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日本盲人会連合の取り組みと提言

社会福祉法人日本盲人会連合

1.今回の災害全体を通じての見解

 2011年3月11日に発生した東日本大震災は、多くの尊い命を奪い、多数の避難生活者を産み出した。その中にあって、視覚障害者は目が見えない、あるいは目が見えにくいことによって、より一層避難のための行動や避難所などでの生活において、多くの困難を強いられた。そもそも視覚障害者は、日常生活を営むうえで、大きなハンディを持ち、「移動」と「読み書き」は視覚障害者にとって二大不自由と言われている。家族に晴眼者がいるという理由から支援が軽減されることがあるものの、24時間必ず家族が付き添っていることはありえない。そもそも視覚障害者にとっては、外出は命懸けと言っても過言ではない決意でしなければならない。ましてや災害時における避難のための移動においては、その危険性は計り知れない。それは晴眼者の家族があっても同じことである。

 視覚障害は「情報障害」にほかならない。災害発生時は避難所の場所や、移動するために必要な情報。避難所では食事の配給場所や時間、トイレへの移動や利用方法を知るために必要な情報。避難所を出たあとも自治体の説明会の開催情報や、仮設住宅等の入居に関する情報。就労などの場面においても、常に必要とされる情報は、目から得られることが大半である。情報が得にくい視覚障害者にとっては多くの困難があった。したがって、命に関わる災害時は特に、視覚障害者に必要とされる情報を的確な方法で提供していただくことが重要である。

 今回の災害を通じて国民全体に「見えない」、「見えにくい」ことを正しく理解していただくことが何よりも重要である。そして、視覚障害者に日ごろから進んで声をかけていただきたいと思う。

 また、視覚障害者自身も周囲とのコミュニケーションを図り、援助してもらえる工夫をすることが必要である。避難の際は、目が見えないことを支援者等に伝え、介助を依頼することも必要である。視覚に障害があることによって、災害を逃れることができずに尊い命が失われることがないよう、日ごろから近隣の人たちとのつながりが重要である。

2.日本盲人会連合の取り組み

 日本盲人会連合では、東日本大震災発生直後の週明け月曜日の3月14日より、被災した視覚障害者や視覚障害者団体への支援のための義援金の募金を開始した。義援金の手続きと併せて、加盟団体ならびに日本盲人会連合点字図書館利用者に対し、安否確認を実施した。安否確認は電話がつながらない地域や家屋の全壊、避難所への移動等により簡単にはできなかった。

 日本盲人会連合には、災害見舞金規程があり、災害時被災した会員世帯に対し、規程に基づく見舞金を送金した。

 4月15日に青森県、岩手県、宮城県、仙台市、福島県、茨城県の加盟団体に対しても、第1次見舞金を送金した。上記加盟団体は災害によって破損したパソコンや周辺機器、点字プリンター、棚や机等の修復をすることができた。

 4月20日には会長、常務理事が宮城県視覚障害者福祉協会、仙台市視覚障害者福祉協会、福島県盲人協会を訪問し、被災状況や、現在困っていること、今後の必要な支援を聴き取りした。また、東日本大震災視覚障害者支援対策本部の宮城県本部が設置された日本盲導犬協会仙台訓練センターを訪問し、宮城県内の支援者側からの要望や被災状況の報告を受けた。個人情報保護法があるために、自治体が有する障害者手帳登録台帳等が開示されず、そのため協力的な障害者団体や福祉施設利用者以外の安否確認が当初はできなかった。

 5月19日には会長、役員が岩手県視覚障害者福祉協会、岩手県視聴覚障がい者情報センターを訪問し、4月末までの岩手県内における組織会員等、視覚障害者の被災状況を確認した。また、岩手県庁を訪問し、今後の支援や安否確認のための名簿の開示など柔軟な対応を要望した。

 6月28日には千葉県視覚障害者福祉協会を訪問し、液状化現象による誘導用ブロック(点字ブロック)の破損等、被災状況を確認した。

 8月28日には、宮城県視覚障害者情報センターにて、岩手県、宮城県、仙台市、福島県の4団体の会長、役員、被災視覚障害者等15名と、日本盲人会連合会長、副会長、常務理事が懇談し、被災状況、今後の支援、義援金の取り扱いについての意見聴取を実施した。また、懇談の際に受けた要望を整理成文化し、9月13日に厚生労働省、内閣府、総務省、金融庁、消費者庁に対し陳情し、被災地の視覚障害者の意見を国に届け、改善を要求した。

 なお、厚生労働省平成23年度障害者総合推進事業の委託を受け、『視覚障害者のための防災・避難マニュアル』を作成し、全国の自治体や、視覚障害者関係団体に配布し、今後の災害時における視覚障害者への支援対策を広く求めた。

3.震災発生直後から今日までで見えてきた課題

 東日本大震災では、震災発生直後、避難所にたどり着けた視覚障害者の多くは、近隣の人や職場の同僚の援助を受けて移動したり、避難途中で、周囲の人から声かけを受けて移動した人であった。日ごろから近隣の方とコミュニケーションをとり、災害時には支援が受けられる関係を築くことが重要であることが認識された。

 また、視覚障害当事者自身も日ごろから防災訓練に積極的に参加し、避難所の場所や行き方を確認し、災害時に備えておく必要があることが重要であることも再認識できた。防災グッズを用意し、自治体が行っている要援護者登録をして日ごろから支援を受けられる環境を自分自身でつくることも重要である。

 また、障害者団体に加入したり関係を有しておくことは、日常生活に必要な情報が得られるほか、同じ障害のある者同士が避難時における困難性などについてコミュニケーションを取ることもできる。いざというときに支援を受けられる環境づくりの一つとしても障害者団体や施設を利用することが大切である。

 視覚障害者にとって、さまざまな人が避難生活を送っている避難所は、内外の移動や周囲の状況確認、トイレの利用方法等、非常に困難なことが多い。自治体においては、避難所での生活が困難な障害者のために福祉避難所を設置しており、できるかぎり早めに福祉避難所に移動することによってストレスが軽減される。視覚障害者のための福祉施設が福祉避難所として指定されていることもあるので、事前に地域の福祉課へ災害時の福祉避難所についても確認をしておく必要がある。避難所生活は長期化する場合もあることから、視覚障害の特性に配慮した支援が受けられる施設を福祉避難所として利用できる体制づくりが今後の課題である。

4.今後に向けての提言

 被災地にある視覚障害者団体の会員からは、災害に関する視覚障害者のコミュニティを立ち上げてほしいという意見が多くあった。会員以外の視覚障害者の中には、自分に視覚障害があることを周囲に知られたくないという思いを持っている方もいたものの、孤独になりがちな避難所や仮設住宅等で生活している視覚障害者にとっては、視覚障害者が集まれるような場所や機会を設け、話しやすい環境を作ることが重要である。実際の避難の体験談や、現在被災して苦労していること、また支援情報などを交換し、視覚障害者同士が話をすることにより、少しでも不安が解消され、安心することができる。一人で問題を解決しようとするのではなく、今後の行政への援助をどのように求めていくかについて、視覚障害者同士が協力して話し合うこともできるコミュニティを作ることによって、災害で受けた心のケアをすることもできる。

 現在、視覚障害者団体に加入している視覚障害者は一部でしかない。災害時に関わらず、日ごろから視覚障害者団体や施設を利用することにより、さまざまなサービスや相談支援を受けられるほか、視覚障害者同士が交流を図ることもできる。そして、友人関係を広げ、スポーツや文化活動に参加する機会を持つこともできる。

 今回の災害時における被災視覚障害者に対しては、団体や施設利用者などの住所録等を使用してしか安否確認ができなかったが、「無事ですか?」という電話を受けた多くの会員が嬉しかったと話している。視覚障害者が行政だけでなく、視覚障害者団体や施設と結びついていることによって、普段の生活支援や災害時の支援をより良いものにすることができる。

 災害時には、行政と視覚障害者団体や施設が連携して、視覚障害者のために活動できるシステムを構築しておくことが重要である。そして、団体や施設の役割が正しく理解され、より多くの視覚障害者が入会したり、利用することに結びつけることが重要である。災害時に十分な支援が行われるためには、視覚障害者団体自身が地域の視覚障害者の情報を把握し、常に支援活動や連絡が行える体制をしておくことが求められている。