日本財団による障害者支援と今後に向けての取組
日本財団
1.日本財団による障害者支援
日本財団は東日本大震災発生の直後より支援活動に向けた話し合いを開始し、5日後の3月16日に財団内に支援センターを設置した。支援センターは1.現場コーディネート、2.物資収集と提供、3.広報、4.資金調達の4つの機能と役割を持ち、多くの職員が一丸となって被災地支援にあたった。震災後の支援の柱としては、死者・行方不明者のご家族へ5万円の弔慰金・見舞金の緊急配布、石巻における現地ボランティアのコーディネートの実施、延べ5,000人の学生ボランティアの派遣などが挙げられる。日本財団によるこれらの被災地支援については、「日本財団ROADプロジェクト東日本大震災1年間の活動記録」としてまとめてられているので、興味のある方はこちらをご参照いただきたい(http://road.nippon-foundation.or.jp/2012/06/1-8eee.html)。ここでは障害者とスペシャルニーズに関連した支援に限って報告する。
日本財団が行った支援活動には、財団が独自で企画して実施した事業、NPOと共同で実施した事業、企業からの支援を活用してNPOや現地の方々と共に実行した事業、NPOへの100万円を上限とした緊急活動助成などがある。このすべての支援活動において、スペシャルケアを必要とする被災弱者(障害者、高齢者、妊産婦、アレルギー患者など)を対象とした支援は、重点項目の一つであった。例えば、「被災者をNPOとつないで支える合同プロジェクト(つなプロ)」は、阪神大震災の際に避難所や仮設住宅で災害弱者が取り残された教訓から、宮城県で443か所すべての避難所を訪問し、障害者、要介護者、母子や外国人などスペシャルケアを必要とする方々のニーズを掘り起こし、支援団体へとつなぐ活動を行った。その他、要介護者に対する医師の避難所巡回診療や、妊婦が安心して出産できる環境を整えるために、東京の助産院へ避難する事業なども支援している。
障害者に特化した支援活動としては、障害者向けの仮設住宅の建設と、聴覚障害者支援の二つが挙げられる。仮設住宅については、宮城県石巻市で障害者の多くが避難所での生活がしにくく、その家族も周囲への気遣いから精神的に負担を抱えているとの情報を受け、(福)石巻祥心会へ障害者専用の仮設住宅の支援をいち早く決定した。これにより2011年6月という早い時期に、家族および単身者約100人が生活することができる「日本財団ホーム 小国の郷」を開所した。また、原発による避難が長引いていた福島県富岡町の「東洋育成園」の代替施設として、同県田村市にも「日本財団ホーム 東洋育成園」を設置した。
聴覚障害者を対象とした支援は、震災直後に全日本ろうあ連盟より、被災地に物資や手話通訳を送りたいとの相談を受けたことから始まった。一刻でも早く被災地に支援を届けたいとの思いから、3月中に被災各県の支援拠点を支えるための750万円を救援中央本部に拠出した。この支援により、被災地支援活動用車両の配備、手話通訳者の宮城県への派遣などがいち早く実施され、行政が実際に動き出すまでの混乱期に有効な支援となったと思われる。また3月27日には東京の明晴学園の呼びかけで集められた救援物資を、日本財団が手配した車両で宮城県ろうあ協会へ届けた。
その後、聴覚障害者を対象とした中長期的支援として二つの支援活動を行った。一つは日本聴覚障害ソーシャルワーカー協会が実施する「なかま」事業である。「なかま」は聴覚障害の特性を熟知し手話や個々のニーズに合ったコミュニケーション手段が使える社会福祉士・精神保健福祉士が、聴覚障害者の自立を側面からサポートする事業で、 2011年8月の事業開始以来300件を超えるケースに対応している。もう一つは、「日本財団遠隔情報・コミュニケーション支援センター」によるテレビ電話やFAXを利用した代理電話と遠隔手話・文字通訳サービスである。この事業は、聴覚障害があり生活再建のために電話を利用する必要がある方や、震災の結果情報保障が受けられなくなった方のコミュニケーション支援が目的で、岩手県・宮城県・福島県に住んでいる聴覚障害者であれば誰でも無料で利用することができる。開始以来2,000件を超える利用があり、現在もサービスを継続中である。
他に企業からの支援をNPOで活用した事例もある。震災直後にソフトバンクモバイル(株)から携帯電話の無料貸与の申し出があり、東日本大震災聴覚障害者救援宮城本部、福島県聴覚障害者協会障害者などに携帯電話を1年間貸し出した。また、(株)ガリバーインターナショナルより中古車寄贈の申し出を受け、JDFみやぎ支援センター、福島県聴覚障害者協会など、12の障害関連団体に12台の中古車両を寄贈している。
日本財団はさらに、多様な善意の支援者が持つリソースと志を、いち早く現場に届けることを目指して、100万円を上限としたNPO・ボランティア団体への緊急活動助成を行った。2011年4月1日から募集を開始し、合計で651団体、695事業に総額6億5,730万円を助成している。この100万円の助成によってどんな支援活動を行われたかを把握するため、財団は支援先にアンケートを実施した。アンケートを財団が分析した結果、659件の事業のうち59件が「障害者支援」に該当する事業であり、活動の分野としては、「子ども支援」(111件)、「心とからだの健康支援」(75件)、「物資支援」(73件)の次に多い活動であった。
2.東日本大震災の経験から今後に向けての取組
1995年に発生した阪神大震災の際にはまだ日本障害フォーラムは設立されておらず、それぞれの当事者団体や支援団体が個々に支援活動を行っていた。今回の東日本大震災でJDFが中心となって障害者のために行政と交渉したことや、支援活動を行ったことが、大きな前進であったことは間違いない。一方で、困難を抱える被災障害者の実態や、支援活動における課題も徐々に明らかになってきた。例えば障害者支援にあたった多くの団体が、個人情報保護法により障害者手帳保持者の情報が公開されなかったため、どこに障害者がいるのか分からず支援に行けなかったとの感想を述べている。他にも要援護者名簿制度の不備、避難所や仮設住宅で障害者が生活に苦労した例などが挙げられている。日本財団は、今回の東日本大震災の経験を風化させることなく、今後も起こりうる災害に向けての取り組みを将来につなげていくことが重要だと考え、JDFと共催で、震災から約1年後の2012年3月1日に「東日本大震災 障害者支援活動の現状と復興への課題」というテーマのシンポジウムを参議院会館にて共催した。これは、震災時の障害者の状況と、JDFや関連団体の支援活動を報告し、今後の課題について議論するものであった。
これに続く取り組みが、このJDFによる東日本大震災の報告書とドキュメンタリービデオの制作である。報告書とビデオは日本国内の行政、障害当事者団体、支援団体が、今後の防災対策を検討するうえでの参考となることが期待されている。また、ビデオと報告書については英語版も作成し、日本の経験を世界の障害者や支援団体に発信していく。直近の予定としては、2012年10月に韓国の仁川で国連アジア太平洋経済社会委員会(USESCAP)が開催するアジア太平洋障害者の十年のハイレベル政府間会合にて、上映されることになっている。
本報告書にまとめられた総合的な提言と重複する部分もあるが、日本財団として、今までに携わった経験の中から今後重要だと考えられる取り組みについて簡潔に挙げておきたい。第一に、障害者や高齢者を含めた地域の防災訓練が急務である。緊急時に命を助け合うのは、隣近所のつきあいと地域のコミュニティであり、どこに助けを必要とする高齢者や障害者がいるのか把握するためにも、日頃から地区で避難訓練に取り組むことが重要である。例えば河北新報では、地域を挙げて障害者やお年寄りを含めた避難訓練を重ねてきた気仙沼市唐桑町小鯖地区で、犠牲者を最小限に食い止めた事例が取り上げられている(河北新報2011年06月24日)。
第二に、要援護者情報については、行政側が個人情報保護条例を理由として障害者を支援する福祉関係者やNPOに情報を開示せず、安否確認や個別の支援に役立たせることができなかったという指摘は多い。これについて日本弁護士連合会は、災害時における要援護者団体の外部提供については、本人の同意を不要とする典型的な場合であり、個別事情を勘案するまでもなく、高齢者や障害者などの安否確認のために要援護者情報を外部提供することは正当であるとの見解を示している(「災害時要援護者及び県外避難者の情報共有に関する意見書、2011年6月17日」)。今後は、この見解を行政および支援団体に広める取組が必要であろう。また、適切に要援護者の情報が共有される仕組みを自治体とNPOの間で築いておくことが重要と思われる。
第三に避難所については、一般の避難所では障害者は暮らしにくいという声が多く聞かれた。しかし家族と地域の避難所で生活することを望む障害者も多く、今後はすべての避難所で高齢者や障害者を受け入れることを前提としたマニュアルや制度作りが必要となってくる。一方、行政が指定する福祉避難所という制度については、今回は機能していなかったという指摘がある。現実には、福祉避難所の指定があるなしに関わらず、石巻祥心会のような従来からの障害者入居施設や自立支援センターが障害者の受け入れ先となるケースが多かったようだ。こうした非常時に障害者が自然に集まる施設については、福祉避難所として行政も積極的に支援していく姿勢が求められる。
日本財団による障害者支援実績
自主企画・共同事業 5件 389,100,987円
No. | 団体名 | 所在地 | 助成金額 | 活動内容 |
---|---|---|---|---|
1 | 東日本大震災聴覚障害者救援中央本部 | 東京都 | 7,500,000 | 聴覚障害者に対する支援拠点強化 |
2 | 日本聴覚障害ソーシャルワーカー協会 | 東京都 | 21,600,000 | 聴覚障害者の心のケア・生活支援 |
3 | (株)プラスヴォイス | 宮城県 | 24,479,987 | 聴覚障害者の情報コミュニケーション遠隔支援 |
4 | (福)石巻祥心会 | 宮城県 | 175,900,000 | 被災障害者のための仮設福祉ハウス「日本財団 小国の郷」の設置 |
5 | (福)福島県福祉事業協会 | 福島県 | 159,621,000 | 恒常的な障害者施設「日本財団ホーム 東洋育成園」の設置 |
緊急活動助成(上限100万円) 59件 55,860,861円
No. | 団体 種別 | 団体名 | 所在地 | 助成金額 | 活動内容 |
---|---|---|---|---|---|
1 | (特) | 宮古地区いきいきワーキングセンター ワークハウスアトリエSUN | 岩手県 | 1,000,000 | 障害者に係る支援 |
2 | (福) | 翔友 | 岩手県 | 999,000 | 広域送迎の実施 |
3 | 東日本大震災聴覚障がい者支援岩手本部 | 岩手県 | 1,000,000 | 実際に津波を見た人や家族/家を失った人への心のケア | |
4 | (特) | 岩手点訳の会 | 岩手県 | 200,000 | 点訳ボランティアの再開 |
5 | JDFみやぎ北部支援センター (JDF被災地障害者支援センター宮城 北部) | 宮城県 | 1,000,000 | 障害者・福祉施設支援 | |
6 | JDF宮城支援センター(JDF被災地障害者支援センター宮城) | 宮城県 | 1,000,000 | 障害者・福祉施設支援 | |
7 | アレルギーの子を持つ親の会 あっぷるんるんくらぶ | 宮城県 | 756,000 | アレルギー患者とその家族への支援 | |
8 | ぶれいん・ゆに~くす | 宮城県 | 1,000,000 | 発達障害を持つ子どもへの支援 | |
9 | ぶれいん・ゆにーくす | 宮城県 | 1,000,000 | 発達障害児支援 | |
10 | (特) | ほっぷの森 | 宮城県 | 790,000 | 仮設住宅入居者への支援 |
11 | (特) | みやぎ・せんだい中途失聴難聴者協会 | 宮城県 | 1,000,000 | 在宅・避難所における巡回支援 |
12 | (特) | みやぎ発達障害サポートネット | 宮城県 | 1,000,000 | 発達障害の子どもを持つ親へのサポート |
13 | (特) | みんなの教室 | 宮城県 | 1,000,000 | 軽度発達障害者へのケア |
14 | (特) | 輝くなかま チャレンジド | 宮城県 | 1,000,000 | 障害者のための地域交流 |
15 | (社) | 東日本大震災聴覚障害者救援宮城本部(旧:宮城県ろうあ協会) | 宮城県 | 1,000,000 | 聴覚障害者支援 |
16 | (社) | 宮城県手をつなぐ育成会 | 宮城県 | 1,000,000 | 山元町で障害を持つ児童に対する心のケア |
17 | (社) | 宮城県手をつなぐ育成会 | 宮城県 | 1,000,000 | 気仙沼市で障害を持つ児童に対する心のケア |
18 | (社) | 宮城県手をつなぐ育成会 | 宮城県 | 1,000,000 | 岩沼市で障害を持つ児童に対する心のケア |
19 | (社) | 宮城県手をつなぐ育成会 | 宮城県 | 1,000,000 | 名取市で障害を持つ児童に対する心のケア |
20 | (特) | 泉里会 | 宮城県 | 1,000,000 | 障害を持つ児童の預かり |
21 | JDF被災地障害者支援センターふくしま | 福島県 | 1,000,000 | 障害者への生活再建支援 | |
22 | (一社) | 全国パーキンソン病友の会 福島県支部 | 福島県 | 1,000,000 | 仮設住宅のバリアフリー化 |
23 | (社) | 福島県聴覚障害者協会 | 福島県 | 945,000 | 聴覚障害者の支援・相談・通訳派遣等 援助活動 |
24 | (特) | 福島市聴覚障害者福祉会 | 福島県 | 997,935 | 授産品に係る支援 |
25 | (一社) | 日本臨床発達心理士会 埼玉支部 | 埼玉県 | 300,000 | 双葉町から避難した発達障害児童への支援 |
26 | 関東聴覚障害学生サポートセンター | 千葉県 | 351,626 | 難聴の児童、学生等への情報保障、心のケア | |
27 | 全国聴覚障害者教職員協議会 | 千葉県 | 1,000,000 | 聴覚障害者へのパンフレット | |
28 | Deaf News Network(DNN) | 東京都 | 1,000,000 | ろう者向け動画配信等 | |
29 | (特) | WEL'S新木場 | 東京都 | 1,000,000 | 障害者施設への物資輸送及び企業内授産施設運営コンサルティング等 |
30 | (特) | WEL'S新木場 | 東京都 | 1,000,000 | 物資輸送、障害者福祉にかかわる施設のアセスメント、障害者支援の専門的な支援アプローチ |
31 | きょうされん | 東京都 | 1,000,000 | 障害者施設支援 | |
32 | デザイニングアビリティー | 東京都 | 1,000,000 | 身障者への支援 | |
33 | (特) | ホープワールドワイド・ジャパン | 東京都 | 1,000,000 | 障害者へのケア等 |
34 | (一社) | 手話情報保障センター | 東京都 | 981,250 | 傾聴ボランティアの実施 |
35 | (一社) | 手話情報保障センター | 東京都 | 1,000,000 | 聴覚障害者向けの手話講演 |
36 | (社) | 全国肢体不自由児・者父母の会連合会 | 東京都 | 1,000,000 | 肢体不自由児への支援 |
37 | (社) | 全日本難聴者・中途失聴者団体連合会 | 東京都 | 1,000,000 | 聴覚障害者のためのサイン作成 |
38 | (特) | 東京都発達障害支援協会 | 東京都 | 1,000,000 | 知的障害者関係支援 |
39 | (特) | 日本コンチネンス協会 | 東京都 | 1,000,000 | 障がい者への支援等 |
40 | (特) | 日本せきずい基金 | 東京都 | 1,000,000 | 障害者デイサービス所の開設および運営 |
41 | (財) | 日本知的障害者福祉協会 | 東京都 | 1,000,000 | 施設利用者・在宅障害者の被災状況の把握等 |
42 | 日本聴覚障害ソーシャルワーカー協会 | 東京都 | 1,000,000 | 聴覚障害者支援 | |
43 | (一社) | 日本発達障害ネットワーク | 東京都 | 1,000,000 | 障害者支援 |
44 | (福) | 日本盲人会連合 | 東京都 | 1,000,000 | 防災ベスト、白杖、音声体温計の支給等 |
45 | (福) | 日本盲人福祉委員会 | 東京都 | 1,000,000 | 東日本大震災において被災された視覚障害者 |
46 | (特) | シュアール | 神奈川県 | 1,000,000 | 聴覚障害者のニーズ調査 |
47 | (特) | やさしくなろうよ | 神奈川県 | 1,000,000 | 身障者用トイレの設置 |
48 | (特) | やさしくなろうよ | 神奈川県 | 540,000 | 身障者用のトイレ設置等 |
49 | (特) | よろずやたきの会 | 神奈川県 | 1,000,000 | 福島県から避難してきた知的障害者と支援者を対象に、神奈川県平塚市福祉避難所を運営 |
50 | (特) | ら・ばるか | 愛知県 | 1,000,000 | .被災した障害者福祉事業所の授産品を回収等 |
51 | 東北・関東大震災子どもを助ける会 | 京都府 | 1,000,000 | 障がい者の方へ生活支援 | |
52 | (特) | シーエス障害者放送統一機構 | 大阪府 | 1,000,000 | 障害者への情報供給支援 |
53 | (特) | トゥギャザー | 大阪府 | 1,000,000 | 授産品生産支援 |
54 | (特) | み・らいず | 大阪府 | 1,000,000 | 授産品に係る支援 |
55 | (福) | 視覚障害者文化振興協会 | 大阪府 | 1,000,000 | ラジオによる視覚障害被災者支援 |
56 | 三田を知る会 | 兵庫県 | 1,000,000 | 作業所の復旧支援 | |
57 | (福) | 若葉 | 広島県 | 1,000,000 | 被災した施設を利用者の介護・支援 |
58 | (特) | チャイルドライン「もしもしキモチ」 | 福岡県 | 1,000,000 | 発達障害児支援 |
59 | (福) | 北九州市手をつなぐ育成会 | 福岡県 | 1,000,000 | 被災障害者の福祉ニーズ調査、支援提供者とのマッチング |