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社会変革の最もパワフルな原動力とは?
アショカ創設者ビル・ドレイトンによる序文

photo:Yusuke Abe世界中で、社会を革新する上で最もパワフルな原動力とは何だろうか?

社会の中で、長い年月をかけて習慣化されてきたやり方や在り方を、変えるのはたやすいことではない。とはいえ、社会起業家としての精神と能力に富んだ人の手にかかると、そういった社会に染み込んでしまったパターンを根本的に変える発想も比類なき効力を発揮する。

歴史を振り返れば、時代の舵が切り替わる度に、この「パターンの根本的転換」が起こっている。

さて、こういった変革を起こすことができるのは、障害のない人だけだろうか?答えは、もちろんNOである。

アショカの認定したフェローの中には、多くの障害と生きる人が存在する。イノベーションに、障害の有無は関係ない。

障害のあるアショカ・フェローを見れば、私たちが定義するところの「障害」は、社会を変革する「障害」ではないことは、一目瞭然である。アショカの核をなす目標は、数千年のあいだ続いた「ごく少数のエリート階級が社会全体を牛耳る時代」から、「社会を構成するひとりひとりが社会を変える当事者(チェンジメーカー)となる時代」への移行を推進することである。例えば、18世紀の農業革命は、特権階級が楽に暮らすために農耕から得られるごく僅かな利潤を独占することをやめさせ、生産性の向上により人口のほんの一部の人々が農業に従事するようになるというスキームだった。私たちは、毎日、倍速で変化が起こるような目まぐるしい時代に生きている。この「新しい時代」において、これまでのような「少数のエリート層が社会を牛耳る」というスキームは、もはや作用しない。

いま移行しつつある新しい時代において組織や社会変革の正否を計る尺度はなにか?それは、「チェンジメーカー」(変革の当事者としての個人)が、その組織や社会にどれだけ多く存在するかということだ。さらに言えば、その個人が変革したいという想いだけではなく、変革を達成するための高度なスキルを持ち、そうした個人間でのつながりがどれだけあるか、ということで決まる。なぜ、デトロイトやカルカッタなどのかつての工業都市が衰退し、サンノゼやバンガロールなどの情報集積都市が、めきめきと活力を増しているかを考えればわかっていただけるだろう。

新しい時代において、重要な資質とは何だろう? 力づくで、自分の思うように人を動かす時代は過去のものだ。今、始まりかけている新しい時代で輝くプレーヤーとなるには、「エンパシー」「リーダーシップ」「チェンジメーキング」という非常に高度で複雑な3つのスキルが備わっていなくてはならない。そして、これらの資質を自分が習得できると信じる自信、さらに「私は変革の当事者である」と言い切る自信も欠かせない。

私が言及している新しい時代では、誰もが変革の当事者"チェンジメーカー"となり得ることを知ってほしい。そこには、性別、年齢、人種、経済的格差、障害の有無など何の制限もない。

世界人口の10%を占める何らかの障害のある人々に対する新潮流が起こっている。障害のある人とない人の間の壁を崩すこのムーブメントは、直感的に新しい時代の到来を察知した人々が先導している。

その最終目標は、障害のある人々に潜む可能性を引き出し、「与えられる」側から、「与える」側へと変えること。つまり、彼らがチェンジメーカーとしての市民権を得るということにほかならない。

それは、明確で反論の余地もない。そして、その目標に到達する過程で活躍するプレーヤーこそが、社会起業家である。本書の内容は、その道程を映し出す光であり、「社会起業という魔法」の解説でもある。