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厚生労働科学研究費補助金(障害者対策総合研究事業)分担研究報告書

マンション自治会における災害時要援護者支援
~首都圏の定住型マンションの事例~

研究代表者 北村弥生 国立障害者リハビリテーションセンター研究所

研究分担者 我澤 賢之 国立障害者リハビリテーションセンター研究所

研究協力者 青野 平吉 ボランティア組織 ふれあい

研究要旨

 定住型の分譲マンション(約300戸)における災害時要援護者支援、防災活動及び平時のコミュニティ構築について、東日本大震災時の自治会長に面接調査を行った。その結果、1)分譲時にコミュニティ構築がサービスとして提供されたと共に、入居者が意識的に取り組んだこともあり居住者の交流は活発であり、防災活動は自治会の重要事項として位置づけられていたこと。2)市役所からは災害時要援護者名簿登録者5名(障害者手帳所持者0名)の名簿が自治会長に届けられ、その対策については2年程度の検討の結果、同じエレベーターを使う区域33世帯において情報を共有し、平時から見守りを行うことを、登録者の了解を得て周知したこと。3)懇親会が活発なマンションの一部では、災害時に安否確認カードを交換する試みを開始し、マンション自治会では備蓄の整備、防災訓練も定期的に行われていたこと。4)防災訓練への高齢者の参加は少なく、高層階からの避難支援は未着手であったことが明らかになった。これらの結果から、町内会に関する先行研究で報告されたように、定住型の分譲マンションでも、居住者の交流が活発である場合には、防災活動において災害時要援護者についても配慮がなされていた。自治活動と居住者の交流が不活発な場合には、要援護者支援の基盤となる居住者の交流を活発にするためには、要援護者支援および住民交流のノウハウや人材の提供の一時的な購入や公的支援が有効である可能性がある。避難支援方法は、紹介事例でも未解決の課題であったため、公的資源による解明が望まれる。

A.目的

 本研究では、災害時要援護者支援の取り組みを行っている定住型マンション自治会の事例を紹介する。防災対策は、自助、共助、公助の割合が7:2:1といわれており、共助は近隣での助け合いを指し[1]、その主体は、町内会や自主防災組織である場合が多い。近年、防災における共助の重要性が広く認知されたのは、阪神・淡路大震災では倒壊した家屋などの下敷きになって自力で脱出できなかった人の8割は近隣居住者などにより救助されたことに由来する[2]。
 一方、分譲マンション戸数は総世帯数の11.80%、首都圏では20.86%を占め[3]、わが国の居住形態として定着していることが指摘された[4]。分譲マンションでは居住者の流動性は低く、築年数に従う高齢化は課題である。また、マンションは住戸の個別性、匿名性が高く、自治会加入率が低いことは、高齢者・障害者が民生委員、町内会によるセイフティネットから漏れ、災害時の安否確認及び避難等の問題も指摘されている。分譲マンションには管理組合の設置が区分所有法により義務付けられているが、施設・設備の維持保全が目的の場合が多く、共助による防災・防犯、非常時相互支援などの機能が働くことは少ない問題もある[4]。そこで、本研究では、定住型マンションにおける要援護者支援の取り組み事例を紹介し、可能性と課題を考察した。

B.研究方法

  2011年3月11日の東日本大震災当時、首都圏のAマンション自治会長を務めていたB氏に対して、面接法による調査を行った。Aマンションは、都心から鉄道で約30分の距離にある駅から徒歩5分以内に立地し、1980年代前半に建設された総戸数約300、11階建て(一部は4階建て)のマンションであった。Aマンションを対象とした理由は、Aマンションは定住型として開発されたことと、市役所から町内会長に提供された要援護者名簿への対処を実現したという情報を得たためであった。町内会では、要援護者名簿の取り扱いおよび要援護者への対応方法に困難があると指摘されていた[4]。また、東日本大震災は、首都圏でも帰宅困難、計画停電、物資不足などの影響があったことから、東日本大震災発災時の自治会長B氏に調査を依頼した。
 調査は平成25年10月に約1時間実施し、ICレコーダーに記録し逐語録を作成して内容を整理した。調査当日に、B氏からAマンション自治会により作成された消防計画(火災・震災を主な対象とした防災計画)および広報の提供を得た。地域に関する情報はインターネットを介して入手した。
 本研究は、国立障害者リハビリテーションセンター倫理審査委員会の承諾を得て行った。発表原稿は、調査対象者に固有名詞の表記を含めた内容の確認を依頼し、指摘された修正を加えた。

C.結果

1.Aマンションの設備およびコミュニティサービス

 Aマンションは4棟に分かれていた。さらに、一つのエレベーターを取り巻く1階あたり3戸、11階まであわせて33戸が一つの区域(コミュニティーと称する)を構成し、区域ごとに同じエレベーターを利用することから顔見知りになりやすい構造であった。区域ごとに、年に2回、懇親会を開き、そこで、現在、直面している問題や最近の体調などの情報交換していた。しかし、B氏の棟では、入居以来、世代交代や転勤もあり、約半数が転居していた。
 居住部分のほかに、50~60人が入る多目的ホールがあるほか、宿泊もできるレンタルルーム2室、スタディルーム、OAルーム、音響室、トランクルーム、ランドリールームがあった。
 Aマンションは共用施設が整っているほか、コミュニティフォーラムというサービスが先駆的に導入されていた。コミュニティフォーラムとは、大規模マンションを一つの街と位置づけて、入居者により豊かな生活を実現するための各種ライフサービスを提供する場として、また、入居者同士のふれあいの場、地域コミュニティの交流拠点として考案された。具体的には、また、フロント業務として24時間対応で、クリーニング・宅配便・写真現像の受け渡し、コピー、チケット取次ぎ、カーメンテナンス、布団乾燥機の貸し出し、リフォーム業者の斡旋、各階のゴミ集積場所からの収集、貸し倉庫業務などを実施する先駆的なサービスを提供していた。近年では、管理組合にもコミュニティー担当部門ができ、コミュニティーフォーラムと連携していた。
 Aマンションでは分譲部分と賃貸部分があったが、総居住者のうち、2010年に自治会が行った調査時点で、回答者164名中65歳以上は147名(89.6%)であり、調査時には「1984年の新築時に入居した人が多いため、調査から3年たった今は、おそらく200人以上になっただろう。孤独死というわけではないが、独居の高齢者が亡くなったのを、家族が見つけた例はある。しかし、居住者に障害者がいるのに気づいたことはない。高齢者が多い割には、車いすを使っている人を見ない。外出しないのではないか。」と、B氏は答えた。また、駅の近くに立地し、先駆的な設備とサービスを備えたAマンションは近隣では高額で、「居住者も法律、建築などの専門職者がおり、教育歴は長い人が多いようだ」とB氏は述べた。

2.居住者の交流と居住者組織

 B氏は「基本的に居住者間のつきあいのあるマンションである」と述べた。コミュニティーフォーラムの活動のほかに、分譲時に同世代の入居者が多かったことから、自治会の行事として、ハイキング、クリスマス会、ビアパーティーなど交流の機会が設けられ、100名以上が参加した。これらの機会をきっかけに個人的な交流に発展したという。
 現在は、入居者の高齢化に伴い、ハイキングは個別のウオーキングの会になり、クリスマス会は子どもを中心としたイベントに変更されたが、調査時にも、ビアパーティーは150名を集め、居住者間で情報交換会のお茶会が4棟中3棟で行われていた。他に、高齢者対策として高齢者の引きこもりを防止するために集会室でパッチワーク絵画・パッチワーク・囲碁などのコミュニティサークル、住民による趣味の作品展、クリスマスコンサート等が開催されていた。高齢者のためのサロン(月1回)では、包括支援センターの指導を得、骨密度を測るイベントや約5軒の業者による配食の試食会も行った。
 B氏の隣人は80歳代の夫婦であったが、互いに旅行中は鍵を預けあい、猫の世話を頼むなどのつきあいがあった。また、夜間に転倒したときに助けを求められたこともあった。隣人は、Bさん以外にも4軒程度の親しい居住者がおり、東日本大震災では食器棚の片づけは別の居住者が手伝っていたという。
 居住者組織として、初めは管理組合と自治会の二つがあった。管理組合は所有者については全戸加入で、賃貸者は別であった。一方、自治会は自由参加であったが、所有者と賃貸者の両方が加入した2010年に両組織は管理組合に統合された。高齢化が進み、両方に独立した役員を立てることが困難になったためである。管理組合は、区域ごとに選出された数十人で運営された。役員は、理事長1名と副理事長3名で、役割分掌があり、任期1年であった。役員は、退職後10年位の人が多いものの、近年は30代で務める人もあった。管理業者は、居住者の数や年齢および管理組合の名簿を把握していたが、管理組合の役員及び自治会長は把握していなかった。
 管理組合は、入居当初から長期修繕委員会を組織し、毎月、定例会を開催し、10年目、20年目の修繕を実現した実績があった。

3.防災活動

 マンション内で、地震対策を含めた消防計画が定められ、自主防災組織を組織していた。2013年の防災担当者は、管理組合の広報誌に防災についての連載記事を毎月掲載した。また、建物、消防用設備等の定期的な点検[7]、防災訓練、備蓄、要援護者支援にも取り組んでいた。
 東日本大震災以後には、4棟のうち、高齢者が多く、お茶飲み会を定期的にしている1棟で、居住者何人かのチーム内での相互の安否確認が始まった。すなわち、チームの人の玄関の郵便受けにカードを入れると、入れられた人は「私は大丈夫」というカードを返すことで相互確認する仕組みである。しかし、すべての居住者に広めようと自治会でキャンペーンをしたが、あまり広がらなかったという。
 B氏は、元自治会長として、防災上重要な点は「最初にマンションに入居した時に、コアになる人がいるかどうか」と「居住者間の繋がり」答えた。「居住者間の繋がり」については、「具体的には普段から近所の気になる高齢者を見守るような雰囲気ができている」と回答した。

(1)防災訓練

 防災訓練は防災の日の近くに設定され、約50名の参加者を得ていた。そのほかに、管理組合による自営消防訓練、救命講習会(AED使用法等)、そのほか講習会も行われていた[8]。防災訓練では、階段ごとの防災担当者があらかじめ「防災の手引き」を各戸に配った。訓練開始はマンション内のアナウンスシステムから放送され、居住者は非常階段を使ってマンションに隣接する避難場所の公園に集まった。それぞれ階段の担当者が安否確認をして、本部に連絡し、徒歩約20分の距離にある一次避難所に移動した。移動の練習にマンションで所有する数台の車いすを使っていた。幼少の家族を連れての参加が見られる一方で、高齢者の参加は少なく、「実際に災害が起きたら、すごく大変だろうと思う」とB氏は答えた。B氏はボランティア組織にも所属しており、視覚障害者の手引きや車いす移動者の介助経験があったが、それでも高層階から車いす利用者を搬送する方法は知らなかった。

(2)備蓄

 備蓄は、2011年の震災以前から、開始されていた。「避難場所の小学校で防災訓練の際、設備等を見せてもらったが、心許なさを切実に感じたことから、『自分たちは自分たちで守らなきゃ』という意識が強くなった。それで管理組合の防災担当の予算を使って、居住者の承認を得ながら備蓄を増やした。」とBさんは述べた。共用物の備蓄については、防災倉庫とレンタル倉庫に収納し、備蓄内容を、管理組合理事会広報などで居住者に広報した[7]。その他、各世帯で備蓄品・非常持ち出し品として用意すべきものも広報していた。すなわち、水1人1日3リットル、非常用食料、懐中電灯、電池、救急セット、医薬品、トイレ用品、履物、衣類、生活用品、ビニール袋、筆記用具等。最低3日分、標準1週間分であった。「結構、一人一人の意識も高く、いろんなものの備蓄を相当やっているので、それ持ち合えば1週間ぐらいは大丈夫じゃないって言い合っている。」とB氏は話した。

4.災害時要援護者支援

 市役所から、自治会長宛にはマンション内に災害時要援護者(以下、要援護者)登録をしている5名の情報が届いていた。いずれも独居で、親戚が近くに住んでいなかった。しかし、自治会の中で話し合われても、解決策が見つからずに、2年程度、申し送られていた。B氏が自治会長の時、民生委員に市役所からの依頼内容を知っているかを確認し、要援護者の後見人的な人をマンション内で立てるようマッチングを考えた。ただし、「後見人も常時いるわけではない。有事の場合、必ず連絡つく人とか、すぐ動ける人がいることが大事で、名前ばかりの後見人つくってもしょうがないんじゃないか」という意見もあったという。
 東日本大震災後に、「要援護者申請をしていることをマンション居住者に告知して、協力してもらうっていうことをお願いしても構わないか」と要援護者本人に民生委員を介して確認し、マンションの階段単位の懇親会で本人同席のもと、参加者に周知した。「要援護の具体的な状況やデリケートな家族関係を初対面の自治会長から聞くのはためらわれ、すでに申請者と面識のある民生委員の協力を得た。また、申請者が初対面の自治会長に対して構えるのではないかという心配や自治会長として事務的になりすぎないかという心配もあった」という。具体的には、「新聞がたまっていないかとか、長く明かりがついてないとか、そういう状況を、見張るんじゃなくて、いつも見てもらう。何か問題があったら、管理事務所か自治会長に連絡するシステムにした。管理組合にはスペアキーがあり、入居時の規約で入居者の生命の危険が推測される場合には、鍵を開けることが決まっている。いつも家にいる奥さん方は、結構気を使ってくれて、年寄りや何かの集まりに誘ってくれるなど、何かしらの形で(要援護者登録していることを共有したことは)寄与しているのではないかと思う。」とB氏は話した。

5.東日本大震災発災日の状況

 自治会長であったB氏は地震発生時は市内に外出しており、徒歩で16時半ぐらいに帰宅してから、管理事務所に被害状況を確認した。防災訓練では、役員が外出することが想定されていなかったことが、この時に、気づかれた。地震の後、管理事務所で、ガスとエレベーターを止め、食器棚が倒れた世帯の後片付けは、近隣居住者と管理事業者職員とで既に始められていた。要援護登録者5名には、B氏は民生委員と共に安否確認を行ったが、手伝いの要請はなかった。その際に、インターホンで「お部屋の状況どうですか?」「大丈夫ですか?」「ガスの元栓、今、閉めていますが、これからお食事のとき、落ち着いたら使えると思うんで、こういう対処してガスの元栓を解除してくださいね」「何か手伝うことありませんか?」と確認した。

D.考察

1.要援護者支援の基盤としての地域コミュニティ

 本研究で紹介したマンション事例でも、要援護者支援だけでなく、平時の防災活動及び人間関係の構築に務めていたことが示された。すでに、阪神・淡路大震災後に、防災活動の基盤に地域コミュニティ活動が不可欠なことは指摘された[*]。また、実際に、複数の町内会で、要援護者を視野に入れた防災活動を行っている場合にはコミュニティ活動も活発であることが報告された[5,6] 。
 紹介事例では、居住者同士の自然な関係だけでなく、コミュニティ構築がマンション分譲時のサービスとして組み込まれていたことも居住者の関係性の強化に働いたと考えられる。他にも、歴史的な農業、冠婚葬祭、清掃などの共同作業がなくても、サービスに媒介されて隣人関係が強化されることを示すことは報告されている[4]。
 コミュニティ構築サービスがない分譲マンションや賃貸マンションでは、コミュニティ構築が乏しいと推測されるため、要援護者への災害時の支援は今後の課題である。分譲マンションの建造物としての管理維持にも管理組合の機能が求められるが、機能が不足する場合には、自主活動を促進するための情報提供、啓発活動、ノウハウの提供、必要な資金援助などと共に、部分的誘導の選択肢として、第三者管理システムの提供や管理代行者の派遣が提案されている[10]。災害時要援護者支援に関しても、同様に、自主的な活動の促進とともに、第三者支援システムを住民が購入したり、公的な支援者派遣を自主活動のきっかけとすることも検討の価値があると考えられる。

2.要援護者の移動支援

 紹介事例でも、移動支援を必要とする障害者や高齢者の存在は把握されていなかったが、ニーズは予測されていた。避難支援方法の見込みは立っていなかったため、解決策が求められる。コミュニティ構築サービスあるいは公的支援として専門性を含んだ高齢者、障害者への対応を開発することは、一つの解決策と考えられる。一方で、コミュニティ構築サービスを含んだ高価な物件を障害者が購入することの困難も予測される。しかし、サービスによる障害者の避難支援方法が明確になれば、サービスがない状況において現実的避難支援方法な導入を検討することも可能になることが期待される。

3.要援護者の安否確認

 近隣の居住者がチームを組み、ポストに互いのカードを入れて安否確認をする方法は、 安全が確保された印に黄色いリボンやハンカチをベランダにつけて救援を要している世帯を一目でわかるようにする方法よりも[9]、小さな有事への対処が迅速に行われる点で優れていると考える。しかし、同じ方法はマンション全体には広まらなかったことから、近隣による安否確認の実現には、近隣の関係性の構築が先立つと推測される。

文献

[1] 小森星児. 互助と共助. 復興塾通信. 19, 1. 2009.

[2] 河田恵昭. 大規模地震災害における人的被害の予測. 自然災害科学. 16(1), 3-14. 1997.

[3] 東京カンティ. 都道府県・主要都市のマンション化率 2012. 全国版. 2013.

[4] 村田明子、田中康裕、山田哲弥. 集合住宅の安全安心なコミュニティ構築の促進に向けた居住者相互交流支援システムの開発. 清水建設研究報告. 85. 135-142. 2013.

[5] 北村弥生他. 障害児者の個人避難計画と避難所における配慮ガイドラインの作成:埼玉県所沢市吾妻地区荒幡町内会の場合. 障害者の防災対策とまちづくりに関する研究. 平成24年度総括研究報告書. 36-50. 2013.

[6] 北村弥生他. 障害児者の個人避難計画と避難所における配慮ガイドラインの作成:主会福祉法人による甚大災害への準備活動と課題. 障害者の防災対策とまちづくりに関する研究. 平成24年度総括研究報告書. 67-76. 2013.

[7] 管理組合・理事会広報,2013年6月号

[8] マンションAの消防計画2013年(平成25年4月)改訂版.

[9] 消防庁. 自主防災組織の手引き. 2011. 以下は、メモ [2] 山村武彦. 近助の精神. きんざい. 2012.

[10](財)日本住宅総合センター. 分譲マンションの維持管理のあり方に関する調査. 2004.