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国連世界情報社会サミット(World Summit on the Information Society : WSIS)

2007年1月11日・12日開催 障害者の津波への備えに関する国際会議報告

野村美佐子
(財)日本障害者リハビリテーション協会

項目 内容
転載元 「ノーマライゼーション」2007年3月号、発行 (財)日本障害者リハビリテーション協会

はじめに

2004年12月、タイのプーケットで起こった津波は一瞬にして多くの人の命を奪いました。このプーケットで、2007年1月11日から12日にかけ「障害者の津波への備えに関する国際会議」が開催されました。

この会議の背景には、2003年と2005年に開催された世界情報社会サミット(WSIS)に積極的に参加し、ICT(情報コミュニケーション技術)と障害者、またデジタル・ディバイドの解決に焦点を当てた"障害者コーカス(グループ)"の積極的な活動がありました。会議はWSISの成果となった「行動計画」(注1)の実践として、障害者コーカスの中心的な存在であった河村宏氏(国立身体障害者リハビリテーションセンター障害福祉研究部長)とモンティエン・ブンタン氏(タイ国視覚障害者協会会長)によって企画されました。

筆者は、2003年よりWSISにおける障害者グループの活動について、本協会が運営する「障害者保健福祉研究情報システム」(DINF)で紹介をしてきました。今回、事務局の一人として参加しましたので、WSIS後の動きの一つとして会議を報告します。

会議の概要

この会議は、河村宏氏とモンティエン・ブンタン氏が共に所属する国際団体「DAISYコンソーシアム」が中心となり、アジア太平洋障害センター(APCD)、タイ障害者協議会(CDPT)、国立災害警報センター(NDWC)、タイ国電子コンピュータ技術センター(NECTEC)、タイ盲人協会(TAB)、DAISY For All Project タイ(DFA Thailand)、アジア災害軽減センター(ADPC)、タイ自閉症職業センター(TAVC)の共催で、開催されました。

参加者は、アメリカ、ヨーロッパ、アジア各地から30人およびタイ国内からはIT関係者、障害者コミュニティ、政策立案者、防災の専門家など70人が集まりました。WSISのコンテキストで言えば、政府、企業、そしてNGOの関係者を一同にした「マルチステークホルダー」の会議となりました。

この会議の目的は、WSIS行動計画の実践としての「障害者の津波への備え」に関する国際的ネットワークの構築と、以下の情報を共有することでした。

  1. 障害者個々の津波への備えについて、津波と地形の関連性の理解、アクセシブルな警報手段、避難経路の計画または確認などの各要素から考察するという提言
  2. 障害者のニーズを満たした津波への備えを推進する好事例
  3. 現在進行中の災害予防および災害緩和に関する国内外の主導的な事例
  4. WSIS行動計画の実践としての障害者の災害への備えに関するデジタル・ディバイド解消の主導的な事例

前述の目的で、世界中の障害者、高齢者、患者、児童、妊婦、難民、先住民族などの文化的または言語的マイノリティ、海外の旅行者などの特別なニーズを考慮して、災害時の避難計画改善に向けて、さまざまな分野の講師の発表と熱心な討議が展開されました。

会議1日目

最初に基調講演として4人の講師のプレゼンテーションがありました。河村氏からは、北海道の浦河町での研究に基づいて、防災における「ステークホルダーによる協力」、「当事者の参加」、および「ユニバーサルデザインと支援技術の利用によるICT開発」の重要性が述べられました。また国際電気通信連合(ITU)の専門家からは、災害時におけるITUの役割とタンペレ条約(災害時における通信の利用に関する国際条約)の推進について、アメリカ自閉症協会のスティーブン・ショア氏からは当事者としての経験から防災について、ウェブの国際標準化を行っているW3Cの活動に関わるオランダ国立情報工学・数学研究所(CWI)ディック・バルタマン氏からは、アクセシブルなマルチメディアを利用した災害情報の提供について報告がありました。

続いて防災に有効なさまざまなITの開発やDAISYの利用について、また津波などの災害の体験の共有と防災へのイニシアチブについて、それぞれの講師が具体的な事例を発表することで参加者の共感を得たように思います。

この日の最後のセッションでは、プーケットに住む3千人ほどの先住民族、モーガン族が津波に対しどのように対処したかについて公開インタビューがありました。

津波の当日、彼らは、波が通常でないことに気がつき、何百年も前に同じような現象があったことを知っていた高齢者の連絡により早期に避難することができたそうです。障害者も含めて犠牲者は一人もいなかったということもわかりました。彼らは、津波を恐れるのではなく、自然の現象として捉え、常に風、波、雲、雨などに用心をしていたからです。書記文字がなく口頭でコミュニケーションをとっているモーガン族ですが、これも学ぶべき防災対策ではないかと思いました。

会議2日目

会議の2日目には、津波が起こったパトン(Patong)ビーチを参加者が訪れ、津波発生後の警報タワーの設置など防災対策について関係者からお話を聞きました。また最後のセッションでは、会議の成果となる宣言文について討議を行い、後日、関係者のメーリングリストを通じて以下の宣言が承認されました。

障害者の津波の備えに関するプーケット宣言(仮訳)

序文

我々、障害者の津波に関する国際会議の参加者は、2007年1月11日、12日にタイのプーケットに集い、以下の宣言をします。

津波に際して、障害者の安全を確保することは、

  1. 津波などの災害について知識と有効事例を共有し、
  2. 人命の損失を失くすために、障害者を含むすべての関係者の力強い意思と積極的な参加を促し、
  3. 防災についての地域のコミュニティのイニシアチブを通して、
  4. タイムリーな災害警報を関係者すべてに普及・推進することを目的とし、あらゆるレベルでの早期警報システムを含むインフラの構築を通して、
  5. 災害のマネジメントをすべての段階においてアクセシビリティの問題に対処した障害者に優しいインフラの構築を通し、
  6. 知識社会では、支援技術とユニバーサルデザインの概念を含んで、コミュニティにおける障害者および女性、児童、高齢者、文化的なマイノリティ、観光客を含むその他の弱者を含んだすべての人のさまざまなニーズを満たす防災に有効なICTの開発を通して可能となります。

このようなICT開発はオープンかつ一般的で、アクセシビリティについて実績がある国際標準に基づくべきです。

2004年にアジアで起こった津波を思い起こし、以下のことを勧告します。

  1. 津波と防災の教育センターを設立しなければなりません。また物理的なインフラと研修教材は、障害者にとってインクルーシブでアクセシブルであるべきです。
  2. WSIS行動計画、兵庫行動枠組み、タンペレ条約を支持し、津波およびその他の災害から効率的な安全確保のために、すべての関係者はWSISの基本宣言と国連の障害者権利条約に従うべきです。

まとめ

WSISの公式文書の中で、津波などの災害時に早期警報・管理・緊急通信におけるICTツールの活用について示しており、チュニスでも開催されたWSIS「障害者のグローバルフォーラム」において、河村氏は障害者の防災に関する特別のセッションを行っていました。そのセッションのフォローアップとして、河村氏は、「ITU、UNESCO、WHO、ESCAP等が現在進めている早期警戒システムと、アジア各地で進められている障害者と高齢者の防災の取り組みの連携によって、今懸念される防災におけるさらなるデジタル・ディバイドを防ぎ、障害者を含むすべての地域住民の安全を守る取り組みが緊急に必要とされている。たとえば、この連携を具体的に組み立てることが、アジア地域における一つのWSISフォローアッププロジェクトになる。これがアジア地域で成功すれば、世界の各地で障害がある人々が参加する防災システム構築に向けた取り組みの手引きとすることができるのである」(注2)と述べていました。そのことをまさに「津波の備えに関する会議」で実践してくれたように思います。

河村氏は、今回の会議について「防災の取り組みに対して、関係者のネットワークを構築し、皆で何をすべきなのか、また何かができそうなことを、熱気あふれる討議の中で確認できたように思います」と語っていました。関係者一同による今後の活動が期待されます。

(注1)2003年のジュネーブで採択されたWSISの公式文書については、以下のウェブサイトを参照。
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/prompt/031217_2wsis.html
(注2)財団法人日本障害者リハビリテーション協会発行『リハビリテーション研究』No.126(2006年3月)の河村宏氏の「国連世界情報社会サミットの成果と問題点―障害者コーカスの立場から―」から抜粋。