音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

-第5回全国盲老人ホーム利用書実態調査報告書-

第4章 ホーム利用者の介助に要した施設職員の介護量について

 本章においては、調査結果にもとずいて、およそ三つの点についてふれてみたい。まず第1に、養護盲老人ホームと特別養護老人ホームにおける利用者にたいする職員の介護量はどのようであるか、どのような相違や差がみられるか。第2に、利用者介護のニーズにたいして職員の側からの認識と、併せてそのニーズ充足についての認識はどのようであるか。第3に、まとめとして、利用者の重度化はどの程度進んでいるか。これらを中心に検討をくわえたい。

(1)盲養護と特養における介護量について

 第3章において、利用者の身体的状況について調査結果をもとに、前回の調査結果との比較を通じて、利用者が全体的にどのような変化をとげてきたかを理解することができた。
 実際に、さまざまな変化が見られたが、日常生活行動をもって要約するとすれば、盲養護の施設では利用者が職員にたいして介助の面で依存する程度が少なくなりつつあり、反対に施設内ではあっても、自立のある生活への傾向が若干高まったといえる。特養では、むしろ介護に依存する傾向がたかまりつつあることがわかった。
 これら利用者の身体状況、生活行動に関する調査結果は、医師による診断記録や施設に保管されている利用者の記録等にもとづくデータであり、一部は職員の観察に基づく利用者自身についてのデータである。こうした利用者の事実とはべつに、介助する職員の側からの事実データが、特に利用者の「重度化」の間題をめぐって必要であると考えられた。そこで職員による介義について、特に介護の量についての視点をあらたに調査項目に加えることとした。
 施設サービスにおける介護量については、全国社会福祉協議会傘下の老人福祉施設協議会上において、平成元年に『特別養護老人ホーム入所者の重度化に対応した施設サービスのあり方研究会』が設置され、平成2年には全国60の特養利用者3,762名を対象に介護量の実態調査が実施された。(このことについては全社協・老人福祉施設協議会「老施協」、206-7号、平成2年11月、12月号参照)
 今回の全盲老連の利用者実態調査においては、この全国60施設対象の特養ホーム介護量調査のなかから、適当とおもわれる項目を選らばせていただき、お断りして活用させていただくこととした。それらは本調査の質問項目第33から第58に収められている。
 ところで、これらの調査項目は、もともと特別養護老人ホームの利用者を対象に作成されたものであるので、養護盲老人ホーム利用者の介護のことを調べるに必ずしも適切ではない。すなわち、盲養護の利用者には、介護の上で、視覚障害者にたいする特別な配慮が求められている。それゆえ、盲養護の利用者向けに、とくべつに工夫された調査項目をつくるべきだ、という意見もある。
 それゆえ、盲養護むけの質問項目が近い将来に作られることを願いながら、今回は特養利用者に対する介護量の状況をあくまで参考にしつつ、盲養護利用者の実状を見てみることとした。

(1)ADL評価結果を参照しつつ介護量を点検する

  日常生活動作能力(ADL)についての調査(設問第30)のうち、(ア)移動・歩行、(イ)着脱衣、(ウ)排泄、(エ)食事、(オ)入浴の5項目は、介護量の調査項目のうちからも拾い出すことができるので、盲養護と特養それぞれのADL結果を参照しながら、それぞれの項目にみあう介護量調査の結果を引き合いにだして、介護量の様子を見ていくこととする。

(ア)移動・歩行(設問第30の4項目)に関するADL評価の結果

盲養護 特養
自立:器具を使用し、時間がかかっても自分で歩ける 2402 88.7 459 41.9
中度:手や肩を貸せば歩ける 211 7.8 205 18.7
重度:全く歩けない 85 3.1 427 39.0
不明 11 0.4 5 0.5
合計 2709 100.0 1096 100.0

○職員による移動介助の実践状況:(問34,39)
問34 食事の際の移助の介助はどの程度行いましたか。(車椅子の使用の有無にかかわらず答えて下さい)

盲養護ホーム
N:2,709
(%)
特養ホーム
N:1,096
(%)
一般特養ホーム
N:3,757
(%)
1.介助しなかった(完全に自立あるいはベッド上の摂食) 67.3 33.7 42.6
2.見守り・声かけをした 20.5 21.1 18.2
3.歩き始め、あるいは移動時に一部手をかした 6.3 16.1 11.0
4.常に手をかした 5.6 28.6 26.4
(不明)0.2 0.6 0.2
1.7
(経管栄養)

問39 浴室への移動の介助は、どの程度行いましたか。(移動の方法別に、どれか1つに答えて下さい)

盲養護(%) 特養(%) 一般特養(%)
1.歩行で移動の方 48.9 16.5 13.5
 1.介助しなかった
 2.見守り・声かけをした 24.4 9.0 11.0
 3.歩き始め、あるいは歩行時に一部手をかした 16.4 10.7 7.7
 4.常に手をかした 4.6 8.0 6.1
  不明 0.2 0.8
2.車椅子またはシャワー椅子で移動の方 2.6 2.6
 1.介助しなかった
 2.見守り・声かけをした 4.1 1.9
 3.移乗、操作に一部介助した 10.5 7.6
 4.全面介助をした 21.0 18.8
  不明 0.1
3.ストレッチャーで移動の方 5.7 11.7
 1.声かけの内容を理解し介助者に協力できるので、
   特には手がかからなかった
 2.痛み、拘縮、麻痺、肥満などのために、特に手がかかった 8.6 13.4
 3.動きが激しく危険性があるため、特に手がかかった 2.1 3.5
  不明 0.3

[データについての所見]
 1)ADL調査結果では、歩行・移動ついていえば、「自立」が盲養護88.7%、特養41.9%であるが、「自立」である利用者がすべて「介助を必要としない」ということではないことが、介護量についての設問第34の回答をみればわかる。すなわち設問第34の「介助を必要としなかった」という回答は、食事への移動の場合、盲養護で67.3%、特養では33.7%だけなのである。「見守り・声かけ」による介助がそれぞれ20.5%、21.1%必要であった。さらに浴室への移動介助の場合にはADL「自立」とされた利用者に対しても、職員が「介助しなかった」という回答比率は少なく、むしろ「自立」と評価された利用者にも「見守り・声かけ」、「一部手を貸す」という介助が、比率のうえからも加えられていると推察できる。
 2)ADL「重度」で「全く歩けない」利用者は、盲養護で3.1%、特養で39.0%であるが、食事への移動で、職員が「常に手を貸した」利用者は盲養護で5.6%とADL「重度」の利用者3.1%よりも多い。反対に特養では28.6%と少ない。後者についてはベッド上での摂食が含まれるからだと察せられる。
 3)たしかに特養ではADL「中度」と「重度」の利用者が57.7%を占めており「常に手を貸す」介護が盲養護の比率の5倍くらいに達することがわかるが、「見守り・声かけ」など、自立している利用者にたいしてその維持をはかる介助が、盲養護と特養とでは比率のうえでほぼ関連していることに留意したい。

(イ)着脱衣(設問第30の5項目)に関するADL評価の結果

盲養護 特養
自立:自分でできる 2363 87.2 413 37.7
中度:手を貸せばできる 244 9.0 310 28.3
重度:自分でまったくできない 100 3.7 370 33.8
不明 2 0.1 3 0.3
合計 2709 100.0 1096 100.0

○職員による着脱介助の実践結果:(問50、51 )
問50 毎朝夕の着替え介助の頻度は、どのくらいでしたか。

盲養護(%) 特養(%) 一般特養(%)
1.着替え介助はしなかった 86.3 43.5 41.4
2.毎朝夕ではないが、着替え介助をした 10.2 43.6 48.9
3.毎朝夕、着替え介助をした 3.1 12.4 9.2
  不明 0.3 0.5 0.5

問51 着脱衣時の介助はどの程度行いましたか。

盲養護(%) 特養(%) 一般特養(%)
1.介助しなかった 82.8 34.7 27.4
2.一部介助をした(靴下や胸元のボタンなど、
   届かない部分への介助など)
10.0 23.3 18.9
3.全面介助をした(頭、腕、足を通す、引く、
   上げる等ができないので)
4.9 30.3 40.8
4.痛み、拘縮、麻痺、肥満などのために、
   あるいは拒否したりするので、特に手がかかった
0.4 8.0 10.1
5.常に声かけをし、手をかしながら、時間が
   かかっても自分でできるように介助した
1.5 3.5 2.3
  不明 0.4 0.3 0.5

[データについての所見]
 1)着脱衣介助の頻度では、盲養護のADL「自立」件数は、特養に比べて圧倒的に多く、また介護量の「着替え介助なし」の比率はきわめて近い値を示している。また「中度」と「重度」もそれぞれの介護量に近い数字を示しており、利用者の生活動作に応じた対応がなされている。
 2)これにたいして特養では、ADL評価の「自立」は37.7%であるが、設問50の「着替え介助はしなかった」が43.5%と5.8%上まわっており、「手を貸す」必要のある利用者に対して介助がなされなかった様子が浮かんでくる。また「重度」の(自分で全くできない)利用者33.8%にたいして、「毎朝夕、着替え介助した」が12.4%と、重度者の半分にも達していないことがうかがえる。
 3)着脱衣介助の程度(問51)では、盲養護の「自立」が87.2%であるが、職員が「介助しなかった」のはそのうち82.8%で、のこる4.4%(120人)がなんらかの介助を受けたことを示す。またADL「重度」(自分で全くできない)は3.7%みられるが、介護の側から「全面介助をした」が4.9%みられるということは、先の「自立」の場合と同様、利用者の生活動作の実状にてらしてADL判定が取り落としている種々の動作や生活場面について、なんらかの介助が必要であったと思われる。しかし場合によっては反対に、必要以上に介護の手が差し延べられた、とみることも可能である。
 4)特養でもADL「自立」の利用者にたいして僅かながら介助の手が差し延べられた様子がうかがえるが、「中度」及び「重度」の利用者にたいしては、介護量はほぼ相応であるとみなされる。

(ウ)排泄(設問第30の6項目)に関するADL評価の結果

盲養護 特養
自立:自分で昼夜とも便所でできる。夜間は
   自分で簡易便器でできる
2479 91.5 512 46.7
中度:介助があれば簡易便器でできる。夜間は
   おむつ使用。
122 4.5 189 17.2
重度:常時おむつ使用 104 3.8 392 35.8
(不明) 4 0.1 3 0.3
合計 2709 100.0 1096 100.0

○職員による排泄介助の実践結果:(問44)
問44 この利用者の1日の排泄にかかわるすべての介助の回数は何回でしたか。

盲養護(%) 特養(%) 一般特養(%)
1.介助しなかった 89.7 41.2 33.8
2.6回以下 5.5 20.0 22.4
3.7回以上10回以下 4.0 35.9 38.5
4.11回以上 0.4 2.4 5.0
(不明) 0.4 0.5 0.3

[データについての所見]
 1)ADL「自立」と設問第44の「介助しなかった」の数値が盲養護ではとくに僅差であり、特養とともに、ADL「自立」、「中度」が介護業務の各ランクの回答数にほぼ対応している。特養の利用者のほうが比較的に介護ニーズの個人差も大きく、それゆえ介護量も多岐に及ぶ。

 (エ)食事(設問第307項目)に関するADL評価結果

盲養護 特養
自立:スプーンなどを使用すれぱ自分で食事ができる 2542 93.8 763 69.6
中度:スプーンなどを使用し、一部介助すれば食事ができる 123 4.5 230 21.0
重度:臥床のまま食べさせなければ食事ができない 30 1.1 101 9.2
(不明) 14 0.5 2 0.2
合計 2709 100.0 1096 100.0

○職員による食事介助の実践結果:(問36)
問36 食べる動作への介助を、どの程度行いましたか。

盲養護(%) 特養(%) 一般特養(%)
1.介助しなかった 75.5 47.5 46.2
2.見守り・声かけをした 17.6 22.5 19.6
3.一部介助した 5.1 17.9 19.3
4.全面介助した 1.6 11.6 13.1
(不明) 0.2 0.5 0.1

[データについての所見]
 1)盲養護と特養において、ADL「自立」(スプーンなどを使用すれば自分で食事ができる)であった利用者はそれぞれ93.8%と69.9%である。このうち職員が「介助しなかった」ケースがそれぞれ75.5%と47.5%であるが、その差をうめる「見守り・声かけ」による介助が盲養護で17.6%、特養で22.5%と示されている。これが利用者の「自立」をささえる不可欠の介助として、食事の介助のなかでおおきな比重をもつことがわかる。

 (オ)入浴(設問第30の8項目)に関するADL評価結果

盲養護 特養
自立:自分で入浴でき、洗える 1748 64.5 203 18.5
中度:自分で入浴できるが、洗う時だけ介助を要する。
   浴槽の出入りに介助を要する
796 29.4 409 37.3
重度:全面介助しなければならない。特殊浴槽を利用している 162 6.0 479 43.7
(不明) 3 0.1 5 0.5
合計 2709 100.0 1096 100.0

○職員による介助の実践結果:(問40,41)
問40 洗いの介助は、どの程度行いましたか。

盲養護(%) 特養(%) 一般特養(%)
1.一般浴の方 61.5 9.8 3.4
   1.介助しなかった
   2.洗髪、あるいは背部など手が届かない
    ところを洗う際に一部介助をした
27.3 33.1 26.0
   3.全面介助をした 4.9 9.3 17.7
   4.常に声かけをし、手をかしながら、
    時間がかかっても自分で洗えるように介助した
2.6 2.6 1.3
(不明) 0.6
2.中間浴、特浴・機械浴の方 0.9 21.4 21.9
   1.声かけの内容を理解し介助者に協力できるので、
    特には手がかからなかった
   2.痛み、拘縮、麻痺などのために、特に手がかかった 1.3 17.9 20.3
   3.動きが激しく危険性があるため、特に手がかかった 0.6 4.9 5.9
(不明) 0.1 0.4

問41 浴槽の出入り、湯につかる際の介助は、どの程度行いましたか。

盲養護(%) 特養(%) 一般特養(%)
1.一般浴の方 39.5 12.6 8.6
   1.介助しなかった
   2.見守り・声かけをした 28.3 10.9 11.1
   3.一部介助した 24.0 22.3 15.3
   4.全面介助した 4.6 9.5 13.2
(不明) 0.1 1.1
2.中間浴、特浴・機械浴の方 0.6 23.9 22.9
   1.簡単な見守り・声かけをした
   2.高血圧、心疾患、貧血などがあり、常時
    細かい観察をした
0.6 6.2 5.2
   3.痛み、拘縮、麻痺が強く、常に付き添っ
    て支えていた
1.6 13.4 20.1
(不明) 0.3 3.6

[データについての所見」
 1)盲養護ではADL「自立」、「中度」、「重度」に該等する利用者数が、設問第40(洗いの介助)、設問第41(浴槽の出入り、湯につかる際の介助)の段階的な介護のランクに、ほぼ対応している。設問第41の「見守り・声かけ」による介助は、ADL「自立」の利用者にたいして払われた介助とみなされる。なおADL「重度」とされた6.0%のうち、実際に特殊浴槽等で入浴した利用者は3%くらいで、残りは一般浴での全面介助により対応されたと思われる。
 2)盲養護ではADL「自立」が18.5%であるにもかかわらず「介助しなかった」利用者は設問第40で9.8%、第41で12.6%だけで、6~10%ちかい利用者がなんらかの介助を受けている。またADL「重度」である43.7%にのぼる利用者が特殊浴槽を利用したことになっているが、そのうちほぼ半数(問40で21.4%、問41で23.9%)が「簡単な見守り・声かけ」程度の介助を受けており、介護をより多く要したのはその残り半数の利用者であるとみなされる。

(2)介護量調査データ所見について

 ADL調査結果を参照しながら、盲養護と特養の介護量を比較、検討した結果、おおまかに次のような結論を下すことができる。

  1. 介護量は利用者の生活動作能力(ADL)が低い場合に増加する。
     それゆえ、中度、重度の利用者数が比率のうえで多い特養において、一部介助、全面介助等の介護をうける利用者は多い。
  2. ADL「自立」は盲養護において多い。しかしながら生活場面により、「見守り・声かけ」程度の介助を要とする利用者が、特養並か時には特養以上に多い。
  3. ADL「自立」の利用者に、必要以上に介助の手が差し延べられていることはないか、またADL「重度」の利用者に、適切かつ充分な介助の手が差し延べられているかについて、今後に調査の余地を残す。
  4. その他の介護量に関する調査項目のなかで、通院にかかわる介助について盲養護の利用者が特養の利用者よりも、かなりの介護をうけていることが次の設問第55~57のそれぞれの結果から明らかである。これは前章でふれた通り盲養護、特養ともに通院する利用者が90.1%、89.1%とかなり高い比率を示しており、そのうえ 80%前後が「9ヵ月以上」の通院期間であることを考慮せねばならない。

問55 通院にかかわる介助は、過去1ヵ月間にどの程度行いましたか。

盲養護(%) 特養(%) 一般特養(%)
1.通院しなかった、あるいは家族だけで連れて行った 58.2 63.6 79.7
2.月1回程度、あるいはそれより少ない頻度で介助をした 23.7 19.7 11.8
3.月2~3回程度介助をした 13.5 9.0 3.8
4.週1回以上介助をした 4.3 6.8 3.1
(不明)0.3 0.9 2.4

問56 1回の通院介助(通院に出る準備から戻ってきての介助まで)に要する時間はどのくらいでしたか。

盲養護(%) 特養(%) 一般特養(%)
1.通院介助をしなかった 53.4 53.4 79.9
2.1時間未満 8.1 13.1 6.5
3.1時間以上2時間未満 17.2 16.1 5.1
4.2時間以上3時間未満 14.7 6.8 4.0
5.3時間以上 5.5 2.3 1.2
(不明)1.2 3.3

問57 1回の通院で、通院先まで同行して介助する職員の人数は何人でしたか。

盲養護(%) 特養(%) 一般特養(%)
1.職員は介助しなかった。または家族が介助した。 50.1 53.7 設問なし
2.職員1人が介助した 37.9 28.9
3.職員2人が介助した 9.2 8.2
3.職員3人以上で介助した 0.1 0.1
(不明)2.6 9.0

(2)利用者の介護ニーズに関する介護職員の判断について

(1)利用者の介護ニーズについての介護職員による認識

  施設利用者が、生活のなかで介護を必要とする事柄を「介護ニーズ」と呼ぶとすれば、このニーズを理解することは、利用者にたいする介助サービスの充実に資するばかりでなく、利用者の日常生活の質を高めるうえできわめて大切である。利用者の介護ニーズは日ごろ、介助にあたる職員が時間をかけて取り組む課題である。職員はめいめいの利用者の健康状態や生活を直接に観察したり、実際に介助を行いつつ、会話を通じてニーズを察知しようと努めており、めいめいの利用者がどのようなニーズをどの程度もっているかについて、豊かな認識を持とうと日夜努力している。
 それらの認識をもとに、ひとりひとりの利用者の介護ニーズを、おおまかではあるが、4段階で見積もってもらうこととした。設問59の回答は、介護量についての質問の後で、介護に従事する寮母、生活指導員がひとりひとりの利用者に下した判断の結果である。

問59 この利用者が通常必要とする介護の量及び内容は、あなたの観察及び判断では次のどれに該当すると考えられますか。(1つだけ選んで下さい)

盲養護(%) 特養(%)
1.ほとんど介護を必要としない 40.5 15.2
2.たまに介護を要する程度 35.8 29.0
3.通常、並みの量の介護を必要とする 15.2 32.2
4.通常、かなりの量の介護を要する 8.3 23.2
(不明)0.3 0.4

 調査では盲養護、特養それぞれ異なった状況と基準で、主観的に下された判断の結果であるので、それらを比較することは無理があるかもしれない。とくに「並の量の介護」や、「かなりの量の介護」などの意味するところは、判断を下す職員の施設の状況と利用者の総体的な生活状況にたいするその職員の主観的な判定である。そのような制約を前提としながら、この結果をみれば、盲養護、特養の利用者の差異がはっきり顕われていると思われる。介護を要する利用者の比は12:17である。そしてかなりの量の介護を要すると見られている利用者の比は1:3程度である。

(2)利用者の自立度と介護ニーズの見積り

 この利用者ひとりひとりに示された認識が、なににもとづいているかということは分かりにくい。ちなみに第3章で説明した障害老人の日常生活自立度の結果とクロス集計して、日常生活自立度との関連を見ることにした。

表-H 日常生活自立度のランクと介護ニーズの見積もり
(1)盲養護の場合

ほとんど必要ない たまに必要 並みの介護を要する かなり介護を要する
J-1 334 68.30 135 27.61 17 3.40 3 0.61
J-2 328 57.14 184 32.06 54 9.41 8 1.39
A-1 384 37.87 448 44.18 146 14.40 36 3.55
A-2 37 8.98 166 40.29 134 32.52 75 18.20
B-1 5 4.72 30 28.30 47 44.34 24 22.64
B-2 1 2.38 2 4.76 7 16.67 32 76.19
C-1 1 4.35 1 4.35 7 30.43 14 60.87
C-2 0 0.00 0 0.00 0 0.00 32 100.00
合計 966 60.30 412 25.72 224 13.98

 この表に示された結果からいえることは、

 1)職員による介護ニーズの見積りが、生活自立度のランクと関連させてみると、「ほとんど介助を必要としない」と見立てる利用者は、J-1のランクにもA-1のランクにもかなり多い数字で見受けられるのである。ただ全体的にみれば、生活自立度のランクに応じて介護ニーズの見積もりもほぼ妥当で互いに関連する数値を示しているのがうかがえる。

 2)ランクA-1、A-2におけるそれぞれの同一ランク内での、介護量見積もりのばらつきが多いことが観察される。「ほとんど必要なし」から「かなり介護を要す」まで、同様の生活自立度を互いに持ちながら、日常生活のさまざまな場面で、ひとりひとりの身体的状況、生活意欲、習慣などの差異により、質、量ともにさまざまな介護ニーズがあるからであると思われる。

 3)盲養護において「かなり介護を要する」とされた利用者が224人(8.3%)もみられるが、この内訳はA-1,A-2の111名とB,Cのランクの102名である。これらの利用者がどのような個々の理由から「かなりの介護を要する」と判断されたのか、探求の余地を残すところであろう。

表-I 日常生活自立度のランクと介護ニーズの見積もり
(2)特養の場合

ほとんど必要ない たまに必要 並みの介護を要する かなり介護を要する
J-1 26 63.41 13 31.71 1 2.44 1 2.44
J-2 52 61.18 24 28.24 5 5.88 4 4.71
A-1 58 25.55 105 46.26 49 21.59 15 6.61
A-2 21 9.59 105 47.95 73 33.33 20 9.13
B-1 8 5.80 53 38.41 55 39.86 22 15.94
B-2 0 0.00 14 9.15 80 52.29 59 38.56
C-1 1 1.15 1 1.15 41 47.13 44 50.57
C-2 0 0.00 1 0.74 49 36.30 85 62.96
合計 166 15.30 316 29.12 353 32.53 250 23.04

 介護ニーズの認識に関して、また別に、先の介護量調査結果を参照して見ると、盲養護、特養ともに、入浴介助に関する介護量の結果の数字にたいへん近い値を示しているのが観察される。「入浴介助」業務は盲養護、特養ともに職員にとって最も介護を要する業務のひとつであり、職員の介護ニーズ認識のひとつの指標となっているとも考えられるが、決め手ではない。むしろ生活全体のなかから必要な介護の質と量が職員の頭の中にイメージされていると考えられる。

 入浴以外の介護量調査結果を見ると、いくぶんニーズの比重がより重く判断されている傾向が認められる。例えば、先に結果を例示した食事の際の移動介助(問34)をみれば、「介助しなかった」利用者が盲養護で67.3%、特養で33.7%あったにもかかわらず、問59判定では「1.ほとんど介護を必要としない」がそれぞれ40.5%、と15.2%にすぎず、その差26.8%、18.5%の意味するところは、実際には食事の際の移動介助が行われなかったにもかかわらず、「なんらかの介助が必要」だと認識されていたことを示す。
 介護にあたる職員が何を目安にして、どのように利用者の介護ニーズを認識しているかについては、今後さらに研究を要する課題である。

(3)利用者の介護ニーズ充足についての介護職員の認識

 つぎに介護ニーズがどれほど充足されているかについて職員の判断をもとめたのが、設問第60である。

表-J 現在、寮母が実際に行っている介護によって、この利用者の介護ニーズは十分に充たされていると思いますか、それともその反対だと思いますか。(問60)

盲養護(%) 特養(%)
十分に充足されている 23.8 23.4
ほぼ充足されている 62.1 60.4
あまり充足されていない 13.1 15.4
ほとんど充足されていない 0.8 0.2
不明 0.3 0.6

 介護ニーズの充足について盲養護と特養とでは、いずれの回答ランクをとっても、回答比率の数値が相互に非常に近い。例えば、回答1と2の比率を併せて「充足されている」がそれぞれ85.9%と83.8%、反対に回答3と4を併せて「充足されていない」はそれぞれ13.9%と15.6%で、全体から見て「充足されていない」という判断はかなり少ない。

 これを日常生活自立度とのクロス集計の結果を見て「十分に充足されている」利用者、「ほとんど充足されていない」利用者が、それぞれ日常生活自立度において、どのレベルの利用者であるかを見てみた。

表-K 日常生活自立度と介護ニーズの充足度 (盲養護施設の場合)

J-1 J-2 A-1 A-2 B-1 B-2 C-1 C-2 合計
十分に充足されている 140 28.6 161 28.0 270 26.6 46 11.1 13 12.3 3 0.7 2 8.7 8 25.0 646 23.8
ほぼ充足されている 296 60.4 372 64.8 612 60.3 266 64.3 69 65.1 29 67.4 11 47.8 18 56.3 1682 62.1
あまり充足されていない 50 10.2 38 6.6 127 12.5 95 22.9 23 21.7 8 18.6 10 43.5 4 12.5 355 13.1
ほとんど充足されていない 3 0.6 3 0.5 5 0.5 5 1.2 1 0.2 2 4.7 0 0.0 2 6.3 21 0.8
不明 0 0.0 0 0.0 0 0.0 0 0.0 0 0.0 0 0.0 0 0.0 0 0.0 0 0.0

 この表によれば、介護ニーズが「充たされている」と見なされた利用者のうち、同じランクの利用者が7割を越えたのは、J-1(89.0%)、J-2(92.8%)、A-1(86.9%)、A-2(75.4%)、B-(77.4%)、C-2(81.3)である。
 C-2ランクをはじめ、A-2、B-1、それに少し比率は下がるもののB-2(68.1%)C-1(56.5%)など、自立度の低い、どちらかと言えば寝たきり状態の利用者に対して、介護ニーズの不足が決して低いとは言い切れないのは、職員の不断の努力に負うところが大きいからに外ならない。
 反対に介護ニーズが「充たされていない」利用者が376名(13.9%)にも及ぶことも無視することはできない。「充たされていない」と見なされた利用者が2割を越えた自立度のランクは多い順に、C-1(43.5%)、A-2(24.1%)、B-2(23.3%)、B-1(21.9%)で、さすがに自立度の低い利用者に対するほどニーズの充足がなされていない、と見なされているのがうかがえる。しかし、376名の内訳をみると、Jランクに94名、Aランクに232名も「充たされていない」利用者がおり、人数の上からは、以下のBランクの36名、Cランク16名と、むしろ自立度の高いランクの利用者が多数を占めていることがわかる。
 特養においては、「あまり充たされていない」利用者は169名で、その内訳はB,Cランクが88人(52.1%)と最も多く、次いでAランクの72人(42.6%)、Jランク9人(5.3%)の順であった。

(4)介護ニーズの判断と充足度について

 つぎに介護ニーズについて利用者に下された判断と、ニーズがどれほど充足されていると見なされているか、についてつぎの表-13を見てみよう。

表-13 介護ニーズの必要判断と充足度(盲養護施設の場合)

充足度 1.十分に充たさ
れている  
2.ほぼ充たされ
ている   
3.あまり充たさ
れていない 
4.ほとんど充た
されていない
合計
介護ニーズ
1.ほとんど介護を必
要としない
451 69.8 598 35.6 46 13.0 3 14.3 1.098 40.5
2.たまに介護を要す
る程度
134 20.7 698 41.5 133 37.5 4 19.0 969 35.8
3.通常、並みの量の
介護を必要とする
36 5.6 266 15.8 105 29.6 6 28.6 413 15.2
4.通常、かなりの量
の介護を要する
25 3.9 120 7.1 71 20.0 8 38.1 224 8.3
合計 646 100.0 1,682 100.0 355 100.0 21 100.0 (不明5を
含む)2,709
100.0

 この表の数字が示していることは、「介護を要しない」と判断されている利用者は「介護ニーズの充足度」は高く、逆に「介護ニーズの充たされていない」利用者は、「かなりの介護量を要する」と見積もられる可能性が高い、ということであろう。このことは介護ニーズの判断と充足度についての判断の内容が、それぞれ日常の介護業務のなかで相互に原因と結果の役割を入れ替わり演じているように考えられる。つまり職員はニーズの充足度を見て、あらためてニーズを見直そうとするからである。
 「ほとんど介護を要しない」とされた利用者の多数は「十分/ほぼ充たされている」とされている。これは当然の結果と言えそうであるが、にもかかわらず、「ほとんど/たまにしか介護を要しない」2,056名のうちの186名が「あまり/ほとんど充たされていない」と見なされている。これは一見矛盾しているように見えるが、利用者の状況の変化や、職員の側で判断のより所となった事柄が変更されたとも考えられよう。
 はんたいに、「並の/かなりの介護を要する」と判断された利用者は637名に達していたが、このうち「あまり充足されていない」とされた利用者が176名と多いのは残念であるが、「ほとんど充足されていない」利用者は全体で21名(全体の0.8%)と少ない。「かなりの介護を要する」とされていた利用者が224名にも達していながら、ニーズ充足のため職員による積極的な努力が払われている結果であると見なければならない。

(5)盲養護施設における自立度の高い利用者の処遇をめぐって

 盲養護の施設としては、本来JとAランクの利用者が主な利用対象者であるから、生活自立度の高いJ,Aランクの利用者の介護ニーズの充足についてさらに検討する余地があるのではないか。介護ニーズが充足されない理由として、介護にあたる職員数の不足、介護以外の業務のため利用者と接する時間がない、などが上げられているが(巻末資料17,154頁、表-61参照)、利用者ひとりひとりのニーズの多様化や生活行動範囲の広がりなど、健康状態やADLの低下以外の、新しいニーズの現れ方についても眼を向ける必要があるであろう。視覚障害者の場合でも、自立度が高ければ高いほど介護ニーズもさまざまなかたちをとって現れてくるものと考えられ、今回の調査では利用者の新しいニーズやニーズの広がりについて、なんら調査項目にあげる余地をもたなかったが、これについては、施設の現場でケースごとに綿密に検討してゆく必要があると考えられる。そのニーズについての検討の積み重ねが、こんごの盲養護施設の方向を打ち出す基礎となるのではないか。

(3)利用者の「重度化」について

 全盲老連において、養護盲老人ホームにおける「利用者の重度化」が叫ばれて久しいが、その重度化の実状を解明せんとする調査は、今回の実態調査以前にもたびたび試みられて来た。そして、この第5回の実態調査において、ふたたび利用者の重度化を、ひとつのおもな調査課題として取り上げることとなった理由は、これまでの数回にわたる調査にもかかわらず、重度化の状況が、あからさまになりえなかった、ということであると思われる。
 ところで、「重度化」とは、利用者の生活動作能力(ADL)の低下として示されることもあれば、疾病の重症化、心身機能障害の重度化、として把えられることもできる。また一方、介護する職員の側からは、利用者の重度化は、職員によるケアの負担、すなわち介護量の増加として反映されると考えられる。
 また法律のうえからは、身体障害者福祉法において、「身体障害者療護施設」の入所対象者として、「常時の介護を必要とするもの」が『最重度』とみなされたり、身体障害者福祉法による1級または2級に相当するものが準用されているようである。(注-全国社会福祉協議会『現代社会福祉事典』参照)この点から言えば、視覚障害1~2級の高齢者はいずれも「重度」と言えるであろう。
 盲老人の重度化についてはいまのところ明確な定義はない。それゆえ、いまこの調査結果から述べられることは、養護盲老人ホームの利用者がどの程度、重度化しているかということだけであろう。
 第2章の盲養護施設利用者の健康及び身体的状況にあらためて目を向ければ、(1)失明者が70%を占めていること、(2)視覚障害の外にさらに1つ障害をもつ利用者が40.0%、2つ障害をもつ利用者が18.1%を数えること、(3)平成3年の1年間に通院により受診をした利用者が90.1%でそのうち76.3%が「9ヵ月以上」にわたって通院したこと、(4)軽度から重度までの、なんらかの記憶障害をもつ利用者が22.9%に達したこと、(5)日常生活行動能力では、前回調査の時よりも一部介助、全面介助の利用者は減少を示したこと、(6)障害老人の日常生活自立度では、Jランク39.3%、Aランク52.8%、Bランク5.5%、Cランク2.0%、とAランクの層が厚く、B,Cランクの層は薄いことが判明した。
 そして盲養護施設の利用者で、本調査において日常生活動作が「重度」と判定された利用者は次の通りである。

表-14 日常生活動作「重度」の利用者

男(人) 女(人) 計(人)
視力 :全盲 506 1078 1584
聴力 :全く聞こえない 35 60 95
発語 :発語なし 19 16 35
歩行 :全く歩けない 25 60 85
着脱衣:自分で全くできない 30 70 100
排泄 :常時おむつ使用 39 65 104
食事 :臥床のまましか食事できない 10 20 30
入浴 :全面介助しなければならない 46 116 162
日常生活自立度B,Cランクの利用者数 男(人) 女(人) 計(人)
Bランク:屋内での生活は何らかの介助を
     要し、日中もベッドの上での生
     活が主体であるが、座居を保つ


51


98


149
Cランク:一日中ベッド上で過ごし、排泄
     ・食事・着替えにおいて介助を
     要する


18


37


55

 結論として、実態調査の結果を通じて盲養護施設の利用者が次第に重度化の道を歩んでいること、然し乍ら、近年、特養の増加によって、ADL「重度」の利用者、介護量の負担の多い利用者は特養に移され、比較的自立度の高い利用者があとに残っていることも、前回の調査結果と比べて明らかにされた。「重度」の利用者については、施設職員の介護量の許容の限界を他の業務を含めて見極め、適切な処遇の対応と特養への移籍の処置が検討されなければならないであろう。そして今一方、盲養護施設において、視覚障害やその他の障害を併せもつ多くの利用者の自立維持について、盲老人ホームの専門的な施設機能が発揮されるよう考慮されねばならないと思われる。


第5章 施設生活についての利用者の感想、意見、希望

 第2章から4章までは、利用者の基本的属性、健康状態、それに職員がおこなう介護の量などについて報告をおこなってきたが、本章においては、利用者自身が、施設生活をどのように受けとめ、どのような満足感または不満足感を抱いているかなど、利用者の感想や意見を、回答結果のなかに読みとっていくこととしたい。

(1)現在の施設生活についての全体的な感想

(ア)施設生活の満足・不満足感(設問第62)
 設問第62において、「今住んでいるホームの生活の感想」を満足か不満足かという点で利用者にたづねて見た結果、盲養護、特養それぞれで次のような結果がでた。

表L ホーム生活の感想

盲養護 特養
大変満足している 947 35.0 279 25.5
ほぼ満足している 1051 38.8 360 32.8
どちらともいえない 221 8.2 101 9.2
いくらか不満な点がある 195 7.2 31 2.8
不満な点が多い 62 2.3 12 1.1
不明 233 8.6 313 28.6
合計 2709 100.0 1096 100.0

 上の表において、盲養護では「ほぼ満足している」が38.8%、「大変満足している」が35.%で、全体の約4分の3は現在の生活に満足を示しており、おなじ回答に示された特養の利用者の満足感が約2分の1強であるのにたいして、かなり高い数値である。これは、「不明」が盲養護で8.6%であったのに対して、特養では28.6%と、約4分の1の利用者が回答できない心身状況にあることによるものと思われる。「不満」を多少とも抱いている利用者が盲養護で9.5%、特養で3.9%みられるが、職員がゆとりをもって、個別に不満の原因を探り、不満解消への努力をしなくてはならない。
 利用者が「満足」あるいは「不満足」を示す理由や動機について、他の設問による調査結果を検討しつつさらに掘り下げて考えてみることとする。

(イ)施設生活でたいへん満足な点について(設問第63)
 設問第63で「現在の施設生活であなたが、たいへん満足を感じている点はなにか」と尋ねたところ、盲養護、特養ともに利用者がもっとも満足を感じている事柄の最高位は「食事や入浴」で、盲養護25.0%、特養28.3%であった。第2位は「病気になっても安心していられる」がそれぞれ19.0%、9.1%であった。これらはいずれも、施設が利用者に提供するサービスそのものであると言える。食事はどの施設も、栄養士・調理員の努力により、季節感、行事食、摂取の状況に合わせたメニューを工夫している。高齢でなんらかの障害をもった利用者にとって、外出の機会も少なく、また外出を望まない人も多い中では、たのしみは食事や入浴に限定される。入浴については、利用者が在宅であった時よりも、介助者の存在や入浴回数などではずっと利用しやすくなっていると思われる。「病気になっても安心」は介護上の安心感がうかがえる。利用者の満足が見られるということは、そこに処遇の成果がみられたと考えてもよいであろう。
 ところで、ホームの生活全般の満足・不満足感を調べた先の設問第62の結果を、満足する点として上げられた事項とクロス集計してみたところ次のような結果が出た。

表-15 ホーム生活の溝足度と溝足だと感じている事柄(盲養護)

1.大変満足 2.ほぼ満足 3.中立 4.いくらか不満 4.不満が多い 不明
1.食事・入浴 239 25.2 307 29.2 62 28.1 52 26.7 11 17.7 6 2.6
2.職員の態度 106 11.2 70 6.7 10 4.5 17 8.7 9 14.5 1 0.4
3.設備がよい 22 2.3 143 13.6 15 6.8 6 3.1 4 6.5 1 0.4
4.友達がある 48 5.1 66 6.3 11 5.0 25 12.8 3 4.8 0 0.0
5.病気でも安心 221 23.3 222 21.1 32 14.5 33 16.9 6 9.7 1 0.4
6.心配が不要 257 27.1 160 15.2 21 9.5 4 2.1 3 4.8 0 0.0
7.その他 19 2.0 15 1.4 3 1.4 5 2.6 0 0.0 0 0.0
8.わからない 21 2.2 40 3.8 51 23.1 29 14.9 6 9.7 2 0.9
9.大変満足な点なし 9 1.0 14 1.3 15 6.8 22 11.3 19 30.6 4 1.7
10.不明回答 5 0.5 14 1.3 1 0.5 2 1.0 1 1.6 218 93.6
合計 947 100.0 1,051 100.0 221 100.0 195 100.0 62 100.0 233 100.0

 表-15から観察されることは、(1)「 食事・入浴」はホーム生活全般について「どちらともいえない」「いくらか不満」を表明した利用者の中でも、人気が最高であることが確認される。(2)「病気になっても安心していられる」も同じ傾向を示している。(3)満足・不満足に対する態度の一貫性という点からいえば、まず実線枠(左側の太い数字部分)の範囲の利用者1,895人(69.9%)が満足という点で2つの設問に対して一貫していた。反対に点線枠内(右側の太い数字部分)の76人(2.8%)が不満足で一貫しているといえる。
 これ以外の27%ほどの利用者が、不明回答も含めて、態度を明確にしないか、2つの設問にたいして一貫しない態度を示したといえる。

(ウ)施設生活でたいへん不満足な点について(設問第64)
 設問第64「現在の施設生活でたいへん不満足な点」について尋ねたところ、盲養護では「不満足な点はない」と回答した利用者1,391人(51.3%)と、「わからない」、「不明」の回答者651人(24.1%)を除くと、667人(24.6%)がいずれかの理由により、たいへん不満足な事項を上げており、この数字は見過ごせないと思われる。
 そこで再び設問第62の結果とのクロス集計を試みて、利用者の不満足を調べてみることとした。

表-16 ホーム生活の満足度と、不満足だと感じている事柄(盲護護)

1.大変満足 2.ほぼ満足 3.中立 4.いくらか不満 4.不満が多い 不明
1.食事・入浴 18 1.9 49 4.7 10 4.5 19 9.7 4 6.5 0 0.0
2.職員の態度 8 0.8 29 2.8 3 1.4 13 6.7 6 9.7 0 0.0
3.設備がわるい 15 1.6 28 2.7 7 3.2 11 5.6 3 4.8 0 0.0
4.友達がいない 18 1.9 22 2.1 7 3.2 15 7.7 6 9.7 0 0.0
5.健康管理に不安 13 1.4 53 5.0 23 10.4 22 11.3 3 4.8 3 1.3
6.心の安らぎがない 10 1.1 28 2.7 23 10.4 37 19.0 19 30.6 0 0.0
7.その他 35 3.7 62 5.9 14 6.3 21 10.8 10 16.1 0 0.0
8.わからない 54 5.7 214 20.4 70 31.7 30 15.4 6 9.7 7 3.0
9.不満足な点なし 752 79.4 547 52.0 60 27.1 24 12.3 2 3.2 6 2.6
10.不明回答 24 2.5 19 1.8 4 1.8 3 1.5 3 4.8 217 93.1
合計 947 100.0 1,051 100.0 221 100.0 195 100.0 62 100.0 233 100.0

 表-16から次の点が指摘できる。(1)「大変不満足な点」として、最もおおく上げられたのは、「健康管理に不安がある」(117人、4.3%)、「心の安らぎが得られない」(117人、4.3%)であるが、これには施設生活の全体的な満足感で「ほぼ満足」、「どちらともいえない」と回答した利用者の回答も比較的多く含まれている。施設生活に不満足感をもつ利用者のうちでも、この「心の安らぎが得られない」という不満が最も多い。(2)この表から態度の一貫性を見れば、「不満足」では実線枠内(右側の太い数字部分)の189人(6.9%)が不満足で一貫性を示し、反対に「満足」では点線枠内(左側の太い数字部分)の1,567人(57.8%)がそうであった。
 これらの数字から大変不満足な点をあげた667人(24.6%)の利用者は、確かに不満な点を指摘していることは確かであるが、生活のすべてに不満足感を抱いている利用者はそのうちの4分の1程度であることがわかる。前掲の満足度の表-15で得られた結果を参照すれば、一貫して「満足」を表明した利用者は57.8%~69.9%であり、「不満足」は2.8%~6.9%ということになる。少数ながら生活に満足出来ず、かえって不満足感を抱いている利用者が存することを無視することはできないであろう。
 特養においても「不満足な点はない」が38.4%見られるが、なんらかの理由により「たいへん不満足」の回答者が165人(15.0%)存した。
 視覚障害者の専門施設として、専門職である「職員の態度」に大変不満足を感じるという回答が盲養護で2.2%、特養で1.6%、また「設傭が使いにくい」が盲養護で2.4%、特養で1.6%と少数ながら認められた。これら「職員の態度」や「設備」については、前問において「たいへん満足な点」をたずねた際にも、盲養護でそれぞれ7.9%、7.1%、特養では8.5%、2.3%と、いずれも僅かながら「大変不満足」をうわまわっており、大半の利用者は現在の施設生活に満足を示しているものと推察される。

(エ)施設生活での楽しみ(設問第65)
 複数回答ができるなかで、「外出」、「旅行」を選択した利用者は全体の1割強しかなく、比較的に屋内で生活を送らざるをえない身体状況のなかで、施設内に楽しみを見つけている様子がうかがえる。特に「食事」については盲養護では利用者の15.5%、特養では20.4%とそれぞれ「おおいに楽しめる」とする比率は最も高い。これは、こんごも行事食、季節の料理などを工夫しながら、利用者の期待にこたえていく指標であり、関係職員にとっての励みでもある。
 「食事」「入裕」に続いて盲養護でも特養でも多かったのが「ラジオ・テレビ」(盲養護13.0%、特養11.7%)で、特養において寝たきりであっても4分1強の利用者が、自分で楽しみを選択できるひとたちであることがわかった。特養ではこのほか、「家族との交流」が21.8%と、盲養護の8.2%より高い率を示し、家族関係への働きかけを積極的に行っていくことの大切さが示されたものと思われる。

表-M 生活の楽しみ-昭和58年と平成4年(盲養護)

昭和58年度調査(%) 今回調査結果(%)
食事・飲酒 36.0 18.7
入浴 11.0 13.3
趣味・クラブ活動・行事 28.2 25.6
家族・外来者との交流 3.6 12.8
外出 0.4 6.0
信仰の勤め 3.5 2.4
日常生活の自由 14.5 0.0
社会への奉仕 0.4 0.0
ラジオ・テレビ 0.0 13.0
会話 0.0 6.9
その他 0.0 1.2
無回答 2.4 0.0

 上の表-Mは盲養護施設における、前回調査と今回のそれとの結果を比較するものであるが、前回では「一番楽しいこと」を1つ選択することになっていたが、今回はいくつでも回答することができた。なお選択項目にも前回と今回で多少の違いがみられる。前回に比べ「食事・飲酒」よりも、今回は「趣味・クラブ活動・旅行」の項目を上げた人が多くっている。また「外来者・家族との交流」も大幅に増加している。利用者の楽しみにも少しずつ変化が見られるのではないだろうか。
 生活の質(QOL)の観点から、楽しいホーム生活、楽しい老後生活を考える際に、施設生活においても、利用者の個性ある多種多様な生活の楽しみ方、過ごし方が実現されてよいわけで、施設においても、自由な環境と雰囲気づくりが今後期待される。

(2)施設生活についての利用者の意見及び態度

(ア)施設の行事への参加(設問第66)
 施設の行事への参加の程度を調べたところ、73%あまりの人が参加しており、これは盲養護であれば当然であろうとも思われる。施設の行事は利用者の希望を第一に取り入れて計画すべきであり、計画の段階から、利用者が参加する等、各施設で工夫がおこなわれている。集団で生活している利点を生かし、利用者主体の行事を工夫することにより参加者も増えるであろう。
 特養においては、ベッドからの離床をすすめるための動機づけとして、行事への参加を促している側面もある。年齢や性格による理由、重度障害などで人の集まるところへは出たくない、又は出られないケースの割合が高いなかで、6割以上の利用者が参加していることは、利用者自身の前向きな姿勢と、介護者側の大変な努力の結果であると思われる。さきの設問第65において、「施設生活においておおいに楽しめる」こととして、「行事」をあげた利用者が31.0%であったことからも推測される。

(イ)クラブ活動・趣味活動への参加(設問第67)
 設問31の「障害老人の日常生活自立度」とクラブ活動参加との関係をみると、表-Nでみると盲養護でとにかく「参加するひと」は、生活自立(ランクJ)の利用者1,067名のうち710名(66.5%)を占め、また準寝たきり(ランクA)の利用者では1,433名のうち772名(53.9%)を占めた。さらに又、寝たきり(ランクB)の利用者150名のうち63名(42.0%)も「参加する」と回答している。

表-N 日常生活自立度とクラブ活助・趣味活動への参加状況(盲養護)

参加する 参加しない 所属していない 不明
J 生活自立 710 66.5 153 14.4 175 16.4 29 2.7
A 準寝たきり 772 53.9 306 21.4 233 16.3 122 8.5
B 寝たきり 63 42.0 22 14.7 29 19.3 36 24.0
C 全面介助 11 20.0 6 10.9 9 16.4 29 52.7

 特養においても、「参加する」と回答した利用者は、準寝たきり(ランクA)で44.7%、寝たきり(ランクB)では38.1%と、それぞれのランクのうちで最も高い比率を占めていることがわかる。これは施設行事への参加率が高いのと同様、利用者自身の前向きの姿勢とともに、介護者側の忍耐ある努力の結果であると思われる。

表-O 日常生活自立度とクラブ活動・趣味活動への参加状況(特養)

参加する 参加しない 所属していない 不明
J 生活自立 61 48.41 9 7.14 44 34.92 12 9.52
A 準寝たきり 201 44.77 72 16.04 96 21.38 80 17.82
B 寝たきり 111 38.14 44 15.12 56 19.24 80 27.49
C 全面介助 22 9.28 56 23.63 56 23.63 103 43.46

 老人ホームにおけるクラブ活動は、自主参加が望ましく、強制すべきものではない。全員の参加を目指すことにはあまり意味はなく、参加している人の生き甲斐に、どれだけつながっているかが重要であろう。
 利用者の生き甲斐につながるようなクラブ活動の援助と共に、参加していない人に対しては、個々の生き甲斐対策を探ることも併せて行っていく必要がある。

(3)施設生活における自由について

(ア)施設生活について、「自由がない」と感じることがあるか(設問第68)
 盲養護では69.2%の利用者が、「自由がない」とはあまり感じてはいない。
 特養では少し減って56.6%が不自由さをそれほど感じていない。ただし「わからない」または「不明」回答が盲養護で10.4%、そして特養で31.9%もあって、これらの利用者はこのような回答をする限りにおいて、「自由がない」ということをそれほど強く意識していないのではないかと思われる。
 問題は、「自由がないと感じるときが、いつも、又はときどきある」と回答した盲養護の利用者522人(20.4%)と特養の125人(11.4%)である。これらの利用者はどのような時、施設生活のなかに不自由さを覚えるのであろうか。

(イ)自由が足りないと感じる理由(設問第69)
 「表-69自由が足りないと感じる理由」(巻末資料 頁参照)のうちで、盲養護では、32.5%、特養では33.1%の高い比率で、利用者が「集団生活の煩わしさ」を第1位にあげていることを、問題として取り上げなくてはならない。この人達が、「集団生活」のなかに、どのような煩わしさ感じ、自由がないと感じているか、更に細かく調査して解決の道を探らなくてはならない。「集団生活の煩わしさ」の次に、盲養護、特養ともに「外出の規制」がそれぞれ17.1%と23.8%、その後に「日課及び規則による束縛」が16.2%と10.6%と続いており、他の事項を大きく引き離している。
 以前に較べて、施設生活において個人の私的生活などプライヴァシー尊重の風潮が高まり、酒、たばこに対する規制もゆるめられ、かなり自由な雰囲気が施設生活に見られるようになったが、依然としてさまざまな規則や規制が、時には施設による善意の配慮として、また安全処置として設けられている場合もある。利用者のニーズの検討を通じて、現存する規則や規制についても再検討の余地があるであろう。そして規則や規制は必要最小限に止めるべきであろう。

(ウ)居室では何人で生活するのがよいか(設問第70)
 「施設生活における自由」という観点から、居室では何人で過ごすのが適当かについて、利用者の考えを知るため、現在使用中の居室について、居住人数別に、「施設生活における自由」をどう感じているかをしらべてみた。次の表-Pは設問20と68の集計結果をさらにクロス集計したものである。
 盲養護において、「自由がないと感じることはあまりない(ほぼ自由である)」と答えた人のうち、2人部屋の利用者が622人(65.9%)と最も多く、統いて「全くない(全く不自由を感じない)」と回答した利用者のうちでは、同じく2人部屋の利用者が596人(64.9%)で最も多い。反対に2人部屋に生活している1,765人の側から言えば、1,218人(69.0%)が「不自由を感じることなく」生活していることがわかった。
 一方、おなじ2人部屋でも「自由がないといつも感じている」が63人、「時々感じている」293人で合せて356人となり、1,765人中の20.0%となっている。さらに1人部屋でも、「不自由を感じるときが時々ある」が78人、「いつもある」が5人あり、少数ではあるが集団生活のむずかしい側面がみられた。
 4人部屋の利用者346名中では、「不自由」を感じる利用者は80名(23.1%)に過ぎず、227名(65.6%)と多数の利用者が「不自由感は少ない、または全くない」と答えており、相部屋による不自由感は意外と低い様子がうかがわれる。

表-P 居室の人数と施設生活における自由:「自由がないと感じますか?」(盲養護)

いつも感じる 時々感じる あまり感じない 全く感じない 不明
1人 部屋 5 1.29 78 20.16 145 37.47 135 34.88 24 6.20
2人 部屋 63 3.57 293 16.60 622 35.24 596 33.77 191 10.82
3人 部屋 0 0.00 28 16.18 53 30.64 82 47.40 10 5.78
4人 部屋 7 2.02 73 21.10 130 37.57 97 28.03 39 11.27
5人 部屋 0 0.00 2 28.57 2 28.57 3 42.86 0 0.00
6人 部屋 0 0.00 0 0.00 1 7.69 1 7.69 11 84.62
7人以上室 0 0.00 2 12.50 3 18.75 5 31.25 6 37.50

 つぎに、「現在の施設を改築するならば、ひとつの居室に何人で生活するのがよいと思いますか」の設問第70にたいして、盲養護では「1人」が42.7%と最も多く、第2位が「2人」の40.5%であった。特養では少し様子が異なり、もっとも希望の多かったのは「4人」(28.3%)で次が「2人」(18.5%)であった。「1人」はさらに希望は少なく14.5%にとどまっている。
 そこで盲養護について、現在の居室での状況と、希望する人数の居室との関係を「1人」、「2人」、「4人」の各部屋に限定して調べてみた。

表-Q 現在の居室と希望する居室(盲養護)

現在住んでいる居室/希望する居室 個室(人) 2人部屋(人) 4人部屋(人)
個室 341 22 1
2人部屋 726 826 14
3人部屋 31 84 8
4人部屋 54 155 63
5人部屋 4 3 0
6人部屋 0 1 0
7人以上 0 5 0

 現在「個室」で生活している利用者387人中、341人(88.1%)が、改築した時も「個室」がよいと答えている。
 ところが現在「2人部屋」で生活している人1,756人では、改築した時もひきつづき「2人部屋」がよいと答えた人が826人(46.8%)もみられ、「個室」がよいと答えた人は726人(41.1%)と、予想に反して「個室」希望のほうが少ない。
 また現在4人部屋で生活している利用者のうち、希望する居室はa「2人部屋」で155人(44.8%)ともっとも多く、b「4人都屋」63人(18.2%)、c「個室」54人(15.6%)の順に希望が出された。
 利用者にとって、居室は私生活の中心であり、施設生活においてきわめて大切な生活空間である。それゆえ、個室と相部屋とでは、生活感には大いに相違があると思われるが、利用者自身では「個室」と「相部屋」にどのような感じ方をもっているのか更に調査する余地がある。なぜ「2人や4人の相部屋」が好まれるのか、ということも理解しておく必要があると思われる。
 この点に関して先の設問62「ホーム生活での満足・不満足」についての調査結果を、現在利用している居室との関連で調べてみると次の表-Rのようになる。

表-R ホーム生活の満足と居室の入居者数(盲養護)

大変満足
している
ほぼ満足
している
どちらとも
いえない 
いくらか不
満である 
不満な点
が多い 
不明
個室 147 37.9 165 42.6 24 6.2 25 6.4 8 18
2人部屋 631 35.7 661 37.4 149 8.4 131 7.4 40 153 8.6
3人部屋 75 43.3 61 35.2 13 9 5 10
4人部屋 88 25.4 156 45.0 30 29 8 35
5人以上部屋 6 7 4 1 1 17

 表-Rから、ホーム生活に満足している利用者は、利用総数のうえからは「2人部屋」に住んでいる人に多いのであるが、各種部屋ごとの比率からみれば、「個室」から「4人部屋」まで、それぞれ7割以上の利用者が満足を示している。そしてなかでも「個室」が80.5%と最も高い率を示しているのが分かる。そして反対に不満足を示す比率をみてゆくと、「2人部屋」の利用者のうちに、生活に不満足を示したり、満足をはっきり示さない人は、回答不明をも合めれば、473人(17.4%)に達することがわかる。
 現在住んでいる居室の人数の面からみる限りでは、大半が満足を示しているころをみると、生活の満足・不満足は居室の人数と関係が少ないようにも見受けられる。しかし盲養護の自立した高齢者にとって、大部屋や相部屋での生活はプライバシーの保護の面からもあまり喜ばれていないことは大いに察せられる。
 金額の差こそあれ、利用料を負担しているところから、利用者の権利意識は高まってきており、居室は利用者にとっての家ないしは住居であるとの認識を持つことが必要であろう。

(4)全盲の利用者が晴眼者・弱視者と共同生活する際のわだかまり

 第2章で報告したように今回の調査結果から、盲養護ホーム利用者2,709人のうち70.2%(1,903人)が失明者で、のこり29.6%(804人)が弱視及び晴眼者である。設問第71にたいして不明回答者が873名出たが、これは弱視・晴眼者の数を上回っているが、とりあえず態度表明がないので非失明者として除くこととし、改めて表-71(巻末資料122頁参照)から「不明(非全盲の利用者)」873人を除く1,836人の割合いを算出して表-Sにまとめてみた。これによれば、晴眼者や弱視者に「わだかまりを大いに感じる」が15.1%と答えており、「感じる」が26.7%、合計41.8%が「感じる」と答えている。
 半数に近い人が「わだかまりを感じる」と答えていることについて、重く見なくてはならないと思われる。個別的な人間関係にも問題はあろうが、全盲の人にとって他の利用者に絶えず見られているということは苦痛なことかもしれないし、引け目を感じるのではないか。同室で暮らすとなれば尚更であろう。個室の必要性がここにもうかがえる。
 特養では晴眼、弱視の利用者の比率も多く、また全盲の利用者の意識のうちに、晴眼、弱視の利用者にたいするわだかまりは少ないように思われる。

表-S 「弱視者・晴眼者とホームで一緒に暮らすことにわだかまりを感じますか」(盲養護)

人数
大いに感じる 277
感じる 490
どちらともいえない 302
感じない 485
全く感じない 282

(5)ホーム利用者の経済生活について

(ア)自己負担金の金額の認識について(設問第72)
 表-72(巻末資料122頁参照)によれば、とくに盲養護の施設において、自己負担金の額を正しく答えられた利用者は53.3%であり、「間違い」(4.7%)、「知らない」(30.5%)、「回答なし」(11.5%)を合わせるとほぼ半数の利用者が金額について正しい認識をもっていないことになる。これにはつぎのような理由が考えられるであろう。利用者自身の理由として、(1)施設生活に安住して、お金について心配しなくなり、金銭のことを忘れる、それゆえ(2)普段から自分の金銭管理をしなくなり、また(3)もともと自己負担金及びそのような制度があることを知らない、知ろうとしない、そして(4)生活自立の意欲をもちあわせている利用者のなかにも、記憶障害のため金額を覚えない、等があげられる。これとは別に施設側の理由として、(1)常に利用者に自分の金銭管理を促しているか、(2)自已負担金の制度及び、めいめいの負担額を適当な時期に正しく知らせているか、など施設の努力も問われる。生活自立の一環として、施設に暮らしていても社会参加への意識を金銭管理を通じて持統させることは大切なことではないかと思われる。

(イ)自己負担金の金額の妥当性について(設問第73)
 先に設問第19において利用者の平成3年度中の自己負担金月額を調べたところ、盲養護では、30,000円~50,000円が全体の60.5%、(1,639人)で、最も多いことがわかった。(表-19、巻末資料95頁参照)そしてこの負担金額3万~5万円の利用者は、全体のなかで負担金が「大変高い」と答えた72人の利用者のうちの38名(52.8%)を、また負担金が「高い」と答えた367名の利用者のうち263名(71.7%)を占めた。
 この「月額3万~5万円」の自己負担金の利用者、1,639人が、この負担額をどのよう に認識しているかを、表-Tで示してみた。「適当」と思っている人が668人(40.8%) で、「高い」が263人(16.0%)、「大変高い」が38人(2.3%)であった。
 半数に近い利用者が適当と答えている反面、判断できず「わからない」と答えている利 用者が387名(23.5%)にものぼった。

表-T 「自己負担金は高いと思いますか」(盲養護)利用料月額3万~5万円の利用者に対して

人数
大変高い 38 2.3
高い 263 16.0
適当 668 40.8
安い 93 5.7
大変安い 15 0.9
わからない 387 23.5
不明 177 10.8

(ウ)自己負担金が高いと思う理由(設問第74)
 自己負担金が高いと思う理由に、「特に理由はない」(49.4%)が半数であるが、理由を具体的にあげた中で、「職員の数が少ない」(18.0%)、「設備がよくない」(6.2%)をあげた人も多く、これら意思表示をした利用者は日頃の生活に多少とも不満を抱いている人であろうと推測される。
 その他に、食事、入浴、介護サービス等が自己負担金に比して不満足であると答えていることを併せて重視しなくてはならない。自已負担金額も毎年上がっており、負担に見合うサービスの提供を日ごろ是非とも実現して行かねばならない。

(6)施設外の人々との交流について

 とかく盲老人は視覚障害や身体機能の老化により、移動やコミュニケーションが困難となるが、この結果、施設利用者の日常生活はほとんどが施設内の生活に明け暮れしがちである。それゆえ、施設の外の社会、とりわけ家族、友人らと旧来の交流を保つことは、たとえ僅かであっても、過去からの生活を維持させ、自立ある生活の励みにもなる。施設外の人々との交流の有無については、盲養護で2,096人(77.4%)、特養では626人(57.1%)の利用者がなんらかの交流をもっていると回答している。
また交流の相手は盲養護、特養いずれも、「家族」、「親戚」、「友人」、「知人」の順に多いことがわかる。

表-U 主な施設外の交流の相手(3人までの複数回答による)

盲養護(%) 特養(%)
1 家族 63.5 78.9
2 親戚 45.4 31.8
3 友人 26.7 11.7
4 知人 14.6 9.3

 交流の方法では、「電話で話す」と「施設に来てもらう」が大部分を占めている。従って、利用者自ら電話をかけるという方法が、盲老人にとって最も身近な交流の方法であることがうかがえる。使いやすい電話機等の設置を工夫して、いつでも自由に交流できるような配慮が必要である。
 「施設に来てもらう」という方法も41.3%で、この方法は、直接面会して、より親密な交流ができるので、面会の時には、よりよい時間が過ごせるような場所の提供と援助が必要である。
 「手紙を書く」も4.8%あり、なかには点字の書ける利用者もあるはずである。身に付いている点字を、高齢になっても常に読み書きを統けることにより、手紙による交流も可能となるので、積極的に交流ができるよう援助が必要である。又、点字ができない人にも、代筆の依頼があれば即時に対応できるような職員の手も必要である。

表-V 施設の外との主な交流の方法(ひとつ選択)

盲養護(%) 特養(%)
1 電話で話す 48.1 13.6
2 施設に来てもらう 41.3 76.7
3 手紙を書く 4.8 5.4
4 出掛けて会って話す 4.5 2.1

 交流の頻度は本人や家族の人柄のバロメーターになるように思われる。また施設と家族・友人との地理的な問題、入所にいたる状況等も交流の頻度と関係があると思われる。家や家族が恋しいケースが非常に多いので、週1回ないしは月1回くらいのぺースで会えることは、利用者の心身の安定につながることと思われる。1年に1回、または2~3年に1回程度の交流については、手紙の代筆への配慮や、電話で話せるような支援の必要性を示唆されているように思われる。

表-W 施設の外の人々の交流の頻度(ひとつ選択)

盲養護(%) 特養(%)
1 毎日 1.1 1.1
2 1週間に数回 3.5 5.3
3 1週間に1回程度 12.3 12.9
4 1カ月に1回程度 35.0 40.6
5 3カ月に1回程度 23.4 17.9
6 半年に1回程度 14.0 9.4
7 1年に1回程度 6.9 5.8
8 2~3年に1回程度 1.1 1.6
その他・不明 2.7 5.5

(7)ホーム入所前と現在のホーム生活における幸福感

 設問第79において「現在のホームに入所される以前のご自分の生活を振り返られて、あなたは、自分は今よりも幸福だった、と感じておられますか、それともその反対ですか」と問い、またつづく設問第80において「あなたは現在のご自分の生活をどのように受け止めておられますか」とそれぞれ同文の6つのの選択肢を用意した。それら設問第79と第80の回答結果をクロス集計すると表-Xのようになる。
 表-Xで見ると、設問第79で、ホーム入所前は「大変幸せであった」と回答した43人、「どちらかと言えば幸せであった」と回答した629人の両方合わせて、1,062人のうち、812人(29.9%)の利用者が「入所後も幸せである」と答えている。
 また、どちらかと言えばホーム入所前は「不幸せであった」と回答した492人と、「大変不幸せであった」と回答した132人の両方合わせて624人のうち564人(90.4%)の利用者が、「現在の生活は幸せである」と答えている。
 「入所前不幸せであった」という人の90%が「現在幸せである」と感じているということからみても、盲老人ホームの果たしている役割は大きいと言えるのではないだろうか。

表-X 過去の生活感と現在の生活感(盲護護)

現在の自分の生活 大変幸せ
である 
どちらかと
いえば幸せ
どちらとも
言えない 
どちらかと
言えば不幸
大変不幸
である 
わからない 不明
過去の生活
大変幸せである  206 47.5 125 28.8 47 10.8 31 7.1 10 2.3 11 2.5 3 0.6
どちらかといえば幸せ 189 30.0 292 46.4 102 16.2 26 4.1 4 0.6 10 1.5 6 0.9
どちらとも言えない  213 30.6 307 44.2 150 21.6 5 0.7 2 0.2 12 1.7 5 0.7
どちらかと言えば不幸 277 56.3 168 34.1 25 5.0 11 2.2 2 0.4 7 1.4 2 0.4
大変不幸である  89 67.4 30 22.7 6 4.5 1 0.7 4 3.0 2 1.5 0 0.0
わからない 24 26.0 14 15.2 6 6.5 3 3.2 2 2.1 39 42.3 4 4.3
不明 0 0.0 0 0.0 0 0.0 4 1.6 2 0.8 1 0.4 230 97.0

主題:
盲老人の幸せのために III  32頁~65頁
-第5回全国盲老人ホーム利用者実態調査報告書-

発行者:
本間 昭雄
全国盲老人福祉施設連絡協議会

発行年月:
1993年6月1日発行

文献に関するお問い合わせ:
全国盲老人福祉施設連絡協議会
〒198 束京都青梅市根ヶ布2丁目722番地
電話 (0428)24-5700
FAX  (0428)24-5703