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ユニバーサルデザインはすべての命を救う

人と防災未来センター 主任研究員 宇田川 真之

昨日に引き続き宜しくお願い致します。私は兵庫行動枠組からきました兵庫県から伺っております。兵庫では20年程前に大きな地震がありまして、私はこの地震を後世に伝える博物館の方から伺っております。その兵庫で兵庫行動枠組ができたという経緯がございます。最初に簡単に博物館を紹介した後に、本題のユニバーサルデザインについて、その定義について、またそのユニバーサルデザインに基づいた計画などを作るプロセスについて話をしていきたいと思います。 時間は15分程と聞いていますので、宜しくお願いします。

写真は、阪神淡路大震災を伝える博物館の外観です。青いガラス張りの建物になっていまして、ガラス張りにしたのは、2つの意味があります。1つは、阪神淡路大震災では火事で亡くなった方が多くいました。ですので、涼やかなイメージにしたいということで、青い外観になっています。もう1つは、地域の多様な方々に開かれた博物館にしたいということでガラス張りにしています。

実際展示している展示物は、一般市民の方々からいただいた寄贈品を展示しています。震災当時、一般の方が撮った写真であったり、日記であったり、あるいはご家族を亡くされた方々からいただいた遺品など。市民の方々からの寄贈に基づいて展示をしています。中には今日のテーマである障害のある方々に関するものも展示しています。例えば、画面にあるのは、聞こえない方のために作った情報誌です。当時、役所では様々な手続きがあったのですけれども、どの役所に行ったら、ちゃんと設置通訳がいるか、手話通訳の方がいるか、そうした情報をボランティアの人が作って、紙に書いて配っていました。左側、見えない方に広報誌を展示にして、展示版のようなものを作っていたものです。こうした貴重な資料が無くならないように、集めて後世に伝えるようにしています。20年前に神戸で障害のある多様な方々とともに、市民の方がどのように災害に立ち向かったのかの記録をきちんと保存しています。

こうした展示物だけではございませんで、実際の市民の方々のボランティアによる語り伝承もおこなわれています。 昨日、防災の実話が大事だという話がありました。全くその通りだと思います。私たちの博物館でも、一般の方々がボランティアで当時どんなことがあったのかと伝えてくださっています。市民ボランティアの中には、車椅子の方もおられます。また手話通訳のボランティアの方もおられますので、聞こえない方がいらっしゃった時には、そういう方が対応なさいます。もちろん、英語や中国語の通訳をされる市民ボランティアもいらっしゃいます。残念ながら、手話で直接語りをしてくださるボランティアの方が常にここに来てもらうことができないので、この部分は映像を流しています。この中では、手話によって、ろうの当事者の方が、どんなことに困ったか、どんな活動をしたか、手話と字幕と音声とで伝えています。従って、来館した方は、字幕を見たい方は字幕で、手話を読みたい方は手話でと、障害のある方が、どのようなことを体験したかが分かるようにしています。ただ正直に、私たちの博物館は少し古いこともありまして、完全にユニバーサルデザインなものではございません。この映像装置も後から設置したことが分かるかと思います。本来であれば、博物館をつくる当初から、設計段階から、全ての方に開かれた設計をするべきでございました。それがまさにユニバーサルデザインの考え方になります。一番最初から多様な方々に、出来るだけ多様な方々に使えるようなものにすることです。

こちらは障害者人権条約の中にあります、ユニバーサルデザインの定義、説明になります。特に後で改変とかせずに出来るだけ多様な方が使えるような製品、環境、計画、サービス、そういったものをデザインしていくことと定義されています。

当初はその要素として7つのものが上げられていました。どんな方にも平等に使えるようにということであります。私たちの博物館では、展示物はなるべく低い位置においています。車椅子の方でも見られるように。車椅子の方が見られる低さであれば、背の低い子どもが来ても見られます。このようにして、なるべく多くの方が見られるようにしています。あるいはユニバーサルデザインの要素としては、他にシンプルであること、はっきりとわかりやすいことであること、あるいは力のない方にも簡単に動かせるものなど。防災分野でいうと、我が国では、力のない方でも簡単に消火剤が出せるような消火具が作られたりしています。また、なるべく広いスペースをとって、多くの方が使えるようにすること。この写真はこの会場でさっき撮ってきました。出て右側にあるトイレですね。入口には、見やすいサインで男の人か、女の人か、あるいは幼児を乗せる赤い台がありますよというサインがあります。中は非常に広くなっていて、車椅子の方でも使えるようになっていますし、おむつ替えをしたいお母様、お父様でもスペースが確保されています。こうしたなるべく多様な方が使えるようなものを作っていく、初めからデザインしていく、これがユニバーサルデザインになります。但し、国連の障害者人権条約には続けてこのように記載されています。ユニバーサルデザインというのは、特定の補助の機材が必要な方に、そうしたデバイスを排除するものではないと。今日、一番左側に要約筆記が聞こえない人のために用意されています。あるいは、触手話の方が、今パネリストをサポートしています。こうした特定の方をサポートするものを排除するものではございません。

ここから、具体的な事前準備のユニバーサルデザインについてです。これは日本の中で、津波が危険な地域で取り組まれている1つの事例です。海に面して、非常に高い津波がくる地域なのですが、地形的に高い丘とかありません。そこで、行政は新しい公共施設を作る時に、外側に車椅子の方でも逃げられるようなスロープをつけています。そして、なるべく傾斜を緩くするために、外側にかたつむりの螺旋のようにつけています。そして、ここが津波の避難する場所だとわかるように、こうした看板を町の中につけています。津波が来たら、このビルに逃げてくださいよ、というサインです。これは日本の中では、どこでも同じマークなので、この仙台でも、大阪でも、九州でも同じようなマークになっています。これは国際標準にも採用されています。こうしたものは、言葉の分からない外国の方もわかるように、これもユニバーサルデザインの1つでございます。

こうした避難所に、津波が危ないときに逃げるのですが、その時には、日本の場合も、昨日話題になった、早期警戒情報が流されます。先日、藤井様のプレゼンテーションにあったように、日本の場合、古くから使われている一番基本となる情報伝達システムは、防災無線と呼ばれるものになります。役場から無線を通じて一斉に放送をかけるものであります。つまり、もしこの仙台で地震があって、仙台市役所の方が、仙台全体に知らせようと、車で回っていても時間はかかってしまいます。そこで無線を通じて伝えるというシステムが以前から作られていました。但し、これも限界があります。1つは、屋外で拡声器があってもなかなか、聞こえない方が当然います。とりわけ、聞こえない方、聞こえにくい方にとっては、この防災無線の音声放送は全く意味がありません。そこで東日本大震災の後の日本では、携帯電話を通じてメールで、あるいはテレビ放送を携帯電話に送る。そうしたものを使って、文字もしくは音声、画像などで津波の情報、あるいはその他の災害情報を届けるといった仕組みが続いています。携帯電話であれば、常に持っていますので、非常にユニバーサルの高いものになります。但し、若い方は使うのですが、お年を召した方、こうした機材を使うのはあまり好まない方も少なからずおられます。とりわけ、聴覚障害者の方には、そうした方が少なくありません。そうした方にも、きちんと防災情報を届けようと各地で取組が行われています。私が一緒にやっている兵庫の取組とかですが、まず伝える経路としては、FAXで伝えようとしています。そして文字とイラストで。なるべくわかりやすいイラストを作って届けています。ユニバーサルデザインには2つの要素があって、1つは、きちんと届けられるという、アクセシビリティの問題、もう1つは、届いた情報がきちんと分かるという、ユーザービリティ。この2つを確保するが大事になります。単にFAXで届ければ良いというものではありません。書いている情報をわかりやすくすることも大事になります。より大事なことは、これを、地域の障害のある当事者の皆と一緒になって作りました。インクルージョンですね。当事者にとって、どんな絵がわかりやすいか、意見交換をしながら作りました。これには2つの意味があります。1つは、それによって、より良い成果物ができます。多くの方の意見を聞くので、より良い成果物ができます。それだけではありませんで、より大事なことは、作っていく過程そのものに多様な方が参加されるということです。そして完成させる方、行政の方や支援者の方が、当事者と話し合って作っていくこと。これによって、FAXが流れる社会そのものが、よりユニバーサルになります。これが最も大事なことだと考えられます。

ユニバーサルデザインは決して物を作ることを目的とはしていません。環境や計画、社会全体をユニバーサルにする。それが一番大事なことであります。そうしたことを目指しまして、1つ、神戸市のある地域では、取組が進められています。先日、藤井様から、障害者がどこにいるのかの情報をなかなか行政から出せないとのお話がありました。

神戸では新しい条例を作りまして、平常時からきちんと取組をしている地域団体には、障害者の個人情報が出せるような条例を作りました。では、どのような団体に出せるのか、それは平常時からきちんと多様な障害者を入れて防災の取組をしている団体になります。写真はその様子ですが、聞こえない方も、見えない方も、知的障害のある方も参加して、ワークショップをしたり、実際に車椅子を押したりする訓練をしたり、そして地域の方々の訓練に一緒になって参加しています。このように、一般の住民の方々も障害のある方と一緒になって訓練をしたり、話し合いをしたりしました。車椅子の押す訓練も皆で一緒になっていたしました。話し合いもいたしました。知的障害のある当事者の方、あるいは保護者の方も参加されて、どうしたことが困るか話し合いをしています。こうしたことを2年間行って、今年3年目に入りました。そうした訓練をしますと、様々なことがわかってまいります。今回の2日間のテーマは、知識を通じて考え方を変えていくということでありました。これは障害のある方、なかなか学習が出来ない障害のある方に知識を得てもらって、変えていく部分もありますが、もう一方、健常者の方。普段なかなか障害者について知らない健常者の方にとって、障害がある方というはどういうことなのか知っていただく機会となっています。そうして健常者の考え方も変わることもございます。例えばこちらの写真は、行政から手話通訳が派遣された訓練に、聞こえない方が参加したときの様子になります。聞こえない方は、訓練の会場で、最初自分の手に包帯を巻くことを覚えました。次にやったことは、誰かを助けること。誰かに包帯を巻くことをしました。そうした活動の中で、周りの健常者の方は障害のある方は助けられる一方、きちんと情報保障をすれば誰かを助けることができる、社会の活動に参加することができるのだという知識を得ています。それによって健常者側のマインドセットが変わっていきます。

このようにユニバーサルデザインは決してものを作るだけでなく、その過程、環境全体を変えていくことが大事であります。その上では、障害のある方、ない方、多様な参加がかかせません。こうした活動を通じて、社会全体が安全になってきます。冒頭、障害のある方の死亡率が2倍だったのではないかという話がありました。これを藤井様から、健常者と同じにしていきたいというお話がありました。言うなれば、かつては障害者の死亡者が20名だったところを、5名にする。そうすると、健常者の方も10人だったのを5人にする。つまり、障害者の死亡率を下げることによって、健常者の方も下がっていく、こうしたことを狙っていくのが、ユニバーサルデザインだと思います。ありがとうございました。

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