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第1章 国際調査について

インクルーシブ教育へのアプローチに関しては、政策と実践の両方について、多くの報告書や調査書が作成されてきた。しかし、排除されている人々の視点や、幸運にもこのような教育を受けることができた人々の視点、インクルーシブ教育実現のために家族が成し遂げてきた活動は、政策立案者および実践者に伝えられる、また伝えなければならない情報として認められてはこなかった。本報告書は、変革への提言を行うために、世界各地のコミュニティに存在するインクルーシブ教育に関する広範な知識と情報を集めようとする取り組みである。

インクルージョンを目的とした国際的なコミットメントと、何が成功して何が失敗するのか、そしてその理由に関する家族からの情報の両方を再検討することにより、報告書作成のための情報収集作業を通じて、地域の声と情報とが、「万人のための教育」を達成するための国際的なプロセスへと結び付けられていく。

本報告書が家族と当事者の視点を反映したものとなるように、私たちは世界中のネットワークに協力を求めた。

  • 会員機関
  • 知的障害者の問題に重点的に取り組んでいる他の草の根グループ
  • インクルーシブ教育の問題に関する活動を世界で展開しているグループ
  • 国際機関の専門家および職員
  • 同僚や友人
  • 可能な限り、教育担当省およびその他の政府官僚

インクルーシブ教育に関してこれまで培われてきた多様な知識の積み重ねを利用し、本書では、インクルージョンに向けた取り組みを「スケールアップする」戦略を提供する。そして、インクルーシブ教育の開発を国レベルでのEFA達成計画へと移行する課題とその機会を検討するとともに、このような国内での取り組みが、国際的な投資や政策によってどのように支援されるべきかを考察していく。

私たちは、インクルージョン・インターナショナルの5つの地域のそれぞれにおいて、参加型の調査プロセスを開発した。

  • ヨーロッパ
  • 中東/北アフリカ(MENA)
  • アフリカおよびインド洋
  • 南北アメリカ
  • アジア太平洋

私たちは使用可能なアプローチ方法について、さまざまな関係者にアドバイスを求め、その結果を国レベルでのインクルーシブ教育の現状に関する情報収集手段の開発に利用した。これらのプロセスを容易にするために、地域コーディネーターを複数指名し、担当地域の参加国における調査でイニシアティブを取らせた。この地域調査がグローバルレポート作成の土台となっている。

私たちは、家族や子どもたち、当事者および教師が情報収集に使用できる一連のツールを開発した。このツールは開発後、地域の特別な事情に合わせて使用できるように改良された。

情報や体験談、カントリープロフィールの収集に使用されたツールとリソース、カントリープロフィール作成のために実施された調査や家族と教師に対する調査の結果はすべて、国際育成会連盟のインクルーシブ教育のウェブサイト1で見ることができる。

ツールは、家族が組織する団体を支援し、その国の情報を収集することを目的としていたが、同時に、地域社会を動かし、インクルーシブ教育の問題に関与させることにも役立てられた。どの国からも、CRPDとインクルーシブ教育を促進するために、家族に手を差し伸べ、その理解と能力を強化する上で、フォーカスグループによるディスカッションが重要な機能を果たしたという声が寄せられた。

私たちは、75を超える国々から教育における排除とインクルージョンに関する体験談と情報を得た。体験談からは、子どもたちが学校から排除されている理由や、教育における真のインクルージョンを妨げている問題が浮かび上がった。私たちは以下に関する情報を入手した。

  • 学校、学級および地域社会における優れた実践例
  • 子どもたちが学校から排除され続けている状況
  • 真のインクルージョンの実現を阻む、子どもや親、教師が直面する問題および課題

収集された体験談および情報は、本報告書の土台となっている。読者は本報告書全体を通じて、数多くの事例と解釈を目にするであろう。さらに私たちは、入手した体験談の多くをオリジナルの形で紹介したいと考えた。オリジナルはインクルーシブ教育のウェブサイトをご覧いただきたい。2

表1 情報源

国/地方/地域の統計データ 75
個人体験談 270
家族、当事者、政府官僚および/または教師を対象としたフォーカスグループ 119
教師へのアンケート調査 750
親へのアンケート調査 400

情報収集の方法

今回の調査では、プロセス全体にわたり、参加国のインクルーシブ教育に関する情報収集のために、さまざまな方法でツールが使用されたとの報告があった。限られたリソース、多数の言語、そして地理的状況などは、本報告書のための情報収集において、すべての会員が直面した課題のほんの一部にすぎない。これらの課題に対処するために、ツールを効果的に使用する創造的なテクニックが多数開発された。報告書に必要な情報を得る方法の概要を示した特別なプログラムを開発したと報告してきた国もある。地域および国内の会議を利用して回答を収集した会員もいれば、さらには、地域全体を訪問して調査結果やフォーカスグループの回答を集めるファシリテーターを養成した会員もいた。

メキシコでは、国際育成会連盟の会員組織であるメキシコ知的障害者支援連合が、グローバルレポートのための情報収集を目的とした1年間のプロジェクトを開発した。メキシコ知的障害者支援連合は、地域および国内のすべての会議を、報告書に取り組む機会として利用した。また、当事者や家族、地域の機関が、支給されたツールを使用して地域レベルで情報を集める手助けをする、地域ファシリテーターを養成した。これは、カントリーレポートのための総合的な情報収集を確実なものにした。メキシコ知的障害者支援連合はまた、メキシコにおける国連障害者の権利条約実施に関する市民社会団体によるモニタリングに備え、今回得た情報とその分析を「シャドーレポート」に盛り込むことを計画している。

ボリビアとグアテマラでは、フォーカスグループに対する調査と情報収集が、人里離れた先住民の村で行われた。

グアテマラの多様性は、会員組織による活動にも現れていた。グアテマラからは、グアテマラ、モラレス市、キチェ県、サンマルコス県およびパトゥルル市の5つのフォーカスグループからの情報が寄せられた。また、ウェウェテナンゴ県、グアテマラシティ、パトゥルル市、スチテペケス県、サンチアゴアティトラン村、サンマルコス県、マサテナンゴ市、モラレス市、イサバル県、およびキチェ県の親と教師からも、体験談とアンケートが集められた。

これらの国の国際調査協力者は、親や教師、障害当事者が体験談を提供できるよう、教育に関するインタビューを行うために、通訳を伴ってこれらの地域を訪れた。回答者のほとんどが、学校から排除されていること、放任され、虐待されていることについて語った。

コスタリカでは、政府がデータ収集作業に参加し、ツールを枠組みとして利用しながら報告書を作成した。この結果、国際教育局(IBE)による「インクルージョン:未来への道(Inclusion: The Way to the Future)」と題された会議3の際にはまったく利用できず、かねてより要望が高かった、教育に関するカントリープロフィールが作成された。政府は親と教師のアンケート回答を支援し、国内でインクルーシブ教育の促進を望む人々が利用できる資料を、政府の視点から作成した。

アジア太平洋地域では、国と言語が多様であるため、各国で活動している提携機関によって情報が収集された。アルメニアでも、ワールド・ビジョン・アルメニア(World Vision Armenia)の協力により、同様な方法が採用された。ワールド・ビジョン・アルメニアのネットワークを利用し、カントリープロフィール、フォーカスグループの討議内容、および成功談を入手することができた。

中東北アフリカ地域では、協力者が地域内を移動することができなかったため、おもに電子メールと電話で連絡を取り合った。

たとえば、戦争で荒廃したイラクでは、調査情報を収集するため、会員が他の家族を家に招いた。この創造的なアプローチにより、多くの人々と家族が情報を提供できるようになり、その発言はしっかりと記録された。

ある国の回答者は、サービス不足に関して政府を批判することへの報復を恐れ、名前を公表しないことを条件に参加した。

ヨーロッパでは調整のテクニックも求められ、インクルージョン・ヨーロッパ(Inclusion Europe)とインクルーシブ教育作業部会が、19ヶ国からの関連情報を収集するために、特別な努力を払ってくれた。その報告書は、調査に参加した国の大部分が、初等教育の完全普及という目標を達成しつつあることを示している。インクルージョン・ヨーロッパは、ヨーロッパのインクルーシブ教育の状況に関する別冊のフォーカスレポートで、調査結果を公表した。

調査とフォーカスグループから得られた情報は、さまざまな方法でIIに提出された。教師と親からの情報は、特に南北アメリカからはオンラインで配信されてきた。しかし、インターネットへのアクセスが限られている地域からは、書面により提出された。情報をサイトに直接アップロードしてきたところもあった。別の例では、生徒の体験談を録画したビデオがIIに送られてきた。このような協力のおかげで、私たちは幅広い情報基盤を利用できることになった。

どの国も、その国の現状やリソースにもっとも適した創造的な方法でツールを利用していた。報告書は、このグローバルレポートに情報提供するために作成されたが、同時に、会員が自国で取り組める課題や状況を確認することにも役立てられた。私たちは膨大な量の情報を得た。このグローバルレポートが、会員組織、提携機関、政府官僚、親、教師そして友人たちによる、あらゆる活動と努力を、正当に評価するものとなることを願っている。

あるカントリーコーディネーターはこう語った。「…私たちが苦労してまとめあげたこの仕事は、私たち全員が同じ目標に向かって歩くことで、どのように成功できるかを示す一例となるでしょう。」私たちは、このイニシアティブで行ったように、世界のあらゆる国・学校・学級で、インクルーシブ教育を実現するという目標をもって、世界中でともに連絡をとりあい、活動できるようになることを期待している。


1http://www.ii.inclusioneducativa.org/Inclusion_International.php?region=Inclusion_International&country=Inclusion_International&experience=15_Years_After_Salamanca.参照。

2www.ii.inclusioneducativa.org参照。

3http://www.ibe.unesco.org/en/ice/48th-ice-2008.html.参照。