑誌名:ノーマライゼーション・障害者の福祉増刊「リハビリテーション研究 第165号」

発行者・出版社:公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会

巻数・頁数:第45巻第3号(通巻165号) 48頁

発行月日:2015年12月1日

文献に関する問い合わせ:
公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
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