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幼児の集団指導-新しい療育の実践-

 5) 役割、生活、関係指導の展開

子どもが、生活のなで豊かに成長、発達していく基盤には、そこに、役割体験(さまざまな状況のなかで自分としてどのような役割をとっていくか)、生活体験(さまざまな生活領域での活動やその生活内容・方法の確立および広がりをどのようにつくっていくか)、関係体験(さまざまな人や物や状況にどのようにかかわり、その関係を発展させていくか)がなされていくことが重要である。
集団指導においては、集団活動のなかで、このような体験がより効果的になされていくことを意図して、役割指導、生活指導、関係指導、が統合的に展開している
同時に、これらのひとつひとつに焦点をあててみると、今この集団状況における子どもたちに顕在化している関係の仕方(関係発達)から、今主としてどのような指導の仕方を主導的にすすめていくことが、より発展的であるかを洞察する、それが集団指導の重要なめやす(方針)のひとつとなる(図1-8)。

図1-8 役割・生活・関係指導の展開

「図1-8 役割・生活・関係指導の展開」の図

次に、それぞれの指導の仕方を、子どもの集団状況における関係の仕方および自己構造化の類型との対応で整理すると次のよう(表1-3)に表すことができる。

表1-3 役割、生活、関係指導の展開 

集団状況における子どもの関係のしかた 指導の目的と方法 自己構造化の類型との対応**
役割指導 自己との関係 ○行動のしかたが過去的でそれまでの自己の生活体験が、現在での状祝の活動を規定する度合が大きい。
○母親の役割、子どもの役割が未分化(内在、内接的)
○一者関係的で自分の思うままにふるまう。
○集団状況において何との関係で安定するかをとらえ、その関係をすすめることにより集団状況における自己の安定化をはかる。
○今ここで新しく人や物に気づく体験を成立させる。
○状況における物、人の役割を分化してとらえ、そこにおける自己の役割を明確化することによって物を生かして使えるような態度が形成されるようにする。
○母親との共通活動をすすめるなどで共通基盤的な活動から徐々に母親と子どもの役割が分化するような活動をすすめていく。
○集団状況において、働きかけて変わりやすい物を手がかりにいろいろな物の機能に気づく体験を成立させる。
○集団状況において今自分として何をしたいか、どうするかなどの機能的な役割をとれるように補助自我的にかかわっていく。
基本型から連結型への拡大(eX.自己的人、自己的物を媒介に自発性を高める)

<基本型>
基本型 図A,B,C
<連結型>
連結型 図D,E,F
人との関係 ○人との包まれるような関係において安定する。(抱っこしたり、揺らしたり)
○人の働きかけにたいして情緒的な受けとめ方をする(笑ったり)、泣いたり)
物との関係 ○特定な物とのつながりが強い
○物に包まれたり、物を自己にとりこみながら試したり、物と自己とが一体化しながら自己関係的に加わる。
○自己と人と物とのかかわりが未分化から分化へ(類同的構造化から近接的構造化へ)
生活指導 自己との関係 ○行動のしかたが現在的で、ここにある物を尊重する。
○状況へのかわり方が2者関係的で他を受容する。
○母親の役割、子どもの役割が分化しており、状況の変化に即して自分を変えることができる
○生活縮図的場面を多くして、自己の経験領域、集団の活動領域を拡大し、そこでの活動が発展するようにかかわることにより生活領域の拡大をはかる。
〇身のまわりの自立をはかっていく。
○課題に気づき人とともにかかわっていく体験を成立させる。
〇物の機能に気づき目的に応じて使ってみるような体験を成立させる。
○活動と活動の連続的発展をはかっていくようにする(経過の充実)
○内的発展とともに外の物、人に気づいてどのようにかかわっていくかの方法(通路)の発見、拡大をはかっていく。
連結型の充実から複合型への分節化
(ex.分化活動及び生活縮図的場面における機能的役割明確化)

<複合型>
複合型 図G,H,I
人との関係 ○自己と他者の関係(自分にとってその人ばとういう人か)を意識的にとらえることができる。
○今、人とふるまうことで楽しい。
物との関係 ○新しい物とのつながりががつきやすい(ついた関係は固定しやすい)
○物の機能を知ってその機能にそくして使うことができる。
○自分で遊びをみつけて遊ぶことができる。
複合型の発展から交差型への転換。(ex.交差軌道領域などを媒介に相互にかかわりあう体験を積む)
下矢印
関係指導 自己との関係 ○行動のしかたが未来的で、現在を先の予測、洞察との関係でふるまう。
○状況へのかかわり方が3者関係的でまわりの物や人が生かされるようにかかわる。
○母親の役割と子どもの役割が分化しており、状況の変化をとり入れ自己を変化させてふるまえる。
○自己にかかわってくる集団状況を監督的にとらえ、人との関係が発展するなかで物及び自己との関係も発展するように、状況全体を変化させることができるように指導する。
○社会的役割をとって、他との役割連担により活動が発展しその成果が、皆に共有されるような体験が成立するようにかかわる。
○活動の動機、経過、結果の連続的発展がなされるようにかかわる。
○状況に応じて物を多様的に生かしたり、構成していく体験が成立するようにかかわる。
交差型の連続的展開

<交差型>
交差型 図J,K
接在型への多様的統合的拡大

<接在型>
接在型 図L

A~L:自己構造化の類型
S:自己領域
P:人領域
O:物領域
a~f:起動点
○:潜伏的
◎:機能的
●:関係的
人との関係 ○働きかけをことばで受けとめることができ、ほかの人と自分がいるなかで自発的にふるまえる。
○役割が分化し、分化した役割をとって役割交流が可能である。
物との関係 ○新しい物に気づき、積極的につながりを持つ。
○物を状況のなかでみたてたり、目的に応じて使うことができる。
○課題に即してふるまうごとができたり、自ら課題に働きかけて課題活動を自主的、集団的にすすめていくことができる。

 児童集団研修会「集団指導の理論、技法、実践」(前掲書p.66)

** 松村康平、佐藤啓子「人間発達についての関係学的考察5」(第30回 保育学会大会発表論文集1978)

 6) 遊びと治療(訓練)の統合 *)

「遊び」と「訓練」両者は、集団指導活動をすることにより、子どもの生活において統合的、関連的に生かされていくようにすることが可能である。
「遊び」が主として、①自分自身の充実発展をはかっていく活動(自発的創造的活動)とすれば「自己」との関係と、②「訓練」が主として課題、目標を成立させそれに即してすすめられていく活動とすれば「物」との関係と(「物的な性質」に気づいて働きかける活動)、③そこに子ども、指導者が参加し活動が展開するとすれば「人」との関係(人との共存)とが、集団指導活動においては、相互に交差、媒介的に関係しあいながら、子どもの全体的発達が促進されていく方向のなかで集団指導状況が多様に展開する。
そして、そこで活動することが、日常生活におけるふるまい方に生かされるようにするには、この①、②、③の統合的な展開が必要であり、それが可能な方法として、たとえば生活縮図的場面、課題状況場面が心理劇的に設定されすすめられていく方法をあげることができる。

 7) 物の生かし方 *)

集団指導活動においては、集団状況を関係的に構成する物(遊具、舞台、空間、自然、水、砂、音、光、影など)の役割を積極的にとらえ、集団状況の発展に効果的に生かしていくことが重要である。
大人と子ども、立っている場合と座っている場合、あるいは寝たままであったりする場合など物理的な上下関係に規定されがちの人と人とのかかわりあい方は、物理的環境の設定、空間の生かし方により変化発展する可能性をもつ。たとえば、図1-9の組み合わせ円形舞台は心理劇用の舞台からの発想によりつくられたものである。心理劇用の舞台はJ.L.Morenoの創案によるものである**)。現在心理劇を基盤とする種々なる活動領域で使われており、3段から成るものが一般的である。
図1-9 組み合わせ円形舞台

「図1-9 組み合わせ円形舞台」の図

1段目、2段目、3段目とそれぞれ高さが少しずつ変化する段から成る舞台を使用しての活動は、平面での活動よりも多角的に発展していく可能性をはらみ、それぞれの段においても、それぞれの高さ、位置、広さを生かした活動が展開できる。
また平面との関係で、物理的集団状況が分化し、舞台が活動のなかで目立つ領域となり統合領域として位置づきやすく、舞台の領域への移動がさそわれる。集団活動が舞台の領域に移動した時点では、今度は平面が目立ち、平面と舞台との関係活動(たとえばオーイと呼びあう)がさそわれやすい。また、組み合わせ、および移動が可能なため、中央を切り離し間をあけると「道」ができたり、半円2つをたてに平行に並べることにより「鉄橋」ができたりして、舞台が多様に使用でき空間を大きく生かす活動(遊び)が誘われやすい(図1-10)

図1-10

「図1-10」の図

これらの活動を通して子どもは物理的環境づくりにも自ら参加し、物の物理的性質を把握し、それと自己や人のあり方(姿勢、体の向き、高さなど)とが関連的に把握され、状況の発展を担っていくことが可能になっていく。
また、光(照明、自然の光)、影、音(音楽、リズム、擬音)なども集団状況の発展に効果的に生かすことが可能である。
フープ、つな、円筒、枠積木などは、空間への置き方(配置の仕方)、組み合わせ方、および状況における生かし方により多様な使われ方が可能である(例:フープがひとつであると自動車にみたてられたり、いくつも連結されると汽車にみたてれらたりする。床にたてるようにして使うとトンネル、窓、鏡などにもなる。つなはなわとびに使ってもよいし海の波にもできる。)
自然とのかかわりにおける多様な活動(散歩、外遊び、遠足、種まき、キャンプなど)の中で、また、自然のいろいろなあり方、たとえば人を包み支える自然(地球、天体、空気、太陽など)、それ自体の変化が人に直接的に働きかけ人もそれに即応したり、人から働きかけ生活に生かしていく自然(季節、風、雨、雪、地震など)、人が働きかけ保護し育てる自然(種をまき植物を育てるなど)、人が内面的に味わい表現していく自然(自然を鑑賞してそれを表現していくなど)、人々が協力しあいながら相接していく自然(山登り、キャンプなど)人がその成長のために内にとり込んでいく自然(皆で育て収穫しそれを料理して食べるなど)などのあり方が体験され、人と自然との接在共存が体験的に把握されていくようにかかわっていくことが重要である。
玩具(遊具)の役割(性質)については次のように要約される*)。①固有性(自立性)、②変容性(連続性、弾力性)<「同時性」>、③連結性(構築性)、④軌道性、⑤役割性、⑥行動性、⑦操作性、⑧動作性、⑨誘導性(誘発性)、⑩開展性、⑪変動性(変転性)、⑫含有性<「充満性」「粗薄性」>、⑬包含性<「受容性」、「舞台性」>、⑭表現性、⑮拡散性、⑯道具性、⑰素材性、⑱恒用性、⑲共有性、⑳媒介性など。
集団指導活動においても、これらの遊具の役割(性質)をふまえ、活動に発展的に遊具を生かしていくことが重要である。
以上のように、それぞれの活動において物の固有の機能が人と出会?たところで、その性質が理解されながら多様に(固有の機能に即して、目的に応じて道具として、状況に生かされ素材的になど)生かされ、集団状況および個々の発展、場面の発展に効果的に用意され使われて、人、物、自己の接在共存状況が明確化されていくことが重要である。

*)  吉川晴美「集団指導の意義とその基本的な考え方」前掲書(p.69) **) それが日本において持ち運び可能な舞台、舞台の上、中、下段を移動可能なようにつくられたり、また各段が折半、3分、4分などにされ使えるように考案され使用されている。 *)  松村廉平「子どものおもちゃと遊びの指導」フレーベル館、1970

 8) 母親集団との関係 *)

子どもの成長は、日常生活において密接にかかわりのある人(母親など)のあり方と大きな関連をもっている。子ども集団と母親集団とが(指導者集団を媒介として)段階的に共通活動、分化活動、交流活動、合同活動などの形態において関係しあうことによって母子ともに変化、発展がなされていく。
たとえば(図1-11参照)、母といると安定して集団で活動ができ、今後の方向として徐々に母子分化がはかられていく段階にある集団活動においては、まずいっしょの場で活動を始める(M1)。すなわち、母親との共通基盤に気づくなかで子どもが安定して活動にのぞめるようにする。(たとえば母といっしょにあいさつをする。いっしょにウォーミングアップ活動をするなど。)

図1-11

「図1-11」の図

次には、子ども集団の活動領域と同一の場の一角に母親集団が場所をしめて母親集団独自の活動(話しあい)を展開する。相互が見えていながら活動の形態として分化していき母子分化が徐々にはかられていく(M2)。
母子分化ができた段階においては、母親集団と子ども集団の活動領域がついたて(あるいはドアや窓が用意されている壁)を境にして物理的にも分化される。子どもと母親とが往き来する通路は用意されている(M3)。
分化が促進され、それぞれの自集団が確立してきた段階においては、集団と集団とが出会って交流する体験がつまれる。たとえば、子ども集団が製作活動をしていて展覧会が開かれる。その展覧会活動の発展に必要な役割、たとえばお客さんとして母親集団が参加したり、子ども集団の方からパンやさん、やおやさんなどのお店やさんになって母親集団へ売りに行ったり、それぞれの集団が役割をとって交流し合同の活動が展開する(M4)。
ここでは母親と子どもの固定した役割関係のみでなく、活動のなかでいろいろな役割をとりあって交流し、共通場面のなかでそれぞれが新しい体験をする。このように子ども集団と母親集団とが共通活動(内在内接的なかかわり方)から段階的に分化(外接的なかかわり方)、交流(内接、接在、外接的なかかわり方)、合同(接在的なかかわり方)しながら体験する多様的な関係のしかたが母子ともに日常生活での新しい関係のしかたに役立つようにする。

*) 吉川晴美「集団指導の意義とその基本的な考え方」『保育と集団指導』前掲書(p.81)

3 まとめと展望

「関係発展」「接在共存」をめざす集団指導の活動は、いわば、人間が生存し生活していく状況において、その基盤、核をなすものであると同時に、関係的存在である人が役割を連担しあい、よりよい状況を創造し、変革への道すじをつくっていくうえでの開かれた可変的な砦(共存の場)ともいえよう、
すなわち、子どもと、子どもにかかわる友だち、家族、指導者(教育((保育))、心理、言語、動作、医療、看護、福祉などの領域の児童臨床者あるいはそれを志す者)などが役割を連担しチーム状況を展開していくなかに、教育的な意味、治療的な意味、福祉的な意味、社会運動的な意味、地域運動的な意味などを広範に包含することが可能である。
このような集団指導の理論、技法、実践はどの集団、どの子どもたち、どの人たちにも活用されていくことが可能であり、それは、新しい統合保育のあり方であるといえよう。
そして、それがさらに、社会のいろいろな場で実践され生かされて、社会のより望ましい発展に結びついていくことが期待される。

(吉川 晴美)

参考文献
(1) 武藤安子「集団指導の問題とその指導」『保育と集団指導』ソシオサイコブックス、1974
(2) 鈴木百合子、土屋明美、吉川晴美「乳幼児集団活動に関する一研究」回本応用心理学会第45回大会発表論文集、1978


主題・副題:幼児の集団指導-新しい療育の実践- 81頁~88頁