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障害者と災害時の情報保障
~新潟中越地震の経験と今後の防災活動~
シンポジウム報告書

新潟県中越地震における実情と取組み

日本自閉症協会 山本 衞

本日は新潟県支部の方に、報告していただく予定でしたが、都合がつかないということで、 支部からの報告書を元に、私が代わって報告します。

自閉症協会の会員の被害の概要

新潟県支部には約300世帯の会員がいますが、いくつかの地区に分かれて活動しています。 そのうち、今回の地震で被害が発生した地区は、柏崎地区、長岡地区、魚沼地区の3地区です。 ここに居住しているのは、91世帯です。うち、なんらかの被害があったのは51世帯、56%です。 県が定めた基準による全壊1、半壊5、一部損壊6の合計12世帯です。残り39世帯は県の基準には 入りませんが、外壁や内壁のひび割れ、床や天井のいたみなどです。

地区別には、柏崎地区の21世帯のうち被災世帯は7世帯で33%、長岡地区は44世帯中30世帯で68%、 魚沼地区は26世帯中14世帯で54%などとなっており、いずれも被災率は高くなっています。

被災後の生活で困った点

最も多かった意見は、避難所に自閉症児・者専用の部屋がないということです。 非常時にぜいたくなと言われるかもしれませんが、自閉症児・者は普段と違う場所や 生活リズムだと大変不安になります。大きな声をあげたりして、むやみに走り回ったり、 周りの人に大変な迷惑をかけることがあります。大勢が広い場所に一緒に寝泊まりするような ところには、とても一緒にいられません。中には音や声に対する感覚が敏感な人もいて、 赤ちゃんの泣き声が大嫌いで、泣き声を聞いただけでパニックになって暴れる人もいます。

専用の部屋がほしいというのは、自閉症のある人のためでもありますが、 むしろ周りの人に迷惑がかからないようにしたいということでもあります。 実際、最初から避難所は、自分達のような自閉症をもつ人がいる家族が行くところではない とあきらめていた人や、自宅にいられなくて避難所を見に行ったが、大変な混雑状況を見て あきらめてしまったとか、受付の人に、自閉症があるとはとても言えるような状況ではな かったということです。こういう人たちは余震がおさまるまでの5日~1週間、 自宅の庭先の車の中での生活を余儀なくされたそうです。 毎日新聞に、避難所に行けなかった自閉症のある人のいる家族が、 配給の食事がもらえなかったという報道があり、大きな反響がありました。

支部では自閉症のある人たちが普段から通学し、慣れ親しんでいる養護学校を避難所に、 という働きかけをしましたが、問題があって実現は難しかったようです。
避難所を利用することができた人の中でも、避難所のざわつく雰囲気の中、子どもの泣き声に 不安になってしまったとか、逆に避難していることを理解できず他の子どもたちと騒いでしまい、 怒られたということもありました。また、余震が起きてみんなが怖がっているときに、自閉症の ある子どもは楽しそうにしていて、ひんしゅくをかってしまったということもありました。

回りにいる人に対して暴言を吐いてしまい、「自閉症」という障害の特性を説明するのに 疲れてしまったという家族もいます。逆に、普段通っている学校が避難所になっていたために、 この子は特殊学級に通っている子どもだと、地域の人がご存じで、避難所生活は何の問題も なかったという人もいました。

避難所以外で日常生活の問題点

子どもが「赤ちゃんがえり」をしてしまって、トイレについていかなければならなかったり、 トイレの失敗の回数が増えたとか、偏食やこだわりが非常に強くなってしまったということが ありました。
逆に普段食べないものを食べるようになったという子どももいたようです。長く停電が続いた為に、 我慢ができなくなり、「電気を買ってきて」と叫ぶ子もいました。
普段はお風呂に関心がなかった子が、「どうしてもお風呂に入りたい」と入浴にこだわるようになった こともありました。お風呂の開放されている時間帯が、父親のいない昼間の時間帯なので、 やむを得ず男の子を女性用の風呂に連れていったり、養護学校の男の先生にお願いして入浴 させてもらった人もいたようです。小千谷の施設では、お風呂を貸切にしてもらって、 施設の皆で入浴したということもあったそうです。

学校がなかなか再開されないので、子どもは在宅で体をもてあましていましたが、 親は疲れきって、どこにも連れて行けませんでした。学校が再開されても、学校の 様子が普段とは違っているので、学校に行くのを嫌がったり、自分で歩いていけなくなって しまった子もいたようです。音に敏感であったために、復興のために来るヘリコプター、 ダンプカー、ショベルカーなどの大きな音に不安になって何もできなくなった子もいました。

また、普段は別々に生活していた親族の人が、家が破損して避難してきて、一緒に生活するようになり、 自閉症についての理解がないために、不必要な言葉かけが多くなってしまい、子どもが不安定に なってしまったこともありました。同居しているおじいさん、おばあさんが精神的に不安定になって、 ちょっとしたことでも孫をしかりつけるようになり、孫たちも精神的に不安定になるようなことも あったようです。

地震そのものや、その後の避難生活の中であらわれてくる自閉症のある人の問題行動は、 それぞれバラバラで、違った状況を示します。言葉があるとかないとか、知的レベルに関わらず、 地震を非常に怖がってしまい混乱した子どもがいるかと思うと、地震なんかには全く無頓着で、 避難所で普段どおり生活できないということへの不満をもつ子もいます。逆に全く普段とは違う様子を 素直に受け入れてしまっている子どももいます。自閉症のある人たちへの対応は、一律にこうした方が いいということではなく、一人ひとり障害の内容、問題行動の内容に合わせた対応をしていく必要がある ということが明らかになってきています。

生活以外の問題点

1つは、地震発生直後に、会として会員の安否確認をしようとしたのですが、非常に困難を 極めました。会員名簿には自宅の電話ぐらいしか載っていないので、電話が不通であったり、 通じるようになっても、自宅の中に入れず電話に出られないので、連絡がとれないという状況が ずっと続きました。今後は、緊急時の連絡のために、携帯電話や勤務先の電話の把握も必要に なってくるのではと感じられました。

もう1つは個人情報との関係でやむを得ないとは思いますが、安否確認を行おうとしていたとき、 施設に保護されているらしいという情報があって、施設に問い合わせたところ、来ているかどうか については答えられないと断られてしまったこともあったようです。

さらに、他県から、自閉症に関心をもっていらっしゃる方から、支部あてにボランティアの申し出が 何件もあったようですが、被災地では盗難や詐欺も頻発している状況で、会員の住所を安易に 教えていいのかどうかで、大変困ったということです。また、中継ぎになってくれる人がいないこともあり、 ボランティアの申し出をスムースに受け入れることができなかったということもあったそうです。

支部の取組み

支部では地震発生翌日に、県の障害福祉課に電話を入れ、施設への緊急一時保護や預かりについて、 対応してくれる様、申し入れをしました。県では直ちに、障害者の緊急一時保護の手配をしてくださり、 各避難所などに受け入れ施設の一覧や、受け入れ人数などを貼り出してくださいました。 しかし、自閉症という、変化に非常に弱い人たちを地震という大きな変化が起きているとき、 一時的にせよ親元から遠く離して会ったことのない施設の職員に預けることはなかなかできず、 実際に利用された方は1世帯だけだったようです。

支部では、被災地に相談員を派遣して、柏崎地区と長岡地区でそれぞれ2回ずつミニ集会を 開催しました。支部役員や相談員による被災地訪問も行いました。被災会員宅への訪問、役場や 保健センターへの訪問、自閉症理解のためのチラシや災害時の障害児への対応のための手引きなどや、 相談先、受け入れ先のチラシも配布しました。また、被災地区の会員あてに現況調査票を発送しました。 91世帯中、回収は85世帯、回収率は93.4%になります。被災状況の概況は冒頭の報告どおりです。

協会本部での取組み

たまたま全国の支部役員のメーリングリストを立ち上げようと準備をしている矢先に、 地震が発生しました。メーリングリストは11月1日から立ち上げる予定でしたが、急遽10月25日に 前倒ししました。それで新潟県支部からの被災状況を、全国の支部役員にお知らせすることが できましたし、各支部からもお見舞いのメールなどが寄せられました。

今回の地震では、新潟県支部の事務局が被災して、支部の事務局としての機能を失ってしまいました。 それで急遽、本部から全国の支部の皆さんに対して義援金募集を呼びかけました。現在までに530万円ほど集まっていて、 新潟県支部に送金しています。全国の方からのご支援に、深く感謝を申し上げたいと思っています。
以上、報告とさせて頂きます。

発行
2005年3月
編集・発行人
財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
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