用語の解説 ロボットリハビリテーション

 ロボットリハビリテーションという言葉を日本で最初に使ったのは私ではないかと思う。最近ではマスコミなどでよく耳にするが,新しい概念の用語である。言葉をそのまま素直に翻訳すればロボットテクノロジーを用いたリハビリテーションである。ちなみに,ロボットリハビリ®は社会福祉法人兵庫県社会福祉事業団の商標登録である。
 ロボットリハビリテーションを正しく理解するためには,「ロボット」と「リハビリテーション」の両方の定義について考えなくてはならない。リハビリテーションと聞くと,多くの人は医学的な治療手段をまず連想するのではないかと思う。リハビリテーションという言葉が医療現場に根付いているからである。しかし,広義にリハビリテーションを捉えると,何も医療に限る必要はなく,地域社会で必要な支援を受けて自立していく過程と理解することもできる。ロボットは一般的には「センサー,制御・知能,駆動の3要素を満たすもの」と定義されている。「介護リハビリロボット」という呼称がよく巷では用いられているが,そのネーミングや定義については実に曖昧である。見守りシステムや移動・移乗支援機器,排泄・食事支援機器などは介護ロボットに属し,義肢(義足や義手),ロボットスーツ,機能的電気刺激装置,上・下肢訓練支援ロボットなどはリハビリテーションロボットに属するであろう。さらに広い意味では,高機能な福祉機器もロボットに属するかもしれない。
 それでは,ロボットリハビリテーションの目的は何か。それは機能改善と機能代償という二つの結果を達成するか,あるいはそのどちらか一つを達成することである。すなわち,リハビリテーションロボットを医療的な治療アプローチの手段として利用した場合,治療結果として障害の機能改善を果たす。その上で様々な社会活動や職業復帰といった地域での社会復帰を実現し,地域生活するための機能代償に役立たせることである。一方,介護ロボットを地域社会で自立して生活するための支援手段として利用した場合,その目的は地域生活するための機能代償に役立たせることである。  ロボットリハビリテーションを行う上で担保しておくべき事柄が二つある。まず一番大切なことは,安全性である。言い換えれば,ロボットそのものの機械的安全性とロボットの人間に対する安全性である。ロボットの機械的性能に対する信頼・安全性は厳しく基準が定められており,担保されているものと考えてよい。問題は人間に対するロボットの安全性である。ロボットを使用するのは障害者や高齢者,あるいは一般健常者である。特に,リハビリテーション医療の分野の中で,治療手段の主なものである義肢,ロボットスーツ,機能的電気刺激装置,上・下肢訓練支援ロボットは「人間装着型ロボット」と呼ばれ,障害者の身体に装着して,装着者が主体となって使用するものである。しかし,ロボットの対人安全性の基準についていろいろなところで検討されているが,まだ統一的なガイドラインは示されていないのが現状である。
 次に,ロボットの価格である。費用対効果は無視できない問題である。現在利用されている人間装着型ロボットの一部は医療機器として承認は受けているものの,それを使用することによる診療報酬の上乗せはなく,医療機関の自己負担である場合がほとんどである。通常の診療報酬では賄いきれないほどのマンパワーと労力を要することを考えると,積 極的にロボットを導入しようとするインセンティブがなかなか働かないのが医療現場の葛藤であろう。介護現場も同様である。仮に,素晴らしい介護ロボットが存在したとしても,高価なものであれば施設側は敬遠するであろう。診療報酬の上乗せと同じような仕組みを介護現場にも導入することを考えないと,インセンティブが働かないのは同様である。

(陳 隆明/兵庫県立福祉のまちづくり研究所長 ロボットリハビリテーションセンター長 兵庫県立リハビリテーション中央病院参事 兼 リハビリテーション科部長)


主題・副題:リハビリテーション研究 第169号

掲載雑誌名:ノーマライゼーション・障害者の福祉増刊「リハビリテーション研究 第169号」

発行者・出版社:公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会

巻数・頁数:第46巻第3号(通巻169号) 48頁

発行月日:2016年12月1日

文献に関する問い合わせ:
公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1
電話:03-5273-0601 FAX:03-5273-1523

menu