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北海道における高齢者の雇用実態調査

NO.4

4 考察と結論

1.企業における高齢者雇用の現状と対策について

 道内企業の高齢者雇用は定年制、継続雇用のいずれについても実施が全国レベルより遅れていることは繰り返し述べてきたが、企業サイドからの選択継続雇用が多く、勤労可能上限年齢が曖味で、高齢者に対する退職金、適正賃金の設定がようやく緒についたにすぎない。それにもかかわらず雇用者は勤勉で、60~64歳層に対する企業のマンパワーとしての評価は高い。
 しかし問題点のひとつは、高齢者雇用が好況下の人手不足対策としてクローズアップしたにすぎず、全国的にもそうであったと同様に「60歳定年法」、「改正労働基準法」、「男女機会均等法」、「改正入国管理法」等々による高齢者、女子の労働市場への参入、ブラジル系二世、外国人留学生の研修目的による採用の道が開かれ、短時間労働、週休二日制の実施によって高齢者の労働環境整備がはかられてきたにすぎないから、いずれはわが国人口構造の変化に対応する職場環境造りが迫られるであろう。
 総務庁の人口推計によれば労働カ人口に占める女子労働力の増加は今後期待薄(注3)で、また外国人労働者依存には限界があるので、労働力確保は、高齢者の活用しかない。
 また高年齢者雇用開発協会の「企業の高齢化諸施策実態調査」(注4)によれば勤務延長導入企業57%、継続雇用導入企業62%となっているけれど、その雇用理念に関しては企業によって様々であって、労働力さえ確保できれば、図-2に示すとおり高齢者雇用に消極的な姿勢が浮かびあがってくるのである。最近の雇用調整という局面からみると、還択定年制による人選の強化の傾向から、むしろ雇用は後退する危険性さえ窺える。

高齢者雇用理念類型(%)

タイプ1 積極雇用型 他の労働力が確保できても、高年齢者を積極的に雇用したいと考え、しかも、企業は働く意志と能力がある限り、年齢に関係なく面倒をみるべきだとする 466 (17.9)
タイプ2 労働力型 他の労働力が確保できても、高年齢者を積極的に雇用したいと考えているが、ある程度の年齢に達したら、社会が面倒をみるべきだとする 214 (8.2)
タイプ3 企業福祉型 他の労働力が確保できれば高年齢者には依存したくないとするが、企業は働く意志と能力がある限り、年齢に関係なく面倒をみるべきだとする 945 (36.3)
タイプ4 社会福祉型 他の労働力が確保できれば高年齢者には依存したくないとし、しかもある程度の年齢に達したら、社会が面倒をみるべきだとする 851 (32.7)

※無回答 126(4.9)

図-2 高年齢者の雇用理念
財団法人 高年齢者雇用開発協会1991年3月「企業の高齢化諸施策の実態」

図-2 高年齢者の雇用理念を円グラフで表したもの
 さらに、高齢者の職務開発と教育の遅れは高齢マンパワーの活用を防げる要因となっていて、慣れた仕事を続けさせるという企業慣習が今回調査の多数意見として示されていた。
 実際には65歳までの同一職種の延長は、かなりの困難を伴うものと推定される。
 武藤泰明(1992(3))は、中高年齢勤労者の57歳までへの延長と65歳への延長が異質なものであり、60歳台の雇用を充実させるためには職務継続の枠を取り払って早めの職務移動をすべきであると提案している。
 これは大企業などのブルーカラーや、管理職、営業職種などにとっては重要な提言である。
 本研究の結果から継続雇用者に対する能力開発9%.職場改善、職域開発重視22%は、かなりこの問題への意識改革が緊急課題であろうということを示唆している。
大河内一男(1990(5))は、高齢者の再教育を強調し、高齢勤務者ひとりひとりに自分のマンパワーとの実態をよく自覚させるような教育をすることが結局は長く自分の性格や技能に適合した仕事を積極的に担当できる前提になると、個々の実情に即応した高齢者再教育の必要性を説き、シルバー人材センターの役割を力説している。
 また、ふたつめに高齢者雇用の改善対策として企業は、さきにあげた武藤泰明の重視する6項目が、本研究の考察としても重要であることを強調したい。すなわち、

  •  ① 職務環境の改善
  •  ② 雇用継続と職務継続は異なるので、早期の移動のための教育
  •  ③ 定年到達時の給与ダウンは社会慣行としてやむを得ないが、物価上昇をカバーし得る昇給率の確定
  •  ④ 「中高年お荷物視」を感じさせないように管理会計制度を確立し、収益貢献を評価する
  •  ⑤ 健康保持、増進
  •  ⑥ 勤務熊様の多様化とフレキシビリテイ

 これらに加えて、能力にみあった給与体系の整備と就業規則、労働協約の整備が急務である。
 また、政府のとりあげるべき対策としては、労働時間の短縮で、これは既にその気配が窺われるけれども、今後なお奨励金、補助金等の効果的交付によって企業の改善努力を促すべきである。また、年金制度への配慮を重視し、過去の制度改正によって支給額がアップした結果、図-3に示される労働力率の低下、すなわち「働かない自由の選択」をする高齢者が増え、さらに図-4に示される在職老齢年金の減額が、この傾向を強めてきたと推測される。

図-3 60~64歳男子の労働力率と年金/貸金比率を折れ線グラフで表したもの

図-3 60~64歳男子の労働力率と年金/貸金比率

:清家 篤 高年齢者雇用アドバイザー
特別研修「高齢者の労働経済学」配付資料
1994年9月
労働力率…総務庁「労働力調査年報」
年金/貸金比率…社会保険庁「事業年報」
労働省「賃金構造基本統計調査」

図-4 年金給付額と貸金をグラフで表したもの

(注)点線Aは平成2年4月改正分
実線Bは昭和64年12月まで支給分
図-4 年金給付額と貸金
:これからの賃金制度のあり方に関する研究会
「65歳までの継続雇用と賃金制度」1990年9月

 この問題から21世紀には65歳給付が検討の対象となっているが、当面、60~64歳の減額部分を65歳以上で還元すべきであり、全額は困難としても、これが就業意欲の向上につながることは異論のないところであろう。なお、年金支給時期の繰り下げがあるとすれば、早期支給の減額年金制度の導入が必須の条件となることを付言してこの項の結びとする。

 2.定年到達者のライフスタイルについて

 わが国の企業は福祉に関して熱意をもっているとは言えない証拠として、障害者を全雇用者数の1.6%以上法定雇用しなければならないにもかかわらず、大手企業ほどこの基準を充たしていない。それは、これまでのわが国の産業化の歴史的帰結ということであろうが、21世紀を直前にした現在、大げさな言いかたかもしれないが日本人の意識変革が要請されていると考えられるのである。
 いわゆる生き方の変革をライフスタイルの現状から探ろうとしたわけで、とくに定年到達者(到達前の離、退職を含む)の現在のライフスタイルの心理を因子分析した結果、60歳代の後半に至っても健常な高齢者の場合には、職務満足感を求め、仕事中心的な考え方が衰退していない勤労精神の旺盛な人が多いということが明らかになった。
 しかし70歳以降になるにつれて仕事の活動からはしだいに引退を予測する反面、福祉への関心と、活動への参加意欲が慕ってくる様子が窺い知られるのである。
 ふりかえってみると現在60歳以上の年代層の人たちは、戦前、戦中の苦難時代に働き盛りの時期を過ごした世代であって、戦後の経済社会の盛衰の渦中に身を置いて生活してきた人々であるだけに、今世紀初頭のM.ウエーバー(1920(1))あるいはM.シュヴアルツ(1923(2))らが20年代に主張した「職業専心の心理」の風化、空洞化してゆく時代の風潮に流されて、禁欲と節約を度外視して営利に走る人々の姿を目のあたりにして生涯を過ごしてきたのである。
 したがって只管、仕事に励まざるを得なかったために、ワーカーホリック世代とも呼べるようなライフスタイルを身につけてしまったと考えられる。しかしそれが高齢になってもなお人生に影を落としているとすれば、それは生きがいや幸せにつながると言えないのではなかろうか。
 21世紀には75歳以上の後期高齢世代の人々が65歳以上の人口の40%以上を超すようになると推計されている。そうなると高齢化社会というよりも実態としてはむしろ高齢社会化すると考えるのが妥当であろう。
 したがって国連が65歳以上を高齢者、すなわち老年期と区切ったときの平均寿命は1970年頃の時代であったけれど、それが現在80歳となっているのであるから大森弥(1989(4))が「65歳を老人とするのは不合理で、70歳とか75歳へと定義年齢を変える必要がある」と主張しているのも納得できる意見である。
 経済審議会は1992年6月に「生活大国五ヶ年計画」を首相に答申し、この計画の終わる1996年にわが国の生産年齢人口絶対数は減少に向かって65歳以上の人口が15歳以下の人口を上回る逆転現象となるという。しかしこの指摘にもかかわらず、高齢者を企業におけるマンパワーとして活用するか、すなわち人的資源活用計画を配慮すべきかについては全く触れていないのである。
 生活者中心の経済社会への変革をうたう重要な政策提言であるにもかかわらず、高齢者はこの限りでは生活者と考えられていないのではなかろうかとの疑問さえ湧いてきてしまうのである。
 こうした点をめぐり最近北方圏センター(社法、会長、樫原泰明氏)が地域特性にあった高齢者の就労のあり方に関する調査報告書を発表し、北海道における高齢者就労は、不十分、不満足な状況にあることを指摘し、

  1.  高齢者の労働能力の衰退は絶対的なものではなく、相対的であるから一定の年齢による退職の強制は年齢による差別であり、個人差の無視である。もちろん一律に高齢者を処遇するのでなく、個々の職業経験、技術、労働能力、勤労意欲などを個別的に評価し、活用していく社会的福祉的視点が必要である。
  2.  高齢期における就労および生活の問題は高齢以前における就労および生活の延長線上において把握され、それを土台として高齢期固有の問題が取り上げられ、論じられなければならず、このことが今後の重要な研究課題であるとしている。
     ところで、現在65歳以上の高齢者中で入院者は4%足らずであり2%ほどが在宅介護をうけているけれど、健常で就労能力をもつ高齢者は全体の70%をこえている。
     そうした時代には定年到達後の高齢者の面倒をみるのはまず第一に健常な高齢者それ自身であり、もう一方では今後ますます重要性を増すであろう地域居住の隣人、知人たちであろう。したがって今われわれがもっとも優先的に取り上げるべき高齢者福祉の課題としては「共に生きてゆく」高齢者の喜びを作り出していくための積極的な社会活動への参加であることを強調して緒びとする。

文献

1)M.ウエーバー著、梶山 力・大塚久雄訳 1967、プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神(上、下)、岩波書店
2)M.Schwarz,1923,Das Berufs Problem Seine Ursachen und Seine Beziehungen zu Wirts-chaft und Gesellschaft. M.Gladbach.Yolks-vereins Verlag Gmbh.
3)武藤泰明、1992、中高年雇用の発想転換、エルダーVol.6,32-37
4)大森 弥、1989、高齢者の社会参加とは、(那須修一監修、老年学辞典、11-13)、ミネルブァ書房
5)大河内一男、1990、高齢化社会に生きる、(社法)全国シルバー人材センター協会編集発行。

(注3) 財団法人高年齢者雇用開発協会1992年「高齢社会統計要覧」P31より 労働力増加数試算
  期間              男       女
昭和45年~昭和55年  336万人  161万人
昭和55年~平成2年   326    408
平成2年~平成12年   191    155

(注4) 同上協会1991年
「企業の高齢化諸施策実態調査」P14


主題・副題:
北海道における高齢者の雇用実態調査 147~150頁

著者名:
森 二三男、平山 明

掲載雑誌名:
高齢者問題研究

発行者・出版社:
北海道高齢者問題研究協会

巻数・頁数:
No.9巻 131~150頁

発行月日:
西暦 1993年 

登録する文献の種類:
(3)報告書(実態調査)

情報の分野:
(1)社会福祉

キーワード:

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