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コスマス・オコリ

マハ・ヘラリマーデック/ナイジェリア 1991年よりアショカ・フェロー

リーチアウト:障害者に力を与える新しい視点 オケチャク・オゾワル著

ナイジェリアの状況

2006年に行われた人口調査によると、ナイジェリアの人口は1億4,100万人を超える。WHO(世界保健機構)はこのうち1,900万人以上が何らかの障害を持っていると推定している。障害を持つ人は、数えきれない程の問題に悩まされている。

■障害者のリハビリテーションはほとんど実現できておらず、自立して家の外に出るために必要な最低限の基本的な移動用福祉機器は不足している。適切な器具を購入するお金がなく、四つん這いになって歩く障害者を見かける事は今でもよくあることである。彼らは社会の最貧層である。

■既存のリハビリテーション施設は財政が苦しく、慈善団体や個人による現金または現物寄付に依存し過ぎている。

■使い込んだ移動機器や装具をメンテナンスする設備が不足している。

■大多数の障害者は読み書きができず、スキルもなく仕事もない。

■障害者は社会から白い眼で見られ、固定観念に基づいたイメージで捉えられており、社会ののけ者にされ差別されている。間違った社会通念によって「欠陥商品」とみなされ、お金をつぎ込む価値はないと考えられている。

■物理的障壁や人々の態度の障壁が、障害者の社会参画を阻んでいる。社会は障害者の存在を否定し、公共のインフラへのアクセスを阻んでいる。

■障害者の苦しみを和らげ、権利を守るための適切な福祉政策や法律がない。職場でもあからさまな差別を受けている。

■障害者が娯楽やプロとしてスポーツに参加するための設備は全く用意されていない。

■障害者は自尊心が低く、尊敬できるロールモデルとなる人もいない。そして周囲からの様々でネガティブな固定観念から、残酷な運命に身を任せ敗者であることに慣れてしまう。

■団結力のあるしっかりとした障害当事者団体がなく、状況改善を政府に訴えることができない。

問題解決のための社会革新:リーチアウト・プログラム

マーデック(MAARDEC:Mobility Aid Appliances Research and Development)は1991年に創立され、障害者のためのさまざまな福祉機器を製造することによってこれらの問題に取り組んでいる。マーデックは1994年に運営をスムーズにするためにリーチアウト・プログラムを考え出した。どれだけ障害者用の製品に補助金をつけても、その多くが障害者に手が届かないということに気づき、この状況を打開するため、リーチアウト・プログラムは誕生した。これはナイジェリア国内の肢体、視覚、聴覚障害者のためのプログラムである。

マーデックと企業・慈善家・自治体の連携のもとで実施されるリーチアウトでは、車イスや長下肢装具、三輪車、松葉杖、歩行器、杖、点字機器、点字時計、装具、補聴器などを、ナイジェリアで必要とする障害者ならびに高齢者に無料で提供している。このプログラムはこれら組織に対し、企業の社会的責任を果たすために信頼できるプラットフォームを提供している。マーデックは年間収入の10%をこのプログラムに提供している

リーチアウト・プログラムは1994年に一ヶ所で始まり、2007年までにナイジェリア全域の6ヶ所に広がった。このプログラムは、自立して動くために最適な移動機器を提供することが、障害を持つ誰にとってもリハビリテーションの第一歩である、という私たちの信念に基づいている。

マーデックは移動機器や補装具の製造において、障害者を雇用し研修している(スタッフの50%が障害者)。しかし、障害者全員に研修を受講させ、全員を雇用することは不可能だ。そこでマーデックはリーチアウト・プログラムで「モチベーションと方法論のエンパワメント・サミット」を導入し、障害者の生活改善のためのカウンセリングを行った。

障害を持つナイジェリア人の多くは、障害について専門的なアドバイスを受けたことがない。その結果、自分にどのような移動機器が必要なのか知らない。多くの人たちはリーチアウト・プログラムで初めて、専門家チームによる支援を受けることができる。

ロータリー・クラブやインナー・ウィール(訳注:ロータリー・クラブ会員の妻が中心となり発足した、地域奉仕を目的とした女性によるクラブ)、ライオンズ・クラブ、ライオネス・クラブといった組織が無料で移動機器を配布することもあるが、その際に専門的・技術的なサポートは提供されない。しかしマーデックのリーチアウト・プログラムでは、専門的・技術的なサポートを定期的に受けることができる。リーチアウト・プログラムは、ただ一方的に移動補助具を配布するわけではない。私たちは受益者と長期にわたる関係を持っており、そのことは特にリサーチの面において、私たちの大きな強みとなっている。

リーチアウト・プログラムは、柔軟かつ順応性があり、障害者を支援したいという個人や大企業、中小企業などスポンサーの予算枠に応じて実施することができる。配布される機器には、たいてい資金提供者の名前や色がついている。

このプログラムはまた、障害を持つナイジェリア人にとって、社会と交流し、繋がりを持つためのきっかけとなっている。

そして障害者の中で数は多くないがロールモデルをつくり、社会的に成功した障害者が若い障害者を指導する場ともなっている。彼らは「モチベーションと方法論のエンパワメント・サミット」の講演や知識提供を通じて、他の多くの人たちに希望を与えている。

コスマス・オコリコスマス・オコリ

リーチアウト・プログラムによって生まれた変化

■プログラムがメディアから注目されたことで、マーデックは障害者エンパワメント団体として全国に知れ渡った。多くの参加希望者がマーデックのオフィスを訪れ、無料の移動機器を欲しがった。新聞記事やインタビュー、テレビのドキュメンタリー、ラジオなどでマーデックの活動を知った利用者は多い。

■リーチアウト・プログラムを通じて、ナイジェリアの障害者に関する広範で貴重な情報データベースが構築された。

■マーデックが設立したASCENDと呼ばれる障害者団体のための理想的な人材発掘の場となっている。

■マーデックの運営基盤が強化された。その基盤のおかげで、アメリカの補聴器メーカーなどと新たな連携が生まれている。

目覚ましい功績

■我々の活動によって、リハビリテーションに対する社会の態度が変わってきた。結果的に障害者の依存性を高めてしまう短期的な施しを行うよりも、長期的視点に立って彼らの自立を積極的に促すというマーデックの哲学が、政府や企業、一般の人々にも広まってきた。

■他の組織がマーデックのアプローチを取り入れ始めた。オンド州の障害者教育財団とアブジャ地方のブワリ・リハビリテーションセンターの2団体がマーデックのモデルを採用している。

■リーチアウト・プログラムによって、社会と触れ合った障害者の態度にも変化が起きた。彼らに自尊心や自己認識が芽生え始めた。

■マスコミの障害者に対する認識が深まり、直接障害者のニーズを知り、インタビューをし、より良い障害者のイメージが映し出されるようになった。

■地元や国際的な組織の関心を集め、ナイジェリアの障害者に対する寄付や移動機器提供のための新たな連携が生まれた。現金や製品の寄付、サービスの提供など多くの支援が寄せられるようになった。

■ボランティアの考えが広まった。500人ものボランティアが自分たちの時間や、時にはお金を提供してくれた。マーデックのスタッフは1994年以来、プログラムに一人当たり2,000時間以上を費やした。

■14年間で、リーチアウト・プログラムに集まった資金は85,265,000ナイラ(約710,000米ドル)。この資金で、ナイジェリア国内の56,000人の障害者に無料の移動機器を配布することができた。「モチベーションと方法論のエンパワメント・サミット」によって、156万人ものナイジェリアの障害者の生活に影響をもたらすことができた。

■リーチアウトの機器の寄贈やローンを活用して、203人の障害者が起業したり既存のビジネスに参画したりすることができた。こうした活動やエンパワメント・サミットがきっかけとなり、物乞いをやめて働きたいという障害当事者の意識変革につながっている。

■ASCENDという素晴らしい障害者団体がリーチアウト・プログラムから生まれた。この団体は障害者の権利を守る法律の制定に向け、ナイジェリアの議員に対するロビー活動を行い、成功を収めた。

もっとも大きな成功

■障害者のリハビリテーションや地位向上に対するナイジェリア社会の認識に変化を生じさせた。「魚を与えるのではなく、魚の取り方を教えよ」という格言のとおりである。

■ASCENDを通して、リーチアウト・プログラムは障害者を大いに啓発し、自らの権利を訴えられるようになった。こうした当事者の声が、リハビリテーションへのアプローチや社会の障害者に対する認識を変えていった。

■1994年以来、リーチアウト・プログラムはナイジェリアのメディアや世間の注目を集めてきた。そして多くの慈善活動を行う個人やCSR活動を実施する企業にとって、信頼できるパートナーとなっている。ナイジェリア・ファースト銀行は、3年間に渡って60台の三輪車やその他の移動機器を寄贈した。また、国営テレビ局でリーチアウト・プログラムを取り上げた30分間のドキュメンタリー番組の制作、放送のスポンサーにもなった。

■自分に合った移動機器を無償で手にしたナイジェリアの障害者は、自分の力で動き、外に出ることができ、尊厳を持てるようになった。人々と交流したり、学校に戻ったり、仕事を探したり、生産的な社会の一員として職業訓練を受けたり技術を習得することが可能になった。障害を乗り越え、苦しめられてきた差別を減らすことができた。

■マーデックは言葉や写真でリーチアウト・プログラムを紹介するニュースレターを、四半期に一度発行している。ニュースレターにはサービスを受けた障害者のインタビューや記事、一般の人、顧客、利用者からのフィードバックなどが載っている。ニュースレターは様々なイベントを通して、無料で一般の人々やスポンサー、寄付者などに配布されている。

課題

■財源

■不充分な人的資源

■信頼できるデータや統計情報の欠如

これらの課題達成に成功するための提案

情熱:「障害を持つ人間の一人として、私はナイジェリアの現状に怒りを覚える。政府は障害者のエンパワメントに向けた努力をまったく行っていない」。

強い衝動とコミットメント:「障害を持つ人々の現状を変えるという私の思いは、障害を持つ人間の一人としての個人的な経験によって駆り立てられている。もしこの試みが失敗すれば、人としても落第であると確信する」。

創造性:変化をもたらすためには、独創的で新しい方法を考案しなければならない。リーチアウトは、そのような独創的な例のひとつである。

忍耐:社会的な変化を起こすためには、人は抵抗にも打ち勝たなければならない。したがって、忍耐強く目的に集中し続けなくてはいけない。

信頼:社会の変革者は、威厳を持ち、変化を起こすために必要な信頼を勝ち得なければならない。「私は公人として働いてきて、18年間メディアにも積極的に出てきた。結果として多くの信頼を得ることができた」。

「私はマーデックや創設者のコスマス・オコリ氏とは10年以上の付き合いがある。弁護士として、また軍事政権時代には人権活動家として、ワークショップやセミナーでナイジェリアの障害者の代表として説得力のあるスピーチをする彼と何度か接点があった。

民主制が導入されたにもかかわらず、ナイジェリア政府の障害者問題に対する無関心は変わらなかった。マーデックはオコリ氏のリーダーシップのもと、障害者が正当な権利を持てるような社会を目指して活動を続けた。マーデックは安価な移動機器の導入、障害者の雇用、再教育、障害者スポーツの促進、一般社会に向けた啓発や権利擁護活動など目覚ましい成果を上げた。

マーデックの多面的なアプローチが一層強力なものになっているのは、その活動が、現状を変えたいという熱意を持った当事者、つまりナイジェリアの障害者達自身が始めたものだからなのだ」

クレメント・ヌワンコ、アブジャ国民民主協会副代表、ナイジェリア

コスマスの物語

イケチュク・コスマス・ブライセ・オコリは、4歳の誕生日を迎えてすぐポリオに感染し両足が麻痺してしまった。しかし彼は早い段階でその障害にめげることなく、逞しく生きることを決意した。学校では適切な移動機器がなかったため、這いつくばって移動していた。問題解決の才能があった彼は、足の添え木を改良し、手だけで車を運転できる器具を考え出した。

スポーツが好きだったコスマスは、他の障害者たちと障害者スポーツをするようになり、障害者スポーツの組織化と普及に努めた。彼は車イス卓球のナイジェリア代表にも選ばれた。1995年から2001年までの間、ナイジェリア・スペシャル・スポーツ連盟の会長も務めた。1996年のアトランタ、2000年のシドニー・パラリンピックでは代表団の団長であった。

コスマス・オコリコスマス・オコリ

医学生理学を学び、管理者研修や国際会議などに出席したこともある。また多数の授賞歴を持ち、そのうちの一つの賞で国家公務員の職を与えられた。

しかしナイジェリアにおける障害者の地位向上への熱い思いから、彼は仕事を辞めてマーデックを創設した。コスマスはシュワブ財団の社会起業家でもある。またナイジェリア政府から国家勲章を受けている。既婚で4人の子どもがいる。

「私の生活はマーデックの仕事を中心に回っています。普通の社会的な暮らしや趣味を楽しむ代わりに、仕事に全力を注いでいます。私が挑戦すればするほど、自分の努力が大海の一滴に過ぎないことに気づかされて、ナイジェリアにいる障害者の権利向上のために、もっとがんばろうと決意を新たにするのです」。


コスマス・オコリは46歳。マーデックとASCENDの創立者であり、会長である。障害者の総合的な権利向上を訴えている。1991年からアショカ・フェローであり、シュワブ財団の社会起業家でもある。既婚で4人の子どもがいる。

MAARDEC: Mobility Aids and Appliances
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