用語の解説 合理的配慮 対応要領・対応指針

用語の解説

合理的配慮

 「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(以下,「差別解消法」)が2016年4月より施行された。以下では,同法の重要規定の一つである「合理的配慮」について解説する。
 行政機関や民間事業者は,その事業等を行うに当たり,障害者から社会的障壁の除去を求められた場合,過重な負担とならない範囲で,当該障害者に対し,合理的配慮を提供する義務を負う(差別解消法7条2項,8条2項)。社会的障壁とは,障害者にとって日常・社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物,制度,慣行,観念等をいう(2条2号)。具体的には,車椅子利用者のために段差にスロープを渡す,高所の商品を取って渡す等の物理的環境への配慮,筆談・読み上げ・手話等によるコミュニケーション,分かりやすい表現による説明等の意思疎通の配慮,障害の特性に応じた休憩時間の調整等のルール・慣行の柔軟な変更等が挙げられる(障害を理由とする差別の解消の推進に関 する基本方針第2の3)。
 合理的配慮に関し,以下の3点が特に重要となる。第1に,合理的配慮は,障害の特性や具体的場面・状況に応じて異なり,多様かつ個別性の高いものであることから,その障害者が現に置かれている状況,性別,年齢及び障害の状態等も踏まえなければならない。第2に,合理的配慮の実施に伴う負担が過重となる場合は,事業者等はその義務を免れる。過重な負担かどうかは,事務・事業への影響の程度,実現可能性の程度,費用・負担の程度,事務・事業規模,財政・財務状況等を考慮し,総合的・客観的に判断される。第3に,合理的配慮の提供は,行政機関については法的義務であるが,民間の事業者については努力義務にとどめられている。
 なお,雇用分野については,障害者雇用促進法に基づき,労働者である障害者に対し,事業主が合理的配慮の提供義務を負う。この場合,民間事業主も「法的義務」であるなど,差別解消法といくつかの点で違いを有する。

(長谷川 珠子/福島大学行政政策学類准教授)

対応要領・対応指針

 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法(以下,差別解消法)がこの4月から施行された。差別解消法は大まかに言えば,3つの文書に基づいて施行・運用されている。全6章26条の法律本文,差別解消法第2章で策定が定められている「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」(以下,基本方針),「対応要領」「対応指針」である。国等の職員に対するガイドラインとして対応要領(第9条),地方公共団体等職員等へのそれとなる対応要領(第10条),事業者のためのガイドラインとなる対応指針(第11条)に分けられる。
 基本方針は2015年2月24日に閣議決定され,それをもとに対応要領,対応指針の策定が行われた。同年7月に各省庁・機関から対応要領・対応指針の案が示され,団体ヒアリングやパブリックコメント募集を行い,意見収集を行なっている。その後,与党のヒアリングが行われ,最終的には38省庁,20事業分野で作成されている。内閣府の「関係府省庁における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応要領」(http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sabekai/taioyoryo.html)から確認することができる。
 これらは内閣府の対応要領,対応指針をベースに作成されている。ここでは,特に民間事業所のガイドラインとなる対応指針に焦点を当てる。内閣府の対応指針は本文と別紙の2つから構成され,厚労省を除く他省庁,機関のそれもおおよそこのような構成をとっている。本文は6つの大項目に分けられ,第1では法制定の趣旨など,第2では差別や合理的配慮の考え方,第3は相談体制の整備,第4は事業者における研修,その他相談窓口等の内容からなる。別紙は事例が書かれている。
 不当な差別的取扱いの考え方,差別行為が正当化される「正当な理由」の考え方,合理的配慮と合理的配慮の不提供を正当化する「過重な負担」の考え方,あたりはきちんと目を通しておきたい。特に「正当な理由」や「過重な負担」の拡大解釈が法の趣旨に反する旨などが書かれている点で重要である。また別紙事例も大切だが,事例はあくまで事例であり,これに限定されるものではもちろんない。
 今後は新たな事例など障害当事者側から提示し,対応要領・対応指針をバージョンアップしていくことが課題である。

(崔 栄繁/ DPI日本会議議長補佐)


主題・副題:リハビリテーション研究 第168号

掲載雑誌名:ノーマライゼーション・障害者の福祉増刊「リハビリテーション研究 第168号」

発行者・出版社:公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会

巻数・頁数:第46巻第2号(通巻168号) 48頁

発行月日:2016年9月1日

文献に関する問い合わせ:
公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1
電話:03-5273-0601 FAX:03-5273-1523

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