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用語の解説

総括所見

 総括所見(Concluding Observation)は,国連の人権分野の条約の「条約体」が,締約国報告を審査した後に発行する文書で,内容は締約国に対する評価と勧告である。ここでは以下,障害者権利条約(以下「条約」)について述べる。
 「条約」の「条約体」は「障害者権利委員会」(以下「委員会」)で18人の委員からなる。1期4年任期の委員は2年ごとの締約国会議で選出され,2017年から初めて日本人の石川准教授(静岡県立大学)が参加している。全盲の石川委員をはじめ多くの委員が障害当事者である。
 2017年6月半ばの時点で,「条約」の批准国は174か国,批准から2年以内に提出する初回締約国報告は107か国から出たが,総括所見はまだ55本しか出されていない。審査のペースアップが求められている。
 審査のプロセスは,まず締約国報告の検討,追加的情報を求める「事前質問事項」の決定と送付,それへの締約国からの回答の検討,さらにジュネーブで1つの国に2日間,6時間かけての「建設的対話」(「委員会」とその国の政府代表団との質疑)がもたれ,それらを総合して総括所見が採択される。
 これらの作業では,国ごとにラポタール(報告者・調整役)となる委員が選ばれ,その委員が「事前質問事項」や総括所見の素案をまとめ,それを審議・修正して文書を採択する。この審査プロセスでは,障害者団体などの市民社会組織によるパラレルレポートやジュネーブでのブリーフィング(「委員会」が市民社会組織からの聞き取りを行う非公開の1時間の枠)も重視されている。
 こうして作成される総括所見ではその国の良い点の評価とともに,懸念事項が指摘され,その事項の改善点が勧告される。多くの場合,長さは数頁から10頁程度,そのうち「良い点の評価」は半ページ程度で,ほとんどは懸念と勧告である。その中には特定の法律の改正やあるテーマについての調査の実施を勧告し,その結果を1年,2年以内に「委員会」に報告するよう求めるものも珍しくない。したがって,総括所見はその国の障害者にとって重要な意味を持つ。

(佐藤久夫/日本社会事業大学特任教授)

パラレルレポート

 パラレルレポートは総括所見に至る審査プロセスのなかで,各国の民間団体が「委員会」に提出する独自の報告のことであり,「委員会」はそのためのガイドラインを示している。
 このガイドラインでは「代替報告(Alternative Report)」と呼ばれ,その他「影の報告(Shadow Report)」と呼ぶ団体もある。
 ガイドラインによれば,①提出時期は「事前質問事項」決定の前や「建設的対話」の前などいくつかのタイミングがある(これらが予定される会期の3週間前まで),②上限は10,700語,③推奨される目次構成は,提出団体の紹介(報告作成への障害当事者の参画の程度を含む),概要(1頁以内),条文ごとの意見,総括所見での勧告案,④英語での提出を強く推奨,などとされている。実際には文字数上限を大幅に超えているものも多く,またガイドラインには書かれていないが,「事前質問事項」の提案もほとんどのパラレルレポートでなされている。
 ガイドラインには特に書かれていないが,「委員会」は1本にまとめてほしいと要望しており,数十の団体が連名で提出する国が多い。
 これまでの総括所見にはパラレルレポートの大きな影響が見られる。締約国報告は主に政府がやっていることを紹介しているが,「委員会」は主に足りないことを指摘して実行を勧告する。障害者団体などの市民社会組織は,各条文に照らして何が問題か,どう改善すべきかをパラレルレポートで示す。このように「委員会」と障害者団体とは視点をかなり共有しているので,強く影響するのは当然といえる。「委員会」には評価の視点はあるがデータがない。パラレルレポートは,「締約国報告」では十分には提供されていないデータを紹介するとともに,その国の障害者が現状をどう評価しているかを示すので,審査に不可欠といえる。
 さらに,この監視システムは可視化が進んでいる。パラレルレポートを含む全文書が公開され,「建設的対話」も動画で見ることができる。「条約」によって障害者施策の改善のために使える国際監視システムが生まれたと言える。

(佐藤久夫/日本社会事業大学特任教授)


主題・副題:リハビリテーション研究 第172号

掲載雑誌名:ノーマライゼーション・障害者の福祉増刊「リハビリテーション研究 第172号」

発行者・出版社:公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会

巻数・頁数:第47巻第2号(通巻168号) 42頁

発行月日:2017年10月1日

文献に関する問い合わせ:
公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
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