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厚生労働科学研究費補助金(障害者対策総合研究事業)分担研究報告書

障害(児)者の個人避難計画と避難所における配慮ガイドラインの作成
~地域防災訓練における視覚障害者へのガイドヘルプの有効性と課題~

研究代表者 北村弥生 国立障害者リハビリテーションセンター研究所 主任研究官

研究要旨

 地域防災訓練への視覚障害者の参加を可能にする条件と課題を明らかにする目的で、訓練会場2校に視覚障害モニター各1名、手引き者各1名を派遣し、支援状況を記録すると共に参加者と自主防災組織長に面接法による調査を行った。その結果、1)防災訓練の開催を含めて市および町内会の防災活動に関する情報を晴眼の同居者のいない視覚障害者は入手しにくいことが明らかになり、2)ガイドヘルパーの同行により送迎、会場での手引き、プログラムと状況の説明は実現したが、体験型のプログラムが少ないことがモニターから指摘され、3)防災訓練への参加により、地域のボランティアからモニターが会場で声をかけられたり、町内会長および民生委員と挨拶ができるなど地域との関わりのきっかけとなった。これらの結果から、1)災害に関する基礎情報とその更新の提供が確実に行われる仕組みが必要であること、2)視覚障害者に適した防災訓練の普及と避難所の環境確認を当事者が自主的に行うためのチェックリストが有効であること、3)地域の人材活用のきっかけに防災訓練を利用できる可能性があることが示唆された。

A.はじめに

 災害時における視覚障害者の困難のひとつは、事物の位置および時間的な動きの変化により環境認知ができなくなることであると考えられる。例えば、避難所までの動線、避難所での配置の理解、仮設トイレなど通常とは違う使い方の教示の必要性が指摘されている[1]。これらの課題の一部は事前に学習することが可能と考えられる。例えば、避難所までの経路では、道の形状や障害物は完全には予想できないために完全な単独歩行は勧められないが、危険箇所をタウンウオッチで確認する試みはある[2]。また、避難所までの道順を学習することで安全確保を増すことは可能であると考える。避難所内の設備の配置は、当日にならないと完全にはわからず、また、毎日、変化すると予想されるが、指定避難所の基本的な建物配置と部屋の配置を事前に知ることは、安心と安全を増すと考えられる。仮設トイレの構造、断水した際に紙を流さずにゴミ袋に入れるであろうこと、汚物を各自で流したり回収することを事前に知り、具体的な操作を触って学習することも有効であると考える。しかし、これらの事前学習を実践する機会は見当たらない。  困難の第二点は、通常、利用しているガイドヘルパーも同時に被災するために、環境認知や手引きを近隣住民に依頼する必要があることである。手引きや状況説明をしたことのない人に当事者が必要なときに支援方法を伝えたり、一般的な支援方法を事前に伝える機会を持つことが望ましいと考えられる。
 そこで、本研究では、地域の防災訓練において視覚障害者に手引き者を同セ引きさせることで、1)視覚障害者が防災に関して地域で共有する知見を得ること、2)視覚障害者が避難所の環境認知を行うこと、3)視覚障害者の存在を地域に認知させること、4)視覚障害者への支援方法をガイドヘルパーの活動から地域に知らせることを目的とする。

B.方法と対象

 埼玉県所沢市における平成25年度地域防災訓練において(8月31日)、X小学校に1名の全盲者Eさん(60歳代女性)、V小学校に1名の全盲者Fさん(60歳代男性)にモニターとして参加を依頼した。Eさんにはガイドヘルパーが、Fさんには歩行訓練士が同行した。
 X校で防災訓練を主催するZ自主防災組織には、Eさん以外に聴覚障害者1名と手動車いす利用者2名の参加を依頼し、著者は事前打ち合わせ会議に2回に参加した。X小学校では、全体の進行と支援状況の記録を動画と静止画で行った。
 V校については、事前にFさんに市の災害時要援護者名簿への登録、市が全戸配布した防災ハンドブックの再請求を依頼し、地区担当の民生委員から事前に全体状況の聞き取りを電話でFさんは受けた。日常生活については、Fさんはガイドヘルパーもヘルパーも使用しておらず、民生委員にも特に生活上の困難を相談しなかった。Fさんが居住するマンションには他に複数の要援護者名簿登録者がおり、すぐに、地域支援者を決めることはできなかった。
 また、Fさんは数年前に転入したため、町内会への入会も依頼した。町内会長からの電話に対して、Fさんは全盲であることを告げ、回覧板でなく電話やメールで連絡を受けることとなった。
 地区担当の民生委員、町内会長、Fさんと災害時の避難誘導について相談する機会は防災訓練までに調整することはできなかった。V校の自主防災組織への連絡と当日の記録は行わなかった。

C.結果

1.事前情報

 視覚障害モニター2名は晴眼の同居者がおらず、年度初めに市役所から全戸配布された「防災ガイドブック」の存在を知らず、一次避難所がどこかも知らなかった。市内には、デイジー様式で録音図書を制作するボランティア組織もあるが、Fさんは市役所危機管理課に録音版の製作を依頼し、予算請求をすると回答を得た。
 町内会に入会しても、防災訓練があることはFさんには伝わらなかった。しかし、防災訓練の日時を著者からFさんに伝えたところ、Fさんは市役所危機管理課に参加することを伝え、危機管理課から、当該地区の町内会長および民生委員に、Fさんの参加が事前に連絡された。

2.避難所までの移動

 Eさんに対しては自宅までの出迎えを、Fさんに対しては避難所までの経路上で単独歩行が可能な場所までの出迎えを手引き者に依頼した。いずれも自宅から最寄りの一次避難所である小学校までの距離は徒歩10分以内で手引きに問題はなかったと報告されたが、両名共に最寄りの一次避難所に行ったことはなかった。

3.防災訓練会場でのガイドヘルプ

 Eさんはガイドヘルパーから手引きと状況説明を得て防災訓練に参加し、「実際の避難所のトイレを触って見られたことがよかった。が、見学ばかりで、よくわからなかった。」「介助者が送迎してくださり、色々説明をしてくだされば、今後も訓練に参加できる。見学だけでなく、実際に体験できることを希望する。」「建物やトイレのバリアフリーではなく、とにかく介助者が必要だと思います。普段なら人の手を借りずに生活できても、災害という特別なときにはなおさら介助者が必要です。」と回答した。

4.地域住民とのかかわり

 防災訓練当日に、Eさんには町内会長を、調査者から紹介した。Eさんは「Z町の自治会長さんとお会いできて、お話しできたことがよかった」「全盲で、介助者なしではほとんどどこにも行かれないことを、地域の人に知ってほしい。一人で飛び込む勇気がなく、地域の人の顔も名前もわからないので、声をかけて誘っていただけると自治会の総会にも参加できると思う。」と話した。また、Z町に住むボランティアに声をかけられたことも報告された。Eさんは当事者組織での活動をしており、ガイドヘルパー依頼したり、家事援助サービスを利用していたが、町内会の活動に参加したことはなかった。
 Fさんは、受付で、町内会長と民生委員3名に引合され、訓練中、同行を得た。また、帰路は、往路とは違う交通量の少ない裏道の案内を受けた。
 Fさんに同行した手引き者からは、「地域の方は、座った時にたまたま鞄の上から白杖が転がって程度でも拾うなど、本人ができそうなことでも手伝ってしまうような感じがしたこと、その時の状況説明など(どんな場所で、周囲の人が何をしているか)、状況を言葉にして説明する必要があることについては情報が不足しがちであった」と、指摘された。
 Fさんは、定年退職後も非常勤で仕事を継続しており、当事者組織での活動はしていたが、「近所とのつきあいはなく、ヘルパー・ガイドヘルパーも人間づきあいが面倒なので、まだ、使用しようとは思わない。」と話した。しかし、防災訓練後の10月には地区の班長から行事の案内について電話受け、11月には町内会長からメールで町内会の活動予定がFさんに送られたことから、町内会の活動に参加することにも意欲を見せた。

D.考察

1.視覚障害者に適した防災訓練

 視覚障害モニター2名は手引き者から送迎・手引き・状況説明を得て、地域の防災訓練に参加し基本的な情報を得ることができた。しかし、消火器の使い方、バケツリレーなどの見学が多いプログラムであったために、実際に体験するプログラムになることを希望した。地域住民と知識と経験を共有することに加えて、障害の特殊性に応じた防災訓練あるいは参加できる防災訓練を実施する価値があると考える。すでに、盲学校の児童・生徒が地域住民と共に楽しみながら防災活動を行う「防災運動会」を岐阜県のNPOが2007年から実施し[*]、消防庁長官賞を受賞するなど高く評価されており[*]、普及が期待される。
 また、EさんとFさんは避難所のトイレを手引き者に促されて確認したが、モニターが自主的に避難場所の環境認知をすることはなかった。従って、小学校内の建物の配置、トイレの位置、トイレ内容の状況などの認知を自主的に行うためのチェックリストを用意する必要があると考えられた。

2.地域での支援者の発掘

 Eさんも回答したように、視覚障害者の災害時の困難は「普段できることもできなくなること」であといわれており[*]、Eさんは災害時の介助者の必要性を強く述べた。災害時に避難所を利用する場合には、避難所までと避難所内での移動支援をする人、避難所での生活(物資配給、トイレ、入浴など)において移動介助と状況説明をする人、避難所の環境整備をする人が必要であり、人材を地域内で育成することは必要であると考える。防災訓練でEさんが地域のボランティアから声をかけられたことは、地域内のボランティアを発端とする人材育成の機会として地域での活動への参加が有効であることを示唆する。

3.災害に関する情報提供

 防災訓練に参加する以外にも、災害に対する情報を視覚障害者に利用可能な形態で提供する必要があると考えられた。なぜならば、モニター2名は行政から全世帯に配布された防災ハンドブックの存在を知らなかったからである。また、ハンドブックは重要な情報ほど視覚的な効果を得るために画像として作成され、簡単にテキストファイルとして読み上げられない構造であった。従って、視覚障害者が災害に関する基本情報を確認し入手する方法の提供と更新情報を障害者に届ける仕組みの構築も必要であると考える。

E.健康危険情報

特になし

F.研究発表

1.論文発表

平成26年度発表予定

2.学会等発表

平成26年度発表予定

G.知的財産権の出願・登録状況(予定を含む。)

1.特許取得

なし

2.実用新案登録

なし

3.その他

なし