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住み慣れた街の声-障害者問題における地域福祉の在り方調査・研究

(1)

新宿区障害者団体連絡協議会

項目 内容
発行年月日 平成11年(1999年)3月

もくじ

はじめに

概要

第1章:介助

第2章:住宅

第3章:移動

第4章:教育

第5章:昼間の活動

第6章:社会参加

第7章:権利擁護

パネルディスカッション

住み慣れた街の声

用語解説

街の声

編集後記

調査票サンプル 障団連加盟団体一覧

はじめに

 今、社会福祉は大きな転換期を迎えています。マスメディアでも高齢者の介護間題がしばしば取り上げられていますが、介護保険法の制定にも象徴されるように、利用者の選択に基づく「契約」の考え方が進められているのです。行政が一方的に判断する「措置」でなく、情報の開示を推し進めた利用者主体の福祉へと、流れは急速に変化しています。
 また、ひとりひとりの様々な違いを認め、設備や生活用品をあらゆる人に対応できるよう最初から工夫することを表した「ユニバーサルデザイン」という新語もしばしば耳にします。国際障害者年のスローガン「完全参加」と「平等」がもう使い古されてしまったように、障壁を取り除くという意味合いの強い「バリアフリーもやがては古めかしい過去の言葉になっていくのでしょうか。
 行政の人でもなく福祉の専門家でもなく、明日の外出先の車椅子トイレを気にかけ、高齢の母親の腰痛を心配しているごく一般の障害者にとって、関心事は相変わらず街の段差や介助に疲弊する家族です。そして、障害児を持つ親は、常に我が子の将来を案じています。そうした街の生活者たちの意識と、福祉施策に頭を悩ませる行政や先駆的な最新の福祉情報には大きな隔たりを感じざるを得ません。国際障害者年が過ぎ、完全参加と平等を成し遂げたと実感した障害者はいったいどれだけいるでしょう。福祉構造の改革が盛んに叫ばれても、措置から契約への流れの中で消費者としてサービスを買うという経験が乏しいまま利用者に祭り上げられてしまい、充分な権利意識も持てず戸惑う姿が現実にあるように思われます。
 本書では、障害当事者とその家族の声を聞きながら、身近な街の福祉をクローズアップしていきます、障害の違いを超えて17団体が集う新宿区障害者団体連絡協議会(以下、障団連)の行政への要望も折り込み、新宿区に寄せる期待、そして、私たち当事者の課題について論じているので、この報告書が各地の取り組みの参考になれば幸いです。
 最後に、アンケート調査および報告書作成にご協力頂いた多くの方々に、厚くお礼申し上げます。
  平成11年3月 新宿区障害者団体連絡協議会
会長  井口要

調査の概要

 たとえ重度の障害をもっていたとしても、生まれ育った住み慣れた地域社会のなかで当たり前の生活を送りたい。そんな“素朴な”願いを実現しようと、自立生活運動を中心としてさまざまな取り組みがこれまで行なわれてきました。国際障害者年以降に限ったとしても、かれこれ20年近くこうした取り組みが行なわれてきたのです。本書はこれらの取り組みと同じ問題意識を出発点として、重度障害児・者が地域で暮らしていくためには何が必要となるのかを、現状の問題点を浮き彫りにしていくことを通して考えていこうとするものです。
 具体的な問題については、序章以降の各章でさまざまな視点から考察が進められることになりますが、本章ではこうした考察の前提となる回答者の属性について報告していきます。さしずめ、アンケート調査という“舞台”に登場する人物の紹介というところでしょうか。アンケートに回答してくれた方々の性別や年齢、障害の種類や使用している補装具などを順次報告しながら、どんな個性をもった人が“舞台”に登場してくれたのかスポットライトを当てていきます。
 また、障害児・者を対象としたアンケート調査では、障害があるために家族などが本人の代理として回答することが多くあり、アンケートに本人の意見とともに、周囲の人々の意見が入り交じった形で報告されることがあります。私たちはアンケートに誰が回答・記入したのかを確認することで、アンケートの記述からは直接聞こえてこない“声”にも耳を傾ける試みを行ないました。障害児・者の自立を考えるとき、介助の問題を中心として家族とのかかわりを考えることが欠かせません。みなさんもこうした点を頭に置きながら本書を読みすすめると、また違った味わいになるのではないでしょうか。§住み慣れた街新宿

§さまざまな声に耳を傾けて頁

§活動期の人が中心です

§男も女も共に手を携えて

§付き合いの長い人も短い人も

§重度の人が中心です

§障害の種別を越えて

§頼りになるアシスタント

§一人暮らしでもがんばっています!

§街を切り拓く

Point

調査の内容

1:調査の目的 近年、障害者の地域自立を目標とした生活支援事業が実施されるなど、障害児・者をめぐる施策は大きく変化しつつあります。しかし、障害児・者とその家族の実態についての十分な認識にもとづいて福祉施策が展開されているとは、まだまだ言えない状況にあります。
 本調査は、こうしたなかで、障害児・者自身の視点から問題点を掘り下げ、当事者の意見を汲み取っていくことで、障害児・者が地域社会で暮らしていくために求められる福祉施策を展望する基礎資料の作成を目的として実施しました。特に本調査では、障害の種別をこえて障害者問題を捉えていくことを大きなねらいとしました。
 なお、詳しい調査内容については、巻末の資料に掲載した調査表を参照して下さい。2:調査実施期間 1998年2月~3月。3:調査対象者 新宿区在住の障害者700名。関係団体に調査表の配布・回収を依頼(障害を問わず)。うち、373名から回答を得た。

回答者の内容

§回答者の全体像
 回答者の年齢分布は3歳から89歳、また平均年齢は46.8歳でした。幅広い年齢層の方から回答がありましたが、なかでも19歳から64歳の活動期にある人が242人と、社会のなかで中心を担う人からの回答が多いことが特色となっています。
 男女比については、男性が全体の55%、女性が42%と、男性がやや多い割合となりました。

§障害の状況等
 障害種別では肢体不自由が42%と一番多い結果となりましたが、知的障害、精神障害など幅広い障害層から回答を寄せて頂きました。 また障害の程度については、身障手帳1,2級所有者が174人、愛の手帳2、3度所有者が66名と、重度の方が中心でした。

§回答者と記入者
 このアンケートでは、誰が回答したのかを確認することで、アンケートに反映されている意見が本人のものなのかどうか、区別する試みを行ないました。特に注目される“家族が代理で回答”という層は全体の30.6%でした。この層は、本人より家族等の意見がアンケートに反映されていることが考えられ、解析の重要な視点になるものと思われます。

住み慣れた街新宿

新宿在住年数

第1表 新宿区在住年数
総数:264人
在住年数 人数
10年以下 43人(16%)
11年~20年 55人(21%)
21年~30年 60人(23%)
31年~40年 43人(16%)
41年以上 63人(24%)

 アンケートの回答者に新宿区での在住年数をたずねた結果を、10年きざみで集計したものが上記のグラフです。
 新宿で暮らして41年以上という方が63人と一番多く、なんと一番長い人で、新宿での生活が84年になるという回答もありました。また、21年以上になるという方が全体の6割以上を占めており、新宿の暮らしを熟知した方々からの回答を得ることが出来ました。
 新宿というと、人の流出が激しいという印象がありますが、その一方で地域で根ざした生活を送っている人もいることが分かります。その意味でも、本書にまとめられたアンケート結果には、新宿という街の光と影が映し出されているとも言えるではないでしょうか。

さまざまな声に耳を傾けて…

アンケートの回答者・記入者は?

 第2表 アンケートの回答者と記入者

アンケートの記入者
総数:373人
記入者 人数
本人が記入 162人(43.4%)
家族が代理で記入 149人(39.9%)
その他 32人(8.6%)
無回答 30人(8.1%)
アンケートの回答者
総数:373人
回答者 人数
本人が回答 236人(63.3%)
家族が代理で回答
(最重度の層)
114人(30.6%)
その他 2人(0.5%)
無回答 21人(5.6%)

 障害者を対象としたアンケート調査では、本人に障害があるために家族が代理で回答することがしばしば見られます。しかし、このようにして得られたアンケート結果には、本人の思いや考えのみならず、家族の思いや考えも反映されることになります。そこで今回の調査では、アンケートを回答するにあたり誰が回答・記入を行なったのか確認してみました。第2表はその結果をまとめたものです。
 家族が代理で記入した人が4割近くいるのは、肢体不自由者が全体の42%を占めたことが反映していると考えられます。
 注目されるのは、本人が直接回答した人が6割以上を占めている一方で、家族が代理で回答している人が3割いることです。今回のアンケートは当事者の声をくみ取っていくことを目的としていますが、家族の意見も少なからず反映されているものとして受け取らなければならないことと思われます。逆にいえば、障害児・者福祉を考えるうえで、家族の問題を切り離して考えることはまだまだ出来ない現状を示しているとも言えるでしょう(このことを裏付けるように、家族が代理で回答した人のうち107名が、家族が代理で記入していました)。
 本書では、手帳の等級やADL能力によって障害の重さを判断していくだけでなく、家族が代理で回答という層を「最重度」の層と位置づけて、特に注目していきたいと考えています。

詳しく見てみると…
第3表 家族が代理で回答(障害別)
総数:137 複数回答:いくつでも
障害別 人数
肢体不自由    45人
視覚障害 10人
聴覚障害 1人
内部障害 3人
知的障害 73人
精神障害 5人

 家族が代理で回答した人を障害別でまとめたのが第3表です。知的障害児・者が73人いるわけですが、この人数は知的障害全体の中の9割近くを占めています(知的障害児・者は全体では85人)。また、この図からは読み取れませんが、他の障害をもつ人の7~8割は、逆に本人が直接回答していました。
 知的障害に限らないことですが、障害児・者が日常生活を送るなかで自己決定能力が弱いとみなされて、家族等が本人に代わって本人に関わることを決定していくことが多くあります。この結果も、その一端を映し出しているものと捉えることができるでしょう。もちろんこのこと自体に問題があるわけではありません。しかし、障害児・者は自己の権利が侵害されやすい状況にあるといえるのではないでしょうか。
 第7章では権利擁護の問題について取り上げています。成年後見制度など新しい制度も含めて、障害児・者の権利擁護の在り方を広く考えていく必要があります。街の声
このアンケートは親が記入しました。本人だったらこう思うだろうとしながらも、親の気持ちの方が強いかもしれません。重度知的障害児(者)は、自分の気持ちを相手に伝えることも難しいのです。いかにその人を尊重するかが大切なことだと考えています。(14歳、女性)

街の声とは…
アンケートの自由記述覧に寄せられた回答者の声を、本書では「街の声」として、適宜掲載していきます。なお巻末には、本文中に掲載できなかった声を、一覧にして掲載しています。

活動期の人が中心です

回答者の年齢層

 本アンケートの回答者の年齢分布は、3歳から89歳と、幅広い年齢層の方々から回答を寄せて頂きました。また平均年齢は、46.8歳でした。
 下図のグラフは、回答者を年齢層ごとに集計した結果です(無記入の人が21名いたので、回答総数は352人となっています)。特徴的なのは、20歳から69歳までの方が、ほぼ50人前後の均等な分布となったことです。次ページで詳しく述べていますが、社会人として活躍する活動期にある人を中心として回答が得られたことがお分かりになると思います。
 また人数は10人と少ないですが、10歳未満の人もいます。もちろん、両親等が代理でしていると思われますが、10年、20年という長いタイムスパンでこれからの地域福祉の在り方を考えていくためにも、貴重な意見といえます。他方で、80歳以上の人も15人いることも見逃せません。高齢社会を迎えている日本社会。高齢者福祉、障害者福祉の垣根は今後ますますなくなっていくと考えられます。従来のタテ割り型の施策を超えた新しい施策が求められているのではないでしょうか。

第4表 回答者の年齢層
総数:352人
年齢 人数
0~9歳 10人(3%)
10歳~19歳 25人(7%)
20歳~29歳 49人(14%)
30歳~39歳 53人(15%)
40歳~49歳 56人(16%)
50歳~59歳 56人(16%)
60歳~69歳 52人(15%)
70歳~79歳 36人(10%)
80歳以上 15人(4%)
第5表 活動期を中心とした年齢
総数:352人
年齢 人数
0~18歳 30人(9%)
19歳~64歳 242人(68%)
65歳以上 80人(23%)

 このグラフは、おおよそ学齢期にある人、社会人として社会の中心を担う人、いわゆる高齢者、という観点から回答者の年齢階層をまとめ直したものです。19歳から64歳までの人が全体の7割近くを占めていることがよくわかると思います。
 参考資料として、身体障害者という限定付きではありますが、全国調査の結果も掲載しました。この資料と比較すると、今回の調査では対象者に偏りがあったかもしれません。でも、それぞれの年齢層に注意しながら考察していくことで、ライフサイクルに応じて求められている福祉施策が異なることを明らかにしていくこともできると思われます。
 また、活動期にある人が中心ということは、障害者の自立生活を考えるうえでは貴重な意見が詰まっているとも言えるのではないでしょうか。
 皆さんも本書を読みながら、一緒に考えてみて下さい。表1 全国の身体障害者数(平成3年)

男も女も共に手を携えて

性別による集計

第6表 回答者の男女比
総数:363人
男性 207人(55%)
女性 156人(42%)

 第6表は、性別の回答者数を表わしたものです。本アンケートでは、男性が55%と半数以上を占め、女性が42%という結果でした(無回答が3%ありました)。
 この結果をほかのデータを比較してみましょう。新宿区の住民基本台帳に基づくデータでは、男性約130,000人、女性約133,000人と、女性の方がやや多い割合となっています(平成10年1月現在)。
 このように一般的な人口統計資料と比較すると、男女比が逆になっていますが、障害者に絞ってみると、本アンケート調査とほぼ同様な男女比となっています。例えば、厚生省による「身体障害者実態調査(平成8年)」では、男性51.9%、女性44.1%(不明4.0%)と、男性が多い割合となっています。
 このように比較してみると、男女比からは、本アンケートの回答者に極端な偏りはないといえるでしょう。

付き合いの長い人も短い人も

主な障害が発生した年齢

 主な障害が発生した年齢を尋ねたところ、第7表の結果となりました。出生時を含め、9歳以下で障害をもった人が約40%を占めていることが分かります。人生の初期の段階から、自分の障害と付き合ってきた人から多くの回答が得られたといえるでしょう。見方を変えれば、このアンケートには、人生の長期間を自らの障害とともに地域で生活してきた人々の実感が反映されているといえるのです。アンケートの結果にこれらの人々の思いがどのように表れてくるのか、注目されます。
 また、昨今の高齢社会を反映してか、60歳以上で障害を持った人が12%いました。ライフサイクルのどの時期に障害を持つかは、誰も予測できることではありません。障害の発生年齢に左右されることののない、柔軟な政策が行なわれているかどうか、注目していかなければならないでしょう。

第7表 主な障害が発生した年齢
総数:373人
年齢 人数
無回答 28人(8%)
(9歳以下で障害発生) 出生時 91人(24%)
0~9歳 63人(17%)
10歳~19歳 46人(12%)
20歳~29歳 36人(10%)
30歳~39歳 20人(5%)
40歳~49歳 23人(6%)
(60歳以上で障害発生) 50歳~59歳 23人(6%)
60歳~69歳 18人(5%)
70歳以上 25人(7%)

重度の人が中心です

所有している手帳の種類

 第8表は、所有している手帳ごとに回答者を集計した結果です。表からも明らかなように、身体障害者手帳を所有している人が半数以上を占める結果となりました。これは、肢体不自由者が約20%、障害者手帳所有者が約13%という結果でした。現行の制度では、障害に応じて手帳が発行されているので、第12表に示した障害種別ごとの集計結果とほぼ対応していることが分かります。
 また、このデータを新宿区のデータ(第9表参照)と比較してみると、多少の違いは見られるものの、これらの母数を十分に反映した結果となっていることがわかります。本アンケートでは、手帳の所有者数から見ても、それほど偏りのないデータが集まったといえるでしょう。

 手帳制度の功罪

 現行では、各種手帳は、福祉の諸制度の利用を保障するためにも欠かせないものとなっています。しかし、「…中学校卒業時と20歳の時に再判定の申請をしましたが、判定は4度と変わりませんでした。身体面・社会性については障害が重いと感じていましたので、誰かの間違いかと思ったほどです。自己反省を含めて、手帳の判定は全人格的な総合判定(知能計測のみでなく)として行なってもらいたいです。」(33歳、男性)という声に表れているように、個々の当事者の生活実態に合った判定が行なわれにくい現状もあります。
 各種手帳がもつ機能損傷を中心とした障害観から生活を送るうえでの“ハンディキャップ”という観点への転換を含めた、手帳制度の見直しが求められているといえます。

第8表 各種手帳の所有者数
総数:405人 複数回答:いくつでも
手帳の種類 人数
身体障害者手帳 222人(55%)
愛の手帳 83人(20%)
障害者手帳 52人(13%)
被害者健康手帳 9人(2%)
公害医療手帳 2人(1%)
戦傷病者手帳 0人
無回答 37人(9%)
第9表 新宿区における各種手帳の所有者数
手帳の種類 人数
身障手帳 7447人
愛の手帳 841人
障害者手帳 1371人
公害医療手帳 1797人

註:上記の数値は、新宿区からの回答にもとづいた、平成8年のデータである。また、障害者手帳は精神障害者通院医療費助成受給者数である。

第10表 各種手帳の等級別所有者数
総数:357 複数回答:いくつでも
等級 人数
1級(1度) 身障手帳 100人(45%)
愛の手帳 7人(9%)
障害者手帳 18人(35%)
2級(2度) 身障手帳 74人(33%)
愛の手帳 30人(36%)
障害者手帳 29人(56%)
3級(3度) 身障手帳 25人(12%)
愛の手帳 36人(43%)
障害者手帳 5人(9%)
4級(4度) 身障手帳 18人(8%)
愛の手帳 10人(12%)
障害者手帳 -
5級(5度) 身障手帳 5人(2%)
愛の手帳 -
障害者手帳 -

 第10表は、身体障害者手帳、愛の手帳、障害者手帳それぞれの手帳を、等級別に所有者数を集計し直したものです。身体障害者手帳では、等級が上がるに連れて所有者数も増加していることがわかります。特に1級、2級あわせて8割近くなっています。愛の手帳については、いわゆる「重度」とよばれる2度、「中度」といわれる3度があわせて8割近くいる結果となりました。このように、手帳の等級から見ると、本アンケートには地域での生活を営む可能性を持ってはいるものの、かなり重い障害を持った人たちが回答していることがうかがえます。

障害の種別を超えて

障害種別集計

第11表 回答者の障害種別による累計
総数:578 複数回答:いくつでも
障害種別 人数
上肢機能障害 78人(13%)
下肢機能障害 123人(22%)
体幹機能障害 64人(11%)
視覚障害 49人(8%)
聴覚障害 19人(3%)
言語障害 38人(7%)
平衡機能障害 7人(1%)
内部障害 24人(4%)
知的障害 85人(15%)
精神障害 61人(11%)
てんかん 25人(4%)
その他 5人(1%)
第12表 障害種別累計(クロス集計用)
総数:410 複数回答:いくつでも
障害別 人数
肢体不自由    172人(42%)
視覚障害 49人(12%)
聴覚障害 19人(4%)
内部障害 24人(6%)
知的障害 85人(21%)
精神障害 61人(15%)

 第11表は、障害の種別ごとに回答者を集計した結果です。下肢機能障害が123人とトップを占めました。これは、加齢を原因とした障害も増えてきつつあることを反映したのかも知れません。また、上肢、体幹機能障害も全体の1割以上を占めるなど、肢体不自由障害を持った人からの回答が多かったことがうかがえます。
 とはいえ、特定の障害に極端に偏ることなく、これだけ様々な障害を持った人から回答を得られたのは珍しいといえるかもしれません。
 なお、障害種別ごとの累計は、理解しやすいように、他のデータとクロス集計を行なうときには別に集計し直したものを使っています。第12表がまとめ直したもので、「上肢・下肢・体幹・言語・平衡機能障害・その他」をあわせて「肢体不自由」に、「てんかん」は重複者がほとんどだったので「知的障害」に一括して集計しました。

頼りになるアシスタント

主に利用している補装具

第13表 主に使用している補装具
総数:456 複数回答:いくつでも
補装具種別 人数
使用していない 134人(29.4%)
電動車イス 26人(5.7%)
手動車イス 71人(15.6%)
バギー 9人(2.0%)
歩行器 7人(1.5%)
下肢装具(義足を含む) 34人(7.5%)
白杖 33人(7.2%)
義眼 5人(1.1%)
眼鏡 27人(5.9%)
シグナルエイド 7人(1.5%)
補聴器 13人(2.9%)
点字器 14人(3.1%)
収尿器 6人(1.3%)
人口咽頭 1人(0.2%)
歩行補助用杖 57人(12.5%)
その他 12人(2.6%)

 日常生活を支障なく送るためにも、障害児・者にとって補装具の存在は大きいといえます。第13表は、主な補装具を回答してもらった結果です。手動車イス15.6%、歩行補助用杖12.5%が上位を占める結果となりました。これは、下肢機能障害をもった回答者が多いことを反映したものと思われます。
 このように、障害児・者の生活はさまざまな補装具によって支えられているといえますが、補装具を使用していればすべて解決するわけではありません。適切な街づくりがなされていればこそ、補装具もより意味をもってくるのです。具体的には「移動」の章で考察していきますが、注目されます。
 また、補装具を使用していない人が約30%と、かなりの割合を占めました。しかし、補装具を使用していないから障害の軽い人が多いと、判断することはできません。例えば、自己決定が難しい知的障害児・者などを含めて考えれば、補装具を使用していなくとも介助者を頼りとした重度の障害児・者は多く存在するのです。この点については、アンケートの回答に家族が代理で行なっている人が多いことからもうかがえると思います。

一人暮らしでもがんばっています!

同居者の構成・続柄

 いつかは一人暮らしをしてみたい。そんな思いを誰もが一度は持つのではないでしょうか。しかし障害をもっていると、いわゆる施設収容型から、重度の障害をもっていても地域で自立生活を送っていく方向へと転換しつつある今日にあっても、実際に一人暮らしをするのはまだまだ難しい状況にあります。そんななかで、本アンケート回答者の71人が一人暮らしをしていることは注目されます(第14表参照)。どのような人々が一人暮らしをしているのか、今後の展望を図るうえで“鍵”となることでしょう。
 また、続柄別で見ると(第15表参照)、母親が24%とトップになっていることが注目されます。これまで障害児・者の介助は、母親を中心とした家族がほとんどを担っていました。同居者として母親が一番多く挙げられていることは、こうした事情があまり変化していないことをうかがわせます。配偶者や父親が次いで多く挙げられていることからも、家族を中心とした介助体制の現状をうかがいしることが出来ます。

第14表 同居者の構成
総数:373人
同居者 人数
1人暮らし 71人(19%)
2人世帯 107人(29%)
3人世帯 77人(21%)
4人世帯 67人(18%)
5人以上の世帯 35人(9%)
不明 16人(4%)
第15表 続柄別同居者の累計
総数:612 複数回答:いくつでも
続柄 人数
1人暮らし 71人(12%)
112人(18%)
138人(24%)
配偶者 124人(20%)
兄弟姉妹 76人(12%)
子(婿・嫁を含む) 68人(11%)
15人(2%)
その他 8人(1%)
第16表 一人暮らし(障害別)
総数:410 重複回答あり
障害別 一人暮らし その他
肢体不自由    36人 136人
視覚障害 7人 42人
聴覚障害 3人 16人
内部障害 9人 15人
知的障害 3人 82人
精神障害 22人 39人

 第16表は、「一人暮らし」と回答した人を障害種別ごとに集計し直したものです。人数的には、「肢体不自由」が36人とトップになっています。しかし、各障害ごとでどれくらいの割合で一人暮らしをしているのか計算してみると、「肢体不自由」21%、「視覚障害」14%、「聴覚障害」16%、「内部障害」38%、「知的障害」4%、「精神障害」36%となります。つまり障害によって、4割近い割合で一人暮らしをしている人がいたり、ごくわずかな割合の人しか一人暮らしをしていないという違いが出てくるのです。
 こうした違いは、障害者が地域で自立生活を送るために解決しなければならない課題が多様であることを示唆しています。住宅内を含めた移動の問題、コミュニケーションの問題など、障害によって抱える課題は異なりますが、障害児・者が越えなければならない“障壁”はまだまだ多いと言わざるを得ないようです。

はじめに  街を切り拓く  課題と展望

 障害児・者の福祉施策は、1996年(平成8年)から市町村障害者生活支援事業が実施されたり、介護保険法が2000年(平成12年)に施行されるなど、今日大きな変化を迎えつつあります。今回のアンケート調査は、こうした流れの中で、これからの障害児・者福祉施策を展望することを目的として行なっています。同時に、私たちが暮らす“新宿”という街をより住み良い街にするには何が求められているのか、という願いも込められています。
 振り返ってみれば、新宿区では、障害児の就学前からの早期療育を目的とした通所施設区立「あゆみの家」が1971年(昭和46年)に設置されたり、都内でもまれな区立の養護学校である「新宿養護学校」が1978年(昭和53年)に開校されるなど、早い段階から障害をもつ子どもに対する施策が実施されています。また、家族のもとを離れ、自立生活を体験できる十分な設備とともに、利用者を介助する専門の職員を配置した「自立生活体験室」を、全国に先駆けて1985年(昭和60年)に新宿区立障害者福祉センター内に開設するなど、重度障害児・者をも視野に入れた新しい試みに積極的に取り組んできました。このように振り返ってみると、新宿区は他の自治体の“見本”とも言える取り組みを行なってきたのです。
 しかし、バブル崩壊後の景気後退のなかで、新宿区の福祉施策は今日、縮小傾向になりつつあります。また、就学している子どもたちの放課後の居場所が確保されていないことや、ケア付住宅・グループホーム建設がなかなかすすまないこと、権利擁護の観点からも当事者参加が叫ばれているなかで、介護保険事業などの作成過程に当事者が参加できない、といった問題を抱え、特に最重度の障害児・者に対する施策の遅れが目立つようになっています。かつては何事にも先駆けであった新宿区も、いつのまにか他の自治体に追い抜かれ、逆に追いかけていく存在になっていたのです。
 こうした現状を踏まえて、私たちはこのアンケート調査の結果から、新宿区に暮らす人々の声に謙虚に学びながら、これからの福祉施策に、街づくりに何が求められているのか、真摯に考えていかなければならないと考えています。そして新宿区でも、1998年(平成10年)に新宿区障害者生活支援事業が実施されたり、1999年(平成11年)には障害者福祉施策推進協議会に当事者参加が求められるようになるなど、新しい動きも芽生えつつあります。私たちは、こうした新しい動向を見きわめつつ、同時に他の自治体が全国に先駆けて行なっているさまざまな施策にも学びながら、当事者からの具体的な提案を目指していきたいと思います。

第1章 介助

 乗り降りしやすいようシートが半回転する車、リクライニングベッドや介護用のパンツ等高齢者の介護を見込んだ商品のテレビコマーシャルをしばしば目にします。高齢化社会や介護問題を誰もが身近に感じ、家族との関わりや自分の将来についてふと考えさせられるメッセージともいえます。
 しかし、社会的に浸透している「介護」が示す意味と私たち障害者の求める支援とは、異質なものであると言わざるをえません。高齢者への介護、ホームヘルパーによる在宅サービスという言葉には、介護する側に主体のある保護的な意味合いがあり、また、家庭生活に対して提供されるものとしての捉え方が一般的なようです。しかし、サービス提供は当事者の意向を重視したものであることが大前提であり、さらに就労や余暇といった社会生活をも保障されることに在宅福祉の本質があるはずです。地域自立を目指し、積極的な社会参加を望んでいる私たちは、障害当事者に主体を置いた「介助」という言葉を意識的に用い、当事者が自らの意志で最良の選択をするべきであると考えています。
 この「必要なサービスを得る」という基本的な権利を行使するには、現在、制度的にも様々な問題が山積されています。障害種別によってサービスが固定化されていること、とりわけ母親の負担が大きく家族への依存が強いこと、行政がニーズを判断・提供する一方的な構造といった問題は、どれも障害が特別なこととして捉えられている現状を反映しているといえるでしょう。心身に起因して生活上困難を抱えるのは、決して特別なことではありません。住み慣れた街で、当たり前の生活を送りたい。この素朴な願いを実現するためにきってもきれないのが介助の問題です。こうした背景を知り、「親亡き後」にどう対処していくのかに視点を置くと、おのずと現代社会の持つ問題と向き合えるのではないでしょうか。§様々な援助が必要です

§生活していく上でのノウハウを身につけよう 

§主な介助者は女性でした/51歳以上が多かった

§利用しにくい制度/質の高い介助を望んでいます

§各障害にホームヘルパー制度の利用を!/高齢の家族が介助しています

§介助者がいなくて外出できません/もっとわかりやすいPR方法を!

§家族に頼っている人が多い/人によってばらつきがある

§もっと利用したい/質の高い援助を希望します

§街を切り拓く

Point

介助の現状

 障害の種別により、必要となる介助に違いが見られます。例えば肢体不自由者は、入浴に関して78人(45%)の人が介助を必要としているように、日常生活動作を中心に介助が行なわれています。ところが、知的障害者を見ると、金銭管理が72人(83%)、健康管理が69人(79%)と、生活を自己管理するために必要となる介助が多くあげられています。このように、障害に応じて介助内容は異なり、一口に介助と言ってもさまざまなニーズがあるようです。

高齢化する介護者

 身近な介助者として、家族はとても大きな存在です。しかし、介助する家族の高齢化が進んでおり、51歳以上という人が111人(64%)という結果でした。こうした高齢者が障害者の介助をしているという矛盾を解消するためにも、ホームヘルパーという存在が今後ますます注目されます。

ヘルパー制度の拡充を

 実際にホームヘルパー制度を利用している人は回答者全体の18%(69人)と、それほど多い結果にはなりませんでした。これは、現在のホームヘルパー制度では、一部の身辺介助を含んだ家事援助が中心となり、生活の質の向上までは視野に入れられていないことや、利用者が肢体不自由者に限られていること、派遣される時間が限られていること(アンケートでも、利用者の35%が、「時間や回数が合わない」という問題点を指摘していました)などが影響していると思われます。外出時にガイドヘルパーに準ずる仕事内容を加えたり、利用枠を拡大するといった、さらなるメニューの拡充が求められているといえるでしょう。

もっとPRを!

 ホームヘルパー制度を利用しない理由として、制度を知らない、手続きが分からない、派遣機関が分からないなどを回答された人が、合計で63人(18%)もいました(こうした傾向は、ガイドヘルパー制度にも見られました)。これは、サービスが用意されていても、利用者が申請しなければ利用されない現状を反映したものだと考えられます。利用しやすい制度にするためにも、こうした“申請主義”を改めたり、広くPRしていく必要があるといえるでしょう。

さまざまな援助が必要です

第1表 現在の介助状況
総数:373人
介助の種類 介助必要 介助不要 無回答
コミュニケーション 104人 254人 15人
時間管理 112人 248人 13人
健康管理 146人 214人 13人
金銭管理 134人 226人 13人
家事 193人 160人 20人
衣服の着替え 83人 279人 11人
寝返り 23人 337人 13人
入浴 113人 251人 9人
排泄 68人 294人 11人
食事 67人 298人 8人
第2表 将来の介助状況
総数:373人
介助の種類 必要になる 必要でない 自助具で対応 わからない その他 無回答
コミュニケーション 106人 69人 5人 110人 2人 81人
時間管理 101人 82人 3人 110人 2人 76人
健康管理 132人 63人 3人 99人 2人 74人
金銭管理 119人 69人 3人 105人 2人 75人
家事 154人 44人 6人 87人 3人 79人
衣服の着替え 79人 103人 3人 111人 1人 76人
寝返り 45人 128人 5人 115人 2人 78人
入浴 102人 91人 107人 2人 71人
排泄 73人 97人 5人 121人 2人 75人
食事 74人 107人 4人 116人 2人 70人

 第1表は、日常生活での動作について介助を必要としているかを尋ねたものです。回答項目を介助不要、介助必要と区分しました。室内での日常生活動作に関して、「介助必要」は、家事193人(52%)、入浴113人(30%)、衣服の着替え83人(22%)の回答です。また、日常生活を送るうえで必要な能力として、コミュニケーション、金銭管理などがあります。これらで「介助必要」と回答している人は、どの項目も30%前後でした。
 また、人間だれしも、年を重ねるごとに身体機能は低下し、生活に対して様々な不便を感じてくるものです。そういった将来に対する介助の必要性の有無を聞いたのが第2表です。第2表をみると現在の介助状況と同様の傾向がみられ、2割から4割の人が介助が「必要になる」と予測しています。さらに全ての項目で「分からない」が30%前後います。「現在金銭管理以外は、ほぼ一人でできますが、これから20年先、30年先になるとどの程度のことができ、またできなくなるかの先読みできません。」(知的・24歳・女)と将来に対する不安もひとしおです。

生活していく上でのノウハウを身につけよう

第3表 肢体不自由の介助状況
介助の種類 介助必要 介助不要
コミュニケーション 43人(25%) 126人(75%)
時間管理 49人(20%) 191人(80%)
健康管理 68人(40%) 104人(60%)
金銭管理 56人(23%) 189人(77%)
家事 102人(61%) 66人(39%)
衣服の着替え 81人(43%) 109人(57%)
寝返り 21人(12%) 149人(88%)
入浴 78人(45%) 96人(55%)
排泄 50人(29%) 122人(71%)
食事 40人(23%) 132人(77%)

質の高い生活のための介助を

 日常生活での介助項目を障害別で見たのが、第3表、第4表です。肢体不自由者と知的障害者を比べると肢体不自由者で「介助必要」な人は、家事61%や入浴45%、衣服の着替え43%と日常生活の介助が目立ちます。逆に知的障害者をみると、コミュニケーション66%、金銭管理83%と生活管理の介助が必要です。また、他の障害で一番多く挙げられていたものは、「家事」「コミュニケーション」であり、こうした2つの側面から、介助の必要性が指摘されていました。
 現在では、生活の在り方に関する考え方も変わり、最低限度の衣食住を保障した生活から、外出や余暇、友達づくり、昼間の活動などの充実を視点に入れていくことが強く要求されます。
 また、第5表では、現在の介助状況(障害別)で「介助必要」が一番多い項目について挙げました。聴覚障害以外は、各障害とも「家事」の介助が必要な割合が60%を超えています。聴覚障害者は、コミュニケーションでの、要約筆記や手話といった介助を必要としているのが分かります。

第4表 知的障害の介助状況
介助の種類 介助必要 介助不要
コミュニケーション 62人(66%) 32人(34%)
時間管理 61人(73%) 23人(27%)
健康管理 69人(79%) 18人(21%)
金銭管理 72人(83%) 15人(17%)
家事 74人(74%) 28人(26%)
衣服の着替え 25人(29%) 62人(71%)
寝返り 4人(17%) 20人(83%)
入浴 38人(42%) 52人(58%)
排泄 26人(29%) 65人(71%)
食事 25人(27%) 68人(73%)


第5表 現在の介助状況(障害別・介助が必要が1番多い項目)
障害別 介助項目 介助必要 介助不要
視覚障害 家事 32人 20人
聴覚障害 コミュニケーション 12人 4人
内部障害 家事 14人 9人
精神障害 家事 42人 16人

主な介助者は女性でした

第6表 家事の介助内容
総数:260 複数回答:いくつでも
介助の要不要 人数
介助が不要 160人(45%)
介助が必要 193人(55%)
家族による介助 82%
家族以外の介助 18%


家族介助の内訳
介助者 人数
8人(4%)
43人(20%)
35人(17%)
94人(44%)
子供 23人(11%)
姉妹 8人(4%)
兄弟 1人


金銭管理の介助内容
総数:195 複数回答:いくつでも
介助の要不要 人数
介助が不要 226人(63%)
介助が必要 134人(37%)
家族による介助 92%
家族以外の介助 8%


家族介助の内訳
介助者 人数
10人(6%)
21人(12%)
46人(26%)
78人(43%)
子供 16人(9%)
姉妹 8人(4%)
兄弟 -

51歳以上が多かった

第7表 主な介助者の年齢
総数:174人
年齢 人数
30歳以下 6人(3%)
31~50歳 57人(33%)
51歳以上 111人(64%)

 家事と金銭管理の家族介助の割合と家族の中での介助者が誰なのかを示したものが第6表です。家事で「介助が必要」と答えた人は、55%を占めています。その中の82%は、家族の介助によって生活が支えられています。家族に負担がかかり過ぎており、肉体的、精神的な疲労ははかり知れません。さらにその介助者の内訳は、母44%、妻20%、父17%、夫4%となっています。また、金銭管理も同様に「介助が必要」と答えた人は、37%でそのうち、92%の人が家族の介助によって支えられています。さらに、誰が介助しているかでは、母43%、父26%、妻12%、子どもが9%になっています。他の項目でも、母親の介助の占める割合が高く、食事51%、健康管理48%、コミュニュケーション46%などで半数前後が母親の介助によって支えられています。社会では“男女平等の世の中にしていきましょう”というスローガンが掲げられ、女性問題に関する様々な計画が策定されています。
 しかし、現状は障害をもつ子ども抱えてしまうと日々の介助に追われ、自分の時間を持つことのできない母親(女性)は、介助に拘束されており男女平等にはほど遠い状態です。
 第7表では、その主に介助にあたる人の年齢を尋ねています。現在介助が必要な人の80%以上は、家族の介助によって支えられています。しかし、障害当事者の年齢が高齢化すれば、その家族も同様に高齢化していることも見逃してはなりません。当事者も成長とともに体が大きくなり、障害も進行し、介助の比率があがっていくのは必然的といえるでしょう。しかし、介助者の年齢層は、「30歳以下」の介助者は3%、「31歳~50歳」が33%、「51歳以上」がなんと64%と高齢化が目立っています。高齢となった家族が生活を支えるのではなく、地域全体で支えていく体制、介助を供給するシステムの確立が急務です。

利用しにくい制度

 第8表では、ホームヘルプサービスの利用について回答してもらいました。ホ-ムヘルプサービスを「利用している」と回答した人は、18%と低い割合になっています。このホームヘルプサービスを「利用していない」と回答した人は、70%と圧倒数を占めています。
 また、ホームヘルパーを利用している人を対象に利用するときに感じる問題は何かを尋ねたのが、第9表です。「時間や回数が少ない」20%、「介助が必要な時間が合わない」15%と派遣時間に関する不満を訴えている人が、全体の35%を占めています。さらに、「日によって介助のばらつきがある」「介助者の知識・技術不足」がともに13%、「人間関係が上手くいかない」9%、「プライバシーが守られない」7%、「指示通りの仕事をしない」、「子ども扱いされる」がともに6%とホームヘルパーの質の向上を重視する声も上がっています。「24時間介助を早く実現してほしい」(肢体不自由・24歳・男)という声からも時間の延長や障害に対する知識の向上を求めている声も少なくありません。平成12年度導入の介護保険制度*1では、障害当事者が消費者となり、ケアをマネジメントすることになります。公的ホームヘルパーと民間業者とのケア派遣に差がでることのないようへルパーの研修機関の充実が問題となります。また、介護保険制度でのサービスの決定は、行政や専門家の判断が大きく、障害当事者特有のライフスタイルに必要なニーズの決定がされていない、障害の状況が理解され、ニーズに合ったアドバイスを出せる障害当事者が、決定協議機関に参加していないなどの問題点があります。
 ホームヘルパーを利用しない人に、なぜ、利用しないのかをきいたのが第10表です。回答数の多かったものは、「必要ない」37%、「介助者となる家族がいる」26%です。また、「制度を知らない」「手続が分からない」がともに5%、「派遣機関が分からない」3%、「派遣機関が身近にない」1%とホームヘルプサービスの情報提供が、上手に行なわれていないが故に起こる問題にも、着目しなければなりません。PRの強化を図ることで、障害当事者のニーズが声として寄せられ、多岐にわたるニーズを把握することで制度の充実が図られると思います。ここでも、「介助が必要な時間が合わない」「時間や回数が少ない」がともに2%と時間に関する問題が挙がっています。
 さらに「制度上利用できない」4%の中には、現在の派遣対象者が肢体不自由者に限られている点が問題として挙げられます。

第8表 ホームヘルパーの利用人数
総数:373人
利用している 69人(18%)
利用していない 258人(70%)
無回答 46人(12%)

質の高い介助を望んでいます

第9表 ホームヘルパーの問題点
総数:68人 複数回答3つ
問題点 人数
時間や回数が少ない 13人(20%)
介助が必要な時間があわない 10人(15%)
日によって介助のばらつきがある 9人(13%)
介助者の知識技術不足 9人(13%)
人間関係がうまくいかない 6人(9%)
プライバシーが守られない 5人(7%)
支持どおりの仕事をしない 4人(6%)
子ども扱いされる 4人(6%)
家族の理解がない 1人(1%)
その他 7人(10%)


第10表 ホームヘルパーを利用しない理由
総数:365人 複数回答:3つ
理由 人数
必要ない 139人(37%)
介助者となる家族がいない 98人(26%)
制度を知らない 17人(5%)
制度上利用できない 13人(4%)
手続きが分からない(情報が少ない) 19人(5%)
派遣機関がわからない 10人(3%)
派遣機関が身近にない 4人(1%)
人に頼りたくない 25人(7%)
人間関係がうまくいかない 8人(2%)
家族の理解がない 2人(1%)
介助が必要な時間があわない 7人(2%)
時間や回数が少ない 6人(2%)
その他 17人(5%)

各障害にホームヘルパー制度の利用を!

第11表 ホームヘルパーの利用人数(障害別)
総数:410人 (重複あり)
障害別 利用している 利用していない 無回答
肢体不自由    51人(30%) 106人(61%) 15人(9%)
視覚障害 12人(24%) 29人(60%) 8人(16%)
聴覚障害 1人(5%) 12人(63%) 6人(32%)
内部障害 3人(13%) 17人(70%) 4人(17%)
知的障害 5人(6%) 79人(93%) 1人(1%)
精神障害 2人(11%) 2人(11%) 15人(78%)

重複障害者も見逃せない

 ホームヘルプサービスの利用を障害別にみると第11表のような結果が得られました。肢体不自由者51人、視覚障害者12人が「利用している」と回答しています。他の障害をみると聴覚障害者1人、内部障害者3人、知的障害者5人、精神障害者2人が利用しています。この結果をみるかぎりでは、知的障害者や精神障害者でも、ホームヘルパーの利用が可能なのかと錯覚しがちですが、じつは肢体不自由との重複により、利用対象に該当していることも見逃せません。派遣対象が肢体不自由に限られていますが、他の障害でもニーズに合わせた派遣が求められます。

高齢の家族が介助しています

第12表 家族がいるからヘルパーを利用しない(家族の年齢)
総数:91人
家族の年齢 人数
30歳以下 3人(4%)
31~50歳 24人(33%)
51歳以上 46人(63%)

 ホームヘルパーを利用していない理由として「介助者となる家族がいる」と答えた人は、26%もいます。この層の介助者の年齢を出したのが、第12表です。驚くことに介助者が「51歳以上」という人が、63%を占めています。現行のホームヘルプサービスは、午前7時から午後7時迄しかサービス提供を行なっていませんが、その時間内だけで生活を組み立てることができる人など皆無に等しいでしょう。そのため、ホームヘルプサービス以外の時間の家事援助は、家族に比重がかかってきます。
 障害は重度化していくのに介助者が高齢化するため、介助の負担増加は免れません。「介助者である親も歳を重ね、家族だけの介助では大変です。」(肢体不自由・13歳・女)と介助システムの確立を望む声が高くなっています。ホームヘルプサービスとは(新宿区)
 介助を支援する制度として、心身障害者(児)ホームヘルプサービスがある。ホームヘルプサービスは、日常生活を営むのに支障のある重度の障害者(児)がいて、家族が介護を行なうことが困難な状況にある世帯に対して、最大週42時間(1日6時間)までの派遣を行なっている。派遣時間も既定があり、午前7時~午後7時の間となっている。食事や身辺の世話、洗濯などの家事、生活などに関する相談・助言が主な仕事になっている。
 新宿区では、平成9年度より、24時間の巡回型ホームヘルプサービスを区内6ヶ所を拠点として実施している。これらケア派遣事業には、2種類の夜間の介助パターンがある。巡回型というのは、1回のサービスを20分程度とし、訪問して介助を行なうもの。逆に滞在型というのは、介助者が家に泊まりこみで就寝、寝返り、排泄などの介助を行なうもの。

介助者がいなくて外出できません

第13表 ホームヘルパー制度の利用の有無
(外出時の困難で介助者がいないと答えた人)
総数:18人
利用している 7人(39%)
利用していない 11人(69%)

 第3章移動の外出時の困難では、「介助者が見つからない」ために、外出が困難と回答している人が12.8%もいます。この人達のホームヘルパーの利用の有無をみたのが、第13表です。7人の人がホームヘルプサービスを利用しているにも関わらず、外出のメニューがないために外出時に「介助者がいない」と回答しています。現在では、生活寮やグループホームを拠点とし、地域の作業所等に通所し、生きがいのある地域生活を目指す知的障害者が増加しています。家族が病気の際や余暇活動や文化活動に参加するための移動の援助が保障されていません。大阪では、知的障害者へのガイドヘルパーの派遣が行なわれているように、家事援助のみの支援にとどまらない、生活の質の向上も含んだメニューがホームヘルプサービスの内容に加わることは自然といえます。また、知的障害者だけでなく精神障害者、また肢体不自由者も外出等によって、他人とのコミュニケーションや生活環境の拡大、さらには生活経験を積む機会にもなるというものです。そのためにも、外出などのサービス内容がホームヘルプサービスの中に組み込まれることが望まれます。

もっとわかりやすいPR方法を!

第14表 ホームヘルパー制度を知らないと等と答えた人
(情報の入手先)
総数:138 複数回答:いくつでも
情報の入手先 人数
家族 8人
知人・友人 19人
福祉団体 11人
区報 17人
福祉の手引き 15人
けやき 4人
新聞 6人
テレビ 7人
ラジオ 2人
福祉雑誌 3人
窓口 7人
社会福祉協議会 3人
行政の出版物 6人
福祉団体の機関誌 6人
福祉団体の出版物 6人
民間団体の機関誌 3人
録音テープ図書・雑誌 3人
医療機関・保健所等 10人
その他 2人

 ホームヘルプサービスを利用しない理由として、「制度を知らない」「手続きが分からない」「派遣機関が分からない」「派遣機関が身近にない」と回答した人の情報入手先を見たのが第14表です。「区報」17人(12%)、「福祉の手引き」15人(11%)もいるにもかかわらず、ホームヘルプサービスを利用しない理由として、「制度を知らないため」と回答されています。福祉の手引きでは、「日常生活の援助」の項目でホームヘルパーの派遣を紹介しています。しかし、簡単な説明にとどまっており、連絡先が記載されいる程度にとどまっていて、十分な情報提供がされているとはいえません。ホームヘルプサービスは自己申請主義で、当事者が窓口にいった時点で詳細の説明があるため、自分が該当しているのかが判断しにくい状況があり、利用の幅も広がりません。PRの充実により、利用枠が拡充されると考えられます。また、平成12年から始まる介護保険に備え、ケアマネジメントが障害当事者のニーズに合わせて円滑に進められるためには、介助サービスの情報提供は、必須事項となるでしょう。制度を知らないからホームヘルパーを利用しないということがないようにしたいものです。

家族に頼っている人が多い

第15表 ガイドヘルパーの利用人数
総数:315人
利用している 24人(8%)
利用していない 291人(92%)


第16表 ガイドヘルパーを利用しない理由
利用しない理由 人数
必要ない 157人(41.5%)
制度を知らなかった 43人(11.3%)
制度上利用できない 11人(2.9%)
ヘルパーとなる家族がいない 72人(19.0%)
人に頼りたくない 20人(5.2%)
ヘルパーが必要な時間があわない 7人(1.8%)
時間や回数が少ない 4人(1.0%)
手続きがわからない(情報がない) 24人(6.3%)
派遣機関がわからない 12人(3.1%)
派遣機関が身近にない 1人(0.2%)
人間関係がうまくいかない 6人(1.5%)
家族の理解がない 1人(0.2%)
その他 20人(0.2%)

人によってばらつきがある

第17表 ガイドヘルパーの問題点
総数:20 複数回答:3つ
問題点 人数
日によってガイドの仕方にばらつきがある 4人(20%)
ヘルパーの知識・技術不足 4人(20%)
子ども扱いされる 1人(5%)
人間関係がうまくいかない 1人(5%)
プライバシーが守れない 5人(25%)
時間や回数が少ない 3人(15%)
必要としている時間に派遣してもらえない 2人(10%)

 ガイドへルパーを「利用していない」291人に利用しない理由を尋ねたものが、第16表です。「必要ない」41.5%ですが、残りの必要だが利用していない層が、58.5%と半数以上を占めています。理由としては、「ヘルパーとなる家族がいる」19%を占め、ここでも家族に負担がかかっている現状が浮き彫りにされています。
 また、「制度を知らなかった」11.3%、「派遣機関がわからない」3.1%と情報不足の問題点を指摘する声も挙がっています。新宿区では、新宿区社会福祉協議会がガイドヘルパーをコーディネートしていますが、ガイドヘルパーへの報酬が、アルバイトと同等くらいしか保障されていないためにマンパワーの確保が難しく、利用ニーズとヘルパー数が比例していない点にも問題があるといえます。
 ガイドヘルパーの利用を「利用している」24人にガイドヘルパーの問題点を尋ねたのが、第17表です。「プライバシーが守れない」が25%と多く、ついで「日によってガイドの仕方にばらつきがある」「ヘルパーの知識・技能不足」が各20%を占めています。これらは、障害の理解が希薄だったり、知識を向上させるための研修が頻繁に行なわれていない点にあると考えられます。
 現在、社会福祉協議会には、100人近いガイドヘルパーが登録しており、視覚障害者の外出だけでなく、高齢者の通院等の外出にも対応しています。

もっと利用したい

第18表 手話通訳・要約筆記者の利用頻度
総数:287人
利用している 12人(4%)
月に1回 3人(25%)
2~4回 4人(34%)
5回以上 4人(33%)
何ケ月かに1回 1人(8%)
利用していない 275人(97%)

 手話通訳を利用している12人に利用頻度を尋ねたものが第18表です。月に「1回」3人、「2~4回」4人、「5回以上」4人という結果がでています。手話通訳者派遣事業に登録している人は多いのですが、実際に利用している人は4分の1程度と限られています。次の手話通訳者の問題点、第19表からもいえることですが、時間に関する問題を19%の人が指摘しています。手話通訳を利用するのは、病院に行く時や講習を受ける時、区役所に行く時などですが、通訳者の派遣が原則として月に4回以内で、1回の派遣に4時間までと規定があります。社会参加するためには、外部の人との交流は欠かせないものです。コミュニケーション手段がないと自宅に閉じこもりがちになったり、聴覚障害者同志のコミュニケーションに限られてしまいがちです。
 また、手話通訳者の質の向上を望む声も「日によって介護する人が違うため、介護人で内容がばらつく」、「知識・技術不足」、「プライバシーが守られない」とそれぞれ19%と多くなっています。手話通訳者の身分を保障することで、派遣時間を拡充し、より多くの人がより質の高い手話通訳者を利用できるように研修制度の見直しが望まれます。

質の高い援助を希望します

第19表 手話通訳・要約筆記者の問題点
総数:21人 複数回答:3つ
問題点 人数
介護人で内容がばらつく 4人(19%)
知識・技術不足 4人(19%)
人間関係がうまくい行かない 3人(14%)
プライバシーが守れない 4人(19%)
時間や回数が少ない 3人(14%)
必要としている時間に派遣してもらえない 1人(5%)
その他 2人(10%)

1:介護保険制度
 平成12年より施行される制度で、拠出型の介護サービスである。主として65歳以上の高齢障害者を対象とし、費用の一部を自己負担する。しかし、今までホームヘルパー制度等を利用していた障害者にとっては、サービスの低下等の問題点が提起されている。

セルフマネジドケアとは
 介護保険では、ケアマネージャーにより、利用者のケアプランが立てられるが、ケアプランの作成から、介護サービスの利用についてなどすべて、障害当事者が組み立てる方式。
 ケアプランでは、行政が介助料を直接障害者に支給し、その介助料を使用して介助者を障害当事者が雇う自薦式ホームヘルパーなどを組み込める。さらに、当事者のニーズに合わせて、ケアプランの作成が行なえるため、介護サービスを最大限に有効利用することが可能である。

介助 街を切り拓く  課題と展望

 障害者の生活を支援する福祉サービスのひとつに、ホームヘルプサービスがありますが、利用できるのは肢体不自由者に限られています。しかし、障害児・者が質の高い生活をし、地域で生活していくためには障害のニーズにあった様々な介助が必要です。例えば、知的障害児・者の場合、外出の際に目的地まで迷わず行けるよう付き添うヘルパーがいることで行動範囲が広がり、精神障害者は、精神障害者特有の不安定な状態を理解し、家事などを代行してくれるヘルパーがいたら不安も解消されるでしょう。
 また、制度の内容も充分であるとはいえません。ホームヘルパーの派遣回数が限られているために家事だけでなく入浴や排泄等生活に欠かせない介助さえ充分にできていないのが現状です。ヘルパーによって仕事にばらつきがあったり、派遣時間が合わないといった問題もあげられており、制度を有効に利用できずに高齢の家事介助している家庭も少なくありません。
 さらに、平成12年には介護保険が実施されます。介護保険は、利用者がサービスの利用料を1割負担しなけばなりませんが、その利用料をどう捻出するのかという問題があります。ヘルパーの質の向上が問題としてあがっている上に、サービス利用の体系が措置から契約に変わることで、豊かな供給体制もなく、満足なサービスが選択できない状況が懸念されています。また、介護保険は「介護が必要と認定されなければサービスは受けられず、その判定項目はねたきりや痴呆の高齢者を想定した内容になっているため、自立を目指す障害者が一緒くたに考えられては、実状に沿わないのも当然だといえるでしよう。
 そこで、障団連では自分で必要な介助サービスの利用を組み立てるセルフマネジドケアの導入や、障害当事者の生活を的確に把握し、本人の生活力を高めるエンパワメントの視点からアドバイスができるよう当事者が参加したケアマネジメント推進協議機関の設置を要望しています。また、地域自立を支えるために、一律的な20分程度の巡回型のホームヘルプサービスではなく、家事全般や身辺介助、生活管理の支援など、きめこまかに対応した24時間滞在型ホームヘルプサービスの実施が望まれ、こうした介助システムの整備は、マンパワー拡充に向けた最たる課題であると、思われます。


主題:
住み慣れた街の声 障害者問題における地域福祉の在り方調査・研究 No.1
1頁~34頁

編集発行者:
新宿区障害者団体連絡協議会

発行年月:
平成11年(1999年)3月

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