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-第5回全国盲老人ホーム利用書実態調査報告書-

盲老人の幸せのために

項目 内容
発行年月日 1993年6月1日発行

1992年実施

全国盲老人福祉施設連絡協議会


第5回実態調査報告書刊行にあたって

 本年は、老人福祉法が施行されて30周年、また、本会にとりましても25周年となり、ひとつの節目として記念すべき年であります。
 過去4回、おおよそ5年毎に実態調査を行ってきましたが、9年ぶりに「第5回全国盲老人ホーム利用者実態調査」を実施することができました。日本大学の長嶋紀一教授を中心に、本会調査研究委員の皆さんの熱意と会員各位のご協力によって調査が完了致しました。ご努力に敬意と感謝を申し上げます。
 特に本調査の実施に当たり、重要性をお認めいただき、社会福祉法人丸紅基金の多額の助成を得られた事が大きな励みとなりました。ここに深く感謝する次第であります。
 さて、調査の内容につきましては、過去4回の実績を踏まえ、さらに調査項目を審議し、この結果が盲老人福祉の向上に寄与することができる貴重な資料として各方面に用いられるものと信じてやみません。
 高齢化に伴い在宅サービスの充実をはじめ、国の施策も21世紀に向かって一層進展をている事は誠に喜ばしい限りでありますが、高齢失明者の増加に伴う盲老人福祉の分野においては、いまだ未解決の問題を抱えています。この調査を機として、着実に前進して行きたいと思います。
 本書の刊行にあたり各方面のご協力に感謝し、併せて調査研究委員の労を犒いつつ、巻頭の言葉と致します。

平成5年5月10日

全国盲老人福祉施設連絡協議会
会長 本間 昭雄

目次

刊行の辞
全盲老連会長 本間 昭雄

序:実態調査にみる利用者の生活の質について
日本大学文理学部教授 長嶋 紀一

第1章 第5回盲老人ホーム利用者実態調査の概要および実施経過

第2章 ホーム利用者の基本的属性及び生活歴について

第3章 ホーム利用者の健康状態及び身体的状況について

策4章 ホーム利用者の介助に要した施設職員の介護量について

第5章 施設生活についての利用者の感想、意見、希望

[資料の部]


 実態調査にみる利用者の生活の質について

日本大学文理学部教授
長嶋 紀一    

 本調査は全国盲老人福祉施設連絡協議会に加盟している66施設(盲養護46、特養20)の利用者4,029名(盲養護2,754名、特養1,275名)のうち、盲養護2,079名(回収率98.3%)、特養1,096名(回収率85.9%)、合計3,805名(94.4%)から回答を得たものである。しかし盲養護の約25%が弱視あるいは晴眼であった。
 そこで盲養護利用者2,709名のうち痴呆者を除いた1,896名を両眼とも全盲、光覚弁、手動弁であった1,469名(失明者群:男471名、女998名)と両眼あるいは片眼が弱視、晴眼であった427名(弱視・晴眼者群:男117名、女310名)に分け、同様に特養利用者1,275名のうち痴呆者を除いた308名を両眼とも全盲、光覚弁、手動弁であった93名(失明者群:男22名、女71名)と両眼あるいは片眼が弱視、晴眼であった215名(弱視・晴眼者群:男60名、女155名)に分けて利用者の生活の質について検討するための基礎資料として、施設における生活の実態と意識について検討した結果の概略を述べることにする。
 本調査は「盲老人の幸せのために」を最大の願いとして、そのことを実現するための基礎資料を得るための調査であり、調査結果から利用者である視覚障害老人の生活の質を高めるために必要な資料を見出し、処遇に役立てることが肝要であろう。
 本調査で用いられた評価項目は、(1)身体的・社会的状況32項目、(2)介護状況26項目、(3)介護の量と内容3項目、(4)利用者の意識・態度19項目の合計80項目で構成された。ここでは利用者の背景として性別、年齢、在所年数、失明年齢、ADL等について、ホームでの生活に対する満足感、入所前の生活に対する幸福感、現在の生活に対する幸福感について検討した結果について述べることにする。

盲養護利用者について

  1. 失明者群の方が弱視・晴眼者群よりも年齢が若い者の割合が多かったが、在所期間は長かった。失明者の約半数は失明年齢が40歳以上の中高年失明者であり、弱視者や晴眼者と暮らすことにわだかまりを感じている者が47.5%もいた。なおADLは両群ともに非常に良好であった。
  2. 施設の行事への参加状況については、「必ず参加」、「ときどき参加」が失明者では46.8%、34.9%、弱視・晴眼者では51.7%、29.6%と両群とも非常に高く、有意差はなかった。
  3. クラブ活動や趣味活動への参加状況については、「参加」、「ときどき参加」が失明者では46.7%、19.4%、弱視・晴眼者では40.4%、24.7%であり、有意な差が認められた。
  4. 施設外の人との交流については失明者、弱視・晴眼者ともに80%以上が「ある」と回答し、差は認められなかった。
  5. ホームの生活の満足感について、「満足している」と回答した者は失明者80.6%、弱視・晴眼者84.7%と非常に高かった。失明者では、性別、年齢による差が認められた。
  6. 入所前の生活について、「今よりも幸福であった」と回答した者は失明者では41.3%、弱視者・晴眼者では39.2%で差はなかった。失明者では、行事への参加、外部の人との交流の有無等の生活状況による差がみられたほかに、弱視者・晴眼者との生活に関するわだかまりの程度による差が認められた。
  7. 現在の生活について、「幸福である」と回答した者は失明者80.6%、弱視・晴眼者76.1%で有意な差はなかった。失明者では性別、在所年数による差がみられたほかに、ほとんどの生活状況項目によって差が認められた。

 特養利用者について

  1. 失明者群と弱視・晴眼者群の性別、年齢構成、在所期間、ADL等には差はなかった。失明者の半数以上は失明年齢が40歳以上の中高年失明者であり、弱視者や晴眼者と暮らすことにわだかまりを感じている者が29.3%いた。
  2. 施設の行事への参加状況については、「必ず参加」、「ときどき参加」が失明者では36.1%、27.9%、弱視・晴眼者では61.0%、23.0%であり、有意な差が認められた。
  3. クラブ活動や趣味活動への参加状況については、「参加」、「ときどき参加」が失明者では39.9%、14.7%であり、有意な差が認められた。
  4. 施設外の人との交流については、失明者、弱視・晴眼者とも80%以上が「ある」と回答しており、差は認められなかった。
  5. ホーム生活に対する満足感については、失明者、弱視・晴眼者ともに88%以上が「満足している」と回答し、差は認められなかった。
  6. 入所前の生活について、「今よりも幸福であった」と回答した者は、失明者では44.4%、弱視・晴眼者では51.9%で両群間に有意な差は認められなかった。
  7. 現在の生活について、「幸福である」と回答した者は、失明者87.8%、弱視・晴眼者76.6%で有意な差が認められた。

以上の結果は失明者と弱視・晴眼者の施設における生活の実態と意識に微妙な違いのあることを示唆している。今回の調査結果から本来の盲老人ホームのあるべき姿や役割を真剣に検討すべきではないだろうか。くしくも本年3月には、「特別養護老人ホーム・老人保健施設のサービス評価基準」(平成5年3月、全社協)が発刊された。盲老人ホーム利用者の生活の質を高めるために、今回の調査結果を十分検討し、生かされるよう期待したい。


 第1章 第5回盲老人ホーム利用者実態調査の概要および実施経過

(1) 調査の目的と対象者
 本調査は、全国盲老人福祉施設連絡協議会(全盲老連)に加盟する、「養護盲老人ホーム」および「特別養護老人ホーム」に入所中の高齢者の実態を調査し、重度化と多様化を遂げつつある利用者のニーズについて、一層の理解を深めるとともに、それらニーズに対応すべく、ホームにおける処遇サービスの充実と、専従職員の専門性の向上に資することを目的として実施された。
 本調査の対象者は、全盲老連加盟の66施設の利用者である。調査日に入院中である利用者については、調査期間中に可能な限り回答を求めることとした。また短期および中期(ショートおよびミドル・ステイ)の利用者、デイ・ケア及び入浴サービスなどの利用者は調査の対象に含まれなかった。
 調査回答票の回収率はつぎの表にみられるように養護盲老人ホームで98.3%、特別養護老人ホームで85.9%と、それぞれともに高い回収率を得た。

表-1 調査票の回収率

施設数 利用者数
対象施設数 回答数 回収率 対象者数 回答数 回収率
養護盲老人ホーム 46 46 100% 2,754 2,709 98.3%
特別養護老人ホーム 20 20 100% 1,275 1,096 85.9%
 合計  66 66 100% 4,029 3,805 94.4%

(2)全盲老連の利用者実態調査のあゆみ
 全盲老連における、利用者実態調査は、盲老人ホームが開設され、全盲老連が結成された昭和43年、当時の3施設、すなわち慈母園(奈良県)、聖明園(東京都)、白滝園(広島県)の利用者を対象に第1回目が実施され、同年、調査報告が出された。そして全国各地のニーズにこたえて、つぎつぎに盲老人ホームが設置され、その総数が20施設を数えるに到った昭和47年、第2回目の調査が実施され、その報告書は当時の厚生省老人福祉専門官森幹郎氏により『盲老人白書』(昭和49年)として刊行された。
 以後ほぼ5年目ごとに、昭和52年に第3回、昭和58年に第4回目を数え、それらの報告書は『盲老人の幸せのために』として、それぞれ昭和53年と59年に刊行されている。そして今回の調査は前回から9年をへたが、第5回目として実施の運びとなった。

(3)調査の時期と実施方法
 第5回利用者実態調査は平成4年7月1日現在をもって実施された。調査票の配布は同年6月下句までに完了し、記入済みの調査票回収は同年8月10日頃までに、東京都青梅市の全盲老連事務局でほぼ完了した。
 調査票の配布を受けた各施設では、担当職員が利用者のひとりひとりについて質問を行ったが、調査項目全体のうち大部分の項目群については、すでに施設が保管している利用者個々の記録等を職員が参照して、職員の手で回答用紙に記入された。また一部の項目群については、ボランティア等の第3者が調査員として利用者に面接してもらうよう勧められていたが、適当なボランティア等が得られない場合が多かったようであり、多くは職員により面接調査が実施された。

(4)調査の内容
 実態調査の内容及び具体的な調査項目については、平成3年度において、故板東和幸氏(当時羽の浦荘園長)を委員長とする全盲老連の調査研究委員会により、加盟施設長に対してアンケート調査が実施され、その結果及び前回第4回の調査の反省点を踏まえて、今回の調査の内容が検討された。その結果、全体としては、これまでの調査内容および設問項目をほぼ引き継ぐこととなったが、後日開催された全盲老連の理事会の要請にもとづき、利用者の重度化、処遇サービスの多様化、などに関する内容を盛り込むこととなり、また前回及び前々回の調査にご指導を仰いできた日本大学文理学部の長嶋紀一教授のご意見も参考にさせて頂いた結果、これまでの調査と大幅に内容を異にする部分もいくつか見られることとなった。例えば、視力の程度は片方づつの視力程度によって決めることとか、日常生活動作能力、障害老人の日常生活自立度、職員による介護量、ニーズの見積もりとニーズ充足度の判定など、新しい視点が加わることとなった。これらの設問については、調査データの分析により導きだされる結果によって、その意義が問われると思われる。

(5)調査の集計
 本調査の集計は、日本大学文理学部心理学研究室のコンピューターにより実施された。集計はすべての設問ごとの単純集計と、必要に応じてクロス集計とが実施された。尚又、調査に協力された各施設へ、それぞれの施設ごとの集計データをまとめて送り、参考に付してもらった。これらのデータは、個々の施設の特徴や課題の比較対照など、あらたな集計と分析の余地を残すものである。

(6)報告書の内容について
 本報告書は、コンピューターによる集計を終えたデータに基づき、前回の調査報告内容との比較、養護盲老人ホームと特別養護老人ホームとの相互比較などの視点を組み合わせて、問題点を見いだす意図のもとに、調査研究委員が各章を分担し、資料の分析と解釈及び説明に取り組んだ結果である。限られた時間内に隅々まで調査結果を詳細に吟味することには自ずと限界があり、その分は読者のご期待に必ずしも応えているとは言えないが、施設における利用者や職員の生の声を日ごろ耳にしている立場から、全目老連加盟の各施設が当面している問題点については、ほぼ大切な問題には触れることが出きたと考えている。ただその結果、各章ごとの記述内容において不揃いな箇所や、全体として一貫性を欠く箇所が生じたかもしれない。それらは委員間で問題点についての関心の度合いや、関心の領域をめぐって若干、見解を異にする点があるからであり、今後さらに対話と検討を要するところでもある。
 調査の対象が基本的に施設利用者であり、分析視点も多岐に及んだので、こんにち全盲老連の施設が当面している処遇上の課題を、すべて提示出来たとは言い難いが、それらの課題のいくつかに言及することができたと考えている。

(7)全盲老連の「盲養護」施設と「特養」施設について
 実態調査の対象とされた全盲老連加盟の「養護盲老人ホーム」と「特別養護老人ホーム」について留意すべきことは、全盲老連が当初より、視覚に障害をもつ高齢者、すなわち盲老人を主たる利用者とする「養護盲老人ホーム」を主体に組織されてきたことである。全盲老連傘下の「特別養護老人ホーム」は昭和48年に最初の加盟が認められたが、当時すでに「養護盲老人ホーム」は全国に加盟20施設が存在した。この全盲老連の「特別養護老人ホーム」は、同じ経営主体の下の「養護盲老人ホーム」の隣接施設または姉妹施設として、視覚障害を有し日常生活において介護を要する高齢者を対象に開設されたが、実際には施設により晴眼者が多数を占めるホームも多い。近年、地域保健福祉計画が市町村自治体を中心に進められているなかで、半盲老連傘下の「特別養護老人ホーム」も地域福祉発展の一翼を担っているといえる。換言すれば、視覚障害をもつ高齢者、すなわち盲老人を受け入れる体制を有しつつ、地域在住の晴眼の高齢者を介護の対象として受け入れているのである。この点は「養護盲老人ホーム」が盲老人の受け入れとサービスを専門におこない、その専門性を追求してきたことと、明確に区別される。
 以上のような観点から、本報告書においては、全盲老連加盟の「養護盲老人ホーム」にいくぶん比重を傾けて調査結果をまとめ、「特別養護老人ホーム」については、これを比較の対象とする等、必要に応じて言及するにとどめた箇所が多い。なお本書の巻末には両種ホームの調査データを網羅して掲載した。
 なお又ふたつの施設については、次のように略記することを読者にお断りしておきたい。

        略記
  全盲老連加盟の
       養護盲老人ホーム・・・・・・・『盲養護(施設)』(もうようご)
       特別養護老人ホーム・・・・・・『特養(施設)』 (とくよう)

  第2章 ホーム利用者の基本的属性及び生活歴について

 この章においては利用者の基本的属性、例えば利用者の性別、年齢などと共に、入所前及び現在の生活状況について、施設利用のあり方と、利用者のニーズに焦点を向けながら調査結果を調べてみることとする。

(1)性別
 盲養護、特養ではともに男・女の比率は9年前とほとんど変化はないが、盲養護で1.7%、特養では2.6 %と女性の比率が高くなっている。

(2)年齢
 第3回、第4回の実態調査結果を併せて比べてみると下記のグラフから年齢層の変化がわかる。
 盲養護では、50歳台、60歳台の比率がじりじりと減少を遂げており、はんたいに、70歳台、80歳台、それに90歳台が増加しつつある。70~79歳の比率がいちばん高い。

表-A 利用者年齢層別構成の推移:盲養護(単位:%)

年齢 昭和52年 昭和58年 平成4年
 ~59歳 11.3 7.8 2.5
60~69歳 30.9 29.3 25.0
70~79歳 39.8 40.5 42.6
80~89歳 16.5 20.2 26.5
90~99歳 1.6 2.2 3.3
合計 100.0 100.0 100.0

 特養では60歳台、70歳台、80歳台の比率が若干減少した。そのかわりに90歳台が倍ちかい比率に増加した。80歳台全体の比率はわずかに減少したものの、80~84歳の年齢域だけはもっとも高い比率を示した。長寿社会に突入した施設の様相がうかがわれる。

表-B 利用者年齢層別構成の推移:特養(単位:%)

年齢 昭和58年 平成4年
 ~59歳 1.5 0.7
60~69歳 13.7 11.3
70~79歳 33.9 33.8
80~89歳 43.9 40.7
90~99歳 6.9 13.2
100歳~ 0.0 0.3
合計 100.0 100.0

(3)入所時の年齢
 盲養護では65~69歳が21.3%と最も多かったが、その前後にあたる60~64歳(19.9%)、70~74歳(19.5%)がこれに続く。
 また特養では75~79歳が22.1%で最も多く、その前後の70~74歳(18.4%)、80~84歳(19.2%)が次に多い。前回と変化があまりみられないが、盲養護では特養より入所年齢が平均的に見て10年若いことがわかる。近年、特養施設においては利用希望者が増える傾向にあるが、盲養護ではどうか、利用申し込みから入所にいたるまでの「待機期間」を含めて、今後調査の必要があると思われる。

(4)在所年数
 前回どうよう、盲養護、特養とも1年~3年がもっとも多く、つづいて3年~5年となっている。長期利用者も「19年以上」が盲養護において前回皆無であったが、3.9%に増えた。こんごも、健康状態、生活自立度の安定によって長期利用の増加が予想される。

(5)失明年齢
 失明年齢は前回調査において、盲養護では60~70歳未満がもっとも多く、19.0%であったが、今回は14.0%に低下し、はんたいに50~60歳未満が前回15.4%のところ、今回18.0%に増加した。30~40未満、40~50未満もそれぞれ今回僅かながら増加した。前回よりも失明年齢は60歳台から50歳台へと若い年代層に移っている。それだけに失明の原因も多様化しているといえる。特に1歳~10歳未満の年少期の失明が14.2%と高く、このことが就学にも大きく影響していると思われる。総じて、50歳以降の中途失明者が41.4%と、前回の47.5%を割っているが、かなりの数を占めることには変わりがない。特養では、前回10.0%と、もっとも多かった60~69歳は、今回さらに増加して19.1%となった。50歳以降の中途失明者は、前回の27.7%から51.8%へと大幅に増加を示した。ちなみに0~30歳未満は26.1%、30~50歳未満は15.8%であった。
 この結果、盲養護の利用者においては、50歳以降に失明した利用者は減少傾向を示したのにたいし、反対に特養においては同じ50歳以降に失明した利用者は増加傾向を示した。

(6)最終学歴
 男・女とも、圧倒的に尋常小学校が多く、ついで高等小学校と未就学の順となっている。また、視覚障害者の職業(三療)と云われるアンマ、マッサージ、指圧養成施設(盲学校)も前回の、2.3%が10.7%と職業意識の高まりが認められるが、総体的に学歴は低い。これには10歳未満での失明者が盲養護で23.7%にも達している事実をおもえば、年少時期における失明が大きくかかわっていると思われる。

(7)従事した主たる職業
 前回調査において利用者の職業は、「失明後の職業」が設問されたので、生涯の職業について設問した今回の調査結果とは比較対照できないと思われる。今回、盲養護でもっとも多かった「その他」は、別に「サービス業」と答えた利用者が比較的に少ないところから、「その他」の中に「按摩・マッサージ」が多く含まれていると思われる。「無職」も特養では最も多く、盲養護では2番目に多かったが、その多くは女性である。
 盲養護では「会社員」、「農林漁業」、「自営業」の順に多かった。特養では「農林漁業」、「その他」、「会社員」、「自営業」の順である。
 いづれにしても、「無職」(盲養護23.8%,特養23.6%)を除くと、のこり75%以上の利用者が何らかの職業経験をもったと思われる。

(8)入所前の居住地

表-C 施設入所前の居住地別利用者数

盲養護施設 特養施設
施設所在の市町村 17.2 54.5
施設所在の県内 70.6 43.2
県外 11.9 2.1
不明 0.4 0.3
合計 100.0 100.0

 盲養護では圧倒的に「施設の所在する県内」が多く(70.0%)、ついで「施設のある都市・町村」(17.2%)で、「県外」も11.9%と一時期より低くなっている。これは全盲老連が長年統けてきた、「盲老人ホームの全国一県一施設設置運動」が功を奏した結果であると思われる。
 特養では「施設所在地の都市・町村」が54.5%と最も多く、ついで「県内」の43.2%で「県外」は僅か2.1%であった。
 このことから特養は施設近在の住民により多く利用され、住民に身近な存在となりつつあるが、盲養護施設は、近在の住民よりも県内一円を広くカヴァーしていることがよく解る。市町村を中心とする地域在宅福祉の時代を迎えて、特養が地域住民の福祉サービスを重点的に行っているなかで、盲養護施設も地域福祉に無関心ではいられない。そして同時に視覚障害のある高齢者の処遇について専門性を備えた特色ある施設として、県下の広い範囲の地域サービスを目指してゆかねばならないと思われる。

(9)入所前の住居
表-D(1) 入所前の住居(盲養護)

割合
自宅 74.4
病院 8.4
老人ホーム 9.5
老人保健施設 0.4
その他の福祉施設 5.3
その他 1.8
不明 0.2
合計 100.0

 入所前の住居については、まづ盲養護では74.4%(2,016人)と4分の3の利用者が「自宅」から直接施設入所していることがわかった。「自宅から」が最も多く、つぎの「一般病院」(6.2%)、「養護老人ホーム」(5.6%)をはるかに引き離している。このことは盲養護施設が県下一円の住民を対象とする広域施設であるとともに、自宅に暮らす高齢者を主に対象にしていることを示す。

表-D(2)入所前の住居(特養)

割合
施設の地元市町村 16.8
施設所在の県内 72.0
施設所在の県外 11.1
不明 0.1
合計 100.0

 この2,016人の「自宅からの入所者」の内訳を調べると、施設所在の市町村338人(16.8%)、施設の所在する県内1,451人(72.0%)、県外224人(11.1%)となっている。盲養護の「自宅」からの利用者に対しては、家庭での利用者の日常生活について関心を向けるとともに、自立生活維持のサービスについて一層、配慮しなければならないと思われる。これに対して、特養では「自宅」が38.4%であり、「一般病院」(21.7%)、「養護盲老人ホーム」(18.4%)がすぐあとに続いて多く、これらは併せると「自宅」にまさるほど多い。このことは特養には施設所在地の病院や、特養に近接する盲老人ホームからの入所が多いことを示す。

(10)入所前の同居世帯の種類
 前問の入所前の住居について得られた回答の中で、「自宅」と回答した利用者に世帯の種類をたづねたところ、盲養護では男女とも「独居」(41.4%)がもっとも多く、次が「子供・孫と同居」(20.7%)と「兄弟との同居」(17.6%)あった。
 盲養護の場合には「独居」が最も多いこと、すなわち「独り暮らしの盲老人」が多いことに関心を向けて、他の調査結果を照らし合わせてみることとする。まず「独居」の状況からの入所の場合、入所時の年齢にどのような特徴が見られるか、次の表を参照すれば、60歳代の入所が最も多く、70歳代がこれにつづいている。「子供・孫との同居」の場合も60歳、70歳代が多いが、「兄弟との同居」では60歳以下ないしは60歳代が比較的に多いことがわかる。

表-2 入所時の年齢層別世帯別利用者数の分布

独居 子供・孫と同居 兄弟と同居
 ~59歳 93 11.2 23 5.5 114 32.2
60~69歳 357 43.1 127 30.5 164 46.3
70~79歳 299 36.1 181 43.4 67 18.9
80~89歳 75 9.0 83 19.9 9 2.5
90~99歳 5 0.6 3 0.7 0 0.0
合計 829 100.0 417 100.0 354 100.0

 さらに「独居」であった利用者の盲養護施設入所の理由は、後にも触れるが、「家事・生活の自立困難」と回答した利用者は829人中582人(70.2%)を占め、つぎに多いのが「身体的健康不安」(17.8%)であった。
 特養では「子ども・孫との同居」が56.1%ともっとも多く、続いて「独居」(22.8%)、「夫婦世帯」(11.2%)であった。

(11)在宅サービス利用の経験
 在宅福祉の時代を迎えつつあるが、調査結果からみるかぎり「利用経験なし」が盲養護で87.2%、特養で86.1%と多い。在宅サービスも歴史が浅いため利用する機会にめぐまれなかった人が多かった結果であると思われる。今後は漸次、利用者は増加すると思われる。

(12)入所にいたる理由
 過去4回の調査においても入所の動機や理由が尋ねられ、その結果が得られたので、その変遷を折れ線グラフの表で見てみることとする。

図-5 盲養護施設入所動機・理由の変遷(盲養護)

 「経済的理由」が昭和43年から極端に減少の一途をたどっており、今回の調査で過去最低を記録したといえる。入所理由としての「経済的理由」が減少している意味は、入所希望者が年金の充実その他の理由により経済的に余裕ができたということであろう。このことは、盲養護施設の入所条件としての「経済的理由」すなわち、経済的に生活困難でなければ入所できない、という条件は、これからの多くの入所希望者にとって入所を阻む条件となると思われる。
 「家庭の不和」もゆるやかではあるが減少傾向を示している。これは、単身生活者、すなわち自宅で独り暮らしであった高齢老の利用が次第に多くなってきていることと無関係ではないと思われる。このことは「家事・家庭生活の自立困難」すなわち「単身生活の困難」が入所の理由としては、今回最も多く45.2%(1,225人)で、「介護者の病気・または死亡」を含めると52.3%となり、前回を上回る結果となっていることと大いに関係がありそうである。こんごも盲養護の利用希望者の主流は、このような自宅において一人暮らしの盲老人となっていくのではないだろうか。このことはまた、盲老人に対する地域福祉サービスを考えて行くうえで大きなヒントになるのではないだろうか。
 「健康上の理由」はかつて昭和47年、52年の調査の際にはそれぞれ最も高い数値をしめしていたが、今回は「身体的健康不安」23.1%(627人)で減少を遂げたものの、全体的には第2番目に多い理由となった。「健康上の理由」が減少を遂げているのは、視覚障害を持つことをこのなかに含めた人が以前は多かったのではないかと思われるが、それらの人々が自己の視覚障害を「健康上」の問題と見なすかわりに、「家庭生活の自立困難」の問題と見なすようになったのではないか、ということ、今一つには特別養護老人ホームの近年の増設により、実際に病弱なひとたちは、特養に入所するケースが多くなってきているからだと推察される。
 この二つの理由、「家庭生活の自立困難」と「健康上の理由」を回答した利用者について今少し分析をくわえたい。
 まず、この2つの理由をあげた利用者の視力程度を、つぎの表から見てみることにしたい。それによれば、失明者が圧倒的に多く、これに弱視の利用者を加えると、どちらも96%を越えている。このことから「家事・生活自立困難」と「身体的健康不安」の二つの理由の背景には視覚障害が重くのしかかっているのが察せられる。

表3 主な施設入所理由と現在の視力程度(盲養護)

家事・生活自立困難 身体的健康不安
失明 872 71.1 417 66.5
弱視 315 25.7 187 29.8
晴眼 38 3.1 23 3.6
合計 1,225 99.9 627 99.9

 つぎに、入所前の住居が「自宅」であった利用者について、世帯の種類別に入所理由との関係を見てみると、「独居」生活をおくっていた利用者が「自立生活困難」、「身体的健康不安」のどちらの理由においても、他の世帯の種類よりも多いことがわかる。(表-4参照)

表-4 世帯別入所理由別利用者数の分布(盲養護)

独居 子供・孫と同居 兄弟と同居
同居者と人間関係悪化 6 0.7 124 29.7 61 17.2
経済困難 43 5.2 26 6.2 13 3.7
身体的健康不安 148 17.9 87 20.8 69 19.5
精神不安 18 2.2 12 2.9 17 4.8
家事・生活の自立困難 582 70.2 107 25.6 131 37.0
介護者の病気または死亡 21 2.5 33 7.9 54 15.3
その他 10 1.2 28 6.7 9 2.5
不明 1 0.1 1 0.2 0 0.0
合計 829 100.0 418 100.0 354 100.0

 以上の結果から、かなり多数の利用者が、生活自立及び身体的な健康上の不安から、60歳台から70歳台にかけて盲養護施設入所の道を選び、その多くは失明または弱視など視覚障害があり、自宅で独り暮らしをしていた人達がかなり多い、といえる。

 いっぽう特養においては、「身体的健康不安」が34.9%ともっとも多く、「家事・生活の自立困難」が28.9%とつぎに多かった。

(13)身元引受人
 前回の調査では、「実子」がもっとも多かったが、今回は「兄弟・姉妹」が「実子」より多くなり・双方で順位が逆転した。その理由はよくわからない。いずれにせよ身元引受人は、より身近かな血縁者が望ましく、行政指導によるところが大きい。

(14)受給年金の種類
 年金のうちでは、障害基礎年金受給者(60.1%)が圧倒的に多い。これは、視覚障害1、2級の該当者が多いためである。つぎに老齢基礎年金(15.5%)が多かった。これら年金受給者の比率は、前回調査の結果とあまり変わっていない。ちなみに前回調査では、障害福祉年金受給者は63.7%、老齢福祉年金受給者は14.8%であった。今回、無年金者は僅か1.7%と少ないが、前回の0.9%よりは若干の増加を示している。しかし全体的には、なんらかの年金収入を得ていることが分かる。
 特養では老齢基礎年金(28.6%)がもっとも多く、障害基礎年金(28.0%)がそれに続く。

(15)平成3年度中の収入額
 ほとんどが年金収入で、盲養護ではそのうち障害基礎年金によると思われる「50万~100万円未満」の利用者が67.0%と最も多い。ついで「10万~50万円未満」(17.1%)であった。
 特養では金額のランクが下がって、「10万~50万円未満」が41.1%と最も多く、「50万~100万円未満」が37.7%とこれに続いた。

(16)利用者本人の費用負担額
 盲養護では収入額に応じた本人の負担金(費用徴収額)は、障害基礎年金受給者の負担相当額である「月額3万~5万円未満」が最も多く60.5%(1,639人)を占めた。
 特養でも負担額「月額3万~5万円未満」が最も多く31.7%で、「5千~1万円未満」が14.2%とこれに続いた。

(17)今住んでいる居室の入居者数

表-E

盲養護施設(%) 特養施設(%)
1人 14.3 5.7
2人 65.1 13.2
3人 6.4 3.0
4人 12.8 70.7
5人以上 1.4 7.3
合計 100.0 100.0

 盲養護施設では「2人部屋」が65.2%と圧倒的に多かった。そして従来多くみられた「4人部屋」(12.8%)よりも、今や「1人部屋」が14.3%とやや多くなってきたことがわかる。設問第70の結果によれば、施設を改築するとすれば、「1人部屋」を希望する利用者が42.7%と「2人部屋」の40.5%を僅かに上回っているが、今後はプライヴァシー保護の観点から「1人部屋」が増えるものと予想される。
 反対に特養では現状、「4人部屋」が70.7%と圧倒的に多く、「2人部屋」(13.2%)、「1人部屋」(5.7%)との差は大きい。しかし設問第70の結果からは、現在の利用者の18.5%が「2人部屋」を、14.4%が「1人部屋」を希望しており、現状よりも小人数の部屋への入居希望者は今後も増え続ける事と予想される。

第3章 ホーム利用者の健康状態及び身体的状況について

 この章においては、前回(昭和58年)の利用者実態調査いらい、利用者にどのような健康上及び身体的状況の変化がみられるかについて検討をおこない、それらの結果をふまえて、利用者の日常生活行動及び生活における自立の状況を探ってみることにしたい。併せて職員による処遇上の課題にふれてみたい。

(1)利用者はどのように変わってきたか--前回調査結果との比較

 ア)視力の程度について
 今回の調査では、左右それぞれの視力の程度を別々にしらべた結果、左右の視力がいずれも、全盲、光覚弁、手動弁のいずれかである場合が「失明状態」であるとすれば、失明状態にある利用者の総数は盲養護で1,903人となることがわかった。これは全体の70.2%にあたる。どちらか一方の眼だけの失明をみれば、左だけの視力では2,018人、右だけでは2,010人が「失明」ということになり、その数は両眼失明のばあいより100人程多くなる。この理由は、いっぽうの眼が「失明」であっても、もういっぽうの眼が弱視か晴眼であるからである。
 前回の調査(調査報告書『盲老人の幸せのために(II)』21頁、87頁の表参照)で「失明年齢」を調べる調査項目のなかに、この失明、弱視者、晴眼者の数が見られるので、今回の場合と比較してみることができた。

表-F 失明者と弱視・晴眼者の比率の推移

失明者 弱視・晴眼者
盲養護施設 昭和58年 1,742 76.6 472 20.7
盲養護施設 平成4年 1,903 70.2 804 29.6
特養施設  昭和58年 228 43.9 159 30.6
特養施設  平成4年 309 28.1 781 71.2

 盲養護において、比率からみて、失明者は減少傾向にある。反対に弱視・晴眼者は増加傾向にある。特養においては、同様の傾向がみられるが、特に弱視・晴眼者の増加はかなりのものであることがわかる。特養施設の場合、施設数の増加により、全盲老連への加盟施設はこの9年間に従来の7施設から一挙に21施設に増加したが、この結果、特養に晴眼ないし弱視の利用者が数多く入所することとなり、その数は失明者をはるかにしのぐこととなった。前回の調査では、失明者は特養ホームでは多数派であったが、今回28.1%と、少数グループに転じることとなった。

 イ)視覚障害の原因となった病名について
 視覚障害の原因となった病名については、前回調査では盲養護、特養ともに白内障がもっとも多く、次が緑内障であった。今回の調査では、盲養護では緑内障が(左眼12.0%、右眼12.1%)もっとも多い。そして白内障をみると、老人性白内障が(左眼10.9%、右眼11.6%)で、先天素因による白内障(左眼5.4%、右眼5.6%)、外傷性白内障、および糖尿病性白内障(左眼2.0%、右眼1.7%)を加えると左眼19.1%、右眼19.7%、となり、緑内障よりも依然として多いことがわかる。
 特養では老人性白内障(左眼10.6%、右眼10.9%)だけでも緑内障(左眼6.6%、右眼6.1%)より比率は高く、白内障がもっとも多いことがわかる。

 ウ)視覚障害以外の障害について
 前回の実態調査の際に併せて実施された全盲老連による『施設へのアンケート』を資料に、前回と今回の調査結果を比較すれば、まず盲養護においては、視覚障害以外の「障害無し」が前回の81.2%から減少して65.4%となった。これは盲養護の利用者のうち僅か3.3%(91人)が晴眼者であることから、弱視をふくめて視覚障害を有するほとんどの利用者にとっての重複障害の増加を意味する。そして、視覚障害以外の「障害1つ」とした利用者は前回16.3%から40.4%に増え、「障害2つ」も1.3%から18.1%といちじるしい増加を示した。
 重複障害の内訳では、聴覚障害が34.0%と最も多い。次いで肢体不自由の16.1%、内部機能障害の14.9%であった。
 前回の調査時期よりも75歳以降の高年齢の利用者層が厚くなってきていることから、老化による重複障害の増加とみなしてよいのではないだろうか。
 特養ではさらに重複障害はいっそう増加の傾向を示している。「障害無し」は前回、77.3%であったが、今回27.3%といちじるしく減少した。「障害1つ」が16.3%から40.4%に、「障害2つ」が1.3%から18.1%にそれぞれいちじるしい増加を示した。
 障害の内訳は、肢体不自由が39.8%と最も多く、精神障害20.9%、聴覚障害と言語障害がともに11.6%であった。今回3つ以上の重複障害の利用者が107名(9.7%)も見られたことも注目されてよい。なお特養の場合、全利用者のうち晴眼者が55.8%(612人)を占めており、今回の調査回答のうち晴眼者であっても、いずれかの障害を1つでも有した場合は「障害1つ」と回答された可能性があり、その場合には重複障害とは言えないが、視覚障害以外の障害として集計に加えることとした。

 エ)治療を受けた疾病について
 1)通院により治療を受けたケース
 施設内で受けた治療もふくめて、利用者が疾病によりどれほど通院したかをたづねてみた。盲養護では、前回の施設アンケート調査結果によれば、対象総数2,336人のうち、疾病に罹った利用者1,825人中、入院した者89人を除くと、1,736名が、施設内または通院により治療を受けたと考えられる。この数は74.3%であった。それに対し今回の調査では、90.1%と、通院による受診者は増加したといえる。なお又、通院による治療期間については「9ヵ月以上」が76.3%と、高い数値を示した。
 受診及び治療対象となった疾病では、循環器系(内科)25.4%が最も多く、消化器系20.3%、眼疾患12.8%、整形外科8.2%の順であった。
 いっぽう特養では、前回のアンケート調査結果によると、対象総数519人のうち眼科疾患を除いて、疾病に罹った497人のうち、施設内または通院により治療を受けた利用者は431名で、83.0%に達した。今回の調査ではさらに増加して89.1%となっている。疾病では循環器系(内科)が34.6%と最も多い。以下は眼疾患を除いて、盲養護と順位は同じである。通院治療期間は「9ヵ月以上」が79.2%で、盲養護をうわまわった。
 通院にかかわる介助については第4章においても触れられているように、とくに盲養護施設においては、過去1ヵ月間の介助回数が「月1度以下」23.7%、「月2~3回」13.5%の回答比率、および1回の通院介助に要した時間が1時間以上2時間未満17.2%、「2時間以上3時間未満」14.7%の順に多く、又いずれの項目に対する回答比率は特養および一般特養の数値よりも多い。このことは、盲養護施設での通院介助に要する職員の負担の多さを物語るものである。

[調査結果についての所見 - 盲老人の通院について]

 利用者の健康状態及び身体的状況について考察すると、視覚障害のほかにもさまざまな疾病の治療を受けていることが「表-22 治療を受けた疾病の種類」(巻末資料96,136頁参照)に表わされている。このことは、嘱託医による投薬のほかに、眼科をはじめ、種々の通院を要していることを意味するものである。視覚障害者の通院においては当然介助者が必要であり、限られた施設職員の中から、通院する利用者の数に応じた施設職員の動員が余儀なくされているのである。然も、「表-23 治療を受けた期間」(巻末資料97,137頁参照)を見ると、最長の「9ヵ月以上」が最も多く79.2%にのぼり、殆どの施設において、それらの通院は恒常的となっていることがうかがえる。特に盲養護老人ホームにおいては、眼科への通院は各施設共、避けることのできない通院であろうと思われる。

 2)入院したケース
  前回の調査では、まず盲養護施設の利用者2,336人のうち僅か4.6%にあたる108名が入院していたとされている。そして今回の調査では、13.7%とこれまたいちじるしく増加した。疾患は、消化器系が19.1%、整形外科疾患14.9%、循環器系14.7%となっている。入院期間は「1ヵ月以内」24.5%、ついで「2ヵ月以内」19.6%となっている。
  特養では前回の調査では入院件数は12.7%であったが、今回は15.0%と増加傾向を示した。疾患では消化器系と循環器系がともに19.8%と最も多く、ついで整形外科の17.3%であった。入院期間は「1ヵ月以内」と「3ヵ月以内」がともに22.0%、「2ヵ月以内」19.5%と、特養では盲養護よりも入院期間は長期化の傾向にある。

[調査結果についての所見 - 盲老人の入院について]

 入院について「表-27 入院時の付き添い人について」(巻末資料99頁参照)を見ると、「完全看護のため不要」を除くと、入院時の付添いは、「施設が依頼した家政婦」が最も多く32.0%、「家族」や「施設」による対応は僅かである。地域に家族を持つ老人が多い特別養護老人ホームに比べ、養護老人ホームは身内に縁の薄い人が多い傾向にあり、盲養護老人ホームはこれに加えて、殆どの施設が各都道府県に1ヶ所しかないため、遠方からの入所者が多く、家族がある場合でも施設の地元ではなく、遠方に在住することから、家族による対応は困難である。また施設の職員による付き添いは、通院と異なり、長時間の拘束を要するため、現状の限られた職員数では対応出来ない状態である。しかし、「表-25入院による治療を必要とした疾病の種類」(巻末資料98頁参照)に見るように、入院治療を必要とした疾病の種類も多く、「完全看護のため不要」(47.8%)の外は、現に、入院に付添いを必要としており、有料の「施設が依頼した家政婦」に頼らざるを得なくなっている。特に盲老人の場合は、病院側から付添いを要求されることが多い。反面、中には、国民皆保険の今日、苦しい生活の中で年金未加入にて無収入の盲老人もおられ、その場合は止むなく勤務職員を割いて対応しているのが実情である。

 オ)記憶障害について
 利用者にとっての記憶障害の程度は、老人性痴呆症状の進み具合と見なしてよいであろう。調査結果からは盲養護では76.4%の利用者に「痴呆症状は認められない」ということである。しかし、前回の調査の時より徐々に痴呆症状をもつ利用者は増える傾向にある。前回2,336人の利用者中、わずか5.5%(129人)に痴呆症状が認められたが、今回は軽度14.0%、中度6.8%、重度2.1%で、これらを合わせると22.9%(621人)と前回の4倍ほどの比率に達したことがわかった。年齢層別にそれぞれの障害程度での分布をつぎの表にまとめてみた。

表-5 年齢層別・記憶障害程度別・利用者の分布(盲養護)

 ~59歳 60~69歳 70~79歳 80~89歳 90~99歳
重度 0 0.0 5 0.7 16 1.4 25 3.5 11 12.4
中度 3 4.5 23 3.4 64 5.6 80 11.2 15 16.9
軽度 6 9.1 47 7.0 155 13.5 146 20.4 25 28.1
痴呆症状なし 57 86.4 599 88.9 909 79.5 465 64.9 38 42.7
合計 66 100.0 674 100.0 1,144 100.0 716 100.0 89 100.0

 この表が示すところでは、年齢が進むほどに、同じ年齢層における記憶障害をもつ利用者の比率が増加していることである。はんたいに、痴呆症状の認められない利用者の比率は年齢とともに減少しているのがわかる。70歳~90歳代の中度および重度の利用者の増加は、盲養護の施設にとって介護上の負担を伴うことと察せられる。
 つぎに記憶障害が視力の程度とどのような関連をもつかについて、次の表から考えてみた。

表-6 記憶障害の程度と視力の程度

重度 中度 軽度 障害なし 不明
失明 38 66.7 127 68.6 257 68.0 1,469 71.0 12
弱視 14 24.6 44 23.8 105 27.8 545 26.3 5
晴眼 5 8.8 14 7.6 16 4.2 55 2.7 1
合計 57 100.0 185 100.0 378 100.0 2,069 100.0 18

 晴眼者、弱視者が相対的に少ないため、失明者は重度、中度、軽度のいづれにおいても66~68%を占めている。この点からは、盲養護施設における記憶障害をもつ利用者は失明者が多いということは言える。しかし、視力の程度別に記憶障害の有無を見て行くと、失明者と弱視者のうちそれぞれ22%程度の利用者に記憶障害があり、これが晴眼者の場合には38%とより多くなることが分かり、この表からは失明状態がかならずしも、記憶障害を進める条件であるとは言えない。
 特養において今回の調査では、記憶障害をもつ利用者の比率はさらに増加する。前回の結果では16.7%(519人中87人)であったが、今回は軽度20.5%、中度29.6%、重度19.7%、合計69.8%と7割の利用者が記憶障害をもっていることがわかった。

 カ)不適応行動について
 本調査において不適応行動の項目に挙げられた6項目、すなわちa.攻撃的行為、b.自傷行為、c.火の扱い、d.徘徊、e.不穏興奮、f.不潔行為にたいして、利用者ひとりひとりに下された評価の点数(重度3点、中度2点、軽度1点、無し0点)を合計したものを、点数の和の7段階ランクに振り分けてみた。まず次の表で、男女別に不適応行動を比較してみる。

表-7 男女別不適応行動評価点数の結果

男性 女性 合計
個人別点数のランク
  0点 564 70.2 1,517 79.6 2,081 76.8
1~2  143 17.8 272 14.3 415 15.3
3~4  65 8.1 85 4.5 150 5.5
5~6  23 2.9 23 1.2 46 1.7
7~8 5 0.6 8 0.4 13 0.5
9~ 3 0.3 0 0.0 3 0.1
合計 803 100.0 1.906 100.0 2,708 100.0

 個人別点数の全体の平均値は男性0.76、女性0.44と男性の方がやや多く、男性の総数は全利用者の30%であるが、不適応行動が女性よりも多いことが示された。表-7においても、0点以外のすべての点数ランクにおいて比率の上では、男性が女性よりも多いことが示された。なお点数3~4以上のランクに属する200名あまりの利用者は4分の3が失明者であり、それら利用者にたいする処遇は、個人差はあるものの、不適応行動の内容によっては職員にかなりの介護上の負担をきたしていると察せられる。
 この点に関連して、寮母又は生活指導員が、ひとりひとりの利用者に対する介護のニーズを、どのように見積もり、且つそれらのニーズが総体的にどれほど充足されていると見なしているかについて、不適応行動との関連を、表-8,9にまとめてみた。

表-8 不適応行動の点数ランクと必要介護量の判断

0点(人) 1~2点(人) 3~4点(人) 5~6点(人) 7点以上(人) 合計(人)
ほとんど介護を必要としない 959 111 20 8 0 1,098
たまに介護を要する程度 768 144 52 3 2 969
通常、並の介護を必要とする 246 98 47 16 5 412
通常、かなりの介護を要する 106 59 31 19 9 224
合計 2,079 412 150 46 16 2,703

表-9 不適応行動の点数ランクと介護ニーズの充足度

0点(人) 1~2点(人) 3~4点(人) 5~6点(人) 7点以上(人) 合計(人)
十分に充たされている 563 62 14 6 1 646
ほぼ充たされている 1.287 260 99 26 9 1,682
あまり充たされていない 223 84 32 12 4 355
ほとんど充たされていない 6 6 5 2 2 21
合計 2.079 412 150 46 16 2,703

 表-8に不適応行動と必要介護量の見積もりとの関係をみると、3~4点ランク以上の、より不適応行動が重度の利用者に目を向けた場合、その4分の1程度の利用者が、「通常かなりの介護量を要する」とみなされている。ただし、同じ3~4点以上でも40%程の利用者が「介護を要しない」または「たまに介護を要する程度」と見なされており、不適応行動によって必ずしも介護ニーズを喚起しない、または職員がニーズを認知していない様子が認められる。反対に、0点ランクの利用者の5%に対しては、「かなりの介護が必要」とみなされており、不適応行動と介護ニーズの認識との関係が相対的に希薄な面が存在することが示されている。
 表-9において、不適応行動と介護ニーズの充足度の関係が示されているが、3~4点以上のランクの利用者のうち、73%が「ニーズは充たされている」と職員が見なしており、重度の不適応行動にめげない職員の努力がしのばれる。

[結果についての所見 - 盲老人の記憶障害と不適応行動について]

 「表-28 記憶障害の程度」、「表29-1~6不適応行動」(巻末資料99~101頁参照)を見ると、利用者が比較的軽度であるような数値が出ているが、盲老人には視覚障害により懐疑心の強い人も少なくなく、これらの老人は表の数値の中には合まれていないと思われる。しかし、これらの老人にかかる職員の対応時間は少なくないのである。また、痴呆のある盲老人の中でも、徘徊をする盲老人の場合は危険であり、特に夜間における施設外への徘徊は各施設とも神経を使っておられるものと思われる。

[利用者の身体的状況-まとめ]

 以上、利用者の健康状態及び身体状況を前回の調査結果との比較によりまとめてみると:

  1. 全体として弱視・晴眼の利用者の比率が増加の傾向にある。特養では特にその傾向が顕著である。
  2. 50歳以降の中途失明者の比率は盲養護では幾分減少したが、特養では増加した。
  3. 視覚障害以外の障害をもっ利用者は増加の傾向にある。盲養護では聴覚障害、特養では肢体不自由がもっとも多い。
  4. 病気を患った率を病院への通院数でみるかぎり、その数は増加傾向にある。盲養護では通院者の76%が、特養では79%がひとつの疾病について「9ヵ月以上」の治療期間をもった。また入院した利用者は盲養護では4.6%から13.7%に、特養では12.7%から15.0%に増加し、盲養護では入院期間「1ヵ月以内」24.5%、特養では「1ヵ月以内」と「3ヵ月以内」がそれぞれ22.0%に達した。
  5. 利用者の記憶障害も増加の傾向を示した。軽度以上の記憶障害を有する利用者は、盲養護では5.5%から22.5%に増加し、特養では16.7%から69.8%に達した。

(2)利用者の身体状況の変化は日常生活行動能力(ADL)にどのように反映されているか

 前回(昭和58年度)の施設アンケート調査において、視力、聴力、発語の3項目を除いた結果が出されているので、その結果を参考に、利用者の日常生活行動にどのような変化がみられるかを調べてみた。
 つぎの歩行、食事、入浴、着脱衣、排泄の各項目はいずれも、自立できない場合には職員による介助を要するものばかりである。そこで盲養護、特養それぞれで、利用者は「一部介助を要する」(中度)、「全面介助を要する」(重度)の2点を中心に表-Gにまとめてみた。
 この表から読み取れることは、まず盲養護において、前回よりも今回の方が、一部介助、全面介助ともに減少傾向を示しており、これは換言すれば、自立傾向の僅かながらの増加を意味する。ただし、排泄ではトイレ使用者が増加したにもかかわらず、おむつ使用者も若干増加した。また入浴の項では一部介助が増加を示した。しかし総じて自立度の増加が認められる。

表-G 介助を必要とする利用者の割合

盲養護 特養
前回調査(%) 今回調査(%) 前回調査(%) 今回調査(%)
歩行:全面介助(園内) 3.8 0.0 21.6 0.0
歩行:全面介助(園外) 10.1 3.1 24.9 39.0
着脱衣:一部介助 15.8 9.0 23.3 28.3
着脱衣:全面介助 5.7 3.7 28.5 33.8
排泄:おむつ使用 2.9 3.8 26.6 35.8
排泄:便器使用 13.3 4.5 21.6 19.2
排泄:トイレ使用 87.5 91.5 53.4 46.7
食事:一部介助 9.8 4.5 15.8 21.0
食事:全面介助 1.6 1.1 8.5 9.2
入浴:一部介助 23.6 29.4 46.2 37.3
入浴:全面介助 7.5 6.0 34.9 43.7

 これにたいし特養では、表-Gの数字は盲養護とは反対の傾向を示していると言える。ここでは入浴の一部介助、便器使用、トイレ使用が減少を示し、反対にそれら以外はすべて増加を示し、介助への依存度を高めていると考えられる。とくに入浴、着脱衣、排泄では利用者の半数以上が、なんらかの介助を必要とする利用者であることがわかる。
 前回と今回の調査の間に9ヶ年が経過したが、この間、盲養護の利用者にたいする介助の負担が増加したため、特養に移籍することとなった利用者は、多かったと思われる。特養の利用者在所年数をみれば、全体の89.9%の利用者がこの9年の間に特養に入所したひとたちである。そして今回の調査では、特養に入所する前の住居として、自宅の38.4%がもっとも多く、つづいて一般病院の21.7%、盲養護施設の18.4%であった。盲養護のホームは特養の増加によって、介護負担の重い利用者を特養に移籍することにより、盲養護全体としては利用者の自立度が高まる結果になったと思われる。しかし特養では、こんごADLの低下した利用者の増加に伴い、介護量の増加に対応してゆかねばならない。

(3)『寝たきり度』-障害老人の日常生活自立度判定基準にみる

 今回、厚生省が平成3年に判定基準作成委員会を設置して作成された『障害老人の日常生活自立度判定基準』を本調査に適用した結果、従来からのADL測定結果とはすこし異なった対象者の理解が可能となったように思われる。従来のADL測定は日常生活動作の部分部分をそれぞれ個別に、しかも的確に測定しうるものではあるが、個人の総体的な自立の度合いは、部分部分の測定値の総和で測ることとなり、結果はおおまかなものとならざるを得なかった。それにたいして『自立度判定基準』は個人の自立に関する総体的なとらえかたが可能である。またADL測定がおよそ施設内での生活空間を一般的に想定されているのにたいし、『自立度判定基準』では、ベッドの上、居室内、施設内、屋外、というように、生活空間の範囲がよりはっきりと明示されている。

表-10 「障害老人の日常生活自立度(寝たきり度)」

自立度ランク

合計

% % %
ランクJ: 何らかの障害等を有するが、日常生活はほぼ自立しており独力で外出する 174 21.7 316 16.6 490 18.1
J-1 交通機関を利用して外出する
J-2 隣近所へなら外出する 169 21.0 405 21.2 574 21.2
ランクA: 屋内での生活は概ね自立しているが、介助なしには外出しない 279 34.7 736 38.6 1,015 37.5
A-1 介助により外出し、日中はほとんどベッドから離れて生活する
A-2 外出の頻度が少なく、日中も寝たり起きたりの生活をしている 109 13.6 305 16.0 414 15.3
ランクB: 屋内での生活は何らかの介助を要し、日中もベッドの上での生活が主体であるが、座位を保つ 40 5.0 66 3.5 106 3.9
B-1 車椅子に移乗し、食事・排泄はベッドから離れて行う
B-2 介助により車椅子に移乗する 11 1.4 32 1.7 43 1.6
ランクC: 一日中ベッド上で過ごし、排泄・食事・着替えにおいて介助を要する 8 1.0 15 0.8 23 0.8
C-1 自力で寝返りをうつ
C-2 自力では寝返りもうたない 10 1.2 22 1.2 32 1.2
不明 3 0.3 9 0.6 12 0.3
合計 803 100.0 1,906 100.0 2,709 100.0

 表-10において注目する点は、ひとつには盲養護で、ランクJの日常生活における自立に相当する利用者が39.3%に達するということ。今一つは、屋内での生活はおおむね自立しているが、外出には介助を要するというランクAにあたる利用者が52.8%に達することである。ランクBとCの、寝たきりないしは、それに近い状態の利用者は7.5%と非常に少ない。
 さらにそれぞれのランクに属する利用者の様子をみるために、『寝たきり度』による評価結果を、『ADL評価』結果の側から見てみることにした。双方のクロス集計の結果を、盲養護と特養施設別に表にまとめると、同じ『寝たきり度』評価のランクのなかで、ADL点数ランクでは、ばらつきが見られる。寝たきり度評価は日常生活行動を行動項目別に評価してはいないので、ADL評価結果と多少の差異が生ずるのは当然であるが、しかし観察すれば、そのばらつきのなかには、1つないし2つの、ADL点数ランクにほぼ点数評価が集まっているのがわかる。
 まず盲養護施設の場合、表-11によれば『寝たきり度』でもっとも多かったAランクをみると、A-1,A-2ともにADL評価の1~3点および4~6点に集中して多いことがわかる。そこで例えば全盲である場合、ADL評価で重度の2点が加算されるので、3~6点の範囲であるということは、失明であることの外に、聴力やその他の障害や、着脱衣に介助が必要の場合など、相応の加算があったと見なすことができる。同じようにJ-1,J-2の自立のランクでは、ADL1~3点の利用者が多いことがわかる。そしてB、CランクではADLが0点の利用者は皆無であり、B-2のランクからADL評価は急激に重度の点数を加えて行く。Cランクはいずれも、かなり重度であることがADLの評価点数からみても確かめられるのである。
 特養施設についても、表-12において、ほぼ盲養護施設と同じような傾向が見られる結果となっている。

表-11 『障害老人の寝たきり度』とADL評価の関連をみる(盲養護)

ランク
ADL点数 J-1 J-2 A-1 A-2 B-1 B-2 C-1 C-2 合計
0 90 42 28 6 0 0 0 0 166
1~3 386 491 834 216 45 1 0 0 1,973
4~6 13 37 136 145 31 9 0 0 371
7~9 1 4 16 39 22 15 7 1 105
10~12 0 0 1 8 7 15 14 9 54
13~15 0 0 0 0 1 3 2 22 28
合計 490 574 1,015 414 106 43 23 32 2,697

表-12 『障害老人の寝たきり度』とADL評価の関連をみる(特養)

ランク
ADL点数 J-1 J-2 A-1 A-2 B-1 B-2 C-1 C-2 合計
0 23 34 32 15 1 0 0 0 105
1~3 16 45 101 94 23 3 0 3 285
4~6 1 6 70 76 58 19 3 2 235
7~9 1 0 21 30 40 63 29 18 202
10~12 0 0 4 5 15 59 42 72 197
13~15 0 0 1 0 1 9 13 41 65
合計 41 85 229 220 138 153 87 136 1,089

 つぎに失明(全盲)状態にある人たちの比率をそれぞれのランク別に見てみると(表-13)、自立度のもっとも高いJ-1で失明者率はもっとも低く、反対に寝たきり度の高いCランクに下がるにつれて、失明者の比率が高くなっている。この点からいえば、失明(視覚障害)がかなりの程度まで、自立度(寝たきり度)に影響しているといえるのではないか。

表-13 自立度(寝たきり度)各ランクの失明者比率

自立度(寝たきり度)ランク 失明者数(人) ランク内での利用者数(人) 比率(%)
J-1 287 490 58.6
J-2 375 574 65.3
A-1 755 1,015 74.3
A-2 318 414 76.8
B-1 81 106 76.4
B-2 31 43 72.0
C-1 18 23 78.3
C-2 29 32 90.6

[調査結果についての所見 - 盲老人の自立度について]

 視覚障害のうちでも、とくに失明状態が生活動作や行動に及ぼす影響が大きいことは、今さら述べるまでもないことであろうが、盲養護ホームなどにおいては、施設内の設備や、視覚障害者に関する知識と配慮をもった職員がおり、施設内での生活にはかなりの自立が保たれているといえる。先の表-11と12を見る限りでは、盲養護施設にもかなり重度の利用者、『寝たきり度』でいえばBやCランクの利用者が見られるが、反対に特養においては、ADL点数は0ないしは1~3点で、『寝たきり度』ランクはJである利用者もけっして少なくはない。これは利用者の生活状況や個人の事情を、生活行動や『寝たきり度』だけで理解する事が出来ないからであるが、なんらかの理由により、重度ないし寝たきり状態の利用者を盲養護が受け入れている状況を示しているのである。また特養施設においても、かなり自立度が高いにもかかわらず、視覚障害、軽度の記憶障害や慢性的な病気その他の理由で受け入れられている利用者がいることを示すものである。
 視覚障害者にとって、情報を得るための最も重要な手段は聴覚および触覚である。当然施設においても「声」を媒介として老人と接することになる。ところが「表30-2」(巻末資料101,141頁参照)に見られるように、視覚障害と併せて聴覚障害を持った老人が入している。これは盲聾あるいは盲聾唖の重複する老人のための施設がないため、盲聾あるいは盲聾唖の重複する老人が、「盲」があるとの名目により、盲養護老人ホームに描置されているからである。入所している盲聾あるいは盲聾唖の老人の殆んどは、自己流の手話で会話をしようとするが、視覚障害者にとっての情報を得る手段は聴覚であるために会話は困難であり、職員の媒介が必要となる。また、この手話の殆どが、正規の訓練を受けた手話ではなく、自己流の手話であるため、職員にとっても充分に理解することは難しく、ここでも各施設職員の苦労が窺われるのである。

(4)職員の配置基準見直しの必要性について -本章のおわりに-

 老人福祉施設対策は、年金制度の充実により、一般養護老人ホームの入居率減少に伴い、1975年(昭和50年)以降新設は原則的に認められていない。平成2年から推進されることになった政府の高齢者保健福祉推進10ヶ年戦略においても、在宅者を重点とした福祉の増進が中心で、老人ホームについては、一日の大半を寝たきりで過ごされる特別養護老人ホームのみが企画促進され、毎年、約1万床が整傭されている現状である。
 盲養護老人ホームの入居者はデータが示すとおり、大半が後天的失明者で、障害等級1級~2級という重度の障害者であり、その上重複障害が多い。然も、特別養護老人ホーム・その他では、重複障害の盲老人の入所に対して、介助がないと歩行困難な老人や痴呆症の老人、虚弱体質老人・聾唖者、精薄者等の重複障害者を、「盲人」であるからということで、処遇困難を理由に入所を敬遠され、そのため盲養護老人ホームヘ措置されるケースが少なくないのである。
 また、盲老人は、一旦入所し・当該ホームの生活に馴れると、日常生活自立度の衰退者を含め、措置替え等の環境の変化については精神的苦痛を訴えられ、余程でないと措置替えを拒む傾向が強く、また、措置替えの対象となる特別養護老人ホームでは現在多くの待機者を抱えており、措置替えが容易ではない状況となっている。そのため「表10障害老人の日常生活自立度」のランクCのように、寝たきり度の高い老人までが盲養護老人ホームで対応している状況である。
 従って、職員も、特別養護老人ホーム並み勤務を余儀なくされ、オーバーワークにならざるを得ない。
 入居老人は、高齢化と共に痴呆性老人が増加する中で、盲老人の場合は、寝たきり老人とは異なった昼夜の別なき介護が必要であり、直接処遇職員は手不足の現状である。
 現在、一時的には、非常勤職員の充用等でカバーしている施設も多いが、専門性に基づいた充分な処遇サービスの向上は期待できない。また、労働時間の短縮は、当局の指導は勿論、世界の趨勢であり、職員処遇の面からも、是非、職員の配置基準の見直しによる直接処遇職員の増員及びこれが予算措置が必要であると思われる。


主題:
盲老人の幸せのために III  1頁~31頁
-第5回全国盲老人ホーム利用者実態調査報告書-

発行者:
本間 昭雄
全国盲老人福祉施設連絡協議会

発行年月:
1993年6月1日発行

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