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高齢者の運転適性に関する研究(1)

NO.5

5 結論

 高齢運転者の重複作業反応、速度見越反応および追従動作反応(処置判断動作)を計測記録して分析、検討した結論を要約すると、

  1. 環境刺激に対する反応や動作の誤りが加齢によって増加しtask performanceの質が低下する傾向は67歳を一つの区切りとして顕著にあらわれた。
  2. 重複作業課題を与えた時の選択反応時間 は70歳以上の高齢者で遅延する傾向がみられた。
  3. 加齢によって速度見越反応時間は短縮するが70歳以上になると逆に著しく遅延ないしは停滞反応を示す者もみられ、両極に分化する傾向が窺われた。
  4. 高齢者の運転適性を以上の3種類の反応および動作の計測値を指標として判断することにより、加齢変化に即応する案全指導、助言の資料として活用することは妥当な方法と判断される。

 以上の通りであるが現在運転適性検査として実用に供されているままの換算値や評価法については再検討すべき点が多く残されているので、これに関しては別の機会に吟味してみたいと考えている。
 またもう一つには適性検査を実施するからは、その判定結果にもとづく指導、助言をおこなってはじめて意義が認められるのであり、この意味からも有効、適切なコメントを準備する必要がある。
 この面についても今後の研究調査に俟つところ大であると考える。
 もともと自動車を利用している一般のドライバーの運転行動としては、レーサーやテストドライバーなどのような高速走行を要求されているわけではなく、むしろ着実慎重な安定した運転走行が必要とされているにすぎない。
 一般的なドライバーを対象とする意識調査によれば、多くの運転者は自分の運転ぶりにはほとんど不安感を持っていないが、他人の運転には強い不安感を抱いているものであると言う。*9しかし、高齢となるにつれてしだいに自分自身の運転ぶりにも不安感をもつようになるであろうから、そのことが自らmobilityを制約する要因になるものと推定される。
 オランダの交通心理学者J.A.Michon(1984)は、「traffic(交通)ということばには、運ばれるという意味が強すぎて消極的で時代遅れの感がある。
 むしろ今後はmobilityという概念がモータリゼーション社会を適切に表現する用語と考える*10」と主張し、このmobilityの制約要因としてのドライバー自身の運転能力と走行環境の安全確保とを勘案した安全対策の樹立が緊急課題となりつつある時代に入ったと言う。

  1.  高齢者は運転の安全適性を定期的にチェックすることによって安全運転能力を自己理解して、これをカバーする運転行動を心がける。たとえばためらい運転や漫然運転が、車の流れを妨げているのであるから、そうしたことがおきないよう注意することが肝要である。
  2.  高齢者は長い運転歴をもつドライバーであるから、柔軟なスピードの調整によって無理な走行を避けることができる運転者である。したがって走行速度の自己規制により、加齢に制約されない意欲的な移動により、社会参加活動は十分可能である。

 以上をもって本研究の結論とし報告を終わりとする。


*9 野口薫、1978、シンポジウム「人とモピリティ」報告、IATSS Review,Vol.4,No3。

*10 J.A.Michon,1984,Traffie and Mobility,In P.J.Dreutch et al,Handbook of work and Organizational Psychology、Jhon Wiley and Sons.LTD,1165-1196.


主題・副題:
高齢者の運転適性に関する研究(1) 106~107頁

著者名:
森 二三男

掲載雑誌名:
高齢者問題研究

発行者・出版社:
北海道高齢者問題研究協会

巻数・頁数:
No.2巻 93~107頁

発行月日:
西暦 1986年 3月

登録する文献の種類:
(1)研究論文(雑誌掲載)

情報の分野:
(1)社会福祉

キーワード:

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