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障害者と災害時の情報保障
~新潟中越地震の経験と今後の防災活動~
シンポジウム報告書

シンポジウム「利用者が参画した防災活動とマニュアルづくり
~新潟県の経験と今後の展望(先進事例を交えて)~」

☆パネリスト

山梨県保健福祉部 城野 仁志

当事者参加で進めるマニュアルづくり

防災をキーワードに、助け合いの地域づくりをしたいと、「障害者と高齢者のための災害時支援 マニュアルづくり」に取り組んでいます。
山梨県では、総合防災課と障害福祉課が連携して、災害時要援護者対策を進めています。そして、 県下の障害者団体とも話し合いを進めながらマニュアルづくりを進めています。
例えば、甲府市の春日地区で、ご協力をお願いしている全盲の吉川勝彦さんのご自宅に出向き、 地域の障害者はどんな点が不自由か、あるいは避難所の運営が配慮されているのか等を現地で 検討しています。

(以下、ビデオ上映)

吉川さんの近所に住む小林修さんは、脳性マヒのため下半身が不自由です。 災害の際に一般の避難所で生活することに不安を感じています。小林さんも県から依頼して、 避難所調査に参加してもらいました。小林さんは体育館の入り口の段差を指摘し、 コンパネ1枚で段差を解消できると助言をいただきました。入り口のうち、 スロープがついているのは1ヶ所だけで、これでは余震が起きた場合、とっさに外に 逃げることができません。また、避難所に間仕切りがないことも問題です。 脳性マヒのある小林さんは、多くの人の目に触れると緊張するため、筋肉が硬直して 体調が悪化するおそれがあります。さらに、寒さ対策も問題です。暖房のある部屋は 2階にしかありません。寒い1階のフロアでは、すぐに体調を崩すおそれが高いとのことです。 体が弱いお年寄りや障害者の避難所をどう確保していくのか、一から検討し直すことになりました。 (ビデオ上映終わり)

今日、この会場にも山梨県聴覚障害者協会の主力メンバーがいらしています。同協会には、 「ろうあ成人学級」で60人ぐらいに集まってもらい、マニュアルづくりについて 一緒に考えていただきました。
当マニュアルを基に各市町村で独自に計画を作っていただくのですが、それぞれの市町村でも、 当事者に参加してもらい、机を囲んで話すだけでなく、現地に出向いて一緒につくることを 訴えかけていきたいと思います。
昨年つくられた県の障害者プランを踏まえて、将来発生が予想される東海地震から、 障害者や高齢者を守るためのマニュアルを今年の3月に作成し、1年以内に県がすべての 市町村に出向き、多くの関係者に集まっていただいて説明会を開催する予定です。

人材の育成と連携強化

マニュアルの重点課題として、まずは人づくりが大切だと思います。要援護者の生活支援などを 行う人材の育成と、連携強化ということです。本当に地域に根ざした取組みにしていくためには、 いきなり要援護者対策だけに取り組むのではなく、地域住民全般に防災意識が高まり、 地域ぐるみで防災対策に取り組もうという機運を醸成することが大切だと思います。 ポイントは地域活動の核となる人づくりだと思います。

山梨県では、3年前から県下各地で住民、自治体役員、ボランティア団体、民生委員、 消防団員などの参加を得て、地域の実情に即した実践的な学習会を実施してきました。
昨年の例ですが、大月市社会福祉協議会、市役所、消防本部の共催により行い、 市民200人が集まりました。県から派遣された講師の講演の後、居住地域ごとに10の班に 分かれて防災マップづくりを行い、災害時の対策について協議し、最後に各班ごとに発表しました。

自主防災マップづくり研修会の例

こういった方法は、自分の居住地域の災害の危険性や対策を学ぶのに、きわめて有効だと思います。 地域ごとに自分の住んでいる地域の大きな地図を囲んで、東海地震が起きるとどうなるのか、 地域に住んでいる要援護者を誰がどう支援すればいいのかを具体的に考えるわけです。民生委員、 ボランティア団体、住民などが一緒に考えるのです。こういった方法をとることによって、 今後具体的な取り組みにもっていきやすいと感じています。

昨日も大月市で第3回目の学習会を開いたところ、大月市内の猿橋社会福祉協議会というところで、 地域の自治会組織と連携して、自分たちで「防災福祉マニュアル」をつくったと報告してくれました。 3年たって、ようやく社協と自治体組織が連携し、住民の自発的な取組みが出てきたわけです。 このような動きが県下各地に広まろうとしています。
住民手づくりの自主防災マップを使った図上訓練を、できれば自治体ごと、組ごとにやって いただくように応援をしているところです。

参加型の自治防災マップづくりや簡易訓練の体験学習会に入る前に、その地域の災害の危険性や 地震、風水害について、私たちはわかりやすく話をします。地域ごとに自分が住んでいるところの 大きな地図を囲んで、地域に住んでいる要援護者の方を、誰がどこに運んでいけばいいのか、 具体的に考えます。自治会役員などと一緒に考えます。その後の具体的な取組につながって いきやすいと思います。
たとえば山梨県は、山間地に集落がたくさんあるので土石流災害も心配です。そういうことに ついてわかりやすく説明し、行った先々に合った話、その地域で過去に起こった災害の話をします。
昭和41年の台風26号では、山梨県足和田村の根場部落で大規模な土石流の発生がありました。 これは災害前の様子ですが、一瞬にしてこのようになりました。この中に100人以上の人が埋まりました。 これは、救出活動を行っているところです。

大土石流の発生で、根場部落の大半が大量の土砂に埋まっている、救出活動の最中の写真

このように、その地域に行く前に写真や資料などを集めて、なるべくビジュアルな説明をするように しています。
(ビデオ上映)このような土石流のビデオを見せて、発生したらとても逃げられないという話をします。 また、このときの新聞記事、航空写真、グラフなども用いて説明します。

昭和41年に超大型台風が山梨県を襲ったときの進路、災害前日の台風進路予想図などを示しながら、 役場が避難勧告を出す前に、住民が自主的に早めの避難を行うこと、特に要援護者の早期避難がいかに 大切かを訴えます。
ちなみに、気象庁は、前日の夜に台風が山梨県を直撃することを伝えていました。この時点で住民が 安全な場所に避難していれば、死者は出なかったわけです。

台風26号の経路(予想)図

このときの雨の降り方は、当日0時までは時間雨量10ミリぐらいの普通の雨でしたが、台風が山梨県に 入ってから、時間雨量50~90ミリというバケツをひっくり返したような豪雨になりました。その後、 猛烈な豪雨が1時間余り続いて大きな土石流災害が起こりました。

平成15年の九州豪雨での熊本県水俣市での土石流災害では、自分たちの地域の川の上流に治山ダムが 3つもあるから大丈夫だと思っていたようですが、大きな土石流は人間が造ったものを簡単に壊して しまいました。

自然災害をあなどってはいけないという教訓です。
地域に合った災害の話をするために心がけていることとして、地域ごとに過去にあった災害を調べて います。講演当日には早めに講演場所に着いて、デジカメで災害危険箇所などを撮って、パソコンに 取り込んで災害記録に重ね合わせて紹介しています。

これは、鰍沢(かじかさわ)の被害です。関東大震災でどういう被害を受けたかを話しました。 地元の人は自分の地域がどういう被害に遭ったか忘れている場合が多いので、こういう話をすると 参加者も防災対策をやる気になってきます。住民主導で手づくりの自主防災マップをつくってくれる ところが増えてきています。
(自主防災マップの例を示しつつ)これは各戸が分かる住宅地図などをコピーして貼り合わせた ものです。個々の家の位置がわかる地図を使うことは、特に大切です。まずは、そこに住んでいる 人が、災害の危険性を的確に知ることが大切です。現状では住民が、自分たちの住んでいる地域が 災害危険地域に指定されていることを知らない場合が多いのです。これは大きな問題です。

こうした啓発活動が、特に地域リーダーの防災意識を高めて、住人主導で市町村を動かし、行政と 住民が一体となった地域防災活動が根づきつつあります。災害時要援護者支援対策も、その中の 重要事項となっています。
これは、都留市の防災カレンダーの中にある防災マップの例です(スライド表示)。ただの防災 マップだとあまり見ないので、防災カレンダーという形で、カレンダーと防災マップが一体と なっています。

都留市「防災カレンダー」の中の防災マップ

災害危険箇所がはっきりどこにあるかが分かる地図をつくって、全戸に配布しています。
都留市役所は地域ごとに出向き、研修会も行っています。このような取組みができました。

今年度の後半以降は、国(内閣府等)が、特に要援護者の方に早めに避難してもらうための、 避難準備(要援護者避難)情報を出す制度を作ると聞いています。

皆さんの住んでいる地域で、避難準備情報が出されたら、一般の人に先駆けて地域の要援護者を 先に安全な場所に避難させ、できれば一般の避難所だけでなく、前もって定めた福祉避難所に 避難させることを決めておく必要があります。この仕組みづくりが、地域で要援護者を前もって 把握しておいて、その人の対策を考えるいい対策になると思います。

要援護者把握と避難誘導体制の確立

おととし、富士吉田市のボランティア協会が、手づくり防災マップをつくったのですが、障害者情報を 地域の関係者で把握・共有するために、このよう仕掛け、工夫しています。(スライド表示)初めは、 紙の地図に共有すべき情報を書き込みます。

障害者の住まいについてはプライバシー情報として、上から透明なシートをかぶせ、色を分けて、印を 落としていきます。
この透明シートは障害者団体の代表者や民生委員などの限られた人がもっていますが、災害時には、 紙の地図の上に重ね合わせて「あの人がここにいる」と、すぐわかるように工夫をしています。

マップで防災意識訴え、手づくり防災マップを試作の新聞記事

これは、難病ALS患者の北島さんが、「自分の情報はどんどん出すから」ということで、防災 マニュアルを自分からつくりたいと手を挙げて取り組んでいる様子です。
富士吉田市では防災マップをつくったうえで、地域でどんな動きをしたらいいのか話し合い、 市の防災訓練に参加してもらっています。地域の要援護者を誰が誘導して、連れて行くかを、 住民が体を動かして訓練しています。

このような住民参加の防災活動、要援護者への支援活動の気運が高まってきたところで、小学校 区単位などでの要援護者助け合いネットワーク会議の設立を、県としても応援しています。
単に組織をつくるだけでなく、定期的に多方面の関係者が集まり、実践的な講習会や防災訓練を 実施していきます。
そのなかで、市町村社会福祉協議会の果たす役割がとりわけ大きいと思います。

助け合いネットワーク会議の構築イメージ

プライバシーの保護を配慮した要援護者の事前把握は、国からも提案されています。個々の 要援護者に複数の支援員を確保したいということです。近隣住民、市民ボランティアなどから 支援員を確保し、研修も行う予定です。
また当事者の了解を得て「防災カルテ」(個々の災害時支援計画)をつくり、情報共有の範囲を 適宜定めていきたいと考えています。

プライバシー保護に配慮した要援護者の事前把握の図

本人が個人情報を市町村に提出したくない場合、知り合いの支援員の範囲だけでもいいということです。
本人と個人的に信頼関係のある複数の人を支援員としてお願いして、役場からこの支援員まで情報が いけば、必ず本人に伝わるという仕組みをつくりたいと思います。
そして自治会役員まで渡していいというのがレベル2、市町村まで出していいというのがレベル3と いったように、柔軟に考えていいと思っています。

当事者の要望に応じて「防災カルテ」情報共有の範囲を適宜定めるの図

支援体制の確立

役場から二重、三重の情報伝達体制をつくることが大切です。特に、要援護者への情報伝達は、役場から 自治会役員、自治会役員から支援員まで情報がいけば、支援員のうち必ず誰かが本人の自宅を訪問して 安否確認や情報の伝達をしたいと考えています。それを毎年の訓練で反復実施するようにしたいと思います。

避難誘導体制など、支援体制の確立の図

介護が必要な人のための福祉避難所の確保

国では、耐震性のある老人福祉センターなどを利用して福祉避難所を設けなさいと 言っています。しかし、もっときめ細やかな指定が必要と思います。歩いて数分ぐらいで行ける近所の 小学校などの特定の部屋を活用し、安心して一時避難でき、介護する人も配置するような「福祉避難室」が 必要です。ただ部屋を設けるだけでなく、地域の保健医療関係者を相談員として配置し、健康のチェックや 相談にのるようにします。災害が長引く場合には、二次避難所として市町村ごとに「拠点福祉避難所」を 設け、障害種別に対応できる支援員をおき、障害種別ごとの避難所にしたいと思います。そして民間の 社会福祉施設とも協定を結び、「民間福祉避難所」としてご協力いただきたいと考えてます。

介護が必要な要援護者のための「福祉避難所」確保の図

また、自主防災組織を実際に動く組織にするためには、地域防災活動に熱心で、人望のある人を、自治会長を 補佐する防災専門職として選ぶことも大切だと思います。
さきほどのお話しで、新潟県中越地震で、多数の地区で行政防災無線を使って同時に話すので混信して 「何をいっているのか分からなかった」という話がありました。
これは、日頃から訓練していないとできません。山梨市では毎月の第2木曜日・午後8時から、市と38の 消防団が定期的に無線統制訓練をしています。

多数の人が交信する無線通信では、統制する人がいなければ混信してしまいます。訓練の積み重ねが 大切です。
これでわたしの話を終わります。

発行
2005年3月
編集・発行人
財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
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