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障害者計画策定に関わる第2次市区町村長アンケート調査報告書


第1章 市町村障害者計画~アンケート調査結果と、今後の策定推進への展望~

本章では、アンケート調査の結果と、市町村障害者計画策定推進に向けての今後の展望について、本調査企画委員、ならびに委員以外の学識経験者の立場から、東洋英和女学院大学助教授 石渡和実先生の論評を掲載します。


「障害者計画」の義務化が必要か?
-第2次市区町村長アンケートを了えて-

板山 賢治
新・障害者の十年推進会議  政策部会長
日本障害者リハビリテーション協会 副会長

◇「市区町村長アンケート調査」の目指すもの

 それは、「障害者基本法」第7条にもとづく「市町村障害者計画」の策定を求める運動である。
 それは、これからのわが国障害者施策の行方を左右する「鍵」を握るものが、「市町村障害者計画」であり、そのキーパーソンが、「市区町村長」であると考えるからである。
 平成5年12月の「障害者基本法」の誕生は、国連・障害者の十年以後における成果を総括するものとして大きな反響をよんだ。
 特に関係者の期待を集めたのは、国に「障害者基本計画」の策定を義務づけ、都道府県・指定都市および市町村に「障害者計画」策定の努力義務を明定した点であった。
 政府は、平成5年3月「障害者対策に関する新長期計画」を、平成7年12月「障害者プラン~ノーマライゼーション7か年戦略~」を策定し、都道府県・指定都市もまた、それぞれに、数値目標などを含む「障害者計画」の策定を了え、その推進につとめておられる。
 これに対し、市区町村における取り組みは、遅々として進まず、特に町村部においては危機的状況にあり、その促進のための方策が求められていた。
 平成7年5月11日、内閣総理大臣官房内政審議室長名をもって各都道府県知事宛に「市町村の障害者計画策定に関する指針について」が通知され、その推進に努めているが、民間障害者関係団体も傍観は許されないということから、「新・障害者の十年推進会議」(日本身体障害者団体連合会、日本障害者協議会、全国社会福祉協議会、日本障害者リハビリテーション協会)が中心となり、関係団体の協力のもとに本アンケート調査を実施することになったのである。
 第一次アンケート調査は、平成7年12月末現在をもって実施し、2,043市区町村長からの回答を得た。回答率は、62.8%であったが、各市区町村の姿勢、認識等についてかなりつっこんだ情報をうることができた。
 第二次アンケート調査は、平成10年2月1日現在を期して実施したところ2,155市区町村長から回答をいただいた。回答率は、66.2%ということになるが関係者の皆さんのご協力に深く感謝いたしたい。

(参考)「市町村障害者計画」策定状況(総理府調)
          -平成9年3月末-  -平成10年3月末-
○市区の場合       (679市)        (681市)
 (1)策定済    239(35.2%)    402(59.0%)
 (2)策定中    185(27.2%)    185(27.2%)
 (3)未策定    255(57.6%)     94(13.8%)
○町村の場合   (2,564町村)     (2,562町村)
 (1)策定済    342(13.3%)    677(26.4%)
 (2)策定中    310(12.1%)    480(18.7%)
 (3)未策定  1,912(74.6%)  1,405(54.9%)
(合計)     (3,243市区町村)  (3,243市区町村)
 (1)策定済    581(17.9%)  1,079(33.3%)
 (2)策定中    495(15.3%)    665(20.5%)
 (3)未策定  2,167(66.8%)  1,499(46.2%)

◇ アンケートを了えて

 アンケート調査結果について感ずることの第一は、正に「百年河情を待つ」の感が強い点である。「策定済」「策定中」を合せて53.4%は、前回の11.3%に比べかなりの前進とはいえ、法制定後4年を経てなお半分というレベルである。「地方主権」の福祉を目指すためには、「策定の義務化」を求めて基本法改正の動きを起さなくてはとも考える。
 第二は、関係障害者団体の動きの低調さである。このアンケートを機会に、地域で、都道府県レベルで「計画促進協議会」といったものの結成を呼びかけたのだが、一部を除いて不活発な状況にあり、今後の課題となっている。平成10年度スタートした「中央障害者社会参加推進センター」とも連携してその推進を図りたいと思う。
 第三は、今進みつつある社会福祉基礎構造改革および障害者保健福祉施策の見直しにおける「市町村障害者計画」の位置づけの明確化である。社会福祉事業法改正に「地域福祉計画」の策定が入り、障害者保健福祉三法改正に「市町村障害者計画」に関する規定が実現することを期待したいものである。
 これからの障害者保健福祉推進の鍵を握るものは、「市区町村」だからである。


障害者の地域生活進展をめざして
-実効性のある計画策定を進めよう!-

石渡 和実
東洋英和女学院大学人間科学部助教授

1.調査結果の概況から

 新・障害者の十年推進会議による、「第2次市区町村長アンケート調査」の結果がまとまった。「総理府調査」の結果も参考にし、また計画策定に関わった筆者の体験なども合わせて感想を述べてみたい。
 まず策定状況については回答数が異なるが、推進会議の結果が「策定済:427件(19.8%)」「策定中:725件(33.6%)」で計53.4%、総理府が「策定済:1,079件(33.3%)」「策定中:665件(20.5%)」で計53.8%となっている。年度末で結果をまとめた総理府の方が「策定済」が多くなっているが、2つの結果とも、「策定済」「策定中」を合わせても約半数でしかない。平成5年度の老人保健福祉計画は、義務を課せられたこともあって全市区町村が策定したが、障害者計画の方は依然として策定が進んでいない。最近の行政の傾向として、「少子・高齢社会」への対応ばかりに目が向けられ、障害者施策の充実は後回しになっているのではないか、との危倶を拭いきれない。

2.計画の位置付けと成果

 「策定済」とある中でも、「障害者単独の計画」というのが281件で65.8%(総理府では870件で80.6%)、「総合計画」の中などに位置付けているのが110件で25.8%(総理府では209件で19.4%)である。2つの方法にはそれぞれ長所・短所があろうが、策定に関わった人の意見や筆者の体験からも、単独計画の方が障害者福祉に関する行政や住民の意識が高まるのは確かである。ヒヤリングなどを通して当事者の声を聞く機会が増えると、障害があっても地域で暮らす同じ住民である、ということを実感できるようになる。高齢者問題は誰もが「わが事」と考えるが、障害者問題は「他人事」になりがちである。単独の計画を策定するプロセスを経ることによって、障害者が暮らしやすい社会を築くことは、高齢者をはじめ、すべての人に暮らしやすい社会になりうる、ということに気付いていくのである。しかし、総合計画の一部となると、介護保険制度をはじめとする高齢者福祉に関心が集中してしまう。緊急の課題であるがゆえに、行政の姿勢や住民の意識もまずは高齢者福祉となり、障害者施策についての論議は不十分なままで終わってしまうことにもなる。したがって、単独で障害者計画を策定し、その後、高齢者福祉との関連や総合計画の中での位置付けを検討すべきであると思われる。

3.当事者の政策決定への参加

 このような視点からすると、2つの調査結果とも単独計画が多くなっていることは喜ばしい。しかし実際の計画策定は、「行政が主体的に推進した」というのが89.2%を占めており、「障害当事者や団体の運動」は10.3%でしかない(複数回答)。また、当事者などが委員として参加した市区町村は71.4%で、これは決して多い数字とはいえまい。また、実際の人数も1~2名という所が多いようである。策定過程において「ヒヤリングを実施した」という所は34.9%にすぎず、このような事実から、単独計画であっても策定にどれだけ当事者の意見が反映されたのかは、はなはだ疑問である。
 さらに障害者施策推進協議会については、「設置した:133件(6.2%)」「設置中:48件(2.2%)」という少なさで、「検討中」でさえ51.3%である。計画を策定してもその後の実施など、進行管理に関わるシステムが確立されなければ、まさに「絵に描いた餅」に終ってしまう。法的に規定されている「協議会」がベストと考えるが、既に同様の組織があるならば改めて設置する必要もあるまい。要は、この機能を果たせるシステムがあり、その中で障害当事者の声を確実に反映できることが重要なのである。計画策定の過程で生まれてきた、障害者福祉への行政と住民の熱い、思いを、ぜひ地域に根付かせるための組織作りにも力を注いでほしい。


市町村における障害者計画策定状況調査から

笹川 吉彦
新・障害者の十年推進会議 企画委員
日本身体障害者団体連合会  副会長
日本盲人連合会  副会長

 障害者基本法が施行されて早5年、全国約500万の障害者は、その成果に大きな期待を寄せている。特に努力目標とはいえ、各自治体において策定することになっている市町村障害者計画の策定状況については、大きな関心が寄せられている。
 新・障害者の十年推進会議では、平成9年から10年にかけ、全国3,255の自治体に対し、障害者団体や身体障害者社会参加促進センターの協力を得てアンケート調査を実施し、100%の回答を引き出すべく努力した。しかし残念なことに66.2%の回答率に留まったことは、極めて残念であり、回答をしなかった自治体については、未だ全く対応できない状態にあると判断せざるを得ない。その問題点がどこにあるのかを、今後なお十分に調査する必要があるように思う。また、回答のあった中で、165の自治体が当分のあいだ策定する予定はない、と回答している。これらの自治体についても、その理由を明らかにする必要がある。
 次に、策定済みと答えた自治体は19.8%、策定中、または予定と回答した自治体は33.6%で、両者を合わせても53.4%に過ぎない。
 さらに策定済みの19.8%の内容を見てみると、市が39.2%、区が85.0%、町が13.7%、村が11.4%と自治体間に大きな開きがあり、小人口の自治体ほど策定率が低くなっている。このことは、これまで都道府県単位に障害者施策が展開されてきたことから、特に町村においては、自治体としての対応がほとんどなされていなかったことを示しており、権限が移譲されても受け入れ体制がほとんどできていない現状が露呈されたものである。情報化時代といわれる今日、策定しようという意志があれば、マニュアルはいくらでもある。にもかかわらず、取り組みがなされていないということは、ニーズがないのか、行政に取り組もうという意志がないのか、いずれかである。この点は各都道府県段階の障害者団体の対応にも問題があるのではないだろうか。
 次に策定を困難にしている理由について見てみると、担当人員が不足(30.9%、666件)、専門的人材に乏しい(24.5%、528件)、財源が不足(22.1%、477件)、都道府県から明確な指針が得られない(14.5%、312件)、現状の施策で対応が可能だから(12.5パーセント、270件)などとなっており、当初心配されていた人材の確保と財源の確保の2点がネックになっているといってもいいだろう。
 これらの結果からまず言えることは、全国の障害者の期待が大きく裏切られているということである。「仏造って魂入れず」と言う諺があるが、まさにその通りで、このままでは3,255自治体すべてに障害者計画が策定されるのはいつのことか分からず、また、当然の結果として各自治体間の障害者施策に大きな格差を生ずることは、火を見るより明らかである。
 そこで、今後どう対応していくかということになるが、その第1は、障害者基本法を再度改正して計画策定を努力目標ではなく、各自治体に義務付けることである。第2は、今回の調査でも明らかになったように、小規模の自治体単独では策定が困難であることから、広域的な取り組みを具体的に進めることである。もちろんそのためのマニュアルを各都道府県で策定し、人材の確保、財源の確保など、より具体化を図る必要がある。第3は、障害者団体自体その推進役になることである。全国的に、強力な団体がある地域ほど障害者施策が充実している事実を見ても、いかに当事者団体の果たすべき役割が大きいかが分かる。これらの条件を一日も早く整備し、障害者がそれぞれの地域で安心して充実した日々が過ごせるよう、一層努力する必要がある。


アンケート調査結果をみて
-今後の計画策定と実施推進への展望-

安藤 豊喜
新・障害者の十年推進会議 企画委員
日本身体障害者団体連合会  副会長
全日本ろうあ連盟      理事長

1.調査結果の考察

 推進会議が、全国各県の社会参加推進センターと協力して、運動的に推進した今回の調査方法を評価しつつも、回答率の66.2%という数字に十分な調査体制を敷けなかった地域の事情が垣間見られる。結果の評価であるが、障害当事者の関与の高さがまず注目されよう。「地方障害者施策推進協議会または計画策定委員会に参加した」が71.4%あり、団体へのアンケート・ヒヤリング等の実施も行なわれるなど、障害者のニーズが反映された策定といえよう。また、障害者を対象とした単独の計画が圧倒的に多いことも評価できると考える。課題は、施策の数値目標を含む計画が26.5%でしかないことである。障害者計画策定は、作文的な計画でなく、年度ごとに実施を図っていくための数値目標を入れた実際的な計画であるべきである。それに障害者施策推進協議会の設置が遅れており、条例に基づかない設置が47.4%に及んでいることを懸念するのである。

2.今後の計画策定について

 今回の調査は、「市町村障害者計画の策定推進を働きかけていく運動」でもあったし、今後の策定推進を考える場合、この運動体制をさらに強固にしていくことが望まれよう。全国各地の社会参加推進センターや障害者団体との連絡を密にし、計画策定100%達成を早める必要がある。それと計画策定を困難にしている理由のトップに「担当人員の不足」があがっていることと、専門的人材の不足、財源不足が続いていることが憂慮される。また、数は少ないが、都道府県から明確な指針が得られないとの悩みも出ているので、この調査結果に都道府県行政が関心を持ち、対応へ踏み込むことが望まれよう。特に重要なことは、数値目標を入れ、または入れさせていく取組みである。数値目標設定を敬遠する最大の原因は予算を伴なう約束ごとを避けたいとの行政側の都合があることである。これは市町村段階だけでなく、都道府県レベルの計画設定にも言えるし、厚生省以外は数値目標が出ていない国の障害者プランにも言えることである。従って、国の障害者プランの見直し、都道府県計画に数値目標を入れていく運動などを視野に入れなければならないであろう。
 市町村計画策定の参考モデルは都道府県計画が圧倒的に多いし、この計画に数値目標が入っていなければ説得力を持ち得ないものになるといえよう。さらに広域圏域の計画が少ない点を注目する必要があろう。市段階はともかく、町村段階では、対象となる人口や予算、さらに必要とする専門的な職員確保などから見ても広域的な計画が出てこなければ必要とする支援事業や制度を実施できないという問題も出てこよう。障害者プランには、概ね人口5万人規模を単位として、福祉バス運行等移動時の支援施策や手話通訳の設置、点字広報の配布等が目標として示されており、町村計画はこの広域圏計画を重視していくことが望まれよう。

3.実施推進への展望

 全国的な基本計画の策定とともに、計画の確実な実施が望まれる。国は「障害者プラン」の数値目標達成を視野に入れてはいるが、地方においては、数値目標を入れた計画策定に踏み込めない市町村が多いように財政問題がネックになっているといえよう。また、2000年にスタートする「公的介護保険」と障害者福祉施策との関連も整理されていなく、介護保険の「選択契約制度」に沿って障害者福祉の根幹である「措置制度」見直しの動きも出ている。障害者がサービスを選択する条件が望ましいのは当然であるが、利用に要する経費の10%を所得に関係なく負担せねばならないし、選択可能なほどの福祉サービスが整備されていない現状では、逆に障害者がサービス側から選別されかねないとの懸念も出ている。障害者の「自立性・主体性の確立」が基本計画の大きな柱であり、そのニーズに沿った障害者のための施策実現が望まれる。


市町村障害者計画策定率33.3%の結果をふまえて
これからの地域福祉はどうなる

兒玉 明
新・障害者の十年推進会議 企画委員
日本身体障害者団体連合会  副会長

 社会福祉基礎構造改革の中間のまとめが発表され、いよいよ21世紀に向けて、国の福祉の施策が地方行政の福祉施策に大きくその権限と裁定を委譲する方向に変わりつつある。
 しかしながら現在の日本経済の低迷、日本の政治状況の不安感等々、私たち障害者を取り巻く環境は厳しく、さらに最近はその深刻さを増しているように思える。障害者の雇用の確保を叫んでも、40歳台の壮年男女がリストラの対象にされる時代に、障害者なるがゆえの甘えの雇用はどこにも存在しないのが現状である。
 これからは、医療と福祉と介護の三本の柱が社会的ハンディキャップを持った障害者には必要なのであるが、まだ、わが国の社会の中にはこの総合的環境は具現化されていない。
 世の中に高齢者と幼児がいるように、健常者と障害者が住んでいる。近年、共生の思考も一般化してきたが、まだまだなのは皆さんもご承知のとおりである。
 地域福祉の確立とか、地域福祉プランの策定など、それぞれの福祉対策協議会を創って地域の福祉全般を議論しながら、その地域の障害者の主体性、自立性、選択権などを、その地域の福祉行政サービス機関と障害者団体の当事者が早急に協議しなければならない。また、できればこの協議会のメンバーの3分の1は障害者であることが望ましい。隣の韓国の障害者の福祉法のように、法令で確定してほしいものだ。
 東京都身体障害者団体連合会では、今回のアンケート調査の一環として、東京都内の区市町村障害者計画の策定状況を、都下23区27市6町8村の首長に直接送付してお願いすると同時に、地域の身体障害者団体長を通じて担当部署にアンケート用紙を持参して、本年2月1日現在で調査した。64区市町村の中で、地域障害者計画を策定済が40、計画中10、未定14の調査結果であった。
 未定は町が4、村が8である。
 このことはその地域の人口、経済状況によると思われる。また、64区市町村の中で、22ヶ所の地域行政より「数値目標設定あり」の回答を得た。さらに地域障害者団体の行政に対して一歩前進をお願いしていきたい。
 今、当面の問題として介護保険制度の導入がある。私どもの障害者団体も、介護の問題については前にも述べたとおり、高齢者、障害者の介護は地域医療、地域福祉と密接な関係をもち、地域社会の中で暮らすうえで大事なことと考えている。
 従来からの公的福祉介護と、平成12年度より実施される介護保険制度の介護の質の矛盾がないか(すなわち整合性)、私どもの団体においても色々と議論の分かれるところである。生活困窮障害者に対する保険料の免除、軽減、在宅介護人に対して介護料の支給等、また、従来の公的福祉介護の更なる充実、夜間介護、サービスの質の向上、被介護人のヘルパーの選択権の確保等々、ヨーロッパ型の医療と福祉と介護に見るような総合的判断を求めてやまない。また、地域福祉計画の中のメニューが、数少ない難病の障害者にそれぞれに機能して、そのメニューの割り当てが必ずあるように、地域の福祉行政にお願いしていきたい。
 また、障害者自身も地域の中で明るく暮らすために感謝の気持ちを持ってほしい。先日、JRの吉祥寺駅で上りエスカレーターが中断されて駅員が乗客に頭を下げていた。まもなく車椅子に乗った若い女の子と介助の女の子が二人、エスカレーターに乗って昇ってきたが、駅員に挨拶もせずにホームの人混みに入っていった。自分のためにエスカレーターの運転を優先させてくれたことに感謝の気持ちがないのか、階段の中途から見ていた私は恥ずかしくなってしまった。このような日常的なことが、私たちの住んでいる地域を明るくしたり、暗くしたり、やさしくする原点だと思っている。
 総理府調査による市町村障害者計画の未策定率は66.7%である。もう一度、真剣に地域福祉について考えようではないか。


かくなるうえは

成瀬 正次
新・障害者の十年推進会議 企画委員
日本障害者協議会    国際委員長

1.低い回答率

 2,155市区町村。この数字が、我々「新・障害者の十年推進会議」が行なった「市町村障害者計画策定に関わる第2次市区町村長アンケート調査」に回答を送ってくれた市区町村の総数である。このうち、策定済という回答を送ってくれた市区町村がわずか427にすぎないことを勘案すれば、決して多い数字であるとは言えない。
 回答の数が少ないことは、総理府調査と比較してみると一層はっきりする。平成9年版障害者白書「市区町村における障害者施策に関する長期計画の策定状況」によると、平成9年3月末現在の策定済み市区町村数は581であった。平成10年3月末現在では策定済み市町村数は1,079である。ということは、少なくとも652市区町村が既に策定済みであるのにかかわらず、アンケートを送ってくれなかったということになる。
 そのうえ、今回の第2次アンケート調査は、全国各県に設置されている「社会参加促進センター」の協力を得て行なったものであるからこそ、もっと多くの市町村からの回答が期待されたものであった。

2.さらに低い策定率

 回答の中味を見てみよう。平成8年版障害者白書で「市区町村における障害者施策に関する長期計画の策定状況」を調べると、策定済み市区町村数は334である。平成9年度版では581。1年間に249市区町村の増加である。さらに平成10年3月末現在、策定済の数は1,079市区町村である。
 ただし、これら総理府のデータから分かるのは、策定済みか、策定中か、策定を検討中であるか、方針未定であるかの4つのカテゴリーに属する、都道府県別の市区町村数だけなのである。総理府が持っている数字と推進会議が得た数字を単純に較べてみても、市区町村数は、策定済みが1,079対427、策定中が665対725、検討中が904対791、方針未定が595対165なのである。
 計画の内容や計画策定の経緯については分からない。地方障害者施策推進協議会があったのか、計画策定委員会に障害者本人が関わったかどうかさえも不明である。

3.これからどう進めるか

 「新・障害者の十年推進会議」が行なった第1次第2次の「アンケート調査」は、方針未定市区町村を策定検討に向かわせ、あるいは策定中を策定済みに押し上げるうえで役立っているに違いない。回答数や策定率の伸びが遅いのは、「我々の出番」になったことのサインであるという気がしてならない。
 「改めていうまでもなく、障害者団体の具体的な活動が必要である・・・・」。すでに調日本障害者協議会代表が、埼玉県障害者協議会の活動を例にとって、昨年のノーマライゼイション6月号に書かれている。これからが、障害者パワーの見せどころなのであろう。
 自分が住んでいる場所の、市役所または町村役場に出かけていって、直接問い合わせることができる。できたての障害者計画そのものを入手してくることもできる。

4.千葉県八千代市の場合

 私が居住する千葉県八千代市では、本年3月「障害者計画」(平成10年度~平成16年度の7か年計画)を策定した。市役所でA4版6頁2色刷りの「八千代市障害者計画のあらまし」という小冊子を配布している。
 計画策定に当たっては、市の保健福祉部内に「八千代市障害者計画保健福祉部専門部会」を設け、庁内組織「八千代市障害者保健福祉推進連絡会議」、庁外組織「八千代市障害者計画懇談会」が策定作業を進めたとある。実際には、八千代市身体障害者福祉会が計画懇談会に出席しパイプ役を果したことになる。
 計画自体は、安心、快適、安全、思いやりの4つの基本目標をかかげ、専門部会を通じて、障害者、精神障害者、難病者へのサービスの拡充を図ることになっている。計画の成否は「今後検討していく主な事業」にかかっているわけであるが、現実は、2名の市職員手話通訳者の身分が1名だけパートに切り替えられたり、高齢者と障害者の利便を考えて走りはじめた市内循環バスの案内文の末尾に「車いすの人は付き添いと一緒に乗車してください」と印刷されたりする、といった現実の、前途多難なスタートである。
 今後は、策定済みの全国市区町村障害者計画を収集し、比較検討するとともに、各地で計画がどのように実施されていくかをじっくり見守る必要があると考えたい。


「地方の時代」にこれで良いのか?

松友 了
日本障害者協議会 理事
全日本手をつなぐ育成会 常務理事

 2次にわたる調査、特に今回は「社会参加促進センター」を中心とした、関係団体の関与によって進められたそのご努力に敬意を表したい。各県によっては取り組みに差があったようだが、関係団体が共同歩調を取ることは極めて意義のあることであり、特に地方においては力(ちから)となるものと思われる。その結果、2,155(66.2%)の回答を得たことは、民間団体の調査(それも、行政を対象とした)としては著しく高いと評価できる。
 しかし、今回も不思議に思うのは、都道府県による対応・取り組みの差である。何ゆえにこれだけの違いが出るのか。今回は、誘因や困難要因の設問があるが、実体(本音)は見出せない。同じ背景があると思われる県でも結果が異なるのはなぜか。アンケート調査とは別の調査・研究が必要と思われる。それにしても、多くの場合、横並びが多い行政で、ブロック内での共通性がないのは、市町村の場合、県内での横並びの意識が強いからであろうか。それであるとすれば、都道府県の指導責任は重いと言わざるをえない。また、4県(埼玉、福井、滋賀、沖縄)下の市町村が未回答ということは、どのような理由(事情)によるものだろうか。確か第1次調査では、滋賀県はすべての市町村で「策定済」であったと思うが、他の3県には共通点を見出せない。気にかかる点の1つである。
 さて、総理府の調査と比較すると数字が大きく異なる点があるが、「策定済」と「策定中」の和、すなわち<積極組>の合算は、総理府と『新十年』ではそれぞれ53.8%と53.1%であり差がない。それゆえ「検討中」と「方針未定」の<消極組>の合算は、それぞれ46.2%と44.4%である。一口で言えば、半数強が<積極組>、半数弱が<消極組>といえる。そして、それぞれの内部の差は、調査実施時期のズレにあると考えられる。すなわち、2ヵ月間の間に、結論・結果が出た所が多かったと思われる。
 それにしても、平成9年度末の実態がこのようでは、実に情けないと言わざるをえない。総理府は8年度中に策定を求めたが、「策定済」どころか「策定中」さえも過半数強でしかない。「検討中」は、一体何を検討しているのだろうか。計画の中味についての討論以前の問題である。「人が不足している」だの、「財源が不足している」だのと答えてあるが、もっとも不足しているのは問題意識と熱意ではないのか。これで良く行政ができるものだと、驚くよりもあきれてしまう。このような状態を、そこに住む市民は、関係団体は許して良いものだろうか。
 「人材が乏しい」と言いながら、『施策推進協議会』を設定しているのは、全体のたった6.2%である。これでは、「人材が乏しい」のは行政官レベルの話であり、大いなるリストラと職員の入れかえ、すなわち有能な人材のスカウトが、行政レベルにこそ求められている、と言えるのではないか。このようなことを「言い訳」として許される時代は終らせなければならない。これで一体、「地方の時代」といわれる21世紀に対応できるのか。権限が、既に老人や身体障害者は移り、知的障害者も時間の問題と言われている。それゆえに「無能だから」という理由は、放置できない。本当にリハビリテーション(いや、ハビリテーション)が必要なのは誰なのか、ということが如実に現われたと言えよう。
 この状況を変えるのは、当事者(障害のある本人、家族はもとより関係者もここでは含む)の働きかけしかない。改めて、『新十年』を構成する団体の役割の重大さを痛感するのである。それゆえ、真のナショナルセンターとして、総合的、横断的な障害者運動の再結集が求められる。一部だけの、一部が欠けたナショナルセンターはありえない。私たち全日本育成会は、この間の運動の流れについて、このように考えるのであり、各位、各団体のご賛同を求めたい。


障害者計画策定に関わる第2次市町村長アンケート調査
調査結果をみて

荒井 元傅
新・障害者の十年推進会議 企画委員
日本障害者協議会 企画委員長
全国精神障害者家族会連合会 常務理事・事務局長

 精神障害者福祉にとって、平成5年の障害者基本法の大改正は、極めて大きな意義を持つものである。それまで同法では障害者の範疇には明示されていなかったものが、第2条の概念規定に身体・知的・精神障害者が同等に並んだのである。さらに第3条の基本理念において、全ての障害者が平等に個人の尊厳と社会参加の機会が与えられることを権利としている。
 この理念をさらに具現化するために、精神保健法が平成7年に「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)」に名称変更にされ、福祉が法の中に組み入れられ、その具体的なものとして精神障害者保健福祉手帳が創設された。
 精神障害者対策は都道府県の責務であり保健所が業務を担当している。平成5年改正で大都市特例の市は都道府県並にあつかわれ、市町村は精神保健に関する調査研究・知識の普及・発生の予防等の業務を行わなければならないとされた。身体障害者はすでに市町村が援護の実施主体になっており、知的障害も施設の設立運営等市町村が主体的に関わらなければならないことになっている。しかし、社会復帰施設の建設運営等精神障害者対策の具体策は市町村施策が関与しなくてもよい。市町村の精神障害者に対する認識はかなり低い現実である。このような状況を踏まえ本調査結果を読む必要がある。
 「市町村の障害者計画の策定状況」は19.8%で極めて低い。しかし強制力や具体的予算の裏付けが弱い状況では、低いのは致し方がない感がする。策定を検討中や予定もないが44.4%にもなる。市町村障害者計画策定のパーセンテージを高めるには、努力規定から義務規定に、予算の対応、さらに人口の少ない町村は圏域で連携して策定する等のきめ細かい方策が必要だろう。
 「計画の内容」で精神障害者対策が組み込まれているのは76.6%で比較的高いのに注目されるが、そもそもこの項目であえて聞かなければならない状況が問題だが、上記のごとく市町村の責務が暖味であるゆえ、計画に精神障害者の記述があったとしても抽象的であり、具体策が少ない。記述の数字が高いことがすなわち地域で生活する木目の細やかな対策が図られていることとは言えない。対策の遅れを痛感する次第である。
 「地方障害者施策推進協議会」の設置比率、当事者の参加数、開催頻度、全て低調である。行政担当者はユーザーや市民の実態把握や要望を汲むことより、中央集権的により上位の行政機関をモデルにして作成している所が多いのではなかろうか。市町村からすれば都道府県・国の方針から強く影響を受けることは、「実施にあたって参考にしたもの」でも明確である。推進協議会を作らせそれぞれの当事者を入れること等、国や都道府県が詳しいガイドラインを作り熱心な指導をすることが必須の条件である。
 障害者基本法から5年、社会福祉事業法、障害者三法等改正で知的障害対策の市町村移管や精神障害者対策の市町村の役割の強化等制度が激変する。都道府県計画も含め、市町村計画で初期の段階で設置したものは修正強化する必要がある。
 障害者やそれを支える専門家や市民が強く運動し、全市町村に策定させること、改定をさせることが焦眉の急務である。厳しい状況の中で生活している障害者や家族は明日を待てない。現在改正の作業中の社会福祉事業法に市町村の福祉計画作成に強制力をもって規定する案が持ち上がっているという。これにも期待したい。


障害者計画策定に関わる
第2次市区町村長アンケートを読んで

齋藤 貞夫
新・障害者の十年推進会議 企画委員
全国社会福祉協議会  障害福祉部長

1.策定推進の要因は

 今回の新十年調査の結果と総理府の実施した「障害者施策に関する計画の策定等の状況」とは、前者が平成10年2月1日、後者が同年3月31日現在というように実施時期が近いにもかかわらず、市町村障害者計画の策定割合に前者19.8%、後者33.3%と大幅な違いがあるが、いずれにしても策定率の低さはまぎれもない事実である。
 調査結果では「計画策定を困難にしている条件・背景」について、「担当職員が不足」、「専門的人材に乏しい」、「財源が不足」などを要因としてあげている。多分にこれらの要因に加えて、巷間いわれていることは「計画が努力義務であること」や「介護保険の準備で多忙であること」、「市区町村が身体障害者を除いて知的障害者や精神障害者の福祉サービスの実施主体になっていないこと」など多様な事由があげられるものと思われる。しかしながら、都道府県別に分析するならば、町村が相対的に多い山梨県や山口県、鹿児島県の策定率が高いことに注目する必要があろう。これらの県の町村で必ずしも専門的な担当職員が配置され、財源が豊富にあるとは思えない。その策定推進の要因を正確に分析し、その教訓を明らかにすることが望まれる。

2.参加の原則の確認

 障害者計画づくりには当事者参加が欠かせない要素であり、今回の調査では計画策定済の市町村のうち、障害者当事者あるいは団体が「関与しなかった」という回答が少数とはいえみられたことは、残念に思える。計画はニーズに基づいて必要な施策を数値目標を入れ年次に落とし込むものと解するならば、当事者の参加やアンケートに基づく実態把握、さらに量とあわせて個別的に質を推し量るための事例調査やヒアリングが不可欠である。調査結果からみれば、この数値は「アンケート実施」60.7%、「ヒアリング」34.9%というように、まだまだ低いといわざるをえない。当事者参加を実質とのように図るかが課題として浮き彫りにされたといえよう。

3.社会福祉基礎構造改革と障害者計画

 社会福祉や障害者福祉をめぐっては、21世紀を目前にして大きく変わろうとしている。特に、障害者計画との関連でいえば、社会福祉基礎構造改革において地域福祉計画を各市区町村に義務づけの方向で検討しているといわれているが、社会福祉事業における福祉計画策定は、社会福祉事業法第3条の「基本理念」に「国、地方公共団体、社会福祉法人、その他社会福祉事業を経営する者は・・・地域において必要な福祉サービスを総合的に提供されるように、社会福祉事業その他の社会福祉を目的とする社会福祉事業の広範かつ計画的な実施に努めなければならない」という規定にあるように、まさに福祉計画は福祉サービス提供の根幹にかかわる事業と位置づけられよう。
 現在、市区町村においては、地方自治法の規定による基本構想、長期計画、実施計画と法定化されている老人保健福祉計画や介護保険法にいう介護保険事業計画、努力義務としての障害者計画、自主的に策定されるとしている児童育成計画などの計画が策定されている。社会福祉の流れに添っていうならば、これらの計画はいずれも地域を基盤にしたサービスや諸活動を内容としているものであり、今後それらを包含した地域福祉計画が各市町村に根づくとするならば、大きな意味合いをもつものと考えられる。また、本格的に地域福祉計画づくりがすすむならば、各市町村の一定の財源のなかで、高齢者問題、障害者問題、児童問題などの福祉施策の優先順位を決めることになり、とかく対象別の計画ではなしえなかった総合調整機能や合意形成機能が働くことになろう。地域福祉計画策定が本格化するならば、障害者分野の計画づくりも新たな段階を迎えることになろう。


第2次市区町村長アンケート調査結果をみて

丸山 一郎
新・障害者の十年推進会議 企画委員
日本障害者リハビリテーション協会 国際部参与

 計画の策定状況に関しては、総理府の調査も行われている。全市区町村が回答した総理府調査の結果の数字の方がより正確な面があることは否めない。
 しかし、障害に関して当事者である「新十年」の調査の特徴は、計画策定推進と、計画の中身や策定過程に関しての運動的側面にある。
 すなわち、各首長に直接陳情して策定を迫ったり、中身の充実や実行の具体性や実施後の監視などを迫った、行動を伴う調査であった点である。この特徴について、当事者と関係団体の今後の関わり方に影響すべき、以下3点をコメントしたい。

1.全ての障害をもつ人々を対象としていることの確認

 市町村の計画の対象として取り組みが遅れるのではないかと懸念された精神障害者については、取り組んだものが76.6%(件数では327件)であった(総理府調査では74.1%)。今後計画を策定する市町村では、精神障害のある人々がより計画の対象として含まれてゆくものと期待される。
 また、難病をもつ人々など、障害認定されていない人々の施策を含むと答えたのは28.6%(122件)となっており、国の障害者プランの趣旨の一層の徹底と、団体の働きかけが必要である。

2.見直しの確認と時期

 計画策定済みの市町村のうち、計画の見直しを明確にしているのは、60.2%(257件)である。計画が一過性のものではなく、継統的に検討見直しがされるかを確認したものであるが、半数以上がフォローアップの機会を明らかにしている。

3.当事者および障害団体との関わリ

 計画の策定にあたって、障害当事者あるいは団体がどのように関与したかについては、
1)「施策推進協議会または計画策定委員会に参加した」が、71.4%(305件)
2)「アンケートを実施した」が60.7%(259件)
3)「ヒアリングを実施した」が34.9%(149件)
の状況であった。
 ただし、問題となるのは、全く関与が無かったと回答した市町村が4.5%(19件)あったことである。
 また、計画策定を推進した誘因に関する回答の中では、「障害当事者や団体の運動」を挙げたのは10.3%(44件)に過ぎず、一方で「行政が主体的に進めた」としたものが89.2%(381件)もあることである。
 以上の結果から、この調査が障害者団体の運動としての成果を示している面も確かではあるが、一方で、その弱さをも明らかにしていると言える。
 市町村障害者計画がもつ意義と障害者政策に与えるインパクト、そして改革の可能性について、当事者はより学習する必要があろう。
 先駆的な地域では、障害者計画が住民全体に及ぼす恩恵を強調している所もある。このようなレベルに比べて、この調査では、大きな市町村格差、そして障害当事者運動の格差の大きさをも明らかにしているのである。


主題: 障害者計画策定に関わる第2次市区町村長アンケート調査報告書

発行者:新・障害者の十年推進会議

文献:3頁~24頁