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JDF東日本大震災被災障害者総合支援本部の活動について

JDF東日本大震災被災障害者総合支援本部

 

 日本障害フォーラム(JDF)は2004年に設立し、現在全国13の障害者団体・関係団体で構成される、障害分野の全国的な民間組織である。設立以来、障害者権利条約やアジア太平洋障害者の十年といった国際的動向を踏まえ、さまざまな種別・分野の団体同士が連携しながら、国内での政策提言や啓発等を通じて、誰もが住みやすい社会の実現を目指している。

 2011年3月11日は、折しも障害者権利条約の批准と実施のための重要な一歩である、障害者基本法の改正案の閣議決定に向け、障がい者制度改革推進本部が午前中に開かれたが、その対応のため、午後3時から新霞が関ビルの全国社会福祉協議会で、JDF代表者会議が開かれることとなっていた。

 その開始直前の2時46分、東日本大震災が発生した。東京でも震度5強を記録する長い揺れがあり、揺れが収まったあと、これはただ事ではないという表情で、各参加者が新霞が関ビルの会議室に集まった。5階に設置されたテレビで各地の被害状況の報道が流されたが、東北沿岸のすさまじい津波の映像を、とても現実とは信じ難い思いで見入っていた。その日の会議は中止となった。

 幸い、会議参加者に怪我などはなかったが、電話回線の混雑による通信の途絶、電車の運休や渋滞による帰宅困難などを一人一人が体験した。そもそも会議室までたどり着けなかった者、帰宅に数時間を要した者、帰宅をあきらめ霞が関で一泊した者。障害者団体の代表たちが、長時間車に同乗したり、会議室のソファに共に雑魚寝したりという体験をした。これがJDFの支援活動の出発点だった。

 

 震災発生後、各種別・分野の障害関係団体は、聴覚障害者救援中央本部、視覚障害者支援対策本部、障害者救援本部、障害児・知的障害・発達障害者関係団体災害対策連絡協議会等々をいち早く設置し、それぞれの分野において緊急に救援活動を開始した。

 JDFとしては、まず3月14日に「被災障害者等への特別支援に関する緊急要望書」を政府に提出したが、13の全国団体の連携を活かした活動を今後とも行っていくべきだとの意見で合意し、3月18日の幹事会を機に、「JDF東日本大震災被災障害者総合支援本部」を設置した。

 本部長にJDF代表、事務総長にJDF幹事会議長が就任し、総務・渉外、情報収集・発信、団体間調整、財務・会計の各責任者も置いた。以下、これまで取り組んだ主な活動について述べる。

政府等への要望

 JDFでは、本原稿執筆時までに、東日本大震災に関わる政府等への要望を8次にわたって提出している。JDFの要望は、13の構成団体の意見を基に各種別・分野に関わる課題が横断的に取り上げられること、また、後述する3県の被災地支援センターの活動を基に、被災地の広域的な課題が含まれていること、全国組織の連合体であることから、これら各種別・分野・地域の声を合わせて、国政レベルに届けることができることが特徴と言える。多様な意見を背景としていることと併せ、未曾有の被害をもたらした大震災の課題は幅広く、要望の内容は多岐にわたりとなり、宛名には複数の省庁の名前が並ぶ。

 要望は、厚生労働省の担当部署や、内閣府防災担当、政党のヒアリング等へも直接持参し、不定期的に懇談の機会を持った。2012年7月の第7次要望書は、中川正春内閣府特命担当大臣(防災担当・障害者施策担当兼務)に直接提出し意見交換を行った。しかしながら、内閣府といえどもすべての事柄を担当しているわけではなく、かといって、すべての省庁の担当部局を回ることも困難であり、各団体による個々のテーマに絞った活動と、JDFによる包括的な活動とを、それぞれを組み合わせていくことが必要である。

情報の収集と発信

 JDFでは幅広い情報を収集し発信していくための手段として、総合支援本部の専用ホームページを開設した。まず被災者や支援者に、中長期的には施策担当者や研究者にも役立つ情報サイトを目指した。2012年9月時点で、8万件を超えるアクセスがある。

 またJDFの支援活動の報告の場として、3回の報告会を開催している。(第1時報告会:2011年7月13日・衆議院第一議員会館。第2次報告会:2012年3月1日・参議院議員会館・日本財団との共催。第3次報告会:2013年3月5日・参議院議員会館・日本財団との共催) 障害分野に関する課題を、被災地での支援活動の実践を基に広く提起するとともに、各方面からの支援に対する感謝の意味も含め、また、議員会館で開催することにより、それ自体を一つの政策的アピールとして位置づけた。

 被災地支援センター(後述)における活動は、それぞれニュースレターとして、紙媒体とインターネットで配信した。

 東日本大震災に関しては、諸外国からの物心にわたる支援があることからも、国際的な情報発信にも努めており、上記ホームページを一部英訳して公開するとともに、世界防災閣僚会議in東北(2012年7月3日、4日:於宮城県等)、国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)ハイレベル政府間会合(2012年10月29日~11月2日:韓国・インチョン)においても、資料展示やサイドイベント(活動報告会)などを行っている。

 また震災1年半~2年を機に、その時点での活動の記録と報告をとりまとめ、将来への提言とするため、本活動報告書の作成と、ビデオドキュメンタリー映画「命のことづけ ~死亡率2倍 障害のある人たちの3.11~」の制作を、日本財団、CS障害者放送統一機構と共同で行っている。

関係団体との連携

 活動にあたっては、団体間の連携を基本とした。活動の対象や分野が異なる障害者団体が、被災地の現場で共通の支援活動に従事するのは難しい側面はあったが、団体会員の安否確認を相互に手伝ったり、支援物資やサービスを必要とする人を支援可能な団体につないだり、活動地域を分担するなどの連携は一貫して行っている。

 難民を助ける会や日本財団をはじめ、障害関係以外の団体とも同様の連携を行った。

 また、民間団体として行政との連携も積極的に行っている。国レベルでは、内閣府防災担当による実態調査への協力なども行っており、各地の支援センターでは、行政と連携して在宅障害者や支援事業所の実情把握と支援を行った。特に後述される、福島県南相馬市と岩手県陸前高田市における、障害者の個人情報開示に基づく実態調査の実施は、その顕著な例である。

対外的な窓口機能

 13団体の連携組織として、政府、マスコミ、支援者などへの対外的な窓口機能も果たした。上述した政府等への要望の提出もその一環である。

 さらに、JDFとして「活動支援金」の募集も行い、海外を含む多くの協力者からご支援をいただいている。この場を借りて改めてお礼申しあげる。

被災地における支援活動

 JDF支援本部は、上述のようないわゆる本部機能に加え、宮城県、福島県、岩手県において被災地支援センターを順次開設し、支援活動を行った。

 東日本大震災の被災地は非常に広範囲であることから、まずは、宮城県仙台市での支援センター設置を模索した。

 震災発生から約10日後の3月22日~23日に、JDF幹事会議長以下数名のメンバーが仙台市、名取市を訪問した。公共交通機関はストップしたままで、高速道路も緊急指定車両しか通行できない。また現地ではライフラインも復旧途上であり、ガソリン給油も困難、定められた宿泊先以外では宿泊も食事もできない状況であった。そのような中、地元障害者団体や、現地入りしている支援団体との打ち合わせ、宮城県および仙台市の表敬訪問、一般避難所および福祉避難所の訪問、現地支援センター設置の調整等を行った。

 3月23日には、地元障害者団体・関係団体が集い、JDFとの意見交換会を行った。被災後の慌ただしい時期にJDFの訪問団を受け入れてくださった地元関係者に改めて感謝したい。この意見交換会の場において、地元団体のゆるやかな連携体である、「被災障害者を支援するみやぎの会」が発足したことは特筆すべきである。

 意見交換で挙げられた地元の声は、JDFが支援活動を行っていく礎となった。以降、2011年3月30日に「JDFみやぎ支援センター」、4月6日に「JDF被災地障がい者支援センターふくしま」、9月22日に「JDF被災障がい者支援いわて本部」を(陸前高田市における「JDFいわて支援センター」は2012年4月17日に)順次開設し、活動を行っている。

 活動内容については、それぞれの報告が別途詳述されるが、各支援センターの特徴は、全国組織であるJDFと同様、各県レベルの多くの障害者団体・関係団体が連携して活動を行っていることである。現地団体の主体的な連携を基礎に置き、JDFの構成団体・関係団体から、必要に応じて各センターに全国から支援スタッフを派遣している。各地における被災の状況や、団体間の連携のあり方等はそれぞれに異なることから、実情に応じた内容と手法で活動を行っている。

 なお、各支援センターとJDF支援本部のメンバーにより、定期的な情報交換と方針確認の会合を開催しており、3県共通の要望その他の取り組みについて話し合っている。

今後の活動

 震災発生から本稿執筆時までに約2年が経過しているが、沿岸部、原発隣接地域などの窮状や、被災地からの県外避難者の実情等々、なお課題は山積している。被災者の緊急的な支援と、地域社会やその資源の復興に向け、今後も息の長い支援活動が必要とされる。このためには、支援に当たる人材の確保と、資金的な裏付けが欠かせない。

 前述のとおり、JDFでは、これまで国に対して8次にわたる要望を行っている。要望の内容は多岐にわたるが、中でも特に、(1)被災障害者の実情(数的データを含む)を速やかに把握し、既存の防災対策の検証を行うこと、(2)障害者権利条約を一つの指標とした「インクルーシブ」な社会を復興すること、(3)今後の復興や防災対策作りの過程に、障害当事者を参加させること、の3点については、この場を借りて改めて強調しておきたい。