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障害者と災害時の情報保障
~新潟中越地震の経験と今後の防災活動~
シンポジウム報告書

新潟県中越地震における実情と取組み

新潟県手をつなぐ育成会 片桐 宣嗣

私たちは、知的障害の保護者などの団体です。育成会は約4,400人で構成していますが、 県内の知的障害者は1万3,000人いて、3分の1を把握しているにすぎません。 逆に言えば、被害状況や問題は3倍あるととらえています。

10月23日土曜日、私は新潟で育成会の会員研修会をしていました。そこで、7月13日の新潟県の 三条地域の水害についてのお礼を申し上げたとたん、大きな地震がありました。 私は新潟県の柏崎に住んでいます。普段なら、研修会の会場から1時間くらいで戻れるのですが、 その日は電車、タクシーを乗り継いで約8時間かかって帰りました。もっと遠くから来ていた方々は、 1日がかりで帰ったということです。

2月24日に、お見舞いをもって会員の皆さんの状況を伺いに、長岡市、越路町、新山古志村 (移転先の仮設住宅)、小千谷市、川口町、十日町市の施設、個人宅、育成会などへ行きました。 現在は皆さん、いろいろな問題を忍んで、耐えている状況です。
今回の地震を通して、地震時の障害のある方の問題について考えさせられました。 それと同時に、以前からある障害をもつ方々の問題が、地震によって顕在化してきたと 再認識させられたのではと思います。

支援活動の総括

まず被災状況について述べると、人的被害として、エコノミークラス症候群で亡くなられた方もいます。 また、家屋などの損害が多くありました。雪のために、なおそれが拡大している状況です。
支援活動の総括として、1番目に、今回の地震のあったところは、新潟県内でも、地域から施設への 生活移行が一番進んでいる地域です。緊急時にもノーマライゼーションの理念が実践されていたと思います。 地域の施設などが中心となって、保護者などと一緒に、また地域の方々も障害のある方を支えてくださったことを 高く評価したいと思います。

2番目に、利用施設では通常、毎月1回避難訓練があります。今回の地震では、障害のある方々が 比較的整然と混乱することなく、施設で避難ができました。入所型施設で個室を使用していた人も 避難所では個室がないので、大きな部屋や体育館で一緒に寝たそうです。日頃の訓練が、 このようなときに生きていたのではと思います

3番目に、火災の避難訓練は比較的よくされていますが、地震の避難訓練は、やや手薄だったと 思います。

4番目に、グループホームではバックアップシステムができていて、職員などが泊まり込んで、 利用者が比較的落ち着いてその晩を過ごすことができたと伺っています。

5番目に、作業所での避難訓練は施設と比べると、やや手薄であったために、これからもっと検討する 必要があると反省させられました。また、建物自体に古い木造の建物が多いので、危険度も高いのではないかと 思われます。その意味でも、もっときちんとしたマニュアルをつくり、避難訓練を確実に実施する 必要があると思います。

6番目に、養護学校で障害のある児童の避難先として、養護学校が提供されていたのは非常によかったと 感じます。自閉症のある方、重度障害のある方々が、一般の方々と同じ避難所にいるのは困難です。 その状況を養護学校がいち早く察知し、場を提供してくださったことは大変プラスになり、本人だけでなく、 親御さんにとっても助かったということです。

7番目に、定期的な医療、診療の必要な障害者、たとえば人工透析が必要な方々などの継続的な医療、 診察の確保が望まれるということです。入所型施設は全部で12ヶ所あって、そのうち建物、敷地に亀裂、 大規模損壊、居住不能なところが1ヶ所ありました。この施設で人工透析を受けている方がいて、 ご家族から相談を受けました。

施設全体が使用不可能になったので、約1時間離れた施設に、施設全体が移動して、そこから医療機関に 通わなければならなくなりました。それまでは、施設から医療機関に行くのにタクシーで簡単に行けたのですが、 避難先からいつもの病院まで行くには、タクシー代が1回に7,000~8,000円もかかるのだそうです。 それで本人、ご家族から費用を負担しきれないので助けてほしいと相談を受けたので、行政に対応してもらいました。 医療の僻地になればなるほど、このような問題が起きるのではないかと思いました。

8番目に、在宅障害者の連絡網についてです。これもプライバシーの問題があり、難しい部分があります。 施設の場合には、連絡網が整備されていますが、在宅の方々にはほとんどありません。これをいかに整備しておくか。 同意方式、あるいは手上げ方式などあると思いますが、今後の大きな課題と思います。

先ほど、医療の必要な方々の避難問題について触れましたが、障害のある方々の問題は、地震のために起きたのではなく、 「親亡き後の問題」が地震によって顕在化してきたのです。
私が相談を受けた人の実例です。両親が80歳近くで、お子さんが2人いますが、2人とも重度の障害があり、 入所施設にいます。その方の家のある地域は、激震地でしたので損壊しましたが、なんとか2部屋は大丈夫なので、 そこで生活しています。今は雪のため、建て替えはできません。春になったら家を建て直したいとの希望がありますが、 ご両親はもう80歳に近いのです。でも自分たちの子どものために、代わる代わる子どもたちのつき添いをしている という現実です。

これは地震の問題と、何十年も親御さんが抱えている生活の問題、子どもを支えていく問題、さらに親亡き後を どうするかという問題なのです。地震の問題だけではなく、日常生活の問題が、地震によって増大したのです。
われわれの組織名は「手をつなぐ育成会」で、地域の方々と一緒に手をつないで支えているのです。これから私たちは 今述べたような方々が、親亡き後も安心して生活できる場を、行政、地域、自己努力で確保していかなくてはいけません。
今回の地震に際して、お見舞いと励ましに感謝し、報告とさせていただきます。

発行
2005年3月
編集・発行人
財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
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