9カ国の一時的・部分的障害プログラム 「他国から学ぶ」最終報告書
第2章 一時的障害給付制度 その特徴と最近の変化
トッド・ハニカット
障害給付政策が社会参加や雇用を志向する傾向がより高まりつつあるなかで、一時的障害給付プログラムは、受給者の職場復帰の可能性を高め、永続的障害給付への移行を防ぐために大きな可能性を秘めているといえるだろう。一時的障害給付プログラムはさまざまな形をとることがあり、永続的障害給付プログラムよりも各国により違いが多い。いくつかのプログラムにおいては雇用主が全負担するのに対し、他のプログラムでは一般年金制度に付随して存在するし、さらにまた他のプログラムでは収入に上限があり、かつ最近の就労経験があってはならないという条件がある。プログラムの財源はどうなっているか、給付の期間はどれくらいか、雇用主はどのような立場にあるか、プログラムと長期的障害給付プログラムとの関係はどうか、一時的障害給付がどのように運営され、職場復帰を促進するためにどれだけ成果を挙げられるかは、これらの問題のすべてが関わってくる。たくさんの種類のプログラムがあるなかで、共通しているのは次の一点のみである。つまり、給付は限定的であり、ある一定の期間のみであるということである。この期間とは、(1)障害が回復して職業復帰ができるまで、あるいは(2)障害に回復の見込みがなく、長期的給付を受給すべきであるという結論に至るまで、のどちらかである。一時的障害給付は疾病給付または短期的障害給付の形をとり、しばしば、法で定められた雇用主による所得補助の期間の終了後になされる。この給付は、職務に関係しないケガや病気を理由に職に就けなくなった人々に、一時的な現金給付を与えるものである。(注8)賃金保障として与えられる現金給付に加えて、社会復帰サービス、障害ケア、障害に由来する給付などの他のサービスや援助が含まれる。
一時的給付のもう一つのタイプに、「期間限定」型とされるものがある。期間限定給付プログラムは、短期的障害給付プログラムと永続的障害給付プログラムの両方の側面を持っている。短期間給付が終了した場合、永続的受給に移行するのではなく、期間限定給付に移行するのである。ひとつの考え方は、期間限定給付を短期的プログラムと長期間プログラムとの架け橋として考えるもので、病状が好転したり雇用の可能性が高いと期待される人々に支給される。もう一つの考え方は、長期間の永続的障害給付の代わりに期間限定給付を与えるものである。この傾向が著しい場合、すべての障害給付受給者は数年ごとに再申請を求められる。三番目の考え方は、一時的給付を若者を対象としたプログラムとして考えるものである。これらの一時的給付プログラムすべてにおいて根本にあるのは、障害のある人々は就労の機会と見込みを持つべきであるという考えである。
この章は以下のような構成になっている。最初の部分では、調査対象の9カ国において実施されているさまざまな短期的または期間限定の疾病給付と障害給付についてその概要を紹介する。より詳細については、それぞれの国の章で触れられる。次に、得られた統計データ(支出と受給者数)についての検討を行う。三番目の部分では、各国の一時的プログラムの特徴について、プログラムの鍵となる特徴を比較、対照する。四番目に、期間限定プログラムが具体的にどのように実施されているかについて触れる。最後に、短期的プログラムと期間限定プログラムから学び取れること、また見いだされることを結論として示す。
各国における一時的プログラム
この項では、この報告の対象となる9カ国における一時的障害給付プログラムのうち主要なものを概観する。図1は、これらの制度名、監督官庁、短期か期間限定か、財源、受給者負担有無を示している。
オーストラリアの一時的障害給付プログラムは、受給者負担に基づかない資力審査型である。3種のプログラムがあるが、すべて給付額は固定で(男子平均週給の25%と定められている)、収入あるいは資産の上限を超えているとそれに応じて給付額が減額される。第一のものは「疾病給付」と呼ばれ、一時的な病状により週に8時間以上就労できない被雇用者(あるいは25歳以上の学生)に与えられる。給付申請に対して、一定の間隔で見直しが行われ、2年以内に職業あるいは学業に復帰できないと考えられる場合には「障害年金」(永続的障害給付)を給付される。「再スタート手当」制度は、非雇用の者あるいは永続的障害年金給付を希望するものを対象に給付するもので、「若者手当」制度は16歳から25歳までの学生あるいは16歳から21歳までの非雇用者のうち、障害により就労、就学が不可能な者を対象としている。
表1:各国における一時的障害給付制度とその特徴
国名 | 制度名 | 主管官庁 | 種類 | 財源 | 負担歴の有無 |
---|---|---|---|---|---|
オーストラリア | 疾病手当 | 家族地域社会省 | 疾病 | 一般財源 | なし |
再スタート手当 | 家族地域社会省 | 失業 | 一般財源 | なし | |
若者手当 | 家族地域社会省 | 期間限定 | 一般財源 | なし | |
ドイツ | 就労不能手当 | 国家年金保険基金 | 期間限定 | 雇用主、非雇用主負担 | 過去5年間における3年分の負担 |
短期疾病 | 国家健康保険基金 | 疾病 | 雇用主、非雇用主負担 | 健康保険に加入中でなければならない | |
英国 | 法定疾病手当 | なし(雇用主による) | 疾病 | 雇用主 | なし |
日本 | 障害疾病 | 健康保険 | 疾病 | 雇用主、非雇用主、政府 | 健康保険に加入中でなければならない |
オランダ | 疾病給付法 | なし(雇用主による) | 疾病 | 給与税 | 2001年度における受給に必要な最低賃金は年収13,159ユーロ、年収の上限は38,117ユーロ |
ノルウェー | 疾病保険給付 | 国家保険庁 | 疾病 | 給与税 | 最低14日間の就労と、基準額(2003年度では56,861クローネ)の半分を超える収入 |
医療リハビリテーション日割現金給付 | 国家保険庁 | 期間限定 | 給与税 | 3年間の加入(一般の年金と同様) | |
職業的リハビリテーション日割現金給付 | 労働省 | 期間限定 | 給与税 | 3年間の加入(一般の年金と同様) | |
期間限定障害給付 | 国家保険庁 | 期間限定 | 給与税 | 3年間の加入(一般の年金と同様) | |
南アフリカ | 一時的障害手当 | 社会開発庁 | 疾病 | 一般財源 | なし |
スウェーデン | 疾病給付 | 国家社会保険審議会 | 疾病 | 給与税 | 同一の雇用主の下での14日以上の雇用 |
保証された所得関連活動保障 | 国家社会保険審議会 | 期間限定 | 給与税 | 年金加入(所得関連制度については、なし) | |
医療的、職業的リハビリテーション現金給付 | 国家社会保険審議会 | 期間限定 | 給与税 | 年金加入 | |
保証された疾病補償 | 国家社会保険審議会 | 永続的制度における期間限定規定 | 給与税 | 年金加入の資格があること |
ドイツの一時的疾病給付は、まず雇用主によって支払われ、被用者が医師によって就業不能と診断された場合、賃金の100%を6週間分まで支払われる。病気やケガの状態が6週間以上続く場合には、賃金の70%が78週分まで「法定健康保険」によって支払われる。ドイツは2001年に永続的障害プログラム(法定年金保険制度による)を変更し、その結果、最重度の障害のある人以外の支援は期限が3年の期間限定プログラムになった。3年の期間が終了すると、受給者は再申請を行わなくてはならない。60歳を超えたもの、または、障害給付を3回申請・受給したものは、永続的受給者となる。
英国の一時的障害給付制度は、雇用者負担である。「法定疾病手当」制度は1983年から開始され、賃金全額を8週間まで雇用主が支払うものだったが、1995年から支給期間が28週まで延長された。この期間の後は、永続的障害給付を申請することができる。雇用主は支給の7日後に医師の判断に基づいて受給者が就労不能かどうかを決定する。
日本では、すべてではないがいくつかの健康保険制度で短期的障害給付が行われている。大企業の被用者を対象とする健康保険制度では短期的給付が支給されるが、中小企業の被用者や自営業者が加入している基礎的な健康保険制度では短期的給付を支給することは義務化されていない。支給が認められた者は、賃金の60%を18ヶ月まで受給できる。永続的障害給付制度についてもそうであるように、日本で短期給付を実際に受ける人は少ない。その他の一時的給付は、失業保険によって支払われる(雇用がなく、病状により働いたり仕事を探したりすることが不可能な人を対象とする)。これらの給付は失業給付と同額で、最長360日分まで支給される。
オランダの短期障害給付プログラムは、この報告の調査対象国のうち過去10年間においてもっとも大がかりな変更があった。1980年代から1990年代にかけて、オランダは障害給付申請の増加に悩まされ、障害プログラムは雇用者と被雇用者によって失業または早期退職に代わる手段として用いられていた。一時的給付プログラムはもともと準公的な制度で、「産業連合(雇用主団体と労働者業界団体からなる)によって運営されていた。1994年から、短期的障害給付は民営化され、それにより財源の負担先が変更された。その結果、雇用主は短期的賃金保障を12週間分まで支給することが義務づけられたが、この支給期間は1996年に1年まで、2004年には2年まで延長された。支給額は以前の賃金の70%であるが、雇用主がこの額を最大100%にまで上乗せすることが、支給1年目のみ認められている。加えて、オランダの短期プログラムでは、リハビリテーションや障害マネジメントが重要視されており、雇用主には、短期的給付受給者の治療や職業復帰を取り扱うための「職業健康サービス」への参加が義務付けられている。
ノルウェーでは、「疾病保険」プログラムによる障害のある人に対する給付がある。同制度により、賃金の100%分を最長52週間まで受給でき、部分的給付も受け取ることができる。医学リハビリテーションあるいは職業リハビリテーションを受けている受給者は、永続的障害年金ではなく、リハビリテーションを目的とする現金手当を受けることができる。この手当の受給期間は最長52週間である。疾病保険給付が終了した後に永続的障害給付を申請する者は、永続的給付の代わりに1年から4年の期間限定給付を受けることができる。これらの給付は、職業復帰の可能性が高いと考えられる人に与えられる。
南アフリカでは、助成支援プログラムの一環として、「一時的障害助成金」と「永続的障害助成金」が実施されている。6ヶ月以上1年未満の間就労できない状態の人は、一時的助成金を受給できる。診断医によって決定された期間、定額制の給付が支払われるが、この給付には資力審査がある。
スウェーデンの一時的障害プログラムは4種に別れており、それぞれが特定の集団を対象としている。「疾病」プログラムは、就労できなくなった後21日を過ぎてから、賃金の77.6%を支給する短期プログラムで、支給の期限はない。支給の21日分までは、雇用主の負担である。次に「活動保障」制度は、健康上の問題により就労できない19歳から29歳の若者を対象としており、給付期間は3年を上限とする。三番目の「疾病保障」制度は、長期的障害給付の一環として、期間限定給付を支給するものである。最後に、疾病保障の受給者のうち、医学リハビリテーションや職業リハビリテーションに参加している人を対象に、リハビリテーション給付がある。これらのプログラムにはすべて、年金方式によるものと資力審査方式によるものがある。
アメリカ合衆国では、全国一律の一時的障害制度はない(それゆえ図1には記載されていない)。強制疾病給付と、州ごとに定められた「労働者補償」制度を別にすれば、短期間の障害給付は雇用主の判断に任されている。しかしながら、カリフォルニア、ハワイ、ニュージャージー、ニューヨーク、ロードアイランドの5州においては、州が運営する一時的障害プログラムに雇用主が参加することを義務づけている。これらのプログラムでは、「社会保障障害保険(SSDI)」あるいは「補足的保障収入(SSI)」がない場合に、26週から52週分の給付が与えられる。また、1993年に成立した「家族医療休暇法」により、自らの病気、家族の病気の世話、あるいは新生児または新しく養子にした子の世話のために、無給で12週間まで休暇を取ることができる。
プログラムの支出と受給者
短期的障害制度についての統計データ収集が難しいのには様々な理由がある。まず、財源を民間に頼っている場合(例、英国)、短期的給付の受給者数や年間の拠出額について公開されない場合がある。次に、これはどのような給付制度についても言えることだが、比較可能な制度間の統計について入手しうる統計が一貫していない。これらの問題は、常に、ストック(現在の受給者数)とフロー(新しく受給する人の数)の問題に帰着する。ある制度運営統計においては、一年間の新規受給者数が示され、他の統計では一年間の総受給者数が示され、また他の統計では(1ヶ月や1日といった)ある期間における受給者数が示される。
短期プログラムを比較する上で有用な一つの基準は、そのプログラムの年間支出額である。ここでは、OECDの「社会支出データベース」(2004)を用い、手当が支払われる疾病休暇で、職業に関連する疾病が原因ではない病気休暇における公的支出に特に焦点を当てる。この支出額は、先に触れた期間限定プログラムのうちのいくつかについてのデータを除外しており、それゆえ一時的制度に対する公的支出額の合計を表すものではないが、調査国における短期的給付の重要性を比較するうえで、妥当な基準を示すものといえる。支給額の規模により、9カ国は二つのグループに分類することができる。図1は、1980年から2001年にかけて、オランダ、ノルウェー、スウェーデンにおける疾病給付のGDPに占める割合を示したものである。この期間中、3国ともGDPの1%以上を疾病給付に充てている。オランダは、1980年には疾病給付支出額が他の国と比べて最も多かった(GDPの2.7%)が、2001年には支出額を半分以下に削減した。スウェーデンとノルウェーにおいては、1990年代中頃まで支出額が低下する傾向にあったものの、その後は増加傾向をみせている。
図2は、同じ期間のオーストラリア、ドイツ、日本、英国、アメリカ合衆国の疾病給付支出額を示したものである(注9)。これらの国々では、疾病給付がGDPの0.5%を超すことはなかった。オーストラリアと日本はなかでも最も低い支出額となっており、GDPと比較するとほとんど無視してよいほどの割合でしかない。その他の3カ国については、疾病給付支出額は中程度であるといえよう。それぞれの国についてある程度の変動はあるにしろ、おおむね支出額は減少傾向にあったが、最近2、3年において若干増加の傾向にある。
OECDの「社会支出データベース」には、オーストラリア、ドイツ、オランダ、ノルウェーの4カ国における、疾病給付についての法定の民間支出額についてのデータも記されている(図3)(注10)。法で定められた民間による支出額が最も大きいのはドイツであるが、1998年以降はノルウェーがドイツと並んでいる。両国とも、1998年以降民間による支出額は増大している。オランダでは、図1で示されるように、短期的給付の民営化と公的支出の削減という変化に伴って、民間による疾病給付額は1994年以降増加している。オーストラリアについての統計は1995年からのものだが、民間支出額は減少傾向にある。
図1:1980年から2001年におけるスウェーデン、オランダ、ノルウェーの疾病給付への公的支出のGDPに占める割合
出典:OECD(2004).
図2:1980年から2001年におけるオーストラリア、ドイツ、日本、英国、米国の疾病給付への公的支出のGDPに占める割合
出典:OECD(2004).
図3:1980年から2001年におけるオーストラリア、ドイツ、オランダ、ノルウェーでの法定疾病給付への民間支出額のGDPに占める割合
出典:OECD(2004).
疾病給付の支出額は、短期的給付の受給者数と支給額との組み合わせを反映するものである。表2は、最近一年間における短期的給付の新規の受給者数、特定の一日における受給者数合計、また、労働年齢人口における割合、給付制度登録者数との割合を示したものである。注意しなければならないのは、入手したデータはそれぞれの国の主要な短期的給付プログラムについてのみであり、なかでも三つの制度については短期的給付プログラムの規模についてのデータは得られなかったということである。いくつかの国のデータがなく、また、入手したデータの比較の妥当性にも問題があるとはいえ、この統計をもとに制度間の違いについてある程度の知見を得ることができる。日本では、疾病給付プログラムは被用者にとって最後の手段としてしか用いられないので、2001年にこの制度を使用した者の数は加入者数の3%以下となっている。反対に、ドイツでは年間3,300万人以上が短期的プログラムにより給付を受けている。この数字は一年間に支払われたすべての疾病給付の数であり、加入者数の3分の2の割合となっている。しかしながら、雇用主が負担する6週間の支給以降「法定健康保険」制度に移行した者の数はずっと少なく、360万人つまり加入者数の7%に過ぎない(統計は示されていない)。ノルウェーとスウェーデンでは、公的な短期的給付を受ける前に待機期間があり、その期間には雇用主が賃金相当分を支払わなければならず、表2の数字には雇用主からの受給のみを受けた人については含まれていない。一年間のいずれかの時期に公的な短期的給付を受けた人の数は、それぞれの国の労働年齢人口に対してノルウェーで28%、スウェーデンで17%である。ノルウェーの数字が高いことには、雇用主負担の期間がより短い(ノルウェーでは16日、スウェーデンでは21日)ことを反映しているのかもしれない。ノルウェーの統計には、ある特定の一日における疾病給付受給者数も含まれており、13万6千人以上の人が受給しており、これは労働年齢人口のほぼ6%に相当する。南アフリカの同様の統計では、一日に3万8千人の受給者があり、これは2004年における人口の2%に当たる。
表2:短期的障害給付制度の対象人口と受給者数
国名 | 制度名 | 調査年 | 新規受給者 | 新規受給者の対象人口に対する割合 | 一日における全受給者数 | 一日における全受給者数の対象人口に対する割合 |
---|---|---|---|---|---|---|
オーストラリア | 疾病手当 | a | ||||
ドイツ | 短期間疾病 | 2001 | 33,717,209 | |||
英国 | 法定疾病手当 | a | ||||
日本 | 傷病手当 | 2001 | 929,560 | 2.70% | ||
オランダ | 疾病給付法 | a | ||||
ノルウェー | 疾病給付日割現金給付 | 2002 | 675,661 | 28.20% | 136,044 | 5.70% |
南アフリカ | 一時的障害手当 | 2004 | 368,179 | 2.10% | ||
スウェーデン | 疾病給付 | 2002 | 756,000 | 17.20% |
注:aはデータがないことを示す.
短期的プログラムの特徴
この項では、短期的プログラムの次の7つの側面について述べる。それは、(1)財源、(2)障害の定義、認定方法、認定の過程、(3)受給までの待機期間と最長給付期間、(4)給付額、(5)雇用主の役割と失業者に対する給付、(6)社会復帰サービスと障害管理、(7)短期的制度と永続的障害給付制度の関係である。
[財源]短期的プログラムの財源には、社会保険、社会扶助、民間の三種類がある。そのうち、社会保険制度には二種類のものがある。まず、ノルウェーとスウェーデンで採用されているのは、国民年金制度の一部としての短期的プログラムである。このモデルでは、高齢者、遺族、長期的障害、短期的障害、失業者という社会的支援が必要な人に対して、一括して個人と雇用主が給与税の形で資金を提供する(注11)。短期的障害給付を受けるためには、年金受給可能な状態であるか、保険に加入していなければならない。短期的プログラムは、そのほとんどあるいはすべての側面(障害認定、リハビリテーション、モニタリング、再審査、支給期間)において、政府機関(ノルウェーでは国家保険庁)によって全国一律に運営、監視されている。政府が重要な役割を果たしてはいるが、地方あるいは地方政府の活動や影響力が阻害されているわけではない。一つの例として、スウェーデンの障害認定は地方公務員からなる地域社会保険事務所によって行われる。
短期的障害プログラムの財源として社会保険を使う二つ目の方法は、年金制度とは別の保険制度を用いるやり方である。ドイツと日本では、短期的疾病給付は健康保険を通じて支給される。この健康保険制度は、雇用主と被用者からの供出金で運営されているが、政府からの補助金も使われている。どちらの国においても複数の保険者が存在するが、保険の内容と支給額については政府により義務づけられ、規制されている。日本では、基礎的な給付は被雇用者健康保険を通じて大企業によって支払われている。国民健康保険(自営業者と被用者が5人以上の会社に雇用されていない人が加入する)の加入者は、短期的障害給付が支給される場合とそうでない場合がある。というのも、市町村によって支給制度が異なり、疾病給付についての全国一律の規定はないからである。ドイツでは、病気やケガを生じた後最初の6週間まで、雇用主に直接的な支払い義務がある。病状が6週間以上続く場合、「法定健康保険」により最長78週間の補償が与えられる。
もう一つの短期的障害プログラムの財源は、社会扶助制度を用いることである。社会保険制度とは異なり、個人や雇用主が直接この制度に負担金を支払うわけではない。その代わりに、一般歳入からの資金が用いられる。申請や給付は、申請者の経済的必要性に応じて行われるので、この場合短期的障害給付は、資産が限られている人に対するセーフティーネットの役割を果している。言い換えれば、仮にこの制度における障害認定を受けたとしても、資力審査を通過しなければ支給は受けられないということである。オーストラリアは、援助プログラムについて社会扶助を通じて財源を確保するという長い歴史を持っており、その歴史は1909年に開始された高齢者年金にまでさかのぼる。南アフリカでもこのモデルによるプログラムが実施されている。オーストラリア、南アフリカどちらの場合でも、次のようなもう一つの特徴がある。それは、賃金の代替率が低いということである。オーストラリアでは、短期的給付の額は男性労働者の平均週給の25%と定められている。他の国においても、標準的な短期的給付プログラムではカバーされない人に対する資力審査付きの制度があるが、これは本来の短期的プログラムの補助的なものである。
民間による財源負担は、調査国における一時的障害給付の三番目の資金調達法である。民間財源では、給付は雇用主と被用者、それに政府組織ではない第三者を加えることもあるが、これらの集団の共同責任になり、支給内容についての規制や法による規定は少ない。そのために、同じ国内の短期的プログラムのある部分について大きく異なることがあり、本来すべての受給者に一律の基準となるはずの障害状態の確認やリハビリテーションなどで大きな違いがみられることがある。民間による財源負担をとる調査国は、イギリス、オランダ、アメリカ合衆国の3カ国である。イギリスでは、就労できない病状にある人に対して、雇用主が一定額を28週間支払わなければならない。また、28週以降は、長期的障害プログラムに申請することができる。オランダの短期的支援プログラムは、劇的な変化をとげた。1996年以前の短期的障害給付は、準公的機関を通じて支給されていた。受給者数の削減と制度の責任を明確化するという目的で、一時的給付は1996年に民営化された。当初、雇用主は6週間の給付を義務とされたが、後に期間が1年に延長され、2004年からは短期的障害手当として賃金の70%を2年間支給することとなった。雇用主は、給付の支払いあるいは制度維持費用について、自らリスクを負うか、民間の保険に加入することができる。最後に、アメリカ合衆国では、民営の短期的障害給付があるが、雇用者の加入は任意である。州法によって短期的障害給付が義務化されている5州を除く州では、雇用者は法定疾病手当以外の短期的障害給付を支払うことは義務づけられていない。しかしながら、「家族疾病休暇法」により、被雇用者は、自らの病気あるいは家族の救急時に12週間まで無給で休暇をとることが認められている。
[障害の定義、審査、認定方法]
長期的障害給付とは異なり、短期的障害プログラムでは、病状や障害についての定義が驚くほど共通している。本研究で検討しているすべての制度において、短期的給付を受給するために申請者は就労が妨げられるような病状にある必要がある。オーストラリアの制度が珍しいのは、「疾病手当」制度に労働給付を設けている点で、週8時間の就労が不可能な場合に給付を受けることができる。また、いくつかの国では、障害が一時的であることが要求されている。オーストラリアでは、短期的給付を受け取るためには障害が一時的で、2年以内に回復の見込みがある必要がある。日本では、障害が4日以上続くものであることが必要とされている。
障害の定義についてはほぼ同一であるが、障害の評価方法についてはそれぞれの短期的制度によって異なる。一般的に、ごく短い期間や障害発生直後には自己申告で十分であるか、それ以降は医師の診断書が必要とされる。英国では、自己証明期間は7日間である。スウェーデンでは、30日間まで就労できない病状であることを自ら主張することができる(これには、21日間の雇用主負担と公的給付の最初の7日間が含まれる)が、その後は医師の診断書を得る必要がある。
しかしながら、いずれかの段階において医師の診断が必要とされる。ただし、オランダと南アフリカを除くすべてのプログラムでかかりつけ医による診断書を認めている。オランダでは、短期的給付の受給資格と給付期間の決定は「職業健康局」に勤務する医師によって行われる。この査定方法は全体として、プログラムが障害者の再統合を重視していることに由来するものである。南アフリカでは、「社会発展省」に勤務する医師が申請者を審査し、永続的給付と一時的給付のどちらが適切かを決定する。
ノルウェーでは、医師の審査プロセスにおける重点が変化してきている。申請者の不能を審査するのではなく、どのような能力を持っているかを判断するようになった。申請者が就労できない期間がどれくらい長いかではなく、どのような仕事なら可能か、ということを重視するようになったのは、大きな変化である。ノルウェーでは、この新しい評価方法を取り入れない医師の免許を剥奪することまで行っている。
一般に、受給可能の決定は短期的給付の運営責任を持つ行政機関によって行われる。例えば、ノルウェーでは「国家保険事務所」が医学的証拠に基づいて決定を下す。しかし、そうではない場合もあり、英国の決定プロセスは他に例がないものである。自己申告期間の後、被雇用者は医師の診断書を雇用主に提出する。雇用主は、給付することが正当かどうかを決定する。この方法と反対なのが、ドイツの場合で、被用者のかかりつけの医師が障害の程度について審査をした後、雇用主に被用者が給付を受ける期間がどれだけの長さかを告げる。医師は診断書を提出する必要がなく、被雇用者の状態について説明する義務すらない。
[待機期間と給付期間]
短期的給付は、長期的障害給付へ入り口ともなるし、また、長期的給付には至らずに雇用を回復するための関門や緩衝装置ともなりうる。図2に示したのは、各国における主要な短期的障害制度について、給付に関する期間、例えば、待機期間、雇用主負担給付の期間(ない場合もある)、最長給付期間などについて比較したものである。
待機期間とは、雇用主がごく短期的間支給する疾病休暇給付によって、あるいは受給者自身の負担によってまかなわれる期間である。いくつかの国(オーストラリア、英国、日本、スウェーデン)において、疾病給付の支給開始までに1日から7日の法的待機期間が設定されており、その期間には雇用主あるいは公的機関に金銭的支払い義務はない。資力審査のあるプログラムを実施しているオーストラリアでは、それに加えて「流動資産待機期間」があり、活用可能な資産がある受給者は最長13週まで申請することができない。
ドイツ、ノルウェー、スウェーデンでは、公的な短期的プログラムが始まる前に、雇用主負担による一定期間の暫定給付がある。この暫定期間の日数は、ノルウェーで16日、スウェーデンで21日(最近14日から延長された)、ドイツで42日となっている。英国とオランダにおいては、短期的給付の全額が雇用者負担である。
短期的給付プログラムは、制度によって最長受給期間が異なる。一般的に、受給者が永続的給付を受給可能になった時点で、短期的給付は終了するが、二つの例外がある。オーストラリアでは、一時的障害(2年以上継続しないと予想されるもの)のある障害者は、短期的給付制度を最長で4年間受けることができる。また、より長期にわたる障害がある場合、待機期間なしに長期的障害給付を受給できる。もう一つの例外はスウェーデンで、疾病給付に期間の制限がなく、女性の平均受給日数は132日、男性は124日となっている(国立社会保障審議会、2003)。
図4:国別の短期的障害プログラムにおける最長待機期間、雇用主給付期間、公的給付期間
[支給額]
表3は、各国の主要な短期的給付制度を挙げ、その現金給付の特徴を、支給額の計算方法、最大支給額と部分支給額の比率、付加的な給付の内容、に分けて整理したものである。受給額の計算には、定額と賃金補填の2種類の方法がある。一つ目は、オーストラリア、英国、南アフリカの各国では、それまでの収入にかかわりなく一定の支援が行われる。被扶養者に対する補足手当が与えられる。二つ目の賃金補填は、以前の賃金に対して一定の割合を提供するもので、日本の60%からノルウェーの100%までの幅がある。いくつかのプログラムでは、賃金補填割合が変化する。例を挙げると、オランダでは政府により賃金の70%を補償することが定められているが、被用者は、個々の契約において、受給の1年目については70%を最大100%まで引上げることができる。賃金補填率は、だれが給付するかによっても異なる。ドイツでは、雇用主が最初の6週間を給付するときは、賃金の100%であるが、被用者が法定健康保険に移行した場合、補填率は70%に減少するか、税引後所得の90%未満となる。ただ、オランダの場合と同様、この額は雇用契約において、雇用主負担により増額することもできる。また、いくつかのプログラムでは給付額の上限が定められている(例えばノルウェーでは、基本給付額の6倍が上限である)。また、短期的給付の部分的給付が正式に実施されているのは、2カ国(ノルウェー、スウェーデン)である。
表3:主要な短期的給付制度について、国ごとの給付の特徴
国名 | 制度名 | 給付計算方法 | 最大額 | 部分的給付率 | 付加的給付 |
---|---|---|---|---|---|
オーストラリア | 疾病手当 | 標準額2週間につき385オーストラリアドル(独身で子どもがない場合)、収入資産調査による減額あり | 不明 | なし | 扶養者 |
ドイツ | 短期疾病 | 最初の6週間については賃金全額、その後全収入の70% | 手取り収入の90% | なし | 雇用主負担による増額あり |
英国 | 法定疾病給付 | 週標準額64.35ポンド | 不明 | なし | なし |
日本 | 障害疾病 | 平均賃金の60% | なし | なし | なし |
オランダ | 疾病給付法 | 賃金全体の70%を給付 | 1日につき160ユーロ | なし | 雇用主負担による増額あり |
ノルウェー | 疾病日割現金給付 | 障害前賃金の100% | 標準額の6倍 | 20%から100% | なし |
南アフリカ | 一時的障害手当 | 標準月額700ランド、資産による減額あり | 不明 | なし | 介護が必要な場合、月額150ランド |
スウェーデン | 疾病給付 | 障害前賃金の77.6% | 標準額の7.6倍 | 25%、50%、75% | なし |
[雇用主の役割]
ほとんどの短期的プログラムは、雇用主と直接関係がある。というのも、受給者には復帰するべき職場があるからである。休職中の受給者の再雇用について、いくつかの制度では義務化されているが、義務化されていない場合でも年金制度あるいは雇用に関連した資金提供においてそれが含まれている。オーストラリアを例に挙げれば、疾病給付を受給するためには、申請者は快復した場合に戻ることのできる職場がある必要がある。職がない場合には、疾病給付ではなく失業給付制度の対象となるのである。オーストラリア、日本、オランダ、ノルウェーにおいては、病状により職に就くことができない、あるいは仕事を探すことが不可能な失業者を特に対象とした補助的プログラムが存在する。日本の補助制度は一般の失業給付と同じであるが、障害がある場合には受給期間が延長されることがある。
雇用主に義務づけられている障害のある被用者に対する配慮は、国によって異なっている。しかし、一般には、被用者がうまく職場に復帰できるように法律で義務づけられているか、税控除や現金払いなどの形で奨励されているか、その両方の措置がとられているかである。また、雇用主が社会復帰プロセスに参加するような制度もある(次の項を参照)。
[リハビリテーションと障害マネージメント]
調査国すべてにおいて、短期的障害給付受給者に医学的リハビリテーションと職業リハビリテーションが実施されている。しかし、一時的プログラムにおいてそれらが義務化されているか明文化されているのは、ドイツ、オランダ、ノルウェー、スウェーデンの、半数の国でしかない。その他の国では、リハビリテーションは暗黙の前提となっている。というのも、長期的給付を受けるためには、それ以前にすべてのリハビリテーションを受けていなければならないからである。リハビリテーションを考える際には、労働市場に関連した問題についても考慮しなければならない。2002年の公式発表(注12)による失業率が31%であった南アフリカでは、リハビリテーションを実施しようとしても目的となる仕事自体が少ない。
「年金の前にリハビリを」というスローガンを以前から打ち出していたドイツでは、短期的受給者に対してリハビリテーション施策を組み込んでいる。しかし、これらの努力は受給者を元の職場に復帰させることを主眼としている。より積極的な職業リハビリテーション策(受給者を労働市場における他の仕事に就かせる)は、長期的障害プログラムである法的年金制度の管轄である。
オランダでは、短期障害支援プロセスの早期の段階に、雇用主が「職務健康サービス」(OHS)制度に参加することを義務づけている。OHSは、病気中と再統合のプロセスを管理する。これには、給付を受けるために行われる最初の医学評価が含まれている。受給後6週間経つと、OHSは受給者について、その病状、身体機能、職業復帰の可能性について判定する。この判断に基づき、雇用主と被用者は、再統合と職業リハビリテーション計画に合意するが、これは法的な拘束力を持つ契約で、受給後8週間以内に作成される。前項で触れたように、長期的障害給付を受給するためには、OHSは受給者のリハビリテーション計画となぜ職業復帰できなかったかを説明しなければならない。雇用者の側では、障害のある労働者に便宜をはかり、短期的障害給付受給者の再統合を補助し、再統合を促進するために職務を調整することが義務とされている。これらの便宜に関して、雇用者は賃金補助を申請することができ、特に対応が難しい受給者については、賃金の3分の1まで助成される。受給者の側では、以前の職かどうかに関わらず、妥当な条件の仕事には就くことが義務とされている。OHSによる支援の対象は、短期的受給者のみではなく、職場での障害防止や健康被害の最小にすること、再統合の補助など、職場での健康問題一般を取り扱っている。このような取り組みにも関わらず、オランダでのリハビリテーションに関する支出は、障害対策費全体の0.5%に過ぎず、ドイツの4.2%と比較するとかなり少ない(Aarts & de Jong,2003)。
ノルウェーの疾病給付においては、受給後12週間後に国立保険庁によって被用者に対するリハビリテーション計画が作成されることとなっている。そして、民間「企業」が受給者の職業復帰を支援している。これらの企業は財源確保と再統合支援のため、雇用者と国立保険庁の両方と関係を保っている。
スウェーデンのリハビリテーション策には二つの重要な要素がある。第一の要素は、雇用者は支給開始から4週間経つと、受給者の職場復帰について、職業的評価と身体機能評価を行う責任がある。第二は、受給可能なすべての短期的給付を一年間受け取ってしまっていても、職業リハビリテーションに積極的に参加している人は、リハビリテーションのための特別給付が最長1年まで用意されることである。このプログラムは、受給者を長期的給付制度に移行させることなく、経済的な支援を追加するものである。
英国は、オランダと同じように民間による制度を実施しているが、短期的給付制度において障害マネージメントやリハビリテーション計画は義務化されていない。しかし、長期的制度(就労不能給付)を管轄している労働年金省が試験的実施している試験的プロジェクトであり、それは短期的受給者に対して新たな支援策を講じることにより、長期的給付への移行を食い止めようとするものである。この試験的プロジェクトについての成果はまだ明らかになっていない。
障害マネージメントの過程において欠くことのできないのは、障害の状態の把握を常に怠らないことである。この点で、オランダは最も進んだ方法を採用しており、雇用主と被用者は、第13週目(進捗状況報告書)、8ヶ月目(再統合報告書)、9ヶ月目(被用者による社会保険庁に対する報告書)にそれぞれ報告書を提出することになっている。オーストラリアでも、郵送による調査と面談による複数回の状況報告制度がある。
[短期的プログラムと長期的障害給付の関係]
短期的給付の期間が終わりに近づいたからといって、自動的に長期的給付を受給できるようになるわけではない。調査国のいずれにおいても、短期的給付から長期的給付へ自動的に移行されることはなく、すべての国で、長期的給付を受けるためには新たに給付を申請しなければならない。この移行がおそらくもっとも簡単なのはスウェーデンで、それというのも短期的、長期の両方の制度が同じ行政機関によって運営されているからである。また、短期的給付受給者のうち、障害の程度が重度のものについては、長期的プログラムへの自動的移行が実施されている。短期的プログラムから長期的プログラムへの受給者の移行についての統計があるのは、次の2カ国のみである。ノルウェーでは、短期的受給者の約1%が長期プログラムに移行し、スウェーデンでは7.2%である。
期間限定給付
この報告で「期間限定型」と呼んでいる一時的給付の新しい形式は、短期的障害給付と長期的障害給付の両方の特徴を備えたものとして登場したものだが、この期間限定給付は短期的給付とも長期的給付とも大きく異なっている。期間限定給付を特徴づける点は次のようなものである。第一に、期間限定給付は、長期的障害給付制度に代わるものとして、あるいはもう一つの選択肢となりうるものである。長期的給付を受給する場合、労働力として再統合される可能性はほとんどないに等しいが、期間限定給付を受ける場合、給付は一時的なものであり、受給者が労働力として復帰することが期待できる。第二の特徴は、期間限定給付は短期的給付の受給が終了した者も申請できる点である。第三の特徴として、期間限定給付の受給期間が1年から4年と限定された期間である点である。期間限定給付は短期的給付と長期的給付の間の「中間的な位置」にある制度であり、二つの制度の隙間を埋める役割を果たすかもしれない。すべての期間限定給付制度にみられるわけではないが、その他にも次のような共通の特徴がしばしば確認される。例えば、期間限定給付がなければ、障害状況にある場合や一定の状態にある場合には長期的給付の受給がそのまま認められる。また、期間限定給付の受給ではリハビリテーション活動が必須となることがあるが、短期的あるいは永続的障害給付プログラムにおいてはそのようなことはない。後に紹介する4つの制度において、再統合、医学的リハビリテーション、あるいは職業リハビリテーションを目的とした特定の活動が義務化されている。最後に、ここでとりあげたすべてのプログラムは社会保険あるいは社会扶助という形で政府からの財源で運営されている。
以下では、期間限定給付を三種類に分類して紹介する。第一は、長期的障害給付プログラムに代わるもの、あるいはもう一つの選択肢となるものである。第二は、特に若者を対象とした期間限定給付プログラムである。第三は、職業能力の向上のためにリハビリテーション援助が必要と認められた人を対象とする、リハビリテーション給付である。
[長期的給付を代替する期間限定給付]
期間限定給付が、長期的給付の代替制度となっているのは、ドイツ、ノルウェー、スウェーデンの3カ国である。スウェーデンでは、1960年代初頭から長期的給付プログラムに一時的給付の側面が組み込まれていた。一時的給付は、受給要件、給付額、部分給付のレベル、雇用支援策において、「疾病補償制度」における長期的給付と似ている。異なっているのは、期間限定給付を受給するのは、相当長い期間に渡って受給者の労働能力が低下していると考えられる人であるが、長期的給付はその期間が永続的である場合に給付されるということである。スウェーデンの障害支援制度は2002年に改革されたが(年金制度から疾病保険制度に転換した)、制度の一時的支援部分は維持された。
ノルウェーで期間限定給付を受給できるのは、将来において労働能力の向上が見込まれる者である。ノルウェーでの期間限定給付プログラムは2004年1月1日に運用開始されたが、財源は社会保険によってまかなわれている。長期的給付を申請する者は、それ以前に短期的疾病給付の受給を終えていなければならないが、その申請者のすべてが永続的給付と一時的給付の両方について審査される。労働能力の回復が期待でき、障害程度が50%以上の人は、永続的給付ではなく期間限定給付の対象となる。給付期間は1年から4年に渡るが、その決定は国立保険庁の各地方事務所に行われている。また、給付額は、障害以前の収入あるいは過去3年間の収入の平均の3分の2で、最小給付額と最大給付額が定められており、部分給付も認められている。リハビリテーション支援は義務化されていないが、雇用支援として、所得の控除や、就労目的で受給を終了した後3年間については給付制度に戻ることができることが定められている。
ドイツの障害者制度は2001年に再編成されたが、これは障害給付を期間限定型給付に移行させるものであった。これにより、給付を無期限に受け取るのではなく、3年ごとに再申請をしなければならないこととなった。給付は、以前と同じく年金によるもので、受給額は保険加入年数による。完全障害の条件を満たさない申請者については、部分給付が与えられる。制度改革以前には、部分的給付の受給者のうち、受給開始後1年までに雇用されなかった者は自動的に全額給付に移行した。現在では、部分受給者が一斉に全額給付に昇格することはない。
ただ、永続的な障害給付が完全に廃止されたわけではなく、重度の障害者あるいは60歳以上の者は永続的給付が与えられる。また、現在の制度には、期間限定年金給付を3回受給した者は永続的給付を受けることができ、再申請の必要がないという条項が組み込まれている。
[若者を対象とした期間限定制度]
多くの制度が直面している問題のうち、もっとも解決が難しいもののうちの一つに、労働人口のうちの比較的若い層における長期的障害給付受給者の増加がある。これらの受給者は、しばしば精神障害にまつわる障害を抱えており、給付が40年以上に渡る可能性があることから、大きな財政負担となっている。この問題への対応として、若者を対象とした期間限定プログラムが2つの国において策定されている。長期的給付を回避できるという見込みから、若い申請者は期間限定制度に送られる。このような制度は、他の障害者制度とは別に運営されている。
スウェーデンの活動補償プログラムは、21歳から29歳の若者(彼らは、永続的障害年金に申請する資格がない)を対象としている。プログラムのうちの一つは社会保険を財源とするもので、以前に就労経験があり年金に加入しているものを対象としている。もう一つのプログラムは十分な職歴のない者に対する資力審査のあるプログラムである。この二つのプログラムは同様の方式で運営されており、受給者は障害年金の代わりに活動補償給付を受給する。受給可能となるためには、労働による収入によって自活できないこと、あるいは、労働能力が25%以上低下していること、そして、障害が少なくとも1年間継続している必要がある。それに加えて、リハビリテーションを終了している必要がある。給付額は障害程度に基くか申請者の平均所得の64%かどちらかになり、給付期間は最長3年間と定められている。職業リハビリテーションは、特定のプログラムを課すのではなく、受給者の活動に関する制約はない。しかし、各人の一般的な能力によい影響を与え、労働能力の改善につながるような活動が求められている(Moller,2004)。このような活動の例としては、教育機関での講座の受講、スポーツ活動への参加、体操プログラム、職業訓練体験などがある。
オーストラリアの「若者手当」制度は、スウェーデンの制度とは異なり、手当の受給者は永続的障害給付も受給が可能である。しかしながら、対象が若者であるという点では同様であり、特に将来健康状態の悪化が予想される者を対象としている。オーストラリアの他の制度と同様に、若者手当も資力審査がある。対象となるのは、16歳から25歳の学生あるいは16歳から21歳の被用者のうち、就学、就労が不可能な病気の状態にある者である。また、この制度は、若年障害者支援の他に、この年齢層の失業者対策としての役割も果たしている。失業者については活動義務があるが、健康状態を理由とした受給者にはこの規定はない。
[リハビリテーション・プログラム]
長期的給付に代わる支援として、リハビリテーションに参加している者あるいは職業復帰が見込める者を特に対象とした給付がある。これらの制度では、申請者が長期的障害支援を受給できる場合とそうでない場合があるので、厳密にいえば期間限定プログラムといえない面もある。しかし、援助を必要とする者に対する職業復帰支援策として追加できる一つの有力な方法であり、ここで触れておく意味がある。このような支援策を講じている国として、ドイツ、ノルウェー、スウェーデンがあるが、どの国の制度もほぼ同じ特徴を持っているので、ここではノルウェーの制度を詳しく紹介する。
ノルウェーでは、2種類のリハビリテーションプログラムが行われている。医学リハビリテーション給付は国立保険庁を通じて運営されている一方、職業リハビリテーション給付は労働省によって運営されている。どちらの制度も社会保険を通じて財源が確保されている。申請者は、50%の障害程度で、その状態が最低1年以上継続していなければならない(1年間は疾病給付が支給される)。また、リハビリテーション活動に積極的に参加している必要がある。現金給付は、以前の収入の3分の2が支給され、支給期間は1年間であるが、その期間が終了する際には、永続的障害給付を申請することができる。2002年の職業的リハビリテーション現金給付の受給者数は、52,778人で、そのうち44,275人(84%)は受給を終了した。受給終了者のうち、永続的障害制度に移行したのは10,438人(24%)である。
ノルウェーのリハビリテーション給付に関するデータを除いて、その他の制度における受給者数やその成果についての情報は得られていない。この種の期間限定プログラムが、障害者の再統合や長期的給付への移行に対してどのような影響を与えるかについて結論を述べるには、まだ時間が必要である。特に注意が必要なのは、これらの給付が終わった場合に受給者がどのような扱いを受けるかであろう。現在、ドイツでは受給者の第一世代が終了間近であり、給付の再申請をしている段階にある。どれほどの受給者が再申請し、どれほどが職場復帰するのだろうか。スウェーデンの若者制度においては、受給者が最大支給額を受け取ってしまった後はどうなるのだろうか。もしこれらの制度が意図通りの効果を持つとすれば、明らかにそれによる効果と分かる測定可能な成果が二つあるだろう。それは、リハビリテーションサービスへの参加率と再統合の割合が、これまでの永続的プログラムよりも高くなるということである。
成果についてのデータがないとはいえ、期間限定プログラムの利点として次の点を挙げることができるだろう。
- 受給期間が限定されていることは、給付終了までの職場復帰を促進する効果がある
- 障害のある者が社会復帰の可能性を持つことを認識としている
- 再統合、リハビリテーション、職業復帰サービスが単に利用できるだけでなく、実際に活用されることが期待できる
- 若年障害者には特別な(職業的)注意を払う必要がある
- 永続的障害給付受給者の増大を食い止める効果が期待でき、職業復帰を促進できれば支援プログラム全体の支出を削減することが可能である
調査結果と教訓
一時的障害プログラムにおける変化は、障害支援制度一般の変化を反映したものといえる。この変化とは、制度の重点が収入代替あるいは収入補償から再統合へ移動していることを指し、最近のOECDの報告(2003年)はその詳細を記しているが、関係するすべての者(障害給付プログラム、受給者、雇用者)が支援や職場復帰において相互に責任を負うとされる。多くの国において、短期的給付は実施と費用の両面において大きな負担となっている。その一方で、一時的給付は長期的プログラムを受給するための入り口ともなっている。この報告の分析から学ぶことができるのは、次の四点である。
[財源負担における雇用者と被用者の役割の増大]
財源確保において、雇用主と受給者の双方が果たすべき責任がより重視される傾向が認められ、その一つの方法は受給開始を延期することである。オーストラリアでみられるような待機期間(1週間から13週間)は、受給者に経済的な負担を強いるものである。もう一つの方法は、被用者に疾病給付が開始されるまでの雇用主が被用者を支援しなければならない期間を延長するものである。スウェーデンでは、2週間の疾病給付を雇用主が負担していたが、障害給付制度の規模拡大を調査した委員会によって、雇用主負担給付の期間を60日まで延長することを提案した(Rydh,2004)。最終的には、多くの反対を押し切る形で雇用主負担の期間は3週間に延長された。英国では、1995年に短期的給付の支給期間が8週間から28週間に延長された。オランダではこの変化がより急激で、短期的給付が民営化されるとともに給付期間が2年に延長された。これらの方策はすべて長期的プログラムに要する費用を埋め合わせる目的でなされたものである。
[再統合サービスや早期介入の増加]
短期的給付制度が再統合を重視するようになったことには二つの理由がある。一つはリハビリテーションや障害マネージメントの機会を増やすことで、受給者が働かない期間を減らすことができることである。もう一つは、疾病給付や短期的障害給付は長期的給付プログラムへの足がかりとなりうるので、早期に介入することによってこの移行を遅らせる可能性があることである。
調査国のそれぞれにおいて、社会復帰の責任を負う立場にある者は異なる。短期的支援が民間によってなされているオランダでは、短期的受給者の障害マネージメントのみならず、雇用者のリスクマネージメントについても、職業健康サービス組織が介入することを定めている。スウェーデンでは、再統合支援は雇用主がまず責任を負う。ドイツとノルウェーでは給付制度を運営する行政官庁が再統合計画を作成するが、ノルウェーでは再統合支援を民間の第三者に委託する方向を示している。職場復帰という目標に対して、どの方法がより効果的であるかについての統計は得られていない。
それぞれの支援策において重要視されているのは、障害が確認された場合には最初の3ヶ月以内という早期の段階で問題を特定し、計画を作成し、適切な援助を開始することである。このことは、長期的障害プログラムについても同様である。英国においても、短期的受給者の再統合やリハビリテーション支援の計画を担当するのが永続的制度の運営責任者であることは、早期介入を主要な目標としていると結論づけるに十分であろう。
[障害マネージメントの重視]
一時的障害プログラムと障害マネージメントを統合する方法はいくつかある。標準障害期間ガイドラインは、特定の病状について回復に必要な期間を定めており、病気によって必要とされる休業期間のばらつきを少なくするものである。その他の改善点としては、受給申請の早い段階において医師の診断書をとることや、医師の診断の対象を障害者の能力から焦点を移すことなどがある(例として、ノルウェー)。おそらく最も重要なのは、障害状態の評価精度の向上であるが、これは二つの形をとる。一つは、評価回数を増やすことであり、オーストラリアでは行政が最低でも3ヶ月に一度は基礎的な検査を受けることを義務づけている。また、情報の種類も重要である。オランダでは、関係者全員が報告書を提出し、なかでも雇用者は受給者が職場に復帰するためにどのような取り組みを開始するかについて、報告しなければならない。
[疾病給付から活動・リハビリテーション・再統合給付へ]
多くのプログラムでは、「疾病給付」という位置づけから「活動給付」という位置づけに重点を移動させている。これはプログラムの精神において重大な変更というべきものであり、それによって受給者は単なる受け身の立場から、積極的に参加することを期待される立場に変化した。この変化にともない、特定の障害のある人を対象とした、さまざまな種類のプログラムあるいは給付が創設された。「一制度をすべての障害者に」というモデルから、全体の給付制度の一貫性を保ちつつ、さまざまな障害に応じた多くの選択肢を提供するように変化してきており、この選択肢には短期的給付、若者を対象とするプログラム、リハビリテーション現金給付、障害者を対象とした失業プログラム、期間限定給付などが含まれる。これらの方策が導入されたことにより、障害者の雇用機会を増大し、よりよい成果が得られるだろう。
参考文献
Moller, H. (2004). Swedish disability benefits. SSA/DRI Learning from Others Conference, Washington,DC.
OECD(2003). Transforming disability into ability.
OECD(2004). Social expenditure database. Accessed on October 4, 2004, at http://www.OECD.org/document/2/0,2340,en_2649_34635_31612994_1_1_1_1,00.html.
Rydh, J. (2004). A programme for better health in working life in Sweden. In B. Marin, C. Prinz, & M. Queisser(Eds.). Transforming disability welfare policies: Toward work and equal opportunity. Burlington, VT: Ashgate.
South Africa Department of Labour. (2003). Labour market review: May 2003. Pretoria, South Africa: Author.
Sweden National Social Insurance Board. (2003). Social Insurance in Sweden 2003. Stockholm: Author.
(注8) 一時的障害給付制度は一般に労災制度とは別のものであるが、オランダは例外で、業務上の病気や ケガと業務に関係しない病気やケガの両方が障害制度によって扱われる。
(注10) アメリカについてのデータもあるが、GDPの0.02%未満にすぎない。