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高齢者の運転適性に関する研究(2)

NO.3

2 本研究の方法と対象

1.方法

 (1) 安全運転自己診断
 毎日の生活に車を利用しているドライバーの運転ぶりdriving Performanceを自己診断法によって調べた。
 ところで、driving Performanceを調べるということは、心理学的には運転行動の調査ということであるから、その客観的事実を捕らえるためには、実際に運転走行中の行動を分析的に観察・記録して検討することが最も良い方法である。しかし、そのためには多大の労力と経費を必要とするとともに対象サンプル数も制限されてしまうため、こうした方法による資料を一般化することは無理であって、臨床的事例性Casenessとして解釈する範囲に止どまるであろう。
 そこで、これに代えて質問紙調査法で実施すれば比較的簡便に全体的傾向を捕らえることができるということもあって、本研究では自己診断法を採用した。
 本研究で使用した調査用紙の質問内容の一部を表1に示すが、これは個々のドライバーの持つ固有の性格に根ざす運転態度を検出して、そのドライバーの安全度を診断し、もし問題があればその具合の悪い要素に基づいた行動が運転中に出てこないように補完するための具体的な運転ぶりについてのアドバイスをコメントとして与え、安全指導を行なうという目的で警察庁が開発作成をしたSAS386型と呼ばれる診断用紙である(大塚、1986)。

質問
こたえ
 1.気分の滅入っているときでも、ハンドルを握るとすっきりする。 はい いいえ
 2.歩行者が多い所でも、自分のぺースで、調子よく走れる。 はい いいえ
 3.つい気軽に、車線を変えてしまう。 はい いいえ
17.黄信号でも、平気で交差点を通り抜けることがよくある。 はい いいえ
18.止まっている車のそばを、すれすれに通っても気にならない。 はい いいえ
19.ちょっとでもあいていれぱ。直ぐ車線を変えるほうである。 はい いいえ
20.よく追い越しをするほうである。 はい いいえ
21.前方があいていると、ついスピードが出てしまう。 はい いいえ

表1 安全運転自己診断用紙の一例

 本質問紙によって検出される態度要素は次の5項目である。

  1.  A1(この反対の要素をA2とする。以下同じ記号法を用いる):気分のおもむくままにまわりのことを考えずに走る運転ぶりで、明朗な楽天家であるが、落ち着きがなく、むら気で、スレスレ運転、衝動運転の傾向のある感情高揚性の強い人。
  2.  B1:何かに気をとられることがあると、それにこだわって危険予知力がにぶり、精神的圧迫から早く脱出したいので運転がためらいがちになる走りかたで、神経質傾向と抑うつタイプの内気で心配性の人。
  3.  C1:基本からはずれがちで、気分のおもむくままに他人の目に立ちやすい運転ぶりをするが、特に同乗者がいるようなときにこの傾向が顕著になる。つまり、軽率で、自分中心の自己顕示性の強い人。
  4.  D1:ほかの人のことを考えない自分勝手で荒い強引な運転ぶりの人で、エラーやミスをすべて相手のせいにしがちな非協調的、攻撃性の強い人。
  5.  E1:適度な緊張と安定した精神状態を保持できない不注意な運転ぶりで、上に述べた4要素の総合点として考慮される精神的不安定状態の人。

 こうして検出された態度要素から、そのドライバーの引き起こしやすい交通事故と関連の深い行動類型としての違反行為を推定して、これを戒めるコメントを与えているが、これは道路交通法の遵守を求める立場からのアドバイスとしてはうなづけるところである。
 例えば、D1=2という評点のドライバーには、「あなたの回答から自分勝手な運転ぶりとなりやすく、他人のことを配慮しない態度がうかがわれます。自動車の交通場面はいろいろな立場の人から成り立っているのですから、他人の立場を考えずに自分の都合のことだけを考えて運転するわけにはいきません。簡単に言えば、相手に積極的に進路を譲ることを心がけて下さい。警音器の使用も控え目にし、特にやたらに進路変更はしないこと、運行区分は必ず守ること、制限速度を越えないこと、合図もそこそこに、あるいは合図なしに進路変更や左、右折はしないことを必ず心がけて下さい」というコメントが与えられ、図1に示すイラストが象徴的な絵として添えられているのである。

運転ぶりを示すイラストの例(絵)

図1 運転ぶりを示すイラストの例

 このような5項目の検出要素ごとの自己診断スケールをチェックしたプロフィールを描いて示すと図2の通りとなり、一目でその人の運転ぶりを推定することができる。

自己診断結果のプロフィール例のグラフ

図2 自己診断結果のプロフィール例

 (2) 安全運転態度に関する検査
 職業として自動車を運転しているドライバーの運転ぶりが、安全運転自己診断の様式と類似した質問紙検査法によって検査されている。
 本研究で使用した検査用紙の質問内容の一部は表2に示すが、これは個々のドライバーに対して交通道徳や交通法規等の安全運転に対する考え方を調べ、自分の運転のくせを知り、「どのようなことに注意すれば安全運転ができるか」を助言するために、特殊法人自動車事故対策センターが開発作成した検査である。

該当するところの□の中に、斜線/を引いてください。

・信号が青になっていないのに発進することが時々ある。 はい□ いいえ□
・あなたは、かけごとをするが 非常に好き□ かなり好き□ やや好き□ どちらでもない□ 少しきらい□ かなりきらい□ 非常にきらい□

表2 安全運転態度の質問項目の一例

 この検査は、(1)運転に関する質問(15項目)、(2)交通に関する様々な意見に対する質問(5項目)、(3)ドライバー自身に関する質問(5項目)、(4)交通法規に関する質問(5項目)から成り、回答者は配布された質問用紙を読みながら、検者が質問項目を読むか、あるいは、あらかじめ録音テープに収録されたテープを聞かせられ、質問の1つひとつに答えるという方法によって回答する。その際、1つの質問が読み終えられてから次の質問が読み始められるまでの時間は常に定められているという強制速度法によって、回答するように求められる。従って、回答者は質問を十分考えることよりも、日常的習慣的に獲得している行動を答えとして書くように迫られると言えよう。回答様式は「はい」、「いいえ」という2つの選択肢の1つを選ばせるもの、「非常に~だ」、「かなり~だ」、「やや~だ」、「どちらでもない」、「すこし~だ」、「かなり~だ」、「非常に~だ」という7段階の、評定尺度上のある点を選ばせるもの、そして、「正しいもの」や「誤っているもの」を4項目の選択肢の中から1つだけ選ばせるものなど、様々である。この検査の中には、前述した「安全運 転自己診断」の項目と類似した質問項目が入っているが、対象が職業ドライバーであるために、質問も「実車のときは、かなり速度をあげて走行することが多い」というように職業ドライバー向けになっているが、非職業ドライバーの場合は「仕事で運転するときは」というように読みかえて質問するようになっている。
 この検査は個々の職業ドライバーに対して交通道徳や交通法規等の安全運転に対する考え方を調べ、自分の運転のくせを知り、「どのようなことに注意すれば安全運転ができるか」を助言するために作成されたものであるため、特に低い得点(換算値)を得たものに対して、特定の質問に対してどう答えたか、また、同時に実施する他の検査特にパーソナリティ検査の特定の要因に関する換算値がどうであったかによって、コメントの形で回答者の運転のくせおよび注意事項が示される。例えば、”換算値が2以下で40歳以上の人の場合で、「職場・境遇満足度」が1で、「感情の安定性」が3以下の人”に対しては、「安全への態度が充分ではないようです。中高年には、とかくいろいろな悩みを生じがちで、それが不安定な気持ちにつながり、人間尊重の心を失う場合もあります。もし、悩みがあるならば、信頼できる人に相談するなりして、早く解決するようにしてください」というコメントが与えられる。

 (3) 危険感受性に関する検査
 安全運転態度の検査と一体となった形で、職業ドライバーに対して、危険感受性に関する検査が特殊法人自動車事故対策センターによって開発作成されているが、本研究ではこの検査を使用した。
 運転行動において重要な側面は、①交通環境の中から、どのような情報を摂取し、②摂取された情報を利用し、③さらに、確認するために視野内を探索し、④数秒先の事態を予測する、あるいは潜在的な危険が存在するか否かを判断するといった知覚-判断・予測系とでも呼ぶことができるような心理的ブロセスであると言われている。この検査はこれらの心理的プロセスを測定するとともに、”危険感受性”とでも呼ぶべき内容を持たせたものである。
 検査の質問内容の一部は表3図3に示したとおりであるが、これは個々のドライバーに対して交通環境に対する状況把握の正確さと、その状況のもとにおける判断・予測の仕方および安全運転に対する姿勢のあり方を調べることによって、「どのようなことに注意すれば安全運転ができるのか」を助言するために、特殊法人自動車事故対策センターが開発作成した通称「危険感受性テスト」と呼ばれている検査である(深沢、1983)。

問題、この場面で、どのように走るつもりですか。
① 先行するパスに追従して走り続ける。
② 対向車がないので、先行するパスを追い越す。
③ 対向車がないので、左側停止中のバスを追い越す。
④ 速度を下げて、左側の停止車両の側方を通過する。
⑤ 速度を下げて斜線をもどし、バスの後方に停止する。
問題、後続車両はありましたか。 ① なかった  ② 1台  ③ 2台  ④ 3~4台  ⑤ わからない

表3 危険感受性検査の一部

A 危険感受性検査のテスト図版(絵)(A→Bの順)

図3A 危険感受性検査のテスト図版(A→Bの順)

B 危険感受性検査のテスト図版(絵)(A→Bの順)

図3B 危険感受性検査のテスト図版(A→Bの順)

 具体的には、この検査は運転席から交通場面を見るように描かれた図版(テスト図版)と質問用紙から成る。運転席からの見え方は車両構造などによっても大きく異なるため、テスト図版はバス、ハイヤー・タクシー、トラック用のものが作成されている。図版を作成するにあたっては、実際の車両を利用し、写真撮影を行なった後に、それを基にしてイラストレーション化した図版を作成している。したがって、図版は可能なかぎり実際の運転場面に近い形で作成されているといえよう。図版は1場面について2枚を使用し、1枚目の図版に対し、2枚目の図版は車両が約10m進行したように作成されている。一場面に2枚の図版を使用することは、被験者に事態の変化を読み取らせるとともに、次の事態を予測させることをねらったためである。
 テストの具体例について、ハイヤー・タクシー用の図版を例にとって述べる。まず、検者が「みなさんがご覧になる場面の状況、およびやり方を簡単に説明します」と言い、「少し前から雨が降り始めています。道路幅員約7mのガードレールのない、商店街を進行中です。これからも直進するつもりで、次の図版を見てください」と状況説明をする。次いで、「みなさんは、ハンドルを握ってこの道路を実際に走行しているつもりで、写真をご覧ください。A,Bの2枚の連続した写真を見た上で、自分ならばどのくらいの速度で、どのようなものに注意を払い、どのように走るつもりかを考えてください」とやり方を説明する。次いで、図版Aを示しながら、「絵の見方をご説明します。この絵は乗用車の運転席から写真撮影を行ない、撮影された写真をもとにかかれたものです。写真撮影を行なったために、フロントガラスは歪んでおりますが、これからご覧いただく絵は、このようなものだと思ってください。また、これからご覧いただく絵は、可能な限り実際に近い形にできています。皆さんは、このハンドルを握って、この場面を実際に走行しているつもりでご覧ください。それでは絵を見ていた だきましょう」と言い、必要な部分を指で示しながら、「雨が降っていますので、フロントガラスおよびフェンダミラーには水滴がついて、見ずらくなっています。また、左右には路側帯があり、歩行者が歩いています。さらに、左右には停止車両があります。それでは、右側の小型トラックに注意して、もう一枚おめくりください」と言う。場面Bを見せながら、「2枚目では、小型トラックが大きくなっています。おわかりになりますか。1枚目と2枚目の関係は皆さんが運転している車両が1枚目より2枚目では、前へ進んでいることを示しています。ご覧いただく場面は3つありますが、いずれの場面も2枚の絵からできており、2枚目の方が1枚目より、車両が前へ進んだようにできています。絵を見ていただきましょう。左右に路側帯があり、歩行者が歩いています。横断者が出てきました。また、停止車両が左右にあります。皆さんが、1枚目、2枚目を見終わった後、さらにどのように運転を続けていくであろうかと考えながらご覧ください。この中で質問させていただく点は3つあります。(1)どのくらいの速度で走りたいか、(2)どのようなものに注意したいか、(3)どのような運転を するつもりか、です。1点だけご注意申し上げます。このテストは絵さがし、間違いさがしではありませんので、速度計が反射して速度がよく見えないとか、時計が何時何分であったかなどはお尋ねしません。あくまでも、この場面を走行しているつもりで、絵をご覧ください。後で、絵は伏せてしまいますので、自分の考えを決めておいてください。お答えは、1枚目、2枚目と見終わった後での印象で結構です」と言い、再度、Aを10秒間見せた後、Bを10秒間見せ、Bを見せた後、次のぺージをめくらせ、図版を横に置かせ、質問用紙を開かせ、回答を求めるというやり方で実施する。
 この検査では次の5つの側面を見ることをねらっている。すなわち、(1)意志決定・態度(どのように走るつもりか)、(2)交通環境の知覚(~はどのような状態にあるか)、(3)交通環境への予測・構え(どのような状況になると思うか)、(4)速度評価(どのくらいの速度で走りたいか)、(5)安全運転上の知識である。1場面につき、5~7の質問があり、全部で19の質問に回答するように質問用紙が作成されている。
 この検査の採点は、①知覚に関するもの、②態度に関するものに変換され、最終的には両者の状態から総合的なものとして、危険感受性換算値として示される。この換算値は1,2,3,5の4段階で示されるが、総合換算値への変換は表4に従ってなされる。

危険感受性の換算値への変換のグラフ

表4 危険感受性の換算値への変換

また、知覚項目の換算値と態度項目の換算値の組みあわせによって、個々のドライバーにコメントという形で助言がなされる。例えば、知覚換算値、態度換算値ともに「1」の危険感受性劣悪者に対しては、「交通の状況を「「よく見よう」」とする積極的な姿勢がかなり不十分で、なお、「「先を急ぐ傾向」」がかなり強く、状況に対する判断も甘く、運転に慎重さが足りない点がみうけられます。したがって、これらの点を改めるよう心がけてください。状況のとらえ方と見通しが甘く、さらに先を急ぐ気持ちが強いというのは、決して好ましい状態ではありません。相手の動きや前後の状況に見落しや見誤りが多くなり、かつ危険を察知することがおろそかになります。たとえ危険な事態が感じられても、それを避けることができにくくなるものです。先を急ぐ気持ちを抑え、相手に道を譲るぐらいの気持ちを持つと同時に、交通の状況を「「しっかり見よう」」、「「危険を事前に察知しよう」」とする積極的な姿勢を十分に身につけてください。そうすれば、余裕のある慎重な運転が、自然と行なえるようになります」というコメントが与えられる。

2.対象

 安全運転自己診断の調査の対象になったのは昭和61年6月から9月までの期間に。北海道警察本部札幌運転免許試験場(札幌市西区曙5の4の1)に免許更新のために来場した人の中から協力を依頼し、対象者を選定した。年齢別の人数は表5の通りである。

年齢 人数(名)
59歳未満 14
60歳~64歳 58
65歳~69歳 24
70歳以上 12
合計 108

表5 安全運転自己診断調査対象者数

 また、安全運転態度および危険感受性検査の対象になったのは昭和61年4月から11月までの間に、自動車事故対策センター札幌主管支所(札幌市南8条西15丁目)に適性診断受診のために来場した人の中から協力を依頼し、対象者を選定したが、年齢別の人数は表6の通りであった。

年齢 人数(名)
60歳~64歳 86
65歳~69歳 45
70歳以上 15
合計 146

表6 安全運転態度および危険感受性検査の対象者数


主題・副題:
高齢者の運転適性に関する研究(2) 66~72頁

著者名:
森 二三男

掲載雑誌名:
高齢者問題研究

発行者・出版社:
北海道高齢者問題研究協会

巻数・頁数:
No.3巻 65~78頁

発行月日:
西暦 1987年 

登録する文献の種類:
(1)研究論文(雑誌掲載)

情報の分野:
(1)社会福祉

キーワード:

文献に関する問い合わせ:
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