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高齢者の運転適性に関する研究(1)

NO.3

3 結果

1.重複作業反応の加齢変化

 従来から一般的に刺激に対する反応の加齢変化としては、単純反応でも多肢選択反応においても反応時間(RT:Reactiontime)の遅延化傾向がみられるとされてきたのである。
 しかし作業課題の機敏な遂行能力が質的に低下していることをこれらの反応測定の結果のうち誤反応に注目して研究した資料は比較的に少ない。
 図-3に3色光選択反応(いわゆる重複作業反応)の測定記録から横軸に年齢区分を・縦軸に平均誤反応記録をとってグラフ上にプロットして示した。これによると誤反応は67歳を彎曲点として明らかに増大傾向が認められ、加齢によるtask performance(課題作業の機敏な遂行能力)が低下しはじめていることを窺い知ることができるのである。

重複作業反応の誤数の棒グラフ

年齢
50-59 60-62 63-65 66-68 69-71 72-74 75-79
平均設数 5.00 5.09 4.89 6.55 7.79 9.44 9.92

単位:回
図-3 重複作業反応の誤数

 警察庁・科学警察研究所はこの重複作業反応を運転適性検査の一種目としてとりあげるときの指標として、誤反応数のほかに計測した反応時間中の正反応のうち最大値、最小値を除外した初発反応から5個の記録値、ならびに(最大値-最小値)、(最大値+最小値)、変動係数などを検査粗点とし、これらの代替指標の換算表(年齢段階別)から判定値を算定する評価方式をきめている。
 またこの方式を決定するための調査対象となった被験者の年齢が59歳までを上限としていたので、この年齢段階で平均6個未満の誤反応数であれぱ3の評価(普通)とされているのである。

TH そこでこの方式にしたがって誤数評価値の年齢別構成比を算出し図-4のグラフに示した。
重複作業「選択反応時間」評価値構成比の帯グラフ

60以上計 75-79 70-74 65-69 60-64 50-59
評価値1 38 3 9 13 13 4
評価値2 59 6 16 11 26 11
評価値3 55 1 12 15 27 19
評価値4 71 3 6 24 38 16
評価値5 140 0 6 33 101 25

単位:人
図-4 重複作業反応「誤数」評価値構成比
(年齢を5歳区切りとした)

 これは年齢区間を5歳として整理しているが区間の中央値67歳から誤反応数の評価3以下の人数の漸増してゆく様相が示されている。またさきに挙げた適性検査指標の一つである選択反応時間の年齢別構成比のグラフを図-5に示したが、これによると74歳までは評価値3以下の者がしだいに増加してゆき加齢によってRTの遅延傾向があらわれてくると判断できるであろう。

重複作業「選択反応時間」評価値構成比の帯グラフ

60以上計 75-79 70-74 65-69 60-64 50-59
評価値1 24 0 5 6 13 1
評価値2 48 1 8 16 23 6
評価値3 34 2 4 6 22 8
評価値4 78 3 8 26 41 21
評価値5 179 7 24 42 106 39

単位:人
図-5 重複作業「選択反応時間」評価値構成比

 しかし75~79歳区間では評価値1,2の者が皆無であり、そのうえ3以上の評価をうけた者が増加する結果となっている。これはグラフの下に示した表をみると分る通り、この年齢グループの被験者数がわずか13名という統計的に不適切な少人数グループであったことによるものと考えられる。
 さらに詳細な項目や内容については後述するがこの方式による総合判定値の年齢別構成比を図-6に示した。これによると適性の劣る1,2の評価段階の者が高齢になるにつれて増加していることは窺われるが、72歳以上のグループで再び3以上の者が増加し成績は良くなるという結果になっているのである。
年齢別重複作業反応検査の判定値の構成比の帯グラフ

60以上計 75-79 72-74 69-71 66-68 63-65 60-62 50-59
判定値1 16 0 2 5 0 4 5 2
判定値2 76 4 7 14 14 10 27 6
判定値3 118 7 13 15 13 30 40 25
判定値4 153 2 3 14 24 37 73 42
判定値5 0 0 0 0 0 0 0 0

単位:人
図-6 年齢別重複作業反応検査の判定値の構成比

 これは評価方式の組みたてかたや換算値の算定方式に問題があるための矛盾と推定される。したがって重複作業反応の計測記録値のうちで加齢変化を的確に示す指標として妥当性および信頼性の高い誤反応数は、運転適性検査の評価値を正しく示唆しているものであるが、その他の指標についてはなお今後検討の余地が多く残されているものと考えられた。

2.速度見越反応の加齢変化

 自動車の運転にあせり(焦燥)は禁物で先を急ぐ傾向が事故につながる例は枚挙にいとまがない。こうした焦燥傾向を生じる原因の一つは動体速度の不正確な知覚と、もう一つは筋肉動作への衝動ないしは反応促迫を抑制できないための2つが考えられる。
 従来から心理学の分野でとりあげられてきた狙準反応検査はこのあせり傾向をしらぺるテストとしてよく知られているが、これは主として感覚、知覚レベルにおけるあせりをみるものであった。
 事故頻華傾向は知覚よりも、動作機能優位者に多いというDrake仮説に従うとすれぱ、速度見越反応は判断と意志動作の心的メカニズムの関与した機能的徴候のすぐれた指標であり、この点において狙準反応検査をしのぐ適性指標であると言うことができる。
 そこで縦軸に被験者の速度見越反応の計測記録値から平均反応時間を、また横軸に年齢をブロットしてグラフに示し図-7の通りとなった。67歳の年齢区分のグループまでは加齢とともに平均反応時間が短縮して焦燥化の傾向を示しているが、その年齢をこえると反応時間は遅延傾向を示すようになる。

> 速度見越反応の平均反応時間の棒グラフ

年齢
50-59 60-62 63-65 66-68 69-71 72-74 75-79
平均反応時間 1.707 1.570 1.515 1.501 1.644 1.676 1.681

単位:秒
図-7 速度見越反応の平均反応時間

 これは70歳以上の高齢者のグループのなかにいちじるしい遅延反応を示す被験者が多くなってくることに帰因している。すなわち加齢は高齢者を、RTの短縮する焦燥化傾向者と、RTの延長する遅延化傾向者との両極に分化させてゆくということである。
 この反応を運転適性検査の項目としてとりあげている科警研方式の評価方法にしたがってRT・の年齢別構成比を算出し図-8に示した。
「見越反応」評価値構成比の帯グラフ

60以上計 75-79 72-74 69-71 66-68 63-65 60-62 50-59
評価値1 152 4 8 20 20 34 66 26
評価値2 33 0 2 6 6 5 14 5
評価値3 118 7 7 11 19 35 39 27
評価値4 60 2 8 11 6 7 26 17
評価値5 0 0 0 0 0 0 0 0

単位:人
図-8 「見越反応」評価値構成比
(年齢を3歳区切りとした)

 この方法では50歳代の年齢層の基準値である1800msを超えた反応数を代替指標としているため、70歳以上の高齢者の評価値で3以上の者はむしろ増加してゆくという結果となるのである。
 また同じ換算評価方式にしたがって算出した「見越の正確さ」の値を年齢別の構成比でグラフに示すと図-9の通りである。ここでは1の評価者が皆無となり1すべての年齢区分で過半数が2の評価値となっている。

60以上計 75-79 72-74 69-71 66-68 63-65 60-62 50-59
評価値1 0 0 0 0 0 0 0 0
評価値2 193 6 14 30 22 39 82 39
評価値3 70 1 5 7 11 16 30 11
評価値4 67 2 5 8 12 17 23 20
評価値5 33 4 1 3 6 9 10 5

単位:人
図-9 「見越の正確さ」評価値構成比

 したがってこの評価方式にはかなりの問題点があり、字義通り「見越の正確さ」をあらわしているとは理解しがたい結果となっている。なおRTの記録値から最大値と最小値の差をとって「反応のむら」すなわち分散の代替値としているが、これも字義通りのむらとは解し難いけれども、これを年齢区分ごとのグラフで示してみると図-10の通りである。

速度見越反応のむら(最大値-最小値)の棒グラフ

年齢
50-59 60-62 63-65 66-68 69-71 72-74 75-79
最大・最小 0.792 0.803 0.712 0.806 0.947 1.080 1.328

単位:人
図-10 速度見越反応のむら(最大値-最小値)

TH この値の加齢変化の様相は図-3に示した重複業反応の誤数の場合と近似であり、さきに指摘した速度見越反応時間が70歳以上になると短縮と遅延ないしは伸長の両極分化の傾向が強化されるという事実を明瞭に示している点において興味深い。
 またこの計数整理の方法は統計学的な変動係数を意味するむらではないことを繰りかえし指摘してきたが、それでもなお「反応のむら」の評価値の年齢別構成比を算出してグラフを描くと図-11の通り、加齢による反応の両極化傾向をかなりよく示唆する結果となっていることが分るのである。

「反応のむら」評価値構成比の帯グラフ

60以上計 75-79 72-74 69-71 66-68 63-65 60-62 50-59
評価値1 45 6 6 8 7 3 15 8
評価値2 46 3 4 7 5 9 18 12
評価値3 151 2 6 18 20 44 61 28
評価値4 87 2 6 11 12 21 35 21
評価値5 34 0 3 4 7 4 16 6

単位:人
図-11 「反応のむら」評価値構成比

3.処置判断動作(追従動作反応)の加齢変化

 目と手腕の円滑な協応動作をみるために考案された処置判断動作の計測記録機器は、被験者にPursuit-rotor task(追従動作課題)を与え、その作業遂行の過程における誤動作を記録して注意配分カをしらべるのである。
 図-12にその計測緒果を示したが横軸に年齢、縦軸に誤動作数をプロットした。65歳までは50歳代とほぽ同一レベルの作業遂行能力をもっているとみられるが、それ以上から誤動作が多くなり加齢による注意配分カの低下が窺い知られるのである。

処置判断動作の誤数合計の棒グラフ

年齢
50-59 60-62 63-65 66-68 69-71 72-74 75-79
語数合計 91.09 92.13 90.11 98.10 96.10 97.56 103.62

図-12 処置判断動作の誤数合計

 また従前どおりに科警研方式によって年齢別構成比を算出しプラフに描いた「注意力」と注意の偏り」すなわち左右の誤動作数を指標として算定した換算評価値を図-13、図-14に、さらに「場面適応力」と呼んでいる練習効果を算出した値を示すグラフを図-15に示した。

処置判断動作の「注意力」評価値構成比の帯グラフ

60以上計 75-79 70-74 65-69 60-64 50-59
評価値1 29 0 4 8 17 7
評価値1 29 0 4 8 17 7
評価値2 129 6 15 37 71 19
評価値3 125 2 20 34 69 31
評価値4 46 3 6 10 27 10
評価値5 33 2 4 7 20 8

単位:人
図-13 処置判断動作の「注意力」評価値構成比

処置判断動作「注意の偏り」評価値構成比の帯グラフ

60以上計 75-79 70-74 65-69 60-64 50-59
評価値1 33 1 2 11 19 6
評価値2 50 6 14 15 15 11
評価値3 100 2 13 25 60 17
評価値4 111 2 11 31 67 20
評価値5 68 2 9 14 43 21

単位:人
図-14 処置判断動作「注意の偏り」評価値構成比

処置判断「場面適応力」評価値構成比の帯グラフ

60以上計 75-79 70-74 65-69 60-64 50-59
評価値1 18 1 6 3 8 9
評価値2 86 5 10 25 46 13
評価値3 195 5 24 58 108 35
評価値4 47 2 8 9 28 12
評価値5 16 0 1 1 14 6

単位:人
図-15 処置判断「場面適応力」評価値構成比

4.高齢運転者の適性判定

 従来から運転適性を判定するためにこれまで分析してきた3種の反応・動作の計測記録値にもとづいて表-1、に示す10個の検査指標がとりあげられてきたのである。しかし既に図-6に示したように、重複作業反応を適性検査の一種目とした時の判定値の年齢別構成比のグラフから、これらの指標の換算、評価方法にかなりの疑問があることを指摘した。

検査の種目 指標
1.重複作業反応検査 a.誤反応数
b.選択反応時間
c.同上時間巾
d.単純反応時間
e.反応のむら
2.速度見越反応検査 f.見越反応時間
g.反応のむら
3.処置判断検査 h.誤動作数
i.左右別誤数
j.練習効果

表-1 運転適性検査の指標

 これと同じ換算評価法を適用して算出した速度見越反応検査の判定値の構成比を図-16、に、また処置判断検査の判定値の構成比を図-17に示した。
年齢別速度見越反応検査の判定値の構成比の帯グラフ

60以上計 75-79 72-74 69-71 66-68 63-65 60-62 50-59
評価値1 13 3 1 2 0 2 5 1
評価値2 162 2 11 26 21 34 68 29
評価値3 106 6 9 13 18 16 44 29
評価値4 82 2 4 7 12 29 28 16
評価値5 0 0 0 0 0 0 0 0

単位:人
図-16 年齢別速度見越反応検査の判定値の構成比

年齢別処置判断検査の判定値の構威の帯グラフ

60以上計 75-79 72-74 69-71 66-68 63-65 60-62 50-59
判定値1 5 0 0 0 2 0 3 1
判定値2 73 7 7 9 10 14 26 13
判定値3 184 5 13 28 30 40 68 36
判定値4 100 1 5 11 9 26 48 25
判定値5 0 0 0 0 0 0 0 0

単位:人
図-17 年齢別処置判断検査の判定値の構威

 まず前者については、この検査機器の開発研究者たちが認めている通り動作性人格検査(Performance test)の一種とみることができるとの見解にしたがって、見越時間の長短は被験者の作業速度あるいは作業量の多寡に相当するとのみかたが可能となろう。
 しかし科警研の換算評価方法や判定値算出方式にはこの視点を欠いているので、高齢者の見越時間遅延ないしは反応遅滞をある種の心理的ブロッキングblockingの減少として評価することには困難な面がある。
 また後者については、この機器はもともと航空機のパイロットの操従適性をみるために考案されたのであるが、高齢者の場合74歳まで判定値1の者はかなり少なく75~79歳でも20%をややこえる程度であり、そのうち3以上の評価で判定されている高齢者が過半数をはるかに超えるということは加齢変化を反映した判定値と認めるには無理があり、判定法検討の今後の課題となるであろう。
 さて以上の3種目の運転適性テストパッテリーから年齢別総合判定値の構成比を図-18に示した。

年齢別総合判定の判定値の構成比の帯グラフ

60以上計 75-79 72-74 69-71 66-68 63-65 60-62 50-59
評価値1 66 5 9 11 11 9 21 7
評価値2 80 3 5 16 8 13 35 14
評価値3 161 4 8 19 25 42 63 34
評価値4 43 1 2 2 6 13 19 17
評価値5 12 0 1 0 1 3 7 3

単位:人
図-18 年齢別総合判定の判定値の構成比

 判定値3以上の評価の比率は50歳代で65%、60~68歳で60%、となっているが70歳をこえると40%に低下し個別のテスト評価方法に検討すべき点は残されているもののテストバッテリーを総合的にみた現状分析の結果として、「パフォーマンステストの視点から運転を自己規制するために精密な運転適性の判定を要請すべき上限年齢は70歳を一つの区切りとする」と判断される。
 なお参考データとして全身反応検査と夜間視力検査の構成比グラフを図-19,20に付記する。

年齢別全身反応検査の判定値の構成比の帯グラフ

60以上計 75-79 70-74 65-69 60-64 50-59
判定値1 9 0 2 0 7 5
判定値2 30 0 6 8 16 10
判定値3 95 4 8 23 60 32
判定値4 140 3 18 37 82 23
判定値5 89 6 15 28 40 5

単位:人
図-19 年齢別全身反応検査の判定値の構成比

年齢別夜間視力検査の判定値の構成比の帯グラフ

60以上計 75-79 70-74 65-69 60-64 50-59
判定値1 292 13 43 81 155 48
判定値2 48 1 6 11 30 19
判定値3 25 0 0 4 21 8

単位:人
図-20 年齢別夜間視力検査の判定値の構成比


主題・副題:
高齢者の運転適性に関する研究(1) 96~101頁

著者名:
森 二三男

掲載雑誌名:
高齢者問題研究

発行者・出版社:
北海道高齢者問題研究協会

巻数・頁数:
No.2巻 93~107頁

発行月日:
西暦 1986年 3月

登録する文献の種類:
(1)研究論文(雑誌掲載)

情報の分野:
(1)社会福祉

キーワード:

文献に関する問い合わせ:
学校法人 つしま記念学園・専門学校・日本福祉学院
〒062 北海道札幌市豊平区月寒西2条5丁目1番2号
電話:011-853-8042 FAX:011-853-8074