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アル・エトマンスキー

アル・エトマンスキープラン(PLAN)/カナダ 2002年よりアショカ・フェロー

将来への希望 アル・エトマンスキー著

私がジョージに初めて会った時、彼は私に「死ぬのが恐い」と話してくれた。彼は妻を亡くしたばかりだった。彼の息子のリックはまだ幼く、友だちがいなかった。グレーター・バンクーバーには親戚すらもいなかった。彼は絶望していた。

私が息子のリックと初めて会った時、彼は私と話そうとしなかったし、目をあわせることもなかった。実際、彼は部屋から出て行ってしまった。

リックのことを知るにつれて、その理由が分かった。障害者支援制度の裨益者としての経歴において、彼は「非協力的、怠け者、コミュニケーション不能、攻撃的、知恵遅れ、信頼できない、働けない」というレッテルを貼られていた。彼が如何に問題児か、なぜ信用されないのか、などを記した6インチもの分厚い職業訓練ファイルを私は一度見たことがある。このようなファイルは、どんな人の自尊心でも傷つけてしまうだろう。彼は様々なプログラムを一通り経験してきた。そして沢山のサービスを受けたり受けなかったり、(彼は言わなかったが)僕のような相当数のソーシャルワーカーとも出会ってきた。守れない約束をする人々と。

ジョージと彼のような沢山の親は、プラン・ライフタイム・啓発ネットワーク(Planned Lifetime Advocacy Network:以下、プラン)―「自分が死んだら、障害を持つ子どもはどうなってしまうのだろう?」という疑問をずっと抱える家族のリソース―設立の刺激となった。

我々は直ぐに、自分たちがグローバルな現象の最先端にいることに気がついた。障害者の世代が、両親よりも長生きするのは歴史上初めてのことだ。20年後、我々は世界中で40以上の家族主導の団体を支援している―すべてプランのアプローチに基づいたものだ。

ジョージやリックは、私たちの障害に対する考え方を変えるインスピレーションになった。

リックの気力が無くなっていたのは明らかだった。彼は、人々のレッテルやあざけり、誤診、哀れみ、偏見や誤解などが入った重く目に見えないバックパックを持ち歩いていた。

リックは、自分には価値がないと信じていた。彼は心の底から孤独だった。あまりに孤独すぎてほとんど喋ることもできず、そして喋るときは小声だった。

彼の言葉は枯渇していた。そして彼の夢も同じだった。

誰かのイマジネーションを呼び覚ますこと、彼らの夢を燃え上がらせることは容易ではない。特別な人が必要だ―障害を見るのではなく、彼らの才能を見るような人が。よく話しを聞き、沢山のリソースを持っていて、人と十分に繋がっていて、豊かな心で満たされている人。

我々は彼女を見つけた―才能もった若い女性、名前はアンナ。プランは、リックと友人の輪を築くために彼女を雇い入れた。

彼女は静かに何時間も座ってリックの歌を聴くのを待っていた。彼女は提案したり、答えを与えたりしなかった。ただ彼を信じていた。

ある日、彼女は有頂天になって事務所にやってきた。そして言った「やった、やったわよ。馬だったのよ!」リックは馬に関するあらゆることが好きだったと分かった。彼は馬に乗りたかったし、世話をしたかったし、自分の馬を持ちたいとさえ思っていた。そしてなによりも、牛の群れを率いるカウボーイになりたいと思っていた。

プランがジョージの遺言や遺産計画を助ける一方で―それはプランが家族に提供しているサービスだが―アンナは息子のリックのために地域とつながりを築くことを始めた。まず、バンクーバーのフレイザー川のそばにある厩舎、サウスランドに馬を所有する彼女の友人にリックを紹介した。リックは、彼女の馬「ビッグ・ボブ」に会うために厩舎に招待された。リックは、ビッグ・ボブと一緒に歩き、少し乗馬さえおこなった。リックが馬と特別な繋がりを持っているのは明らかだった。

都会で馬を持つと、2つの事が必ず起こる。ひとつは、馬は沢山の牧草を食べる。もうひとつは、思ったより頻繁に訪問しない。だから誰かにお金を払って馬に乗ったり、運動をさせたり、厩舎を掃除したり、その他諸々をしてもらう。いずれにせよ、それにはとてもお金がかかる。

ビッグ・ボブといるとリックが明らかに安心するのを見て、ビッグ・ボブのオーナーは、自分が居ても居なくても、いつでも厩舎を訪問するよう彼に言った。時間がたっぷりあるリックはその提案を受け入れた。実際に、彼は毎日厩舎を訪れるようになった。

そして直ぐに、厩舎のオーナーは、リックの馬に対する扱いに気がついた。彼がこれまで見た誰よりも、リックは厩舎掃除を楽しみ、馬を撫でている事に気がついた。賢明なビジネスマンとして、彼はリックに仕事を提供した。

リックはその厩舎でまだ働いている、12年経った今も。実際、獣医が来るときも、彼女はリックに同席するよう求めている。彼女は、リックの穏やかで静かな存在によって馬がいつも落ち着くことを知っている。

他の人たちもリックの才能に気づいている。数年前の夏、リックの友人たちが地元の公園で彼の誕生日パーティーを企画した。そのパーティーで、厩舎の人たちが馬をパレードさせてリックを驚かせた。馬と騎手が公園の周りを闊歩する光景は、リックがどれだけ周囲から愛され、大切に思われているかを表す美しい情景であった。彼の友達の輪はプランの中でもっとも大きいものの一つだ。20人以上は間違いなく、その内の8人とは親密で親友になっている。

それがどれだけ父親の心に平穏をもたらしたか、簡単に想像できる。

ゆっくりと時間をかけて、リックは馬の世界にたくさんの友達を作った。そのうちの1人は、ブリティッシュ・コロンビア州南東のエリアで250マイルにも及ぶ牛追いの事をリックに話し、彼に同行するように頼んだ。リックは同行し、それから毎年夏に行くようになった。彼の夢が叶ったのだ。彼は6年間に渡り、ブリティッシュ・コロンビアの山脈を駆け抜ける本物のカウボーイになることができた。

アル・エトマンスキーアル・エトマンスキー

リック、我々のホースウィスパラーは、変わった。友情を育む力が、彼に生きる力をもたらした。相互の信頼と価値ある存在として扱われることが、彼の重いバックパックというラベルを消し去っていった。

リックを始め、社会とつながりを持った何千人もの障害者から我々が学んだ事は、以下のことだ。

■ニーズと欠点だけに極端に注目すると、孤立や孤独に陥りやすい。
■才能や貢献に着目すれば、インクルージョンや受容にたどり着ける。
■孤立や孤独は障害者が直面する最大の障壁のひとつである。
■障害者も他の人と同じように社会に貢献したいと思っている。
■関係を築くことが、発見し、感謝し、人々に貢献してもらうのにもっとも有効な方法である。
■障害者が責任を持つ一人の市民として社会に受け入れられるのは、その貢献を通してである。

我々はあらゆるタイプの障害や状態に置かれている人々に、友人の輪を作ることをしてきた。我々は確信を持って、人との繋がりを不可能にする障害などない、と断言する事ができる。

リックが求めていることは、厩舎で働くこと、職場に近いバス路線沿いに住むこと、自分の情熱を追い求められ、仕事を十分にこなし、必要とされることによって満足感を得ること、だけである。言い換えれば、リックは私たちと同じことを求めている。人生に意味を見出すこと。

彼の父親であるジョージが切に求めていることは、社会が彼と同じものを見ること、息子の障害だけでなく、彼が持つ才能や能力、貢献などを。彼は、息子の名前の横に「助けが必要です」という注釈をつけなくてもよい国と文化を求めている。

それはジョージだけではない、ということを我々は学んだ。世界中に何十万人もいる親たちは、自分の息子や娘に価値があり、良い人生を送れるという確信が欲しいのだ。

もうひとつ私たちが学んだことは、プランでの我々の仕事は、リックの良い人生を創る事ではないということ?自分たちでできるなんて、なんて馬鹿な事を考えたのだろう。何しろ私たちは、馬について何ひとつ知らないのに。

それよりもむしろ、我々の仕事は自分たちの息子と娘が良い人生を送れることを確信できるように、ジョージや他の親たちを支援する方法を見つけ出す事だ。我々の仕事は、障害を持つ肉親がいる家族の大きな結束、創造性、献身性、そして資源を活用する事だ。また我々の仕事は、すべての市民が持つ自然なホスピタリティを引き出すことでもある。

アモリー・ロビンスは、著書『自然資本主義』(www.rmi.org)の中で、我々は価値があるものを信頼すると主張している。他の言葉で言い替えれば、もし信頼をしなかったら、我々はそれを知ることもないし、価値があるとも思わないということだ。

このロビンスの分析を障害の分野(本人とその家族両方)に応用すると、制度が頼るたった一つの事はニーズ、個人と家族のニーズ、という事が直ぐに分かる。政府によって分配されている財政的な資金もニーズに基づいている、という事も直ぐに分かる。それらは、あなたが支援を必要としていて、今後も必要で居続ければお金を得る事ができる。我々はこれを、人々を支援が必要なままにしておく「発見と破壊」作戦と考えている。そうすることによって、政府はリックやジョージの世界にある多大な資産を無視してしまう。彼らの立ち直る力を育てる代わりに、この方法は依存心を生んでしまう。何よりも、友情関係は、才能や情熱の周りから生まれるもので、ニーズからではない。

最近、一人の母親が僕に話しくれた、「娘に財政的支援を得るために、私は娘をもっとも酷い言葉で説明しなければならない。でもそれは私が見ている、私が知っている、そして私が望んでいる彼女の姿とは正反対のものなの」。

多かれ少なかれ、カナダの障害者支援制度は、リックとジョージについて間違った事を考慮している。私たちがプランの活動で学んだこと、どうやって障害者とその家族の適応力、立ち直る力を活用するか、を行政も学ぶべきだ。半分しかではなく、半分も水がグラスに入っていると見ることを。

障害者個人とその家族や友人は、3つの大きな壁に直面している。

1.新たな優生学思想の出現:社会の障害者に対する支援がどれだけ脆くなってしまうのか、私たちは常に再認識させられる。安楽死や死ぬ権利の立法化、テクノロジーや遺伝子工学に対する崇敬は、完璧さの追求や、ある命は生きる価値がない、もしくは価値があると見なされないと信じている事を映し出している。新たな悲劇、もしくは科学の飛躍的進歩があるたびに、再び現れてきた優性学運動の中で「生活の質」という曖昧な言葉が使われる恐怖が浮き上がってくる。経済不況が、価値がないとみなされた人々への支援削減を引き起こすことは、歴史が示している。なぜなら彼らは貢献者もしくは生産者として価値が無いとされ、彼らは限られた社会資源を享受する値打ちがないと見られている。

2.我々は孤立や孤独の蔓延を見ている:障害者が直面するもっとも大きなハンディキャップは、彼らの孤立や孤独である。マザー・テレサは「孤独はもっともひどい貧困である」と言っている。居場所があって、人生は意味を持つ。友情が才能を引き出し、人生に意味を与えてくれる。

人間関係や友情の大切さに幅広い合意がありながら、この問題に対する協力した取り組みは行われていない。無意識のうちに脆弱な人たちをさらに孤立させてしまうようなプログラムやサービスだけに、政府の予算は集中している。

3.我々は、社会支援の財源に対する金融危機と人口構造の変化の影響について懸念している

今後15年間、高齢化は国家経済が直面する主要な問題になるであろう。ここにいくつかカナダの統計がある。2005年には、100人の労働人口に対して44人の子どもと高齢者がいた。2030年までには、61人の子どもと高齢者がいることになる。影響はふたつある。ひとつは、医療費の増加が見込まれる(ある情報によれば、もし現在の傾向が続けば、私の地元であるブリティッシュ・コロンビア州の医療費は、2017年までに州予算の70%以上を占めるようになる)。ふたつ目は、税金を払う人が減るので、政府の予算が縮小する。

未来の政府がこのような人口構造の変化にどんな対策をとっても、すべての予測が、少なくなる資源に対するプレッシャーの増加、社会的支出に対する金銭的なパイの一切れが非常に小さくなることを示唆している。

この世界でジョージやリックから20年かけて学んだあとで、我々は、まだ使い方が分からず未開発な資源の宝箱に座っている事に感謝するようになった。我々が気づいていないことは沢山ある。

たとえば、障害者をコミュニティー・ライフに迎え入れることは、すべての人にとって相互信頼の触媒となることを我々は学んだ。リックのネットワークのメンバーは、リックが彼らの人生に意味を与えてくれたと断言している。

ある日、他の事にも気づき始めた。振り返ってみれば当たり前の事で、認めるのがとても恥ずかしいが。私たちは家族が作った遺言、家族が息子や娘のために積み立てた信託金とその積算額、家族の生命保険の総資産価値など、実際に金融機関に管理されている障害者やその家族が持つすべての信託、預金、投資、貸付金の額を調べ始めた。

我々は、障害者市場の潜在的な力に気づき始めた。その総額は驚くほどである。

我々は、カナダ人の家庭は、金持ちと貧乏も合わせ、障害を持つ肉親のために特別支援信託基金に800億ドルの蓄えがあることを学んだ。

だから我々は、家族が家族の一員のために準備している他の基金についても調べた。控えめに見積もっても、その推定額は年間2億5000万ドルだった。この調査結果を使って、私たちは登録制障害積立基金(Registered Disability Savings Plan:RDSP、以下、障害積立基金)の設立を提案した。8年間の努力の末に、我々は成功した。

2008年12月1日、カナダの金融機関は障害者のために世界で最初の障害者向け貯蓄プランを提供する予定だ。障害積立基金はまた、年間1000ドル相当の 国債と障害預金債の惜しみないマッチング助成を提供する。カナダにおける障害積立基金マーケットの推計額は800億ドル! これは80万人の障害者とその家族に大きな影響をもたらすだろう。

障害積立基金の設立が、大きなものを考える触発となった。我々は、障害者とその家族の共同経済力を活用したいと思っている。障害積立基金の800億ドルと特別信託の800億ドルを合わせれば、利用できる手つかずの経済的資金として1600億ドルを手にする事ができる。

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この資金をレバレッジとして、居住、雇用、補助器具、移動機器、そして孤立と孤独など、障害者とその家族に関係する重要な問題に政府が取り組むようにしたい。

我々は、カナダの全家庭に情報を届けようと、金融機関や州政府と連携している。カナダはとても広いので、自分達だけで行うのは困難だ。

我々は、この国にある孤立と孤独の問題に機能的かつ戦略的に取り組むために、「一人ぼっちではない基金(No One Alone Fund)」の設立を望んでいる。

我々は、社会的起業に投資するための貯蓄障害投資基金を設立するための戦略を開発している。

我々は、もはや自分達をチャリティーや政府の配給品に依存する被害者だとは思わない。リックやジョージの世界と同じように、我々は、自分たちの財産、道徳、社会、そして経済を頼りにしている。哀れみは十分ではない。哀れみは決して十分にならない。我々は、未来は自らの経済力を要求することで成立すると確信している。


アル・エトマンスキー、2002年からアショカ・フェロー、プラン(Planned Lifetime Advocacy Network)の会長であり創設者の一人である。『グット・ライフ―障害を持つ家族とあなたのために(A Good Life-For you and your Relative with a Disability)』『安全と安心(Safe and Secure)』の2冊のベストセラーの著者でもある。また、社会イノベーションや社会的起業にインパクトと持続性を持たせることを目的としたソーシャル・イノべーション・ジェネレーション(SIG)の創設メンバーである。

PLAN: Planned Lifetime Advocacy Network
Mail: Suite 260 - 3665 Kingsway
Vancouver, BC V5R 5W2, Canada
Phone: +1 604 439 9566
Fax: +1 604 439 7001
Email: inquiries@plan.ca
Web: www.plan.ca

Other websites: www.plan.ca connections to PLAN's services and resources
www.planinstitute.ca PLAN's companion Institute for Caring Citizenship providing resources to families including on-line courses, books DVD's and training in Circles of Friends
www.philia.ca devoted to a new theory of disability based on contributing citizenship
www.tiesthatbind.ca companion website to an inspirational film based on PLAN's work www.socialaudit.ca what families think - independent audit of PLAN's services
www.tyze.com web-based platform offering personal networks for people with disabilities based on PLAN's approach
www.rdsp.com up-to-date information on the world's first Registered Disability Savings Plan (RDSP)
www.sigeneration.ca devoted to values, practices, and methodologies which accelerate the impact of social innovations and social enterprises.