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クリエイティング・チェンジ 障害の世界から生まれたイノベーション

エディー・バートニック
2009年3月18日

障害を持っていることで、人は世界で最も大きな少数派グループとされる。世界保健機構(WHO)の推計によると、世界の人口の10%-約6億5千万人、うち2億人は子どもたち-が何らかの障害を持っているとされる。人口の高齢化に伴い、この数字は更に増えるであろう。WHOはまた、「障害は貧困の原因でも結果でもあり、世界の障害者の80%は低所得国に居住し、社会的・経済的な不利益や人権侵害を被っている」と報告している。

障害の分野で実践されている創造的な問題解決について、国際的な事例をまとめた本を出す時は熟した。世界的な不況は、貧困という厳しいハンディを背負った人たちには、より暗い影を落としている。大きな問題に我々を引き入れる思想は、我々を引き出してくれる思想ではないだろう。世界的経済成長に見合うだけの対応を我々はしてこなかった。そしてもし歴史が繰り返すならば、縮小を続ける政府予算はサービスの削減につながり、さらに悲惨な状況を生み出すだろう。このままでいいはずがない。新しい考え方、新しいパートナー、そして新しい問題解決の方法が、切実に求められている。

幸いなことに、経済的な陰りの中で、「クリエイティング・チェンジ」は一筋の光だ。「クリエイティング・チェンジ」は、ひとりひとりの障害者やその家族の生活を変化させるだけでなく、地域、企業、そして政府が障害を持つ人を価値のある、社会に貢献する市民として歓迎し受け入れるようにする、世界中のアショカ・フェローによるユニークで創造的な物語を紹介している。16人のアショカ・フェローは全員、社会的にも認められた障害の世界におけるリーダーであり、社会起業家たちだ。彼らパイオニアたちは一緒に、障害の分野で、自国のみならず世界全体に影響を及ぼすような新しいパラダイムを創り出している。

「クリエイティング・チェンジ」は、2007年から始まった国際アショカ・フェロー協働の取り組みから生まれた成果である。この協働プロジェクトは、「『できる人(健常者)』と『できない人(障害者)』とが交じり合うことを邪魔するのは、往々にして固定観念や恐怖心、忌避、そして偏見である」という考えに基づいている。

「クリエイティング・チェンジ」には3つのねらいがある。一つ目に、障害の分野における可能性について、人々の考えに疑問を呈し、新しい創造を生み、固定観念を変えること。二つ目に、社会の指導者、企業、政府、国際機関を戦略的なパートナーとしてフェローの活動に巻き込むこと。そして三つ目に、社会変革を国際的に広め、国際的な政策に反映させること。

本書に収められたアショカ・フェローの世界的な活動は、世界15カ国に及び、教育、雇用、人権、経済的自立、障害を持つ女性の地位向上、ITスキルへのアクセス、社会的支援ネットワークの構築、ヘルスケア商品を低価格で提供するための社会的企業、移動支援とそのための機器、レクリエーション、芸術、メディアといった幅広い分野にわたる。

photo:Greg Keatingアショカ・フェローの活動の背景にある考え方には、哀れみやチャリティに基づいた考え方から、障害を持つ人一人ひとりの市民権と地域に貢献する能力への勢いある変化が見て取れる。障害者ができないこと(彼らの欠損など)に注目するのではなく、彼らが生まれ持った個々人としての価値や尊厳、自立と他者に与える能力が強調される。またそこには、障害を持つ人々と、その支援者、そして地域や企業、政府系機関の間にあるものは平等なパートナーシップだという自然な信念がある。強い社会起業的な手法が現れ、創造性に富んだ経済活動や公益性とつながった「可能な」アプローチを体現している。それによって、ネガティブで受動的なものとは異なる、ポジティブで力強い道が拓かれた。

それぞれの物語は個人的であるとともに、勇気と、革新的思考、企業との連携、構造変革の意味深い事例を読者に贈り物として与えてくれる。それぞれの物語は、小さな地域単位での試みから始まり、社会そのものの構造や文化を変える「社会運動」に発展していく道筋を辿る。

「クリエイティング・チェンジ」は、小額の投資がいかにして倍増し、実質的な結果と学識的な価値を創り出したかを示している。

「クリエイティング・チェンジ」は、私たち読者に実行を呼びかける。私たちは、人にやさしいインクルーシブな地域を創ることができる。地域での解決方法を広めることができる。そして、貧困と孤立という、障害を持つ人々が直面するふたつの大きな古くからあるハンディに打ち勝つことができる。

最後に、この本を通して先駆的な試みから学んだ、またこれから学ぶであろう幸運な人々に代わって、アショカ・フェローの皆さんに心から感謝したい。あなたがたの仕事が、その意思に共感し、ビジョンの実現に支援してくれる国や国際機関の関心を惹きつけることを、私は強く期待している。

エディー・バートニックは、西オーストラリアの障害サービス委員会による大都市コミュニティ支援のディレクターであり、オーストラリア知的障害者研究ソサイエティのフェローである。彼は、政策や基金、そして支援提供において幅広い上級政府職を経験しながら、障害者とその家族を支援する30年間の展望を持っている。そしてここ数年は、社会サービス分野、また個人コンサルタントとして働いている。エディーは、全国的な地域調整プログラムの開拓において主要な指導的役割を担ってきた。そのプログラムは現在、西オーストラリア全体の8000人以上の障害者とその家族を支援している。さらに、選択と管理、そして個人と家族のリーダーシップと地域関与を強化するためのイニシアチブを増大させるため、個人化と個別化された基金メカニズムに集中した西オーストラリアの支援改革のリーダーでもあった。1999年から、エディーは、地域調整アプローチを計画し、制度変革に影響を与えるためにオーストラリア、イギリス、オランダ、ポーランド、アメリカ、カナダ、ニュージーランドで会議論文を発表し、家族やコミュニティ・グループ、そして政府の相談に乗っている。彼は、ブリティッシュ・コロンビアのアショカ・フェロー、アル・エトマンスキーと親密に働いており、ブリティッシュ・コロンビアと西オーストラリアで一連の相互社会起業協力を展開している。そして、2006年にポーランドでアショカ・フェローと会い、それがこの重要な書籍化プロジェクトのコネクションとなった。