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災害時における盲ろう者支援のあり方ついて

社会福祉法人全国盲ろう者協会

1.今回の震災全体を通じての見解

 3.11東日本大震災で多くの盲ろう者と家族、通訳・介助者が被災された。宮城県で一人の盲ろう者の男性が亡くなった。どういう状況下で犠牲になったのか明らかではないが、津波が来るという情報は届いたのかどうか、避難する手立てはなかったのか。この命を救えなかったのか、と思うと胸が痛む。

 仮にその盲ろう者がかろうじて避難所にたどり着き、水や食糧が与えられたとしても、自分の周りでいったい誰がどこで何をしているのか、どんな話がされているのか彼には分からない。救援物資がいつどこに運ばれてくるのか、刻々と流れてくるテレビの画面が見えず、ラジオの音も聞こえないので、身近な地域をはじめ、日本各地でいったい何が起きているのか分からないのである。

 日本での地震など災害時における盲ろう者への情報提供や支援体制の整備が急がれる。

2.震災への取り組み、対応

 当会では地震の直後から、盲ろう当事者の団体である「全国盲ろう者団体連絡協議会」のメンバーの協力を得て、北関東・東北・北海道の各県にある「盲ろう者友の会」へ、会員の安否・被害状況を把握すべく、問い合わせを開始した。

 当初、電話・ファックス・メール等による通信はままならず、連絡を取ること自体に苦労したが、日を追うごとに各友の会から会員の無事を知らせる連絡が次々と寄せられた。しかし、大変残念ながら、津波によって宮城県で盲ろう者一人、岩手県で通訳・介助員二人が犠牲になり、さらに通訳・介助員二人が行方不明となっている。

 協会では、震災二日後の13日から、被災地から寄せられた情報を全国の各友の会に向けて情報配信を始めたほか、15日からは、毎日新聞・点字毎日部の協力を得て被災地の生活情報を併せて配信し、6月末までの土日を除くほぼ毎日続けた(http://www.jdba.or.jp/saigai/saigai-index.html)。

 また、3月16日からは全国の友の会を中心に義援金の呼びかけを行い、2012年8月末現在、320万円強の暖かい志が寄せられた。被災4県(茨城・福島・宮城・岩手)に在住の盲ろう者64人にお見舞金を贈ったほか、震災直後の物資の供給がままならない中、補聴器の電池、携帯ラジオ、乾電池などを、希望のあった盲ろう者に提供した。

 一方、4月23日~26日にかけて、職員を現地に派遣し、福島・宮城・岩手の各県の友の会のメンバーと会合を持ち、それぞれの友の会で把握している盲ろう者の状況を聞いた。

 家屋の損壊もひどく、避難所暮らしを余儀なくされたある盲ろう者は、避難所で「盲ろう」障害を周囲に理解してもらえずストレスを感じたという。また、ある一人暮らしの盲ろう者は、携帯の充電も切れてしまい、二日間誰との連絡も取れない状態で、一人で過ごしたという。日ごろ支援してもらっていた通訳・介助員が津波の犠牲となったり、避難したりするなどで、日常的な支援が滞っている盲ろう者もいた。さらに、東日本大震災聴覚障害者救援本部(福島県・宮城県)の2箇所を訪問し、協力関係をお願いした。

 

【参考】各県在住盲ろう者の安否確認状況

(協会把握、各友の会把握の人数、2011年5月中旬時点)

北海道  盲ろう者 24名、通訳・介助員 38名

岩手県  盲ろう者 16名、通訳・介助員 50名

 ※通訳・介助員 2名死亡、2名不明

宮城県  盲ろう者 13名、通訳・介助員 68名

 ※盲ろう者 1名死亡

秋田県  盲ろう者 9名、通訳・介助員 34名

山形県  盲ろう者 5名、通訳・介助員 16名

福島県  盲ろう者 12名、通訳・介助員 51名

 ※盲ろう者 2名避難所生活(2、3週間)

茨城県  盲ろう者 8名、通訳・介助員 48名

千葉県  盲ろう者 21名、通訳・介助員 84名

3.震災発生直後から今日までで見えてきた課題

 東日本大震災への取り組みを通じて、次の課題が浮かび上がった。

① 個人情報保護法の壁

② 緊急時の情報伝達手段、避難手段の確保

③ パソコンや携帯電話等機器を持たない盲ろう者に対する災害時における緊急連絡手段がない。

④ 盲ろう者のテレビ、ラジオ、新聞等のメディアへの情報アクセス手段が乏しい。

⑤ 盲ろう者へのサポートをする通訳・介助員も被災しているため、被災盲ろう者に対する支援が十分できる体制になっていない。

⑥ 避難所生活の中で、周囲から盲ろう障害に対する理解が得にくい。

⑦ 避難訓練を受ける機会がほとんどない。

4.今後に向けての提言

 東日本大震災の教訓をふまえ、当協会として次のことを提言する。

(1)災害時における支援体制の確立

 地震・津波等の災害等、盲ろう者の命を左右する緊急時における支援体制を国と自治体主導で早急に確立するべきである。

 都道府県にある盲ろう者向け通訳・介助員派遣事務所が個人情報保護に配慮しながら、役所・警察署・消防署等と連携し、盲ろう者の所在地、障害の程度、コミュニケーション手段、ニーズをデータ化し、情報を共有し、緊急時に通訳・介助員、警察・消防関係者が派遣・急行する体制を整備するとともに、事前に当該盲ろう者を相談しつつ、近隣に居住する地域住民とともに避難する仕組みを作るなどの体制を整備する。

 また、被災地では盲ろう者だけでなく、通訳・介助員も被災することから、避難所での支援なども含め、中・長期的な支援を視野に入れつつ、派遣事務所の全国ネットワーク化を確立することにより、緊急時における被災地への緊急時遠隔通訳・介助員派遣システムの構築を図る。それにかかる経費は国、および自治体が通常の制度枠組みとは別に措置する制度設計を行う。

(2)地上デジタル放送の整備

 緊急時において、盲ろう者が地上デジタル放送を拡大文字や点字ディスプレイで受信できるようにする等、盲ろう者が自力で緊急災害情報等を入手できるように整備する。

 そのために、災害時のテレビ放送における情報保障について、国の主催により、放送事業者、電器・通信等事業者、盲ろう者も含めた障害者団体、関係団体等による検討会を新設し、課題解決を推進する。

 緊急速報については命に関わるため、大きな文字で表示したり、音の代わりに画面を点滅させたり、振動で知らせるなどして速報に注意が向くようにする配慮も必要である。

 また、携帯ラジオで地上デジタル放送が聴けたり、電源が切れている状態でも緊急速報が聴けるようにする。

(3)防災訓練、学習会への参加の周知徹底

 地震や津波による被害から身を守るため、盲ろう者自身が防災意識を高める必要がある。自力で安全な場所へ避難できるよう訓練を受けたり、自宅から避難所までのルートの情報を確認したり、地域で防災訓練や学習会に参加できるようにするために、自治体の責任において、通常の盲ろう者向け通訳・介助員派遣事業とは別に、公費で通訳・介助員派遣を保障するべきである。

(4)緊急時の連絡手段の確保

 緊急時に盲ろう者が助けを求める発信・受信の手段となる機器の開発普及を図るとともに、使い方を学習する機会を公費で補助、ないし助成すべきである。