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障害のある人々の人生の機会の改善 最終報告 2005年1月

概要

キーポイント

 この報告書は、障害のある人々が「機会ある社会(opportunity society)」に完全参加できるような意欲的な行動計画を述べている。障害のある人々の自立を支援することによって、障害のある人々の参加やインクルージョンに一段の変化をもたらすことができる。

 本報告書は、政府が障害のある人々の人生の機会の改善に向けた意欲的なビジョンを設定すべきであると提案している。英国の障害のある人々は2025年までに、彼らの生活の質を改善するために完全参加の機会と選択肢を持ち、さらに社会の平等なメンバーとして尊敬され、社会に受け入れられなければならない。

 障害のある人々に対する今後の戦略では、4つの主要分野における実践的な施策を通して、このビジョンの実現を求めている。

  1. 障害のある人々のための個人予算に段階的に移行することによって、受給資格のあるサービスを統合することによって、また、現金給付あるいは直接サービスという形で受ける支援について大幅な選択肢が与えられることによって、自立生活を達成するように障害のある人々を支援する。短期的には、障害のある人々が利用できる相談サービスを改善し、適切な住宅や移動に関する現在の諸問題に立ち向かうための施策が講じられることになっている。
  2. すべての子どもたちに提供される保育や初等教育の恩恵を障害のある子どもたちの家庭にも保証すること、障害のある子どもたちがいる家庭の特別なニーズを満たすこと、手続きや資金の流れに焦点を当てるのではなく障害のある子どもたちとその家族に焦点を当てたサービスを保証することによって、障害のある子どもがいる家庭への支援を改善する。
  3. 成人期への移行やこれに伴う支援に向けた効率的な計画実施のためによりよい仕組みを構築すること、サービス提供の谷間をなくすこと、障害のある若い人々は(教育や雇用の)機会や選択肢という面でより透明な、より適切なメニューにアクセスできるようにすることによって、成人期へのスムーズな移行を容易にする。
  4. 金銭給付の申請が出る前に支援がうまく利用できるように保証すること、受給資格 の評価方法等を再整備すること、障害のある人々に効果的な仕事中心の訓練を提供すること、仕事へのアクセス、その他職場における支援を改善することによって、就職、雇用継続に向けた支援やインセンティブを改善する。これらは、障害のある人々の就労機会を高め、英国政府の雇用に関する全体的な目標達成に貢献することができる。

この一連の施策は、障害のある人々の選択肢を拡大し、意欲を高める。それは、短・中・長期的に、障害のある人々、その家族さらには広い意味での社会にとってプラスの結果をもたらすものである。英国政府は既に、本報告書のすべての勧告を承認している。現在、障害者担当大臣に報告義務のある新設の障害者施策室によって戦略が推進されている。年次報告書も現在準備されており、今後首相に提出され、ウェブ上で公開される予定である。これらの施策の実施に際しては、障害のある、あるいは介護が必要な高齢者のニーズを考慮することになっている。

 

障害(disability )は機能障害(impairment)や疾病(ill health)と区分されるべきである

本報告書では、障害を以下のように定義する;

障害、機能障害、疾病を明確に区別することが必要である。機能障害とは、個々人の機能や外見に影響する長期的な特徴である。疾病とは、病気(disease)あるいは病(sickness)の短・長期的な結果である。 機能障害や疾病を持つ人々の多くは、自分自身を障害のある人とは考えていない。

障害のある人々は広範なバリアに直面している

障害のある人々が直面するバリアには以下のような種類がある;

  • 例えば、障害のある人々自身、雇用者、医療従事者、サービス提供者の中に見られる態度のバリア
  • 障害のある人々を考慮しない政策策定や政策実施に起因する政策的なバリア
  • 例えば、個々の建物の設計や交通システムのデザイン等を通した物理的なバリア
  • エンパワーメントに繋がるバリアで、これらは障害のある人々に意見を求めない、相談しない、関与させない結果である。

 これらバリアの積み重ねによって、障害のある人々は社会や経済の主流から端に追いやられている。これらのバリアを取り除くことが、障害のある人々をエンパワーメントする、さらには障害のある人々に家庭、コミュニティや職場で自らの責任を果たす機会を与えるための鍵である。今こそ依存、低い期待という文化に終止符を打ち、社会参加できるよう障害のある人々をエンパワーメントし、障害のある人々に投資する社会へと向かうべき時である。

障害のある人々の人口は大きい

 最も広い障害の定義を使うと、英国には現在、約1100万人の障害のある成人がおり-これは全成人人口の5人に1人に相当する-、さらに約77万人の障害のある子どもたちがいると推計されている。これらの人々の多くは自分自身を障害のある人とみなしていない。障害のある人々の大多数は軽度の機能障害であり、車椅子利用者、盲人、ろう者は障害のある人々の中で主要な少数派を形成している。障害のある人々の人口は障害関連手当を受給している300万人とは区別され、実数ははるかに多い。

…極めて多様である…

 障害のある人々の人口は極めて多様である。あらゆる年代の人たち、収入や教育面でも様々な背景をもった人たちが含まれている。障害のある人々の機能障害にも大きな差異がある。このため、一般化はしばしば意味を成さない。異なる機能障害、異なる社会人口学的背景を持ち、異なるバリアに直面している障害のある人々は日々極めて異なった経験をしているはずである。

…そして変化しつつある

 高齢者は若者よりも障害をもちやすい。しかし、過去30年にわたって、障害発生率がもっとも急速に上昇しているのは子どもたちである。ただし、これが(実態そのものではない)報告率の上昇をどの程度反映しているかは明らかではない。機能障害の傾向は、自閉症領域や精神保健の障害といった複雑なニーズを持つと報告されている子どもたちの数の増加を示している。成人については、身体に障害のある人々の数は減少している一方で、精神疾患や行動障害が報告されている人たちの数が増加している。本報告書は主に、年金受給世代より若い障害のある人々のニーズに関するものであるが、本報告書に掲げられる多くの提案は全生涯にわたって障害のある人々の人生の機会を改善することに寄与するものである。

【訳:松浦俊之】

障害のある人々は日常生活のさまざま面で不利益を被っている

障害のある人々は障害のない人々と比較すると、

  • 貧困傾向にある -障害のある人の収入は平均して障害のない人々の収入の半分以下である。
  • 学歴が低い傾向にある -学歴のない人の割合が高い。
  • 未就労の傾向にある -就労年齢で見て、現在就労中の人は、障害のない人々では5人に4人であるが、障害のある人々では2人に1人だけである。
  • 増悪による犯罪(もしくは迫害)や嫌がらせといった問題を持つ傾向にある -障害のある人々のうち4人に1人(25%)は増悪による犯罪や嫌がらせを受けた経験を持ち、精神的な問題を持っている人々の場合この数は47パーセントに上る。
  • 住宅問題を持つ傾向にある -障害のある子どもを持つ10家族のうち9家族までが住宅問題を抱えている。
  • 交通手段に問題を持つ傾向にある -この問題は障害のある人々にもっとも大きな課題である。

しかしながら、この原因は逆もまた真である。すなわち、所得が低く、失業中、あるいは学歴が低い人々も障害のある人になりやすいということである。

障害のある人々の中でも一部の特別なグループにとっては不利益が特に著しい

障害のある人々はしばしば労働市場の中でさまざまな形の不利益を受けている。

  • 40パーセント以上の人々は、未熟練労働者である。
  • 就労年齢にある人々の中で約25パーセントは、50歳以上である。
  • 約10パーセントの人々は、黒人またはマイノリティ出身者である。

 これらのグループにとって、人生の機会と生活の質により大きな影響を与える累積的な問題が生じ得る。一部の特別な機能障害を持つ人たちは、殊のほか悲惨な結果に直面している。精神保健上の問題や知的障害を持った人たちは学歴が低く、また労働市場に適応せず、概ねその他の障害のある人々より所得が低い。

障害のある人々の不利益は、大きな経済的、社会的損失である

 障害のある人々の多くが経験する不利な状況は、彼ら自身やその家族の生活の質を低下させている。障害のある人々の多くは、社会から隔てられ、期待されず、社会の重荷になっていると感じている。彼らの家族(親、子ども、兄弟)は拒否的な態度や貧困、さらには社会的排除に直面する可能性がある。障害のある人々の多くは、生きるに必要な支援を受けなければならない時に、官僚制と闘うために多くの時間を費やしていると感じている。

 これは経済的、社会的な損失である。障害のある人々の多くは、地域社会や経済に対して有益な貢献をすることができない。ただし、適切な支援が受けられれば、仕事をして積極的に社会参加が可能である。現在失業中の障害のある人々は膨大な潜在的なスキル・能力を持っており、潜在的な能力が触発され、期待が高められばいいだけのことである。障害のある人々の大多数は、働き、収入を得て、消費し、納税するためにエンパワーされる代りに、政府の支援や給付に依存する存在に置かれている。さらに、若い時の低収入によって障害のある人々は老後の豊かな生活を奪われ、こうして退職後も不利益を引きずることになる。

政府介入が必要とされる多くの理由

 障害のある人々の人生の機会の改善に向けた政府の介入は、真に「機会ある社会」の建設において重要な要素である。社会的正義は、障害のある人々の機会、選択肢、エンパワーメントを拡大し、さらには多様性を促進して、社会全体の生活の基準を引き上げるために施策を講じることを政府に要求している。多くの場合、こうした介入は、技術面の拡大、生産性の増大を通して経済にプラスの効果をもたらす。

 また、一部のケースでは、介入は単純に財政的に正当化できる。たとえば、障害のある人々をどんどん仕事に就かせれば、税収は増大し、障害手当の歳出は抑えられる。

これらの障害を除去することは政府だけの問題ではない

障害のある人々自身、雇用者、保健の専門家、教育者、地域社会、商品やサービスの提供者などすべてが障害のある人々の人生の機会を拡大させることにおいて重要な役割を持っている。

 障害のある人々が政府の支援やサービスを受ける際の体験を変えることが必要である。障害のある人々は、不安定で、複雑で官僚主義的なシステム、さらには障害のある人々のニーズをサービス提供の中核に位置づけないシステムと闘っていると感じている。公的サービスの改革と投資は、未だ障害を持つ人々に十分な恩恵をもたらしていない。

この報告書は、障害のある人々の人生の機会の拡大に意欲的なビジョンを示している

 障害のある人々が直面している不利益を取り除くために必要な第一歩が取られなければならない。これは一朝一夕に起こるものではない。このため、この報告書では意欲的な20年のビジョンを打ちたてている。 「2025年までには、英国の障害のある人々は、生活の質を高めるための完全な機会と選択肢を持ち、社会の平等なメンバーとして尊敬され、受け入れられなければならない。」

このビジョンを実現するためには、1997年以降に見られた進捗に基づき、革新的な戦略が必要である

 この報告書は変革のための長期的な戦略を述べている。その戦略は、障害のある人々の権利意識を目覚めさせ、社会に包含することであり、彼らが受けるサービスを個別化し、参加とインクルージョンへの障壁を取り除くことである。これは、障害を持つ人々の権利の促進と保護、選択肢の拡大、教育、雇用その他の社会参加への支援などの面で既に行われた相当な改革の上に打ちたてられるものである。

戦略の中核的部分は自立生活の促進であるべきである

 自立生活がこの戦略の中心に置かれている。自立生活とは、自分の家で生活できることだけを指すのではない。それは多くの障害のある人々にとって自立生活の一部にすぎない。むしろ、自立生活とは障害のある人々に以下を確保することである。

  • 選択肢
  • エンパワーメント
  • 自由

 これは、障害のある人々がすべて自分ですることを期待されているという意味ではない。むしろ、何をするのか、どう生きるのかについて大きな声を出すこと、そして自分の人生に責任をとることを期待されているのである。自立生活の視点は、社会的ケア、医療、住居、交通、教育その他にわたる多様な政策領域を貫くものである。

この報告書はビジョン達成に向けての第一歩を示している

 この報告書で明らかにされた実際的な施策は、以下の4つの主題に分かれる。

  • 自立生活
  • 障害のある幼児がいる家族への援助
  • 成人期への移行
  • 雇用の確保と定着への支援とインセンティブ

【訳 織田宏】

(1)自立生活

自立生活の支援方法が確立されるべきである

 自立生活という目標に焦点をあてた、障害のある人々を支援する新しい方法が必要である。この新しいアプローチは、現在ばらばらになっている資金の流れを一本化し、また、異なる形の支援を利用するために障害のある人々にいくつものアセスメントを受けることを要求することになるであろう。

 この新しいアプローチはまた、全体の予算の中から利用できる財源を個人のニーズに応じて割り当てることになろう。割り当ては、障害のある人々にとってわかりやすい個人予算の形にするべきである。障害のある人々や障害のある子どものいる家族は、個人予算を現金でもらうか、サービスと現金払いの組み合わせか、あるいは、もっぱら彼らの地方自治体によって委託されているサービスとしてもらうか、いずれかを選択できるようにすべきである。この予算は、補装具、パーソナル・アシスタンス、住宅改修、職場への移動援助、あるいは全く別の何かかに関わらず、個人が必要とするどのようなタイプでも利用できるようにするべきである。

 この新しいアプローチの全体的なねらいは、財源が割り当てられ、以下のような方法でサービスが提供されることを確実にすることである。

  • ニーズへの対応を個別化すること
  • 人々が選択肢を持てるようにして、ニーズへの対応を通してエンパワーメントされるようにすること
  • 障害のある人々が自立できるように支援すること

この新しいアプローチに向けた重要な第一歩は、いくつかの選択肢を試してみることである

 この新しいアプローチは、省庁や地域のサービス提供者、広範囲の政策エリアにわたってサービスが提供され、予算が組織化される方法に一部急激な変化を求めることになる。これらの変化は、軌道に乗るまで時間を要する。そこで、この報告書では、エビデンス評価や財源の利用可能性を前提として、2012年までに新しいシステムの全国的な展開がはじまることを想定している。

 このシステムのデザインについていくつかの要素が試される必要がある。そこで、この報告書は段階的なアプローチを想定している。短期的には、その焦点は、既にこのシステムの要素を取り入れるために行動を起こしている地域合意契約(Local Area Agreements)を進めている地域戦略パートナーシップ(Local Strategic Partnerships)に予算を計上する地方自治体と協調することにある。そのねらいは、地方自治体に新たな負担を強いることなく、一貫したエビデンス・ベースを構築することにある。それと並行して、「2006年の歳出レビュー」に計上されている節約投資基金についても、このケースが考慮されるべきである。こうした基金の目的は、新しいシステムにとって必要な変化を導き、さらにエビデンス構築を容易にするために先行投資資源を提供することにある。

障害のある人々はこうしたイニシアチブの中核にいるべきである

 この新しいアプローチを発展させるための重要な構成要素のひとつは、主に地域の「自立生活センター」を通した障害のある人々の直接関与にある。自立生活を達成するために障害のある人々を支援する中で、障害のある人々が効果的な役割を果たすことができるように、こうした組織内の力が増大されなければならない。自立生活センターは、個人予算の管理において、助言、情報、アドボカシー支援、実際的な援助を提供するには可能性としては適した場所である。

障害のある人々に対する相談業務、住宅や交通手段のオプション提供を改善するために諸施策が講じられるべきである

 障害のある人々の一部のニーズは極めて急性であるため、改革が実施されるまで長期間待たせることは適切ではない。それゆえ、この報告書は以下の事項を保証するための具体的な改善を勧告している。

  • 独立したアドボカシーを利用しやすくすること
  • すべての障害のある人々とその家族が資格と権利を持っていることを理解できるように、助言や情報を利用しやすくすること
  • 障害のある人々が彼らのニーズに適した住宅施設を確実に利用できるようにするために、最新の生涯住宅(Lifetime Homes)基準の採用、利用可能な住宅および住宅改造基金(Disabled Facilities Grants)の利用促進を検討する
  • 障害のある人々の移送ニーズのあらゆる面が確実に考慮されるように、地方自治体の説明責任を拡大する

(2)幼児期と家族の支援

多くは恵まれない状態で暮している障害のある子どもたちにとって、幼児期は重要な時期である

 子どもの発達と将来の人生の機会は、障害のある幼児とその家族が受ける支援やサービスによって決定的な影響を受ける。障害のある幼児と家族に的を絞った支援は、子どもの貧困をなくすという政府目標を遂行する中で重要な役割を果たすことになる。低所得と障害との相互関係を映して、低所得世帯の子どもたちは長期にわたる病気、障害、精神衛生の問題が報告される率が高い。

障害のある子どもを持つ家族は子どもの移行期に選択と管理を提供する個人予算を利用すべきである

 障害のある幼児を持つ家族は、満たされるべき付加的なニーズを有している。彼らは専門機器、あるいは住宅改修といったサービスを必要とする場合もある。これらのニーズは、たとえば支援技術のようなその子どもにとって特定なものかもしれないし、家族を中心とする支援のような特殊なニーズを持つ障害のある子どもが有する広範な支援の一部であるかもしれない。 障害のある成人と同様に、障害のある子どもたちの家族は、適切な時期にその子どもの機能障害から派生する付加的なニーズを満たすために個別の家族予算を利用できるようにするべきである。これらは、全体として子どもの機能障害から生じている家族のニーズを明らかにし、また、彼らが受ける支援やサービスについて選択の機会と管理を家族に提供することができる。

障害のある子どもたちを持つ家族は、すべての家族に提供される支援の対象者のなかに含まれなければならない

 幼児期と家族の支援は、乳幼児期の子どもたちの発達と支援を強化することを目指す多くの新しいイニシアチブを持つダイナミックな政策領域である。障害のある子どもたちが障害のない仲間たちと同様に、これらの改革から恩恵を受けられるようにすることは極めて重要である。

 今後、児童に関する報告書(Sure Start)を含めた子どもサービスについての全国評価では、障害のある子どもたちを持つ家族への影響を明確に評価し、彼らのインクルージョンを阻む障壁を明らかにするために具体的な行動を勧告するべきである。加えて、地方自治体や地域レベルで実施される子どもサービスの評価のための指針は、地域の障害のある子どもたちのニーズを確実に考慮するよう開発されるべきである。

障害のある子どもたちとその家族に対する主要なサービスは、手続きや資金の流れではなく、彼らのニーズを中心に据えなければならない

 サービス提供の断片化、複雑さ、繁雑さは、障害のある子どもたちがいる家族にとって特に深刻である。これは、学校と家との間の移動手段の提供にレジャー施設への移動は含めないというような人工的なバリアや不効率的な制限を生み出す可能性がある。

 個人予算はこうしたバリアを解消する際に重要な役割を果たすであろう。しかし、障害のある子どもたちとその家族が早急に有効利用できなければならないさまざまな重要なサービスがある。

 障害のある子どもたちとその家族は、彼らが必要な時に、必要な場所で、必要な機器が適時に利用できるようにするべきである。これは、保健、教育、社会的サービスにまたがる共通のアセスメントプロセスと資金供給が必要となり、機器は最新のもので、すばやく修理されなければならないことを意味している。

 障害のある子どもたちがいるすべての家族が継続的な、質の高い、柔軟で、経済的な負担が可能な、利用しやすい保育の供給を受けるべきである。つまり、子育て支援10カ年戦略(the 10-year Strategy for Childcare)の実施には、障害のない子どもたちとその家族と同等な条件で障害のある子どもたちとその家族も含まれるべきである。

 さらに、高いニーズを持つすべての家族に対して、情報を提供し、コミュニケーションを改善し、早期介入を調整するためにキーワーカーが適切に配置されなければならない。地域の社会的ケアや教育サービスのアセスメントに、キーワーカーの利用可能性が含まれるよう考慮すべきである。

(3)成人期への移行

障害のある若い人々が利用できる効果的な支援のニーズ

 児童期、および児童期から成人期への移行がスムーズにいかなければ、早期介入のメリットは失われるであろう。成人期への移行時に、障害のある若い人々に効果的な支援を提供するには、以下のような3つの重要な要素が必要である。

  • 個人のニーズに焦点をあてた移行計画
  • 継続的なサービス供給
  • より透明な、より適切な機会と選択のメニューへのアクセス

個人予算は子どもから成人に至る時間とともに継ぎ目のない移行サービスが提供されることを意味する
 個人予算は選択と管理の機会が高まっている障害のある若い人々やその家族に、適切な時期に与えられるべきである。

  • 個人予算計画は、児童期に作成され、成人期にわたって実施されるべきであり、年齢でなく、ニーズの変化に応じて再評価されるべきである。
  • 個人予算を管理する家族を支援するために、もし彼らが望むならば、どの地方自治体においても利用者中心の助言、情報、アドボカシーサービスが提供されるべきである。

短期的には、多くの障害のある若い人々が経験しているサービス支給の谷間を取り除くために、子どもサービスと成人サービスはオーバーラップして提供されるべきである

 とりわけ、知的障害を持つ多くの10代の人たちは、サービスに関する現行の年齢制限を超えて、子どもサービスから十分な恩恵を受けることができる。これに取り組むため、子ども信託(Children's Trusts)や家族基金(the Family Fund)のような子どもサービスは、25歳までの障害のある人々すべてを含めるように変更するべきであるし、在宅生活もしくは自立生活に移行する若い障害のある人たちを支援するべきである。同時に専門的治療プログラム(Expert Patients Programme)のような成人サービスは、障害のある若い人たちにも徐々に利用できるものにすべきである。

移行を円滑にするにはより多くの家族の支援、個別化、継続性、機会を必要とする

 これらその他の施策と並んで、障害のある若い人々の成人期への移行は、以下の事項を通し、改善されるべきである。

  • 移行プロセス、サービス、機会に関して、地域や国で利用可能な情報を含む「情報」(information)の入手可能性
  • 地域レベルで既に実施されている最も効果的な「利用者中心プロセス」(person-centred processes)の全国的な取り組みのマッピングと普及
  • 障害のある若い人々のニーズを満たすため、「連携」(Connexions)を含め、助言や指導が提供されることを保証すること

【訳:楢府憲太 林茂史】

(4)雇用

最近の政府の政策にはいくつかの重要な改善がなされているが、障害のある人々の労働市場の地位を高めるにはさらなる施策が必要である

 政府は1997年以降、新障害者施策(the New Deal for Disabled People)、1995年障害者差別法(the Disability Discrimination Act)の拡大、国の最低賃金と「就労への道(Pathways to Work)」等を含む多数の改革を実施してきた。これらの改革は、人々が手当て依存から脱却して仕事に就くための誘因と支援を拡大し、さらに障害のある人々を雇用する雇用主に新たな要望を出した。しかし、障害のある人々の労働市場での地位を改善し、障害のある人々が職場で何かを達成できるという期待を高めるにはさらなる施策が必要である。この報告書は、評価と利用可能な財源を前提として「就労への道」の全国的な実施を支援している。

 今後の政府の政策は、国内のどこかで就職を希望し、仕事を得て、それを維持するために支援を必要とする障害のある人がいずこであれ、それが可能となるように20年間、保証するように立案されることになっている。障害のある人々を雇用したいと思っている雇用主は適切な人材と適切な支援を見つけることができるようにするべきである。自立生活の促進に関する勧告は重要な役割を果たすであろうが、追加的な施策が必要となるだろう。

障害のある人々が労働市場に居続けるには効果的な初期の介入が必要である

 よくあることであるが、就労に焦点を当てた支援は、障害のある人たちが失業し、労働市場から離れて(就労経験のない、あるいは長期間病欠であった場合など)時間が経過するまで利用できない。しかし、遅い段階での介入は効果的ではない。この報告書は、支援がより早い段階で確実に提供されるように以下の2点を勧告する。

  • 職業的リハビリテーションの枠組みの上に構築する就労に照準をあてたリハビリテーションへの戦略は、良い実践を明らかにし、利用可能な資源を最も効果的に利用しながら雇用主と保健の専門家を連携させるべきである。
  • 就労への道の上に構築する障害給付の受給資格の評価は、申請時により近い時点でなされなければならず、また、受給資格の査定と同様、誰かが復職できるようにするには何が必要かを査定する場合にも利用されるべきである。

障害のある人々の雇用能力を高めるには諸手段が必要である

 障害のある人々の雇用能力を高めるには二つの重要な要素がある。

  • 障害のある人々は、雇用主が求める技術を持っていなければならない。この場合、義務教育がそのための中心的な役割を果たすが、より効果的な訓練と障害のある人々向けの生涯学習へのアクセスが役割を果たすであろう。
  • 障害のある人々が仕事をするのために必要な個人的支援にいつでもアクセスできるようにしておかなければならない。これには、すでに成功している「就労へのアクセス」プログラムのさらなる改善が求められる。同時に、すべての雇用主が職場環境調整に必要な財政支援や効果的な助言が受けられるようにしておかなければならない。

(訳 高橋正幸)

障害のある人々は彼らの特殊な状況下で個別に対応した継続的な支援が受けらなければならない

『新障害者施策(New Deal)』の成功の上に、政府は徐々にメニュー形式アプローチ(menu-driven approach)の方向へ進んでいる。人々が自身の個別のニーズに対応した独自の支援のパッケージに焦点を当てながら広範な選択肢から支援を利用できるようにしなければならない。

 この報告書は、障害のある人々のニーズに応じた支援が提供されることを保証し、彼らの可能性を最大にし、彼らの希望を実現することができるような支援に焦点を当てながら、障害のある人々にも同様なアプローチを推奨する。障害のある人々が正しい選択ができるようにするにはケースマネージャーが活用されるべきである。「就労への道」でジョブセンター・プラスの個人アドバイザーが利用されているのように。これは、障害のある人々の就労率の向上に貢献し、ひいては、国民全体の就労率の向上に貢献し得る。

雇用主は重要な役割を担っているが、適切な助言と情報が利用できるようにしなければならない

 本プロジェクトは全国雇用委員会(National Employment Panel)によって召集された雇用主のワーキンググループから助言を受けた。本報告書は、この助言に基づいて、労働年金省(DWP)と通産省(DTI)からのデータを添えて障害のある人々を雇用するビジネス上の利点に関するキャンペーンを雇用主がリードするように勧告している。これは特に雇用主向けの情報へのアクセスを改善することによってバックアップされなければならない。

すべての政府省庁がこの戦略とこれらの具体的な施策実施に対し責任を果たすことになる

 政府はこの報告書の中の勧告をすべて承認している。勧告が確実に実施されるようにすることはすべての政府省庁の集団責任である。本報告書はまた、障害者担当大臣に報告義務を持ち、政府全般の障害者施策を調整することを補佐する障害者施策室を設立する。

進捗に関する年次報告書は、首相に提出される

 この報告書にある展望と戦略への継続的関与は、首相への年次閣議報告とウェブ上での公表が義務付けられる。

この一連の施策の実施については

  • 障害のある人々の自立生活能力を高め、他の一般市民と平等な選択肢、コントロール、自由を、家庭、職場でも、またコミュニティーのメンバーとしても享受できるようにする
  • 障害のある幼児とその家族が、安心して子どもを育て、社会的経済的に参加できるようにするために保育、幼児教育、早期の家族支援を利用して通常の生活が楽しめるようにする
  • 成人期への移行時に障害のある若い人たちとその家族を支援する。移行は個々のニーズに則して計画され、サービスは移行期を通じてスムーズに提供されるようにする
  • 障害のある人々の就労率を高め、一方で働くことができない人々には支援と安全を提供する
    この報告書の提案が成功裏に実施されるかどうかは、今後の歳出レビューに問題がなく適切なレベルの財源が利用できるか否かにかかっている。しかし、経済的な参加を促進するより効果的なアプローチによって、中長期的には実質的な経済的利益がもたらされるであろう。


    【訳 新井山克徳】