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シンポジウム「利用者が参画した防災活動とマニュアルづくり
~新潟県の経験と今後の展望(先進事例を交えて)~」

☆パネリスト

静岡県健康福祉部 前嶋 康寿

静岡県では、災害時の情報保障を進めるための災害時の支援マニュアルを平成8年につくりましたが、 その状況等についてお話しをします。

災害弱者ガイドライン

静岡県の人口は約380万人、うち約3%の人が身体障害者手帳を持っています。平成15年3月、 市町村職員、市町村が災害時に援護が必要な人に対してどのように支援をするのかという 「災害弱者ガイドライン」を作成しました。内容としては、「災害時要援護者支援とは」から始まり、 「地域における災害時要援護者支援」「災害時要援護者台帳の整備」、「情報提供」、 「避難所運営における支援」、「住宅対策」というような項目になっています。今日はその中の 一部をご紹介します。

<災害時要援護者台帳の整備>

静岡県では、災害時に御活躍いただく地域の自主防災組織に、災害時要援護者台帳を整備して 欲しいと進めています。しかし、この台帳の整備が進んでいません。プライバシーの問題も さることながら、地域が本当に台帳を整備しようという気持ちがあるのかと、最近疑問に思うことが あります。ただ、プライバシーについては、書きたくないところは書かなくていいから、 「とりあえずエントリーしましょう。」という呼びかけをしています。

<情報提供>

1つの情報提供手段ではなく、様々なチャンネルを用いた情報提供伝達システムをつくりましょうと、 市町村に呼びかけをしています。全市町村に配備されている同報無線、FAX、携帯電話、自主防災組織や ボランティアなどによる声かけなど、複数の情報伝達手段を確保することを、市町村にガイドライン として示しています。
静岡県の場合、災害時要援護者は幅広く考えています。災害時要援護者とは、安全な場所に避難することや、 避難先での生活を続けることに大きな困難が発生する人です。それには、移動が困難、情報を受けたり、 伝えたりすることが困難、あるいは薬や医療装置がないと困難など、幅広くとらえています。 そうしますと静岡県の場合、外国人や乳幼児なども含めて約3割の人が災害時には、 何かしら支援が必要になることになります。このうち、1万8,000人の視覚、聴覚障害のある方は 情報を受けにくくなると考えられます。

<情報保障の取組み>

情報伝達手段を1つだけに頼ると、それが伝わらないと終わりなので、いろいろな手段での 情報伝達を考えています。まずは携帯電話のメールを活用することを進めています。また、 人的な声かけによる情報伝達も必要です。
避難所、あるいは相談窓口における留意点としては、手話通訳者、要約筆記者、ガイドヘルパーの 確保と電話やFAXによる専門の相談窓口を設置することをガイドラインとして示しています。

視・聴覚に障害のある方に対する情報伝達方法が問題となります。聴覚に障害のある方については、 在宅ではアイドラゴンIIなどの利用によるテレビ文字放送、FAXによるFネット、屋外にいる 場合には、携帯電話を持っている方にはメールで災害情報を伝えます。持っていない方には、 電光掲示板などにより案内をします。視覚に障害のある方については、在宅・屋外とも同報無線、 あるいは携帯電話のメールにより情報を伝えることを考えています。
なぜ、携帯電話のメールを使おうとしたかというと、「聴覚障害者緊急災害情報保障調査」という 全国調査があり、それを見ると、災害時の情報入手方法を尋ねた回答に、携帯電話メールが一番多くて、 携帯電話の保有は約7割というところに着目したからです。

県が災害情報を携帯電話のメールを使って配信するというシステムについて、お話しします。
特徴は、視覚、聴覚に障害のある方は、サービスは無料で利用できること、行政にも新たに人的、 財政的な負担がかかってこないということ、リアルタイムに、一斉に本人に災害情報が伝達される ということです。東京にある365日24時間稼働している災害情報を配信する会社と協定を結び、 その会社に情報を送信することにより、その会社が災害情報を携帯電話に送信することになっています。

県からは、全県的な東海地震に関する情報、予知情報、警戒宣言、県民への呼びかけ、 県の災対本部発表の報道資料やマスコミに流れる情報はメールで送信します。さらに、避難勧告、 避難地情報、その他災害に関して住民に関わる緊急情報・避難所情報などを、市町村の情報として 送信することも可能です。視覚に障害のある方にメールを送ってもと思われるかもしれませんが、 メールを音声で伝える機能が携帯電話にあるので、その機能を活用しようということです。 これはたまたま私が携帯電話の販売店に行ったとき気づいて、最初は聴覚に障害のある人だけが 対象でしたが、視覚に障害のある人にも対象を広げることにしました。

システムとしては、FAX、電話、メールでもどんな方法でもいいので、(株)レスキューナウという 情報配信会社に情報を流すと、その会社から情報が提供されます。また、手話通訳者や要約筆記者にも 情報を得ていただいておけば、聴覚に障害のある人に伝達が可能なので、情報提供の対象を広げました。
まだ利用が進んでいないという問題点があります。視覚に障害のある人への情報提供は、平成15年12月に スタートしましたが180人程度の利用で、聴覚に障害のある人は110人程度です。

そして、市町村の情報提供について重要性の理解が十分ではありません。先日、ある市町村で 大雨による避難勧告が出たのですが、行政が情報提供を忘れてしまって伝わらなかったことがありました。
また、視覚に障害のある方が、携帯メールをうまく使えないという話も聞いています。 高齢者も同様です。市町村広報や県民だよりなどを通じて啓発には努めていますが、 まだ十分に登録が増えてこない状況にあります。
さらに、人的な手段による情報伝達では、台帳にたくさんの人の登録を進めてもらうことが 重要になってくると思います。

そして、災害時だからではなく、日頃の情報保障を各地域でどう進めるかも重要だと思います。 静岡県では、平成16年度からは、全市町村で手話通訳者の派遣事業が始まりました。これは地域で 障害に対する理解をいかに進めるかの一環として、各市町村に実施を促しました。地域の聴覚に 障害のある人が行政、地域の人たちと付き合いを始めるところから情報保障が進んでいくと 考えてスタートしました。

手話通訳者や要約筆記者の養成、確保は県の大きな課題となっています。手話通訳関係の養成事業に ついては、来年度は約1,000万円の養成研修費を予算措置しました。市町村で始めたときに、 質の高い派遣事業をしてもらわなければ意味がないということで、静岡県では奉仕員派遣は 一切行っていません。現任研修を行い、質の向上も図っています。要約筆記については、 予算は金額的には少なく340万円弱ですが、養成を進めて力を入れるようにはしています。

また、盲ろう通訳の通訳(兼)ガイドヘルパーの養成は難しいものです。派遣については 1,000万円程度のガイドヘルパーの派遣予算があり、派遣の対象の限定は一切しないで、 とにかく地域に出て行ってもらうことを考えて事業を進めています。来年度は生活訓練事業として 情報、コミュニケーションをどうとるか、内容を詰めているところです。

先ほども言いましたが、自己選択、自己決定のために手話通訳の情報保障というのは当たり前ですが、 地域における障害に対する理解の推進をいかにするかも、当たり前ということで市町村に話を 進めてきました。今年、全市町村で手話通訳の派遣事業をしたのですが、今までやっていない ところについては県がやっていましたがやめました。派遣経費については、県がやっていたときの 倍くらいの予算額になっています。派遣の予算額は、県全体で見ると倍増しています。

派遣実績は、7月までで、やってない市町村については今まで県が肩代わりして、平成15年は237件、 16年度は4割程度増えました。市町村が実施することで、障害のある人が申し込みやすくなって 利用が増えました。
点字図書館については、まだまだ情報提供が十分でなく、点字プリンターを増設したり、 デジタル化をいかに進めていくのか、今検討しています。将来的には、ただ単なる点字図書館ではなく、 幅広い視覚障害者情報提供施設としての発展的なものにしたいと思っています。

視覚に障害のある人に対しての情報保障も、各市町村で十分ではなくて、点訳・音訳・拡大文字・テキスト データ等での情報提供も全市町村ではやっていません。市町村にヒアリングをして、なぜやらないかと 聞いたら「障害のある人が欲しいと言ってこないから」という答えが返ってきました。道路をつくる ときには、言われなくてもつくるのだから同じようにやらなければいけないのです。 また、市町村で広報誌を点字で障害のある人用に抜粋して作成しているところがありますが、 抜粋する必要があるのでしょうか。どの情報が必要かどうかは、本人が決めることです。 このように点訳、音訳、拡大文字、テキストでの情報提供がなかなか進まないのが現状です。

災害弱者対応マニュアルの見直し

平成8年に「大規模災害時における災害弱者対応マニュアル」を作成しましたが、古くなってきて、 見直しをしなければならなくなっています。内容を見ると、必要に応じて情報提供しましょう、 といったとんでもないことが書かれています。これは当事者が関わらずにつくられたマニュアルです。 マニュアルの内容は、時代に合わせてだんだん変えなければいけません。たとえば、直接本人に 情報は伝えるとか、ライフラインなどはきめ細かに必ず伝えるといったことです。

新しい避難所や、ファミリートイレのある場所の情報などの提供は、必ずしなくてはいけないし、 その情報をどう使うか、どう判断するかは本人がすればいいことです。
見直しに当たっては、当事者と協働して作成することは当然で、特に情報提供については、 本人が自己決定をするための情報提供であることを再認識しなければなりません。そして、 支援はお世話ではないということです。今は支援する側からのマニュアルの見直しですが、 これに当事者も使えるように自分たちは何を準備したらよいか、双方が同じ情報をもつことも 重要だと思い、それを1冊にしようという方向で、見直しをしたいと思っています。

県のボランティア協会でつくった、「東海地震に備えて~視覚障害者の防災対策~」という 冊子があります。これは県も当事者も、盲導犬使用者や弱視の方にも参加してもらいました。 このマニュアルは当然、墨字、音訳、点字、テキスト、それぞれの形で提供しました。

新たな取組み

今年度新たに県では、身体障害者の防災講座と視覚障害者向けの携帯電話メールの取り扱い方講習会の 2本立てで、県内20ヶ所で開催しています。なぜ実施しようとしたかというと、「防災訓練に 参加しにくいので、もう少し工夫をして欲しい。」という新聞投書があったからです。 東海地震の関連情報が出たとき、世の中がどう動き、自分は何をすべきかあまりよくわかっていないのでは ないかと思ったわけです。それで開催したい市町村を募って、その講座、講習会の講師の資料も渡し、 情報保障は市町村が中心でしてくださいということにしました。開催の広報も市町村が自らするのが 重要だと思います。

内容については、東海地震がなぜ起こるというような基本的なことから、関連情報の重要性、 観測情報、注意情報、予知情報など、警戒宣言の中で、世の中がどう流れていくかについてです。 それから災害時、その前に情報収集をどう行うかということです。
視覚障害者向けの携帯メールの取り扱い講習では、災害時の「災害用伝言版」について講義し、 携帯電話をもっている人は必ず使えるようになること、もっていない初心者は、携帯メールを自由に 使えるようになるという講習会です。日常生活のコミュニケーションをとるときにも役立つのでは ないかと、あえて視覚障害者向けの携帯電話取扱講習をやって、携帯電話会社に無料で開催の協力を お願いしています。実際に開催してみると、参加が思ったよりも多くありました。聴覚に障害の ある人((社)静岡県聴覚障害者協会等)については、まとめて県レベルでの講習を行うことに しています。

今後の課題

台帳整備、情報保障は当たり前で、生活支援センターとの連携、手話通訳・要約筆記者の役割、 それとテレビ番組の二次利用を県としては考えていますが、NHKや地元の放送局と著作権等の 問題で折り合いがついていません。

発行
2005年3月
編集・発行人
財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
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