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障害者と災害時の情報保障
~新潟中越地震の経験と今後の防災活動~
シンポジウム報告書

講演

災害時の要援護者の避難支援対策について

内閣府防災担当・災害応急対策担当 丸山直紀

昨年7月、新潟県の集中豪雨や一連の台風などをふまえ、国は風水害対策について、各種対策を講じてきました。 昨年10月に「集中豪雨時における情報伝達及び高齢者の避難支援に関する検討会」を立ち上げ、 災害時要援護者の避難支援対策について検討を進めています。昨年末に中間報告の検討骨子を出しました。 それらもふまえ、本日は説明します。

まず、「防災とは」ということから申し上げます。災害には、地震、台風など、現時点では いくら科学が発展しても、発生自体をおさえることはできないものがあります。 ですから自ずとそれらの防災には、限界があると言わざるを得ないと思います。 しかし、本日お話しする避難などとの関係について言うと、効果的な避難、避難支援を実施することによって、 災害に遭う確率、被災の程度を最小限に食い止めることができます。 防災とは大きな可能性を秘めた、大変意義深い分野だと考えています。

私は先週まで、アメリカに出張し、防災関係の方々とお話しをし、防災はチャレンジだと感じた次第です。 今日お話しする災害時の援護者の方々の避難支援は、わが国が世界に誇れる防災であり、チャレンジであると考えていますので、 前向きに取り組んでいきたいと考えています。

避難支援に対する3つの課題

本日の課題を大きく3つに分けて、それらについての対策を説明します。
まず1つ目は情報伝達体制の整備です。国としては、避難準備情報という災害時要援護者の方々や、 避難に時間を要する方々を対象に、今までよりも一歩早い段階で、避難勧告や避難を促すような 情報を発出するべきだと考えています。それらの情報を確実に、迅速に伝達できるような、体制、 仕組みづくりが重要です。

2つ目は災害時要援護者情報の共有です。昨今、プライバシーの問題、個人情報保護の関係で、 個人の情報の収集、取り扱いは非常に微妙な問題です。しかし防災においては、人命を救うことが 第一で、人命を救うためには何らかの形で個人情報も、整理・収集していく仕組みづくりが必要なのではないでしょうか。

3つ目は、災害時要援護者の避難支援計画の具体化です。これまでのような形で、漠然と誰かが誰かを 助けてくれるという形ではなく、やはり一度、具体的に問題に直面してみることが必要です。

昨年の災害に見る要援護者の避難支援の課題

昨年の一連の災害をふまえた要援護者の避難支援に関する課題について触れます。
まず、避難勧告の発令体制が不十分であることが問題になりました。避難勧告の遅れについては、 皆さんの記憶にも新しいことだと思います。

次に、防災部局と福祉部局の連携が不十分であるなど、情報伝達体制が整備されていないことが 課題となりました。
また、避難行動支援計画の具体化が進んでおらず、要援護者情報の共有・活用ができていないことが 避難支援を困難にしています。

国の対策

政府は、先ほど申し上げたとおり、3月末までに避難勧告などの判断基準伝達マニュアルなどと あわせて、災害時要援護者のガイドラインをとりまとめる予定で作業中です。
避難準備情報については、避難行動に時間がかかる方が、避難行動を開始しなければならない段階に 発令されるもので、現在、判断基準については、国土交通省が中心となって進めています。

次に情報伝達体制の整備について素案的な形として、災害時要援護者支援班などを設け、 要援護者の避難支援業務を的確に実施できるような体制の整備が必要ではないかと考えています。

これまで災害時要援護者というと、高齢者や障害者、外国人などで、いろいろな部局にまたがる 関係から、あまり連携や調整がとれてきませんでした。また、住民の方から見ると、 どこが災害時要援護者の関係を担当しているのか、わかりにくかったのではないかと考えています。
ですから目に見える形で体制を整備することが重要だと考え、内部で検討中です。
また避難勧告の伝達は、これまでは市町村や自主防災組織が連携し取り組んできましたが、 1人の町内会長が数百人に伝達しなければいけないという形もあって、非常に困難な取り決めがなされて、 そのまま放置されていたケースもありました。

やはり災害時要援護者と日頃から接している社会福祉協議会の方や、介護保険制度の関係者、 障害者団体の方々と、防災担当者との連携をいかに密にしていくかが大切です。発災時には、 これらのネットワークを活用し、いかに迅速、確実に避難情報を伝達するか、これらが今後大きな 鍵になっていくと考えています。

避難支援プランの策定について

次に避難支援プランの策定についてお話しします。これまで漠然とした形だけで、 避難支援の仕組みは決まっていませんでした。ですから一人ひとりの要援護者に対して、 複数の支援者を定めるなど、具体的な避難支援計画を策定することが今後重要だと認識しています。

昨年、「人はなぜ逃げおくれるのか」(集英社新書 広瀬弘忠)という本が出版され、私も読みました。 大勢の人に向かって、「助けてください」と言うよりは、佐藤さんなら「佐藤さん、助けてください」 というように具体的に指名することで、言われたほうも使命感が生まれてくる、 ということが述べられていました。

そのようなことから、避難支援プランの中で、具体的に地域の中での実情、誰が誰を避難支援できる 状況にあるのか、まずこのあたりの関係について、具体的に調査・把握する必要があると思います。

また、日頃からの訓練に生かすとともに、避難支援できる体制が欠如している地域では、 いかにして安全な避難体制を整備していくのかを考えなくてはなりません。 たとえば、地元の企業との連携を深めるのか、介護保険関係者との連携を深めるのかなど、 具体的な対策に取り組むべきときにきていると考えています。

情報収集方法

次に情報収集方法について、簡単にご説明したいと思います。1つには「同意方式」という方式が あって、一人ひとりに要援護者の個人情報を取得してもかまわないかどうかについて、 直接お伺いする方法です。いくつかの市町村では、これまでは防災部局が主に取り組んできましたが、 限界がありました。効果を上げている自治体を見ると、福祉部局が積極的に動いています。 以上のようなことから、今後、福祉部局の方に、避難支援、避難の段階から携わっていただきたいと 考えています。

2つ目に、「手上げ方式」があります。市町村で、「要援護者の登録制度を開始します」と、 広報したうえで、自発的な登録者を募る方法です。いくつかの自治体で実施していますが、 残念ながら、私が把握している限り、把握している要援護者の1割程度しか、登録を希望していません。
やはり、「同意方式」のように、一人ひとりの元に足を運んで、対象となられる方のご理解をいただくような 活動が重要だと考えています。

3つ目に、「共有情報方式」があります。これは、各市町村に定められている個人情報保護条例の 例外的な位置づけです。各市町村によって規定が若干違いますが、よく見られるのは、 個人情報保護審議会の諮問を経たうえで、個人情報の多目的利用が可能になるような仕組みです。 こうしたものを活用して、防災と福祉で情報を共有したうえで、要援護者の居住状況などを把握し、 防災に活用していただきたいと考えています。

これら3つの情報収集方法を、どのような形で活用すべきかも考えなければいけません。 基本的には、同意方式としながらも、本人からの同意が得られなかった場合どうするのかという 問題もあります。また、同意方式は大変な時間を要するので、共有情報方式についても検討が 必要であると考えています。いずれにしても、災害時だけでなく平時から、 本人の同意を得た範囲内で、担当者の間で情報を共有しておくことが重要であると考えています。

市町村の個人情報保護条例の中に、生命または財産を守るために、必要かつやむを得ない場合には、 個人情報開示の特例が定められている場合があり、それをもとにして、発災時に災害時要援護者の 情報を渡せばいいのではないか、と考えている方もおられると思います。

しかし、発災時の状況を想像していただければ一目瞭然だと思いますが、大勢の方々から救援要請が きたり、通報などが集中します。その対応に追われている中で要援護者情報を手渡されても、 活用のしようがないのが現実だろうと思います。ですから、日頃から情報を共有したうえで整理して、 日頃の防災避難支援活動の準備に活用するとともに、発災時にも効果的に活用できるように整備して おくことが不可欠だと考えます。

避難支援プラン作成について

避難支援プランの作成の手順例を簡単にご説明します。効果的に要援護者の同意を得ている自治体の 話を聞くと、自主防災会、町内会、福祉関係など、いろいろな方々に対して説明会を開き、 意見のやりとりをしたうえで、お互いが納得できる方法で進めている自治体が成功していると思います。 やはり住民の方々の理解が重要です。

また、個人情報の共有関係について、要援護者から同意をとる援護者登録台帳がある自治体もあります。 それは非常にいいことだと思います。
避難支援プランづくりを進めていくにあたり、私がいろいろな方とお会いして、お話を聞いた範囲で 感じたことをお話しします。

まず、要介護度3以上などといった対象者の特定が重要であると思います。避難支援の必要な方々の 具体的な要件を特定することにより、これらの方々に対する早期の避難支援の計画を立てることが 重要であると考えています。そのうえで、地域の方のご意見をふまえつつ、避難支援を要する方々の 範囲を定めていけばいいと思います。

次に避難支援プランの管理が非常に重要になってきます。また、避難支援プランがどのような形で 動くのか、どのような形の改善が必要かを確認していくためにも、訓練が欠かせません。 要援護者の方々の状況が変わった場合は、それもきちんとフォローアップすること。 これらが実のある避難支援プランを策定するために重要であると考えています。

避難場所の整備も重要です。要援護者の避難支援にあたっては、多大な負担を避難支援者にも 強いるものであることは承知しています。ですから避難所を整備することによって、 より避難支援をしやすい環境づくりができます。また、福祉関係者からも耳にすることですが、 避難場所での生活が災害時要援護者の方には負担になっていて、結果的に避難行動に向かわない 一因になっているのではないかとも言われています。防災関係者とともにいろいろな場を通じて 理解を深め、制度の浸透、仕組みづくりに努めていかなければいけないと考えています。

最後に、これらを進める大前提です。私は、防災担当なので防災という観点から話をしましたが、 要援護者の方々をめぐる生活環境は、当然のことながら防災だけではなく、防犯や日頃の行事、 生活福祉関係など、いろいろなことがある中での1つが防災であると認識しています。 活性化されている町の方々の話を伺いますと、やはり日頃の取組みやまちづくりが非常にうまくいっているので、 防災もうまくいっていると実感します。まず防災ですが、その前に、温かいまちづくりが重要です。

先進的な自治体から学ぶこと

先週、サンフランシスコ市とオークランド市に出張し、防災危機管理担当の方々と意見交換して きました。そして避難支援の名簿づくりなどの取組みをしていますか、と聞いてみました。 オークランド市ではやっていないそうです。サンフランシスコ市は、登録制になっていて、 発災後、避難所での安否確認のために使うためだけに考えられているそうです。

ちなみにサンフランシスコ市は、情報収集は手上げ方式で、要援護者の約20%が登録しているそうです。 わが国を振り返ってみると、残念ながら、まだ一部の市町村だけが名簿づくりに取り組んでいるに すぎない状況です。その市町村でも、1~2割程度しか登録されていないのが現状ではないかと思います。 たとえば、愛知県豊田市や安城市などでは、要援護者の6~7割、数え方によっては8割の方々が 登録しています。これらの市は何が違うのか。私が感じたのは、やはり、福祉部局の方々の対応です。 電話でお話を伺うと、具体的にいろいろ考えているという熱意がひしひしと感じられます。 取組み方についても、研修や説明会の開催の仕方などでいろいろ工夫をこらしていると感じます。

今、国では避難支援のガイドラインの策定作業を進めています。このような先進的な、効果的な形で 取り組んでいる自治体のよいところ、非常に困難な局面に直面している自治体が考えている、 改善すべき事柄を吸収する形で、とりまとめていきたいと考えています。

■会場からの発言

発言者
要援護者の考え方ですが、住民と同時に障害者団体の事務所には、障害者だけがいる場合が あるので、そういった人たちについても、ガイドラインで検討され反映させてほしいと思います。
丸山
作業所を1つの拠点としたネットワークも非常に重要であると考えています。市町村など自治体に おいても、限られた状況の中で、避難住民情報を伝達するというケースを考えた場合、 伝達の手段は非常に限られています。 たとえば広報車を走らせるとか、防災行政無線の同報などもありますが、 これらの設置も限られています。そのような状況においては、福祉関係者、 介護保険関係者を通じた情報伝達など、複数の伝達体制、ルートを確保しておくことが 非常に重要だと考えています。

避難する立場となったとき、1人から「避難しなさい」と言われるよりも、 やはり複数の方々から言われたほうが効果があるので、そのような意味では、 今お話しいただいたように、作業所というのも1つのネットワーク、活動の拠点だと考えています。 そのような位置づけで連携を進めていくことは非常に重要だと思います。

発行
2005年3月
編集・発行人
財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
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