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第1部 CBR
地域に根ざしたリハビリテーション~私たちの体験から~ 障害者の声

サマリー

背景と目的

障害者の生活の質(QOL)向上の中核的戦略として、地域に根ざしたリハビリテーション(CBR)が国際的に提唱されて、20年以上が経過した。障害者の市民的、政治的、経済的、社会的、文化的権利に影響を及ぼすすべての施策の立案および実施において、障害者は積極的な協力者でなければならないことが強調されているものの、障害者が評価やインパクト・アセスメントに十分なかかわりをもつ状況には未だ至っていない。過去に行われた評価にこうしたギャップが見られたことを踏まえ、スウェーデン障害者国際援助団体協会(SHIA)と世界保健機関(WHO)は、CBR戦略の誕生から20年経った今、そのインパクトを子どもと大人の双方を含めた障害者の視点から考察することは時宜を得たものであるとの結論に達した。

調査の目的は、CBRプログラムが障害者のQOLに与えるインパクトを考察するとともに、もっとも有益と考えられるCBRの取り組みを明らかにすることである。本調査は、さまざまなプログラムを、それらに特有の目的および戦略との関連において評価しようとしているのではない。本調査が試みているのはむしろ、さまざまな目的、構造および戦略をもつ複数のプログラムにおける障害者の体験を明らかにすることである。

調査方法

対象国として、ガーナ、ガイアナおよびネパールの3ヶ国が選ばれた。理由は、それぞれの国が異なるアプローチ、地域および組織モデルを典型的に示しているからである。33名の障害者本人 ― もしくは12名の事例ではその親に対して、掘り下げたインタビューが行われた。個別インタビューに加えて、各国につき3つのコミュニティすべてにおいて、調査グループ ― 計9グループ ― が編成された。グループインタビューによって、さらに80名の障害者とその親が調査対象となり、意見が記録された。延べ150時間に及ぶインタビューがテープ録音され、文字に起こされた。回答は、以下の点にしたがっていくつかのカテゴリーに分類された。

  • インタビュー対象者が言及したQOL領域
  • インタビュー対象者が言及した特定のタイプのCBRの取り組み

サンプルサイズが小さいこと、設問が定性的であることを考えると、本調査の結果に関して大雑把な一般化を行うことには慎重でなければならない。しかし、CBRプログラムの背景や組織が異なるにもかかわらず、また、政治的、文化的文脈が異なるにもかかわらず、インタビュー対象者から得られた回答がかなりの共通点を示していることから、一般的な結論を導き出すことはなお可能であると考えられる。

調査結果

本調査でインタビュー対象者が語った体験談は、CBRプログラムが多くの好ましい効果をあげていることを如実に示しているものの、CBRプログラムの効率性と持続可能性について懸念があることも表している。CBRプログラムは社会規範および価値観に変化のプロセスを惹き起こしたと思われ、これは障害者のQOLのさらなる向上にとって不可欠なものである。

本調査は、CBRが次のような側面でQOLに好ましいインパクトを与えたことを示している:

  • 自尊心
  • エンパワメントおよび影響力
  • 自立
  • 社会へのインクルージョン

しかし、次のような点でインパクトには限界がある

  • 身体的ウェル・ビーイング
  • 社会が人権上の責務を果たすことに対する信頼と信用

調査対象となったコミュニティの数は極めて少数にとどまり、コミュニティ(もしくは地方政府[district government])がひとたび意識を高めれば、必要なリソース、基本的なサービス、簡単な補助具などを提供するはずであるという期待は実現されていない。

さまざまなCBRプログラムを調査したところ、障害者がもっとも有益だと考えた取り組みは以下のように結論づけることが出来る(有益度の高い順に):

  • 社会カウンセリング
  • 移動能力および日常生活のスキル訓練
  • 融資の提供もしくは利用の円滑化
  • コミュニティの意識向上
  • 職業訓練/見習い教育の提供または促進
  • 地域の自助グループ、親のグループおよび障害者団体(DPO)の結成の促進
  • さまざまな関係当局との連絡の促進
  • 就学の促進(学費や教師との連絡)

CBRプログラムが概して、依然として障害者を発言権や選択権をもつ参加者ではなく受益者と見なしていることが指摘された。CBRプログラムにおいて障害者および障害者団体がもつ影響力は、いかなる形でも限られている。障害者はさまざまなレベルでCBRプログラムに関与しているが、その数は、CBRプログラムが誕生して20年後の現在でも、ごく少数にとどまっている。

結論と提言

本調査では、意識向上、医療、リハビリテーション、教育および所得創出の各分野において、CBRプログラムがどうすれば改善されるかという点について、障害者からの多くの提言がまとめられている。とりわけ、これらすべての分野において、障害者がロールモデル、自己権利擁護者、有給の専門家として参加することによって、プログラムの質および効率が向上することが示されている。

CBRプログラムにおいては、コミュニティレベルだけに的を絞っていては、社会変革および人権の実現は達成されないことを認識しなければならない。同様に、中央レベルの政策立案者および議員だけに注目していても達成はおぼつかない。障害者の状況を改善するためには、多くの関係者(stakeholders)が一致協力して取り組むことが前提となる。障害者とその家族はエンパワーされることが必要であり、障害者団体(DPO)と親の団体は組織強化が必要であり、責務者(行政担当者および専門家など)は能力向上が必要である。したがって、これからのCBRプログラムは、これら三者への支援を確実に行うとともに、多くの関係者および関係部門間で影響を与え合い、協力を促進するべきである。

援助機関およびCBR実施機関は、本調査の知見を踏まえ、プログラムの見直しを検討するとともに、能力開発を行うべきである。新たなニーズや課題に対応するため、CBR研修用の補助教材およびハンドブックの開発も進めなければならない。

最後に、CBRという呼称はもはや、実際に行われているプログラムの本質を反映したものではないことに留意すべきである。なぜなら、

  • CBRプログラムは、社会のさまざまなレベルを対象としている ― コミュニティレベルにとどまらない
  • CBRプログラムが取り組むのは、障害者のQOLに影響を及ぼすすべての問題である ― リハビリテーションだけではない