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エステラ・ビラレアル・ジュンコ

エステラ・ビラレアル・ジュンコユニドス(UNIDOS)/メキシコ
2003年からアショカ・フェロー

障害者のインクルージョン達成のために社会を変える
カルロス・デヴィッド・サリナス・オラスコアガ著

エステラは、自分たちのサマーキャンプにボランティア、もしくは受益者として、800人以上の人が申し込んだと知ったとき、自分の目を信じることができなかった。たった15人の参加者と30人のボランティアがユニドスのサマーキャンプに参加した21年前の時の記憶がよみがえり、その時に自分が蒔いてきた種が、本当に驚くべき勢いで育っていることを実感した。メキシコの都市のモントレーの社会に障害を持つ自分の兄妹を参加させたい、という夢として始まった活動は、ユニドスとして知られる社会的にインクルーシブなモデルに発展し、今では10以上のメキシコの都市に存在する。テレトンメキシコ(訳注:メキシコのチャリティー・ショー)のような他団体の関心も引いた。実際に、過去数年間で数々の団体がユニドスのモデルを実践するようになっている。

「サマーキャンプ」の考え方はシンプルだ。年に一度、エステラが率いるボランティアグループが、普段と同じ環境で障害者といくつかの楽しい活動を企画、実行する。エステラの言葉では、目的は「彼らがやったように、世界に障害者も活動を楽しめるということを見せること。我々の目標は、障害を持つ友人たちを現実の世界に連れ出して、楽しんでもらうこと。こうやって、社会の障害者に対する認識を変えたかったのです。言い換えれば、私たちは、障害者と接する時に、ほとんどの人々が感じる恐れを取り除こうとしたのです」。しかし、特に障害に関するいくつかの問題に直面している国メキシコでは、もっとも重要な問題は密告の恐れなので、これは簡単なことではなかった。

WHO(世界保健機関)によると、メキシコの人口1億2千万人の10%の人々が精神あるいは身体の障害に苦しんでいる。うち45%の障害者は手や足に制限があり、29%が全盲か影だけが認識でき、17%がろう者か補聴器を使用しており、10%がその他の障害を抱えている。この社会集団を世話している団体の多くは、精神や身体といった一つの障害、そして特定の年齢層を対象にしているが、その反面、ユニドスはサマーキャンプや他の社会的レクリエーション活動(ベスト・バディー・プログラムや遠足など)を通して、年齢を問わずあらゆる種類の障害を持つ人々を参加させている。他の団体がリハビリテーションに焦点を当てる一方で、ユニドスは社会の障害者に対する認識と態度を変えることで、障害者の社会化とインクルージョンを中心に取り組んでいる。いうなれば、ユニドスは社会のリハビリテーションを目指し、したがって他団体の活動を補い、また土台を提供するメキシコでかつて見たことのないタイプの団体をつくろうとした。

社会の障害者に対する態度を変えるために、すべてのユニドスの活動は、ボランティアと受益者の間に継続した絆が生まれるように考えられている。ユニドスの活動モデルはこの21年間で進化を続けてきたが、全国で7,183人の注目をあびた活動の核にある「優しさ」というコンセプトに対する信念は変わっていない。ユニドスの理解による「優しさ」とは、活き活きとした気持ち、感情、共感、情熱や熱意を指す。それは質の高い親しみや愛着も表し、結果的にユニドスの受益者、つまりユニドスが支援する障害者だけでなく、ボランティア自身にも明るさや活気、居心地の良さをもたらす。

したがってユニドスの活動において「優しさ」が成功した成果を生むには、慎重な事業計画が不可欠である。だから障害の種類や年代によって異なる20のグループが作られた。このグループでは、ボランティアと障害者の親密な交流が保障される。また同様に、特に活動がユニドスの1エーカーの公園の外で行われる場合、たとえば参加者全員がひとつの場所に入りきらない場合でも、彼らがすべての活動を最大限に楽しむことできるように保障もされている。各グループは、ボランティアと障害者が相互に心を通わせる方法として、通常は大声で歌う特色のあるかけ声によってそれぞれ識別されている。

心を通わせることが、ユニドスが促進するインクルーシブ・プログラムの根源的な目的である。それは、ボランティアにとって「この社会グループに対する我々の態度を変えるために 、障害者と親密に関われる機会を得ること」を意味するとエステラは言う。心を通わせることはボランティアを変える。そして今度は、彼らがユニドスの理念の大使となって、日常生活のあらゆる活動で平等を訴えることで、ボランティアが社会を変える。エステラは、サマーキャンプや旅行、映画鑑賞、夜の外出など、ユニドスが推進している活動を通じて実現したいくつかの重要な変化を確認している、

■ボランティア人数の増加や、自信、社交性、熱意、創造性、GPP-I(ゴードン人格適性指標)に基づく本来の思想などの彼らのリーダーシップスキルの向上

■ユニドスへの参加を他の人に呼びかけるボランティアの率直さ

■ユニドス関連の活動を実施するための、あらゆるサイズのより多くの場所に対する願望

■ボランティアとの身近な交流や様々な場面で、一年中行われる多くの活動によってつくられた自尊心が前向きに高められた結果、ユニドスが世話した障害者が思い切って現実の世界に出ていく決心をした。

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結果的に、心を通わせるという考えは、普遍的なことと変わらないとエステラは強く確信している。それは、世界を変えようと真剣に努力しているどんな協会や組織にもあてはまるかもしれない。実際この21年間で、障害者を見る目という意味で、エステラは社会が少しずつ変わってきていることを実感している。その証拠に、ユニドスはモントレーで始まったが、現在、そのモデルの優しさと心を通わせるという衝動が、社会的フランチャイズとして、また障害者を支援する他の組織と連携して、メキシコの10州で変化を生み出している。エステラの評価では、これがユニドスのもっとも輝かしい実績となってきた。またそれ以上に、その実績により、彼女は他の国、特にメキシコと同じような状況にあり、まだやるべきことが多く残っている国々で、このモデルを再現したり応用したりして、さらに広めて行きたいという気に強くさせられた。彼女の目標は、「何らかの障害に苦しむ人と接することへの恐怖を取り除いて、我々は夢や希望を共有していることに気づいてもらうこと。なぜなら、単純な事実として、私たちは皆同じ人間であり、同じように幸せを願い続ける存在だから」とエステラは説明する。

世界を変えようとする事業の大半がそうであるように、ユニドスはある程度の成功を収めたが、道のりは平坦なものではなかった。初期のほとんどの活動は「手作り」だったと、エステラは振り返る。ユニドスの初めの数年間、大半の活動の企画・実施・監督の責任を、彼女は一人で背負っていた。活動が広がるにつれ、障害を持つ子どもや兄弟をユニドスに連れてくる家族も増えていった。活動数や規模が増えていったが、彼女はまだ多くの活動計画や実施を自分で進めたいと考えていた。組織を運営していくためにはもっと人を巻き込むべきだと気づくまで、しばらく時間が掛かった。やがて彼女は、任命された理事会によって運営される組織に、ユニドスを改革するという重要な決断を下さなければならなかった。すなわち、エステラがすべての意志決定をするのではなく、事業を動かすためには理事の合意を得なければならなくなった。この決断を機に、ユニドスは飛躍的に成長を遂げることになり、また毎年いくつもの活動を支援している。結果として、ユニドスは創設者に依存しない、本当の意味で活動的な組織になり、社会的なリーダーや企業家、寄付者などを巻き込んでいった。

ユニドスが自分たちのモデルを他の社会起業家たちにフランチャイズ展開し始めたころ、新たに重要な課題が浮上した。エステラは、モントレーで実施したモデルと全く同じ方法で再現して欲しかった。彼女の説明によれば、これは「矛盾していました。異なる条件やアイデアを基盤として活動する団体が、モデルを実行する上で違いを受け入れるのがどんなに困難だったか」。そうして、ユニドスは地域の社会起業家のやり方を尊重すること、そして彼ら自身のコミュニティーでの成功を確実にするため、事業モデルに必要な修正を加えることを奨励することさえ学ばねばならなかった。ユニドスが達成した最大の功績は、公正な社会というユニドスの夢を共有しているNGOで構成されるネットワークを通して、ユニドスのモデルを再現したことだとエステラは感じている。そのNGOは、ネットワークの中でノウハウを提供し、間違ったスタートが起こる確率を減らすことによって、モデルの実現とその応用を行うために、ユニドスはコーディネーターの役割を担っている。

ユニドスは社会事業と呼ばれるまでに成長したが、元々の目標を見失ったことはない。「我々の最終的な目標は、メキシコで障害に関する文化的変化を達成すること。このメッセージをできるだけ多くの人に伝えるためなら、我々はどんなことでも実行します。これは私が21年前に抱いた夢であり、使命にしようと決めたことなのです」と語るエステラは、自分の夢を制度化することが目的達成の手段だと考えている。優しさをないがしろにしなければ、一緒に親密に働くボランティアと障害者に奉仕する一方で、人間らしさや配慮をユニドスが失うことはないと彼女は確信している。

ユニドスを通して世界を変えるという夢を叶えるために、これまで行ってきたことを振り返ると、やるべきことはまだ多く残されているとエステラは感じている。ユニドスが次に何をすべきか、事業モデルをどう進化させるか、毎日彼女は思いめぐらしている。従って、エステラとユニドスが日々直面するもっとも大きな課題は、変わり続ける障害者や社会のニーズに合わせて事業モデルを発展させ、適応させ続けることである。それを実行するために、ユニドスはボランティアに頼っている。

ボランティアはユニドスの心であり魂なのだ。 ボランティアは、サマーキャンプに毎年参加し、ユニドスのあらゆる活動に参加することを楽しみにしている障害者に、忘れられない体験を提供する責任者である。突き詰めていえば、ボランティアはユニドスの優しさを社会に広げ、障害者にそれを届けることを可能とする責任者である。将来のリーダーとなるボランティアの若者達の努力によって、社会は大きく変わり、いつの日か障害者が健常者と共に生きることが可能になるとエステラは強く確信している。

ユニドスで活動した若いボランティアたちが、ネットワーキング、集団行動、連帯や協力といった社会的なリーダーシップスキルを身につけてきたことは特筆しておきたい。ボランティアが彼らの日常生活の中でも、社会の団結と抱合を促進して行くことが、ユニドスの究極の目標である。

社会起業家でいることは容易ではないとエステラは知っている。社会起業家として成功するための単純な公式はないことを踏まえつつ、それでも世界を変えたいと決心した人には、以下の指針が助けになると彼女は信じている。

既成概念にとらわれない:人と異なる意見を持ち、枠組みを変えることを恐れてはいけない

人の心を動かす:まず自分自身が自らの理念を深く信じ、その情熱で周囲の人と心を動かす

目的を貫く:決してあきらめず、いつも自分の最終目標を胸に抱いておく。どんな経験からも何か学びがあることを忘れないでおく

一歩先を行く:一つの目標を達成したら、自分とプロジェクトが次に何をすべきかを考える

21年前の発足以来、ユニドスの社会インクルーシブ・モデルの発展と進化の背景にはこの4つの指針があった。障害者に対する社会の認識を変えるようなターニング・ポイントを、ユニドスは現在までにいくつか達成してきた。それでも行く手に多くのことがあることをエステラは知っている。それゆえ、より公正な社会となるための探求を、彼女が諦めることはない。

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エステラ・ビラレアル・ジュンコ
2002年からメキシコのアショカ・フェロー。ユニドス(International Affairs of UNIDOS Lo Lograremos, A.C.)の創立者兼国際部代表。障害者の社会参画に取り組むNGO。二人の兄妹との個人的経験から情熱を得た。20年以上に渡り、メキシコの多くの都市に活動を広げている。ユニドスの彼女の活動に対し、INDESOLの「24人の全国社会事業賞」「未来のグローバル・リーダー」、またいくつかの「市民功績メダル」など、数多くの賞を受賞している。

UNIDOS
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