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ベアトリス ペリザーリ

ベアトリス ペリザーリラ・ウシナ、アルゼンチン 1999年からアショカ・フェロー

アルゼンチンで障害に対する態度を変える キャロライン・ハイデンハイン著 ピーター・ダグラス英訳

2002年、アショカ・フェローであるベア・ペリザーリは、コミュニティーで差異の価値を認めない社会的な偏見を変えようと考えている、障害がある・そしてない、双方の市民グループを一堂に集めた。その時の議論は、「ラ・ウシナ(La Usina)」と呼ばれる非営利の市民団体をアルゼンチンに創設することについてであった。団体の使命は、障害に対するコミュニティーの態度に変化を促すこと。またそのような変化を発展させるためにコミュニティーの活動を活性化させることであった。

ラ・ウシナは、ベア・ペリザーリが彼女のスタッフと一緒に動かす「エネルギーの発電機」であり、「変化の動力装置」である。彼女たちの努力は、コミュニティーで相互に活動することや、民主的な社会が市民に提供すべきすべての機会を楽しむことから障害者を遠ざける文化的なバリアーを壊すことに特化している。だから、ラ・ウシナの使命は、障害者がコミュニティーで活動的で認められた存在感のあるメンバーとなることを支援することである。

アルゼンチンの障害者の状況

アルゼンチンで障害者の現状を表すいくつかの重要な統計は、以下の通りである。

■2003年に行われた最新の公式調査によると、220万人の障害者がアルゼンチンに暮らしている。障害者と一緒に暮らす家族を含めると、これは少なくとも670万人に影響を与えている。

■アルゼンチンの障害者の40%は雇用されていない。労働の国際機関の調査によると、障害者の失業率は3倍も高くなることを私たちは忘れてはならない。

毎日、障害者は地域社会における社会的、経済的、そして政治的な活動から彼らを排除する障害物と直面しなければならない。家から出る、コミュニケーションをとる、教育や地域生活へアクセスするなどの能力なしに、障害者は地域で目に見えない存在となり二流市民と見られてしまう。社会全体で長らく続いている障害者に対する多くのステレオタイプや歪曲された見方は、この隔離状態から派生している。しかし、障害者を代表して活動する団体を支援することが期待されている政府は、社会的なプログラムに対する予算を減らし続けている。この事実がそのような団体の存在を益々難しくして、障害者が本当に必要としている支援や救済などなしに、障害者を放置している。結果として、しばしば「静的な」団体、つまりやりたいサービスの提供を実施できない団体となる。したがって、これらの団体は自分たちの殻に閉じこもる傾向があり、それが障害者の周縁化や社会で見えない存在になることを助長させている。

ラ・ウシナの障害に対するアプローチ

社会セクターにおける革新的なアイデアを頼りにして、ラ・ウシナは、社会の中で異なる視点が相互に交わる状態を創り出そうと挑戦している。コミュニティーの認識を高めたり、社会組織を強化したり、彼らの目標や目的をはっきりと伝えることを支援したりして、障害者に対する世論を変えようとしている。このような活動により、それら社会組織が、アルゼンチンのコミュニティーで孤立している現状から解放されると信じているからである。

ラ・ウシナは、既にある社会機構の仕事を補強し、はっきりと伝達する能力があり、常に根本的な構造変革を進めるという究極の目標をもつ、アルゼンチンにある数少ない団体の代表的な存在である。それは既存のNGOと他のローカルな活動家の結びつきを促進することや、社会を変えるために相互努力の連鎖を活性化させること、問題の明確な可視化を達成すること、そして究極的に障害者に対する世論を変えること、などによって「社会の細胞組織」を治療できるのか、という問いかけである。

このような使命に導かれ、ラ・ウシナは、三つの具体的な運営戦略を活用し、全国レベルで目標を実施している。

1)障害者のそして障害者のための組織を持続させるプログラム

ネットワークと多分野にまたがる仕事を通し、より良い事例を促進し障害者コミュニティーにおいてより目立つものを創出することにより、将来性のある障害者団体を通じて、障害を持ちながら生活する人の活動を支援すること。

2)市民の義務に対するプログラム

問題が普通なら無視されてしまうような環境において、市民の障害に対する認識を高めることや、障害者が普通なら排除されてしまうような分野で、障害者に機会を提供することで社会的な課題に影響を与えること。「市民の義務に対するプログラム」を通じて、いろいろな活動の中でも、ラ・ウシナは以下のイニシアティブを達成しようとしている。

a)毎年の啓発キャンペーン

ラ・ウシナは、障害に関する様々な側面に関しコミュニティーを教育するために、毎年、啓発キャンペーン(全国の大学の学生コミュニケーションを通し全国コンテストによって毎年選ばれる)をアルゼンチンで始めた唯一の団体である。毎年の新しいキャンペーンは、メッセージを強化し、コミュニティーにいる障害者に関する情報を広めることを意図している。すべてのキャンペーンは街頭広告、賞として与えられたテレビCM、ラジオ、インターネット、フライヤー、カード、新聞やブログなどでメッセージを拡散している。

b)市民キャンペーン「実施しなさい!あなたは変化を起こせる!」

2007~2008年にかけて、ラ・ウシナは「実施しなさい!あなたは変化を起こせる!」という市民キャンペーンをフィンランドのアビリス財団の援助で実施した。このキャンペーンを通じて、ラ・ウシナはアルゼンチンに既にある障害者法を執行するために、市民から10万人以上の署名を集めた。このキャンペーンは、障害者の問題に社会の関心を集めるため、そして障害のある人もない人も、積極的に参加できるように始められた。障害者が毎日の生活で直面するもっとも深刻な障壁、無関心という障壁に対してである。障害者も障害を持たない人も、活動の中心となって働いたこのような性質の取り組みは、アルゼンチンではこれまで一度も組織されたことはなかった。このキャンペーンは34の民間企業、異なる地方の9つの行政機関、5つの大学、37のNGO(その中の多くは、今まであまり障害者問題を取り上げていなかった)の取り組みを一つにし、明瞭に伝えた。

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3)レッドアクティボス・プログラム

レッドアクティボスは、倫理綱領に基づいた、障害者によって開発された製品やサービスの商業化や流通のためのネットワークである。このプロジェクトは、障害者による生産的な試みを支援し、維持するための基金を作り出すことになっている。さらに、このプロジェクトによって生み出された利益で、ラ・ウシナは障害を持って生きている人の状況を改善するために、新しいイニシアティブに投資する予定である。

レッドアクティボス・プログラムは、アルゼンチンに約220あり、およそ8,000人の知的障害者が商品を作っている「保護された生産ワークショップ」の中で機能している。現在行われている生産の第1段階では、レッドアクティボスは、(約140人の障害者が働いている)10の保護されたワークショップを代表し、そこでは障害者が貧困や排除を克服する手助けをしている。レッドアクティボスは、これら保護されたワークショップを、赤字状態から自立へと転換させるために設計された3つの方針に沿って実施されている。3つの方針とは、

■保護されたワークショップの作業工程の向上:
ワークショップの生産性の向上及び完成品の品質向上のために、研修や技術支援が提供されている。それと同時に、ワークショップにプロフェッショナルな環境を用意して高い水準の生産を成し遂げようとしている。

■市場における商業運営:
レッドアクティボスは、売り上げの安定性を確保するために、社会的な責任を負う顧客とだけ仕事をする。それが各ワークショップの持続性と障害者の労働機会を確保するからである。

■商品のまとめ買い:
レッドアクティボスは、商品の質を保ちながらリーズナブルな価格を保持するために、必要な量だけ材料を供給できる信用ある納入業者とのみ仕事をする。

主な課題とそれを克服する戦略

ラ・ウシナは、創設メンバーから寄付された、たった100ドルから始まった。だから運営するための財源も物品もなく活動を始めたことが、ベア・ペリザーリが、団体を創設したときに直面した主要な問題だった。燃えるようなモチベーション、資金不足による危機的外観、そして(彼女のプロとしてのキャリア形成で培かわれた)社会的関係のネットワークが、組織構造が継続して発展していく上で決定的な要因となった。

現在でも、主な課題は組織のプロジェクトに出資することや、確固とした経済的な自立を保つためにラ・ウシナの運営費を確保すること。そして知識を使ったり、ラ・ウシナのチームを研修したりすることで目標に向かう資源を生み出して行くことである。そして注意すべきは、ラ・ウシナが直面する主な困難のひとつは(逆説的に、その創造的な性質と関係するが)、彼らのプロジェクトは、通常、公的融資の範囲では考えられないことである。その使命の性質上、ラ・ウシナは国家に対してサービスを提供しないため、国の資金を受けとることができない。過去の稀なケースを除いて、これがラ・ウシナが国と長期間効果的に仕事ができない原因である。

ラ・ウシナのメディアの認知度が高いせいで、この問題はより深刻化しており、資金や資源を獲得しようとしている団体の努力がたびたび妨害されている。ラ・ウシナのメディアの露出、つまりアルゼンチンでは非常に著名になってしまったことで、この組織はお金を必要としていないという誤解が引き起こされている。しかしこのメディアの露出は、「現物支給による寄付」(つまり無料放送枠や様々なメディアによる寄付広告)を発展させ運営するために、ラ・ウシナのプロフェッショナル・チームが懸命に努力して成し遂げたものであった。とは言っても、彼らの高いパフォーマンスとラ・ウシナの運営維持のために必要な技術管理能力に対し、このチームは感謝されるにふさわしい存在である。

社会的な組織に資金を供給しようとするときに直面する困難から生じる様々な制約が、ベア・ペリザーリを、資源の多様化と経済的自立を成功させるためのファンドレイジングへと導いた。この試みは、3つの具体的な側面を重視している。

1)「変化のための投資者」という個人寄付者

2)国際協力(実践の交換と資金協力)

3)団体の使命に対する自己投資の資源

後者2つの投資資源は、2つのプロジェクトに関与している。

■アクティブ・ダイバーシティは、ワークショップや啓発プログラムなどを含む独自に作られた様々なモジュールを通して、障害者問題に取り組もうとする会社を支援している。それらは、障害者の雇用促進や障害を持つ顧客に対するサービスの向上を目的としている。

■レッドアクティボス・プログラムは、この資源開発戦略の一端を担っており、保護されたワークショップと障害を持つ従業員の為に収入を生み出すことに加えて、得られた余剰収益は、財政の脆弱性を最小限にするためにラ・ウシナにすべて投資され、使命から外れないようにしている。

この二つの運営方法は、アルゼンチンにおいて非常に斬新的なものである。それにも関わらず、自立と経済的資源のマネージメントという懸念事項には、多くの時間が必要とされる。そして、多くの場面において、特別会員やスタッフを実際のプログラムの具体的な実施から遠ざけてしまう。またさらに、特別会員の知識と経験を彼らの専門分野からも度々遠ざけてしまう。ということは、レッドアクティボスとアクティブ・ダイバーシティのように、ラ・ウシナの使命を達成し、資源と資金を生み出す両方を組み合わせた計画案は、合理的な選択肢を与えるように見えるし、将来の持続性に貢献するであろう。

教訓:社会変化へのアプローチの方法

1.現物寄付の開発に努力する

ラ・ウシナの主たる強みのひとつは、「最悪のステップは、ステップを踏み出さないことである」というモットーのもとに、物品的な資源を開発していることである。自らの製品やサービス、才能などを提供したり、また自分たちの仕事のために、団体の使命に共感して社会に価値を提供したりすることに興味がある多様なプレーヤーとの関係を確立することで、「誰が私たちに必要なものを持っているのか?」(多くの場合、それはお金だけを指しているわけではない)という前提から抜け出すものである。現物寄付を得るためのマネジメント・プロセスには、任務を実行するために、積極的な関与と忍耐強いチームが必要であるが、その成果は多くの場合金銭的な寄付という形よりもっと直接的である。たとえば、毎年恒例の啓発キャンペーンは、多くの異なる専門家や会社の幅広いサポートのおかげで可能となっており、彼らはTVやラジオ、またフリースペースのコマーシャル製作や他のメディア形態を使った広告特集などを寄付している。

2.社会活動家と参加者の間にある協調の重要性を理解する

ラ・ウシナの使命と発展したプロジェクト、そしてもちろん寄付は、ベア・ペリザーリとそのチームが絶え間なく生み出し深めるために働いてきた関係性なしに不可能であろう。この様々な関係性のネットワークは、何よりも人によって形成されていることを忘れてはならない。彼らは、会社、メディア、他の団体の代表かもしれないが、何よりもまず関心、価値そして恐れを持った市民なのである。課題は、連携を創り出すために共通の関心事を見つけることである。その中では、まるですべての関係者がパートナーから価値を受け取っていると感じられ、また自分にとっても、仕事を通して価値と改善をコミュニティーに与えていると感じられる事である。このような協調性を通して、すべての参加者と障害者問題に取り組み、障害者に対する社会の態度を変えるというラ・ウシナの使命を実現しているのである。

3.社会的な団体を社会起業家として解釈する

ラ・ウシナは、経済的持続性や資金調達に関する困難と心配に直面している。その原因の一つは、アルゼンチンが政治的にも経済的にも多様な混乱状態にあり、国の助成金は、ほとんど伝統的なコンセプトを持った慈善事業に向けられているためである。したがって、資金の調達源を徐々に多様な資源、特に組織の使命に対して継続して貢献する事ができ、且つしっかりとした独立性を保持した資源調達が可能となる社会起業家の創出などに向けることが賢明である。こうすることによって、国や私企業の寄付に頼る組織の依存性を軽減することができる。

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ベア・ペリザーリ
47歳、1999年からアショカ・フェロー、障害分野における業績によって選ばれた。彼女は社会心理学者であり、「障害を持つ従業員のリハビリテーション」に対するスペイン・マパフレ医療財団(MAPAFRE Medical Foundation)の過去の奨学金受給者である。大きな自動車事故にあって生還して以来、彼女はアルゼンチンで障害者問題に特化して取り組んでいる。2002年、彼女はラ・ウシナ(障害での変革)を創設した。国全体で障害者に対し、戦略的に文化と社会変化をもたらそうとする市民社会組織である。ウルグアイに生まれ、1983年から夫と娘とアルゼンチンのブエノスアイレスで暮らしている。

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