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日本発達障害ネットワーク(JDDNET)の取り組みと提言

一般社団法人日本発達障害ネットワーク

 

 2011年3月11日に発生した東日本大震災において、多くの方々が被災し、また犠牲となった。改めて被災された多くの方々に心からお悔やみ、お見舞いを申しあげる次第である。

 今回の東日本大震災は未曾有の大災害であり、発生直後は被害の状況も明らかになりにくかった。とりわけ、障害をもった方々の被害の実態に関する情報は皆無に等しく、発達障害のある方々やそのご家族、また支援者がどのような状況にあるのかは把握が難しかった。

 その中で、われわれ日本発達障害ネットワーク(以下JDDNET)は、まずJDDNET災害支援基金を立ち上げ、募金活動を開始した。JDDNET災害支援基金は、岩手県、宮城県、福島県への支援物資の購入や配送、支援活動に関わる必要経費等にも使用できるものとして募り、有効に活用した。

 また同時に4月に被災地への専門家チームを発足させ、福島、岩手、宮城の3県にチームを派遣した。

 専門家チームのメンバーと派遣期間は以下のとおりである(専門家メンバーの所属は当時のものを記載)。

〈第一陣〉 宮城県内:2011年4月6日~9日

       福島県内:2011年4月10日~13日

代表 辻井正次 中京大学

       木谷秀勝(山口大学)、

       堀江まゆみ(白梅学園大学)

       萩原 拓(北海道教育大学旭川校)、

       小倉正義(鳴門教育大学)

       望月直人(浜松医科大学:宮城県のみ)

       中島俊思(浜松医科大学:福島県のみ)

 

〈第二陣〉 岩手県内:2011年5月7日~10日

       福島県内:2011年5月10日~13日

代表 安達  潤(北海道教育大学旭川校)

代表 井上 雅彦(鳥取大学)

       前川あさ美(東京女子大学)、

       大久保賢一(北海道教育大学旭川校)

       岡村 章司(兵庫教育大学)、

       高柳 伸哉(浜松医科大学:岩手県のみ)

       明翫 光宜(東海学園大学:宮城県のみ)、

       鈴木さとみ(発達障害情報センター)

 専門家チームは、初期段階から被災3県ごとの状況に併せて発達障害のある方々やそのご家族、支援者、行政の方々とともに支援活動を行ってきた。岩手県、宮城県、福島県それぞれで展開した支援活動は下記のとおりである。

【岩手県】

 JDDNET災害支援基金の活用として、津波で流された親の会の事務局機能の回復のためのパソコンなどの物資提供や発達障害の子どもを持つ被災家族への必要な物資提供を行った。

 また岩手県委託事業「被災地発達障がい児支援事業」を受け、支援活動を展開した。

 第1回目の活動としては、専門家チーム第2陣のメンバーを中心となり、平成23年10月14日~19日の日程で、盛岡市、大船渡市、奥州市の3箇所では茶話会と研修会を行った。茶話会では各地域の保護者、支援者、行政関係者などが参加し、震災時の振り返りとともに今後の発達障害支援についての意見交換を行った。研修会では、「震災後の子どもたちを理解する ~SOSの様々な形~」および「震災後の子どもたちを支える ~サポートの実際~」という講演を行った。

 教育においては、県総合教育センターにて「発達障害の理解」「発達障害と支援(1)~発達臨床的視点~」「発達障害と支援(2)~周囲の関わりかたも含めた環境面の工夫・配慮~」という3つの講義を行った。

 第2回目の活動は、平成24年1月26日~1月30日の5日間、沿岸部北部の久慈市から南下する行程の中で、沿岸部各市町村の保護者や支援者と今後の発達障害支援体制整備に関する意見交換と具体的なプランアドバイス、ワークショップ等を展開した。具体的には、発達障害に関する講演や子育て実践講座、地域ネットワーク作りについてのグループワークショップを行った。

 この第2回目の活動は発達障害支援を強調するのではなく、子育て支援からの発達支援、そして発達障害支援を展望する内容のワークショップや茶話会を中心に展開を進めた。被災地沿岸部の特殊性を考慮した活動は、現地の方々にも非常に好評であった。

【宮城県】

 石巻市かもめ学園への運営支援として、平成23年4月13日より大学生ボランティア(1週間交代で1~2名)の派遣調整を行った。

 石巻地区の支援として、津波の被害により遊ぶことが難しくなった発達障害のある子どもとその家族を対象として、「遊びの広場」と題した遊びの場づくりを3回催した。「遊びの広場」では、JDDNETより専門家をコーディネーターとして派遣し、仙台市内において親の会等方々とともに、震災後の情報交換を行うなど継続した相談会も開催した。

 発達障害の啓発の取り組みとしては、石巻地区の発達障害や震災後のケアのニーズについての理解を促進していくために、かもめ学園とともに、啓発講演会を実施し、保育・保健・教育等の支援者側への研修を行った。

 宮城県では「宮城県発達障害復興支援事業」として2013年3月まで発達障害への支援を展開することになっている。JDDNETでは、この事業の中で県からの専門家派遣の依頼に対して適宜派遣対応を行い、宮城県の発達障害復興支援を後方的に支援することとしている。その一環として、これまでに、石巻圏域の親御さんを対象としたペアレントトレーニングを開催した。ペアレントトレーニングでは、子どもの見つめ方として「行動」に着目した具体的な方向性を提案し、お母さん方と一緒にグループワークの形式で進めた。今後、石巻以外の圏域においてもペアレントトレーニングが導入される予定である。

【福島県】

 専門家チーム第1陣が入った4月中旬は、原発の影響もあり、現場の状況が刻一刻と変化している状況であった。まず第一陣チームが、行政、教育関係、相談支援関係、親の会、等の現地関係担当者とミーティングを行い、現状把握と今後の支援ニーズの把握のための情報収集を行い、支援課題の共有に努めた。

 その後、原発事故による放射能の影響による相馬市内の児童デイサービスの閉鎖により、放課後支援グループへのニーズが高くなることが予測される中、JDDNETは、2011年7月より福島県の委託事業「被災した障がい児に対する相談・援助事業」を受け、時限的に相馬市に事業所を開設し、現地採用の保育士2名を派遣した。また地域からの検査等を含む相談支援を担うため、JDDNET会員団体である日本臨床心理士会、日本臨床発達心理士会、日本言語聴覚士協会、日本作業療法士協会、特別支援教育資格認定協会が輪番制で毎週2名ずつの専門職員を派遣し、被災地での支援を継続して実施した。また、JDDNET派遣専門職員は地域からの要請を受けた各種検査の実施、隣接する養護学校の子どもたちへのサポートなど地域からのニーズに応じ、各職能団体の派遣専門家たちがそれぞれの分野の専門性を活かし、支援を提供することができた。

 岩手県、宮城県、福島県への支援を通して、各県において大震災の影響は大きく異なり、発達障害支援のニーズもそれぞれであることを感じた。また、何より東日本大震災で被害を受けた多くの地域では、発達障害支援の体制が十分に整備されていない状況であった。当事者団体、発達障害に関わる職能団体、学術団体、有識者の連合組織であるJDDNETは、そのネットワークと専門性を活かし、被災3県に対してそれぞれの状況やニーズに合わせた支援活動を進めてきた中から感じた共通的な提案項目を下記に挙げる。

  • 1 シェルターなど、発達障害者とその家族のための避難所の確保および二次避難所の設置のあり方の再検討
  • 2 福祉避難所の事前指定、さらには特別なニーズ別に避難所を設置するなどの柔軟な措置
  • 3 仮設住宅入居の際しての発達障害者の行動特徴に配慮した対応
  • 4 避難所や在宅など避難生活を送っている発達障害児をもつ家族への生活支援
  • 5 児童デイサービスやレスパイト、ショートステイなど、早期の生活支援サービスの再開
  • 6 災害時の情報ネットワークの再整備
  • 7 地域の親のネットワーク整備への支援
  • 8 発達障害児の通学手段確保の保証
  • 9 障害者家族に対する緊急時の一時的な経済的支援の検討
  • 10 地域の相談支援専門員の拡充
  • 11 被災事業所に対する経済的支援
  • 12 夏休み等長期休暇における発達障害者をもつ家族への緊急的支援

 東日本大震災の発生から2年が経過した中、JDDNETは復興地のこれからの発達障害支援について、現地の人々とともに考え、寄り添っていくことで、今後も地域支援ネットワークの発展を後押ししていきたい。