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厚生労働科学研究費補助金(障害者対策総合研究事業)分担研究報告書

東日本大震災における発達障害(児)者のニーズと有効な支援のあり方に関する研究
―岩手・宮城の発達障害の子どもたちと家族、支援者への調査から―

研究分担者 前川あさ美 東京女子大学

研究要旨

 本稿では、2012年度から継続の被災地での面接調査を支援者にまで広げて実施するとともに、彼らの語りから見えてきた「今回の震災時に足りなかったこと」、「震災を通して経験したこと、自分に起こったこと」を項目化し、質問紙によって発達障害を抱える子どもの保護者80名、彼らの支援者87名に調査を実施した結果の量的分析を報告し、その考察を行う。まず、「今回の震災時に足りなかったこと」として保護者と支援者の回答に多少の違いはみられたが、①居場所、②情報、③物資、④理解という四点の問題が見出された。また、震災後の経過とともに②ならびに③の問題は軽減・消失している様子がうかがわれたが、①については2013年においても、安心できる場(住居、地域、学校など)を確保できていない家族が多数存在していることが見出され、④については、震災前からの課題が増幅し、危機感をさらに強めている様子がみられた。「震災を通して経験したこと、自分に起こったこと」は、面接で得られた語りをもとに項目を作製し、因子分析を行った結果、『自己受容と自己成長への気づき』『子どもへの感動と発見』『人生への感謝や価値観の変化』『他者との絆や地域交流の重要性への気づき』の4因子が抽出され、Post traumatic growthと類似した内容が見出された。こうした体験は、震災直後の様々な不足を体験したにもかかわらず経験していた。また、面接ならびに質問紙の自由記述で見えてきた、震災から3年という年月が経ったことで体験するようになった新たな『サバイバーズ・ギルト』にも注目したい。最後に、「未来の震災をみすえて心掛けておくこと」として①自分を守る力、そして防災教育の必要性、そして②経験を語り継ぎ、蓄積する必要性、がうかびあがった。そこで、発達障害を抱える子ども本人が、あるいは家族とともに主体的に取り組める防災ツールとしてのアプリ開発を開始した。これは、自己理解や他者とのコミュニケーションにも有効なツールとなると考えられた。②の経験を語り継ぎ、蓄積することを実行するために、被災地の方々と協力して「発達障害と災害」というリーフレットを作成した。

Ⅰ.はじめに

 2013年度は、大きく分けて、以下の三つの活動に従事した。一つは、前年度からの被災地における面接調査を継続するとともに、そこから見出された仮説を検証すべく、質問紙を作成して、被災地の発達障害の子どもを抱える家族と彼らの支援者に実施をした。二つ目として、面接調査の過程で見出されたバーンアウト予備軍となっている支援者を支援するために、彼らが必要としている「理解を広げる活動」に協力し、支援者自身への研修とケア(家族に寄り添う力、面接のしかたなど)と、家族への講演(障害を持つ子どもへの理解など)を行った。また、彼らの協力を得て、彼らの経験をまとめた「発達障害と災害」のリーフレット(付録参照)を作成し、被災地内外に配布を行った。震災を経験したことによって、①支援者はもとより、家族やコミュニティにおける障害理解の必要性、および、②支援者たちの専門スキル習得の必要性が強まっていること、また、自分たちができることを積極的に行動したいという意欲が高まっていることがうかがわれた。これらはある意味で、個人のレベルを超えたコミュニティレベルでの震災後のPTG(Post traumatic growth)であると思われた。三つ目として、面接と質問紙の自由記述から子どもと家族が主体的に関われる防災ツールの開発の必要性を感じ、女子美術大学の教員に協力していただき、前川(2011)の「自分を守るカード」をもとに、防災アプリを開発することとした(2014年3月に、宮城県仙台ならびに石巻で紹介、被災地の支援者、保護者の意見をいただいて、再度改良中)。このアプリは、防災に主体的に関わることを可能にするだけでなく、自分のことを知る機会を提供したり、震災時ならびに日常において他者とコミュニケーションをとったりするうえでも有効に活用できることが被災地でのモニターによってうかがわれた。
 さて、本稿では、面接調査から見出された内容と、それをもとに作成された質問紙によって明らかになった結果を中心に報告していく。

Ⅱ.面接調査

1 目的

 被災をした発達障害の子どもを抱える家族と支援者に面接を行い、そこから見出された課題をもとに項目を作成し質問紙調査につなげること目的とする。

2 方法

 岩手県、宮城県の沿岸部ならびに内陸部に在住で被災をした発達障害の子どもを抱える家族21名と支援者8名に個別、あるいはグループで面接を実施した。面接ガイドは緩やかなものとし、リサーチクエスチョンとして「不足していた(不十分であった)ことはどんなことだったか」「助けられたこと、あるいは必要としたことはどんなことだったか」「震災後、子どもや自分が体験したこと、感じたこと、気付いたことはどのようなものであるか」を想定して、震災時、震災後の体験をできるかぎり自由に語ってもらうようにした。「語り」全体から、リサーチクエスチョンに相応した内容を取り出し、意味のまとまりからカテゴリーを生成し、名前をつけた。

3 結果

3-1 足りないもの(数値は、語りの中ででてきたコードの数で、一人の協力者が語りの中で一度は言及しているときには1として数値化)

 「居場所」の不足(23)「情報」の不足(10)「物資」の不足(22)「理解」の不足(28)の4つのカテゴリーが見出された(表1)。「居場所の不足」には震災直後の避難所が、子どもの特性や保護者の自責の思いから安心していられる場所とはならなかったこと、また、その後、コミュニティが分散してしまった仮設住宅においても同様に安心できない経験をしていたこと、さらに、学校などの統廃合により、日中の子どもたちの安心できる居場所も減少してしまったことなどが含まれる。「情報の不足」には、必要な情報が提供してもらえなかったことやせっかく手にした情報の正確さに信頼がおけなかったことが含まれる。特に必要としていた情報としては、ライフラインや支援物資についての情報、危険度(原発など)についての情報、子どもの学校などについての情報とともに、発達障害の子どもが震災後にどのようになるか、どのようにケアをする必要があるのかといった特定の情報がほしかったという記述がみられた。「物資の不足」は、生きるために必要な衣食の物資が、居場所が定まらなかったことで届かなかったり、また、子どもたちのこだわり故に、提供された物資が活用できなかったりということなどがあげられた。「理解の不足」は、沿岸地域において、発達障害や特別なニーズのある子どもについての理解が震災前から十分ではなく、専門家の数も足りていなかったことが含まれている。
 また、これらの4つのカテゴリーの中で、「居場所」と「理解」の不足への不満は、約3年を経過しても協力者の生活の安定と安心を脅かしていた。親の会や関連団体による協力やネットによる通信の正常化に伴い、必要な情報や特定の物資が迅速にそれを必要としている家族や個人に届くようになっていったのに対して、居場所および理解には、大規模な被災によって混乱したままのコミュニティのエンパワメントが必須であると思われる。

3-2 助けられたこと、必要であるもの

 彼らの語りから「居場所」「情報」「物資」「理解」の4つのカテゴリーで説明できるものが浮かび上がってきた。助けられたものと必要である者は共通している点があるので合わせて説明すると、「居場所」としては、個室、発達障害の子どもや家族が安心していられる避難所、専門家や支援者のいる避難所、福祉避難所の必要性が語られた。「情報」としては、事前に子どものバックグランド情報を登録し、特定の避難所等に登録しておく必要性や、情報を流しっぱなしにせず、必要なものを選択して受け取れるようなシステムの必要性、そしてテレビなどの映像のある情報についても受信を選択できるようにしたいといった要望がみられた。「物資」としては、ウェットティッシュといった衛生用品の他、偏食や感触など子どもたちそれぞれの『こだわり』に対応した食料・衣類・玩具といったもの、また、空いている時間にできるゲーム、そうしたゲーム機やiPad用の電池の予備や充電機が目立った。「理解」としては、発達障害を理解している専門家・支援者・ボランティアの存在、気軽に相談できる専門家の存在を希求していた。

3-3 子どもたちと家族が体験したこと

 発達障害を抱える子どもたちは、前年度の報告でも説明したように、震災直後は比較的混乱も少なく、安定しているように見えたが、「ライフラインの復旧とともに」あるいは「日常生活がもどるとともに」これまで以上に混乱した状態を見せるものがでてきた。その中でも複数の保護者が語った子どもの反応としては「赤ちゃん返り」「自傷衝動が高まる」「パニックをおこしやすくなる」「震災関連の映像へのこだわりあるいは極度の恐怖」「震災関係の質問の繰り返し」「長期化する震災に関連したごっこ遊び」「誤った思い込み(自分が悪い子だったから、家が流されたなど)」といったものがあり、わずかだが震災後一年以上続いていると語る保護者もいた。他方で、全協力者の半数が、自発的に肯定的な体験も語っていた。それらの内容は、いわゆるPost Traumatic Growthといわれる成長に類似したもので、彼らの語りをもとに項目を作成し、質問紙調査を行うこととした。
 また、多くの保護者並びに支援者が、時間の経過とともに、今回の震災から未来の震災に向けての意識を強めていて、あらためて「防災」あるいは、「備え」ということを強調していた。特に、防災教育や備えの重要さについて、「主体的に」という表現が頻繁に聴かれ、障害をもっている本人であっても、能動的主体的に防災や備えに関われるような工夫が必要であるということを語っていた。さらに、今回の体験から学び、教訓を蓄積する必要性を語るものも少なくなかった。

Ⅲ. 質問紙調査

1.目的

 面接の内容の質的分析によって見出されたカテゴリーをもとに、項目を作製して量的に分析を試みることを目的とする。

2.方法

 宮城県仙台市、気仙沼市、石巻市、岩手県宮古市、釜石市の支援者87名(女性56名、男性22名、年代は表2)、発達障害の子どもを抱える保護者80 名(約95%が女性、年代、子どもの人数は表3、表4)。被災地支援で出会った沿岸部の専門相談員、発達障害支援センター職員らに依頼し、協力者を募った。支援者の職場は保育関係が8名、学校関係が70名、医療・保健関係が3、療育関係8名(複数回答あり)で、常勤が96.4%であった。

3.結果

3-1 震災後の問題と要望

 震災後に経験したかの程度を「まったくあてはまらない」「あまりあてはまらない」「どちらともいえない」「だいたいあてはまる」「とてもあてはまる」の5件法でたずねた。「居場所」「情報」「物資」「理解」の不足は、項目分析を行い、Cronbachのα係数が0.754~0.919であったため、項目得点の総和の平均をそれぞれの不足得点にした。また、こうした不足を合わせた尺度のαは0,901と高かったので項目得点の和の平均を震災後ストレス得点とした。これら尺度の平均と標準偏差、α係数は表5のとおりである。また、以下の%の値は、「4.だいたいあてはまる」「5.とてもあてはまる」に回答した割合である(表6)。「居場所」の問題としては、保護者の58.9%、支援者の75.9%が避難所で他者と生活することは難しかったと回答、避難所が安心できる場でなかったという回答も、保護者の51.4%、支援者の72.4%にみられ、避難所にいることに抵抗を感じた(感じている様子だった)という回答は、保護者の38.9%、支援者の39.0%にみられた。保護者は、福祉避難所であればいられるかもしれないと27.1%が思っていたが、福祉避難所であったとしても迷惑をかけてしまうことを33.8%が気にしていた。一時避難所に避難しなかった人は全体の37.5%で、彼らがどのようなところで過ごしていたかを保護者のデータでみると、「半壊状態の自宅」(22名)、「実家」(15名)、「知人の家」(5名)、「車の中」(12名)、その他が10名であった。「居場所」に関して、保護者のほうが不満を感じていると評価する割合(平均値も含め)が支援者に比べて低いが、分散は保護者のデータのほうが倍近く大きい。つまり、個人差が保護者の回答のほうが大きかったことを示すものであろう。また、あるとよかった場所として、「子どもが動き回れる空間や遊び場」「子どもを預けられる場」「女性のプライバシーが守られる場」「個室やパーティションで区切られた場」をあげるとともに、「清潔で安心できるトイレ」の記述が目立っていた。タイプとして洋式が必要であるという記述も多かった。避難所を設ける際、こうした場を整備することを配慮していくことがとても重要なことだと思われた。
 「情報」の問題としては、保護者の76.3%、支援者の65.5%が情報の入手に苦労した(している様子だった)、保護者の66.7%、支援者の57.5%が、情報がなくて不安だった(不安そうだった)、保護者の38.1%、支援者の33.3%が、情報が正確であるかわからず不安だった(不安そうだった)、保護者の24.0%、支援者の36.8%がテレビのつけっぱなしが負担だった(負担という家族がいた)と回答していた。数値をみると、家族は、「居場所」よりも「情報」の不足について不満を強く抱いている様子がうかがわれた。必要な情報としては「居場所」「物資」、生活についての情報とともに、子どものサポートについての情報という記述がみられた。
 「物資」の問題としては、保護者の34.6%、支援者の27.6%が必要な物資が届かなかったと回答していたが、保護者の35.1%、支援者の32.1%は必要な物資が届いたとも回答していた。物資を得るのに、長時間並ばねばならなかったと、保護者の25.2%、支援者の26.4%が回答していた。ほしかった物資としては、薬、おむつ、ウェットティッシュといった衛生用品、防寒具、好き嫌いがあるため特定の食べ物や飲料、あいている時間に一人で遊べるようなもの(ゲーム、折り紙、DVDなど)、洋式トイレ、発電機や電池、充電器といったもの複数の協力者から記述されていた。
 「理解」に関する問題としては、保護者の66.3%、支援者の75.9%が社会における障害についての理解の必要性を感じていた。障害についての理解をもった人間の存在を求める意見も保護者の48.3%に、障害を理解している人材が足りていないという意見は支援者の74.7%にみられた。一方で、保護者の14.4%は子どもに障害があることを知られたくないと回答していた。支援者の73.5%は保護者に「レスパイト」が必要であることを訴えていた。自由記述においても、「保護者へのケア」の必要性を訴える内容が多くみられた。 保護者のデータにおいて、こうした4領域の不足の間の相関関係(表7)をみたところ、「居場所」の不足は他の不足すべてと正の相関が(「理解」とr=0.455 p≦0.001、「物資」とr=0.378 p≦0.001、「情報」とr=0.311 p≦0.01)がみられた。多くの保護者が居場所がないことによって、情報や物資を得られず、理解やその他の支援も受けにくくなっていたことが示唆された。また、「情報」と「理解」の間にも正の相関(r=0.505 p≦0.001)があり、周囲からの理解を得られないからこそ、保護者が自ら情報を集めることに苦労していたことがうかがわれ、逆に理解があるコミュニティにいた家族は情報を得ることができていた様子がみられる。「理解」と「物資」の間にも正の相関(r=0.310  p≦0.01)があったが、コミュニティで理解を得られていることが、必要な物資を得るのを助けていたということかもしれないし、物資を得る中で、理解を深めてもらう体験をしていたのかもしれない。
 「子どもの障害のことを知られたくなかった」という項目との相関をみると、2つの不足、つまり、「情報」(r=0.328  p≦0.01)、「理解」(r=0.430 p≦0.001)で、自分の子どものことを開示できないことが適切な情報を得たり、周囲から理解を得たりすることを妨害していた可能性も示唆された。子どものことを知られたくないという抵抗が強い保護者13.8%いたが、かれらは、専門家の支援を強く望んでいた。

3-2 Post traumatic growth

 保護者のデータも支援者もデータも共通性の低い項目を削除し、20項目に因子分析(主因子法、プロマックス回転)を行ったところ、4因子構造が抽出された。4因子による説明分散は66.28%である(表8)。第一因子に高い因子パターン値を示したのは「自分のことが前よりも好きになった」「自分という人間は意外に強いと思うことが増えた」といった項目で、『自己受容と自己成長への気づき』と命名した。第二因子に高い因子パターン値を示したのは「地域での交流が増えた」「他者との絆を強く感じるようになった」という項目で、『他者交流の重要性への気づき』と命名した。第三因子に高い因子パターン値を示したのは「生きていることに感謝の気持ちを持つようになった」「前とは異なる価値観を持つようになった」といった項目で、『人生への感謝や価値観の変化』と命名した。第四因子に高い因子パターン値を示したのは「自分の子どもに感動することが増えた」「自分の子どもについて新しい発見があった」というような項目で、『子どもへの感動と発見』と命名した。因子名と同名の下位尺度を因子パターン値の0.45以上の項目から作成した。下位尺度のCronbachのα係数は0.831~0.879 で、全体でも0.937となり、内部一貫性から見た信頼性は確認できたといえよう。下位尺度の平均と標準偏差は表9のとおりである。
 自由記述からは「行政への関心が強まった」「電気に依存しない生活を工夫するようになった」「仕事に対する責任感が強まった」「役に立ちたいという気持ちが強くなった」といったものがあり、「防災意識が高まった」という内容は複数の協力者が書いていた。
 こうした震災後のPTGは、回答者の性差、年齢差はなかったが、保護者において、子どもの数が3人以上と多い人ほど一人っ子、二人きょうだいの場合よりも、保護者の『自己受容と自己成長への気づき』、『子どもへの感動と発見』、そしてPTG全体の得点が高くなることが分散分析によって示唆された(表10 )。興味深いのは、二人きょうだいの保護者のそうした得点がいずれももっとも低くなっていたことである。障害を抱える子どもともう一人の子どもというきょうだい間に、非常時において日常ではみられなかったストレスが生じていたということかもしれない。きょうだい数が多い場合の年齢については今後分析をしていきたい。年齢が高い子どもがいる場合、そうした子どもが保護者の協力をし、レスパイトが可能になったり、道具的支援をしたりということがあったのかもしれない。
 一方、震災後のストレスや不安反応として、「不安」「落ち込む」「涙が出やすくなる」「疲労感」「無力感」「自信喪失」「悲哀感」といったものがあり、「罪悪感」が3年経って新たに体験するようになったという人が複数みられた。これは、復興とともに、新しい居場所を見つけたり、新しい仕事を見つけたりという経験をしている被災者が、自らの「乗り越えた」経験を幸福感としてとらえるのではなく、「まだ大変な人がいるのに申し訳ない」「自分だけ幸せになるのはよくない」と捉えてしまうために生じている様子がうかがわれた。震災直後などにみられた『サバイバーズ・ギルト』とは異なるタイプの罪悪感、「回復していくこと、乗り越えていくことへの不安」というような感情だろうか。特に支援者たちにみられたということは、被災者でもあった支援者が3年の年月の間にひとつひとつ乗り越えいった体験を、肯定的に評価する一方で、他の被災者、あるいは支援を必要としている人や家族との間にこれまで感じあっていた対等な関係をくずしてしまうのではないかといった心配をしているのかもしれない。これについてはさらに調査をすすめ、彼らの精神的回復を妨害することがないように支援をすすめていきたい。 震災から時間が経過するにつれて、こうした罪悪感の体験に苦悩するものがでてくることを軽視してはならないと思われる。

3-3 未来に向けて

 自由記述から、①自分を守る力をはぐくむことや主体的にかかわれる防災教育を展開する必要性、そして、②今回の経験を語り継ぎ、活用していく必要性がうかびあがったが、これらの内容は面接調査における「語り」からも出てきたことである。防災教育の重要性において、頻繁に出てくるのは「主体的」というキーワードである。受動的な防災ではなく、自分で考え、自分で動き、準備する防災教育の工夫について、保護者も支援者も同様に重要事項だと考えていた。そこで、発達障害を抱える子ども本人が、あるいは家族とともに主体的に取り組める防災ツールとしてのアプリ開発を開始した。これは、前川の「自分をまもるカード」を土台に、自己理解や他者とのコミュニケーションツールともなるソフトである。作成の過程で、被災地の家族、支援者、特別支援学校の教員に協力してもらい、多くの具体的助言を得た。また、②の経験を語り継ぎ、蓄積することを実行するために、被災地の方々と協力して「発達障害と災害」というリーフレットを作成した。

Ⅳ.おわりに

 2014年度は、被災地の人たちの間にみられた「回復していくこと、乗り越えていくことへの不安」というような『サバイバーズ・ギルト』と、PTGについてさらに理解を深めていきたい。また、彼らの力を借りて、発達障害をもった子どもと家族のための防災教育を具体的に展開していきたいと考える。

Ⅴ.参考文献

前川あさ美 2004 心の傷つきと心理的援助 ほんの森出版
Tedeschi,R.G. & Calhoun 2004 Post traumatic Growth:Conceptual Foundation Empirical Evidence, Philadelphia,P.A. Lawrence Erlbaum Associates

(資料1)
「自分を守るカード」アプリケーション使用方法

(資料2)
リーフレット「発達障害と災害」

表1 震災後の4つの不足

場所動き回れる場 遊び場 子を預けられる場所 女性のプライバシーが守られる場 
家族ごとの個室 パニック時のクールダウンスペース 
パーティーションで区切った場所 福祉避難所 トイレ 入浴の場所など
情報いつ電気がつくか 水のボトルはいつ来るのか 食事は今日何回配られるのか 
どこに行けば子どものことが分かる専門家がいる? 家には戻れるのか 
開いているスーパーはある? 家族の安否 正しい情報など
物資薬 オムツ 暖をとれるもの ウェットティッシュ 食べ物 マンガ 
電池不要のゲーム ろうそく ガソリンなど
理解保護者のケア 保護者との相談 アドバイスしてくれる人 気を使わない理解者 
慣れている人 発達障がいへの誤解に傷つく 子どもについて気がね 
怒鳴られたなど

表2 支援者の年代

 度数パーセント
20代910.3
30代1416.1
40代2832.2
50代以上3337.9
不明33.4
合計87100.0

表3 保護者の年代

 度数パーセント
20代33.8
30代1518.8
40代3847.5
50代1923.8
不明56.3
合計80100.0

表4 子どもの人数

 度数パーセント
1人911.30
2人4860.00
3人1417.50
4人以上78.80
不明22.50
合計80100.00

表5 震災後のストレス(4つの不足) 保護者データ

 平均SDα係数(項目数)
場所3.3221.3140.858(3)
情報3.0800.7780.754(7)
物資2.4670.9300.791(6)
理解3.0921.0530.919(8)
震災時ストレス2.8900.7150.901 

表6 4つの不足の項目ごとの平均と「あてはまる」の割合  保護者データ

項目内容平均値標準偏差4と5の%
場所② 3・14直後、一次避難所に行くことに抵抗があった。2.931.54138.9
③ 一時避難所は、自分たち家族には安心していられる場所ではないと思った。3.391.56351.4
⑥ 避難所で他者と生活することは自分たち家族には難しいと思った。3.671.35558.9
情報① 情報をどのように手に入れるかということに苦労した。4.011.13776.3
③ 情報が多すぎて困った。2.221.13110.4
④ どの情報が正確であるか分からず困った。3.221.25038.1
⑤ テレビの放映を見続けることが負担だった。2.711.28224.0
⑥ 情報がないと不安でしかたなかった。3.831.20166.7
⑦ いろいろ情報が入ってくるのが怖かった。2.851.34129.8
⑨ 子どものいつもと違う様子に対してどうしたらいいかに関する情報がほしかった。2.761.24824.3
物資② 必要な物資が届かず困ることが多かった。3.011.22534.6
④ 配給をもらうのに長い時間待たないといけないことがよくあった。2.611.40725.2
⑤ これまで制限していたお菓子や添加物の入った食べ物が配給されて悩むことがあった。1.901.0595.7
⑥ 衣類の配給が不足していた。2.511.31923.9
⑦ こだわりがあり、せっかく配給されたものも使えないことがあった。2.031.20010.1
⑧ あいている時間に子どもが一人で遊べるようなものがほしかった。2.641.47524.6
理解① 障がいについて理解している人が近くにいてほしかった。3.281.42948.3
② 障がいについて、もっと社会の中で理解が進むことが必要だと感じた。3.831.30266.3
③ どこにいけば、子どもや自分たち家族に支援をしてもらえるかがわからなかった。3.331.41150.0
④ 支援者がいても、どのようなことを頼んでいいのか分らなかった。3.071.358 37.9
⑤ 支援者がいても、自分がほしいアドバイスをもらうことはできなかった。2.491.0487.7
⑥ いつもと違う様子の子どもについてどうしたらいいかを支援してほしかった。2.551.18414.9
⑦ 子どもの問題について知識を持っている人に支援をしてもらいたかった。2.951.36334.2
⑩ 保護者を「ひとやすみ」させてもらえるような支援がほしかった。2.771.25826.6

表7 尺度間の相関関係 保護者データ

 一次避難所
不安
情報不満物資不満理解支援
不満
自己受容・
自己成長
他者交流価値観
変化
子ども
発見
震災時
ストレス
PTG
一次避難所不安1.000         
情報不満0.3111.000        
物資不満0.3780.1611.000       
理解支援不満0.4550.5050.3101.000      
自己受容・自己成長0.0990.286-0.0280.2191.000     
他者交流-0.0240.092-0.0480.0820.5291.000    
価値観変化0.1090.171-0.0870.0760.4770.5591.000   
子ども発見0.1790.3930.1180.2750.5470.4790.4811.000  
震災時ストレス0.6590.6470.6590.8470.1660.0110.0660.3141.000 
PTG0.0320.320-0.1230.1420.7120.7320.6710.7110.1131.000

表8 Post Traumatic Growth の因子分析(主因子法 プロマックス回転)

 因子 1因子 2因子 3因子 4共通性
③ 自分のことが前よりも好きになった。0.795-0.040-0.0970.1630.629
④ 自分という人間は意外に強いと思うことが増えた。0.7710.048-0.1900.1990.629
② 自分の経験を何かに生かせるのではないかと思うことが増えた。0.766-0.1610.0360.0550.536
① 自分について「弱いところ」もあるが「いいところ」もあると思うようになった。0.696-0.2550.1840.1110.527
⑤3・11の前よりも今のほうが自分は他者と積極的に関わっている。0.6440.205-0.0580.0110.544
⑥他者と一緒に生きているということを前よりも強く感じるようになった。0.4750.3490.268-0.1590.716
⑳地域の中で、人々がお互いに声を掛け合う状況が増えた。-0.2010.993-0.0500.0350.808
⑱地域での交流が増えたと思う。-0.0750.869-0.0490.0460.677
⑲知らない人同士で助け合うことに対して前よりも抵抗が少なくなった気がする。0.1100.808-0.1820.2490.764
⑦他者との絆を強く感じるようになった。0.2790.5560.264-0.3690.720
⑰これまでよりも、困っている人がいると自然に助け合うようになったと思う。-0.1420.5140.2880.1670.532
⑩生きているということに、感謝の気持ちを持つようになった。-0.130-0.0380.9330.1370.845
⑪生かされていることの大切さを強く感じるようになった。-0.060-0.0400.8520.2110.815
⑨自分は、前とは異なる価値観をもつようになった気がする。0.298-0.0570.661-0.1800.567
⑫人生において何が大事であるかを考えることが増えた。-0.1300.0970.5630.4450.708
⑭自分の子どもを見ていて、これはすごいなと感動することが増えた気がする。0.1890.041-0.0570.7690.693
⑬自分の子どもについて新しい発見があった。 0.2560.0470.1220.6910.787
⑮障がいやいろいろな問題を抱える子どもの子育て経験が自分を支えていると思った。0.0530.0400.2210.4970.432
累積寄与率(%)41.7352.0660.4166.28 

表9 Post traumatic growth(4つのPTG) 保護者データ

 平均SDα係数(項目数)
自己受容と自己成長への気づき3.1220.8220.869 (6)
他者交流の重要性への気づき3.3330.8800.879 (5)
人生への感謝や価値観の変化3.7350.9540.866 (3)
子どもへの感動と発見3.6750.8950.831 (3)
PTG67.59014.1870.937  

表10 子どもの人数によるPTG

 子どもの数
1人
子どもの数
2人
子どもの数
3人以上
F値
自己受容・自己成長3.238
(0.670)
2.488
(0.979)
3.296
(0.588)
6.057 **
他者交流3.409
(0.741)
2.743
(1.214)
3.667
(0.812)
4.113 *
価値観変化3.965
(0.787)
3.071
(1.334)
3.778
(0.745)
5.140 **
子ども発見3.837
(0.770)
3.202
(1.059)
3.926
(0,894)
3.298 *
PTG70.489
(11.874)
56.286
(19.932)
73.333
(9.657)
6.667 **

注:()内の値は標準偏差