音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

事例研究2:北海道浦河町における3.11津波からの避難の教訓
浦河町グループによる発表

浅野氏(浦河町役場総務課長)

みなさんこんにちは。浦河町役場総務課長の浅野と申します。どうぞよろしくお願いします。まず私から浦河の紹介をさせていただきます。 浦河は、日高山脈を背に、太平洋に面した自然豊かな町です。人口は、13,500人ほど。主な産業は農業と漁業です。農業は競走馬の生産が中心で、200ほどの牧場があります。わが町のゆるキャラは、馬です。町内にあります日本中央競馬会の大規模な調教施設では、毎日、600頭を超える競走馬がトレーニングに励んでいます。この他、最近は、和牛やイチゴの生産にも力を入れています。また、漁業は、浜では昆布、沖ではサケやタラ、イカ、タコ、ウニなど、いろいろな種類の海産物がとれます。 さて、こんな浦河ですけれども、自然災害もしばしば発生し、昭和から平成へと震度で言えば6以上の地震にも何度か遭ってきました。また、太平洋にも面しており、津波のおそれもあります。3年前の東日本大震災では、2.8mの津波が来襲しました。この写真にありますように、自動車が流されるなどの被害もあったところです。いつくるかわからない地震と津波です。 それでは、浦河べてるの家の皆さんから、いざというときの取り組みについて発表していただきます。どうぞお願いいたします。

向谷地氏(ソーシャルワーカー)

みなさんこんにちは。私は、ソーシャルワーカーの向谷地です。浦河ではこの10年130床あった精神科病床が50床になり、多くの人たちが地域で暮らすようになり、海沿いに100人ほどの人たちが住んでいます。今日は精神障害をはじめとする障害を持つ人たちの仕事作りと暮らしを支援する拠点である浦河べてるの家がこの10年余り地域の人と取り組んできた、地震や津波を想定した防災活動について紹介したいと思います。 今日の主役は統合失調症を持ちながらべてるで働く亀井英俊さんです。それでは、亀井さん、自己紹介をよろしくお願いします。

亀井氏(浦河べてるの家)

皆様こんにちは、私は、亀井英俊と申します。べてるに通っています。僕達は、統合失調症を持っていて、声が聞こえたり、体に様々な症状が表れて、働くことが難しくなったり、孤立しがちです。特に幻聴さんの言うことを聞いてしまい断ることが大変でした。でも、今回の震災では、上手に避難することができました。 今日は僕の経験を元に、場面を再現してみたいと思います。 3.11のとき、この表のように、14時46分に大震災が起きましたが、僕達はすぐに仲間たちと自主的に避難を開始しました。約20分後には全員が避難できました。

2011年3月11日@べてる

  • 14:46  震度4 約6分間の揺れ 3つの活動拠点・4つのGHより随時避難開始
  • 14:49  津波警報発表 → 浦河町内 避難勧告
  • 15:10頃 それぞれの避難場所に到着
  • 15:19  津波第一波(マイナス20センチ)
  • 15:30  大津波警報発表(北海道及び日高振興局 災害対策本部 設置)
  • 15:40  浦河町内避難指示
  • 16:42  津波第二波(2メートル79センチ) 最大波

向谷地氏

亀井さん、ありがとうございました。パネルはその3.11の避難の実際の様子です。それでは、べてるのソーシャルワーカー・池松麻穂さんにべてるにおける防災の取り組みの歩みを紹介いただいたあとで、防災訓練をする前と防災訓練を重ねた現在の2つの場面を再現したいと思います。それでは、池松さん、よろしくお願いいたします。

池松氏(浦河べてるの家・ソーシャルワーカー)

べてるの池松です。私たちの防災活動が始まったのは、2004年です。はじめはどうしていいかわかりませんでした。10年前の私たちの様子をデモンストレーションでご覧いただきます。

デモンストレーション: 10年前 亀井さんの家
地震: 地震だ、地震だ。
テレビのアナウンサー: 浦河沖マグニチュード9.0の地震が起きました。津波警報が発令されました。海岸の近くにいる方は、すぐに高台へ避難してください。
幻聴さん: この地震はお前のせいで起こった地震だぞ。逃げちゃいけないぞ。お前のせいなんだ。逃げちゃいけないぞ。
亀井さん: ダメだ。避難できないよ~。
仲間(男性): 亀井くん、一緒に逃げよう。
仲間(女性): 大丈夫だよ、一緒に逃げよう。
幻聴さん: 逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ。お前のせいの地震なんだぞ。
亀井さん: ダメだ。避難できないよ~。
仲間(男性): 早く逃げよう。
津波: 津波だ、津波だ、津波だ、津波だ、わ~~。

池松氏

このように精神障害があって、幻聴によって逃げられなかったり、固まってしまう人もいます。しかし、これでは大切な命の確保が難しいです。そのため、まず私たちは、苦労を具体的に挙げて、対策を考えました。そして、何度も練習をしました。 まず、私は、浦河の地震や津波についてほとんど知らなかったので、それらを学びました。浦河の地震は、100年以内にとても大きいものが来る。津波は4分以内に来る。10m以上の高さの波が来る可能性があるということを知りました。 ということは、私たちは、地震発生後4分以内10メートル以上の高さのところに移動できれば、命の安全の確保ができるということです。 そして、私たちはたくさんのミーティングを重ねました。まず、どこに避難すべきか地図で見て探して、足を運びました。避難マニュアルは、障害があっても理解しやすいDAISYを使いました。避難するときに水や食料、特に私たちに必要な精神薬も必ず持っていけるように避難グッズの検討もしました。 避難マニュアルを見て、暑い夏、寒い冬、雨の日、雪の日、暗い夜、あらゆる場面を想定して、何度も練習しました。訓練後にもミーティングをして、よかったこと、苦労したこと、さらに良くすることを挙げて、次回の練習に生かしました。 これらの活動によって3.11のような緊急時でも、私たちはすぐに非難できるようになりました。避難できるようになった私たちの行動をデモンストレーションでご覧ください。

デモンストレーション: 現在 亀井さんの家
地震: 地震だ、地震だ。
テレビのアナウンサー: 浦河沖マグニチュード9.0の地震が起きました。津波警報が発令されました。海岸の近くにいる方は、すぐに高台へ避難してください。
幻聴さん: この地震はお前のせいで起こった地震だぞ。だから、逃げちゃダメなんだぞ。
亀井さん: ちょっと待てよ。練習したことを生かしてみよう。幻聴さんもみんなと一緒に避難しよう。
幻聴さん: わかった。
仲間(男性): 亀井くん、早く逃げよう。
仲間(女性): 4分で10メートルのところに逃げよう。
亀井さん: よし、避難しよう。
仲間(男性): 幻聴さんも一緒に逃げよう。
幻聴さん: わかった。 津波: 津波だ、津波だ、津波だ、津波だ、津波だ~。

池松氏

このように私たちは、逃げるなという幻聴にも一緒に逃げましょうと声をかけるとやさしくなることを発見し、みんなで避難できるようになりました。精神障害があっても事前に正しい知識と情報を知り、練習しておくことで、迅速な避難が可能になりました。今の私たちの課題は、避難後の過ごし方です。3.11のときも避難ができても、幻聴や緊張によって避難所に居続けるのが難しいメンバーが何人か居ました。今、私たちが練習している避難所での過ごし方のデモンストレーションをご覧ください。

デモンストレーション: 避難所
仲間(女性): もうすぐ避難所だ。がんばろう。よし着いた。
仲間(男性)(潔さん): 着いた。
仲間(女性): みんなこっちだよ~。
亀井さん: 助かったね~。
仲間(女性): よかったね~。4分で着いたね~。じゃあ、ミーティングしよう。
仲間(男性)(潔さん): ミーティングしよう。ミーティング始めます。え~。本田くん、体調、気分。
仲間(男性)(本田さん): 体調はなかなかいいです。逃げれて良かったです。気分は、まあまあです。
仲間(男性): 亀井くん
亀井さん: 少し緊張しますが、避難できて安心です。
仲間(女性): よし、じゃあ、役場の人と自治会の人に言いに行こう。
仲間(男性)(潔さん): はい。
仲間(女性)、仲間(男性)(潔さん): こんにちは。
役場の人、自治会の人: こんにちは。
仲間(男性)(潔さん): べてるの仲間20人、避難しました。避難グッズと薬が大事なので、薬持ってきました。
役場の人: はい。
仲間(男性)(潔さん): 調子が悪くなるときもあるので、役場の人、みんな、よろしくお願いします。
仲間(女性): よろしくお願いします。
役場の人、自治会の人: わかりました。

池松氏

このように私たちは、避難所でのコミュニケーションの練習をして、町の人たちともいっしょに過ごせるように取り組みを続けています。

向谷地氏

いかがでしたでしょうか。防災訓練を通じて実感したのは、決して単なる支援対象ではなく、自らもてる力を発揮して、自分を助けることができるということです。しかし、それは決して個人の努力ではなく、普段の自治会の人たちとの防災訓練や働く場や仲間の存在を通して実現するということです。それでは次に東町第五自治会長の米山さんにバトンタッチしたいと思います。

米山氏(東町第五自治会長)

東町第五自治会の米山です。よろしくお願いします。東町連合自治会で平成21年度に取り組んだ防災学習会について報告させていただきます。報告時間が限られていますので、今回は、平成21年9月5日から6日にかけて浦河町ふれあい会館において実施した防災学習会と一泊避難所体験の内容のみの報告とさせていただきます。この学習会は、開催した1年半後には東日本大震災に見舞われ未曾有の人的・物的被害を被っています。平成20年に国立障害者リハビリテーションセンター研究所から当連合会に防災学習会に合わせて一泊避難所体験学習への参加の誘いがありました。この防災学習会には各理事会や浦河べてるの方など合わせて、120名ほどの方が参加していただきました。9月5日は17時から20時までの予定で、神戸市の人と防災未来センターの宇田川研究員による阪神・淡路大震災を踏まえて、普段から隣近所づきあいの大切さや国立障害者リハビリテーションセンター研究所の河村部長から要援護者を含む避難計画や訓練の必要性についての講話を聞きました。

その後、理事会ごとに分かれて、津波浸水予想図や土砂災害危険箇所を防災地図に書き入れる災害イマジネーションゲームを活用して、危険箇所の確認を行い、理事会ごとに参加者の前で発表し合いました。この間、各自治会の女性たちによって非常食を作っていただき、アルファー米とブラジルを味わっていただきました。20時30分から翌朝の8時まで一泊避難所体験を会館の集会室で35名に体験していただきました。この訓練には幼児さんを連れて家族全員で参加した方もいました。浦河べてるの方も参加して自治会の方と行動をともにしておられました。体験に参加された方によって防災グッズワークショップを行い、非常持ち出しのグッズや持ち寄った防災グッズなどについて紹介し合いました。

その後、宿泊体験をするため集会室に移動して、就寝場所について話し合いをしました。就寝場所は、幼児さんや妊婦さんの参加もあったので、災害時要援護者の方を優先して決定しました。朝食はおにぎりを分け合って、インスタントの吸い物を食べながら、今回の学習会の感想を話し合い、防災学習会の必要性の認識を新たにしたところであります。

以上で、防災学習会と一泊避難所体験の報告とさせていただきます。以上、IPテレビお伝えいたしました。ご清聴ありがとうございました。