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住み慣れた街の声-障害者問題における地域福祉の在り方調査・研究

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第6章 社会参加

 4年前の阪神・淡路大震災では、防災への意識が高まっただけでなく、ボランティア活動や近隣のつながりの問題が浮き彫りになり、地域社会での日々の交流の大切さが改めて認識されました。障団連が被災地から障害者を招いて開催したシンポジウムでも、被災した当事者は、“あの家には障害者が住んでいる”と自分の存在を近隣に強くアピールしておくこと、同じ地域で活動する仲間や支援者の共同体が大きな力となり、助け合いの柱となること、やはり「地域のネットワーク」が重要であると声高に訴えていました。
 しかし、障害者はそのハンディ故にこのネットワークが希薄になりがちです。一般的にも、アパートの隣に住んでいる人の顔を知らなかったり、仕事が忙しくて近所付き合いは奥さん任せというような話をよく耳にしますが、特に重度障害者は就労が困難なだけでなく、買物や銀行の利用等日常的な行為も家族が代行しがちなために社会生活の範囲は極端に狭くなり、多様な情報から遮断されてしまいます。こうした現状があるからこそ、前述の被災者の報告はより深刻な問題として当事者に、そして、家族に投げ掛けられました。障害者が地域で孤立せず、必要な情報を敏感に入手して生活していくために、障害者団体は大きな役割を果たしています。同じ障害を持つ仲間から受ける刺激が自分自身の生活の質を問い直す機会となるだけでなく、連帯のエネルギーは社会活動へと発展し、極めて有効なネットワークとなりうるのです。私たち障団連は障害の違いをこえて17団体が加盟し、行政と連携をとりながら自立支援の事業を行なっていますが、区内の大多数の障害者は未組織です。最も身近にいる家族には障害者を家に閉じ込めない社会参加を促すような関わりが望まれ、孤立しがちな未組織の障害者を視野にいれた地域のネットワークの拡充は、私たちが担う重点課題のひとつであるといえるでしょう。§区報がトップ。内容の充実を!

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情報の入手先

 障害者が社会参加していくためにも、的確な情報にアクセスしやすい環境は欠かせません。情報の入手先として多く挙げられていたのは、「区報」が189人(14%)と一番多く、次いで「知人・友人」(153人、11%)、「福祉団体」(146人、10%)でした。身近な情報源が、多く利用されていることがよくわかります。
 また、コミュニケーション手段にハンデを持つ障害者にとっては、障害に応じた情報源が必要となります。アンケートの回答にも、点字図書やパソコンといった情報源を挙げている人が少なからず見られます。このことは、情報の質とともに、情報への多様なアクセスルートを確保していくことが求められていることを示していると言えるでしょう。

団体加盟とイベント参加状況

 このアンケート調査では、障害者団体に加入している方が全体の80%近くもいましたが、現実には加盟されていない方が大多数といえます(例えば、平成2年度新宿区障害者実態・意向調査によれば、新宿区内の障害者の約70%近くの人が団体に加入していないそうです)。 障害者団体への加盟は、社会参加への最初のステップとしての意味合いも持ちます。にも関わらず、多くの障害者が障害者団体に加入しないのはなぜでしょうか。団体へ加入しない理由として多く挙げられていたのは、「団体を知らない」、「活動内容がわからない」という項目でした。どうやら、障害者団体に関する情報に接する機会が少ないことが影響しているようです。こうした点からも、障害者にとって情報へのアクセスが重要であることが理解できると思います。

災害に対する不安

 災害時の不安について回答を求めたところ、全体の約90%の人がなんらかの回答を寄せていました。やはり、災害に対する関心は高いようです。具体的な内容としては、「避難先までたどりつけるか不安」という項目が一番多く、ついで「自分一人ではどうしたらよいかわからない」という項目が多く挙げられていました。
 地震など災害が起こったときには、地域の人たちの助け合いが大切になります。移動などにハンデを抱える障害者であれば、なおのことです。日常生活での何気ないふれあいが重要なのです。その意味でも、障害者が社会参加していくことの意義は大きいと言えるでしょう。

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第1表 情報の入手先(団体所属状況別)
総数:1331人 複数回答:いくつでも 
情報の入手先 人数
区報 189人
知人・友人 153人
福祉団体 146人
福祉の手引き 118人
家族 92人
新聞 90人
福祉団体の機関誌 81人
テレビ 72人
窓口 53人
福祉団体の出版物 53人
社会福祉協議会 50人
医療機関・保健所等 43人
行政の出版物 41人
けやき 32人
ラジオ 29人
福祉雑誌 25人
録音テープ図書・雑誌 25人
民間団体の福祉のパンフレット 19人
点字図書・雑誌 13人
パソコン 6人
電話による朗読サービス 1人

 第1表は福祉的情報の主な入手先3つを挙げてもらった結果です。189人が情報の入手先として「区報」を挙げており、多くの人が「区報」より情報を得ているのが分かりました。ついで、「知人・友人」が153人と、身近な人とのつながりが情報入手に大きく影響していることも現れています。
 少数派の回答ではありますが、「録音テープ図書・雑誌」や「点字図書・雑誌」という、特定の障害に対応する情報メディアも利用の多いことが伺えます。
 また、今回のアンケートは、障害者団体を通じて実施された調査のためとも言えますが、「福祉団体」と回答した人が146人と多い結果となっています。
 「福祉団体」からの情報もまた、障害当事者にとって、身近で役に立つ情報源のひとつとして認識が高い様子が見られました。
 障害者には社会生活のなかで、健常者が意識しないようなことでも様々な障壁が存在します。なかでも情報へのアクセスの難しさは大きな問題で、必要な情報が得られないために社会参加の機会を逸したり、必要な制度を受けられていない、などということは日常的に存在しています。
 障害者団体に所属するなど、様々な人や社会資源とのつながりを多く持つことで、より身近な情報ネットワークが確立されるでしょう。

興味のもてる障害者団体に

 第2表は団体の所属についてを質問し、「所属していない」と回答した人に理由を尋ねた結果です。加入率の高さは、今回のアンケート調査が障害者団体を中心に実施したこともあり、全回答者の77%が「所属している」という結果になっています。
 さらに「所属していない」と回答した人に、団体に所属しない理由について尋ねました。「必要性を感じない」26人、「団体自体を知らない」20人という結果となっています。
 障害者団体に所属することは外部とのネットワークを作り、活動を通して生きがいや情報も得られるなどのメリットが考えられます。障害者団体に所属しない人に対して、障害者団体は魅力ある活動をすることや、広報活動を積極的に行なうことを通して、地域で障害者が孤立しないよう、常に働きかけていく必要性が求められているといえるでしょう。

第2表 団体への所属
総数:373人 複数回答:いくつでも
人数
所属している 286人(77%)
所属していない 57人(15%)
無回答 30人(8%)


所属していない理由 人数
必要性を感じない 26人
団体自体を知らない 20人
活動内容が分からない 15人
連絡方法を知らない 12人
障害が重いため参加できない 6人
送迎体制がない 2人
活動に魅力を感じない 1人

楽しい笑い声がいっぱい

 第3表はイベントの参加の有無を質問し、「参加していない」と回答した人にその理由を尋ねたものです。イベントに「参加している」と回答した人が141人、「時々参加している」と回答した人が114人と、全体の72%の人がなんらかのイベントに参加している様子が伺えました。
 また、「参加していない」と回答した人も99人おり、決して少ないとは言えません。「参加していない」と回答した人の理由を見てみると、「情報が入ってこない」では35人も挙げていました。これは企画する側の情報伝達という点において、行き届いていないことが伺えます。次いで多かったのが「必要性を様々な情報が必要性を感じない」の31人でした。
 イベント等に参加するなかで、様々な人との関わりを持つことができ、新たなつながりを生むことも多くあります。家にこもらず、積極的にこうした機会に参加することは、ある意味で小さな社会参加の一形態だと言えます。
 「障害の枠を越えて、障団連、障害者同士の交わりをして欲しい」(44歳・男)という声がありました。障害者が地域で孤立しないためには、こうしたイベントなどにも積極的に参加していくことも極めて重要なのです。

第3表 イベント参加状況
総数:354人
人数
参加している 141人(40%)
時々参加している 114人(32%)
参加していない 99人(22%)


参加していない理由 人数
情報が入ってこない 35人(31%)
必要性を感じない 31人(27%)
障害が重いため参加できない 18人(16%)
行事に魅力を感じない 16人(14%)
行事内容が分からない 14人(12%)

様々な情報が必要

第4表 情報入手先(団体に所属していない人)
べスト5
総数:85
年齢 人数
区報 21人(24%)
知人・友人 17人(20%)
福祉の手引き 15人(18%)
役所の窓口 16人(19%)
家族 16人(19%)


第5表 (団体所属の必要性を感じない人)
べスト5
総数:36
年齢 人数
知人・通人 9人(26%)
家族 8人(22%)
福祉団体 7人(19%)
区報 7人(19%)
役所の窓口 5人(19%)


第6表 情報入手先(イベント情報が入らない人)
べスト5
総数:55
年齢 人数
知人・友人 13人(24%)
区報 12人(22%)
福祉の手引き 12人(22%)
家族 9人(16%)
役所の窓口 9人(16%)

 第4表は、団体に所属していないと回答した57人の情報の入手先ベスト5を表しています。情報の入所先としては「区報」、「福祉の手引き」、「行政の窓口」が挙げられており行政の情報に頼っているのが伺えます。
 第5表は、必要性を感じないと回答した人の情報の入手先ベスト5を表しています。情報の入手先としては「友人・知人」「家族」から情報を得ているのが分かりました。これに次いで「福祉団体」から情報を得ているのが見られますが、団体の所属についての必要性を感じないと回答していても、福祉団体からの情報は必要だと感じているのが伺えました。
 第6表は、第3表のイベントの情報が入らないと回答した人の情報の入手先ベスト5を表しています。「知人・友人」「区報」「福祉の手引き」が上位を占めていました。やはり、行政からの情報に頼っているのが伺えました。 

情報メディアの整備

第7図一般メディアの利用状況(障害別) 第7図は、新聞、テレビ、ラジオ、パソコンといった福祉の限定的な情報を発信するのではない、誰もがよく利用する一般的な情報発信媒体について、回答を障害別にまとめたものです。
 やはり、新聞、テレビは情報の発信源として多く利用されていることがわかります。見て情報を得るメディアのため、視覚障害児・者の利用は少ないことが明らかになっています。それとは逆に、ラジオからの情報について視覚障害児・者の人が頼りにしていることも現れています。
 知的障害児・者の人はラジオよりも、新聞、テレビといった見るメディアからの情報を頼りにしていることがわかりました。聞くだけではイメージしにくいという障害の特性が現われているのではないでしょうか。
 障害ごとにそれぞれの特徴があり、その特徴に合わせた情報メディアが選択されている様子が見られます。例えば聴覚障害児・者は、テレビについて比較的利用が多いことを考えると、字幕放送などの様々な工夫や拡充がなされることで、情報をさらに獲得できる手段が増えることにつながります。

避難場所までたどりつけるかな?

第8表 災害時の不安
総数:677 人複数回答:3つ 
人数
避難先までたどりつけるか不安 187人(28%)
自分一人ではどうしてよいかわからない 125人(18%)
備えが無い 74人(11%)
助けてくれる人がいない 58人(9%)
助けを求める手段がない 57人(8%)
特に不安は感じない 50人(7%)
避難先の設備面の不安 47人(7%)
避難先がわからない 45人(7%)
情報を得る方法が分からない 34人(5%)

 災害に対する不安を尋ねたところ、総人数373人に対して339人(90%)が何らかの回答を寄せており、災害に対する関心の高さが伺えました。こうした関心の高さは阪神・淡路大震災がひとつのきっかけになっているのでしょう。
 第8表は災害時の不安についてまとめたものです。災害時の不安では「避難先までたどりつけるか不安」と回答した人が187人、「自分一人ではどうして良いか分からない」と回答した人が125人、と多くの人が不安を抱えているのが分かりました。
 また、「災害の避難場所を通いなれた近くの学校とかにして頂けたら知人も多いし暗くても何とかたどり着けると思います」(42歳・男)というような要望や今後の課題について、多くの声も寄せられていました。
 障害者団体に所属したり、イベント・行事への積極的な参加や、近隣との付き合いなど、多くの人とのつながりを持ち、孤立しないようなネットワーク作りを日常的に心がけることは、こうした緊急時にも強い味方になるはずです。

シンポジウム 障害者と防災 報告書より

-阪神・淡路大震災から学ぶ-

避難者数 316,678人(ピーク時)
避難所数 1,153箇所(ピーク時)
倒壊家屋 192,706棟・406,337世帯(兵庫県のみ)
焼失家屋 7,456棟9,322世帯(兵庫県のみ)
仮設住宅戸数 41,148戸(8年7月25日)
74,000人(推定)

地域とのネットワークを

 健常者であっても災害ということを考えると不安は大きいものですが、障害を抱えている人にとっては、健常者以上の不安があるでしょう。第9表では災害の不安状況を障害別に表わしています。
 「避難先までたどりけるか不安」と回答しているのが障害別に見ても多いことが分かります。阪神・淡路大震災では、震災前から街づくりの在り方について問題視されており、震災時に障害者の避難は困難を極めたという報告がなされていました。こうした移動についての不安への回答の集中は、現行の街づくりについての警鐘と言えます。「肢体不自由」「視覚障害」の回答が多かったことからも移動の面での不安が強いことが伺えます。
 次に多かった「自分一人でどうしてよいか分からない」と回答した人は、「知的障害」に多くみられました。対人関係を築きにくい知的障害者にとっては、大きな問題と捉えることが出来ます。
 また、44人が選んでいた「情報を得る方法が分からない」では、「聴覚障害」が10人、「視覚障害」も6人と情報収集で不安を抱いているのが分かりました。これは視覚障害者や聴覚障害者がもつコミュニケーション面でのハンデから来る不安といえるでしょう。「災害時対応のため手話通訳者を増やしたい」(44歳・男)という声もあり、災害時のコミュニケーション不安を補う方法の検討も今後の課題です。

第9表 災害時の不安(障害別)
総数:816 複数回答:3つ
障害別 避難先までたどり着けるか不安 自分一人ではどうしてよいかわからない 備えがない 助けにきてくれる人がいない 助けを求める手段がない 特に不安は感じない 避難先の設備面の不安 避難先がわからない 情報を得る方法がわからない
肢体不自由    105人 60人 37人 39人 35人 24人 23人 14人 16人
知的障害 40人 36人 13人 10人 10人 14人 11人 13人 7人
視覚障害 31人 21人 12人 6人 7人 5人 10人 8人 6人
精神障害 18人 14人 15人 9人 7人 13人 10人 14人 3人
内部障害 13人 12人 11人 5人 4人 3人 3人 3人 2人
聴覚障害 10人 7人 6人 2人 5人 1人 1人 2人 10人

社会参加 街を切り拓く 課題と展望

 一般就労をしている比較的軽度の障害者の人が「障害者団体へ所属する必要はない」とか、「行事等に参加する機会がない」、「相談する人がいない」というように、障害者同士のつながりが少ない傾向が比較的多く見られました。これは、自分の障害に対しての認知力が充分ではないことが考えられます。現在障害が軽度であっても、これから障害は更に重度化していくことが考えられます。障害が重度化した時、障害者同士のつながりもなく、地域で孤立してしまう人が意外に多いのではないでしょうか。平成2年の新宿区障害者実態・意向調査によれば、7割以上の人が障害者団体に所属していないというデータが報告されています。普段の生活のなかで身近な人や、同じ障害を持つ仲間とふれあっていくという姿勢は必要です。
 情報の入手先として新宿区広報が幅広い層で支持を受けており、地域での障害者のネットワーク作りに大いに貢献できるほどの情報発信力を有しているということがいえるでしょう。催し物等への参加さえ薄い孤立しがちな障害者に、行政は単に制度の窓口で終わらないよう、団体紹介、行事・イベント情報等、ビデオを制作・放映するなどして、地域で孤立する障害者への情報提供者としての役割をさらに多面的に拡充する必要があります。
 新宿区社会福祉協議会の果たす役割も大きいものがあります。特に、社会福祉協議会内のボランティアセンターは、在宅障害者の地域の社会参加について、ボランティアの支援(車イス押し、ガイドヘルパーなど)を満たす体制を整備していく必要があります。いつでもニーズに応えられるよう、更なるボランティアの確保や啓発が重要です。
 また、相互に助け合える関係作りのために、障害者団体からのアプローチも必要不可欠です。区内には障害者団体が数多く存在しますが、団体の情報提供の仕方が不充分な様子も見受けられました。新宿に7割の未組織の障害者がいることを重く受け止め、これまで進めてきた団体の活動の在り方や広報活動について見直しを行ない、積極的に障害者に働きかけていく必要があります。そのためにも未組織の障害者のニ一ズを積極的につかみ、実りある豊かなプログラムを盛り込んで活動していく必要があります。

第7章 権利擁護

 近年、障害者の権利擁護に関して施策化が検討されるようになり、様々な活動が広がってきました。第三者機関が市民から苦情を聞き、行政に改善を勧告するオンブズマン(代理人、弁護人)制度を先駆的に行なっている自治体が誕生したり、知的障害者等判断に援助が必要な人に対してあらかじめ援助者を定め、本人の意志決定が尊重されるよう支援する成年後見制度も整備が進んでいます。
 しかし一方で、知的障害者が雇用主から虐待を受けていたという事実や、精神病院や入所施設での人権侵害も表面化してきました。東京都権利擁護センター“すてっぷ”では財産管理に関する相談が最も多いと報告されています。また、障害当事者団体が開設した権利擁護センターでは、「制度が活用できず困っている」「職場での処遇に悩んでいる」といった当事者からの訴えが多く寄せられているそうです。このように、生活の場や労働の場で日常的に権利侵害は生じており、さらに、家族、友人、福祉関係者といった当事者を支援する立場の人々が、無意識のうちに権利侵害を行ないがちなのです。また、自ら相談に駆け込むほどに問題を意識していない障害者も少なくありません。
 こうした状況を踏まえると、障害者の権利擁護は、障害当事者を中心とした組織が関係機関と連携をとって行なうのが望まれます。また、意思能力が十分でなく不当な扱いを訴えるのが困難な重度障害の人には、周囲の支援者の関わりとネットワークの体制が重要になります。そして、「本人の自己決定や自己選択を前提に、主体性を最大限に生かし、足りない部分を援助する」という権利擁護の視点を生かしていくためにも、同じ障害を持つ仲間として問題を解決していく、ピアカウンセラーの存在が欠かせないといえるのではないでしょうか。§地域の理解がカギ

§私の障害を理解して下さい!

§身近な行政になってほしい

§相談相手は家族と友達

§様々な立場からの支援

§自分で管理したいな

§街を切り拓く

Point

周りの人々の無理解や偏見

  「補装具や手当の給付、住宅改造、介護派遣等の制度利用に際し制度の使いにくさや行政担当者の無理解を感じたことがありますか」という質問では「ない」が78人(30%)、「ほとんどない」が68人(27%)と多く、「よくある」と答えた人は35人(14%)でした。次の質問、「職場や外出先、近所付き合い等で不当な扱いを受けたり、障害に対する無理解や偏見を感じたことがありますか」でも、ほぼ同様の結果が得られ、障害者に対する理解が深まり、無理解や偏見に悩む人も少なくなったと思われます。しかし、「よくある、時々ある」と回答した人はどのような人なのか集計を進めたところ、前者の質問では、行政と接する機会の多い身障手帳1、2級の人はそれ以外の人と比べて「ある」と回答した人が多く、後者では、一般就労している人、福祉的就労の人、どこにも通っていない人等、日中の通い先で意識に違いがみられました。

身近にいる相談相手

 偏見を感じることが「よくある、時々ある」と回答した人には、さらに誰に相談するか尋ねてみました。結果はごく身近な相手に集中し、家族70人(33%)、友人・知人60人(27%)が多く挙げられていました。一方で、相談相手はいないという人も、10%近くいました。
 身近すぎてなかなか当事者のことを冷静にとらえにくい家族や友人が相談相手であったり、問題が起きても適当な相談相手がいないという状況が、ここから浮かび上がってきます。しかしこうした状況では、例えば不当な扱いを受けてもそれが問題だと認識されず、場合によっては我慢を強いられ、うやむやに見過ごされてしまう恐れがあります。また誰かに相談しても、的確な判断で解決されるかどうかの保障はない、といわざるをえないでしょう。

注目されるピアカウンセラーの存在

 以上のような点からも、問題の当事者からは一歩下がったところから考えられる、第三者の相談機関の役割の重要性を指摘することができると思います。こうした機関に関わってほしい人を尋ねたところ、最も多かったのは施設の職員、ホームヘルパー等福祉関係者で122人(21%)でした。肢体不自由、視力、聴力、精神等どの障害からも平均的に支持を受けたのはピアカウンセラー(障害当事者)で、知的障害者は家族を望む声が目立ちました。また、医療関係者や行政担当者を希望する人も多く、バランスの取れた相談業務の体制づくりが今後の課題であるといえるでしょう。

地域の理解がカギ

第1表 行政担当者の無理解
総数:255人
人数
よくある 35人(14%)
ときどきある 74人(29%)
ほとんどない 68人(27%)
ない 78人(30%)


第2表 周りからの偏見や無理解
総数:307人
人数
よくある 28人(9%)
ときどきある 111人(36%)
ほとんどない 92人(30%)
ない 76人(25%)

 第1表と第2表で、制度の使いにくさや行政担当者の無理解を感じたことがあるか、地域の人々との関わりの中で障害に対する無理解・偏見を感じた事があるかという2つの質問に対する回答結果です。
 行政に対しては「ない」が30%、「ほとんどない」が26%と多く、職場や外出先、近所付き合いでも同様に半数よりやや多い人が「ない」「ほとんどない」と回答しています。一昔前には国際障害者年がPRされ、TVでも盛んにコマーシャルが流れていましたが、最近では長野オリンピックとともにパラリンピックが脚光をあび、障害者がマスコミに登場するのは珍しいことではありません。このような背景もあり障害者に対する理解も深まり、一般的にもノーマライゼーションが浸透してきたといえるのではないでしょうか。
 しかし、一方では障害者の権利擁護*1が盛んに論じられています。権利を護る、主体性を尊重し、自己決定を支援する、そうしたアドヴォカシーの視点から「よくある」「時々ある」と感じている人はどのような人なのか問題を掘り下げ、相談業務と最重度の障害者への支援の在り方について、この章では考察していきます。1:権利擁護
 本人の自己決定や自己選択を前提に、主体性を最大に生かし、足りない部分を援助すること。(アドヴォカシー) 

私の障害を理解して下さい!

第3表 行政担当者の無理解(障害別)
総数:290人
障害別 よくある 時々ある ほとんどない ない
肢体不自由    17人 46人 36人 46人
視覚障害 4人 11人 10人 11人
聴覚障害 6人 1人 4人 1人
内部障害 2人 4人 4人 3人
知的障害 7人 18人 18人 12人
精神障害 2人 2人 11人 14人


第4表 周りからの偏見や無理解(障害別)
総数:343人
障害別 よくある 時々ある ほとんどない ない
肢体不自由    9人 46人 49人 48人
視覚障害 3人 14人 13人 10人
聴覚障害 4人 8人 2人 1人
内部障害 1人 8人 3人 4人
知的障害 8人 36人 23人 6人
精神障害 6人 13人 13人 15人

 第1表と第2表の回答を障害別に表したものが第3表、第4表です。肢体不自由、視覚障害、内部障害、知的障害はほぼ似たような傾向になっていますが、これらの障害と違うのは聴覚障害と精神障害の回答です。
 聴覚障害では行政に対して「よくある」という回答が51%をしめ、地域の人々に対する意識と比較しても目立って多くなっています。公的機関の窓口に手話のできる職員が充分に配置されていないことが影響しているのかもしれません。逆に精神障害は「よくある」「時々ある」と感じている人が少なく、地域の人々ではそれが5倍近くに増えるという結果になりました。これは、行政担当者との接点が薄いだけに無理解が少ないという回答が多かったと考えられ、一般的にはまだまだ無理解や偏見は根強いと言えるでしょう。
 また、内部障害と知的障害も「時々ある」は地域の人々の方が行政より多くなっており、地域での日常生活の中で悩みを抱えることも少なくないのではないでしょうか。特に知的障害者は、「知的障害の場合本人の表現力が乏しく、保護者も健常者の抗弁としてなかなか受け入れてもらえないのが現状です。行政的にも一般的にも知的障害者に対する配慮がほしい。」(男)等知的障害への理解を訴える声が目立ちました。

身近な行政になってほしい

 職場や外出先、近所付き合いを例にあげた地域の人々に関する質問は307人が回答しているのに対し、行政に関する質問の方は無回答が多く、回答者は255人でした。人によって「行政」は「あまりよくわからない、なんともいえない」と感じる場かもしれません。そこで、利用できる制度が多く、区役所に出向く頻度も高いと思われる重度障害者とそれ以外の人で違いをみたグラフが第5表です。手帳の等級によって受けられるサービスには差がでてきますが、身障手帳1級、愛の手帳1度、2度の人では補装具や日常生活用具、様々な手当の支給の対象になります。こうした重度障害者は「よくある」「時々ある」と感じる人が55%と多くなっています。障害の軽い人は「ほとんどない」「ない」があわせて55%をしめ、肯定的な回答数と否定的な回答数は両者でちょうど逆転しています。一方で、地域の人々に対する意識では、これほど大きな差は見られません。重度障害者にとっては行政との接点が多いにもかかわらずまだまだ身近な存在にはなっていないようです。「区の福祉職員はもう少し誠意を持って障害者に接してほしい。」(精神障害・47歳・男)という声もあり、公的機関の職員として理解ある対応が強く望まれています。

第5表 障害の重さと行政担当者の無理解(障害別)
総数:255人
障害の重さ ある 時々ある ほとんどない ない
1級,1・2度以外   22人(14%) 33人(21%) 50人(32%) 52人(33%)
1級,1・2度 13人(13%) 41人(42%) 18人(18%) 26人(27%)


第6表 周りの人の偏見(昼間の通い先別)
総数:300人
通い先 ある 時々ある ほとんどない ない
特に通ってない 2人(4%) 13人(28%) 17人(36%) 15人(32%)
福祉的就労 14人(14%) 33人(33%) 32人(32%) 26人(21%)
通所、通学等 8人(8%) 36人(37%) 27人(28%) 26人(27%)
一般就労 4人(8%) 26人(51%) 13人(25%) 8人(16%)


第7表 周りからの偏見とイベントへの参加状況
参加している
割合
よくある 12%
時々ある 43%
ほとんどない 30%
ない 15%


第7表 周りからの偏見とイベントへの参加状況
時々参加している
割合
よくある 11%
時々ある 32%
ほとんどない 32%
ない 25%


第7表 周りからの偏見とイベントへの参加状況
参加していない
割合
よくある 3%
時々ある 34%
ほとんどない 27%
ない 36%

 第6表は昼間の通い先別に分けて偏見の有無をみました。日常的に健常者と接する機会の最も多い層の一般就労では「よくある」「時々ある」があわせて59%をしめています。通所訓練・通学等、福祉的就労では半数弱が「よくある」「時々ある」と回答しており、 “福祉の現場”にいる場合は一般就労よりもポイントが下がっています。そして更に少なくなるのが「特に通ってはいない」という層で、「よくある」「時々ある」は少なく32%です。「特に通ってはいない」と回答した人は肢体不自由者と視覚障害者が多く外見的に理解されやすい障害である事、また、65才以上の人が多いため周囲の人も高齢に対する配慮があるという事も影響していると思われます。
 通所訓練・通学・福祉的就労の層よりも比較的障害の軽い一般就労の層が無理解や偏見を感じているという結果は、社会に踏み出した障害者には一般の健常者からの権利侵害が決して少なくないという実態を表しています。また、行事やイベントへの参加状況(第5章昼間の活動参照)との関係もこうした状況を裏付けており、参加している・時々参加している・参加していないという三者では、活動的で「参加している」と回答した層ほど「よくある」「時々ある」が多い結果になっています。(第7表参照)社会との交流が多くなるほど障害者としてのハンデを意識せざるを得ず、“自立している”環境の中にこそ内なる権利侵害があるといえるのかもしれません。
 「地域の人と当たり前に暮らしているかというと、まだまだといった気がします。非常時には、偏見や差別を本人も家族も感じるのではないかと思います。家族としてどういうふうに地域と関わっていけるのか、いつも考えざるを得ないというのが実感です。」(17才・女)と現状の厳しさを指摘した声もあり、心のバリアは一朝一夕に解消できないことを実感させられます。

相談相手は家族と友達

第8表 困った時の相談相手
総数:220 複数回答:3つ 
人数
相談相手はいない 19人(9%)
民生委員など 4人(2%)
民間の相談機関 3人(1%)
行政機関 14人(6%)
職場の上司や同僚 5人(2%)
通所先などの職員 15人(7%)
ピアカウンセラー 14人(6%)
友人・知人 60人(27%)
家族 70人(33%)
その他 16人(7%)

身近な人で解決できる?

 偏見を感じる事が「よくある」「時々ある」と回答した人に対し、「そのような場合誰に相談しますか」と尋ねた結果が第8表です。8つの相談者・相談機関と「相談相手はいない」という選択肢の中で圧倒的に多かったのは「家族」33%、「友人・知人」27%でした。行政機関で、あるいは地域の関わりで不快な思いを経験していながら、現実は家族や友人・知人といったごく身近な人に相談しているという結果です。身近すぎて当事者のことを冷静にとらえにくい立場の人を相談相手にしていては、不当な扱いを受けてもそれを問題だと認識されず、場合によっては我慢を強いられ、うやむやに見過ごされてしまう恐れがあります。
 しかし第三者機関に訴えたとしても、「区役所に相談に行ったが軽くあしらわれ、本当に困っている者に対しての援助の手はあるのか、相談先等知りたい。」(33才・女)という声に表れているように、充分に対応出来ていないのが現状のようです。また、相談相手がいないという回答も10%近くあり、問題がおきても解決に向けた動きへとつながらない状況が浮かび上がっています。

第9表 困った時の相談相手(回答者別) 家族
総数:208 複数回答:3つ 
相談者 人数
家族 35%
友人・知人 35%
ピアカウンセラー 3%
通所先などの職員 9%
職場の上司や同僚 1%
行政機関 3%
民間の相談機関 3%
民生委員など 1%
相談相手はいない 3%
その他 7%


第9表 困った時の相談相手(回答者別) 本人
総数:208 複数回答:3つ 
相談者 人数
家族 30%
友人・知人 24%
ピアカウンセラー 8%
通所先などの職員 6%
職場の上司や同僚 3%
行政機関 8%
民間の相談機関 -
民生委員など 1%
相談相手はいない 12%
その他 7%

相談窓口のPRを!

 第8表を更に回答者別にみたグラフが第9表です。本人の障害が重いために家族が回答した場合と本人が回答した場合とで違いを見ると、家族は「家族、友人・知人」以外の回答が大変少ないのが特徴的で、本人については「ピアカウンセラー」「行政機関」と回答した人が家族が回答した場合より多い結果になっています。
 また、「相談相手がいない」と回答した人はほとんどが配偶者がいる人、一人暮らしの人で、地域から孤立しているわけではなく、就労していたり、団体に加盟していたり、周囲とのつながりもきちんともっている人達でした。こうした人たちに対しては相談窓口のPRの徹底と当事者への権利意識の啓蒙が必要だといえるでしょう。
 「家族が回答した最重度の障害者」が家族や友人・知人の間で問題を片付けられ、通所先との結びつきに頼るという状況は、問題が表面化しづらい構造がはっきりと表れています。家族間あるいは、通所先で権利侵害が起こるケースも珍しいことではなく、本人にとっては“家族で問題を抱え込んでしまう”こととなり、悪循環といえます。

様々な立場からの支援

 これまでの結果から、問題の当事者からは一歩下がったところで考えられる、第三者の相談機関の重要性が指摘できます。オンブズマンや相談業務を想定し、「行政への苦情処理や障害者の権利擁護に関する相談業務に関わってほしいのは、どのような立場の人ですか」と尋ねた結果を障害別の内訳とともに示したものが第10表です。
 最も多かったのは「施設の職員、ホームヘルパー等福祉関係者」でした。しかし、ピアカウンセラー、ケースワーカー等行政関係者、医師・看護婦等医療関係者を希望する声も多く、バランスのとれた相談業務の体制作りが今後の課題であるといえるでしょう。
 障害による傾向を見ると、どの障害からも平均的に指示を受けたのはピアカウンセラーです。肢体不自由と精神障害では福祉関係者が最も多く、福祉的就労と昼間の通い先への信頼が厚い様子が伺えます。知的障害ではそれが障害児・者の家族にかわり、視覚障害、聴覚障害、内部障害ではピアカウンセラーを望む回答が最も多いという結果になっています。
 また、「もっと多くの障害者が区などの福祉担当者になり、障害を持った当事者のことを良く知った人が福祉業務に関わってほしい。」(48才・男)等相談業務にたずさわる人の資質に対する要望を求める声も挙がっています。

第10表 相談業務に関わって欲しい人(障害別)
総数:658人 複数回答:3つ 
肢体不自由 視覚障害 聴覚障害 内部障害 知的障害 精神障害
ピアカウンセラー 49% 17% 8% 9% 8% 9%
障害児、者の家族 33% 5% 3% 3% 48% 7%
施設の職員等福祉関係者 44% 10% 2% 2% 25% 17%
医師、看護婦等医療関係者 48% 8% 4% 5% 17% 18%
ケースワーカー等行政関係者 48% 7% 2% 8% 26% 9%
法律の専門家 32% 16% 5% 8% 32% 7%
PT・OT・ST等の専門家 65% 4% 4% 7% 16% 4%
その他 28% 8% - 18% 18% 28%


第11表 相談業務に関わって欲しい人(回答者別) 家族
総数:532人 複数回答:3つ 
ピアカウンセラー 8%
障害児、者の家族 22%
施設職員等福祉関係者 21%
医師、看護婦等医療関係者 13%
ケースワーカー等行政関係者 15%
法律の専門家 14%
PT・OT・ST等の専門家 7%


第11表 相談業務に関わって欲しい人回答者別 本人
総数:532人 複数回答:3つ 
ピアカウンセラー 22%
障害児、者の家族 6%
施設職員等福祉関係者 22%
医師、看護婦等医療関係者 17%
ケースワーカー等行政関係者 14%
法律の専門家 10%
PT・OT・ST等の専門家 8%

当事者参加のシステム作りを!

 相談業務に関わってほしい人を回答者別にみたものが第11表です。本人と家族では「ピアカウンセラー」と「家族」の回答者数が対照的になっていることが一見してわかります。「障害者の地域福祉について考える事は誠にありがたく、たいへんな事業ですが、当事者の気持ちになって考える事が大切だと思います。」(肢体不自由・76才・女)と、障害当事者の意思を尊重する大切さを訴える声もあり、障害当事者には悩みや問題を共有できる「ピアカウンセラー」が重要な役割を果たすといえるでしょう。 
 一方、回答者が家族である場合は同じ立場の「家族」を強く望んでいるのです。「卒後や親亡き後の事を考えると不安になることばかりです。知的重度障害児(者)は、自分の気持ちを相手に伝える事も難しいのです。いかにその人を尊重するかが大切な事だと考えます。」(14才・女)という街の声からは、重度者の家族の抱く大きな不安が感じられます。しかし、相談相手が家族、友人・知人に集中している第9表と比べてみると、第11表では様々な立場の人があげられ、意思決定が困難な最重度の障害者の支援体制にはそれぞれの立場を適切に生かした厚いネットワークが求められているようです。ピアカウンセリング
障害をもった者が、先輩として自らの経験をふまえきめ細かな相談にのること。

自分で管理したいな

 第12表は、年金、手当等を誰が管理しているか尋ねた結果です。「本人」が管理48%で、この層の人は金銭管理能力の高い人であると言えるでしょう。残りの半数の管理を依存している人は「親」33%、「配偶者」12%となっています。
 第12表を障害別にみたものが第13表です。知的障害以外は障害による際立った違いは特に認められませんでした。知的障害の「親」が管理はおよそ90%で、「本人」が管理している人は約2%しかいませんでした。
「親が子供のためにしている部分をどのように他人が代わってやっていくか、しっかり見つめていかないと、地域で暮らすことなど到底出来ません。現状では遠い将来の事を考えると何ら希望がなく絶望するばかりです。」(19才・男)というような声からも、成人後の知的障害者等の財産管理について不安を抱く家族は大勢います。親亡き後の財産管理等もサポートするため、法務省は、平成11年を目処に成年後見制度の制度化を検討しています。しかし、当事者の自己表現、自己決定に対して差別や偏見を持っていない人が管理を行なえるという保障はなく、さらに、周囲の援助者が人権を侵害する立場になってしまうことも考えられます。そのため、当事者の意志とは関係ない形で、管理され、保護されることがないよう周囲の援助者は「権利擁護」を強く認識して対応しなければならないでしょう。そして、知的障害者等で特に厚い支援を必要とする場合は、オンブズマン等の導入で情報公開や体制の改善が積極的に図られるよう配慮する必要があり、どれだけ当事者の意識が尊重される制度になるか、今後の権利擁護の在り方が注目されます。

第12表 年金や手当の管理者
総数:373人
管理者 人数
本人が管理 165人(48%)
本人以外が管理 176人(52%)
111人(33%)
配偶者 42人(12%)
その他親族 15人(4%)
兄弟姉妹 4人(1%)
生活寮等職員 2人(1%)
その他 2人(1%)

年金や手当の管理者(障害別)

権利擁護 街を切り拓く 課題と展望

 新宿区立障害者福祉センターで平成10年10月から始まった新宿区障害者自立生活支援事業の相談業務にはピアカウンセラーを配置しており、権利擁護センターとしての役割も備えています。障害別のピアカウンセラーは経験にもとづいた助言ができるだけでなく、行政にはない積極的な情報提供が大きな利点です。制度の利用に際し、内容がニーズに合わない等の問題もありますが、縦割りの窓口と申請主義の原則が手続きを煩雑にし、結果的に不親切な対応を招くことで行政への批判は絶えません。しかし、支援事業によって「利用者に最良のサービスを届ける」発想が地域で根付き、利用者主体の福祉が推進されつつあります。介護保険制度の導入等福祉の担い手は民間に移行していく転換期を表していますが、行政は公的機関の果たす役割を放棄することなく、サービスの一定の質は維持していくべきではないでしょうか。また、支援事業が全国的に実施される中でピアカウンセラーの不足が浮き彫りになり、障害当事者もピアカウンセラーとしての質がより強く求められるようになりました。地域のニーズと障害者問題を熟知し、自立を実践している人材の養成が当事者団体の今後の課題であるといえるでしょう。
 重度障害者の権利擁護に関しては財産管理が筆頭に挙げられますが、金銭の問題に限らず、家庭や通所施設、医療、職場等様々な場に応じて多様な支援形態を組み合わせることが必要です。ネットワーク機関、法律の専門家によるアドバイス、身近な日常生活の中での支援等それぞれの役割を生かした体制の整備が重要であり、障害者を「密室」に囲い込むことのないよう配慮しなければなりません。また、法的な整備として成年後見制度の検討が進んでいますが、この制度の制定でも当事者の意思を尊重した適切な支援の保障は十分ではなく、私たちは「権利を護るはずの支援者が権利侵害をしてしまう」現実を見据え、自己を省みる謙虚な視点をもって権利擁護にあたりたいと考えます。自己表現や意思決定に支援が必要な障害者への関わりには支援者の権利意識が問われ、本人の権利意識を高める、苦情を受け止め次の行動につなげる、情報を遮断せずに多くの判断材料を提供する等主体性を尊重したきめ細かな対応が望まれます。
 現在、グループホームやミニ療護施設等新たな居住の場が提起され、知的障害者や精神障害者の間でもピアカウンセリングが行われています。親亡き後地域で暮らすことは難しいと考えられていた重度の障害者も当事者や家族以外の支援者との関わりを基盤に自分らしい生活を継続していく、その将来像が少しずつ具体化され、着実な歩みを進めているといえるのではないでしょうか。

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主題:
住み慣れた街の声 障害者問題における地域福祉の在り方調査・研究 No.4
81頁~102頁

編集発行者:
新宿区障害者団体連絡協議会

発行年月:
平成11年(1999年)3月

文献に関する問い合わせ先:
新宿区障害者団体連絡協議会
〒162-0052
東京都新宿区戸山1-22-2
新宿区立障害者福祉センター内 障団連オフィス
電話03(5285)4333