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リスク評価

人と防災未来センター 主任研究員 宇田川真之

はい。明日またお時間をいただいておりますが、阪神淡路大震災のあった神戸から来ております。普段は博物館に勤めておりまして、阪神大震災の経験について若い方に話をしております。はじめに、フィリピンの台風で犠牲になった方々にお悔やみとお見舞いを申し上げます。そして、台風のことからその教訓を私たちみんなにシェアしてくださって御礼を申し上げたいと思います。そうしたお話を受けまして最初のセッションでは、リスク・アセスメントについて話し合う時間になります。今日は会場の皆様との意見交換を主にしたいと思いますので、私の方で、リスク・アセスメントについて少し整理をしてから、皆様にお渡ししたいと思います。

リスク・アセスメントは、非常に大きなテーマになります。これも、いくつかの視点に分けることができると思いますので、3つの視点と3つのレベルに一度整理していきたいと思います。3つのレベルとは、国あるいは国際レベルの大きなレベルのリスク・アセスメントのこと、そして、地域、市町村や都道府県レベルのリスク・アセスメントのこと、そして、私たち一人ひとりやコミュニティーレベルのリスク・アセスメントこと。この3つのレベルがあると思います。

そして、リスク・アセスメントも3つのステップで進むことになっています。まず、最初にハザードです。今回のような台風、高潮、あとは、フィリピンですと火山や地震があると思います。そうした自然災害に対する評価がリスク・アセスメントの最初のステップになります。2番目がそのハザードの起きた後の脆弱性について。人口構成で高齢の方がどれくらいいるだろうか、建物がしっかりできているだろうか。そうした脆弱性の評価が2番目になります。3番目のリスク・アセスメントは、こうした災害に対する対応能力の部分。国や行政機関、あるいは、コミュニティーが、そうした災害に対して対応する能力があるかどうかのアセスメント。このようにリスク・アセスメントも国レベル、地域レベル、コミュニティーレベルがあると思います。また、ハザードに対すること、社会の脆弱性に関すること、そして、対応能力に対するリスク・アセスメント。このように分類できるかと思います。その中でこの会議のテーマである障害のある方の災害に対するリスク・アセスメントについて話を進めていきたいと思います。

最初のハザードに対するリスク・アセスメントは、レベルで言うと、国や国際レベルのことが多いと思います。高潮であるとか、あるいは、台風について、どの程度この国が危ないか、午前中にご紹介がありました各国のハザードに関するリスク・アセスメントのまとめがありました。こうしたマクロな分析は、まずは国レベルでされると思います。こうしたことを国がされた後に、地図にしていくと思いますが、この地図にするときに、できれば電子データの形。なるべく多くの方が使いやすいような標準化された共通フォーマットのデータで配布されること。つまり、紙の地図では、視覚障害の方には見えません。しかし、GISデータ、電子データの形で、提供されるならば、これをデータ処理して音声の形で伝えることは技術的には可能になります。私たち一人ひとりや地方行政レベルではなくて、国、あるいは、国際レベルで共通のフォーマットを作っていくことが、各国の障害のある方にとって有益だと考えられます。一方で、自然災害に関するリスク・アセスメント、ハザードに関するリスク・アセスメントにおいても、よりローカルな、地域の細かいことも必要になります。災害もいろいろな種類がございます。高潮や津波。これらは非常に広域な災害でありますけれども、例えば、崖崩れ、あるいは、小さな川の氾濫、こうしたものは国レベルというよりも、私たちが住んでいる周りで起こります。こうしたことを知っていく、自分の家の周りのどこが危ないだろうということを、車いすの方、あるいは、視覚障害の方が知ろうと思ったときには、むしろ、私たちと地域の方々が一緒になって周りを調べることが大事になります。さっきのレベルで言うと3番目のコミュニティーレベルが大事になってくるような災害種別になります。こうした活動をどうしたらいいかについては、次のセッションのプリペアドネスになると思いますので、ここで、ハザードに関するリスク・アセスメントの話を終わりにしたいと思います。

2番目の脆弱性に関するリスク・アセスメントでございます。この点についてもやはり国の関与は大事だと思います。午前中藤井様からもWHOの方からも質疑応答がありましたが、そもそも高齢の方がどれくらいの割合でおられるのか、障害のある方がどれくらいおられるのか、しかも、障害のあるという一括りではなくて、見えない方、見えにくい方、あるいは、聞こえない方、聞こえにくい方、より細かい分類できっちりと、私たちの国に、あるいは、地域に、どれくらいの人数がおられるか、しっかりと知ることが、リスク・アセスメントの一番最初の大事なことになります。こうしたこともやはり国レベルで、あるいは国際レベルで、共通的に行なっていくような取り組みだと考えられます。その上で2番目の地域で取り組むこともございます。先ほどフィリピンのプレゼンテーションで、盲人の方の暮らしていらっしゃる家であるとか、あるいは、障害のある方の学校の話がありました。地域レベルで、市町村レベルで、自分の町で津波が危ない地域がわかったときに、その中に盲人の方が暮らしている家はないだろうか、あるいは、知的障害のお子さんが通っている学校はないだろうか、こういったことをきちんとアセスメントすること。これが大事になります。今日、午前中、日本財団さんの動画の中で非常に痛ましい、障害者の亡くなられた方のエピソードがありました。津波が襲ってきたときに、もう逃げられないから、私を置いてみんな行ってくれという話だったと思います。そうした悲劇が二度と起きないようにするには、そうした場所に施設を作るべきではないわけです。県立や市町村立の施設をそうしたところには作らない。そうした取り組みが大事になります。今回の東日本大震災とき、介護を受けている老人の方々が暮らす施設を高台に作っていた町もありました。そこの施設では、当然、津波では誰も亡くなっていません。町が津波に襲われたあと、普段は自宅で暮らしていらっしゃるお年を召した方々が、ご自宅では暮らせなくなりました。そうした方々が高台の施設に避難されてきました。しっかりとあらかじめ福祉施設を安全な場所に作っていたわけで、そこに入所している方だけではなくて、地域全体に役立ったということになります。こうしたことが地域レベルで行なっていく、大事な脆弱性に関するリスク・アセスメントの一つだと思います。また、個人やコミュニティーレベルのリスク・アセスメントの取り組みも進んでいます。例えば、私も一緒に参加していますけれども、自宅に暮らしている目の見えにくい方、見えない方、あるいは、車いすの方と避難所まで実際に避難してみるという避難訓練をしています。そうすると様々なことに気づきます。例えば、ある道を普段は近いので、車いすで通っているけれども、よく見てみると、看板があったり、いろいろなものが道にあったりして、地震のときはとても通れないだろうと。もっと回っていった方が、たぶん、地震のときはいい道ではないかといったことに気づいたりしていきます。そうした活動をすることで、当然、車いすの方もいざ災害のときには早く避難できるようになるでしょうし、また、手助けをしてくださる支援者の方もより安全に支援ができることにつながっていくのだと思います。こうしたことが私たち一人ひとり、あるいは、国にできるようなリスク・アセスメントの一つだと思います。

最後、対応能力についてのリスク・アセスメントになります。これは、2番目のテーマの災害に関する準備のことが多くなりますが、一つ、二つだけ。最近、私がご一緒しているところの事例を紹介したいと思います。一つはある福祉施設の話です。そこは4階建ての施設なのですが、そこの施設は海に近いために、津波が来ると浸水してしまいます。その1階には、普段、デイサービスといって、近くに住んでいらっしゃる、介護を受けている老人の方々、車いすの方々が、大勢来ていらっしゃいます。地震が来たら、1階にいる方々に上の階に上がってもらわないととても危険です。しかし、福祉施設に勤めている職員さんは、そんなには多くありません。そして地震の後には、エレベーターは止まります。日本の場合は、停電すれば止まりますし、停電しなくても大きな揺れがあると、自動的に安全のために止まってしまいます。したがって、人々が手の力で、多くの車いすの方を2階に上げる必要があります。この施設では、私たち職員は今何人いるか、そして、普段、どれくらい車いすの方がいるだろうかと数えて、時間がどれくらいかかるか計っています。最初は、実は、背負って逃げようとしました。計ってみたら間に合いませんでした。やはり時間がかかります。その後、今、その施設では、車いすのまま階段を上げられるようにと、簡単なスロープを木で手作りをしています。そうしますと、背負って逃げるよりもだいぶ早く逃げられることがわかってきました。そして、今は訓練を繰り返していまして、普段デイサービスで通っている方々の人数とスタッフの人数。まさに、リスク・アセスメントしています。どれくらい時間がかかるか。今は間に合うといった段階まで対策を進めてきています。こんなことが自分達の対応能力がどれくらいあるのかのリスク・アセスメントの取り組みの一つかと思います。

今、施設の話をしましたので、主にスタッフさんとそこを利用している人の話でしたが、より大事なのは、街の中に暮らす数多くの障害のある方々と地域の方々。この方々で取り組むことが大事になります。地域の方々と障害のある方々が一緒になって、考えながらリスク・アセスメントをする。これが大事になってきます。これは2番目の本格的なテーマになると思いますので、私の最初の導入は終わりにしたいと思います。