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第2節 イギリス:「福祉的就労」分野における労働保護法の現状

寺島 彰(浦和大学総合福祉学部)

1.福祉的就労の理念

英国の障害者雇用の法的基盤は、1944年に制定された障害者(雇用)法(the DisabledPersons (Employment) Act)である。同法は、第二次世界大戦の負傷者にリハビリテーションを実施し、職業復帰を促進するために制定されたものである。同法により保護工場(sheltered workshop)に公的資金を投入することができるようになり、現在も、多くの保護工場が運営され公的資金が投入されている。

同法第15条では、保護雇用する障害者を「障害の種類や程度により、一時的に、または、長期にわたって、保護雇用以外の仕事に就いたり自営をすることができない登録された障害者」に限定している。具体的には、同じ仕事をしている一般労働者の30%から80%の作業能力を持つ障害者が対象になる。作業能力が30%に達しない障害者は、雇用対象でないとみなされ、さまざまな手当制度が整備されている。

イギリスの就労年齢人口の17.9%が「日常生活を送るための能力に影響を与える障害を持ちその障害が1年以上継続するか、または障害が労働内容や賃金に影響を与える」者であるとされている。

保護工場の労働者は、基本的に労働者であるので最低賃金法が適用される。そのために、国から保護工場に対する賃金補填がある。しかし、このような公的支援に要する費用が莫大であり、その削減のためのさまざまな努力がなされてきた。また、一方で手当制度に要する公的資金も大きく、しかも、雇用される障害者と手当の対象になる障害者を分離しているために、働きたいと希望する障害者の就労を妨げているという批判があり、雇用と手当制度を結びつけるとりくみが続けられている。たとえば、以前は、手当と雇用は別の行政機関が担当していたが、現在、中央政府では、雇用年金局(Department of Work andPensions)が両制度を担当するようになり、また、地域では、職業安定所(Job Center Plus)が雇用と手当の両方を取り扱うようになっている。また、2008年10月からは、雇用・生活支援手当(Employment and support allowance)がそれまでの就労不能給付(IB)と所得補助(IS)に代わり支給されるようになり、雇用と手当を関係づける制度が新たに作られた。

2.福祉的就労の種類

(1)レンプロイ

①沿革

第二次世界大戦の負傷者にリハビリテーションを実施し、職業復帰を促進するために、障害者(雇用)法 the Disabled Persons (Employment) Actが制定された。同法により保護工場(sheltered workshop)に公的基金を用いることができることになり、1946年に政府が非営利会社として設立した。教育雇用大臣に任命された理事会によって運営されている。

②支援内容

ⅰ 直営事業所事業
Remploy Automotive:Rover、Jaguar、BMW、Hondaなどの自動車部品を加工する。6ヵ所の事業所を持ち、50年以上の歴史がある。
Remploye-cycle:電気製品のリサイクルや処分を行う。
Remploy Furniture:家具製造。レンプロイ社の直営事業所の代表的な業種。約60年の歴史がある。過去3年間に13,000ヵ所以上の学校や教育機関に家具を納入している。
Remploy Health care:医療用具・福祉用具製造。年間 16,000台以上の車椅子を生産。補装具や靴なども製造。
Remploy House hold & Toiletries:食器洗い洗剤、パーソナルケア用品など日用品・化粧品製造。
Remploy Managed Services:企業のアウトソーシングを引き受ける。
Remploy Offiscope:バックオフィス業務の請負。
ⅱ インターワーク(Remploy Interwork
レンプロイ社が実施する援助付き雇用。障害者を雇用して一般事業所に派遣する場合と、一般事業主が雇用する障害者をレンプロイが支援をする場合とがある。

③支援対象・支援者数

ⅰ 直営事業所
5,758人(2004-5)、5,798人(2005-6)、5,221人(2006-7)、3,504人(2007-8)
ⅱ インターワーク(Remploy Interwork
3,622(780+2,842)人(2004-5)、3,873人(2005-6)、5,068人(2006-7)、6,472人(2007-8)

④実施主体

レンプロイ

⑤財源・財政規模

レンプロイの収入と政府からの補助金で運営。政府からの補助金は、£11,100万(2004)、£11,6OO万(2005)、£11,93O万(2006)、£13,38O万(2007)、£15,58O+7320万(2008)。

⑥認定の実施主体と認定基準

30-80%の生産性

(2)ワークステップ(支援付雇用)

①沿革

もともと、一般雇用現場でグループ単位で働く障害者を支援する保護産業グループ制度(Sheltered lndustrial Group Scheme)があった。それが、1973年に一般雇用での保護グループ(Sheltered Groups in open employment)と呼ばれるようになり、1985年には、個別の労働者を対象とする保護職業紹介制度(Sheltered Placement Scheme(SPS))に変わり、1994年には、支援付き雇用プログラム(Supported Employment Progamme)、2001年にワークステップ(WORKSTEP)と呼ばれる制度になった。

②支援内容

援助付雇用は、重度障害者のための一般雇用への移行促進プログラムであり、障害者が一般企業で補助を受けながら働く制度である。事業主(ホストと呼ばれる)は援助付雇用の労働者に仕事、道具および訓練を提供し、毎日監督する責任はあるが、雇用関係は結ばない。労働者はスポンサーである地方自治体またはボランタリー団体に雇用され、同様の仕事をする非障害労働者と同額の賃金(給料)の支払を受ける。

かつては、ホスト事業所はその労働者の生産性に見合った賃金だけを支払い、残りの部分はスポンサーを通じて雇用サービス庁が助成していたこともあったようだが、現在は、障害者の(できるかぎり一般の職場での)就業を支援するため1人あたり400ポンドの補助金を雇用年金省の管轄にある公的職業紹介機関(日本のハローワークに相当)であるジョブセンター・プラスから、雇用主に支払われている。この400ポンドをどのように使うかは事業主によって異なる。障害をもつ労働者の生産性を向上させるための訓練などに充てる場合もあるし、生産能力が低く、支払える賃金が低くなることに対し、差額の所得保障として従業員に支払う場合もある。

金銭的支援のほかに、ジョブセンター・プラスのワークステップの担当者は、スムーズに就労できているかの確認をしたり、雇用主と支援対象者を仲介しながらスキルアップの計画立案の支援を行ったりする。

③支援対象・支援者数

12,800人。(2006-7)

④実施主体

ジョブセンター・プラス

⑤)財源・財政規模

税(中央政府)。6670万ポンド(2007-8)レンプロイを除く。

⑥認定の実施主体と認定基準

ジョブセンター・プラスの障害者雇用アドバイザー(DEA)の判断による。定量的な基準はない。

(3)仕事へのアクセス支援制度(Access To Work scheme

①沿革

従来の「施設設備援助制度」や「雇用に要する特別補助機器援助制度」等を置き換えた制度として、1994年に「仕事へのアクセス支援制度」が創設された。

②支援内容

障害者の就労を妨害するものを除去することを目的としており、次の費用を提供する。制度創設当初は、福祉用具や建物の改修に予算の多くを割いていたが、現在はサポートワーカーと交通手段の予算が増えている。

ⅰ 支援ワーカー(Support Workers)の配置:
聴覚障害者のための手話通訳者(communicator)、視覚障害者のための朗読者、その他、障害のある労働者が働くために必要な補助者を雇用するための費用を提供する。
ⅱ 通勤支援(Travel towork):
通勤に公共交通機関を利用できない障害者のための自動車、タクシー等に係わる費用
ⅲ 福祉機器(Aids and equipment):
障害者のニーズに適合した用具の配置や設備改造のための費用
ⅳ 施設改修(Adaptation to premise):
障害者のニーズに適合した施設の建築・改築、障害者の就労のために必要な職場における施設改造のための費用

③支援対象・支援者数

28,000人(2005-06) 8,386人が新規の受給者で、20,128人が既存の受給者。
28.500人(2006-07)

④実施主体

ジョブセンター・プラス

⑤財源・財政規模

税(中央政府)。£7,580万(2007-08)、£6200万(2004-05)ポンド。

⑥認定の実施主体と認定基準

ジョブセンター・プラスの障害者雇用アドバイザー(DEA)の判断による。定量的な基準はない。最長3年間に渡って助成される。その後、再申請できる。

(4)職業準備(Work Preparation

①沿革

1944年に産業リハビリテーション・ユニット(lndustrial Rehabilitation Units)として職業準備プログラムが始まったが、1973年に職業リハビリテーションセンターと改称され、1991年に職業リハビリテーション・プログラムになり、さらに、2001年から職業準備(WorkPreparation)と呼ばれている。

②支援内容

6~12週間の職業訓練プログラムである。具体的な内容の例としては、衆人環境では落ち着いて仕事が手に付かないような精神障害を抱えている人に対して、最初は少人数で、次第に少しずつ多くの集団の中で働くようなリハビリをしたりする。

③支援対象・支援者数

他の就労支援プログラムで支援しきれなかった重度障害者が対象。

対象者数:7,400人(2003-04)、8,100(2006-07)。

④実施主体

ジョブセンター・プラス

⑤財源・財政規模

税(中央政府)。財政規模 約£1,200万(2004-05)、£1,070(2007-08)。経費の約半分は障害種別を問わないで支出されるが、約3分の1は、精神・知的障害や、特殊な脳の手術を実施した人など障害種別の特別のプログラムに充てられる。

⑥認定の実施主体と認定基準

ジョブセンター・プラスの障害者雇用アドバイザー(DEA)の判断による。

(5)ジョブ・イントロダクション制度(Job Introduction Scheme

①沿革

障害者を新たに雇用する民間事業主に対して支払われる助成金で、1977年に制度化された。

②支援内容

最初の6週間(障害者雇用アドバイザー(DEA)が認めた場合には13週間まで)、週£75が事業主に支払われる。雇用する前に申請を行い、フルタイムでもパートタイムでも、26週以上雇用を継続することが条件である。

③支援対象・支援者数

2,000人(2003-04)、1,100(2007-08)

④実施主体

ジョブセンター・プラス

⑤財源・財政規模

税(中央政府)。約£100万(2004)、£100万(2008)

⑥認定の実施主体と認定基準

ジョブセンター・プラスの障害者雇用アドバイザー(DEA)の判断による。

(6)障害者のためのニューディール(New Deals for Disabled People:NDDP

①沿革

就労不能給付(lncapacity Benefit)の受給者の就労を促すためのプログラムで、1998年にパイロットプログラムとして始まったが、2001年には全国で実施された。

②支援内容

ジョブ・ブローカー(Job Broker)が、就業希望者の能力やスキルを分析し、適した職業を紹介するとともに、応募書類や履歴書の作成支援・アドバイス、面接試験の準備の支援、必要な職業訓練のコーディネイトなどをするほか、就職してから最初の半年間のサポートや雇用主との調整などをも行う。ジョブ・ブローカーは、実績に応じて収入を得る。

③支援対象・支援者数

2001年の7月から2008年8月までの間に271,180人が利用。57,800人(2003-04)、60,940人(2006-07)。これまででに、189,410人が就労している。

④実施主体

ジョブセンター・プラス

⑤財源・財政規模

約£3,750万(2003~04)、約7,840万(2007-08)。

⑥認定の実施主体と認定基準

対象者は就労不能給付(Incapacity Benefit),重度障害者手当(Severe DisablementAllowance),所得補助(Income Support)・住宅給付金(Housing Benefit)・自治体税給付金(Coucil Tax Benefit)の障害割増,障害者生活手当(Disability Living Allowance),非就労補助(Unemployability Supplement),または、就労不能国民保険控除(NationalInsuarance Creditfor incapacityfor work)のいずれかを受給していることがNDDPの対象となる。

(7)仕事への道(Pathways to Work

①沿革

障害者のためのニューディール政策と同様に、就労不能給付を受けている人に就労を促すためのプログラムで、2003年にパイロットプログラムが始まり、2008年には全国で実施されている。

②支援内容

就労不能給付等の新規申請者あるいは更新者が対象である。対象者は就労アドバイザの面接を受けた後、月に1度の面接を5回受ける。面接では、将来設計を支援し、就労への障害を乗り越える方法を検討する。就労直前まで13週間以上就労不能給付を受けており、プログラムを受けていた対象者が就職し、週16時間5週以上働き、年収15,000ポンド以下の場合、週40ポンドの復職奨励金(Return to Work Credit)が52週支払われる。

③支援対象・支援者数

2003年の開始から開始から2007年10月まで69万4410人が支援を受けた。

④実施主体

ジョブセンター・プラス

⑤認定の実施主体と認定基準

18-60歳で就労不可能のため、就労不能給付(Incapacity Benefit)、重度障害者手当(Severe DisabledAllowance)、又は、所得補助(Income Spport)の新規申請者。

(8)ソーシャル・ファーム

①沿革

ブレア政権の「第三の道」の方針に従い、2001年、貿易産業省(Department ofTrade and Industry)が発表した『ソーシャル・エンタープライズ成功の戦略』(Social Entelpnse: a strategy for suecess)では、ソーシャル・エンタープライズを「基本的に社会的な目的を持ったビジネスで、事業で得られた利益は、株主や事業主の利益を最大限に増やすためではなく、主にその社会的な目的のために、ビジネスあるいはコミュニティに再投資される」企業と説明している。ソーシャル・エンタープライズにはさまざまな種類があり、消費者信用組合、協同組合などとともに、ソーシャル・ファーム(Sccial Firm)も、その一つの形態である。

ソーシャル・ファームは、その収入の半分以上を売上によって確保し、従業員の25%は、障害者あるいは就業に困難のある者である。ソーシャル・ファームは、あくまで、企業であり、従業員は、各自の生産能力に関わらず、仕事に応じた賃金や給料を支払われる。企業を新たな設立したり、チャリティ団体が一部移行したり、地方自治体が設立したりといろいろな設立プロセスがある。

②支援内容

基本的に企業なので、原則的には行政機関からの財政的支援はない。金融機関からの優先的な融資や公的機関からの受注などの支援がある。

③支援対象・支援者数

151(2007)のソーシャルファームがある。2005年の調査では、80のソーシャルファームがあり、250人の障害者が働いていた。

④実施主体

各ソーシャル・ファーム

⑤財源・財政規模

各ソーシャル・ファームによる。

⑥認定の実施主体と認定基準

各ソーシャル・ファームによる。

福祉的就労の種類の章を年表として整理した図

福祉的就労の種類の章を年表として整理した図

3.手当制度

英国は、手当制度も充実しているが、雇用される障害者と就労が困難な障害者を明確に分離している。主なもののみを解説する。なお、受給者数を下図に示す。

(1)就労不能給付(Incapacity Benefit;IB

仕事に就くことができない人を対象に支払われる。老齢年金受給年齢以下の者が対象。 2008年 10月以降は、雇用・生活支援手当(Employment and support allowance)に引き継がれた。

(2)所得補助(Income Support:IS

個人及び家族の基本的な支出を支える補足的給付。国民保険法(National Insurance Act)および社会保障法に基づいており、個人を基本とした個人手当(Personal Allowance)に家族加算、障害者加算や年金生活者加算が付加される。

(3)重度障害手当(Severe Disabled Allowance:SDA

重度障害のために連続して就労できないが、国民保険の保険料納付要件を満たしていない者又は20歳前の受傷による障害者を対象とした手当である。

(4)障害者生活手当(Disability living allowance:DLA

介護又は移動介助が必要な障害児(者)個人のための手当である。使途は、介護や介助に限定されていない。

(5)雇用・生活支援手当(Employment and support allowance:ESA

病気や障害のために労働能力が制限される人々に支払われる新しい給付金であり、2008年10月27日から英国で始まった。その目的は、障害者を働ける障害者と働けない障害者に分けて、働けない障害者に手当を支給するというこれまでの方法では、働こうとする障害者の意欲をそぐ可能性があることから、だれもが働くことを求める政策として、手当制度と就労を結びつけようとしてものである。

グレート・ブリテンの成人人口に占める障害関連手当の需給状況(2004年)

グレート・ブリテンの成人人口に占める障害関連手当の需給状況(2004年)

Prime Minister's Strategy Unit Improving the life chances of disabled people January

【用語】

IB:
Incapacity Benefit―就労不能給付
IS:
Income Support―所得補助
SPS:
Sheltered Placement Scheme―企業内保護雇用制度
DEA:
Disablement Employment Advisor―障害者雇用アドバイザー
NDDP:
New Deal for Disabled People―障害者のためのニューディール
SDA:
Severe Disablement Allowance―重度障害者手当
DLA:
Disability Living Allowance―障害者生活手当
ESA:
Employment and Support Allowance―雇用・生活支援手当