幼児の集団指導-新しい療育の実践-
第6章 保育と集団指導
はじめに
集団指導チームに、保育が一専門分野として、初めて参加したのは昭和44年である。毎日の実践のなかでは、保育者が取り組まなければならない問題は多くあるが、研究テーマとしてとりあげてきたもので主なるものは次のようである。
- 集団指導における保育活動の内容(柴田由美子他研究*))
- 保育活動の場面分析(岩本幸子研究**))
- 保育課題の導入・展開の方法(岩本幸子・田中寛子研究***))
- 保育における集団形成の方法(田中寛子研究****))
本章は、それらの実践および研究の延長上にあるものである。保育課題の導入と展開の問題を通して、障害をもつ子どもののぞましい保育のあり方をさぐっていきたい。
*) 日本肢体不自由児協会「幼児集団指導」Vol.2、1972
**) 同上 Vo1.3、1973
***) 同上 Vol.5、1975
****) 同上 Vo1.6、1976
1 集団指導における保育の役割
1) 保育課題の導入について
子どもは、生活の中でまわりの人や物とさまざまにかかわりあいながら成長していく。子どもの自己と人と物とが関係しあう(かかわりあう)状況の発展をめざす集団指導においては、保育課題はどのような意味をもっているだろうか。保育課題が集団状況の発展に果たす役割を考えると、それは主に集団活動の内容を豊富にし、子どもの生活体験を広げ、深めることにあるといえよう。保育課題の導入、展開の過程においては、つねに、「子どもの自己、人、物のかかわりあいが、それぞれに展開する状況がつくりだされているだろうか」、「保育的な働きかけが、保育課題の単なる遂行のみに終始するのではなく、子どものかかわりあいを深めながらすすめられているだろうか」ということが吟味されなければならない。このような、保育課題と子どもと指導者が、お互いにかかわりあいながらつくっていく集団状況を大切にしていく保育の中でこそ、そこに参加している子どもの全体的発達がもたらされ、また、すべての子どもが参加できる保育をめざす基盤がつくられるのである。健常児といわれる子どもも障害児といわれる子どももすべての子どもが参加できる保育活動の本質がつねに追求されていなければならない。
2) 保育の目標について
集団活動の内容を豊富にし、生活体験を深めていく役割をもつ保育活動の目標をたてるのには、共に活動に参加する子どもの今の状態やその先への発達・発展の予測を必要とする。精神および身体の発達に何らかの障害をもっている場合には、特にきめこまかな配慮が必要になってくる。しかし、そのことは、障害の種類や程度に分けて、保育の目標をたてるということとは異なる。保育の目標はあくまでも、集団活動の発展の段階に位置づけられ、保育内容が子どもの生活経験を深めるものとなるようにしなければならない。
保育目標をたてるとき、しばしば「行事」をとり入れることについての是非が問題にされるが、まわりの社会と深く結びついた「行事」は、豊富な内容を秘めており、子どもの生活の意味を多様にいろどり、集団活動の内容を深め、広げるきっかけとして大きな役割を果たしており、集団活動の発展の「ふし」になる重要な保育課題とすることができる。ただし、「行事」のために集団活動をくみたてることの無意味さはいうまでもない。
保育目標は、あらかじめ保育担当者によりたてられるが、具体的な内容に関しては、その活動に同時に参加する他の専門分野において目ざされている目標も選択、統合しながらさらに深められる。
保育目標は、指導者が一方的にたてて、子どもに働きかけるというものではない。共に集団活動に参加している子どもの自発的な活動も生かされながら、その方法が明確化、多様化されていく。保育目標は生きているものであり、つねに変化、発展する。
保育内容を軸としながら生みだされるところの集団を発展させる技術は保育技法として位置づけ、先への保育目標に生かすことも重要だと考えられる。
2 保育実践<まめまき活動>の展開
以上の「保育の役割」「保育の目標」の考え方をふまえて、ここでは「まめまき活動」の実践(連続した4回の活動)を1例として取り上げ、保育課題の導入により子どもと課題と指導者のかかわりあいの中で、子どもの自己、人、物との関係がどのように変化していくかを明らかにすると共に、それをもたらすきっかけとなった指導者のかかわり方(保育技法)にも触れてみたい。
1) 実践のねらい
(1) 集団指導活動のカリキュラムとの関係
集団指導活動のカリキュラムは、1年間を第1期(4月~9月)、第2期(10月~3月)の2期に分けて、第1期は前期(4月~5月)、中期(6月~7月)、後期(8月~9月)の3期に、第2期も前期(10月~11月)、中期(12月~1月)、後期(2月~3月)の3期に分けてたてられる。
集団指導における全体のねらいをふまえながら、保育では次のようなねらいがたてられる(p.112参照)。
- 第1段階-共通基盤活動(新しい集団につつまれて安定する)
- 第2段階-役割活動(集団における自己、人、物の多様なかかわり方を体験する)
- 第3段階-課題活動(日常生活場面における関心が深まり集団活動に反映される)
- 第4段階-場面活動(活動領域が拡大され集団内の相互の交流が活発になる)
- 第5段階-統合活動(簡単なルールを理解して集団で目的を達成することを経験する)
- 第6段階-成果共有活動(集団の成果を共有し先の活動へと生かす)
ここに紹介する「まめまき活動」は、第2期の中期から後期における実践活動である。この活動に参加しているメンバーは、子どもが6人(役割指導グループ)、指導者4人(運動療法、言語治療、臨床心理、保育の各専門分野からの指導者チーム)である。
(2) 保育課題としての「まめまき活動」
この役割指導グループの集団全体の発達的課題として、さまざまな役割体験を通して自発性を高め、役割を他の人(母や友だちなど)と分けて担う体験をつみ重ねながら、他の人と自分が分化してとらえられ、多様な役割関係の変化が楽しめるようになることがあげられる。
日本古来の行事である「まめまき」の内容には、「オニ」に投影される対立的な役割感情と、「オニ」と「フク」が象徴する内から外へ、外から内への認識の成立、さらに「投げる」などの全身および手を使う運動などの要素が含まれていて、まめまき活動を保育課題として展開することにより、このグループのこの時期での個、および集団の全体的発達を促す活動内容として有効であると考えられた。
「保育課題」は、単に恒例行事だからという一面的なとらえ方で導入されることは望ましくない。保育課題が、子どもの個、および集団の発達にどのような効果をもたらすかという観点が必要である。つまり
① 「まめまき」という歴史的、社会的共通体験活動を通して友だちとの交流が深まる。
② 状況の中での2者関係的な役割体験を通して自己の役割が深化、拡大する。
③ おにごっこ活動を通してダイナミックな活動を楽しむ。
④ 製作活動で、顔の部位の配置を考えながらお面を作る体験をし、作ったお面を集団の活動に生かし、成果を共有する体験をする。
⑤ 日本古来の行事に親しんで参加する。
2) 実践の経過および分析
経過および分析に関しては表6-1に示すとおりである。
表6-1 「まめまき活動」の経過および分析
発展階段 | 場面 | 保育的なねらい | 活動内容 | 集団内におけるかかわり方の変化 | 技法 | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|
自己 | 人 | 物 | |||||
導入期 | ① | ○「まめまき活動」のウォーミングアップとして、 ・集団活動の共通基盤をつくる。 ・先の活動として「お面つくり」を予測しながらの顔の部位の位置の把握。 |
みんなで「~はどこでしょう」をうたいながら友だちや自分の身体の部分、部屋の中の物を探し指し示す。 | ・顔や体の部位に気づいたり、興味をもつ。 ・ごとば(認識)と行為(手の活動)の一致体験 |
・よく見知ったものを探しあてるなかで人とのやりとりを楽しむ。 ・歌の内容を集団で共有しながら歌う。 |
・空間的位置関係の把混。 | ・動作表現活動による自己表現・自己伝達拡大の技法 |
導入展開期 | ② | ・探索活動をしながら集団的な一致体験を深める(かくれる、みつける) ・移動により活動領域を拡げる。 |
室内をあちこち、階段の上下なども移動しながら、身近なものを探す活動、(ぬいぐるみ、母、友だち) | ・探索活動を通じてまわりの物に対する興味や関心が拡がる。 ・自発的活動による自己領域の拡大。 ・探しあてたり、探しあてられたりする体験の積み重ねのなかで役割のちがいに気づく。 |
・集団的に同一の役割をとりながら活動に参加する体験をする。 ・いない友だち(かくれている友だち)に気づく。 ・異なった位置関係がもたらす対人的位置変動の体験。 |
・移動することにより位置関係を様々な場所から集団的に確かめることにより活動領域が拡大する。 | ・対人関係一時切断・統合による対人分化の技法 |
③ | ・友だちとの出会いを楽しむ。 ・場面に応じたことばのやりとりを体験する。 |
かくれている友だちのところへ行って、「トントン」「コンニチワ」「バイバイ」のやりとりをしながらの活動。 | ・出会いの積み重ねのなかで、はたらきかけたり、はたらきかけられたりすることで役割意識が育つ。 | ・友だちとの出会いをことばのやりとりを通して楽しむ。 | ・「探す」ことなどの簡単な目的行動がとれる。 | ・対人関係一時切断・連結の技法 | |
展開期 | ④ | ・子どもの自発的活動に意味、内容をもたせて、集団的活動を展開する。 ・対立的場面への様々な対応の仕方を体験する。 |
深す人を鬼にみたてて家にかくれる。そこでの鬼とのやりとり体験(ダンボールの家にカギをかけるまね。鬼といっしょにごはんを食べる。) | ・対立的場面での様々な対応の仕方を体験する。 ・追いかける役割が「オニ」という意味づけをもつことで役割意識が高まる。 |
・対立的場面における人との2者関係的体験(オニとかくれる人とのやりとり活動)。 | ・視覚的にくきられた物の存在(ダンボールの家)により、内と外の領域が明確化される。 | ・対立場面設定による対人関係促進の技法 |
⑤ | ・おにごっこおの簡単なルールに基づく人への働きかけを楽しむ。 ・全身を使って動いてみる。 |
おにごっこ ①追いかける人と逃げる人に分かれて。 ②追いかける人はタンバリンをならす。 ③役割を交代しながらの活動。 |
・2つの役割を他の人と分化して担う体験をする。 ・働きかけ(追いかけ)に応じる態度が養われる。 |
・簡単な役割をとって友だちといっしょに楽しむ。 ・人との簡単な役割交代の体験。 |
・簡単なルールに気づきルールに即してふるまう体験をする。 ・物(タンバリン)に働きかけて表現する体験をする。 |
・物媒介による役割明確化の技法 | |
⑥ | ・対立的な役割関係から、日常生活に即した役割体験(ごはんを作る役割、買い物に行く役割など)をする。 ・いろいろな遊具を自分流に使いこなす。 |
鬼の家と逃げる家の2つのコーナーに分かれて、お手玉を投げあう。 各コーナーで独白の活動をする。 (ごはんをつくるコーナーとみかんを食べるコーナー) |
・「エーイ」「ソレ」などと、かけ声をかけることによって自発性が高まる。 ・日常生活に即した役割体験をする。 |
・同じ役割をもつ小集団に所属して、小集団がお互いに働きかけたり働きかけられる体験をする。 | ・お手玉(物)を、目標を定めて投げる体験をする。 ・いろいろな遊具を自分流に使いこなす。 |
・方向性提示による人関係促進の技法 | |
⑦ | ・コーナー活動が合流しての統合活動を体験する。 ・鬼に関するイメージを拡げる。 ・簡単な劇をみたり、簡単な役割をとって劇に参加する。 |
全体で集まり、ごはんを食べる。 鬼と、他の人形による即興劇をみて参加する。 |
・人形劇をみて鬼に関する自己のイメージが拡がる。 ・まわりの動きに気づいて、自分から働きかける。 |
・自分の活動の成果を人に伝えたり、人の活動の成果を知って共有する。 ・観客的役割をとりながら、劇場面に参加する。 |
・いろいろな物を自分の日常の生活体験に即して使う。 | ・活動の成果共有の技法 ・劇場面による観客および演者的役割体験の技法 |
|
⑧ | ・ルールのある遊びの中に伝承的な内容をとりいれて行事(まめまき)の期待を育てる。 | かくれんぼ ①鬼の役割を交代しながら。 ②近づいてくる鬼こ「オニワソト」とことばで働きかけながら。 |
・決められた様式に即してのことばかけやふるまい方を覚えることで、まわりへの働きかけの可能性が拡がる。 | ・2つの分化した役割を認識してひとつの役割がとれる。 ・人との共通のことばや様式を媒介に2者関係的体験が拡がる。 |
・複雑化するルール(課題)に気づきながらふるまう。 | ・演者的内容促進の技法 | |
⑨ | ・集団の共通課題活動において、手順にしたがって製作をする。 ・人や自分の顔の部位に気づきながらお面をつくる。 |
製作活動 鬼のお面をつくる(袋にクレヨンで顔をかく。目や回を開ける。ツノやキバをつける)。 |
・製作活動による自己表現をする。 ・顔の部位を確認する。 |
・人との共通活動を楽しむ。 ・まわりの人の顔の部位を確かめる。 |
・手順にしたがって製作をする。 ・身近かな道具を使いこなす。 ・素材に働きかけてそのものを変化させる。 |
・保育課題提供の技法 | |
⑩ | ・活動の成果をたしかめ、課題の遂行にともなう完成の喜びを味わう。 | 作ったお面を友だちにかぶってみせたりその自分の姿を鏡に映してみたりする。 | ・活動の成果を画分でたしかめる。 ・出き上ったお面をかぶったりはずしたりして自己の変化体験をする。 |
・活動の成果を人とたしがめあう。 ・人の作ったお面を見ていろいろな表情のあることに気づく。 |
・物(お面)を自己や人との関係に媒介的に働かせる。 | ・物媒介人関係促進の技法 | |
⑪ | ・自己の成果と、集団活動の体験を統合させて新しく集団活動を展開させる。 | お面をかぶって、鬼の役割をとって遊ぶ ・鬼ごっこ ・かくれんぼ ・即興的な劇遊び。 |
・それぞれのあそびを通して、いろいろな役割体験をする。 | ・集団の力動的な関係の中で、人との関係を深める。 ・お面をかぶることでもうひとりの自分と、人とのかかわりあいによって、人との関係が新しくなる。 |
・物を活動にいかして使う。 ・それぞれの遊びで、いろいろな簡単なルールを使い分けながら活動する。 |
・役割操作による集団共通体験の技法 | |
⑫ | ・伝承的な行事をよく知っている母集団と共に行事に親しんで参加する。 | 母子合同でまめまき活動をする。 | ・行事に参加することで自己の生活経験が拡大する。 | ・他集団との共通活動を楽しむ。 | ・物(お面)を行事に位置づけることで物(お面)の活動における意味が変化する。 | ・他集団結合による自集団明確化の技法 | |
発展的転回 期 |
⑬ | ・さまざまな役割が交差しあいながらの空想的場面活動を楽しむ。 ・新しい保育課題に前の保育課題を発展的に活用する。 |
いろいろな動物のお面をつくり動物になって空想的場面でふるまう。 | ・動物のお面を媒介に多様な役割変化体験、役割交差体験をする。 | ・いろいろな動物(人)がいきかい1かかわりあう空想的場面状況を楽しむ。 | ・物(お面)を多様につくりかえて活用する。 | ・空想場面設定によるイメージ拡大の技法 ・行為表現による独自性促進の技法 |
3) 実践の考察
(1)ここでは、保育課題と子どもと指導者との相互のかかわりあいによってつくられた集団活動状況(表6-1)から、まず保育課題が、どのように発展していったかを、各発展段階における場面ごとに整理し、その特性をあげ、次におのおのについて、それらがもたらされるきっかけとなった保育技法と、その効果について述べてみたい。なお、各段階の①、②…は経過(表6-1)の場面の番号と対応する。
<導入期>
① 保育課題の展開
- みんなでまるくなって「△△はどこでしょう」をうたいながら友だちの顔や体の部分、部屋の中の物を探す活動において、まわりの人(母、友だち、先生)のなかで安定して参加している。そこでは自分も表現活動を楽しむことができるが、かなり自己が中心的で、まわりの人に、というより、自分や自分の身近な人(母など)に向けて働きかけをしている。また、探す対象も、自分の興味あるよく見知ったものだと自発的に探すなどの1者関係的な意味あいの強いかかわり方がうかがえる。
保育技法
- 動作表現活動による自己表現・自己伝達拡大の技法
効果
- 歌をうたったり、身ぶりをつけるなどの表現活動をすることにより、自発性が高まり、まわりの人にも気づきやすくなる。
<参入展開期>
② 保育課題の展開
- 探しあてたり、探しあてられたりする探索活動において、かくれている自分と探す人、また、探す自分とかくれている人の役割のちがいに気づく。しかし、それは、特定の人や物(たとえば、母やお気に入りのぬいぐるみ)との関係で役割のちがいが分化してとらえられやすくなっており(たとえば、自分の母を探しあてるまで探しあてた気にならない)、特定な人や物との初期的な2者関係活動が展開している。
保育技法
- 対人関係一時的切断・統合による対人分化の技法
効果
- かくれんぼなどの、かくれたり探しあてたりする活動で、かくれる役割、探す役割などの体験を通して、人との役割のちがいに気づき、自己と人との分化がはかられる。
③ 保育課題の展開
- タンボールの家にかくれて、家の中と外から、「トントン」「コンニチハ」「バイバイ」のやりとりを重ねていく過程では、視覚的にくぎられた領域(家の内と外)に位置することにより、外の人と内の人との分化がはかられ、役割がとりやすくなる。そこでは、「コンニチハ」「トントン」など、自己(自己領域)が人(他者領域)に働きかけ、また、人が自己に働きかけての活動が展開していることから、2者関係活動が成立している。
保育技法
- 対人関係一時切断-連結の技法
効果
- 人と「コンニチハ」「バイバイ」などのやりとりをしながら出会いを横み重ねることにより、出会った人に気づき、より身近な人に感じられるようになり、関係が発展しやすくなる。
<展開期>
④ 保育課題の展開
- 鬼が「食べちゃうゾー」といい、家にかくれている人が「食べられないようにカギをガチャガチャ」かけるまねをするというような対立的場面において、「探す役割」が「鬼」にみたてられることで、「探す役割」に対するイメージが広がり、役割がとりやすくなり活動内容も広がってくる。そこでは、鬼の自分と家の中の友だちや先生、または家の中の自分と鬼である友だちや先生との関係でのさまざまな働きかけあいで、2者関係活動が成立しているが、それはかなり友だちへの働きかけというよりも、指導者への働きかけの方がめだっているように思われる。
保育技法
- 対立場面設定による対人関係促進の技法
効果
- 対立的場面のなかで鬼になって攻めたり、家の中でカギをかけて守ったりの、2つのはっきりした役割が認識されやすい状況の中で、自己が高まり、働きかけ、働きかけ合うくり返しの連続が人を意識させ、広げる役割をする。
⑤ 保育課題の展開
- 単純な「おにごっこ」の遊びにおいて、鬼がタンバリンをたたくことで目立ちながら、友だちや先生を追いかけることで、鬼と自分、鬼の自分と人、という2つの役割が明確化され、それぞれが2つの役割を意識しながらの、力動的な2者関係活動が展開されている。
保育技法
- 物媒介による役割明確化の技法
効果
- 鬼の役割の人がタンバリンをたたきながら追いかけることにより、視覚的、聴覚的にも役割がとらえやすくなり、また、タンバリンが近づいたり遠のいたりすることで、鬼の動きがとらえられやすくなる。
⑥ 保育課題の展開
- 2つのコーナーに分かれて「バクダンダゾー」とお手玉を爆弾にみたてて投げっこをする活動において、物(お子玉)を媒介に人との3者関係活動が展開している子どもの層と、物と自己との関係で2者関係活動が展開している層(投げられてきたお手玉に当たることで自己が高まる。お手玉を投げること自体が楽しい)とに分かれながらの投げっこ活動が展開している。
保育技法
- 方向性提示による人関係促進の技法
効果
- 2つに分かれてお手玉の投げっこをすることにより、コーナー内の方向意識(向こうのコーナーへお手玉を投げること)が同一化し仲間意識が深まる。
⑦ 保育課題の展開
- 各コーナーで作ったもの(ごはんなど)をみんなで持ち寄って、人に配ったり受け取ったり、食べたりすることにより、どの層においても共通場面の中で自己、人、物(ごはんなど)との3者関係的な体験がなされている。 鬼と他の人形による即興劇を友だちといっしょに見る場面では、劇をみている自己と、劇に登場する人形(物)との2者関係活動が展開しているが、簡単な役割をとって劇に参加してみることにより、人形と子どもと場面が相互に働きかけあいながら、劇の内容をつくっていき、3者関係活動が展開している。しかし、目だつ物(人形)とのかかわりあいが中心であるので、いっしょに見ている友だちと自己との関係は外接的である。
保育技法
- 活動の成果共有の技法
- 劇場面による観客および演者的役割体験の技法
効果
- つくったごはんをみんなでもちよって食べることで、それぞれの活動の成果が全体の中でさまざまなかたちで生かされることにより、自己の活動が再確認され、他の人の活動が意識され、人との関係が広がる。
- 劇場面に参加することにより、多様な役割体験をすることができる。
⑧ 保育課題の展開
- 簡単なルールに即しての「かくれんぼ」の活動において、かくれる人と鬼になる人との役割交代をしながら、自己と人と物(場面)において力動的な3者関係活動の体験をする。
保育技法
- 演者的内容促進の技法
効果
- 共に活動をすすめていくなかで、指導者のかかわりによって、場面がはっきりしたり(たとえば「次のオニさんは~ちゃんネ」などのことばかけ)、活動の結果が確認されたり(たとえば「~ちゃんと~ちゃんがみつかっちゃったのネ」など)、次の活動が促進されたり(「まだ見つかっていない人、だれかしら」)しながら、内容が全体の中で明確化され、促進されてゆく。
<発展期>
⑨ 保育課題の展開
- 鬼のお面の製作活動において、素材に働きかけて物を変化させ、自己を表現するということから2者関係活動が展開している。しかし、「~ちゃんのオニの目、大きいネ」などのことばかけで他の人の作品に気づいたり、「そこの赤いクレヨンかしてください」などと人との物の貸し借りによって、自己、人、物の3者に気づきながら活動が展開している層も多い。
保育技法
- 保育課題提供の技法
効果
- 新しい保育課題を活動の内容におりこむことにより、集団間関係が新しく展開、発展する。
⑩ 保育課題の展開
- 製作した物(お面)を人に見せて、活動の成果をたしかめあうことにより、お面をつけて鏡に向かった新しい自己、いろいろなお面をかぶった友だち、できたばかりのさまざまな色や表現をしたお面との関係で、それぞれがビックリしたり、笑い合ったり、完成の喜びを表現したりして新しい自己、人、物の3者関係が展開する。
保育技法
- 物媒介人関係促進の技法
効果
- お面をかぶった人、はずした人のちがいに気づきながら、それぞれの作品をだしかめあうことで、人との関係が促進される。
⑪ 保育課題の展開
- お面をかぶった自分、お面をとった時の自分が分化しながら、「オニダゾー」とおいかけたり、「キャー」と逃げたり、「コラー」「マテー」と鬼をおいかけたりする活動状況で、自己と人と物(場面)において力動的な3者関係活動が展開している。
保育技法
- 役割操作による集団共通体験の技法
効果
- お面をつけたりはずしたりしながら、鬼と逃げる人の役割りを操作しながら集団で活動をすすめてゆく。
⑫ 保育課題の展開
- お母さんたちのまめやさんに豆を買いにいくことにより、自集団と他集団において、豆を媒介に3者関係が成立しており、まめまき活動では、自己と、母を含めたまわりの人と、まめまきの行事(物)との3者が「オニワソトー」「フクワウチー」などの掛け声をかけあったり、「お外にもまこう」「アッチにも」などとお互いにかかわりあい高めあいながら、3者関係活動を展開している。
保育技法
- 他集団結合による自集団明確化の技法
効果
- 新しい集団(母集団)が活動に参加して、今までの自集団の成果(それぞれの製作したお面を見せたり、製作過程を話したり)を伝えることで、自集団が明確化され、活動が再確認され、次への活動の契機となる。
<発展的転回期>
⑬ 保育課題の展開
- 自己のイメージの広がりを、製作活動においていろいろな動物のお面をつくることによって表現することで、自己と製作物や素材(物)との関係が広がっていく。その成果、喜びを友だちや先生と共有しながら空想場面において(お面をかぶって)生き生きと(いろいろな動物の)役割をとり、また交代しながら、自己と人(友だち、先生)、物(お面、空想場面)が相互に、より発展しあいながらのダイナミックな3者関係活動の発展がうかがえる。
保育技法
- 空想場面設定によるイメージ拡大の技法
- 行為表現による独自性促進の技法
効果
- 空想場面を設定することにより、動物やまわりの状況に対するイメージが広がり、役割がとりやすくなる。
- いろいろな動物になり、そのお面をかぶってそれぞれ行為で表現する様子や、また、おもしろい動きや、自分なりに表現している様子を目だたせたり、「~しているみたいだネ」などと、みたてることにより、行為表現が促進され、独自性がうながされる。
(2)次に、活動が発展するにつれて、子どもの自己、および人との関係またまわりをとりまく物との関係がどのように変化し、発展していったかというかかわり方の変化・発展を整理したものを表6-2に示す。
表6-2 かかわりかたの変化・発展
段階 | 自己との関係 | 人との関係 | 物との関係 |
---|---|---|---|
導入期 | 自己が広がり自発性が高まる。 | 人との共通活動を楽しむことができる。 | 空間的位置関係の把握。 |
導入展開期 | まわりの動きや変化に興味、関心をもち、そのなかでふるまうよう体験をする。 | 人とのやりとりを楽しむことができる。 | 空間的位置関係の認識。 |
展開期 | まわりの動きや変化をとらえ、そのなかで活動ができる。 | 人との関係で役割がとれる。 | 簡単な課題を理解することができる。 |
発展期 | まわりの動きや変化をとらえ、それに即したふるまい方ができる。 | 活動の成果を人と共有する体験をする。 | 課題に即して物を使い活用してみる体験をする。 |
発展的転回期 | まわりの動きや変化をとらえ、状況に役立つふるまい方ができる。 | 役割をとって状況を変化させたり、発展させたりすることができる。 | 物を多様につくりかえ、活用することができる。 |
まとめ 集団における保育課題が、「集団に即して実現されていく過程で、新しく作られていく目標と関係しあってすすめられていく*)」ことを実践的なプロセスに即してあきらかにしてきた。
そのような過程的活動の中で、はじめて、子どもの自己が広がり、広がった先でまわりの物や人に働きかけ、そのことが次の働きかけを生み出し、子どものまわりとの関係の担い方が1者関係的、2者関係的、3者関係的に変化しながら、のぞましい全体的発達が促されると考えられる。保育者が一方的に課題を導入したり、あるいは、子どもの自発的活動にまかせておくというのではなく、子どもと指導者と課題とが、相互にかかわりあいながら、活動自体を生き生きと創っていく。その過程で、個々の子どもも伸び、集団全体も伸びていくことを保育者が認識して、実践活動を展開することがのぞましい。(小笠原範子)
*) 武藤安子「集団指導の問題とその指導」「保育と集団指導」ソシオ・サイコ・ブックス、1974
参考文献
(1) 田中(飯塚)寛子「集団指導における保育課題の導入・展開」「保育のための方法」フレーベル館、1975
(2) 日本肢体不自由児協会「幼児集団指導」、Vol.1~8、1970~1978
主題・副題:幼児の集団指導-新しい療育の実践- 181頁~194頁